羊が一匹・・・。

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『届かないか、』を移動させました!
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充電

充電

久しぶりの休みで家の中でゴロゴロと過ごしていたら電話があった。
「キャラメル〜。ヘルプだー」
電話でそう呼ばれ、僕は胸を弾ませた。


僕には好きな人がいて。彼女とは遠距離恋愛中。
だから、彼女とはなかなか会えない。
メールとか電話はできるけど、直接、会いたいじゃん。
僕はなぜか、みんなに「キャラメル」と呼ばれる。幼い時にふざけてつけた名前が長く定着するとは思わなかった。彼女にも「キャラメル」って呼ばれる。
彼女にそう呼ばれると嬉しいんだ。
彼女とは中学生の時に出会って。
高校1年生の時から付き合い始めて。彼女とは付き合って5年目になる。でも、遠距離恋愛となると辛い。大学が離れてしまい、住んでいるところも離れてしまうから。
この頃は部活も忙しくて、なかなか休めない。
だから、今日は久しぶりの休みだ。
この頃はなかなか眠れなかった。「忙しい」という理由もあるけど。
彼女のことを考えているうちに、寝付けなかった。
彼女は今、何をしているかな。
今、僕が見ている空を、彼女も眺めているのかな。

僕のこと、想ってくれてるかな?

女々しいなって自分でも思う。
だから、目の下には黒い影ができてしまった。彼女に会ったら、なんて言われるかな?



彼女の住むアパートに到着した、
電話は彼女の妹からだった。どうやら、悪い夢を見て、泣いていたらしい。僕が彼女を慰めなければ。なんだか、誇らしく思った。
ドアのチャイムを鳴らして、彼女が出てくるのを待つと、出てきた、出てきた。
彼女はポテっとした女の子。…つまりはおデブちゃんってこと。
でも、かわいい女の子なんだ。まじめだし、素直だし。
何よりも…。泣き虫な彼女が可愛くて好きだ。
彼女の眼はウサギのように、赤くなっていた。
…いったい、どんな夢を見たらそんなに泣いてしまうのだろうかって気になった。
「…(おん)ちゃん」
「…キャラメル」
彼女が抱きついてきた。だから、僕も一歩前を踏み出して、彼女を抱きしめる。
ずっとこうしたかった。
やっぱり、彼女はかわいい。


彼女の部屋のベッドに並んで腰掛けた。彼女は俺の目を気にしてくれた。
「最近、寝れないの?」
「…うん、まぁ。でも、大丈夫だよ」
僕の悩みの内容を教えられなかった。恥ずかしい。僕だけ、音ちゃんのことを考えていたらもっと恥ずかしい。
「…悩みごと?」
「…まぁね。大丈夫だから」
僕は悲しそうな顔をする彼女に笑顔を向けた。
僕も彼女に夢の内容を聞かなくちゃ。
「…音ちゃんだって…。どんな夢を見たの?」
「…あのね。キャラメルがね、他の女の子と手を繋いでどこかへ行ってしまう夢。…えへへ、夢の話なのに、泣いちゃうなんて、私はバカだね」
照れたように笑う音ちゃん。僕は彼女の頭に手を置いた。彼女はくしゃっと笑った。
「ダメだ、私。キャラメルがいないと、ダメになっちゃうみたい」
彼女の台詞を聞いた途端、今まで悩んでいた僕が馬鹿馬鹿しく思えた。彼女は僕のことを想っていてくれた。
「…バカだな、僕」
「ん?」
彼女は首を傾げていた。わかんなくて当たり前だ。というか、わかってほしくない。
「ごめん、僕、寝てもいい?」
「いいよ」と彼女は許してくれた。彼女のベッドに横になった。彼女を抱き枕にしたくて、手招きをした。彼女は何も言わずに隣に寝転がった。
「ねぇ、教えてよ」
「ん? …ひみつー」
「キャラメルだけずるいよ。私だって、キャラメルのこと、知りたいよ」
…なんで、そんな可愛いことを言えるのだろうか。
そんな彼女をギュッと抱きしめた。
「…ごめん。後で教えるよ。……それよりも充電させて」
彼女のぬくもりが暖かかった。
また、明日が来てしまえば、会えない日々が続く。
「…ねぇ、音ちゃん」
「なぁに?」
恥ずかしいけど、言ってしまおう。
「…僕から離れんなよ?」
彼女は何て言ってくれるかな。すると。
「うん、もちろん。キャラメルだって」
「ん?」
「…私と一緒にいてね?」
彼女が僕の胸に頭を寄せてそう言った。
…嬉しかった。安心して、また寝れる気がする。
「おう、もちろん。…おやすみ」
「おやすみなさい」
僕は目を閉じた。


