口笛
プロローグ
まだ、肌寒い3月の夕暮れ時に歩く二つの影があった。秋山夕あきやま ゆうと日坂美咲ひさか みさきは夕日がキレイに見える丘の頂上を目指していた。
「まだ着かないの?」
美咲は、手摺てすりを持ってハァハァと息切れをしながら僕の服をぐいぐいと引っ張り質問した。
「もうちょっとだよ。あと少しだから我慢して。」
と言うと美咲は服を少し強く引っ張り、"前も同じこと言った"と聞こえないようにボソボソと小声で言った。美咲は、引っ張ってた服を放したので僕は聞こえてないふりをして口笛を吹きながら階段を登りはじめた。
美咲は、「口笛吹きながらとかどんだけ余裕なのよ」とまた聞こえないようにボソボソと小声でいい、僕は同じように聞こえないふりをした。
「美咲、置いていくぞ」
美咲は、ちょっと待って、といい僕の後ろをついてくる。
「やっと頂上に着いた~。」
美咲は、そう言い崩れ落ちた。別にそんなに歩いてきたわけではない。15分から30分の階段の道を登ってきただけだ。
「美咲は体力無さすぎだよ。」
「か弱い女性に向かってその言葉はないと思うんだけどな~。」
「自分でか弱いとか言うなよ。台無しだよ。」
と二人で口元がほころびながら頂上を見渡した。
頂上には一本だけ大きい木がそびえ立っていた。大きい木は風で葉を揺らしながら影も延びていた。その大きい木の下に青い木製のベンチが置いてあった。
「あそこの青いベンチに座ろうか。」
青いベンチを指差し美咲に同意を求めた。
「賛成~」
美咲は、まだハァハァと息切れをしながら言った。
僕たちは、そこに座り真っ赤に染まる空と真っ赤で大きい夕日を眺めながら、雑談をした。このあと僕たちは、真実と偽り、両方の物語を紡んでいくことになる。二人の関係がどこまで真実でどこまで偽りなのかを。この想いは真実なのか偽りなのかを………………。
秋山夕と日坂美咲が出会う前の出来事
彼女 日坂美咲に出会ったのは1年前に遡る。
その前に僕 秋山夕の事を語っておこう。2年前の入学当時の僕は、ドラマとかで見た大学生活に憧れていた。それとやっぱり新しい環境、生活が楽しみで仕方なかった。入学当時はそう思っていた。しかし、ウキウキで楽しみだった1年生の入学当時とは違い大学生活が始まって見ると想像と現実がかけ離れていた。
高校と同じで講義受けるために大学に行き、講義を適当に受けて講義が終わったら何もしないで帰るという単純作業を繰り返すだけだった。最初の時は、サークルでも入ろうかなと思いサークル勧誘の時に色々回って見たが反りが合わなかった。
1年生の後期の時に大学生活が慣れだしたと思いバイトを始めた。高校の時はバイトが禁止されていて出来なかった。その反動かだろうかバイトがやりたくてやりたくてしょうがなかった。バイト始めて人生初の初給料貰ったときの感動は一生忘れないだろう。今となっては、それが当たり前になってしまいシフトを渡されシフトが入ってる時にバイト先に向かい、バイトが終わるとクタクタに疲れながら帰るというこれもまた単純作業になってしまった。大学生活の方は、ぼちぼち友達が出来一緒に授業を受けたり一緒に食べに行ったり少し雑談をしたり何も楽しみがない生活を送っている。まだ大学生活の想像と現実のギャップが抜けていないんだろうと自分では思う。そんなこんなで1年経って、2年生になった。
その時に彼女に出会った。
美咲は、同じ学部学科で顔は何となく知っていた。その何となくというのは、同じ学部学科で同じ授業を受けていた程度の印象だった。美咲は、友達と受けていて、自分も少数の友達と授業を受けていたため会話は一度もしたことはない。容姿を思い出せと唐突に言われても思い出せるかわからないその程度の印象だった。
そして、2年生になった時に美咲と同じゼミになった。
同じゼミになっても最初の頃は接点はあまりなかった。自分はそれよりも少数の友達が別々のゼミにいってしまい自分は一人でゼミを受けなければならないということで頭で一杯だった。
僕の中では、拷問に近いことだった。
友達と一緒にやって適当に終わらそうという算段が出来なくなってしまった。
そう僕は、初対面の人と話すことが昔から苦手なのである。
それもゼミなので初対面の人と一緒に発表しなければならない。
想像しただけで悪寒が止まらない。
ちゃんとやらないととか、迷惑かけないようにしないととか色々なことを思っていまい失敗するということをずっと繰り返したから………………憂鬱なのである。
その事で頭を抱えていて美咲のことなんて眼中にすらなかった。
美咲がいることに気づいたのは自己紹介の時だった。
