第五話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」

第五話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」

61 作

育てられたサンデーの百合とジャンプが遭遇


古色ただよう学び舎に、花もほころぶ少女達の笑い声。
こちら千代田女学院。日本の雑誌界の息女の女学校です。
生徒の実家は、歴史ある家柄から新興の出版社まで種類もさまざまだ。
ただクラス分けが成績順なので、教室は自然と見知った顔ばかりになる。


「春だもんねえ、うんうん、春、春」
うつらうつらしていた白泉姉妹が、お互いの額をぶつけて我に返る。あわてて前髪を押さえて言い訳するがこれがマナカナもびっくりなユニゾンなのだ。
クラスメイト達が可笑しそうなのは、次の二人の反応まで分かるから。
姉妹はほわ?とお互い顔を見合わせる。姉の花ゆめが右に、妹のララが左に。同時に首を傾げてから、後はほわほわ、ほわほわと照れ笑いしあう。
「「やだぁ?。また重なっちゃった?」」
二人の声に教室中に咲く笑い声。なんともいいお花畑っぷり。


そんなお花畑っぷりの中、講談マガジンは具合が悪そうだ。
机に頬を預けたまま、笑い声もただひたすら聞いてるだけ。

調子が悪い、ではなくて具合が悪い。

めったな物を食べても平気だろう、と自信があったのに。
だって泥をかぶっても全然平気。なんならすすりもしますが?それで生き残れるなら上等じゃん。生命力には自信がある。
・・・そのオレがこれ程ダメージ受けるとは。
「サンデーちゃんご愛用おかずぅ?」
手渡されたノートをすみからすみまで読んで・・・あまりの事態に頭を抱えざるをえない。

マガジンちゃんはお花畑教室に向かって教えてあげたいくらいだ。
検閲官ってすごいんだぜ?!
クラスメイト一人一人を見渡して。おなじ業種の少女ばかりだから検閲、なんて単語だけでも眉をひそめるだろうが。声高に諭したい。
検閲官って偉大な人物達なのよ、知りたくも無かったけどね!「無料でエロゲ出来ていいな?」なんて思ってたら罰当たるんだよ、エロ幻想は闇よ、幻想だけに果ても無いしね、それを現実社会に照らし合わせてつぶさにチェックよ?

・・・しかも。マガジンちゃんは涙を飲んだ。対象がクラスメイトなんだよ、はは、どっちも仲いいんだぜ?

こんな時にはジャンプに丸投げだ。マガジンちゃんは部室でジャンプと二人きりになった。これはチャンス、と相手をうかがいつつ間合いを計る。
「ねぇねぇ、ジャンプってさあ」
「んー」
「エロ本、どこに隠してる?」
今まで気楽そうに靴の中の芝生をたたき出していた同級生は
「はあ?!」
裏返った声を上げた。よし!掴みはオッケー!!


「な、な、な・・・っ」
真っ赤になって泡を食っている。よーし、話題の穂は掴んだぜ。
「エ・・・エロ本??!」
「うん。見つかったらイヤじゃん?隠し場所、どこ?」
ジャンプちゃんはしばらく口をぱくぱくさせていたが。
「エ・・エロ本なんて・・・読むわけないじゃん!」
それから目をきょろきょろさせる。
「オンナがエロ本なんて読むわけないじゃん?なんだよ、ガキかよ」
あはは、無駄に抵抗すんじゃないわよ。
「ははっ。だよね?」


悪いと思いつつ、マガジンちゃんも後がない。手荒く畳み掛けだす。

「ニュースってさあ、必ずエロ本晒しが付いてくるじゃん。あーゆーの見てるとマジかよ?って思わない?」
ジャンプの手が一瞬止まったのが見えたが、さり気ない会話を続ける。
「こっちは勉強になるんだけどさあ。晒された人達ってヒサンだよねぇ。周りにマジかよ?って思われてさあ。生きて行けねーよ、ははっ」
ジャンプの返事の勢いがだんだんなくなる。考え考えなのか、
「ま、まあ・・・」
「でもオレらにエロ本は無縁。・・・それにあんたは小説読まないし。大丈夫かぁ」
うん、うん、と頷くと。欲しい質問が返ってくる。
「オレは・・・って?」
「?小説って言ったらサンデーちゃんに決まってるじゃない?」
ジャンプの表情に緊張が見える。う?ん、自然な流れだネ!


