世にも奇妙な男の夢 第2夜 さいごの印刷用紙
久々にこのサイトで作品を投稿します。「世にも奇妙な男の夢」の第2弾です。
『さいごの印刷用紙』
これは、真志がいつか見た夢である。
夜7時頃であっただろうか。彼が町を歩いていると、出入り口がシャッターで閉ざされた古びた建物の前で、グレーのトレンチコートを着た、黒縁眼鏡の男性が露店を開いていた。
その男性の姿が真志の目に止まった。
「おっさん、こんなところで何を売ってんだ?」
露店の男性は、客の顔を見ると、穏やかに言った。
「こちらの商品でございます」
彼が示した先には、濃いワイン色の袋に入った、デジカメ等で撮影した写真を印刷するための用紙があった。その隣には、「さいごの印刷用紙 販売中」と書かれた小さな立て板があった。
「この、『さいごの印刷用紙』ってどういうことだ?」
「はい、『さいごの印刷用紙』でございます」
答えとは思えない返答をした男を不思議に思ったが、彼は別の質問をした。
「いや、俺が言いたいのは、何で『さいごの印刷用紙』かってことだ」
「それはお買い上げにならない限り、知ることはできません」
妙な返答を繰り返す男性に、真志は少しムッとしたが、何となくその商品が気になり、再び店の男性に話しかけた。
「おっさん、これいくらだ?」
「15円でございます」
「安っ。マジかよ」
店の男性は、不思議さと穏やかさの混ざった顔で真志を見ていた。
「よし、買った。ほら、15円」
露店の男性は、相変わらず穏やかな顔で言った。
「ありがとうございます。どうぞよい夜を」
真志は帰宅後、パソコンのスイッチをオンにし、それにプリンターのUSBをつないだ。そして一つの画像を開いた。この間のフィギュアスケートの国際大会の表彰式の写真だ。自分は向かって左側に映っている。首に提げた銀メダルを持って…。彼はさっき買った「さいごの印刷用紙」の袋を開いた。すると驚いたことに、中には印刷用紙がたった1枚しか入っていなかった。しかし、外見上は何の変哲もない写真用の印刷用紙である。
「ん?何だこれ。1枚しか入ってねえな。なるほど、だから『さいごの印刷用紙』なのか…」
とりあえず、彼はプリンターのトレイにその印刷用紙をセットし、印刷を開始した。
プリンターから、非常に美しく印刷された写真が出てきた。しかし、印刷された写真は奇妙なものだった。というのは、向かって右側にはルイス・デ・モレイラにそっくりな壮年の男性が映っており、中央にはアレクサンドル・ルオーに似た顔の、背中が曲がった白髪の老人が映っているのに、向かって左側にいる真志は今の姿で映っていたからだ。
「な、何だこりゃ…!」
真志は急いでパソコンの画面に映った画像を見ると、若い自分たちの姿が映っている。
「何なんだよ、この写真…」
そのとき、彼の携帯に電話がかかってきた。
「もしもし。おっ、達也。…ああ、わかった。俺もそっちに向かおう」
電話をかけてきたのは、フィギュア仲間の古賀達也だった。彼は、飲み会の中にいて、真志を誘ったのだった。
真志はビリジアン色のトップスと黒いレザーのズボンに着替え、黒いコートを羽織ると、自宅を出た。自宅から50メートルほど歩いたとき、彼の後ろから、大型トラックが突っ込んできた…。
ストーリーテラー登場(誰もいない病室の空ベッドの近くで)
この物語をお読みになったあなたに、一つ質問がございます。もしもあのとき、「さいごの印刷用紙」を購入したのがあなただったならば、あなたは何を印刷したと思いますか。
世にも奇妙な男の夢 第2夜 さいごの印刷用紙