自己紹介は高校の時の名前順ではなく前の席から順に自己紹介をしていく仕組みだった。席は適当に座っていい。僕は、前から5台目の柱がある長机に座っている。なぜ、柱があるところを選んだかって?それは横に寄りかかれるからだ。
それはいいとして、自己紹介である。自己紹介は自己紹介で自分にとっては苦手だった。
何を言おうか…………。必死に心の中で考えた、考えた、考えた。
その前に美咲の自己紹介が始まった。
「初めまして、日坂美咲と言います。私は、音楽をよく聞くのでもし、話が合うなと思った人は話しかけてきて下さい。これからよろしくお願いします。」
美咲の自己紹介は終わった。
初対面の人とは第一印象が重要とよく言うが、美咲の第一印象は当たり障りのない人当たりが良さそうな子という印象を受けた。
美咲の方を見てみるといつも一緒にいる友人と離れてしまったらしく一人だった。
これが日坂美咲を意識して見た最初の出来事である。
初めて会話するのはこれより少し後のことである。それは次に話そうと思う。
えっ?僕の自己紹介はどうなったって?それは、恥ずかしいので省略してもらいます。
自動販売機の前で
初めて日坂美咲と話すきっかけになる出来事はGW明けの事である。
ゼミの講義の内容はどうなっているかというと、一緒に発表する人を決める佳境である。
そのせいで、僕はゼミに行くことが憂鬱で憂鬱でならなかった。
ゼミの講義が終わるといつも向かうところがある。1年生の時に見つけたお気に入りの所である。
この場所はゼミの部屋から離れていて学生がうじゃうじゃしている大通りから外れ、一部の人しか使わない研究室がある道沿いなので人気もなく静かな所で、1つだけ自動販売機が置いてあり、その隣には白いベンチがある。
そこの自動販売機にお気に入りのカフェオレが売ってあり、一人になりたいときによく利用して座っている。
いつも通りカフェオレを買って、白いベンチに座る。
この大学が少し高いところに立地しているからか白いベンチに座ると目の前は拓けていて、遠くの方までよく見える。
手摺もあるので座らずに頬をついて景色見るのも自分的には好きで黄昏るにはぴったりな場所だった。
そう言えば、ここから見る夕焼け空はとてもキレイだ。1回だけ見ただけだが…………。
理由としては、夕方はいつもつるんでいる友達と講義を受けていたり、一緒に帰ったりするので一人になる時間はあんまりなくここにも来れないからだ。
夕焼け空を一回見たときはたまたま一人になったときだった。
人気もなかったので、夕焼け空がとてもキレイで気分が乗ってしまい口笛を吹いていた事があった。今となってはとても恥ずかしい記憶である。良かった、誰も通らないで。
そんなことを思いだし赤面しながらいつも通りカフェオレを飲んで座って黄昏ていると、それがまずかったのかも知れない。そんなことを思いだしたせいか人の気配に気付かなく唐突に…………
「あの…………ちょっといいですか?」
と聞こえてきたので僕は、
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と大きい声を出してしまったのだった。
「びっくりさせてごめんね。」
日坂美咲は、僕に謝った。
「でも、あんなびっくりしなくてもいいと思うんだけど。」
日坂美咲は、頬を少し膨らませながら言った。
「ねぇ?聞いてる?」
日坂美咲は、僕に質問する。
僕に話しかけた人物は、日坂美咲だった。僕は、びっくりして大声出した後一言もしゃべれないでいる。なぜ、しゃべれないでいるかって?それは、緊張しているからだ。女性と話す事なんて自分の人生の中で数えるほどしかない。
それと、初対面見たいな感じなので、緊張のあまり言葉が出てこなかった。
「ねぇ、聞いてる?」
ともう一度聞いてきたので、僕は返事しようと思ったのだが……
「きあははあいいてるじゃはwjsじゃじゃっhdjdjdjdかっ」
自分で言うのも恥ずかしいのだが日本語になっていなかった。
そのせいで、恥ずかしくなり赤面してしまった。
「人と話すの苦手なんだね。赤くなるのなんか可愛いね。あっ、私が驚かしたのも悪いのか……本当にごめんね。」
日坂美咲は、手を合わせて謝ってきた。
「大丈夫ですよ」
やっと出た言葉はこれだった。それもボソッと言ってしまった。
「良かった。」
と日坂美咲は言った。
「何でここを知って…………」
消えるような声で僕は、呟いた。
「それは、何回かゼミ終わりに君がこっちに行くのを見かけたから。」
日坂美咲は続ける。
「ゼミで班決まってないの私たちだけでしょ?だから、秋山くんと話して見たかったから。もしかしたらここにいるかなと思って来たら、秋山くんがいたから。居なかったらどうしようかと思ったよ。」
日坂美咲は、ホッとしたような顔で僕の顔を見た。
