目覚めるということ

耳障りな目覚まし時計のアラームが鳴り始め、沈んで死にかけていた意識を腕に集中させて枕元の時計のアラームを止め、長針と短針が6時を少し過ぎた時間を指していることを確認すると、小さく呻いてベッドから立ち上がり、カーテンを開ける。分厚い布に遮られて行き場を失くしていた、暴力的なエネルギーに満ちあふれる朝日が、窓ガラスをものともせずに嬉々として突き破り、部屋中に散乱し、隅々まで——私の肉体にも——無遠慮に突き刺さり、この部屋を濃厚に包み込んでいた夜の気配を一瞬で明るく照らし、殺す。
部屋の中に充満しているほこりっぽい空気を換気するために窓を開け放った。ここから見える通りに車の行き交うのをしばらく眺め、昨夜遅くには人っ子一人通るのも見かけなかったというのに、いつのまにか私のあやかり知らぬうちに社会はとっくに機能しはじめていたことをたっぷり実感してから、私は台所で濃いめのインスタントコーヒーを一杯作って——それを朝食代わりに飲み干すことに専念しながら——、声には出さず、心の中で、もし夜が終わらなければどんなにか良いことなのに、と小さく呟く。
でも夜が終わらないことなんてありえないことだし、どんなに強く願っても太陽がなくなるか地球が回るのをやめない限り平等に、夜の次には朝がくる。どれだけ大切なものを手に入れても、必ず最後にはどんなに抵抗したところでそれを失うように。
私はため息をついて、最後の一口を飲み干すとラジオをつけ、流れ出したさわやかなBGMと明るいパーソナリティの声をぼんやりと聞き流しながら立ち上がり、会社へ行く準備をはじめる。
また、大切な人の——そして大切な人の代わりを務められるような人も——いない、一日がはじまる。もう何十回、何百回目の、あの人でなければならないのに、紛れもなく、あの人がどこにもいない一日が。
どんなに目を凝らそうと、どんなに探しても、どんなに半狂乱になりながら心臓をかきむしったとしても、あの人のいない、そしてあの人の代わりを務められるような人もいない、一日が。


無、が。

目覚めるということ

目覚めるということ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-19

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