第六話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」
61 作
Sunday 編
ジャンプとサンデーの百合の、半分は周囲の優しさでできています
ここ最近のサンデーちゃんの表情は優れない。
のは、人に悟られるためしはあまりない。
感情表現がおおらかな従姉妹とは違って、いつでも皆の後ろで微笑んでいる。我慢強い少女なので、自分自身ですら気付いてないのかもしれない。
「ねー、ねー、サンデー。ひょっとして悩み事?」
「え?」
さすがに気付くジャンプちゃんが、心配そうに顔をのぞき込む。
「ううん、ちょっと寝不足・・かな・・・」
しかしこの地点でも露見はしない。
優れない理由が、誰にも内緒、とくに恋人には一番知られたくないヒミツだから。
困ったな。寝る前に読んでたガンガンちゃんの創作作品、禁止されたからかなぁ。ああ、新作読みたいな。でもおかずの為に本人を失うなんて本末転倒!
なのでサンデーちゃんは、そこは意識的に取り繕う。一生懸命、必死に。
「それだけだよ、元気、元気」
「そ?無理しないでオレには言うんだよ?」
優れないのもその理由も、これで誰の手も届かない場所に押し込められる。
恋人も、本人も届かない場所。こじらせそうで、これは心配、心配。
でも大丈夫、二人には心強いお友達たちがいますので。
表情が優れない、その原因すら知ってしまえる人物がこの教室には2名いる。
クラスメイトとして。当人とその恋人さえ分からない事実を知ってしまえる、その内の一人とは・・・
「・・・・・」
こちらのお姉様。
スクゥエア・ガンガン・エニックスが、目の前で本を開いているサンデーの表情をまじまじと見つめる。まったく底の知れない少女だ。香ばしい匂いがする場所には必ずいる。
その目が次に、本の題名に移る。最後にもう一度サンデーちゃんの顔に戻った。
ふーん、と納得。
先日の事だ。サンデーちゃんが申し訳なさそうに自分に小さな声を掛けてきた。
「あ、あのね、その・・その、ガンガンちゃんが書いた作品への感想は・・・その、も、もう・・・。えーっと、えーっとね・・・」
ノートを持つ手が震えているのを眺めながら、ガンガンちゃんは気にした風もなく笑う。
「あら、そお?私もそろそろ面ど・・・忙しくなってきたし。しばらくはお休みしようと思ってたの。ちょうど良かったわ」
と、ずいぶんご愛顧いただいたノートの交換も止んだ。
休みを伝えたえ後も「私は読めないけど執筆は止めるべきじゃない。実家にガンガンちゃんの才能を紹介するよ、そうしよう、絶対にそうしよう!」と、えらく熱心に食い付かれたがガンガンちゃんは断った。フランス書院の切り貼りだし、それはちょっと。
ノートをねだられなくなったので、最近のガンガンちゃんの定位置はサンデーの真ん前になった。読書するサンデーちゃんの目の前で、編み棒をこきゅこきゅ上下させている。
だって、サンデーちゃんを観察したいんだもの。
ガンガンちゃんは興味深げにクラスメイトを眺める。おかずを絶たれたサンデーちゃんの、その後を観察したいもの。これほどの好素材、そうそうないじゃない?
向かいの机で学級文庫を広げているサンデーちゃん。
彼女の最近愛読してる本の題名は、すでにチェック済だ。
チェックした題名を頭の中で並べてみる。記憶しているサンデーの性嗜好とはほぼ無関係だろう、とガンガンの判断。一番怪しい本の題名が若草物語だったしね。ギリギリで勘ぐれない事はないけど。あれで興奮できたらサンデーちゃん、真性になっちゃう。
しかもさっきから目線はページに落ちてるのに、瞳に動きは無い。ぼんやりと見開かれているだけで、何事か考え込んでるのか?時折、ぷるぷる、とかぶりを振る。
察するに、行き詰ってる。
うふふ、と目を細めた。
そういやあれから、親睦会も催してない。新しいおかずもない、恋人とえっちも出来ない。悶々としてるのね。可愛らしいわあ。
サンデーが視線を本に落としっぱなしなので、ガンガンはちょっかいを出す事にした。そっとつぶやく。
「その作家さんはどうやって打開したのかしらねえ」
小説の話、と分かるとサンデーちゃんは目を上げた。
そこにはガンガンちゃんの笑顔。
サンデーも頼りに思っている、クラスのお姉さん的存在。いつでも腰が据わっていて、その動じない様子がうらやましいくらいだ。優しく自分を見つめる目。
一昔前に、ご実家がずいぶん荒れた事があったそうだ。業界でも一時期、浮き足立った。まだ幼かったサンデーも覚えている。
それでもこうして、私たちの教室で柔らかく笑っている。人間修養も、相当重ねたんだろうな。ひとりだけ別世界から私たちを見守ってくれているような。やだ、自分の子供っぽさが恥ずかしくなっちゃうよ。
「打開策?」
当然、サンデーもなんの疑問も持たない。
「私ね、物語を書いてる時に困る事があったの」
「何に?」
「ストーリーって、起承転結よね?物事が起こるのも、転じるのも結末あってこそ」
サンデーはうんうん、と頷く。
「で、その肝心の結末が、書いている時に一番にやっかいだったのよね」
「へえ・・・なんで?」
「次に困るの。
乗り越える物がなくなると、今度は何したらいいのか分からなくなっちゃうのね。目標がなくなっちゃうって言うのかしら」
ガンガンちゃんは、困ったように肩をすくめた。
「ちょうどいいから、今サンデーちゃんが読んでるグリム童話のシンデレラを例にしましょ。作者違うのね、読み比べ?」
自然な笑顔でガンガン。サンデーちゃんはうん、うん、と耳を傾ける。
「シンデレラのラストは王子様とお姫様は結ばれました、めでたしめでたし、よね。
でも現実はそれでは終われない」
「現実・・・?」
サンデーにいったん理性が戻るが、
「理想どおりじゃないって事。ディズニーが理想。でも現実は藤田先生」
やはり笑顔で、すらすらと疑問に解答をくれる。サンデーはすっかり感心したようだ。なるほど、と再びうなずく。
「そういう時には、私、第三者を使うの」
自然な笑顔のまま、ガンガンちゃんは続ける。
「例えるなら・・そうねえ、私達がお互い知ってる人物だと・・・」
教室をぐるっと見渡して、
「マガジンちゃん辺りかな?」
サンデーちゃんに指し示す。
ガンガンちゃんが、もっぱらサンデーちゃん観察に熱心だからか。
ずいぶんと気分が楽そうだ。雑誌をめくりながら、時折ソイジョイをかじっている。長くてきれいな足が、机の下でふらふらとお行儀悪い。
「マガジンちゃん?」
まるで授業に質問する生徒のようだ。素直にサンデーは問い返す。
「そう。人間が厚く出来ていて、場数も踏んでる安全な駒って言うの?
