紅色の葉

彼女は踊っていた。見るもの全て惹きつけるようなそんな踊りだった。
……綺麗。可愛い。愛おしい。
ぼーっと彼女を見ながら、僕は彼女から目が離せないでいた。本当に綺麗だった。
川が流れる音がして、紅葉して落ちた葉が彼女の踊りによって、サクサクと音がなる。冷たい風が吹き付けて寒い。でも、パリッとした空気。秋の空に秋の風で、秋の風景だった。そんな風景が、僕の心に染み渡って、ゆっくりと僕を癒してくれる。
彼女は、そんな風景の中で一際輝いて、僕に微笑んでくれていた。
嬉しい。愛おしい彼女が、僕を見てくれているのが。
秋の冷たさに震えて、ふと、目を開くと、そこには、鮮やかな紅色の椛があった。周りには静かに紅葉した椛の木々が佇んでいる。
そう、これは僕と彼女の秘密の逢瀬だ。
だけれど、彼女はどこにも居なかった。いるわけがなかった。だって、これは、この椛の踊り子は、僕が掴んでいる落ちてきた、一枚の鮮やかな紅色の椛だからだ。僕の夢物語に過ぎないのだから。
紅葉はハラハラと風に吹かれて舞っている。鮮やかに咲き乱れる風景は、小さな彼の宝物だった。

紅色の葉

10分間お題シリーズです。でも、10分で書けませんでした。
紅葉の写真がお題で、知り合いに送って自分でも書いてみた作品です。

紅色の葉

綺麗な椛の踊り子。その子が僕の全て。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-27

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