ゼミの班決めはもう佳境で、僕と日坂美咲しか残っていない。
女性と組むことになったら話すことが苦手な僕は迷惑かけてしまうと思い一人でやりたいとずっと思っていた。
「一人でやりたいと思っていて……」
ボソッと言った。
「えっ?なんで?私とじゃ不満?」
日坂美咲は困惑していた。僕も困惑した。
伝えたいことは違うのに…………。ちゃんと伝えなきゃ……。
「一緒にやったら僕は…………迷惑かけるから……。」
これが僕の精一杯だった。
「迷惑…………別に、迷惑かけてもいいんじゃない?私は、大丈夫だよ。だから、一緒にやろう。」
僕は、どうするべきか考えた。言葉に甘えるか、自分の経験から学ぶか…………。また、同じことを繰り返すのかと僕は、心に聞いていた。また、後悔することになるんだぞと…………。なのに身体は勝手に下に首を振った。
「良かった~」
日坂美咲は、満面な笑顔で返事をした。
「そう言えば、自己紹介まだだったね。私の名前は日坂美咲。よろしくね。」
青いベンチ 1
「そんなことあったね。」
美咲はそう言い微笑んだ。
僕たちは、夕暮れ時に丘の青いベンチに座りながら昔のことを思い出している。
今は、出会った時のことを話していた。
「ゼミの後、すぐにいなくなるからずっと探してたんだよ。」
「面目ない。」
「1年生からずっとあの場所通ってたよね…………」
「前に言ったっけ?1年生の時に見つけてさ~お気に入りの場所だった。あの自販機のカフェオレが大好きでよく飲んでた。」
「そうそう、前に聞いた聞いた…………。」
美咲は、あっ、と何かを思い出したようだった。
「そう言えば、あの時の夕くんめちゃくちゃ緊張してたよね。」
「あれは…………まだ初対面だったから。」
僕は、言い訳をした。
「日本語になってなかったよね。」
出会った時のことを今、思い返しても恥ずかしい……。
「また、赤くなってる。可愛いな、もう。」
美咲は、からかうように僕の顔を見ている。
「出会った時と今の夕くん性格全然違うよね。出会った時は、一言もしゃべってくれなくて、しゃべったと思ったらボソボソ言ってて何言ってるのかわからなかったし。人とのコミュニケーション苦手なんだなと思ったけど……」
「面目ない。」
僕は、それしか言い返せなかった。
「今は、普通に喋ってくれるし…………」
「あれだよ、あれ。慣れだよ慣れ。」
「慣れって。」
美咲は、苦笑いのような感じの笑みを浮かべた。
「少しずつ喋ってったらいつの間にかいつものようにしゃべれるように……見たいな。」
僕は、少し補足した。
「まっ、どうでもいいや」
「どうでもいいんだ。」
適当に流されてしまった。こやつめ許さぬぞ。どうでもいいって…………意外とショックだった。
僕が心の中でショックを受けていると、美咲が唐突に指をさして
「夕くん見てみて、虹が出てる。」
僕は、美咲が指差している方を見ると虹が出ていた。
「丘を登る前、通り雨あったからかな~?今日は、ラッキーだね。」
美咲は、満面な笑顔だった。僕は、美咲の笑顔を見れればそれでいいと思っていた………………。
葛藤
ゼミに誘った日坂美咲が立ち去った後、僕はまだ白いベンチに座っていた。もう日は落ち真っ暗になり自動販売機の明かりだけが僕を照らしていた。
まさか……、誘われるとは思っていなかったから…………。
女性に一緒にやろうなんて言われたことないしあんまり喋ったこともない。僕にとっては初めてのことだったから、嬉しさのようなでも不安という複雑な気持ちが重なりあっていた。
後、僕は絶対日坂美咲に迷惑をかけてしまう。
でも日坂美咲は、大丈夫と言っていた。
迷惑かけることは普通なんだと一般の人は答えると思う。僕は、迷惑かけることにトラウマがある。そのせいで、人とあんまり関わることを避けている。
どうしよう…………このモヤモヤした気持ちをどうしてくれよう。
今すぐにでも叫びたい。恥ずかしいからやらないけど……。
こんな葛藤を繰り返しながらやっとの思いで白いベンチから立ち上がり、帰ることが出来た。
帰り道を歩いてる時でも、ずっと葛藤を繰り返していた。
叫びながら走りたいとか、歌いながら走りたいとか…………。いろんな事が頭を回っていた。
恥ずかしいからやらないけど。やったら変人じゃんと心の中でツッコミを入れながら理性を保ち歩いていた。
口笛でも吹くか、と思い、適当に口笛を吹きながら家に着いた。
家に帰ると、家には誰もいなかった。父親はどうでもいいけど、母親がいないのは珍しかった。
夕飯までには帰ってくるだろうと思い、自分の部屋に入った。
自分の部屋に着くと、葛藤の続きが再開した。赤く頬を染めながら回転椅子の上で身悶え何度もクルクル回り、その後、頭を抱えベッドにダイブした。これが朝になるまでずっと葛藤が続くことになる。