完結して安定した関係に持ってくるのよ」
それに頷くガンガンちゃんは、相も変わらず何について話しているかみじんも見せない笑顔。口調も自然でよどみない。
「そうすると停滞した空気が活性化するの。
業界で言う、テコ入れね。新鮮味がなくなった関係でもこれでずいぶん新しい味が楽しめるのよ?」
サンデーはその言葉に深く考え込んでいたようだ。ずいぶんと考えてから、ようよう返事。
「・・でも・・・それって一生懸命、めでたしめでたし、になれたのに冒険じゃない?」
サンデーちゃんの方も、だんだんと自分が何について話しているのか区別がつかなくなってるのか。目の色に真剣味が混じってくる。
自分に食いつく視線に、満足そうにガンガンは笑顔で頷く。
「あらあ。現実のめでたしめでたし、は一過性じゃな?い」
ころんころん笑われて、サンデーはごくっと唾を飲み込む。
勤勉な努力家気質のサンデーだからだろう。
「そ、それはどういう・・・」
熱心な声色で、視線はガンガンから離れない。教われば、砂が水を吸うような。・・・それがどれだけ目の前の人物を喜ばせているかも知らずに。
「安定の次段階はいかが?って事よ。安定にメンテナンスは入れたくならない?
もしかしたら相手に飽きられるかもしれない」
サンデーが顔色を失う。
「もしかしたら、他の恋敵がアプローチ仕掛けるかも。その時、自分に成就前ほどの魅力があるのかしら。それだけじゃない、きっとお相手には面白おかしい出来事が起こり続けるはず。おやおや。いつまで二人の間には蜜月の甘さがあるのかしら?」
サンデーの顔色がどんどんなくなっていく。
「だからこそ、ここらで第三者、投入よ」
ガンガンは声をひそめた。
「せっかく掴んだ幸せだもの。
維持させるべきだわ。あの手この手で、新鮮な恋の味をお相手にお届け。
飽きる?暇すら作らせません!さらにこのテには、目新しさだけでなく恋人の注目を一気に奪えるオマケ付き?」
サンデーが感心したような、大きなため息と一緒にうなずく。
「推奨人物は前出の通り。安全な第三者で、軽い緊張感をご賞味あれ」
サンデーの目の色はすっかり変わってしまった。
話を聞き終わった目が、真剣味一色になった。うふふ、真に受けてるわあ。
「と、言うわけ。あら?なんの話してたかしら。そうそう。童話の話だっけ」
サンデーは、はっ、と我に返った。気まずいようだ。しきりにえへん、えへん、とせきばらいをする。
ただ、ここしばらく失っていた瞳の生気は戻っていたが・・・。
華やかなざわめきの中、マガジンちゃんはポッキーの箱を差し出した。
「あはは、一歩って事実には毎回目が覚めるようだわ」
そしてサンデーに手をひらひらさせる。
「そういや看板だったよ。コナン君の読者層、知ってんのかしらね?」
「そ、そんなぁ。親子で読んでる方はきっと喜んで・・・」
「いいね?、安定した看板って。ウチは一歩が看板です、ってのが一番平穏だよ、ジョージには長生きしてもらわないと」
後は笑って、椅子の背に大きく体重を乗せる。ついでにスカートの裾を払って足を組んだ。校則ぎりぎりの丈だが、むしろ潔く見えてしまうのは彼女の持つ人徳だろうか。
中等科の教室で、この二人が一緒なのは最近はよく見る姿だ。
コラボ企画以来か?簡単な連絡や、お互いの予定を交換し合っている。業界の息女の集まる校風の、面目躍如も出来ようもの。今も放課を使うのは、その話題ばかりになっている。
・・・ただ、今日付けでサンデーちゃんの考えてる事が、がらりと違う物になってしまったが。
マガジンちゃんかあ。
ガンガンちゃんの読みどおり、サンデーはすっかり真に受けていた。
箱から一本ポッキーを受け取って、目の前の人物をじぃっと観察する。
そういえば一緒に行動する機会、増えたな。あれ?その部分までいい位置関係?マガジンちゃんに、あいづちを打ちながら考える。
マガジンちゃんは、人間が出来ている。
古い付き合いだから、そこはよく知っている。
昔から彼女の度量は広い。私たちと水が合わない先生方も、その後の便りをマガジンちゃんのお家で聞く。ご縁がなくなってしまった先生も、快く面倒を見て差し上げるのは昔から。
だから自然と人が集まるんだよね。ジャンプちゃんなんかは「逃げ場があるとワガママになって困るよ」って嫌がってるけれど。
学校の外ではいつでも男の子達の輪の中心、みたいだったのに。近頃、外出もあまりしていないみたい。
だよね。新企画だって目白押しだもん。いくらマガジンちゃんだって体力続かないよね。
サンデーは観察しながら、胸の内で算段する。
ここで私がマガジンちゃんとすっごく仲良くなっちゃっても・・・。困る事は無いよね。サンデーは頷く。うん、学校内だもん、友達同士だし、問題は無い。
それから、ちらっ、とジャンプちゃんを見た。
・・・全然、気にもなってない様子。あい変わらず白泉姉妹に左右を挟まれて。いつもと同じだ。周りの注目を一身にあびて。
ジャンプちゃんは・・新しい物ばかりを毎日見ているだろう。
いつでも話題の中心。何もしなくても、周囲が放って置かない。海外さえ。流行を作り出すジャンプちゃんに、誰もが注目して舞台は目まぐるしく変わって、それを囲む群衆はみんな気を引きたがって。
ガンガンちゃんの言っていた言葉を思い出す。
めでたしめでたし、は一過性。
それ、なんとなく分かるな。机の上できゅっと拳をそろえる。次問題は、関係の維持。
それから目の前でポッキーをかじっているマガジンを見る。
安定した仲に、第三者を入れる。
胸の内で復唱する。
そして第三者は人間が厚く出来ている安全な人物を選ぶ。例えばマガジンちゃんみたいな。
緊張感。目新しさ。新鮮な恋の味。
ごくん。サンデーは唾を飲み込んだ。
「そ、そうだね。また・・・揃えられるかもしれないし。また、水曜にせーの、でマガジンちゃんと一緒できたらいいなぁ」
マガジンちゃんは、おや、と思った。
なんだか今日のサンデーちゃん、落ち着きなくね?箱から受け取ったポッキーも、指で持て余してるみたいに。おっかしーなー?
