ミステリーサークル

ミステリーサークル

「で、今回は一体どこに彼女は現れたんだ?」
「ニッポンです。」
部屋の中の唯一の光であるろうそくのか細い光は揺れた。
「ニッポン?あの極東の島国か。」
「今回、彼女は一体何に興味を持ったんだ?」
「サークルから半径500kmで調べた結果、ありとあらゆる銭湯の冷蔵庫の中の牛乳瓶からフタがなくなっていました。」
「フタ?そんなゴミ何に使うんだ?」
二人の座る円卓に置かれた何枚かの写真と、A4用紙が照らされいる。
「さあ?彼女の考えることなんて、全くわかりませんよ。あ・・・でも、なんか古いフタはプレミアがついて、高値で売買されているそうですよ。」
「彼女が金銭に興味もってたら、今頃世界中の貨幣がなくなってるだろ。」
「まあ、フタってことで今回は損害が少なくてよかったですね。ダイアの時は大変だったじゃないですか。ほら、おばさんがダイヤの付いてないだっさい指輪して、怒鳴ってきて。」
奥の棚には髪の長い女のフィギュアが、ろうそくの光によって影を作っている。
「現場は?」
「いつも通り、しっかりと規制線張って誰も入れないようにしています。今回は田んぼが75m四方の被害でしたから、楽勝でした。」
ジェンガは今にも崩れそうになりながら、絶妙なバランスを保っていた。
「目撃者は?」
「サークル自体は我々が第一発見者なのでおそらく目撃者はいませんが、田んぼの持ち主の75歳の男性が長い黒髪で白いワンピースを着た女を見たと証言しています。おそらく彼女でしょうね。」
ロウがぼたっと重たい音を上げ落ちた。
「・・・仕方ない行くか。」
「はいっ!」
男が叫んだ勢いでろうそくは消えた。

「風が強いな。」
「そうですね〜。」
青々と茂った稲がわさわさと揺れている。
「暑い。目が痛くなる。」
「先輩は今流行りの引きこもりですからね〜。」
「お前な。俺は本部で連絡を待ってるだけだ。」
「はいはい。それにしても、お米勿体無いですね。この辺一帯刈っちゃうんですよね。」
「サークルのできた田んぼだけだ。多く刈ったら予算が足りん。」
「でも、もったいないですよ。地主さんもお金が入るならって言ってたけど、悲しそうな顔してましたよ。」
「仕方ないだろ。彼女がここに描いちゃったんだから。」
黄色の規制線は今にも、どこかに飛んで行ってしまいそうな勢いでバタバタと暴れている。
「彼女もなんであんなの描くんでしょうね。丸描いてその中に盗ったもの。意味わかんないですよ。その度に芝生やらなんやら刈んなきゃいけないこっちの身にもなって欲しいですよね。」
「知るか。盗みのポリシーなんじゃないか?」
「ポリシーですか。巷じゃ、この落書き『ミステリーサークル』って呼ばれてて、『宇宙人が何か伝えるためにやった。』って言われてるらしいっすよ。」
空を渡り鳥が形を作って飛んでいた。
「宇宙人みたいなもんだろ。いろんなものパクって、唐突に現れ、絵を残して煙のように消える。おまけに足跡がない。謎が多すぎる。」
「あははー。宇宙人ってより幽霊っすよね。目撃証言では絶世の美女だし、いつも白のワンピース。誰かを連れ去ろうとしてるんじゃないっすかね。」
「連れ去ってんのは、いっつも物だがな。」
日差しは濃い2本の影を作り出す。
「航空写真は?」
「あーと、資料班からもらったのが確かここに....」
「お前確認してないのか?」
「はい。今回資料班が有給とってて、さっき届いたんですよ。」
空から見た田んぼは青々としていて、倒れている部分が影を作っている。
「俺も有給が欲しいよ。妻子供にもう何ヶ月あってないか。」
「何言ってるんですか。先輩未婚でしょうが。」
「うるせえ。」
「あ、ありましたよ!」
影は牛乳瓶のフタの文字を綺麗に映し出し、まるで本物がそこにあるかのようだった。
「あー今回やばいですね。早くしないと。」
「彼女、絵心はないくせに文字は流暢にかくんだな。」
そして、辺鄙な田舎に少し時期の早いコンバインの音が鳴り響いた。

ミステリーサークル

ミステリーサークル

『彼女』を追う二人の男の日常。短いです。続きは気が向いたら書きます.... 二人の会話考えるのは、とても楽しい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-20

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