笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(3)

三 従兄漫才 火星人・木星人

 お囃子の音が、クラッシックに変わった。曲はホルストの「惑星」だ。当然、次に登場したのは、火星人と木星人だった。

「はあい、みなさん、こんにちは」
「こんにちは」
「私が、火星人です」
「私が、木星人です」
「二人合わせて」
「寡黙(火木)な人です」
「こら。漫才師が、寡黙やったあかんやろ」
「いや、黙っとって、お金が貰えるんやったら、それにこしたことがないで」
「そりゃ、そうやけど、俺たち、漫才師やで。お客さんに笑って貰って、なんぼや」
「黙っとって、笑って貰えたら、一挙両得や」
「何が、一挙両得や。勝手なことばかり、言うて」
「ほら、客席のあっちの隅のお客さんが笑うてくれたで」
「それは、あんたが、変な顔をするからや」
「変な顔はしていないで。普通の顔や」
「ええなあ。笑いの最終兵器を持っとって」
「誰が、笑いの最終兵器や。素顔や、素顔。生まれつきの顔や。ほっといてくれ」
「それはそうとして」
「何が、それはそうとしてや。このままでは、俺の顔が変な顔というイメージのまま、お客さんが家に帰ってしまうがな」
「しつこいなあ。どないしたらええんや」
「ほな、もうええわ」
「なんや、いやにあっさり引き下がったなあ」
「それはそうとして、私ら、実は、従兄ですねん」
「そう、実は、従兄ですねん」
「何、全然、顔が似てないって」
「そうですねん、顔は全然似てないですね」。
「なあ、火星人。なんで、あんた、タコみたいなん」
「誰が、タコや。俺がタコに似とんじゃなくて、タコが俺に似とんのや」
「一諸のこっちゃ」
「それに、わたしらをタコ呼ばわりしたんのは、地球人や。地球のSF作家が、勝手に、火星にはタコに似てる生物がおるって書いたから、そのデマが、今も伝えられているだけや。このわたしのどこがタコなんや」
「頭がつるつるで、口から墨を吐いて、手足が八本あったら、誰でも、タコやと思うで。ほら。」 木星人が魚類図鑑を取り出し、観客に見せる。
「ほんまや。そっくりや。誰が勝手に、俺の写真を載せたんや。わしは許可しとらんで。肖像権の侵害や。モデル料くれ」
「自分でタコと言うて、どないするんや」
「それはそうとして、あんたはどうなんや。なんや、腰の周りに、輪っかをつけて、回り続けとんや。それ、フラフープかいな。そんなんしとったら、疲れるやろ。目も回るやろ。目が回らんまに、借金返してたあ」
「誰もあんたに、金は借り取らんで」
「もちろん、俺もあんたには金は貸し取らんわ。親子でも金の貸し借りだけはするなって、親の遺言やから」
「親が死んどんのやったら、親子で金の貸し借りはできんがな」
「ほやから、遺言や言うとるやろ」
「ほんでもいつ、お前んとこの親が死んだんや。親戚のうちの親には連絡がなかったで」
「そりゃそうや。まだ、死んどらんわ。ちゃんと元気に生きとるわ」
「ほな、さっきの遺言の話は嘘か」
「お話、お話。俺ら漫才やっとんでや。ほんまの事ばっかり、言うわけないやろ。お客さんが喜んでくれたらええんや」
「そりゃそうやな。それでも、俺らが嘘ばっかりついとるように思われるで」
「心配せんでもええ。お客さんは、この会場出たら、ああ、おもろかったなあと呟いて、話のネタは全て忘れてしまうんや。あんまり心配やったら、おまじない掛けてやるわ。チチンプイプイ。全て忘れてえたあ」
「それ、おまじないやのうて、お願いやなあ。まあ、借金の話はおいておいて、あんたこそ、ほっといてたあ。木星の周りに、小惑星が回っとるから、木星人も、おんなじように、腰に、輪っかがあると地球人が、勝手に想像しとんのや。その想像を壊さんように、こうしてフラフープを常に回しとんのや。ここが木星人のやさしさや。よう、覚えといて」
「なんや、やさしさの押し売りみたいやなあ。それにしても、ほんまに、何も知らん奴は、困るなあ」
「ほんまや。ほんまに困るわ」
「まあ、それでも、そのお陰で芸ができるんやけど」
「そうですねん。この火星人、この八本の手足を利用して、曲芸ができますねん」
「曲芸やて、いやに古臭い言い方やな」
「古臭い方が、伝統や歴史があるように聞こえるやろ。ひょっとしたら、宇宙遺産と言うても間違いないで。何でも、物の言い方ひとつや」
「宇宙遺産とは大きく出たな。まあ、ええわ。それなら、早速、芸を披露します。はい。まずは、お手玉から」
「・・・・」
「次に、傘を開いて、傘の上でこの毬を回します」
「・・・・」
「はい。次は、瓶を十六本回します」
「・・・・」
「はい。次は、額の上に、ビール瓶五本を縦に乗せます。上手くいったら、拍手を」
「・・・・」
「はい。上手くいきました。拍手をお願いします。できれば、おひなりもお願いします」
 拍手が鳴る。おひねりがパラパラと舞台に蒔かれる。それを拾う木星人。その様子を見て、突然、芸をやめた火星人。
「ちょっと、待て。俺ばっかり、芸をして、あんたは何もしてないやないか。おまけに、おひねりまで独占して。これで、ギャラはおんなじ半分かいな」
「わたしが頭脳、あんたが手足。わたしがしゃべり、あんたは寡黙」
「もう、ええわ」
「失礼しました」