「あははー。嬉しい事言ってくれるわね?」
「ほ、本当だよ?だって・・・今回の企画ですっかりマガジンちゃんに・・感心しちゃったもの」
「?」
「だってマガジンちゃんと一緒だと・・心強いんだも?ん。コラボの相手がマガジンちゃんで良かったぁ」
????。どうしたんだろ。様子がヘン。おかしいじゃん。あの「私の信仰心はジャンプちゃんだけの物です!!」ってぐらいにワガママムスメだけを仰いでうっとりしてる娘が。風邪でも引いたのかな。
マガジンちゃんは、磨かれたきれいな爪で髪先をくるくる巻く。
ま、サンデーちゃんに関してはあのオンナのが詳しいか?
マガジンはひょいっとジャンプに振り返った。
でもマガジンと一緒で、不思議そうな顔でサンデーの顔を見ていた。?どゆ事?オレ、なんか不自然なコトしちゃったのかな?。
マガジンちゃんは返事にも困ってポッキーをかじる。
「ほら私、・・せ、性格もマガジンちゃんみたいに活発でもないし・・・CMが一番、感心しちゃった!やっぱり頼れるな?」
視線が落ち着かない。
「・・・」
「また・・一緒に企画できたらいいな・・・マガジンちゃんだと、いいなぁ」
「・・・・・」
マガジンは黙ってポッキーをもぐもぐかじる。参ったな。あからさまにサンデーの扱いに困りだした。どーゆー返事すればいいわけ?
そんなマガジンを前に、サンデーちゃんは空気の変化にも気付かないらしい。
いつもは聞き役な彼女なのに、あれやこれやと一生懸命だ。
「な、並んだ時なんてすっごいどきどきしちゃったぁ!」
「・・・・・・」
「昔から知ってる、あのすごいクラスメイト。私なんてもちろん敵わない・・・」
空回りしてんのに。ナニ?この現状。どうしたんだろ。一番このコと正反対じゃない?地に足着いてないようなサンデーちゃんに、マガジンは返事どころか違和感に態度にすら困った。
そしてサンデーは、ずいぶんそれに努力が要ったらしい。
何度も、何度もなんども深呼吸を繰り返してから
「ト、トトト、トップを取ったことある女の子なんだもん?・・・っ!!」
まるで言葉にするのも恐ろしい、と言うような。目をきゅっとつむってから、聞いてる方がびっくりするほどの早口で一気に言い切る。
そして言い終えた後・・・おそるおそるのように開いた目がちらっ、とジャンプを見る。
あー・・・なるほどね。
「あっははー」
なあんだ、そゆコト。マガジンはなによりも、サンデーちゃんの一生懸命さにくすっと笑った。可っ愛らしいなー。
「それ、サンデーちゃんが言っちゃダメでしょ?」
「?」
「ジャンプに悪いじゃん?」
ケタケタと笑う。
可愛らしいわぁ?。これじゃ、猫ぱんちにもなりゃしない。オレがやられたら、媚にしか受け取れないね。何?このファンシーな気持ち。
しかもどうやら、これは真剣にやってるらしい。まだごっこ遊びの白泉姉妹のほうが演技力あるじゃん。おっもしれ?。
あんまりに拙いので、思わずマガジンは手を貸してあげる事にした。
どうやらサンデーちゃんの努力も、そこそこ報われてるようだし?
背中で聞こえてる会話に、急にジャンプの口数が減ったのを確認しつつマガジンはニヤ付きを抑えるのに苦労する。あはは、これは手助けしてあげないわけにはいかないじゃない。
「オレ褒めちゃダメじゃん。どしたの?」
「・・・べ、別にジャ・・ジャンプちゃ・・・・・・・・・・・・な、なんでわ、悪い・・・・・とか・・・・・」
ずいぶんぎくしゃくした口調。おいおい、頑張れ、声小さいぞ?。
「ええー?だって従姉妹じゃ?ん?」
マガジンは笑いをこらえながら、困ってるようなサンデーちゃんに何度も助け舟。
「そ、それは・・・それは・・・」
「自信持っちゃうよ?。まるで従姉妹より優先?、みたいじゃな?い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆ、優先とか・・・そ、それは・・・その・・」
サンデーちゃん、だから、パンチ弱えーっ!
マガジンちゃんは許されるなら机をだんだん、叩いて大笑いしたかった。
なに?この子猫にじゃれつかれてる感。腹を抱えて笑い転がりたいよ、なにこのファンシーさ、腹筋壊す気か、カフェオレ吹くぞ。
あーあ。でも、こりゃ、残念だったね。
マガジンはサンデーちゃんの頭を撫でてあげたい気分だった。
いくらなんでも、今ので気付かれちゃったでしょ。
でも、ま、サンデーちゃんにしてはよく頑張ったんじゃね?そもそも思い立った辺りで充分だよ。ジャンプにうっとりして盲目状態、みたいなコが。
同情心でさらにファンシーになりつつ。ジャンプを振り返って・・・。
「っ」
しかし、あわてて前に向き直った。
・・・・・マジか。マガジンは声もない。ジャンプは最初こそは一緒に、不思議そうな心配そうな顔をしていたが・・・
え?今、尖るような視線向けられちゃったよ?
何?何、この二人。幼いよ。分かってはいたけど、一ツ橋グループ、幼すぎだろ常考。
でも。それが自分でも悪い癖だとは分かっているが。
マガジンは、だんだんと面白くなってきた。
おっもしれ?。どの辺りで気付くか、とかどの辺でボロが出るか、とか試してやれ。
マガジンちゃんは内心でほくそ笑んだ。
ぐっ、と身を乗り出してサンデーの顔を覗き込む。
「なーんだ、じゃ、オレ達、おんなじ気持ちだったんだ?」
「!」
白泉姉妹と話してる最中なのに、ジャンプちゃんの背中の神経は尖っていた。
ど、どーしたんだろ、サンデー・・・。
姉妹の会話が、だんだんとどうでもよくなってくる。
え?なんか今日、オカシくない?
様子、変じゃね?
あのコは自己管理も抜群で、今まで風邪引いたのなんて見たことないよ。もちろんズルだってしない。
皆勤賞はとって当たり前のコだ。昔から比べられて、笑いのタネにされたもん。別にいいじゃん、宿題なんて提出日に仕上がってたら殴り書きでもさ。
「オレさぁ、サンデーちゃんと一生を共にする人っていいな?って思ってたの」
はあ?!ちょっと待てよ!
