どうしようもない日常

「おごりだとよく食べますね」
わき目もふらずスープパスタを食べるやつの隣には既に三つほど空になった皿が並んでいる。ナポリタン、ペペロンチーノ、カルボナーラ。
こいつ、もとい柳原流人の食べ物の好みはどうも子供のようだと思う。偏食だし。
「もちろん、こういう時に食べないと死んじゃうからね」
そう真顔で言った流人は実際ガリガリもいいとこなのでそれ以上皮肉るのはやめてやることにした。
「いい加減職探しなよ」
「まだいい、今だってなんとか生きてるし」
「人の好意に頼って、か?」
「俺を助けてくれる心やさしい女の子はいくらでもいるもん」
あっけからんと言い放ったヤツの、無駄に整った顔立ちを見つめて私はため息をついた。かっこいいというよりは中性的で女性的な顔立ちなのだが、一部の女の子にはとても受けがいいらしい。昔はもっと薄ぼんやりした昼行灯みたいな顔してたくせに。
「ヒモ野郎」
「ヒモで結構」
「だったらいっそ私んち来たらいいじゃん」
「それはやだ」
「なんでさ?」
「日和子とはそういう関係になりたくないもん」
「何それ」
「今の距離感が一番居心地がいいってこと。これからも一緒にいさせてよ。ね?」
この問答をするのも、もう何度目だか知れない。長続きする女の子がいないのはよく知ってるけど。こっちからしたら蛇の生殺しだってのに。
「はいはい、これからも体良く人間ATMとして扱われてあげますよ」
「やだな、そんなこと全然思ってないよ」
あわてたように手を振り回す彼の目に偽りはない。
手に持ったままのフォークから汁が飛び散って私は眉を顰めた。
そういう子供っぽいところがまた女の子たちの母性なんだか庇護欲なんだかよく分からないものをかき立ててしまうのだろう。

しかし、無邪気は厄介だ。罪悪感がない。
尽くした女の子たちが身も心もボロボロになったところで、行かないで、なんて言って縋ったところで、こいつはきっと困った顔で笑って躊躇いなく去るのだから。

「分かったから、落ち着いて」
屈託ながら笑いながら良かった、と言う彼を見て私はもう一つため息をつく。
「あー!ため息つくと幸せが逃げるよ。あ、おねぇさん、シーザーサラダもう一つ追加で」
満面の笑顔をそのまま向けられて赤くなった店員にも、いちいち微笑みかけるこいつにも、フォークをぶっ刺してやりたくなった。

どうしようもない日常

世の中いろんなひとがいる

どうしようもない日常

ヒモ男と幼馴染の話。短いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-20

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