錆びた鉄の塊にて
近未来的なイメージで書きました。科学者の女と意思のあるロボット、というありがちな設定。
少し前は夕日はあまり好きではなく青空こそがいちばんと思っていましたが、よく見てみると結構綺麗なものですよね。
あまり長くなくサクッと呼んでもらいたかったのですが、どうでしょうか…。
(近未来的な何か)
空が赤い。「わああ赤い」。そうつぶやいてみるが誰も答えてはくれやしない。世の中の皆さんは忙しく街の中で暮らしているので、この廃工場をうろついているのは私くらいのようだった。廃工場、といってもうねるパイプやタンク、よくわからないマシーン、さらによくわからない金属製の何か、と、いろいろあるが結局は皆壊れて錆びついただけの鉄の塊だ。錆が夕日に照らされてさらに赤く見える。しかしそれは私の足元に転がった金属のことで数メートルも先のものは夕日の逆光で黒く染まってしまっている。墨でべたっと塗りつぶしたみたいに。
はあ。私は幸せが逃げると噂のため息を吐いてみた。もう何もやりたくない。できることならここで金属と一緒に錆び付いてしまいたい。しかしそんなことができるはずもなくただ呆然と夕日に照らされるだけだ。なぜ私が途方に暮れなければいけないのかと、ある1機のロボットに問うて、そしてブッコワシテしまいたい。
時は数時間前に戻る。いや、何年も前に戻るのだろう。沢山のSF小説で登場した意思をもつロボット。それは危険だというオトナがいる反面、それを空想するコドモがいる夢のある機械だ。それがついこの間開発されたのである。この自他認める天才、もっぱらのコドモ派の私によって。しかしその奇跡のロボットが盗まれたのか、それともロボットそのものに逃げられたのかはわからないが研究所から姿を消したのだ。私は焦って焦って町中を駆け回って探したが見つからない。というかどこにいったのか検討もつかない。しかも普段から街を出歩かないので地図の見方もよくわからない私は迷子になり半泣きで走りまわったがもっと絶望の寸のところまでつきおとされたのはその後だ。
半分諦めて、戻ろう、もしかしたらあいつも戻ってきているのかもしれない。そう期待して家でもある研究所へ戻ってみれば、今現在のこの空よりも赤く燃え盛る炎によってマイホームは焼かれていた。空はまだ青い時間帯だったが、もしかすればあの煙を吸ってこの空も赤くなったのではないか、なんて今更非科学的なことを考えてみる。きっとこの空も煙によって感染したのだ。赤に。
おそらく研究所の炎はまわりの住人によって通報されとっくに消化されただろう。じゃないと他に燃え移る。そして私へ連絡を入れたいとでも思っているのではないだろうか。だが連絡手段はすべて燃えた家の前に捨ててきた。燃えた家も何もかも捨ててきた。捨ててしまったんだなあ…そう改めて思っていると背後から声が聞こえた。
「博士」
熱を持たない冷たそうな声がした。背後からだ。ということはきっと相手にとって私は逆光で黒く染まっているだろう。よく私だと特定できたな。シルエットで私を判別できる人間なんて、そんな親しい人間私なんかにいたっけ。もしかして私を心配してくれたのでは。そう淡い期待もするが――
「私です。1号機です」
いたのは人間じゃなかった。1号機、かっこいいネーミングが思いつかなくって適当に名づけてしまった仮の名前が背後から聞こえた。いなくなったあいつだ。私は胸が高鳴るのを抑えて振り返らずに深呼吸をした。なぜならこいつは私の命令を無視して研究所から逃げ出した可能性があるのだ。他にも考えたくない可能性がある。私はギュッと目を閉じてポケットに手を突っ込もうとした。旧式の光線銃。これなら奴を壊すことだってできるはずだ。しかし、
「博士、最後にお話したいことがありまして」
ガチャリ。そう音をたてたのは私の光線銃ではない。1号機が私の後頭部に固いものをあててきた。それは私ではなく彼が所持していた銃の銃口だ。そう悟るのには時間がかからなかった。ロボットのクセに人間が戦うための兵器を片手に私の元までやってきやがった。何て嫌な奴なんだろう。作った本人も認める嫌なロボットだ。やっぱり意思なんてつくるんじゃなかったかもしれない。