なに?それ、なんか言葉的にヘンだろ!
「えっ、えっ、えっ?」
サンデーは声を裏返している。ちょ、なんだよなんだよ、なんか嬉しそうじゃん、その声!
会話そっちのけになった。注意すべてが、背中から聞こえる声になる。
「うん、どーせ長い一生だしさ。今から考えても別にいーじゃん?」
なんかヘンー!!ジャンプは地団太踏みたくなってきた。
サンデー、ガツンと怒鳴り返せ!ジャンプちゃんは歯噛みする。つかあんた、誰にでも優しすぎ、マガジンなんて本一筋のオレらよかフラフラしすぎなんだよ、名作に対しても愛があんのかよ、オレにはカケラも見えねーよ!
そもそも今日のあんた達が、何かヘン!ヘンなモンを二人して食ったみたいな!!
ジャンプは神経がとがったり、気持ちがイライラと忙しかったが・・・
「サンデーちゃん、付き合いやすいもん。性格いいし」
・・・・・常日頃分かっていた言葉に、ジャンプの考えが止まる。
「なんて言うか安心できるのよねー。
オレ、デキるオンナ!ってタイプよりも一歩下がって付いてきてくれるぐらいの方が絶対に居心地いいわあ」
マガジンの言葉がずきん、と突き刺さった。
みぞおち辺りが冷やっとした気がした。
イライラ固めていた拳の力をほどく。
左右で白泉姉妹が何か言ってるのに、マガジンの声だけを聞いてしまう。頭にするする入ってしまって。
「うん、オレ攻撃型だし。サンデーちゃんみたいなコがいつでも付き従ってくれるの。文句も言わずに付いてきてくれそうだよねー。
サンデーちゃん、温厚なんだもん。ちびっこから、お年寄りにまで優しいしな?。
そうそう。守りもガッツリ任せらるね。
弱った時も安心して弱れるよ、サンデーちゃん相手なら」
「・・・!」
ジャンプちゃんとしては神経を尖らせたいのに。
マガジンの言葉のひとつひとつが、頭の回転が止めた。
恋人が褒められてるのも、普段なら嬉しかったり誇らしかったりなのに・・・
・・・・・胸のずきずきに、考えが回らなくなった。
白泉姉妹の声も、だんだんと聞こえなくなってくる。教室の声も。
オレだけじゃないんだ・・・・・。
やっぱ・・・他の人でも思うんだ?・・・つかオレが思うくらいだから、誰かがおんなじ感想持ってもおかしくないのかな・・・?
ジャンプの思考が完全停止した。その場から一歩も進めない。
・・・他のヤツも思うのか?
え?え?でもなんで、今、マガジン相手にこんなこと考えてるわけ?必要ないじゃん、まだ先の話しだし、そもそもマガジンはクラスメイトだし。
落ち着け、落ち着け、オレ。
いや、心配以前の問題だし!
サンデー、オレしか見てないもん。後ろ振り向いたらいつでも、ジャンプちゃんはすごいねぇ、って尊敬こめて言ってくれるもん、そうだよ、いつもオレの後ろを付いてきてくれて・・・・・
・・・・・・・・オレ、ちょっと我がままかもしんないけど。
違うじゃん!違うんだよ、それって愛の証拠じゃない?いっつもちょっとくらいの無茶なら聞いてくれるし!待ち合わせに遅れてもいつまでも待っててくれるし、べ、別にそれに・・・甘えるとか安心してとか・・・・・そんな、別に・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別にサンデーは嫌がってないんだし・・・い、いいじゃん・・・・・。
だからその後の会話も聞こえてない。
「え?はっ?いっ、いっいっ?とっ、共、って・・・え?なんっ、なんっ・・・っ」
泡を食ってるサンデーにマガジンが
「へ?だから今、ビジネスの話してるんでしょ?
ビジネスパートナーとしてサンデーちゃんを評価してるんじゃ?ん?」
とケタケタ笑ったのはもちろん耳に入っていない。
・・・・・と、言うわけでここ最近のジャンプちゃんにも、精彩がなくなった。
白泉姉妹が左右でなにか言ってる。が、ほとんど聞いていないのは自分でも分かってた。
サンデーとマガジンの話に聞き耳立てるのは、あれからはしなくなった。
と、言うか聞きたくない。一緒にいるところすら、見たくもない。
二人の声がもしも聴こえても、理解するのを拒否する。理解するな、と自分に念じる。
さっきから白泉姉妹がほわほわ、ほわほわ笑い声を上げてる。
あれ・・・?最近、サンデーとまともに会話したっけ。
日常会話じゃなくって、二人きりで。縁の地めぐりしたのが最後?
ジャンプはなにがどうなってあれからの今現在なのか、さっぱり掴めない。なんであのらぶらぶ状態から、今のこれ?
なに、コレ?なに、この理不尽さ。
人生においてこれほど理不尽な目にあったのってあったっけ。
ジャンプちゃんは自分の過去を思い出す。生まれはどうしようもないからノーカウントとして。オレ、人生においてこんな理不尽な思いってしたっけ。
時代が変わるごとの路線変更に・・?でも、結果は付いてきたんだし。結果さえ出せば、周囲は絶対にオレを粗末に扱わない。大事にする。イーブンじゃん、分かってる。
結果を出してきたオレに、みんなは居心地いいように計らってくれる。思い通りにならない事って、そうはない。
ジャンプちゃんは自分でも知らず、ため息を付いた。
一緒に視線も落として。
「第二回、親睦会の企画がやっと出来上がったの?」
なのでガンガンちゃんがプリントを差し出していても、受け取る手が、まず伸びなかった。プリントをまじまじ見る。
そういや、そんなのあったっけ。のんびり考える。この話聞いた時、すっごい喜んだんだよなあ。懐かしさに、少しだけ笑顔が戻った。
・・・だから手も出さない自分を、相手にじっくり観察されているのは気付かない。
幼い上に、突然の理不尽に振り回されてるジャンプが気付けるはずもない。
ガンガンちゃんはそんなジャンプちゃんをじっくりと鑑賞して、まったりと味わった。うーん、芳しいわあ。
「クラスメイトだけでお泊りって楽しいわよねぇ。学校だけじゃ見られない姿も見れるし」
これほどの好物件がクラスメイトとは。
運命も粋よね。そうそう。卒業までには仕込みも済ませたいもの。あらやだ、忙しさに嬉しい悲鳴?
