江戸っ子は殺人鬼になりました
1.400回目のお願いをします
満月の夜、少女はまた、神様にお願いをしていた。
『神様、私はもう人を斬ったりしません。私は、これから正しい道を進んでいきます。どうか、どうかここから出してはくれませんか。』
神様は聞いているのだろうか。
もう、400回目だ。毎日毎日、一日一回神様に願いをする。
お願いをした後は、壁に線を引いていく。
もう、一年は経っているかな。というくらい、私はこの蔵の中に閉じ込められている。
ああ神様、本当にもうしません。許してください。
何故こんなことになってしまったのか、少女もあまりよく理解できずにいた。
そして、ふと思う。
『あの方に会いたい。』
あの方とは、いつも私を正しい方向へと、道を進めてくれた男の人のことだ。
名前は宇賀紅矢(うが こうや)。人を斬ることを教えてくれたのも、この人だった。私は、宇賀さんが好きだった。宇賀さんも私を好きだと言ってくれた。
でも、私が蔵に閉じ込められるとき、宇賀さんの姿はなかった。
大きな儀式で、町のものはみんな見に来ていた。なのに、宇賀さんはいなかった。
儀式の際中、体を紐できつく巻かれていても、私は宇賀さんを探した。
『助けてくれるかな。』って思ってた。
けれど、最後の最後まで、私が蔵に入れられるまで、宇賀さんの姿はなかった。
寂しかった。
たまにこうして宇賀さんや、家族のことを思い出しては、一人は嫌だと私は泣いた。なんで私だけが、蔵に閉じ込めなければならないの。
ずっとそう思っていた。
ここを出た時には、あの方は来てくれるだろうか。
『――!会いたかったよ。』って、駆け寄ってきてくれるかな。来て、くれるといいな。
あれ、私自分の名前…忘れちゃったのかな。
あまり、思い出せない。蔵の中じゃ名前なんて使わないから忘れてしまったんだ。
いろんなことを考えているうちに、夜になってしまった。
高い位置にある窓からこぼれる月の光が、少女の唯一の夜の光だった。
「もう、寝ようかな。」
そう言って、少女は薄い毛布に包まる。
冬だというのに毛布一枚だ。それでも、蔵で見つけた布や袋を見つけては、下に敷いて寝ているのであった。
『明日こそ、出られるといいな。』
少女は眠りについた。
2.動き出した蔵と鬼Ⅰ
ぴよ…ぴよよよ…ぴぴぴぴ…
それは、朝に起きた。
ガタン!!ガン!ウィーン…ゴゴゴゴゴゴゴ…
!?!?
「な、何の…音ッ!わあ!!…い、いたた…。」
私がびっくりしている理由、それは――――
『蔵が動いている。』
私の閉じ込められている蔵が、いきなり大きな音と振動をたてているのだ。
そして外からは、微かにだが人の声らしきものも聞こえる。
「あのー。これどーしますかー?」
「あー…どうしようかねぇ。」
「向こうか、山の上の神社に引き取ってもらいますかー?」
「あー…そうするかぁ…。」
「了解っすー。」
などという、会話が聞こえてくる。
何事だろう。
私はここから出られないし、窓は高い位置にあって見えないから座っているしかない。
正直怖い。怖いです。外から聞こえるものはなんでしょうか。
『宇賀さん、こんな時も助けに来てくれないのですか?』
そんなこと思うだけ無駄なのは、少女も十分理解していることだった。
どうしよう。怖い。
おばあ様がいてくれたら…
ん?おばあ様?…そ、そうだ!
おばあ様が言っていた気がする。
『困ったときには鬼を呼びんさい。そったら、鬼が助けに来てくっれとよ。』
そうだ、鬼さんだ。何でもっと早く思い出さなかったんだろう。
そうしていれば、もっと早くここを出られたかもしれないのに。
よし、とりあえず呼んでみよう。
…どうやって?
どうやって呼ぶかわからないよ!おばあ様!
鬼さんは、呼んだら来てくれるものなのだろうか。
ためしに呼んでみる。
「鬼さん、どうか、この私めのところに来て来てはくれないでしょうか!」
…。
来るわけないですね。
やっぱり、呪文とか、儀式が必要なのだろうか。でも、私はそんなの知らない。
どうしたら、この恐怖から逃れることができるのだろうか。
ががががが!ギィーン…ガン!ガガン!ゴゴゴゴゴゴ…
ほら、またあの騒音が聞こえる。
お願いです、神様。
私をここから出してください。怖いのです。
少女は神に祈り続ける。
同時に鬼にも『助けて』と、願った。
早く来て――――。
江戸っ子は殺人鬼になりました
どうも、おとねこです。
『江戸っ子は殺人鬼になりました』を読んで下さり、ありがとうございます!
これから、どんどん書いていきます。
でも、期待はしないでください。あまり上手く書けませんから!
それに更新も遅いです。
こんなおとねこですが、これからもよろしくお願いします!