 火星人と木星人は舞台から去った。再び、司会者が登場した。
「さあ、今の笑いは何笑いでしょうか。電光掲示板に注目しましょう」
 舞台の客も、この放送を見ている全銀河系の人々も注目する。
「でました。百笑いです。さっきの十倍ですが、これでも、流れ星を吹き飛ばす程度です。相変わらず、アンドロメダ星雲は、銀河系に接近してきています。この銀河系を救うお笑いヒーローは、一体誰なのでしょうか。ここで、銀河系を救えば、銀河系栄誉大賞が授与されることは間違いありません。期待がより一層高まります。さあ、次のお笑いヒーローは・・・」

 楽屋で、中継を見ていた火星人と木星人の二人。
「残念やなあ。百笑いやったわ」
「まあ、それでも、さっきの組の十倍やろ。アンドロメダからの流れ星ぐらいは避けることができるんで、よかったんとちゃうな。そう言えば、さっき、流れ星が地球の側を通りぬけたんやろ。劇場も大いに揺れたなあ。それを避けることができるんやったら、俺らも何かの役に立っとるということや」
「それは、そうとして今日の調子はどうやった?」
「まあまあやなあ」
「お手玉もビール瓶も、落とさんと上手く乗せられたやないか」
「まあ、プロやさかい」
 言葉と裏腹に胸を張る火星人。
「ついでに、その傘の上やのうて、掌に、おじゃみみたいに、アンドロメダ星雲は乗せられへんのかいな」
「そんな、乗せられるわけないやろ。アンドロメダ星雲やろ。大きすぎるわ。体がつぶれてしまうがな」
「いやあ。宇宙には重力がないよって、できるんかと思うたんや」
「それに、アンドロメダ星雲を乗せてどないすんのや」
「いやあ、アンドロメダ星雲を手玉に取ってやろうかと思って」
「それ、おもろいねん。今度の舞台で、そのネタを使おう」
「ほな、アンドロメダ星雲とそっくりのおじゃみを、その器用な八本の手足で作ってたあ」
「よっしゃ、作るわ。ほんで、あんたは何すんのん?」
「俺か。俺ははまた、ネタ考えるわ」
「やっぱり、あんたが頭で、わたしは/が手足やなあ」
「もうええわ」
「お後がよろしいようで」
 火星人と木星人は楽屋で大笑い。この声が聞こえたのか、舞台の笑いの電光掲示板が、ピッという音とともに百笑いから百一笑いへと変わった。司会者もお客さんも、誰も気がつかない。
「舞台もはねたことやし、これから、一杯、どうや」
「そりゃ、ええなあ。なんか、また、新しいネタを考えようか」
「傘の上で、お銚子とおちょこを回すんはどうや?」
「そんなん、簡単でっせ。ついでに箸も皿も回せますわ」
「その芸を居酒屋の店主に見せて、目を回させよか」
「目を回させて、どないすんのん」
「その間に、金を払わんと逃げるんや」
「それは、喰い逃げやろ。それも、漫才のネタかいな。俺ら、いつも、ネタばっかり考えとるなあ」
「寝ても覚めても、お笑い、お笑いや」
「あら、何、目をつぶってのん?」
「いやあ、ネタフリしてんのんや」
「上手いんなあ。あんたはんの、漫才にかける情熱には頭が下がるわ。一生、手足として着いていくわ」
「いやいや、あんたがおるさかい、俺のネタが披露できるんや。これからも二人仲良く、漫才をやっていこう。景気づけに、ケーキ屋へ行こう」
「居酒屋やないんでっか」
「俺は酒が飲めんのや。アルコールが一滴でも入ると、顔が真っ赤になるんや」
「それは、俺のことやろ。顔だけやのうて、体全身が真っ赤になりまっせ。せやから、おでん屋だけは、勘弁して欲しいわ。共食いになるから」
「よっしゃ、わかった。やっぱり、居酒屋や。アンドロメダ星雲がやって来る前に、もっとネタを考えよう。いこう」
「いきまひょ」
 二人は仲好く、劇場を後にした。

笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(3)

笑いは銀河系を救う「お笑いバトル」(3)

三 従兄漫才 火星人・木星人

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-24

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