当然、ジャンプちゃんは聞いてない。プリントをじっと見ている。
「修学旅行みたい!私、分かるのよ?チャンピオンちゃんだって普段は口数少ないけどね、ほんのちょっぴり嬉しそうなの。ほんのちょっとだけ口数増えるのよ。チャンピオンちゃん、本当はみんなと仲良くしたいのね。私だってそう、クラスのお友達と仲良くしたいの」
ガンガンちゃんの楽しそうな声は、ジャンプの耳を素通りしてく。
「サンデーちゃんだって。すごく嬉しそうだもの」
ここで視線がやっと上がった。
「・・・サンデー?」
「サンデーちゃんには気配りしてもらって、お世話するこっちが助かってるの。
反対に気疲れさせてるんじゃないかな、って心配になっちゃう。
ジャンプちゃんなら分かるでしょ?」
見せた食いつきにガンガンの目は更に細まる。
ジャンプの視線が、その先を早く言え、と如実にせがんでいる。それにどうでもいい話をしてるのはわざとだ。
「プリント渡した時、とっても喜んでくれたもの」
「!」
「サンデーちゃんならたくさんご旅行だって連れて行ってもらってるでしょうに。
あんなに喜んでくれると、こっちも企画しがいもあるわぁ・・・
・・」
ジャンプはやっとプリントに手を伸ばした。
サンデーが?
久しぶりにサンデーの声を背中に感じた。そのまま振り向く。
あ、もしかして、ちょっと元気ない?
気分さえ向けば、後はジャンプちゃんは察しも早い。
マガジンちゃんの向かいに座ったサンデーの、瞳に力がなくて視線も落ちがちなのを見て取る。
「でっさー、正直ユニクロ、どうよ?。客が素通りだったら、泣くよ?オレ」
ケタケタ笑ってるマガジンにも、うなずくだけで表情に明るさがない。
ちょっと疲れてるような・・・?
サンデーは箱入りなんだよ、そこの元ヤン、あんま暑苦しくすんなっ。
そっか。サンデー、コラボ企画で忙しいもんね。そりゃ疲れてるし、オレと・・・・・
嬉しさと一緒に、胸にも温かい甘さが戻る。
企画話に忙しくて、オレとも会話どころか二人きりにだってなってない!
ジャンプは顔が熱くなりそうで、あわててプリントに手を伸ばした。もしかして・・・
「サ、サンキュ!」
顔を扇ぐように受け取った。
もしかしなくても、オレ一人で勝手にぃ????
ジャンプはあまりの事に、その場から逃げ出したいくらいだ。うわ、恥ずかしくて顔から火がでるーっ。
ふんわりと浮く前髪で、なんとかごまかしごまかし
「オレさ、あのコの従姉妹だし。それとなくフォローするよ」
ありもしない事にオレ一人でオロオロしてたとかぁ?
ガンガンに晴れやかな笑顔を向けた。
そういやあのコの表情が冴えないのに、気付いてたのに、ナニ?この失態。
マガジンの言葉的におかしいのだって、あのオンナらしいよ。オトコ受けばっか考えてるからそーゆー視点の発言が出たんだよ。サンデーのオトコ受けしそうな部分を観察してたんだ。お前が今頃清楚ぶっても遅いっての、バーカバーカ。
ええー?オレ一人が勝手に解釈して、勝手に疑って、勝手に落ち込んで?
プリントでふわふわ、顔を扇ぎつづける。
椅子の背に、ひじも置いて。その自信に満ちた様子がいつものジャンプちゃんだ。
そうじゃん、コラボ企画前はオレ達、ら・・らぶらぶ?うわ、照れる言葉?。あはは、らぶらぶだったのにオカシイじゃん。
えぇー?喜んでたって!しかもガンガンを喜ばす位だって、久々にオレと二人っきりになれて・・嬉しいってコト?
うっわ良かった?、自分内で解決出来て。こんなの誰にもに聞かせられないじゃん、恥ずかしー!
表情がすっかり晴れた。にこにこ、にこにことガンガンを見るジャンプ。
それをにこやかに、楽しそうに(?)眺めるガンガン。
「・・・マガジンちゃん?」
確かに精彩が失せたのは、ジャンプだけではない。
サンデーちゃんもだんだん、だんだんと元気がなくなっていったのは、ジャンプちゃんの察しどおりだ。
会話していても、手ごたえが無いのが従姉妹とまるでお揃い。今だって、会話の途中でよそ向いた相手に、声を掛けたのはずいぶん経ってからだ。
しかも熱のこもらない声。
「・・・」
マガジンちゃんは・・・
そんなサンデーの声を聞きながら、ガンガンとジャンプの様子も黙って眺めている。
眺めながら考えているような。
でもすぐに、くるっと向き直った。
「ごめ、ごめ?。どこまで話したっけ?」
「・・・ん。えーっと・・・どこまでだっけなぁ」
いつでも自分を保ってるサンデーちゃんらしくない。
ぼんやりしているようだ。自分の前髪に指を差し入れて、やはりぼんやりとたずね返す。
「そーだよ、オレらのユニクロTシャツの話じゃ?ん。ね?」
マガジンは明るく言いながら、まったく別の事を考えていた。
あー、ちくしょ。
どうしよ、なんか今、いろんな意味で頭抱えたい気分になった。
親睦会のジャンプちゃんの元気さときたら。
いつでも明るく健康、元気なのがジャンプなのだが、この日は特に機嫌もよかった。
「「飛べ!えちっぜ?んっ♪」」
今日は劇団四季の観劇と言う事もあって、白泉姉妹までがいつもよりも元気いい。
ホテルのレストラン、貸切の部屋で皆の前に出て歌いだす。
歌声も寸分たがわずだが。それからとる行動まで寸分たがわずだ。
「「ずる?い、跡部様役は私だよ?」」
おなじ立ち居地とアクション。
お気に入りの役柄をめぐって花ゆめが右手、ララが左手の拳を振り回すまでに至っては、クラスメイト達にいっそう華やかな笑い声を咲かせた。
「あはは、おっかしー、な、サンデー」
自社作品をまねっこされても、機嫌よく笑っている。
「・・・」
サンデーはそんなクラスメイト達にちらっと目線を上げて。
ただ、頷いた。あまり浮かない表情。
?どうしたんだろ?
・・・・・早く二人っきりになりたいとか。
ジャンプちゃんは顔が熱くなりそうで、あわてて手元のウーロン茶に視線を落とす。
冷たいグラスをしきりに撫でながら、ガンガンちゃんをちらちら見た。もー、オレら学校でも毎日会ってんじゃん!そのほわほわ姉妹がミョーなのも知ってるよ、そろそろさぁ・・・?