「サンデーちゃんの悩み聞いて、ってこの間頼まれたじゃん?
で、その時に出た作家の名前聞いてさ。世間的に大丈夫かな?って」
「・・・どういう事?」
「愛好家の集会、隠れて開いてるって話したでしょ?あー、なるほど、って」
ジャンプがうんうん、とさっきから視線を外さない。
「カルト的な作家って聞いたことあって」


ジャンプは・・・マガジンに頷きながら、この時、肝が冷える思いがしていた。
ジャンプはマガジンの事を決して軽んじてはいない。実力も知ってるし、その性格も本当は悪くない事も知っている。
そのオンナが、これ、すっごい複雑そうなカオしてない?

「あ、いや。そんな表情しなくって大丈夫よ?だってあのサンデーちゃんだも?ん!
え、えーっと・・・その、内容はフツウなの。えーと・・直木賞っぽい?カンジ?」
はっきりしない語調とあれこれ言葉を選んでるみたいな間合いが気になるが。
「だけどそのぉ・・・そう!本文以外。ほら、参考文献だよ。分かる?最後のページに題名がずらーっと並んでるヤツ」
「・・・参考文献・・」
「本文ではないんだけど・・・そのぉ、そう、題名だけだよ?でも・・・・・
・・・・・人類黒歴史的な?ほら魔女裁判?とか奴隷貿易?みたいな・・・ねえ?」


だがジャンプは血の気が引く思いでマガジンから視線を外せない。
身に覚えがあったからだ。そういやあのコ、直接的にえらい過激な本の題名、言ってなかった?まあ読書自体は褒められるコトだし、と気にならなかったけど。
最後に名前が並んでるだけでも問題なら、もしかしたら結構マズイんじゃ・・・。

「単語だけでもちょっと・・・ねえ?あんた心配にならない?
そんなわけ。?あれ?なんか本題から外れたわね?。で、あんたエロ本どこ隠す?」
ケタケタ笑いながらマガジンはくるりと背を向けてぐっと拳を握りあげた。
丸投げ成功!
背を向ける間際のジャンプは、困惑と焦りで部活どころじゃなさそうだった。

「ね、ね。ジャンプちゃん」
移動教室で廊下を歩きながら、サンデーがそっと声を掛けてきた。
「図書館・・・仕事はもう終了したよ?いつでも、その、案内出来るから。ね?」
そんなサンデーの笑顔を見ながら、ジャンプの心中は複雑だった。
主に昨日マガジンに言われた内容で。と、図書館かぁ。あそこは確かにいい場所だけど。

「へ、へぇ?」
でも今回は避けたい。なんつーかアウェイで戦う気分になる。
「それもいいけどさ。うーんと・・・そう!あんた、そろそろ記念日じゃん?」
「うん?」
「ジュビロ帰ってくんでしょ?じゃ、あんたとこの先生、縁の名所めぐりなんてどうよ」
「!」
「オレも勉強になるから案内頼むわーって実家に言えるしさ」
サンデーの表情がこれ以上ない、って程に輝いた。


サンデーの喜びようが予想外なほどだったが。まあいいや。それどころじゃない。
「ジャンプちゃんが?!嬉しい!
ああ、どこが・・・縁?縁の地?秋葉原?ううん、私たちは目立つかも。甲子園も遠いしメジャーリーグなんてもっと無理。どうしよう・・・」
サンデーはもどかしいように考え込んでいたが。
「うん!私の家の先生方は民俗学に熱心だもの。没後の先生のお墓参りや設立された施設めぐりなんてどうかな?私はよく行くから。案内できるよ、まかせて!」
はは・・やっぱソレになるわけね。でもちょっとはマシかも。ジャンプは力なく頷いた。


当日はジャンプの心と正反対ってほどの晴天だった。
春先の風がさわやかだ。ジャンプの鼻先をかすめては去っていく。
待ち合わせの場には、すでにサンデーが立っていた。
そういやあのコに待たされたコトあったっけ?駅前に白い帽子と同色のワンピース姿を見つけたジャンプは、嬉しさよりも緊張に拳を握り締めた。うわ。汗かいてるし。手のひらの湿りに気付いて、あわててローライズのジーンズで拭く。


