怪盗チョコレート
〜1〜
「あのさあ、もう毎年毎年面倒くさいし、今年から義理チョコはあげないね」
「元々頂戴って頼んでた訳じゃないし、いいよ別に」
「了解」
2月に入ってすぐ。
マコトとサヤカ、二人とも2年生の中学生が下校途中に交わした会話である。
二人は幼なじみで、幼稚園、小学校、そして今の中学校とずっと同じ場所に通い、家が近いという理由で自然に登下校も一緒だった。
幼なじみの男女に有り勝ちな、思春期に入って急に疎遠になるということもなく、お互いに同性の友達との親交もちゃんと有りつつ、昔ほどではないにせよ、それなりに一緒に居た。
中学に入って、周りの男女も最初のうちは
「付き合ってんの?」
「ラブラブだねー」
なんて冷やかしていたが、マコトは本音で
「付き合ってないけど、仲はいいよ」
と面白みのないリアクションを貫くし、サヤカはサヤカで
「そうなの、うらやましいでしょ?」
なんて面白がって乗っかるものだから、欲しいリアクションはそれじゃないとばかりに早々に飽きられてしまった。
今では皮肉も込めて「まあ、理想の幼なじみ」と認識されている二人だ。
マコトは国語が少し得意なこと以外は特に目立たない少年だが、将来の夢は意外にも名探偵になることだった。
昔から母親の本棚にある探偵小説を読むのが趣味で、どの作家、どの作品というこだわりはなく、なんとなくタイトルで興味が湧いたものを適当に読んでるだけだが、その影響からの夢だった。
本人はわりと本気で目指しているらしい。
自分の中での「探偵の矜持」に反することは絶対にしない、という強い気持ちだけは誰にも負けない。もちろん子供という立場上、意志を貫くには敵が多すぎる場合もあるけれど。
そんな少年だった。
サヤカはというと、こちらも至って目立つところはない普通の女の子だ。
特別派手でなければ地味でもなく、明るいか暗いかと言われれば明るい方の、美少女と呼ばれたことは無いが容姿をけなされることも少ない、元気な少女。
勝ち気とか男勝りというよりは、たださっぱりした性格で、男子ウケも悪くない。
学校中にファンが居るとか大げさなことはないけど、密かに好意を寄せる男子が同学年に数人居るか居ないかという感じ。
しかし、そんな普通のサヤカも少し変わったところがあった。
なんというか、時々言葉が足りないのだ。
例えば、
「明日の理科の授業は実験だから三限目は理科室です」
という連絡事項をサヤカが担当するとなるとこうなる。
「明日の理科、実験だって」
サヤカの中で「実験=理科室」などの方程式が存在した場合、会話の時に結果の説明を省いて喋るくせがあるのだ。
いわゆる面倒くさがりというやつである。
そんな少女だった。
〜2〜
さて、マコトは後悔していた。
今年はサヤカがチョコレートをくれないということを、自分で了承してしまったことをだ。
特にサヤカのことが好きという訳ではない。ではないのだが、しかしチョコレートは実のところ欲しかった。
というのも、マコトが毎年バレンタインデーに貰えるチョコは一つだけだった。
それはもちろんサヤカがくれていた義理チョコだ。
しかし一つは一つ。
今まではサヤカのおかげでチョコを一つも貰えないという事態が起きていなかったのだ。
しかし今年はそれも無い。
あの時はなんか恥ずかしくて「いいよ別に」なんて言ってしまったが、はっきり言ってピンチだ。
マコトも名探偵である前に、一人の男子中学生。
バレンタインデーはやっぱりチョコが欲しい。
それならサヤカに正直にそう言ってチョコを貰えばいいのだが、しかしマコトは男子中学生であると共に一人の名探偵なのだ。
