電話

ふとした瞬間にフラッシュバックする思い出を綴りました。

留守番電話のBGM。たかが15秒あまりのために、いろいろと凝っていた。

留守番電話のBGM。たかが15秒あまりのために、いろいろと凝っていた。
その時、流行っている曲のサビを使ったり、お気に入りの曲であったり。
携帯が次第に普及し始めて、留守電のBGMなどに拘る等ということもなくなった。
最後に留守電の応答メッセージを吹き込んだのは、時を12,3年前まで遡らなければならない。


『オルゴールなんて最高のプレゼントだと思う』
横浜の元町を歩きながら、彼に話した事がある。彼とは、”付き合い始めた明確な日”はない。何時しか、互いをパートナーと思っていた。
そんな彼から、初めて貰ったプレゼントは、元町を歩いた時から数ヵ月後。出会ってから10ヶ月目の、僕の誕生日だった。

箱を開けると、ピアノの形をしたオルゴールが緩衝材に包まれて入っていた。
音階は余り多くない、安いオルゴールだったが、それでも、シリンダーが一回転すると自動で止まるタイプの、凝った造りをしていた。
ピアノのペダル部分がスイッチとなっていて、そこを押すと、”エンターティナー”が奏でられた。

元町でオルゴールに似合う曲は・・・
などと、二人で話していたのは、『主よ人の望みの喜びよ』『別れの曲』など、クラシックだった。
「別れの曲じゃぁ、もう逢えないみたいになっちゃうから・・・」と、少し照れながら、”エンターティナー”を選んだ理由を教えてくれた。

彼からは、いくつものプレゼントを貰ったけれど、一番深く心に残っているものは、このオルゴールだ。

何か嬉しさを表現する方法は無いか・・・と考えたのが、留守電のBGMに使うことだった。
発条の巻き具合で、曲の長さが変わる。
丁度、留守電の録音時間に収まるように、一番巻いた状態から、何回鳴らしたあと、使えばよいか等、何度も試しながら、時間をかけて録音をした。

それが、留守電の応答メッセージを吹き込んだ最後となった。


”エンターティナー”
出窓に置かれた、オルゴールのスイッチを押しても、その音を奏でなくなったのは、今から6年も前になる。
シリンダーの窪みに入ったストッパーが、上がらなくなったのだ。
当時、分解をして修理を試みようとしたが、ビスが回らなかった。そういえば、彼がそのプレゼントを手渡すとき、”手作り”と言っていた。
手作りと言っても、キットを組み立てたものだが、几帳面な彼は、一つ一つビス止めを確りとしたのだろう。どう、頑張っても開かなかった。

そのまま、今も出窓に置いてあるオルゴール。

音が鳴らなくなった事を確認した瞬間、もう、彼はこの世に居ないのではないか?そう、思った。
彼の時間と一緒に、このオルゴールも止まったのだと。


僕の実家にある電話機は、留守電をセットするときに、いちいち応答メッセージが流れる。
たまに残される、留守電のメッセージ。その度に、一度留守電を解除し、聞き終えると、再度セットをする。
そんな時、今でも流れるのが、”エンターティナー”と、まだ20代だった僕の声。

時間の流れに置いて行かれたものが、まだそこにはある。

電話

なんとなく気に入っている文章ですが、如何でしたか?

電話

2007年。 動かなくなったオルゴール。ふと思い出がよみがえって。。。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-15

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