僕だって。
彼女がいないとダメになるだろう。
そんな人に出会えて、僕は幸せ者だ。

昔話

昔話

僕は歩いている。君の隣で。
君は自身のなさそうな顔をして、僕の横を歩いている。きっかけは僕の昔話。


僕は今の彼女と付き合う前は、違う女の子と付き合っていた。
自分で言うのは、恥ずかしいのだけど、女の子にはモテモテだった。きっと、顔がよかったからだろう。
だから、ある女の子に告白されて、僕は交際することになった。
その子も、可愛らしい女の子だった。


今の彼女も可愛いよ、本当に。でも、本人の前で言うのは恥ずかしいから、言わないよ。
「あぁ、私もその子みたいに可愛かったらなぁ」
彼女は頬を膨らませながら、呟いた。 …彼女は何もわかってないなぁ。隣にいる彼女の右手を僕は左手で握った。
「…わかってないなぁ」
「…何がよ」
彼女と目が合った。
…もしかしたら、昔の彼女のほうが外見的には可愛いかもしれないけどさ。
僕は君の怒った顔が好きなんだよ? 昔のあの子の怒った顔は知らないんだ。…泣き崩れた顔も。
「あの子とどのくらい、付き合ってたと思ってるの?」
「…一年?」
不安そうに尋ねてくる。実は違うんだな。
「2日」
「…へ?」
「2日だけだよ」
そう言って笑うと、彼女はポカーンとしてた。
今の彼女は昔のあの子のことも知っている。でも、付き合ってたことは知らなかったみたいだ。ま、あまり、このことを言ってなかったから。
「彼女は…。俺の顔がいいから付き合ってたんだろうなぁ。性格とかそういうのは、興味がなかったんだと思う。だから、俺から別れたの」
彼女はまたポカーンとしてて。だから、もう、気づいているはずだ。
「じゃあ、俺たちは…。どのくらいだっけ?」
彼女は左手で指を折って数えていた。出た答えは。
「…5年くらい?」
「でしょ? じゃあ、自信持っていいんだよ」
そう言って、笑いかけると彼女は笑ってくれた。


彼女とは喧嘩もたくさんしたけど、その分、たくさんの思い出があって。
だから、今の方が幸せだ。
昔は昔、今は今だ。

届かないか、

届かないか、

…雪が降ってきた。
もうそんな季節かとため息を吐いた。冬になると、春になって。
春になるとクラス替えがあって。
あの人と離れてしまう。
文系な私と理系の彼。文理でクラスが分かれるから、離れることは運命のように決まっていた。
理系か…。数学や化学などの科目が苦手な私にとって別世界だ。でも彼はどんなに難しい問題でも解いていく。憧れるし、カッコいいと思う。
そんな彼を好きになった理由は…。夏休みのこと。
教科書の応用問題がわからなくて、解答を見ても解き方がわからなかった。諦めかけていたその時。たまたま私の席の隣にあの人が座った。
『…何してんの?』
『…数学。…わからないんだ』
そう言うと、彼は私が持っていたシャーペンをするっと奪って私のノートに計算しを書き足していく。最初は何の計算をしているのか、わからなかった。でも彼が『これはこうだから…』と説明してくれた。そのおかげで理解できた。
『ありがとう』
『おう。…何か、あとでおごれよ』
ニヒッと笑う彼をいつの間にか、私は好きになっていたんだ。
そのあと、彼に「やさしい麦茶」という飲み物を買ってあげた。
『ありがと』
彼はまた笑ってくれた。私の好きな笑顔で。
それからはどんどん、彼のことを好きになっていった。彼はクラスでも人気者でいつも笑ってて…。クラスでただ、それを遠くから見て笑ってるだけの私は彼には届かないんだ。
想いも距離も。

