お年玉

今年の正月も僕は例年どおり、実家に帰り家族と大晦日をすます。
 こたつに入り、みかんを食べ大晦日には、紅白を見る。そうして全然例年と変わらない正月を過ごした。
元旦になる。そうして父や母と話をする。
「明けまして、今年もよろしくお願いします。」
そうつまらない挨拶をする。そういいながら、考えるのはお年玉のことである。いくら貰えるかそればかり考える。去年は二万円だった。
今年もそれくらい、いやもっと貰わなければならぬ。その為には、両親の肩もみでも、お使いでも(寒いゆえ、買い物に出かけるのに父も母も億劫なのである)なんでもして機嫌を取ることだ。お世辞も言わなければならぬ。ちょっと痩せたよとか、おしるこ、うまいよとか。なんでも言わなければならぬ。そのことで僕は誰からも軽蔑されてもいい、たとえ親友からも。金、世の中は金だけだ。正月だけは、僕はそういう気分になるのである。
はたして、お年玉は例年と変わらない、二万円だった。僕は内心ふてくされて、財布にお年玉をいれたのである。
 


 近所には、わりと大きめのゲームセンターがある。そこで、僕はお年玉のうっ憤を晴らした。格闘ゲームで、父に似たキャラを使いぼこぼこに負けた。これで気はすまない。また百円を入れ、今度は母に似たキャラはいないので、女のキャラを使いぼこぼこに負けた。
 そんな僕に話しかけてくれた人が居る。
「あれ、大地君!」
話してくれたのは昔同じ中学校に居た知人の女の子である。
「何してるの?わざと負けて。」
 僕は慌てた。これがバレて父や母に伝わることは、無いと思うが、可能性はある。そこで、
「いや、このゲームあんまり。やったことないんだよ。いやー難しいなあ。」
「それ、前からあるゲームだよ。」
「いや、僕は初めてなんだ。」
「去年もやってたでしょ、そうしてうまかったじゃん。私、その時は声をかけなかったけど、彼氏と一緒だったから。・・・どうして嘘をつくの?」
「いや、ごめん。実は・・・」
 そうして、僕は事情をあらいざらい話した。
「ぷっ、そんな理由なんだ。どうしようかな、言っちゃおうかな、君の両親に。」
「いや、それだけは、どうかかんにん。」
そうして僕は彼女に頭を下げた。
「どうしようかなあ。まあ交渉次第?」
 泣きっ面に蜂である。僕は結局、彼女に喫茶店でケーキをごちそうすることにした。いやそのつもりだった。最初に注文したのはケーキそして、パフェ、ガーリックトースト、パンケーキそしてさらにパフェのおかわり。悲惨である。おかげで五千円以上の出費になった。
「もういいかげんにしてくれないか。いくらなんでもひどい。五千円以上の出費だよ。いくら食えば満足するんだい?」
「もう、いいよ。ふう、よく食べた!じゃあ」と言って、
「またおごってね!」
「頼むよ、もう勘弁してくれ!」
しかしそんな叫びを空しく、そのあとの日も僕は彼女からの連絡で呼び出された。そうして買い物に付き合わされたのである。今度はさすがに、おごらされたりはしなかった。しかし、買い物もそのあとの食事も割り勘である。とても付き合いきれるものではない。
「もういいよ!僕は例のことは、ばれてもいい。もう会わない!」
そう言うと、
「ごめんね。でも正月最後にもう一度だけ会わない、私、実はあなたのこと好きになってきたの。」
そうメールで言われ、僕は悩んだ。彼女はたしかにまあまあ可愛い。例の大食いさえ、目をつむれば、付き合えない相手ではない。悩みに悩んだすえ、僕は彼女と付き合うこととなった。
正月休みの最後の日、僕は彼女を家に招待した。彼女は両親に挨拶をし、一緒にこたつに入った。
「よろしくお願いします。」
そんな風に彼女は挨拶をした。そうして、両親から付き合うことになった経緯を聞かれると、彼女は、
「いやー実は大地君、お年玉が少なかったはらいせに、おとうさんとおかあさんに似たキャラをぼこぼこにしてしまって、その秘密を共有した為に付き合うこととなりまして。まあ今、こうしてばれてしまいましたが、それは大地君、もういいよね」
 僕は死んだ、いや死んだと思った。ところが、父も母も苦笑しただけだった。そうして家族プラス一でにぎやかな、昼飯になった。
そうして僕も彼女も互いに違う大学近くの貸家に帰って行った。連絡はときおりするし、二人とも東京の大学なので、会うこともあった。そうして、例の付き合う、きっかけとなったことを笑い話と思えるほど、時は流れた。
そうして、僕たちはみんな、それなりの生活で人生を送っている。

お年玉

お年玉

ちょっとしたユーモア小説です。正月ですし。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-15

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