practice(164)




 映画館やアミューズメントパークで見かけるような派手な色や模様が,ぐるっと施された紙コップを構内で拾っても,清掃員は驚かない。設置された緑色のゴミ箱にしっかりともたれた格好で,口を開けた透明の袋にスタスタと近づき,中身をペーパーに吸収させ,別々に入れる。上辺を詰まらせないようにするため,紙コップを押し込み,詰まっている感触を改めて知り,そろそろか,と差し込まれたままの鍵をぶら下げる配電盤の丈夫な金属の蓋を見て,天井の間に埋め込まれた電灯に,切れているものがないかを探す。チカチカとするものもない。平面に戻って,清掃員は,構内に設置され,営業時間を過ぎた店舗の窓に写る作業着姿を認めた上で,棚に畳んで置かれたタオルを見つけ,それがない棚にも目を向けた。厚手であっただけでなく,すっかりと冷えた様子で,ノズルを外に向けた黒いドライヤーの上に位置していた。忘れ物なのだろうなと思った。清掃員は,同じく構内に設置された小さい喫煙室を通り過ぎて,その裏手にあるスペースに置いたままの,蓋付きの塵取りを取りに行こうと思っていた。誰も座っていない椅子が三つ,真向かいに縦長の鏡のうち,一番手前のものに『Open』を知らせるプレートと,押して開けるドアが薄暗くもしっかりと写っていることを認めた。清掃員は,さっさと振り返って,ホームとレールの間に色とりどりで指示する乗降ドアの番号を遡っていき,持ち手に箒を立て掛けた,お目当ての塵取りに向かいながら,改札に降りたままのエレベーターの仕組みの一部の,汚れみたいな影がかかる作りを考えた。
 レールを照らすために,(おそらく)等間隔で配置された電灯がすべて白かった。色とりどりの乗降ドアに振られた番号も,数が少なく,反対のホームで男女別に設けられた『W.C』も,ここから見渡しやすかった。
 清掃員は,蓋を閉じたまま,箒と塵取りを手に持ち,喫煙所と,ホームの狭いところを再度通り過ぎ,口を開けたまま,ゴミ箱にしっかりともたれた格好の透明の袋の前で立ち止まり,使い込まれて,緑色の胴体に記された,文字を当てた。
 『その他』。口を閉じた袋を持って,清掃員は足早に去った。



  誰も座っていない椅子が三つ,真向かいに縦長の鏡のうち,一番手前のものに『Open』を知らせるプレートと,押して開けるドア。ゴミ箱の側に置かれた塵取りと箒,外から入り込む明かり以外,照らすものがない。配電盤の丈夫な金属。
 目を凝らして,近づいて,忘れ物だと思って朝,それを片付ける。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-26

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