「まずは小泉八雲のお墓参りね。遠方の先生のお墓は中々行けなくて悔しいよねぇ。でも雑司ヶ谷はたくさんの先生が眠る場所だもの。ジャンプちゃんだって絶対に楽しいでしょ?」
サンデーが熱心に説明している。
どうやらとても嬉しいらしい。頬がばら色に輝いている。舞い上がってるような口調。

・・・ジャンプの方は、それどころじゃないが。
頭の中は今日の計画で忙しく回っている。どうせチンプンカンプンだし、放っておいてもいつまでも語ってるだろう。上の空だ。
最初の目的地は都電ということで、言われるままに乗り込む。
乗り込むと同時に、列車はゆったりと出発した。
ごとごと、ごとごとと揺れる。申し分ないって程の少女達も、揺られるままでなんとも絵になる。・・・恐らく二人の心中は正反対だろうが。

春の光が優しい。隣を歩くサンデーの声もあわせるように明るい。
「どなたにも参りたいよねぇ。ジャンプちゃんも手を合わせたい方がいたら教えてね。喜んで一緒に参るよ?」
適当にうなずきながら・・・ジャンプはさすがにちょっと目を細めた。
穏やかな日差しの中で帽子と一緒に花束を手に下げる恋人。
白色も麻の布地も、みんな清潔感ある彼女に似合っている。花まで。決まりすぎてるくらいだ。
ああ、これが本当に二人の、デ、デート・・だったらな。二人のデートで・・・こうして春の日差しを歩いてるんだったら・・・・・。


墓地は想定外だったけどね!!


ジャンプは出鼻をくじかれたようで爪でも噛みたい。
マガジンの話を聞いてから、どうやって切り出すか考えてたのに。
タイミングも。いつ切り出そうかな?。周囲を見回した。早くケリ付けたいんだけどな?、オレ、そんなに気が長くもないし。
長くないと言うか、なんでも即決のジャンプではあるが。
でも・・・墓かあ。さすがに墓はちょっとなあ。
初等部からの体育会系のおかげで上下関係には敏感だ。周囲の墓の大きさから、一角の家柄・人物の墓地なのを悟って、脱いだキャップでカットソーのロゴも隠す。

あ、いや待て。

ジャンプは薄い胸元にキャップを押し付けて考える。
もしかしたら・・・ここ、絶好の場所?
ここってサンデーの尊敬する本?のヒトの墓があるんだよね。
尊敬してるとかいうヤツの墓前で嘘は言わないだろう。
いいじゃん!これは巡りあわせかも。うん、サンデーの日ごろの行いのよさだよ。
思えば雰囲気も悪いわけではない。人気もうかがう。入り口辺りが一番に混雑している。へー、親族多いんだ。


尊敬する作家とやらの墓前に献花するサンデー。
ジャンプもそれを真似しながら盗み見る
よし、これは速攻だしオレペースだね。イケる。死んだヤツら、今を生きるオレ達に貢献しろ。名前も知んなくて悪いけど、役立ってもらうぜ。

「あのさあ、サンデー」
手を合わせて。そしてゆっくりと顔を上げたサンデー。穏やかな瞳で、穏やかに首をかしげる。
「ひとりえっちしてる時に読んでるおかず、教えてよ」
「!」
その目が見開かれる。


今日のサンデーちゃんは、それはそれは舞い上がっていた。

いや、約束をしたその時から。ジャンプちゃんと二人きりで休日、一日中を過ごせる。しかも私の記念日のためだって。昨日は眠れなくていつまでも布団の中を寝返りばかりを打っていた。あ、藤田先生は私も大好き。またご活躍して欲しいな。

布団の中で何度もため息を付く。
話が上手すぎと思わないでもなかったが。大勢に仰ぎ見られているジャンプちゃん。みなが注目して、一挙一足に周りの人すべてがそわそわするジャンプちゃん。
一日、独占できて、関心までが一日中、私なんだ。
手を合わせた時などはお礼の報告までしてしまったぐらいだ。一読者のサンデーちゃんだが彼女にとっては神霊感覚なんだろう。


