俺の妹はスパイ様? 4話<Absolute sniper>

「ご飯で来たよーっ!」
 夏樹の大きく澄んだ声が響く。この辺はこんなでかい射撃場が立っても違和感がないくらい静かな場所なので特に大きな声で騒いだところでなんも問題はない。もちろん騒いだら隣の人からクレームが来るだろうけど隣は今は不在なのだ。俺は自分がいつも座っている席に着く。目の前にはカレイの煮つけ、味噌汁、白米、そしてきんぴらごぼうが並んでいる。相変わらず夏樹の料理はうまそうに見える。
「でも……」
 しかし今日の奈々は少し顔が怒っているようにも見えた。
「なんでこのお二人さんがいるの?史郎……!」
 やっぱり怒ってる。どう考えても怒ってる。十中八九怒ってる。というよりか確実に怒ってるっ!
「あ、あのな?仲間なんだから少しは仲良くしようよ……ね?」
「わ、私は史郎先輩と仲がいいからほかの人はどうでもいい。」
 だからその発言どう考えてもこの状況で言ったら地雷ってことわかってます?奈々さん……。高町三姉妹だけではなく夏美までもがキレかけていた。
「そ、そんなこと言ったら私だって史郎とは幼馴染だもんっ!」
 これじゃあイタチごっこになりかねない。すでになってるみたいだけどその辺は気づかないふりをしている。というかしていたい。
 こんな調子でみんなが俺のことを話しているのがちょっと嬉しかったりする。だって、こんな美女が俺の話題をしてるんだぜ?健全な男子高校生だったらこんな夢みたいな状況を望まないやつは男じゃないっ!
「じゃあさ、今日からみんな俺の家族ってことでいいじゃんか。まぁ高町三姉妹は俺が面倒を見るって約束だからもちろんだけど夏美と奈々だって一緒でいいじゃん。奈々に関しては帰るところないんだろ?どうせ夏美は朝昼晩全部冷凍食品のオンパレードなんだろ?」
 夏美はうつむいてしまった。朝昼晩の飯が心配なのは本当だがマジで冷凍食品のオンパレードってことなのかもしれない。奈々に関しては俺が親の代わりになればいいんだ。といったって同じ高校生だけど、姉妹って感じでさ。
「士郎っ!士郎はいつになっても私の嫁だからなっ!」
 だから星七はなんで嫁なんて言ってるんだか。もし俺が嫁扱いなら俺から言わせてもらえば星七が嫁なんだけど……
「お兄ちゃんは私のだってっ!」
「おーお兄ちゃん私と一緒にいるのぉー」
 ここまで来るとめんどくさくてしょうがない。
 


さっさとご飯を済ませて俺はどう考えても違和感たっぷりの射撃場へと足を運んだ。と言っても玄関出て道路はさんで奥にあるから特に歩き疲れるってことはないけどその建物自体が違和感大なので行くだけで疲れてしまう、精神的に。
「よーし、さっきはデザートイーグルを分解したから今度はAK47でも分解してみよっかな。」
 そしてさっきためしに撃ってみたAK47を俺は手に取る。1947年式カラシニコフ自動小銃、制式名称、7.62mm アブトマット・カラシニコバ。銃の中に砂埃が入った状態でも銃弾を撃つことができるっていう極端に言ってしまえば手入れがいらない銃なのだ。その手入れ知らずのAK47を分解し始める。中の仕組みはすごく簡単にできていた。多少分解する前に自分で調べたっていうのもあるけど調べなくてもいけそうな感じだった。中には砂埃が大量に詰まっていた。いくら手入れが不要の銃でもここまでたまってたらまっすぐ飛ぶものも飛ばないと俺は思う。それくらい詰まっていた。
「いくらなんでもこれくらい砂が入ってたらやばいだろ……」
 そんなことを思っていると俺の後ろ、すなわちここの入り口から足音がした。ここに来る人なんて高町三姉妹か奈々、夏美この五人だけなはずだ。そう思って俺はスルーし続けた。
「し、史郎?お前何やってんだ?」
 その声は女性の声ではなく男性の声だった。おまけにすごく聞き覚えがあった。
「へ?か、一樹っ!?」
 そこには俺の友達でもあり生徒会長様の一樹がいた。
「そ、その手に持ってるやつなんだよ……それってAK47だよな……」
 一樹が動揺してるのがよくわかる。もちろん俺も動揺してる。日本ではこんな物騒なもの盛ってたら銃刀法違反で一発逮捕だ。っていうことは生徒の完璧な鏡でもある生徒会等様の一樹がどんな行動をとるかなんて俺だってわかる。
「け、警察っ!は、早くいかないと!」
 全力疾走する一樹。俺は追いかけることすらできなかった。追いかける勇気すらなかった。なぜなら俺の腰にはデザートイーグル、手にはAK47を持っている。まぁAKに関しては分解してるから弾は撃てない。そんなことは一樹は知るはずがない。
『バンッ!』