名探偵が一度言ったことを自分で覆しては信用に関わる。
そして何より、幼なじみであろうが女の子にバレンタインデーにチョコをくださいとお願いするのはなんだか恥ずかしい。
そんな事から、マコトはバレンタインデーまでの数日間、後悔のどん底で過ごすこととなった。
〜3〜
しかし、マコトのそんな後悔はまったく不要のものだった。
バレンタインデー当日。
やはり、サヤカからの義理チョコがないマコトの戦果は0という数字によって悲惨なものに終わっていた。
男子としては当然落ち込むマコトだったが、しかしそんなところはサヤカには見せられずに、いつも通りを装って二人で下校する。
バレンタインデーの話題が出たら嫌だったので、マコトは先週読み終わったばかりの探偵小説の中でも特に感心させられたトリックを出題形式でサヤカに説明していた。
よくこのようにして探偵小説の話をするのがマコトは好きだった。
他の友達はそれを面倒臭がるが、しかしサヤカだけはそれに最後まで付き合ってくれるのだ。
サヤカがトリックを見破ったことは一度もなく、得意げにそれを説明するマコトに対して
「へぇ、すごいね!」
とサヤカが称賛して
「まぁね」
とマコトが胸を張るところまでがテンプレートだ。
本当に凄いのは作家さんであるが。
サヤカの家の方が僅かに学校に近く、マコトにとっては少しだけ寄り道になるが、マコトはいつもサヤカを家の前まで送っていった。
昔からそうなので寄り道という感覚もない。
別れ際に、サヤカはマコトにこう切り出した。
「はい、マコト、あげる」
そう言って、去年までと同じように綺麗にラッピングされた包みをマコトに渡すサヤカ。
予想もしていなかったサヤカのその行動に、当然マコトは驚いていた。
「え、なんで?」
チョコが貰える喜びはもちろんあったが、しかしそれを受け取るよりも早く疑問を口にしていた。
「あれ、要らなかった?」
「いや要る」
とりあえず貰った。
「でもなんで?今年はチョコあげないって言ってたの、サヤカじゃん」
2月の始めに、サヤカは確かにそう言っていた。
面倒くさいからというサヤカらしい理由まで添えてあったので、印象に残っていた。
しかしサヤカはこんなことを言うのだった。
「え、そんなこと言ってないよ?」
〜4〜
絶対に言った、とマコトは主張したが、サヤカは言ってないという。
そしてサヤカはコロコロと笑いながら、マコトにこう告げた。
「じゃあこの謎を解いてみせよ、名探偵マコト!怪盗サヤカからの挑戦だ!」
何も盗んでいないのに怪盗とはこれいかに。
ともあれ、名探偵と呼ばれて引き下がれなくなったマコトは家に帰るなり自分の部屋で脳細胞をフル動員して考えていた。
なぜサヤカはチョコをくれないと言っていたのにチョコをくれたのか?
簡単なのは気が変わったという答え。
しかしそれならそう言うだろう。
今回のトリック(一度言ってみたかった)でキーになっているのは、サヤカが確かに言った「今年からチョコをあげない」宣言を本人が否定している点だ。
気が変わっただけなら、その発言を否定することには繋がらない。
サヤカがそこで意地を張るような性格ではない事をマコトは知っている。
そもそも、サヤカが「言ってない」と言っているのなら、これは本当に「言っていない」可能性が高い。
サヤカは嘘をつく時に手を後ろで組む癖があるのだが、今回はそうしなかった。
つまり、サヤカは「言ってない」ことになる。
ここで一つの説が浮上する。
2月の始めにマコトと会話をしていたサヤカは、実はサヤカではない誰かだったという説だ。
そう、つまり!