その、浮き立つ気持ちから血を一気に足元に落とされた気分。それまでが幸せの絶頂だったので、サンデーちゃんはその落差の方にまず付いていけない。
「・・・おっ、おかっ、おかっ?・・・・・・」
「ん。おかず」
自分の声が裏返ってるのに気付けないほど動揺した。
・・・・・・そして昨夜の昨夜まで使い倒した内容を振り返る。
「?」

思い出したとたん。すぐにジャンプから目を逸らした。目の前の相手をまともに見られない。きゅ、と目をつむる。
ここ最近、私がいただいていたおかずってもしかしたら相当にい、逸脱して・・・。
質問の理不尽さが置き去りになってるのはジャンプの作戦勝ちだろう。サンデーは疑問も持たずに、素直に質問の返事を吟味する。
しかも、じ、じ、人権・・・・も、もしかしてあれは人としての尊厳を奪うような・・・・・・
でも、あれは文学で!


「!」
ここでサンデーちゃんは更に重大な事に気付く。
その使ってる当の内容はガンガンちゃんが書いた物。わ、私ったら友人の書いた物をそれ目的でなんて。

 ガンガンちゃんのほんわかとした笑顔が思い浮かぶ。

ガンガンちゃんほど文学に対して真摯で誠実な人物にもなんて事を・・・。
一度、サンデーちゃんは質問した事があるのだ。「なんで自作品をスイーツって呼ぶの?」。ガンガンが時折ノートの事をスイーツと呼ぶので疑問だったのだ。そうしたら「口当たりまろやかやな子供騙しだからよ」と、ころんころん笑ってた。
これにはサンデーは感心のため息しかない。これほど熱心に読みふけった作品はここ何年もないのに。それを子供騙しだなんて。自作品にも厳しく当たる姿が同世代だろうと文士と呼びたいくらい。
そんな感動を覚えた、しかも創作したのは友人だよ?今更ながらに、ガンガンにも顔向けできない事をしてしまったと気付いて顔も上げられなくなる。


ジャンプはそんなサンデーの表情を観察しながら・・胃が重くなる思いだ。
恋人の表情の変化は目まぐるしかった。驚いて小さく息を飲んで、それから一気に顔を赤くする。いや、ここまではまったく普通だろうけどさ。

「あ、あの、おっ、おかず、な、なんで・・・っ?」
視線がきょろきょろ落ち着かなくなる。唇は小さく震えてる。
その様子が叱られる前の子犬のよう。あー、やっぱヤバイ状態なんだ、オレ達っ。
「あ、うん。言いたくない気持ちは分かるよ」
「・・・・・じゃ・・じゃっなんで・・・っ」
サンデーの体も震え出す。
「でも、オレ達はなんでも本当の事を話し合う仲だよね?」
お墓の前で手首を握ったのは、嘘を吐かせないためだ。読んだ事ないのにごめん。力、借りるよ。
「で、オレってあんたのなに?」
「・・・」
「オレ達の関係ってなに?」
サンデーがもう一度息を飲んだ。うつむいた顔に、かすかに嬉しそうな色が混じったのがジャンプにとってせめてもの救いだ。
「・・・・・・・・・・・・・あ、あの・・こ、恋び・・・」

小さくなる語尾に、ジャンプは強くうなずいた。
「そう、恋人関係。
で、オレがタチであんたがネコ」
「・・・でも、なんで、なんで・・」
かすかに抵抗するような声色に、ジャンプは強く相手を見据えて声色を落としてゆっくりと言う。
「いいでしょ、オレがリード役だもん。オレの気分だよ」


この少女は勝負どころがセンスで分かるのだろう。
業界のトップを譲ろうとしない強さも手伝う。有無を言わさない強い口調。


「リードされ役のあんたに指示するよ?おかずになに使ってる?
ね?題名言ってみなよ。小説?漫画?」
「そ・・そんな・・・そんな、あの・・・・・」
「なに?あんたオレの言いつけ守れないの?
タチのリードには従うのがルールだよ?それ守れないのって、恋愛関係が成り立たなくなるって事になるけど。どう?」
サンデーが震えるようにかぶりを振った。

見る人が見たら「どんだけマニアックなプレイだよ?」と、腹を抱えて笑ったかもしれない。
日本を代表する文豪達が眠る霊園で。
わが国有数の出版社の娘達が。

しかし、幼い二人は真剣そのものだ。
まだ幼い顔付きながら、ジャンプの視線は真剣に相手に据えられている。
サンデーは真剣にその視線に震えている。


二人の間を春風がなでるよう。ふんわりと去っていく。


サンデーは・・・ぶるぶる、ぶるぶる震えていたが。
「ね?話してみなよ、怒らないし」
ジャンプが心配になって肩に手を置いたとたんに
「・・・・・っ・・」
肩を跳ね上げた。
あわてて顔を覗き込むと、サンデーの唇はわなないている。うわ、これは泣き出されるかも?!