と、焦れていたら、まるでその思いが通じたようだ。
「うふふ、可笑しい。今夜の夢までお揃いだったりして!」
言葉と一緒に、幹事のガンガンちゃんが立ち上がった。
「二人を見てると時間忘れちゃうわあ。でもみんな、時計も見て?
こんな遅くまで引き止めたら、お預かりしてる私が怒られちゃう。
今夜はもうお休みしない?花ゆめちゃんとララちゃんの夢、明日みんなで聞かせてもらいましょうよ」
クラスメイト、一人ひとりを見ながら言うのに姉妹が同時に頷いた。
「「振りつきで教えちゃうー!」」
また咲く笑い声。
やったー!
じりじり待っていたジャンプちゃんは、粉砕・玉砕・大喝采。すぐにでも立ち上がりたかった。
が、ここは我慢だよ。
テーブルクロスの上で、拳を固めた。あんま派手な行動しちゃダメだよ、悟られないよう、悟られないよう。
隣と雑談しながら、ばらばらとクラスメイト達が立ち上がりだす。
ジャンプはそろそろいいかも?と、落ち着かなく隣のサンデーに、
「サ、サンデー?」
さっきから視線を落としているサンデーがやっとこっちを見た。
「あ、あのさあ、こ、今夜さあ、オレの部屋来ない?寝るまでまた、喋ろうよ?」
ジャンプは悟られないよう、と周囲に目を配る。
サンデーちゃんは・・・考え込んでいるようだ。そんなジャンプちゃんの横顔を見ている。
視線を据えて。
「こっ、今夜は駄目!」
サンデーが、ひとつ息を飲んでいきなり立ち上がった。
ジャンプちゃんを見下ろす。
はい?間が抜けたようなジャンプに、サンデーちゃんは半ば自暴自棄だ。
わめくような早口で
「こっ、今夜はマガジンちゃんとお話したいの!・・・・・・・・・・ユっ、ユニクロの商品配置・・とか?」
隣にいるマガジンちゃんの腕を取った。
部屋に帰ろうとしたマガジンちゃん。
おっとと、と引き止められる。二人を見てから、自分の腕も見る。自分の裾を握ってる指は、細かく震えていた。
「・・・」
「ね・・ね?いい?マガジンちゃん」
「はあ・・・別にかまわないけど」
「わあ、ありがと、やっぱりマガジンちゃんって・・・・・・・・頼りたくなるよねっ」
やはり恐ろしい発言のように、サンデーちゃんは早口で言う。
おいおーい。
「・・・・・」
そろそろ気付いてくれませんかねえ。
しかし、ジャンプに目を移しても・・・。
信じられない物を見ているよう。驚きにまん丸な目も、自分達二人を見ているようで見ていない。口も閉じられないようだ。
マガジンちゃんは目だけで天井を見た。
おいおーい、これじゃ、ゴールも見えてこないじゃない。
いつまでもボロ出しつづけて、で、いつまでも気付けない。
しかもタチが悪い事に、どうやら二人はどこまでも真剣だ。真剣に仕掛けてるし、真剣にそれに気付けてない。
「じゃっ、じゃ、行こう?どっちの部屋にする?」
「はあ」
マガジンちゃんには分かっていた。自分の背中を押すみたいに両手当たってるけど。
サンデーちゃん、ちっとも力入ってない。小刻みに震えてるし。
「マガジンちゃんの部屋行っていい?マ、マガジンちゃん、綺麗なんだもん。どんな洗顔石鹸使ってるか知りたいな」
洗顔石鹸って。ジャンプはあいかわらずこっちに目を丸くして言葉も出ない様子。
「パ・・・パジャマもお洒落なんだろうなー!わ・・・私の見たら笑われちゃうよー」
「・・・」
いつまでもいつまでも、サンデーはちらちらとジャンプを見ながら、ジャンプにも聞こえるよう・・・いや、聞かせるみたいな?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むっ、胸も大きいしっ。くっ、比べっこなんて・・・っ」
声も震えだしたので。
「そだね」
「!」
マガジンちゃんが反対にサンデーちゃんの手首を取った。
「行こ、行こー。
ジャンプも早く寝なよ。また明日ね」
いつまでも椅子から立ち上がらずに、自分たちをぼーっと見ているジャンプにも一声掛けてあげる。
あー、ダメだ。こっちは完全停止してるよ。
「マっ、マガジンちゃんっ」
いつまでもジャンプに振り返っていたサンデーが、必死に呼び止めている。
が、マガジンは無視した。
ほっといたら朝来るよ。ヒミツの仲なんでしょ?危機感、持ちなよ。
マガジンちゃんが急かしたが、ジャンプはぼんやりと去っていく二人を見送った。
椅子からも立ち上がれない。
誰かがぼーっとしている自分を立たせて、ホテルマンに託したのは覚えてる。大人びた立ち振る舞いだったような。つことは、幹事のガンガン・・・?
ジャンプちゃんは、ぼーっと自分の部屋のベットに座っていた。
時計はそろそろ、夜更けを告げる。
ぼんやりと壁紙の柄を見ている。
・・・・・どういう事?
頭が回らなくて、さっきからそればかりを繰り返している。
どういう事?・・・・・・・・・・・・サンデーがオレの言う事を聞かずにマガジンと・・・?
え?今日が嬉しかったのってオレだけ?え?でもサンデーもすごく喜んでたって・・・。
何故かふいに・・・自分の元を去っていった人々の後ろ姿がジャンプちゃんの頭に思い浮かぶ。
自分に愛想付かして、我が家を出て行く人々の後ろ姿。
あの時、「行くならどーぞ?」って態度だったかも。
相変わらず回らない頭で懐かしむ。
イノタケは別格としてさ。基本が去る者追わずっぽかったかも。だって他に戦力たくさんいるしぃ。これからもオレんトコ群がるし?オレって不自由してないよね?。過去の遺産食い潰して生きていけばぁ?
で、その人たちがどうなったかと言うと・・・・・。
あの、オンナだ。
マガジンの気持ち良く笑ってる姿が思い浮かんだ。
あのオンナ、外では上目遣いでくねくねしてんのに、内と外が激しすぎっつーの!
あのオンナの所を頼って行った。
・・あのオンナ、人間は出来てるもんね・・・。あのオンナの家で化けたのもいるし。
オレ、ちょっとワガママだしなあ。ジャンプちゃんは視線を落とす。
ちょっと・・・いや、大分、かも。
深いため息が彼女らしくもなかった。考えたくない、と必死だったのに。
去っていった人たちの中に、同じ制服の少女の姿が打ち消しても打ち消しても・・・。
違う!違うもん、サンデーはオレのコト、愛してくれてるから、だからなんでもワガママ聞いてくれてるんだよ!