「サヤカ、お前実は双子だったんだな?」
『あっははははははははははははははっ!!』
電話でトリックを暴いてやったら爆笑された。
探偵小説なら狂気じみた笑い方をしてくれたら犯行を認めたサインの一つなんだが、サヤカのこれは普通に爆笑していた。
『あーおなか痛い。マコト、私が一人っ子なの知ってるでしょ?』
「生き別れの双子の妹が居たとか」
『わー、居るとしたら会いたいなー、居るのかな?』
「たぶん居ないと思う」
『そっかー、それは残念だなあ』
いつの間にか自分の推理を自分で否定していた。
『うーん、じゃあここで名探偵マコトにヒントをあげよう!』
「・・・・・・」
『あははっ、てっきり要らないって言われると思ってた、要るんだね、ヒント!』
悔しいけど現状じゃお手上げだった。
『うーんとね、私は一人しか居ないのね?』
コロコロと笑いながら、ヒントを出すサヤカ。
『2月始めにマコトに「言った」私も、今日「言ってない」って言ってる私もちゃんとどっちも私、同一人物です』
これは大きなヒントだ。
サヤカが一人しか居ない事実もそうだが、サヤカ自身が『「言った」私』と言ったことで、マコトの記憶違いの線も消えた。
つまり内容はさておき、2月始めのあの会話は確かにあったことになる。
『それを踏まえて、私は嘘を一つもついていません!以上、ヒントでした!』
「えーっ!」
『アディオス!』
通話が一方的に切られた。
部屋に響くのはツーツーツーという電子音と、マコトの低く唸る声のみ。
〜5〜
2月始めの「チョコをあげない」、今日の「そんなこと言ってない」、両方ともサヤカ自身が言っていて、どちらも嘘ではない。
『あのさあ、もう毎年毎年面倒くさいし、今年から義理チョコはあげないね』
記憶していた発言内容が違ったのかと思い返してみるが、しかしやはり義理チョコはあげないと確かに言っている。
謎は深まるばかりだ。
「うーん」
電話が切れた後も、机の上の綺麗にラッピングされた包みを眺めながらマコトは考え続けていた。
「待てよ・・・?」
これをマコトに渡す時、サヤカはこの中身がチョコレートだとは言わなかった気がする。
「言ってない」発言の謎とは離れてしまうが、この中身がチョコレートではなければ、2月始めの「チョコあげない」発言は真実になる。
とりあえずラッピングを解くマコト。
中から白い粉が薄くまぶされたこげ茶色の丸い物が6粒ほど出てきた。
・・・一見、粉砂糖でコーティングされたトリュフチョコに見えなくもない。
一つ食べてみた。
・・・完膚なきまでに粉砂糖でコーティングされたトリュフチョコだった。
「美味いなー・・・」
しかし、糖分補給でマコトの脳細胞が活発化し、ここから推理が冴えわたる。
◆サヤカは実はマコトとは違う言語で喋っている説。
・・・『だとしたら、よく何年もコミュニケーション続いたね』
◆サヤカが催眠術師で、マコトに偽の記憶を植え付けている説。
・・・『え、催眠術師ってそんなことできるの!?怖い!!』
◆やっぱり貰ったのはチョコじゃなかった説。
・・・『あれっ、美味しくなかった!?・・・ごめん』
◆いや、美味しかった、あれは確かに美味しいチョコ味だった!けどチョコではなかったんだろ?説。
・・・『ちょっと意味わかんない』
〜6〜
ついぞ、決定的な推理が浮かばないまま、翌日になってしまった。
いつもより少し早くマコトは家を出た。
そしていつも通り、サヤカの家に寄っていく。
今日は少し聞きたいことがあった。
もちろん、昨日のチョコのことで。
一晩考え続けても解けなかった謎の答えを聞くためだ。
名探偵としては悔しくて仕方がなかったが、それでも謎を謎のまま放置する方が嫌だった。
サヤカもいつも通り、家の前でマコトを待っていた。
いつもより早い時間なのに。
「いつもこんなに早くから待ってるの?」
「んー、なんとなく今日は早く来る気がした」
そう言って、サヤカはコロコロと笑った。
「降参。トリックを教えて」
いつもサヤカがマコトにやるように、今日はマコトがサヤカに両手を上げて降参のポーズ。
「ふっふっふっ、それはだねえ・・・」
サヤカも、いつもマコトがやるように得意げにトリックを、
「・・・マコトに自力で解いて欲しいなあ」
説明しなかった。
「えーっ、一晩中考えてもダメだったよ!?」
「だから最後のヒント!」
「最後のヒント?」
「あの時言った事を、もう一回言うからよく聞いてね?」
サヤカは「えーっと」と思い出す仕草をしながら、2月始めの下校中に言ったあの言葉をもう一度、マコトに言う。