マズイな。ちょっとパニック状態にさせちゃったかな。

ちょっとどころか、褒められるくらいにいいプレイっぷりだが、ジャンプの視線は忙しくめぐる。
周囲を警戒する。ヤバイな、人いるし、話聞かれたら事だ。
いいロケーションだけど、でも手放さなきゃ。
嗚咽が止まらないようなサンデーの手を引っ張って、きょろきょろする。


そして霊園の端の空白に目を付ける。ちょっと公園っぽいのあるじゃん。連れられた子供達が遊ぶのか、小さめだ。さり気なさもナイス!
入り口と反対なのもいいな。入り口の人気をうかがってから、ジャンプはひとつ頷く。
墓参りのヒト達、このコは故人に泣き出してなぐさめに退場させられた、とか思っといて!親族だったら分かるだろ?

ジャンプはしゃくりあげているサンデーをなだめるように、しばらく抱きとめて背中を撫でる。でもその背中も、おびえるようだ。がくがく震えている。
ずいぶん動揺してるようなので、ジャンプはかき口説きだす。
「オレでも駄目なの?」
「・・・だっ、だって・・・・・」
「恋人だよ?恋人に隠し事?しかもオレがタチだよ?だったらタチの言う事聞かなきゃ」

マニアックプレイ、絶好調。

いったん退いた公園で、ジャンプはベンチの先っぽに背を預けた。そのまま地面に座り込む。サンデーはジャンプに倣うようだ。一緒に地面に直に座り込んで
「オレの事信じてないの?」
サンデーは顔を上げて、まさか、という様にかぶりを振った。

ワンピースの白い裾も、とても気を配る事どころじゃないらしい。懸命な目。
ジャンプはその様子に痛ましい気持ちはあったが、
「じゃ、言えってば!言うんだよ、あんたはリードされ役。じゃあ、オレの言う事に従う!」
サンデーは、そのままかぶりを振り続ける。
「・・・・それともオレのリードを・・拒むっつーか拒否るっつーか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ち、ちが・・・・・・・・・っ」
サンデーはジャンプの表情に更に震えて、かぶりを振り続けた。
「・・・・・・・ち、ちがっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・い、言えないだけで・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・だって・・嫌われちゃう・・・」
嗚咽の合間、切れ切れにサンデー。
「・・・・・・・そっ、そんな・・・・・・・・・・・・そんな、だって・・・・・・・・・・・お、おか・・・おかっ・・・・そ、そんなはしたない・・・・・・・・・・っ」

言葉だけはいつでも正論なのが、この二人の複雑なところだ。


ジャンプだけを見つめて、懸命な声で
「そんなはしたない事、い、言うなんて・・・・・・・・・・・・・きっ、嫌われる、わ、私、ジャンプちゃんに嫌われたら・・・・・も、もう生きていけないよ・・・・・」



ジャンプちゃんは。そんな場合じゃないのに、うわー、とこみ上げてきた。
違うんだってば!今日の目的、そっちじゃないんだって!
サンデーは、自分の胸の中でなんどもかぶりを振る。

「・・・し、死んじゃうよ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんな恥ずかしいだけじゃないのに・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・」
「そ、そんな、おっ、おかずなんて・・・・・き、嫌われちゃうよ、わ、私、ジャンプちゃん失ったら・・・死んじゃう、きっと死んじゃう・・・・・」

でもジャンプは聡明な少女だから、教えられなくても肌で理解する。
うわー、サンデーが言ってるの、なんだか熱烈な告白ちっくじゃん。うわ、ヤバ、それどころじゃないのに・・・
こみ上げる甘さに、身震いしたい気持ち。今日の目標、そっちじゃないじゃんっ。