別に、告白されたわけじゃないのにこんな感じになってたらもし告白された時、自分はどうなってしまうんだ~と思い、考えるのも恐い。これ以上に壊れるんだろうな…………。
朝まで葛藤し続けたせいで寝不足になり次の日の大学の講義が辛くなったのはいい思い出である。
高瀬陽
日坂美咲から話しかけてきた自動販売機の出来事と日から数週間経った。
僕と日坂美咲はゼミで一緒に組むことになり、一緒に作業をしている。
日坂美咲とはゼミの時しか喋っていない。
なので、僕の日常は劇的に変わっていないし、普通の日常を送っている。
ゼミが終わりいつもの自動販売機が置いてある場所でカフェオレを飲み、そこで黄昏ていつものように帰る。
その帰り道で、
「秋山、奇遇じゃん」
と、後ろから男の声がした。僕は、後ろ振り返えようと思った時、肩を組まれバランスを崩しそうになった。
「危ない、危ない」
慌ててバランスを立て直して、僕は言った。
この男は、大学で少数の友達の高瀬たかせ 陽ようだ。外見は、金髪でそこそこイケメンである。会った当初は黒髪だったんだが2年生になった瞬間に金髪になった。いわゆる大学デビューというやつだ。
金髪のせいでチャラそうに見えるんだが、御人好しで、話上手であり、こちらからも話しやすい雰囲気をだしている。僕にとってはバカが出来る友人である。
「そういえば、日坂さんとゼミで一緒にやってるんだっけ?」
僕と高瀬は帰り道にあるファミリーレストランに入り、注文を終え、高瀬の第一声が日坂美咲のことだった。
「一緒にやってるよ」
それだけを伝えると
「まさか、お前が女性と一緒に作業をするとはな…………」
高瀬がこういう反応するのは、高瀬と初めて会った時の事が原因である。
「最初は、一人でやるつもりだったけど……日坂さんが一緒にやろうと言ってきたから…………しょうがなく……」
「それはそれで、寂しいな。俺の方は、ゼミですぐに仲良くなった人と一緒にやることになった。全員男だけど」
高瀬のコミュニケーション能力が全面に発揮されてて羨ましい。そんなコミュニケーション能力が欲しい。
「お前ってコミュ障だけど日坂さんと上手くやってるの?てか、喋れるの?」
「なんだろう……酷いこと言われているような……」
「そんなこと気にしないでいいからどうなの?」
「一応、喋ってはいるし、上手くやってると思う…………たぶん」
「曖昧すぎる」
高瀬は、溜め息をつきながらドリンクバーの飲み物を取りにいって席を外した。
僕は、心のなかで自問自答を繰り返していた。
最初は、上手くやっていけるか不安だったけど………………。
でも、日坂さんに気を使わせているのもわかるし…………。
人に自分の考えや気持ちを伝えるのって難しい…………
と、いろいろ自分の嫌な部分だけが思い出してしまい結局は、いつも落ち込む作業を繰り返すだけだった。
高瀬が帰ってくると、昔の話をしだした。
「そういえば、お前と会った時、いろいろあったよな~。」
「いきなり、どうした?」
「いやぁ~ね、日坂さんと一緒にやってると聞いてね色々思い出したんだよ。あの、秋山と一緒にやってるとだと、とね」
「さっきから酷いこと言われてるような……」
高瀬は続ける。
「お前……だって会った時一言も喋らなかったじゃん。反応はしてたけど……首を縦に降るか、横に降るかだけだけど。その必修講義の時の自己紹介だって日本語になってなかったし。」
初対面になるといつもこうなってしまう。
「その自己紹介で噛み噛みで秋山夕があやややまああぁぁぁるですよろしくお願いします。とお前が言ったから、全員があやまる?あやまる?とはてなマーク頭につけてた。全員があやまると聞こえてたからお前のあだ名が謝罪会見になったよな。」
僕は赤面したまま一言もしゃべらなかった。僕にとっては自己紹介の中でベスト3に入る黒歴史だ。今でも思い出すと顔から熱が吹き出しそうになる。
「まっ、日坂さんと上手くやってるならそれだけでいいや。」
高瀬はそういい、注文したハンバーグにてをつけた。
そんなこんなでファミリーレストランを出て、僕たちは駅に向かって歩いていた。外はもう真っ暗で街灯が眩しいくらいに道を照らしていた。
「何かあれば俺に相談しろよ。力にはなれるかもしれないからな。」
高瀬はそういい、俺こっちに用があるからと街の灯りに消えていった。
高瀬は本当に大切な友達だと思っている。
高瀬に心配されるのは俺が不甲斐ないからなんだけど…………。
不甲斐ないからほっとけないんだろう。
僕は、駅に着きいつもの人混みの中に消えていく。
ゼミ
今週のゼミの時間がやってきた。
高瀬と話した日から1週間経ったことになる。時が経つのって早いな~と思いながら教室に入る。