 一つの銃声がこの静寂をより引き立てる。俺の前には倒れた一樹。そしてその前には夏樹。夏樹の手には愛銃であるベレッタM92Fが握られている。銃口からは煙も出ていた。
「大丈夫。火薬だけだから気絶してるだけ。でもこの後この一樹君を殺すか生かすかは史郎に任せる。だけど殺さなかったら自分に不利なことが起こるってことくらいわかってるよね。」
 そう言い残してその場を立ち去った夏樹。星七だったらきっとマジな弾薬を入れて撃ち殺してるところだったと思う。あの二人には内緒にすると俺は心の中で誓った。
 しばらくすると一樹が目を覚ました。きっと気持ちのいい目覚めじゃないはずだ。なぜなら俺の手にはデザートイーグル。隣にはAK47が立てかけてある。どっからどうみても銃刀法違反をがっつりしている。
「一樹、大丈夫か?」
 一言声をかけても俺をにらむことしかしてくれない。ただ一言だけ。
「お前がやっているのは人を助けることができるのか?」
 この一言以外はしゃべってくれない。実際この組織が人のために役立っているのかと聞かれると必ず役立ってるとは俺の口からは裂けても言えない。だから俺は黙る。これも悪い癖だと俺は思ってる。自分の思ったことを相手に伝えられない。
「……立ってるって信じたいな。」
 俺もこの一言をしゃべって黙り込んでしまった。一樹はその言葉を聞いて少しは明るくなったようにも思えた。でも俺が銃器を扱ってることには間違いはない。そこは天と地が入れ替わっても、天国と地獄が逆になっても、神という存在がいなくなっても変わることのない事実。
「俺ここで殺されるんだろ?だったらお願いだから……一度だけそのAKとデザートイーグル撃たせてくれよ。」
 俺はもちろん承諾した。
『バンッ!バンッ!バンッ!』
『ダダダダダダッ!ダダダダダダッ!』
 デザートイーグルとAK47の音が鳴り響く。何かと一樹は銃をうまいこと扱っていた。やっぱりエアガンとかガスブローバックガンとか扱ってるとそこそこの腕前になるのだろうか。
「実はさ……俺もうちに来たことあったんだよ。高町三姉妹のような人たちが。俺のとこに来たのは美少女じゃなくて美少年だったけど。確か俺が中学2年くらいだったかな。中二の時に相手の美少年は17歳だったんだよ。」
 ……もしかしてこの業界の人は小さい子が好きなのか?いわゆる……ロリコン……?
「あ、お前またなんか変なこと考えたろ。さすがにバレバレだぞ?史郎……」
 なぜか気づかれていた。一樹はもしかしたらこの観察力でだいぶ救われてた部分があるんじゃないか?
「でなんで史郎がこんなことやってるんだよ。てっきりうちの学校では俺だけだと思ってたけど。」
「……へ?今なんて……」
「だからなんで史郎がこんなことやってるのかなーって。それにこんな仕事やるのは俺だけかと思ってた。」
「こんな仕事ってなんだよ。」
 ちょっと気になった。今の発言で一樹がこの組織のどっかに関係を持っているっていうのは分かった。でも俺がやってる仕事っていうのはいわゆる人殺しだろ。
「人助けだよ。ひ・と・だ・す・け!わかる?」
「ひ、人助け……」
「そうだよ。正義のヒーローっぽくないか?この仕事。」
「どんな人助けんだよ。だいたい今夏樹に殺されそうになったよね?殺されたら人助けできないよ?」
「……あ、あんな美少女に殺されるなら本望だ……」
「あ……そ……(もしかして一樹って相当の変態さんか?でも殺されたらこんなこと言ってられないような気もしないこともないけど……)」
 要するにこういうことだ。ある人に一樹は今いるこの射撃場。依頼人は怪しい建物って言ってたらしいがそこに高校生か大学生くらいの男の人と一緒に小学生の美少女が一緒に入って行った。その現場を見ていた依頼主がずっと見てて今度はさっきの小学生よりしっかりしてそうな子が泣きながら出てきたのを見てあわてて一樹に様子を見てくるように依頼したらしい。正直に言う。依頼主さんはどんなくだらない仕事をこいつに依頼してるんだか。だけどその依頼を受ける一樹もそうだけど。
「で、俺今でもここにデザートイーグルっていうハンドガン持ってるんだけど逃げなくていいのか?」
 ちょっと脅しも含めてデザートイーグルを一樹の前にちらつかせる。
「ぜんぜん。逃げるって言ったって史郎はあの三人がいないと銃は撃てない。」
「んなことはねーよ。撃ってやろうか?今ここで。」
 あっちは挑発に乗ったわけじゃないんだろうけど俺がすごく腹が立った。
「んじゃああの的めがけてハンドガンで撃ってよ。ちゃんと心臓に全発ね。」
 これなら自信があった。あれからちょっと練習して静止状態からだったらちゃんと狙ったところに行くくらいには上達した。だから今回もいけるはず。
『バンッ!バンッ!バンッ!』
 結果は全弾命中。しかし心臓でなく模型にばらけて当っている。