あ、あのコは・・・生粋のお嬢で。いや、オレもお嬢様の内だろうけどさ。
あのコは掛け値なしなんだよ!本家筋の姓を名乗る、オレの家だって・・・ほぼ、あのコの家の物みたいなもんじゃん。なのにあんなに尽くしてくれるなんて、フツーありえないよ。オレみたいな分家のムスメになんでそこまでしなきゃいけないんだよ、おかしいじゃん!
・・・・・そう育てられたから?違う、違うもん!
マガジンは人間が出来ている。人情も深い。人も集まる。・・オレよか・・・一緒にいて楽しいかも。
ジャンプの胸のもやもやがぐるぐる、ぐるぐる、終わらない。
・・・・・・ゲームぐらいさせてやればいいじゃん、とか。もしかして思われてるのかな。
弱気が弱気を呼ぶ。小畑もだよ。取られたらどうしよう。キバヤシに小畑?ぞっとしない。
ジャンプちゃんは、自分がどんどん、どんどんと泥沼に足を取られてるのに気付けない・・・・・・
「ラインナップに改蔵Tシャツ、入ってたっけ」
マガジンは明るく言って、後はケラケラ笑う。
「改蔵君が絶望した!!なんて叫んだら、それだけでコラボ完成じゃーん。ね?」
「・・・あはは・・」
当のサンデーちゃんは力なく一緒に笑って・・・また、ちらっと時計を見る。
寝るに寝れないし、サンデーちゃんいるからお行儀悪い事も出来ないし。
マガジンちゃんはしょうがないのでさっきから雑談ばかりしている。
あーあ。マガジンちゃんはクラスメイトを観察しながら内心、同情する。
慣れない事したら、そりゃ疲れるし袋小路にもハマるわよね。
なんでまた、こんなコトしようと思ったのかね。
そのテに器用なはずもないムスメが。そもそもジャンプに完全追従しきってるのに、無理に決まってるじゃん。
性格的にも心情的にも無理。傍から見ててすら、分かりきってるよ。
1分も経ってないのに、また時計に目をやる。帰るそぶりも見せない。
マガジンちゃんはほとほと困った。何故にこんな世話焼けるのが、揃いも揃ってオレばっか回ってくるか。
末にそっとつぶやく。
「・・・サンデーちゃんとしてはさ。これからどんな展開になって欲しいわけ?」
サンデーちゃんはマガジンに向き直った。
ちょっと声色が変わった?
付き合ってもらってるマガジンちゃんに悪いよ、と姿勢が改まる。
「な、なにが?」
「この後、どーして欲しいの?」
「・・この後・・・?」
「読みきりのラブコメって、何本もあるじゃん」
「あ、う、うん。仕事の話ね」
膝を正すサンデーちゃんに
「あれさあ、主人公とヒロインのこの後、とか・・・あったら、どーなりたいわけ?
サンデーちゃんならどんな展開希望?どーなりたい?どーして欲しい?」
マガジンに向き直っていながら、でも、サンデーはちっとも話に身が入ってない。
自分で一杯いっぱいのようだ。ぽろっとこぼす。
「・・・泣いてすがられたい・・・?・・」
「・・・」
マガジンちゃんは聞かないフリしてあげた。
「泣いて・・・泣いて、行かないで、って。
あんたしか好きじゃない。オレにはあんただけだって。
だから行かないで、って。お願いされたい・・・かな。すっごく」
「・・・・・」
「もう・・・どうでも良くなっちゃったのかな・・・だからなんにも言わないで・・・・・」
サンデーを観察しながら、マガジンちゃんは思った。
泣いてすがるって。サンデーちゃん、アナタが泣きそうよ?
その時だ。
部屋の電話が鳴った。
サンデーちゃんは我に返ったようだ。えへん、えへん、としきりに咳き込むのも、マガジンちゃんは聞かないフリしてあげた。
電話に這い寄りながら
「?なんか連絡かなー」
受話器に手を伸ばす。
『フロントですが。集英様のお電話を繋いでもよろしいでしょうか?』
「へ?ああ?。はいはい、お願いします」
やれやれ、やっとか。
マガジンちゃんは肩の荷が下りた気分でほっとした。
電話が切り替わって
「オレ、オレ?」
『・・・マガジン?』
「あはは、寝れないか?。今、変わ・・・」
返事を待たずに、受話器から大きな怒鳴り声が返ってきた。
『おっ、お前!なんかヘンだと思ったんだよ、オカシイじゃん、そもそもなんでユニクロなんだよ!』
うわ、うるせ。
マガジンちゃんは耳から受話器を離す。
「・・・?」
心配そうなサンデーに笑顔で頷く。これは相当のお怒りね。
『圧倒的にサンデーに有利だろうよ、お前の読者はアニメイトが顧客だろうよっ。オレの目は誤魔化せないからな、あんた、サンデーに取り入りたいんでしょ、サンデー有利の場でご機嫌取ってんでしょ、そうでしょ、おかしいよ、あんた』
しかも、これ、怒りで錯乱してるよ。
うぜ。どうにかして落ち着けないと。
『何が目的だよ、この無節操オンナ、吐けよ、吐け!!』
「!」
受話器を眺めながら、マガジンはひらめいた。
妙案に意地悪くしのび笑い。
ここってスピーカーホンとか無いのかな?
おっと、発見。泳がせていた指が、ひとつに止まる。
ははっ、悪いコトは出来ないネっ。
八つ当たりする子にはおしおきだべ?。
ぽちっとな。
『あっ、あんた、なんでサンデーに取り入りたいんだよ、あ、分かった、子供向けコンテンツ狙いだろ、お前、ガキ苦手だもんなーっ、必要なのは大きいお友達って?ははっ』
ジャンプちゃんっ?!
サンデーは瞬間で顔を上げた。
部屋に響いた怒鳴り声。
そのままマガジンちゃんを見たら、こっちに向かって肩をすくめてる。
こ、これは一体・・・・・。
『なんだよ、なんだよ、あんたなんてサンデーにちっとも似合わない!!』
しかも・・・どうしよう、泣いてる?
怒鳴り声はだんだんと、興奮したような涙声も混じりだす。サンデーは胸元をぎゅ、と握った。
『そうだよっ、おっ、お前みたいな泥くさいオンナっ、清潔なサンデーにちっとも似合わない、似合いっこない!!
