千年の月

プロローグ




しんしんと、雪が降り積もる中。夢の中の二人はそこに立っていた。着物を着た綺麗な女性はすらっとしたカッコイイ男性に抱き抱えられている。微笑む女性とは反対に、男性は今にも泣きそうだ。


「ーーーーーーー…」


女性が何かを言う。
男性は何度も何度も謝る。一体何をそんなに謝ってるんだろう。そんな事を思っていると夢の終わる時間がやって来た。目の前が、まるで吹雪の中に居るみたいに前も後ろも見えない。そして、






ピピピピピ……




「んん……」

朝がやって来る。

一章 目覚め


「んん〜…………おはよ」

「おはよ…って、あんた何時だと思ってんの? もうお昼よ。お、ひ、る!」


そうでした。
どうやら私は寝ぼけてたようです。最近、あの夢を見るようになってからは少し寝不足で学校でも寝てしまう…。


「…ねぇ、柚季(ゆずき)。体調悪いの? 最近は寝不足みたいだし……ちょっと心配してるんだよ」

「ひよりん………ありがとう、大丈夫だよ!」


私の唯一の友達のひよりんにまで迷惑掛けるなんて……ダメだな、私。もっと気を引き締めないと。


「それなら良いけど。あ、次は体育だから本当に無理なら見学にした方が良いと思うよ」

「ダメダメ。こんなに元気なのに、見学にさせて貰えないよ……ほんとに大丈夫だから。心配掛けてごめんね」

「ふふっ……やっぱり柚季は可愛いなぁ〜」


こんな平和な日常がずっと続くんだと思ってた。そう、あの時までは……。


五時限目は体育。
女子は校庭でドッチボール。男子も校庭でサッカーというおかしな授業だ。今はそんな事はどうでも良い。私は運動神経がすこぶる悪い!だから体育は苦手だ。私はこの四月から高校生になった。だから校庭にはいっぱいの桜が。背景は良いんだけどね。


「うぅー………」

「…柚季、大丈夫?」


ハッ!また心配掛けてしまった!
いけない、いけない。地面にはドッチボールの線が描かれ、先生の手にはボールが二つ。とうとう始まってしまう。


「えへへ、頑張るぞー!」

「うん…。柚季もすぐやられるなよっ」


開始の笛と一緒にひよりんとばらける。だって、固まってたら狙われちゃうから。ボールは先生の手から敵チームの生徒に渡った。みんなはすぐ逃げれるように構えている。私もどうすれば良いか分からず、ドタバタする。


「はーい、山崎君当たった!」

「ちぇ」


私のすぐ前に居た女子に当たった。女子は残念そうに外野に出て行く。私はというと、ドキドキが止まらない。


「姫宮さん、ボール投げて!」

「へっ? あ、えっ、うん」


そう、私の前に居た女子が当たったという事はボールは私の前に落ちてる。クラスメート達もボールを拾おうとしない私に声を掛ける。堪らずボールを持ったけど…


『姫宮ってボール投げれるのか?』

『運動神経悪そうだなぁ』

『これ、代わりに誰か投げた方が良くね?』


「……っ!」


クラスメート達の心の声が私の頭に響いた。これはいつもの事で普段は気にしないけど……何で寄りによって今なの!?怖くて投げれない……どうしよう。


「どうしたの、姫宮さん。早く投げなさい」

「は、はい……でも…」


私だって早く投げたい……でも、体が震えちゃって動けない。あぁ、皆が怒ってる…早く投げなきゃ。


「貸して、柚季」

「ふえっ!?」


親友の姿が見えた時、泣きそうになった。隣りに居てくれるひよりんをどんなに心強いと思ったか。


「皆、私が投げるから! 行くよー!」



何事も無かったようにまた元に戻る。流石はひよりん。運動神経は抜群で容姿も可愛い。クラスでも人気者のひよりんは私とは違う。


「ありがと、ひよりん」

「どんまいだよ柚季」


私の背中を一回叩くと行ってしまった。少し寂しく思うけど私も頑張らなくちゃ。気を引き締めて前を向く。ボールは相手に渡った。またボールが飛んで来る。



ひらひら、と目の前で桜が舞う。
そんな時………ズキっと頭が痛む。







まただ…。
着物を着た女性が……何をしてるんだろう。痛い……頭が痛い。


「柚季ーー!」

「へ? ゴフッ」


飛んできたボールが顔面にヒットした。
慌てて駆け寄るひよりんと先生を横目に、私は意識を手放した。





ひらひら、綺麗な桜。
花びらが散る中、奥に着物を着た女性が…。


『……き、………づき、』


女性の名前を呼ぶイケメン。全身黒の服装でこの場に似つかわしくない。でも、女性は何故か嬉しそう。何でだろう…。







「んっ…………これ、何回めだろ」


目を覚ますと白い天井と消毒液の匂いでここは保健室だと分かる。顔面ヒットして気を失ったみたい。何だかヒリヒリする。


「……何だ、目の前覚めたのか」

「ひゃう!!」


ビックリした! まさか保健室に誰か居ると思わなかったから。毛布を握りながらゆっくり男子生徒を見る。高校生なのに金髪。そして目付きが悪い。確か、同じクラスのお、お、鬼塚…君……だっけ?何でここに…


「……あ、あの。鬼塚君、だよね?鬼塚君が保健室まで運んでくれたの?」

「あぁ。重かったんだから感謝しろよな」


ムキッ! 少し腹が立った。
女性に向かって重いだなんて、失礼よ!



ーーーーーーシャリン



あれ、鈴の音。
どこから?



「…………ねぇ、鬼塚君。前にどこかで会った?」

「………………」


わ、私……何言ってるんだろ!鬼塚君とは今、初めて会ったのに。絶対おかしい奴だって思われちゃうよっ。


「…………覚えてないのか?」

「…へ?」


予想外の質問に変な声を出してしまった。だって、覚えてないのか。だなんて言われたらビックリしちゃう。それにどういう意味だろう。

千年の月

千年の月

前世の記憶を持たない少女と、少女を取り巻く悪魔との戦い。不思議な力を持つ少女は運命に翻弄される…

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-17

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  1. プロローグ
  2. 一章 目覚め
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