「あのさあ、もう毎年毎年面倒くさいし、今年から義理チョコはあげないね」
それはマコトの記憶とも違わない、そのままの言葉だった。
「だろ?言ったじゃん、あげないねって」
「うん、言った」
「ほら、やっぱり言ってるじゃん、チョコあげないって!」
「それは言ってない」
「はあーっ!?」
今度は目の前で数秒の間に「言った」と「言ってない」。
「意味分かんねーよ!」
「あははっ、これは私なりの賭けなのです、マコトが気づいてくれるか、気づいてくれないか」
いつもコロコロと笑うサヤカは、その時だけは少しその明度を下げて笑いながら続けて言う。
「できれば気づいて欲しいなあ」
そして、またいつも通りのトーンに戻って、
「まあ、気づかないなら気づかないで良いんだけどね!」
と、手を後ろで組みながら言った。
〜7〜
その日は授業に身が入らず、ずっと考え事をしながら過ごした。
もちろん考える内容はサヤカとチョコのこと。
しかしやはり良い推理は浮かんで来ない。
幼なじみで小さい頃からずっと一緒にいる、世界で一番仲の良い友達。いわゆる親友。
そんなサヤカに関する事でこんなに分からなかった事は初めてだった。
しかもサヤカはその事について「マコトに必ず気づいて欲しい」と思っている。
昨日からずっと同じことを考えているせいで、頭痛がしてきた。
昼休み。
マコトはリフレッシュしようと、今週に入ってから読んでいた探偵小説をカバンから引っ張り出した。
物語は丁度、事件が起こり、主役の探偵が捜査を終え、ついぞ今からその推理でトリックを暴こうというシーンだった。
話が最高に盛り上がるところだから家で落ち着いて読もうと思って切り上げたのをすっかり忘れていた。
それだけチョコの謎で頭がいっぱいになっていたのだろう。
しかし、この小説のトリックはマコトはすでに自分で解いていた。
つまり今から読み進めればその答え合わせができるということになる。
作中の探偵が言う。
『このトリックは、実は簡単なトリックなのです』
そう、簡単なトリックなんだ。
『しかし、私たちの思い込み・・・固定概念がこのトリックを可能にしてしまった』
そう、思い込んでいただけで・・・、
・・・思い込み?
思い込み、固定概念、その言葉がなぜだかマコトの胸に引っかかった。
サヤカ、チョコ、あげる、あげない、言った、言わない・・・。
俺も、何か思い込みを・・・?
でも思い込んでるとしたら、どの部分を・・・?
『あのさあ、もう毎年毎年面倒くさいし、今年から義理チョコはあげないね』
『でもなんで?今年はチョコあげないって言ってたのサヤカじゃん』
『え、そんなこと言ってないよ?』
『あのさあ、もう毎年毎年面倒くさいし、今年から義理チョコはあげないね』
『だろ?言ったじゃん、あげないねって』
『うん、言った』
『ほら、やっぱり言ってるじゃん、チョコあげないって!』
『それは言ってない』
あ・・・れ・・・?
これってもしかして、もの凄い簡単な話だったんじゃ・・・?
え、いやいや、でもそんな訳・・・。
でもそれなら全てのつじつまが合うし・・・。
けどこの推理が間違っていたら俺、すごい恥ずかしい事になるよね・・・?
しかし他に説明が・・・。
マコトは単行本をそっと閉じて、推理の正しさの証拠を脳内からかき集める。
〜8〜
放課後、委員会があったので少し遅い時間。
そろそろ日が傾く時間に、マコトとサヤカはいつものように二人で下校していた。
いや、いつものようにというのは少し語弊があった。
いつもならマコトがサヤカに探偵小説の話をテンション高く説いているのだが、今日はそれがなかった。
普段に比べてかなり静かな下校の道を半分ほど歩いた頃だろうか、マコトが満を持して切り出した。
「ちょっと良いか?」
そこは丁度、あまり人気のない小さな公園があるところで、マコトはそこにサヤカを誘った。
「この公園、二人で来るの久しぶりだね」
「前は通るけど、中まで入って来ないもんな」
二人は公園を見渡しつつ、木陰のベンチに腰を落ち着けた。
「あの回るジャングルジム、いつの間にか無くなってるね」
「そんなんあったっけ?」
元々、マコトは探偵小説以外のことに関してはリアクションが大きい方ではなかったが、今日はいつにも増して淡白だった。
その顔に浮かぶのは、緊張一色。
「あったよー!私が前にさー・・・」
「おっほん!!!!」
サヤカが思い出話を始めるか始めないかのところで、マコトが大げさに咳払いをした。