「最後っていうことは、シぬの」
「はい。死にます。私ではなくあなたが死ぬのですが。」
「生みの親を、わざわざコロしにきたんだ」
銃口を突きつけられる恐怖で言葉が詰まるが皮肉を言って笑ってみせた。しかし彼には私の笑顔など見えやしないだろう。見えたところで彼は何の感情も抱かないだろう。なぜなら感情なんてハナからないからだ。私がわざわざ作ってやったのに、というか奇跡的な偶然によって彼に意思や感情が生まれたのに結局彼は非情に私に銃口を向けた。感情のある彼なりに私に殺意を抱く何かがあったのだろう。他のロボットには無い何かが。その何かが一回りして、せっかくあった心を抑えつけて彼を非情にしてしまった。その何かがとてつもなく憎い。それはロボットが愛しいからじゃない。私を殺すから、私にとって私が何よりも愛しいからだ。
「なんで、こんなことするの。」
「本当は答えたくないのですが」
「よくある、冥土の土産に教えてあげよう的な?だったらいいよ。私だって聞きたくないわ。」
ロボットにイノチゴイなんてプライドが許さなかった。それに私は絶望のすぐ近くまでいた。だからこの際シんでもいいかなって。もしかしたら家を燃やしたのもこいつかもしれない。たとえ生き残れたとしても裏切られたロボットのことをあとから考えるのも嫌だ。灰の家に戻るのも嫌だ。これからのことも考えるのも嫌だ。でもシぬのは怖い。死ぬのは、怖い。
「家を燃やしたのも最初から私をコロすつもりだったんでしょう。ついでに研究に関するデータも何もかも炭になった。これも何かしらの目的があったのかな」
「そうです。家から抜け出して時間があったのはこのピストルと放火のための道具を用意するためです。」
ピストルなんて時代遅れ名もの、よくあの短時間で探し出せたな。そう思ったが言葉にはしなかった。もしかしたら前々から少しずつ計画していたのかもしれない。そういうことを言われるのは嫌だ。彼から冷たいものを感じるのはもう嫌だ。疲れる。
ピストルなんか使ったってロボットは壊れない。けれども私はシぬだろう。力の差を皮肉にも演出しているようでなんだか嫌だった。非力だからこそ頭を使って生きてきたのにそのせいで私はコロされるんだ。がっかりどころの騒ぎではない。「もう悲しいよ。」シぬのは怖いがリアリティがない。悲しいというか怖いし、だけれどなぜか私の中には確実に悲しみの色があった。なんで私は今、悲しいんだろうなんて今更なことを考えてみるが自力では解消できなそうな疑問だ。しかし最後の最後に私へ向けられた声は残念ながらこの感情への答えではない。
「さようなら、***。」
別れの言葉だ。。それと同時に私はそのロボットからはじめて「***」という本名で呼ばれた。驚いて振り向くと同時に、
――どぉぉん、なのかばぁぁんなのかよく解らない銃声が鳴り響いた。
赤い金属の塊に木霊する銃声に街の人たちは気がつかないだろう。私は1人でシぬ、なんて、そう思うことは無かった。なんとなく、そこにはロボットが1機しかないのに、誰かに看取られている気がしたんだ。独りぼっちじゃない、なんてそんなまさかね。
「サヨナ、ラ」
もしかすると彼を非情に戻した"何か"が私だったりして、なんて。死ぬまでの一瞬だけ、勘違いしたって、いいよね。
泣くなんて鬱陶しい機能をつけたはずはないのに、彼が泣いている気がした。
end
錆びた鉄の塊にて
話の中の女の人のほうが心は不完全だったかもしれない、なんてイメージしたりして。
ロボットが女の人に銃口を向けた理由は想像にお任せします。
女の人に"何か"を抱いているとかそんな感じです。
私の書いた文章、自分であとで読んでよく「あちゃー」と思います。ですがこんな文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字があれば報告お願いします。赤面しながら修正すると思います。