マダムKの随筆(姉妹)
マダムKの随筆(姉妹)
私は七人兄弟姉妹の末から2番目。
私には、6歳違いと4歳違いの姉がいる。その姉たちが高校生と中学生の頃、お正月にもらったお年玉で、二人は映画によく出かけていた。姉たちが見たい映画と10歳そこそこの私が見たい映画の趣味は当然全く違っていた。いくら妹と言えど、映画の内容を理解できない私を連れていくのは足でまといなので、姉たちは私に見つからないようにこそこそと映画に出かけようとしたものだ。それを私が見つけ、泣きべそをかきながら、姉たちの後を追う。というのがいつものパターンだった。そんなパターンの3回に一回は姉たちの同情もあり、わけのわからない私を映画に連れていってくれた。
ところが・・・
私が映画館の座席に座ると、足が地面につかない。足が宙ぶらりんで落ち着かないので、椅子の上で正座をすると、折りたたみ椅子は私の足を挟む。挟む度に私は姉の手を煩わせることになる。映画のクライマックスの時に、私が姉の袖を引っ張ってお願いするものだから、姉は面白くない。
更に、映画館から出て来てから、私はいつも帽子や手袋を忘れていることに気が付く。「もっと早く気が付けばいいのに」と姉はいいながら、受付の人にお願いをして映画館に再度入れてもらう。姉は真っ暗な映画館に入って帽子を探す羽目に…
20歳を過ぎると6歳も4歳もさほど気にならないが、小さい時は1歳でも違えば、年上のいうことは絶対的だった。
私が10歳のある夏、姉は何を思いついたか、私に一張羅の夏のワンピースを着せて、写真館へ連れていった。姉が指示をするとおりに、私はにこっと笑ってカメラのある正面を向いたり、横を向いたりして、写真を何枚か撮った。その中で一番出来の良い写真を姉は少女雑誌社へ送った。
それからどれほど経ったか、写真を送ったことも忘れていた私たち姉妹は、ある日、大量の手紙が家に届いて、びっくり仰天する。
届いたどの手紙にも、私の写真を少女雑誌のトップ記事で見たこと。後方に私と一緒に映っている歌手の中尾ミエさんを紹介してほしいことが書いてあった。毎日何十通は来るので、家族は何事かと思ったようだ。
私たち姉妹はさっそく本屋へ行って、投稿した雑誌を見て唖然とした。そのトップ記事に、私がニコッと笑って、中尾ミエさんと仲良く一緒に映っているではないか。
姉は写真館で撮った私の写真を、少女雑誌のモデルに応募していたのだ。
残念ながら外れたが、「外れた女の子」のナンバーワンとして、私の写真が掲載されたようだ。でも、なんでまた、中尾ミエさんと一緒なのかわからない。当時、人気歌手ではあったが・・・
だから、読者はみんな勘違いをして、会ったこともない私と中尾ミエさんが仲良しの様に見えたようだ。
姉は、毎日山のように来るファンレターを見て、「返事を書きなさいよ」と私に言う。私は学業をそっちのけで、連日山のように来るファンレターの返事書きに忙殺された。リカちゃん人形が大好きな10歳の少女の生活が、ある日を境に一変したのだ。
そして、ファンレターが来た住所を見ながら、日本は広いな、大きいなと思ったものだ。日本にはこんなにたくさんの都道府県があるのかと思ったものだ。
おかげで手紙の書き方、封筒の書き方もその時にしっかり覚えた。何が功をなすかわからない。
その山のようなファンレターもいつしか来なくなったけれど、もしも、あの時、モデルに選ばれていたら、私の人生・・・こんなんじゃなかったかもしれない???
なんてお正月早々、昔々の思い出話しに花を咲かせています。
マダムKの随筆(姉妹)