自分映画館

それは映画というよりは静画だった。
比喩でもなんでもなく、始まってからもうどのくらい経つのか分からないが、映画を観に来たはずの僕が今見ているのは写真だった。
誰もいない映画館の中にぼおっと座っている人物がたった一人。
それはつまり、今の僕の状況と一致しているのだが。
僕が登場人物の劇中劇とかいうわけではないだろうな。
僕は読書が好きな人間なので、そんな言葉を使ってみたりするが、どこにでもいるありふれた男子校生のはずなので、こんな事態に巻き込まれるはずがない、のであるがしかし。
こんな映画はつまらないのだから、さっさと出て行って仕舞えばいいというのに、なぜか僕は動くこともできなかった。ここにいる限り、画面の中の僕を監視し続ける限り、何も起こらないのだ。
そんな奇妙な安心感。
「でもあなたはここを出ていかなければならないんですよ、いずれ」
いきなり声をかけられてびくりとする。画面の中の僕らしき影も飛び上がったようだった。
出口が明るい。誰かが扉を開けたのだ。
「あなたの劇はまだまだ続くのですから。あなたを観るのは他の人でいいのです。自分で自分を見守り続けるだなんて馬鹿げている」
画面の中の影は朗々と喋りながらコツンコツンと階段を降りてくる、音が僕の後ろからも聞こえた。
「あなたのことは私が観ていてあげましょう」
だから早くあなたは外に行きなさい。
そう言って手を取られる。僕は素直に立ち上がって出口に向かう。
多分画面の中の僕もそうしているのだろう。
しかし、僕はもうそれを返り見ることはせずに、そのまま出口に向かう。
僕を迎える光は眩しかったけれど、やさしくあたたかく僕を包み込んでくれた
顔も見えなかった人にありがとう、と言おうとして振り返った時には、もうその映画館は跡形もなく消え去っていて、そこは昔よく秘密の場所として遊び場にしていた裏路地の突き当たりなのだった。

自分映画館

自分の殻にこもりたい時って誰しもありますよね。そんな時、引っ張り出してくれた人のことをあなたは覚えているでしょうか

自分映画館

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-14

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