さて、現実に戻ろう。今は6時間目で古典の授業中。
教科書の文を訳していると、新しい文法を習うことになった。ノートに黒板のことを書き写していく。この文の意味は反語の意味らしい。疑問の文に反語の意味の助詞がくっつくことによって、強い否定を表す…らしい。
全然、意味がわからなかった。
家に帰ってから復習しよう。
私は窓際の一番奥の席。外では1センチほどの雪が積もっていた。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、一息つく。…終わった。リュックにものをしまおうとしたら、あの人が私の前に現れた。
「…古典…わかった?」
「ううん。…わからなかったよ」
「…じゃあさ、俺と今日、残ってさ一緒にやらない?」
彼の部活は今日、休みの日らしい。断る理由なんてなくて、うん、と頷いた。


放課後。掃除終わりの教室で2人並んで、現代語訳を教えあった。彼は私とは対照的で文系の教科が苦手だそうで。私にたくさん聞いてくれて嬉しかった。
大方の訳を終わらせると、世間話をした。
やっぱり、クラスの人気者は話す内容が面白い。二人で笑いあって、楽しかった。
「華はさ、好きな人とか…いるの?」
「え? …いると思う?」
本当はいるんだけどね、目の前に。でも、「好き」っていう想いがバレないように微笑んでいた。彼は考えて考えて……。
「…いなさそう。なんか、華は大人っぽいから、恋自体をしない気がする。…じゃあ、俺は? いると思う?」
「…いると思う。だって、俊介君のことだもん」
人気者はモテるから。…そんなに私は大人っぽいの? …恋してるのに。
「えぇー、バレたし…。華は? いないの? 本当に」
「…いるよ」
ボソッとつぶやいて、帰り支度をする。
「先、帰るね」と彼に笑いかけてから、教室を出た。
…届かないわけじゃない。自分が届けようとしていないから、届くはずがないんだよ。
…不機嫌そうに見えただろうか。私はとにかく後ろを振り返らずに、歩き続けた。
「華!」
自分の名前が呼ばれて振り向く。
そこには、お似合いの紫色のリュックを背負った彼がいて、その手には自動販売機で買ったのであろう、私の好きなホットココアの缶があった。約5メートル程離れている距離。
「今日、ありがとな」
そう言って投げられた缶をキャッチする。…届け!
「あのね、私…。俊介君が好きだよ」
なんとなく、彼に缶を投げ返した。彼の顔はやっぱり驚いていたけど、キャッチしてくれた。
「…俺も好きだよ」
その言葉(ことば)を聞いた途端、私は驚嘆して動くことができなかった。
彼は立ち止まる私との距離を縮め、抱きしめてくれた。


届かないか、いや、届けようとしていないから、届かないのだろう。

イライラボルト

イライラボルト

私の妹の話をする彼に腹が立つ。私の妹の話だからといって、聞きたいとも思わない。嬉しそうに話す彼に腹が立つ。
「今度、会わせてね」
そう言って笑う彼の顔が頭の中で何度も何度も回想される。彼の残像を消したくてヘッドホンをつけて、頭の中に音楽を流すけど、消えるわけが無かった。

私は四つ子で、4人の間では私がお姉さん的存在だった。今は離れて暮らしているけど、ときどき4人で会う。4人でいるとやはり落ち着く。
家に帰宅して夕ご飯の準備をしている途中、携帯電話が鳴った。もしもし、と相手に呼びかけると明るい声が返ってきた。
「もしもし、ハルちゃん? 私だよ、ナツだよ」
「うん、知ってるよ。どうしたの?」
「今度、ハルちゃんの住んでいる町に遊びに行って、一緒に買い物したいんだけどさ、どうかな?」
「ナツだけ? 他の2人はどうするの?」
「行かないって。だから私だけ」
うふふ、と笑う電話越しの彼女。ナツとはよく会うし、話も合う。用件を承諾し、日時を決めた。それから5分程、世間話をしてから通話が終わった。
スケジュール帳にその予定を記し、ナツのようにうふふと笑った。