「怪盗サヤカよ!」
「私何も盗んでないよ?」
「お前が自分で言ったんだろうが!」
「そうだっけ?」とコロコロ笑うサヤカ。
「お前の出題した謎、この名探偵マコトが解いてみせよう!」
「ほ、ほう、聞かせて貰おうか、その推理!」
気のせいか、サヤカも少し緊張していた。
お互いが探偵と怪盗という仮面を被ることで、緊張を紛らわせていた。
「と言っても、このトリックは実は簡単なトリックだったんだ」
「ヒントいっぱい貰ったくせに・・・」
「おっほん!!!!!!」
はいはい茶々は入れませぬよー、とサヤカ。
「けど、俺の思い込みがこの謎を深くしてしまった」
「・・・・・・」
「2月の始めに、サヤカは確かにこう言った。『今年からは義理チョコはあげないね』と」
「うん」
「けれど、昨日サヤカは『チョコをあげないとは言ってない』と主張した」
「そうだね」
「答えは既に、この二つの要素の中にあったんだ。正しくは、その違いの中に」
サヤカは黙って、まっすぐにマコトの目を見て、その名推理を聞いている。
「繋げて言えば、『今年からは義理チョコはあげないけど、チョコをあげないとは言ってない』。分かりやすく要約するなら、『今年からは義理チョコじゃなくてチョコをあげる』。時々説明が足りない、サヤカの悪い癖だ」
けど、とマコトは続ける。
「実は俺はこの違いに初めから気づいてた。サヤカが否定した時はいつも俺が『義理』って単語を付けていなかったってこと。でもそれは考えすぎで、単なる些細な違いで、だからそこが答えだなんて思わなかった。俺は思い込んでたんだよ、サヤカの中では俺に渡すチョコに義理チョコとかチョコとか区別はなくて、全て等しく、幼なじみで親友であることへの義理チョコなんだって。むしろ俺の中にはもはや、バレンタインデーというイベントはサヤカから義理チョコを貰うイベントなんだという固定概念すらあった」
「あははっ、何それ!・・・それで?」
マコトは呼吸を整えるように深呼吸する。
しかしそれは焼け石に水で、心臓の音は落ち着く気配を見せるどころかうるさく肋骨を内側から叩く一方だった。
あと数分もしないうちに初めての骨折を経験するかもしれない、と半ば本気で思うほどだった。
「サヤカの『言ったのに言ってない』事件の真相、俺の推理はつまりこうだ!!」
思えば、ヒントはそこかしこに転がっていたのかもしれない。
サヤカは周りからの冷やかしを否定しないで乗っかっていた。
サヤカだけはマコトの探偵小説の話を最後まで聞いてくれた。
そもそも、サヤカが義理チョコを渡すのは毎年、マコトだけだった。
「俺がサヤカから貰ったのはホ・・・ホホホ・・・ホン・・・ホ・・・・・・」
喉がカラカラなのは、きっと冬の乾燥のせいだけじゃなかった。
「本命チョコだった!!!!」
名探偵が犯人を指摘する時のようにビシッと人差し指をサヤカに突き付けて、言った。
マコトの耳は夕日のように真っ赤だった。
「・・・お見事、名探偵!」
夕焼けに照らされているからか、サヤカの顔も真っ赤だった。
〜9〜
「あーあ、敵に塩を送りすぎたかなあ。怪盗サヤカの完敗だよ」
「なんだよ、解いて欲しかったんじゃないの?」
「朝も言ったけど、別にどっちでも良かったしー」
「なんだ、気づいてないのか。お前、嘘つく時、後ろで手を組む癖あるからな?」
「なんですと!」
帰り道、夕焼け空を見上げながらいつものように二人で歩く。
「でも、何も盗んでないのに怪盗っていうのは、やっぱり何かおかしいね」
「アホか、しっかり盗んでったろ」
「え、嘘、何を?」
「俺の・・・ハ、ハート・・・とか・・・」
「お、まさかのカリオストロ」
「うるせー!」
いつもと違うのは、何年ぶりかに繋いだ手。
冬の一番寒い時期だというのに、お互いの手はカイロのように温かかった。
怪盗チョコレート
読んで頂きありがとうございました。
いかがでしたか、「怪盗チョコレート」。
ミステリー(風)なので、詐欺じゃないですよ。
コンビニで手作り風って書かれて売られてる商品と同じことです。
さてさて、目標はこれを読んでくださった皆様の部屋の壁に穴が開く出来だったのですが、どうでしょう?
ひゅーっ!中学生の甘酸っぱい恋愛ひゅーっ!
僕はこれを書いてる間に3つほど開けちゃいました。
嘘です、賃貸なんでそんなことできません。
壁は大切にしましょうね。
また何か書きたいものができたら、適当に書きたいと思います。
もしその時にまた目に留まりましたらよろしくお願いします。