そもそもお前なんかまったくダメだね!オレなんて・・・っ。オレなんて、身一つでここまで来たんだぞ?!分かってんだろ、レコード会社もテレビ局もなにひとつねーよ、そんでここだぞ、むしろオレが我が家、背負ってんじゃん!!
あっ、あんた、オレの場所まで・・・来れないクセに!そっ、そんだけバックがありながら・・・っ、一度だけじゃん、一度だけで・・・・・それっぽっちなんて、それっぽっちなんて・・・オレのがっオレのが・・・・・っ』
サンデーちゃんが飛んできた。
「ジャンプちゃん?!」
奪うように受話器を取る。
おっと。素早く身を引く、マガジンちゃん。
このコ、乱心すると怖いんだよね。
サンデーちゃんの様子には、いつもの穏やかさも、優しげな落ち着きも無い。
『・・へ・・・?』
「ジャンプちゃん?!どうしたの?泣いてるの?泣いてるの、どうしたの?!」
・・・ものすごい間が空いた。
「な、は、サ、サンデ・・・・」
こちら、ジャンプちゃんのお部屋。悶々、悶々、と考え込むうちに・・・。
頭が熱くなってきた。
今現在の、この怒りもしょげてんのも、そういやみーんなあのオンナが悪いんじゃん!
そうだ、あのオンナだ。あの元ヤンがみんな悪い。
そもそも、なんでも横からかっさらうマネばっかしやがって、いつでもあのオンナはそうだよ。育てて来たものを、横からかっさらって。そんなのばっか上手くって、あったま来た!!
じっとなんてしてられない。
すぐに受話器を掴んでフロントにダイアルして繋いでもらった。本当、我慢しないコだ。
そうしたら・・・
『どうしたの?!なにがあったの?!』
怒りをわめき散らしていた相手が、急に変わった。
『どうしたの?どこか痛いの?困ったの?』
「・・・・・なっ、なっ、なっ」
『部屋に備品足りてないの?今すぐ行―――』
受話器から聴こえてきた声に、顔にもかーっと血が昇る。
思わず受話器を置く。
がしゃん。え?え?な、なんでサンデーが・・・。
「!」
サンデーちゃんは反射的に受話器を見た。
通話は切れていた。ツー、ツー、ツー。
どうしよう。で、電話をもう一度・・・?ううん。携帯で・・・あ、でも携帯は・・・・・。
ちょん、ちょん、と肩を突付かれて。
サンデーは、もどかしい思いで振り返る。
そこにはマガジンちゃん。ど、どうしよ、今、それどころじゃ・・・。
「行ってあげたら?」
気にした風もないマガジンちゃんの笑顔。
なにも訊かないし、なんでもない事のように軽く言う。
「・・・え?」
サンデーが迷うと。
「ジャンプ一人勝ちで余裕かよー、って嫌味に思ってたけど。
ははっ、カワイイとこあるじゃん。ほんとはオレらのコラボ企画、不安だったんだ?」
言葉を添えられて、しかもその言葉は
「・・・不安?」
「えー?そんな様子じゃね?
内心、びくびくみたいに。あはは、行ってあげなよ。身内から気休めでも言ってあげたら?」
マガジンちゃんの言葉は、ごくごく自然な反応。
疑われてもない。そうだよね女の子同士で恋なんて、いくらマガジンちゃんだって思いも寄らないだろうし。従姉妹が従姉妹に・・・?うん、ちっとも不自然じゃない!
サンデーは、安心の笑顔でおおきく頷いた。
「うん!!」
その後のことは、普段の彼女を知る人が見たら、ちょっと驚きだ。
いつでも慎重で品行方正、取り乱す姿を見れる事が難しい少女なのに。
「ごっ、ごめんね、ごめんね、明日謝るからねっ」
いや、謝ってるじゃん。マガジンが笑いを堪えて見守る中、自分の手荷物を目にも留まらぬ勢いでまとめる。
最後にほとんど残ってる爽健美茶の缶をトレイに戻して、
「ごめんね、また明日ね!」
バタン、と勢いよくドアを閉めて出て行った。
ドアの向こうで、遠くなっていくスリッパの音。ぱたぱたと廊下を叩く・・・・・
マガジンちゃんはそれが消えるのを待った。
音が聞こえなくなってから。
はぁー、とやっとベットに転がった。ごろんと大の字になる。
あー、もう、あの二人は!
今度は声に出して笑った。どこまで面倒かけるんだよ!
頭の下で腕を組む。
・・・本当に。迷惑ばっかかけて。
昔っからそうよ。こっちの都合もお構いなしだもん。
あのオンナは好き勝手な活躍ばっかして。
海賊漫画、流行らすなら流行らすって言えよ。死神も、忍者も、バスケもなんだって好き勝手に。人の都合も考えないで、自由奔放なジャンプとの思い出に悪態。
去っていったサンデーにも苦笑い。
っとに、アナタが皆勤賞総ナメだと身につまされますよ。欠席も遅刻も、宿題の提出だって漏れがないんだもん。あはは、オレなんて、周りが知ってるわよ?ある程度休まなかったら、そろそろかなーって。ええ、そうですよ、ズル休みですとも、それが何か?
ああ、もう本当に。
あの二人は、本当に昔から振り回してくれるし・・・・・でもどっちも憎めないしで、ほんっともう・・・。
でもこれが世に言う、相互扶助関係?
久々の開放感に、マガジンちゃんは大の字ついでにのび?、と伸びをする。
最近、夜遊びもしてない。遊び友達のメルアドみんな消去されたし、そういやスカート丈計るの、教師の仕事だろよ、お酒も禁止された。
なのに1ペリカも寄越さないのよ、あのおねーさまは!
嬉しそうに跳ね起きる。本当、体力のあるムスメだ。サンデーちゃんが分かりやすく部屋に来てくれて助かったわあ。サンデーちゃんが模範生なのは定評だしね?。
久々に欲望へのダイブのために、冷蔵庫をあれこれ物色するマガジンちゃん。
携帯が鳴ったので、あわてて枕元まで引き戻された。なんだろ、サンデーちゃん、まだ困ってるのかな?
『ああ、マガジンちゃん?私よ、私』
「・・・・・」
電話の向こうの声は
『ユア・スイート・ハート。サンデーちゃん、そろそろ帰ったかなあって。どう?今そっち行っても大丈夫かしら?』
講談マガジン、確保っ・・・!無念・・・!あまりに、無念っ・・・!
雑誌界の女子は大好きな読者と共に新しい未来(シナリオ)を描いてゆく
エロシナリオは次号掲載予定。ご期待ください!
第六話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」