教室に入ると、日坂美咲が手をあげこっちこっちと手招いた。
僕はそれを見て、視線を下に向けて日坂美咲の隣に座った。
「一週間ぶりだね」
と日坂美咲は微笑んで僕を見て言った。
僕は首を上下に動かした。
頭の中が真っ白になってしまい何を喋っていいのかわからない…………。
日坂美咲は、いつも通りの秋山くんだと言った後、作業中の時も一言二言以外何もしゃべらなかった。
僕は、何か怒らせることでもしたんだろうか…………。
頭の中でそれがずっと回っていて作業が集中出来なかった。
講義が終わるチャイムが鳴ると、ゼミの教授が作業終わりだから撤収とみんなに伝え、撤収を始めた。
今日は全然進まなかったな~と思っていると、日坂美咲が僕を見てこう言った。僕は、その時怒られるんじゃないかと見構えた。
「秋山くん、今週どこか空いてない?このペースじゃ発表に間に合いそうにも無いから…………あれ?どうしたの秋山くん?そんなに見構えちゃって。」
僕は、その時予想外の事を言われて口が開いたまま思考停止していた。
あれ……今なんて…………。
ゼミ以外今週会えるかどうかって言ってたような…………。
「おーい秋山くん~おーい、聞こえてる?」
ハッ、と自分の世界から戻ってきて日坂美咲に返事をしようとしたら……
「だiややややぶおおじゃじゃじゃjajahahaおおお」
また、日本語になっていなかった…………。
僕は、顔が赤くなってしまって下を向いた。
「また日本語になってなかったよ。そんなに焦らなくていいのに。大丈夫で良いんだよね?」
僕は、頷いた。
「じゃあ、メアド交換しよう?でも今はSNSが流行してるからそっちの方がいいよね。教えて。」
僕は、スマホを取り出すとアプリを起動してQRコードを開いた。
日坂美咲は、QRコードをスマホで読み取った。
「はい、これで友達登録完了。今週どこ空いてるか送っといて。じゃあよろしく。またね。」
といい、日坂美咲は引用文献の本とノートパソコンをカバンに入れて教室を出ていった。
僕もすぐさま教室を後にした。
いつも通りに自動販売機でカフェオレを買いベンチに座った。
一口飲んでフゥ~と一息入れるとスマホを取りだし、どうしようかと悩んでスマホをしまい、でもとまた取り出してという行動を何回も繰り返した。
カフェオレをまた一口飲み目の前の景色を見た。
今日もとてもきれいな夕日で真っ赤に空を染めていた。
この景色もいつかは忘れてしまうんだろうか…………。
そんな意味深な事を心の中で思いながら僕は顔を赤面していた。
夕日で真っ赤に空を染めているように。
顔を赤く染めらがらカフェオレを飲み終わりその場を後にした。
家に帰ると、今日も誰も家にはいなかった。
今日もか~と思い自分の部屋に入った。
日坂美咲に日にちを送らなきゃと思いながらベッドに横になると意識が朦朧として僕は夢の中に落ちていった。
メールは目覚めてから焦りながら送った。その時の冷や汗は半端なかったと思う。今週の土曜日に会うことになった。もう一度寝ようと思ったが緊張しすぎて二度寝は出来なかった。
土曜日の図書館
とうとう土曜日が来てしまった。僕は緊張しすぎてガッチガッチになりながら日坂美咲を待っている。
日坂美咲に返信してから数日間全然寝れなくて寝不足になっている。そのせいで今日はちゃんとしゃべれるかわからない。いつもちゃんとしゃべれてないんだけどね…………。そんなこと考えて落ち込みながら日坂美咲を待っていた。
日坂美咲は遅刻しているわけでもない。ドラマとかアニメとかの
” 遅刻しちゃった?待った?待ってないよ。今来たところ。”
というシチュエーションではない。ただ単に僕が待ち合わせより物凄く早く着いただけの話しだ。どれだけ早いかって?2時間程度かな?早すぎて何回トイレ行ったか…………そんなことはどうでもいい。心のなかで独り言を呟きながら日坂美咲を待った。
日坂美咲は、待ち合わせ時間の30分前に来た。
「おはよ秋山くん~秋山くん早いね。私より先なんてビックリした。」
僕は、反応が出来なかった。
「おはよう」とボソッと低音呟いた。
「じゃあ、大学に向かおうか。」
僕は、首を縦に降り日坂美咲と一緒に歩き出した。
大学に着くまで一言もしゃべらなかった。とても気まずく僕にとっては苦痛でしかなかった。
そういえば、着いたはいいけど
どこで作業をするんだろうか…………。日坂美咲に聞いてみるか?…………。
そんなこと僕に出来るのか?いや、聞くだけだ。でも、噛んだらどうしよう……日本語にならなかったらどうしよう…………。
と、心の中で格闘していると
「図書館でやろうっか。図書館でやった方が文献とかすぐに調べられるしね。」
僕が質問する以前に日坂美咲はそう言い、図書館に歩き出した。僕も日坂美咲の後ろについていく。