「……なんで。」
 俺はショックだったあれだけ、あれだけ『高町三姉妹』の前ではあたってたのに。今ここで1対1になったら当たらないなんて情けないじゃん。
「そりゃそうだよ。あたるわけはないんだ。」
 一樹はすべてを見透かしているようにしゃべった。俺はこの態度にも腹が立った。言ってることは間違いはないんだ。あたるわけがない。だけど……なんか悔しい。
「じゃあなんであたらないのかわかるのか?一樹には!」
 ちょっと強い口調で言ったら一樹は少し腰が引けたようにも見えた。だけどすぐに自分の話のペースに戻す。
「わかるよそりゃ。ずっと観察してれば。」
「一樹は銃の扱いはついこないだまでやってこなかった。やってたのはFPSゲームとエアーガンくらい。大体今覚えてる知識だって最近かき集めたもんばっかりでしょ。それくらいは調べるっていうかなんとなくわかる。」
 最近集めたって言ってもついさっき調べたもんだけどね。
「わかりやすく言うよ?」
 俺はうなずく。
「野球選手のイチローさんって毎回バッターボックスでバットを立てるよね。それは何のため?」
「それは自分の体をまっすぐにするためだろ。体の軸がぶれてたらボールに当たる確率だって減るだろうし。」
「だよね。ほかには何があると思う?」
 俺は一応野球をやってきた。顧問の先生やコーチの人からこれくらいは聞いたことがあったがこれ以外となるとちょっとわからない。
「朝起きたら歯を磨く。ルーティンワークってやつだよ。これをやらないとスイッチが入らないみたいなやつ。」
「で、史郎にもそれはある。でもこのルーティンとはわけが違う。条件が、そんで根本から違う。でも似てるのがこのルーティン。」
 なんかいろんな言葉が並んで頭の中がぐるぐる回ってきた。
「わかんなそうな顔してるね。簡単に言うよ。漫画で性的興奮を感じると思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上するっていうのがあったでしょ?HSSとか書いてあったやつ。」
「あぁ一樹が貸してくれたあのライトノベルの奴でしょ?確かにあれはすごいと思ったよ。」
「史郎はあんな感じだよ。」
 マジでっ!やったぁー!ってなるかっ!!!!!
「それはひじょーにまずい感じじゃないですか?だってうちの家美少女が3人いるし、それに幼馴染にはまたまた美少女が2人もいるんだぜ?そんなのアウトでしょ。ずっとそのなんかが発動しっぱなしってこと?」
 一樹は苦笑いをしていた。どう考えても苦笑い。
「いやいや、そういうのじゃなくて史郎の場合はあの三人のせいだから。」
 俺は首を傾げて意味が分からんからさっさと教えろとサインを送る。
「要するに史郎はあの三人限定でおこるんだ。だから奈々と夏美の前ではなんもなかった。でしょ?」
 確かに幼馴染組は何にもなかった気がする。でもあの三人の前でも何もなかった気がするのは俺だけだろうか。
「きっと自分に自覚がないんだよ。気づかないうちにそれが発動。そんな感じ。」
 さっきから会長様がそんなかんじ、そんなかんじって連呼してるけど大丈夫なんかね。
「っていうことで俺が命名しますっ!」
 今までの会話の内容だといかにも厨二病くさいのが来るのは分かってる。頼む、ダサいのだけはやめてくれっ!
「ニューヒステリアモードでっ!」
「それほとんどパクリだから……ほかにないの?」
「This is one judgement!」
「それ曲の歌詞だから。それにもう少しかっこいいのでお願いします。」
「じゃあAbsolute sniperってのはどうですか?」
 Absolute sniper要するに『絶対狙撃』。ちょっくらやばそうな名前だけど初めて付けてもらった名前だかかOKを出した。出したら一樹の顔がすごくうれしそうに見えた。
「ということで今後はじゃんじゃんこの能力を使えるようになってもらうべくあの三人と付き合ってもらいまーすっ!」
 ……へ?
「そ、そんなんきいてねーよっ!大体俺と高町三姉妹は一応引き取って面倒見てるっていう関係だからそういうのはアウトなんじゃないの?」
 俺的には少しうれしい状況なんだけどあの三人にとってはどうなのかは本人たちに聞いてみないとわからない。
「一応史郎の親にはオッケーもらってるから。」
『なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

俺の妹はスパイ様? 4話<Absolute sniper>

俺の妹はスパイ様? 4話<Absolute sniper>

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-15

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