ナツと会う日になった。ナツは春らしい白いワンピースを着ていた。似合っているし、彼女の容姿も可愛らしいから、人の目を惹きつけた。
洋服を買いたいと彼女が言った。大きなショッピングモールへと向かい、様々な店を見てまわった。たくさんの服を見て可愛い、と言っているけど、結局、買ったのは赤いカーディガンだけであった。
昼ご飯を食べるために某ドーナッツショップに入った。私はポン・デ・リングとゴールデンチョコレートを食べた。ナツはポン・デ・リングとドーナツいちごを食べ、追加としてホットコーヒーを頼んでいた。彼女は甘党であるから、ミルクと砂糖をたくさん入れて飲んでいた。
おしゃべりをしながら食べていると、店内に馴染みの顔が入ってきた。
「お、ハルじゃん。ハルと…あ」
彼がナツの存在に気付く。彼の隣にいた山田くんも驚いていた。
四つ子である私達は顔がそっくりなのだから驚かれるのは当たり前だった。彼らもまた昼食のために来店したらしい。気付けば合席していて、ナツに質問が殺到した。ナツは彼らの対応に応じていた。
ナツは明るく対応し、いつもニコニコと笑っていた。私にはできないことだから関心する。
「ナツちゃんってハルに似てやっぱり可愛いね」
(よう)は女の子をおとす決まり文句のように軽く言った。彼の態度に腹が立った。
「そうですか? 嬉しいです」 うふふと笑うナツ。彼女もまた、軽く流している。
「そうやってナツのこと、おとさないでよ」
この台詞は普通に言えた。内心は色々と渦巻いているけど。彼はわかってますよー、とヘラヘラ笑っていた。本当に腹が立つ。

約1時間程話して、おひらきとなった。ナツはおみやげとしてスティックパイアップルを買い、バス停で別れた。「一人で帰れるから」と彼女はまた笑っていた。
3人で歩いていたけど、いつの間にか、陽と二人きりになっていた。山田くんはもう一人で帰ってしまったらしい。
「いやー、ナツちゃんは本当にハルと似てたな」
またナツの話か。私の妹達をどうも好いているらしい、このヘラお君は。
「顔は似てるけど、性格は全然、似てないよ」
「うん、知ってる」
彼の意外な返事に耳を疑った。横で歩く彼の顔を見上げると、彼は笑っていた。
「照れ方とか全然違うよね」
「どういう意味?」
うーん、と考え込んでいたけど数秒後に答えが返ってきた。
「ナツちゃんは照れた時、うふふって笑うけど、ハルは鼻でふんって笑うんだ。ツンデレの女の子みたいに。だから、俺はそんなハルが好きなんだ」
「アホか」
最後の言葉が信じられなくて、彼の背中を平手で叩いた。彼は背中をさすっていた。
「なんでそうなるの? 俺は正直に言ったのに」彼は痛がりながら言った。
「嘘っぽいから信じられませーん」
鼻で笑いながら、彼の横を通り過ぎ、前を歩く。彼はかっこいいし、性格もいい。私はそんな彼が好き。でも、誰にでも優しい彼は嫌いだ。ある意味、ヤキモチだけど。
その数秒後、後ろから彼の腕に私は包まれてしまった。
「でも、ハルだって俺のこと好きでしょ?」
意地悪そうな声が聞こえて私の身体中に電気が走った。
「ばぁか」

羊が一匹・・・。

読んでくださってありがとうございました。
ほっこりとした気持ちになってくれるとありがたいです。


『届かないか、』のキーワード。
「雪」「窓際」「届かない」
『イライラボルト』のキーワード。
「ヘッドホン」「砂糖」「電気」

羊が一匹・・・。

短編集です! 心が温かくなってくれると嬉しいです。 カップルのお話。 時々片思い。何を伝えたいのか、自分でもわからないですが暖まっちゃってください。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-17

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  1. 充電
  2. 昔話
  3. 届かないか、
  4. イライラボルト