この大学の図書館は、オフィスビル見たいな外観で4階建てで、地下も4階ある。
1階のフロアは外からでも中が見える大きなガラスで覆われていて4人が座れる円盤状の机がたくさんあり自由スペースになっている。
2階からは小さいガラスの窓になり、2階にはパソコンがたくさん置いてあり、借りさえすれば自由に使っていいパソコンになっている。
3階から4階は学科ごとの本が置いてあるフロアになっている。
地下は全部学科ごとの専門資料と年代ごとの新聞などが置いてある。
地下4階は許可がないと入ってはならないフロアになっている。大学院生しか利用しない。
全フロアに1階にある円盤状の机がたくさん置いてあり、自由スペースがたくさんある。
縦に長いが横にも広いのでとてもでかい図書館である。どこからでも図書館の位置を把握できるほどである。
日坂美咲は、1階にある自由スペースの円盤状の机にカバンを置き椅子に座った。
僕もその後を追いかけ椅子に座った。
日坂美咲は、カバンからパソコンと文献を出した。パソコンの電源をいれ、パワーポイントを開いた。
「秋山君は発表で使える資料と文献探してきて~。」
と日坂美咲は、手を合わせてお願いと小声で言った。
僕は首を縦に振り資料と文献探しに向かった。
僕は、文献と資料を探すために3階へと上った。
パソコンでどの辺に探している文献や資料があるのかをキーワード検索をして出てきた文献資料の位置把握して僕は移動した。
探している文献資料は、上の段にあるらしく上を見て探していた。
あっ、と思った文献があったので手を伸ばして取ろうとしたら上しか見ていなかったからか人の気配に気づかず、隣にいた人もその文献に手を伸ばしていたので手と手が触れてしまい、あっ、と二人がその文献に手を引いた。
「ごめーん、ごめーん上しか見てなかったから気付かなかった。アハハハ」
と、女性は小声でも聞こえるような声で言った。
僕は、やっぱり言葉が出ずに下向いたままだった。その女性から石鹸の良い匂いがしていたが僕は、それ所じゃなく……これは、文献の取り合いになるのでは……ヤバイヤバイ…………と顔面蒼白していた。
「君は、こっちの本を取ろうとしたんでしょ?アタシは隣にある本を取ろうとしたんだ。」
と女性が言ったので僕は、ホッとした顔で首を縦に振った。取り合いにならないでよかった~。
僕は、まだ下向いたままでいると
「大丈夫?」
と言われてしまった。僕は、小パニックに陥っていた。
返事しなきゃしなきゃ…………。
「dddだdだだdddiiiぃぃぃぃじょうじょうzyぞうぶでsどす。」
とまた、日本語になってなかった。
その時に初めてその女性の顔を見た。その女性は、平均女性の背より少し低く、スタイルは……僕の個人的な視点から見ればいい方だと思う。胸もあるように見えるし……。笑顔が印象的なのでオレンジのひだまりなような人だなと僕は印象を受けた。
茶髪のショートヘアーで、オレンジ色のコスモス型のヘヤピンをしていた。
可愛い人だなと僕は思った。
「どうしたの?そんなボケーとして。アタシに惚れちゃった?」
僕は、唐突にそんなこと言われたのでテンパって顔が真っ赤になってしまった。
「ごめん、ごめん。冗談だよ冗談。からかい過ぎちゃったね。君のテンパるのが可愛い過ぎてやり過ぎちゃった。」
とその女性は言った。
女性は時計を見て、
「あっ、ヤバイ、こんな時間。アタシそろそろ行くね。じゃあね。」といい、嵐のようにその女性は消えていった。
僕は、呆然と立ち尽くしていたが、我に戻って本棚から文献を取り出して日坂美咲の所に戻った。
そういえば、女性の名前を聞くの忘れたな~と思いながら日坂美咲の所に戻ると、
「遅い」
と日坂美咲に怒られたのだった。
「秋山君、文献探しにいくだけなのに1時間もかかるのよ…………。もう。半分以上書いちゃったよ。」
僕は、「ごめんなさい」と謝り
「この話しは終わり。秋山君は、持ってきた文献を見て必要だと思うところ探しといて。」
僕は、首を縦に振って文献を手に取った。
僕は、必要だと思うところを見つけたのだがどう日坂美咲に伝えるか考えていた。伝えなければ続きに進めない。
僕は、ページをメモっとくことにした。
どこにメモろうかな…………。と考えていると日坂美咲が
「何か見つけたの?」
と聞いてきて僕は、首を縦に振った。
「どこどこ?」
と日坂美咲が文献を見ようとして僕に近づいてきた。
僕と日坂美咲の距離はもう少しで腕と腕が当たってしまう距離感だった。
「ねぇ、どこの部分?」
と聞いてきたので僕は、ここと指を指すと日坂美咲は腕と腕がくっつき、顔ももっと近づけてた。
近づいてきた日坂美咲から甘い良い匂いが香ってきた。僕は、その甘い良い匂いのせいで顔が赤くなってしまった。
僕が顔をそらそうとして反射的に日坂美咲を見たら、髪を耳にかける仕草をしていたので僕は、さらに顔が赤くなってしまった。
「ここね、ありがとう。あれ?どうしたの?顔赤いよ?」
日坂美咲は僕の顔を見て心配そうな感じで聞いてきた。
僕は、
「大丈夫」
とボソッと言い文献で顔を隠し探してる風に装った。その後は何も探せなかったんですがね…………。
そして、空は紅くなり僕たちは帰る支度をし始めていた。
「もう、夕方だね~」
と体を伸ばしながら日坂美咲は大きく息を吐きながら会話を続けた。
「今日はありがとね。発表一緒に頑張ろうね。」
と両方の手をグーにしてファイト見たいなポーズで僕を見ていた。
「そうだね」
と僕は、慌てることもなく冷静に言葉を返していた。
発表が終わってしまえば日坂美咲との接点がなくなってしまうことを思ってしまったから……。
なんでそんなことを思ってしまったのかこの時点の僕は、わからなかった。
「あっ、そうだ。友達を待たせてるんだった。ゴメン。今日はホントにありがとね。じゃあ来週のゼミで。お疲れ。」
とバイバイと手を振りながら日坂美咲は立ち去った。
僕も帰るかと思い駅に向かうのだった。
ゼミ発表
今日はゼミの発表の日だ。前日は緊張して全然寝れなかった。図書館で作業してから2週間近く経ち、日坂美咲と打ち合わせをして、こうやって発表しようと決めていたが…………ちゃんと発表出来るか心配である。
大学に着き、教室に入る。
入ると、日坂美咲が最前席に座っていた。僕は、日坂美咲の横に座りカバンを机に置いた。
「秋山くん大丈夫?」
日坂美咲が聞いてきたので首を横に振り
「緊張して……る」
と返した。
「だよね。私も緊張してる。段取りは前に決めたから大丈夫だと思おう。」
日坂美咲は、両方の手をグーにしてファイトのポーズを小さくやった。
僕も首を縦に振り頷いた。
教授が教室に入ってきて僕たちは前に出て発表する準備をした。
日坂美咲が原稿を前に持ち日坂美咲が小声で
「始めるよ」
と言い発表が始まった。
僕は、日坂美咲が発表しているなか心の中でこの発表が終わったら日坂美咲と関わることはもうないと考えてしまい寂しい気持ちになっていた。もっとちゃんと話したかったな…………。せっかく一緒にやってくれたのに。
思い返すと全然役にたたずに迷惑しかかけていなかった。
日坂美咲は、大丈夫だよと言ってくれたが不甲斐ない自分に苛立ちが増していた。
こんな自分が嫌いだ。
自分の中ではやっぱりこうなったかと思っていた。
人と関わるといつもいつも自分の不甲斐ないさを思い知らされて自分が嫌いになっていく。
そりゃあ自分のことは自分がよく知っている。人見知りで気が弱くて、優柔不断で…………。
こんな性格は嫌で嫌いで何度も性格を変えようとした。でも変えられなかった。
自分を変えようと頑張ったってどうせ変えられない。
それが僕の答えだった。
性格を変えようとバイトもしたし、サークルも入ろうとした。努力はした。
変えようと頑張ると自分が偽りの自分を演じることが上手くなっていくことに気付いた。
作り笑いも上手くなり偽りの自分を造ることが上手くなっていくそんな自分のことが怖かった。
親友の高瀬の前だって、作り笑いをしてしまう。偽りの自分を演じてしまう。
だから、自分を変えようとするのをやめた。
人と関わるのことが怖くなりあんまり関わることをしなくなった。
一人になることを望んだ。
こんな自分を受けれてくれる人なんていないことを知っているから。どこかに僕を必要としてくれる人はいるんだろうか。
受け入れてくれる人がいたとしても迷惑をかけてしまう。
そうこの発表でも日坂美咲に任せている。
任せて迷惑をかけている。
僕は、一つ決心をした。
日坂美咲と関わることがなくなるのは寂しいがもう関わらないようにしようと心に決めていた。
心の中で決心していたら発表が終わっていた。
僕は、これで日坂美咲と関わることがなくなると思っていた。
視点 日坂美咲 1
私は、秋山君と図書館前で別れて友達の所に向かっていた。
作業が進んだのは良いのだが、秋山君とあんまりしゃべれなかったことが残念だった。
私も少し人見知りするタイプだが秋山君の方は人見知りするタイプを越えている。人と関わることを拒絶してるように見えた。
オーラが僕に近づくなと言っているように見えていて近づきにくかった。
「よく私話しかけたよね……」
と私はボソッと呟いた。
周りには誰もいなかったので聞かれなかったと思う。
秋山君があんな性格なのにいつも高瀬君と一緒にいることが意外だった。
歩いていると遠くから
「おーい」
と手を振る女性の声がした。
「美咲おそーい。めっちゃ待ったんだから。」
彼女の名前は、雨宮叶恵あまみや かなえで甲高……えっーと元気な声が特徴だ。
「今、美咲失礼なこと考えてなかった?」
「考えてないよ」
こう言う時は鋭いんだよな……。
「よし、カフェにレッツラゴー」
と元気よく叶恵は歩き出した。
私はその後ろをついていく。
「今日さ~図書館で男の子とぶつかっちゃったよ~」
と叶恵は切り出した。
「叶恵も図書館に居たんだ。私もゼミの作業してたんだよ。」
叶恵は、目を大きくして
「マジで、連絡すればよかったね。」
と言い、
「でも作業してたということは美咲と出会っても邪魔になるだけか。」
と続けて言った。
「そうだね。もう一人と一緒にやってたし。」
「ゼミで誰かと組んだんだね~」
すると叶恵は慌てて
「そうだそうだ、話し戻して、男の子とぶつかっちゃってさ~その男の子テンパっちゃって大変だったよ。若干変だった。」
「そうなんだ。」
私は、適当に相づちをうった。若干変ってその人可愛そうだな~。
「でも、テンパるのが可愛かった。」
叶恵は付け加えた。
テンパるの人が可愛いと思ったことがないからとなんとも言えなかった。
「高瀬とさ一緒のゼミなんだけどさぁ~あいつうるさいんだよ~。」
叶恵のゼミは高瀬君がいるらしい。
「いつもいつも男連中と大声で絡んでるの。」
叶恵は、一口ジュースを飲んだ。
「そのせいで全然集中出来なくてさ~全部アイツせい」
叶恵は、愚痴り終えるとまたジュースを一口飲んだ。
「美咲のゼミが羨ましい。一緒のゼミだったら一緒に組んでたのに」
「それはしょうがないからね」
「これで単位落としたらアイツのこと一生憎んでやる。そういえば、」
叶恵は、言いかけてスマホを確認した。
「そういえばさ、美咲ってゼミで誰と組んでるの?女?男?」
私は、正直に話した方がいいか一瞬迷った。
「男の子だよ。」
「マジで、男と組んでるの?珍しい。男となんて滅多に喋らないのに。」
叶恵は、ビックリした顔をして少し声が高くなっていた。そんなに珍しいかな…………。でも、そんなに男の子とは喋らないけどさ……。
「どうせ余りで強制的に組まされたんでしょ?美咲って少し人見知りするしね~」
叶恵は、図星をついてきた。
「余りは余りだけど私が誘ったんだよ。一人ではやりたくなかったけどね。」
私は、必死になっていた。
叶恵は、スマホを弄りながら
「そうなんだ。」
と興味無さそうに頷いただけだった。
カフェから出た私たちはまた明日ね、と手を振り解散した。
叶恵が興味無さそうでよかった。
私は、何故かホッとしていた。
あれ以上ゼミの話してたらおかしくなりそうだった。
なんであの時必死になったのか自分にもわからなかった。
別れと出逢い
発表後僕は、いつもの場所でカフェオレを飲んでいた。
もう僕と日坂美咲と接点がなくなって、ゼミでは一緒だが話すことはないだろう…………。
発表の時は、迷惑かけるとか色々考えていたが日坂美咲と接点がなくなることに寂しさが込み上げてきている。
別れというのは寂しい響きだと思う…………。
別れの前に出逢いが必ずある。
出逢いは一期一会とよく言うが僕は今、この瞬間に味わっている。
出逢いと別れを繰り返して別れにも慣れてしまい出逢いの素晴らしさを忘れていく…………。
出逢いと別れを繰り返しながら僕たちは成長をしていく。
僕は、カフェオレ飲みながら黄昏てそんな事を思っていた。
そろそろ夕暮れも近いしカフェオレも飲み終えたし帰ろうと自動販売機から少し離れた所で、黒ネコを撫でている女性がいた。
黒ネコはその女性になついているのか身体を女性の足に擦り付けていた。
「くーちゃん、コチョコチョコチョ」
くーちゃんというのは黒ネコの名前だろうか?
お腹を撫でられてる黒ネコはくすぐったいのか笑っているように見えた。
その光景を見ていると女性が僕の方を見てきた。
その瞬間二人は指を指して
『図書館で…………』
と、二人の声は重なった。
女性は黒ネコを抱えようと目線を下に戻すと
「あれ?くーちゃん?」
女性の足元にいた黒ネコはいなくなっていた。黒ネコにとっては大きい声だったのかビックリしてどこかに逃げてしまったらしい。
「くーちゃんビックリちゃったのか~そのうち出てくるからいいや。」
聞こえない声でつぶやいていた。
下に向けてた目線を上に向けて僕の顔を見て
「そうだそうだ、君、君、あの時図書館で」
と切り出された時、図書館が見える方から
「ごめん、ごめん、叶恵お待たせ。図書館でゼミの資料返してたらこんな時間かかっちゃった。これで一緒に………………あれ、秋山くん……?」
もう関わることはないと思ってた日坂美咲との関係は別れからもう一度出逢いに変わったんだ。
口笛