でもサンデーの嗚咽を抱きとめながら、ジャンプちゃんの鼓動は早くなるばかり。
うわー、今キスしたいな。
胸元の震えるまつげを見ながら思った。
あー、すっごい盛り上がった気持ち。サンデー泣いてる。今は無理かなー・・・。
ジャンプはきょろきょろと周りを見回した。

なんども前髪ごしに唇の感触がして、サンデーはそろそろと顔を上げた。

い、一体どうすれば・・・。いただいているおかずをジャンプちゃんに?
それを思うとサンデーの心臓は震えあがる。
嫌われる!おかずをいただいてる事実だけでも大問題なのに。あ、あんな勝手に。一個の人間の言動を、好き勝手に想像するだけでも不道徳なのに。
さらに友人の書いた物をだなんて!!
ああ・・・そうか。ジャンプちゃんは・・・・・。
サンデーは観念し出した。気付いていたのかも。聡明なジャンプちゃんの事だもの。自分に向けられた身勝手さも。友情を裏切ってるのも全部悟って、眉をひそめて。

ああ、どうしよう。サンデーは眠る故人達に祈りたい。

がくがく震える。う、嘘を・・・?駄目、わ、私は恋人・・・うん、ジャンプちゃんの恋人なんだもん!!
どうしよう、い、言ったら嫌われる。それだけじゃない。もしかしたら汚いもの見るみたいな目に・・・?
サンデーは気が遠くなりそうだ。
たくさんの魅力的な、人にも物にも囲まれてるジャンプちゃんだもん。それでなくてもすぐに他に興味が移って、私なんて振り返りもしなくなるかもしれないのに。
そんな、死んじゃう、漱石先生、他先生、どうか、どうか!!

次は唇だな、としぐさで察してサンデーはもっと顔を上げる。従順なムスメだ。
「・・・・んー・・・」
深く重ねて、お互いに
「んぅ?・・・・・」
舌もそっと入ってきたので、サンデーがあわせて軽く唇を開ける。ジャンプの動きを邪魔しないように
「・・・ぅんっ、・・・・・」


お互い、舌と舌をからめあう。ちゅっ、と唾液が音を立てた。


「・・・?」
サンデーに身体を硬くされて、ジャンプが薄目を開ける。
「・・・ん?・・・」
・・・ちょっと苦しそうな表情。身体は固くてほどけない。
?どうしたんだろ。抱きしめていた力を緩めると、サンデーは逆に抱きついてくる。
?。何かオレ、苦しい思いさせてるのかな。
力を緩めたり、努めて口で呼吸する回数を増やしていたが・・・サンデーの緊張がほどけない。
その内に・・・ごくっ、とサンデーの喉が鳴った。

身体のこわばりが最高になって
「・・・・・っ、・・ふっ、・・・」
「!、ど、どうしたの?!」
同時に、とうとうサンデーがしゃくりあげ出した。ジャンプはおろおろする。
や、やっぱ泣いてる途中でキスし出したの、良くなかったのかな。いくら我慢強いサンデーだって・・・

「・・・・・っ、わ、私、おかしいの・・・・・・・・・っ・・・」
「・・・・・・」
サンデーが、涙声で切れぎれにかぶりを振る。
「お、おかしいの、ジャ、ジャンプちゃん・・・・わ、私、異常だよ・・・・・っ」
「・・あはは・・・」


うん、薄々、それ知ってんのよ。
ジャンプちゃんは苦笑いしたい気持ちだ。
「・・・うん。大丈夫、話してごらん?」
「ジャ、ジャンプちゃんの・・・っ、つ・・・・・・・・・・・・・・・・・唾・・・」
「?」
「つ、唾を飲んでうれしいなんて思っちゃうの!!」


間が空いた。ジャンプちゃんの口も、ぽけ、と開く。

「・・・・・」
「ど、どうしよう、わ、私、異常なんだよ・・・っ、あ、あんまりジャンプちゃんが好きすぎて、こんな、こんな常軌を逸した・・・!」
「・・・・・・・」
「気持ち悪いでしょ・・・っ?非常時でもないのに、他人に唾液だなんて。
人命救助でもないんだよ?!いつでも水道水、飲めるじゃない、なのにそれを飲めたら嬉しいとか・・・・・もう、もうどこまで私、異常なの?」
「・・・人命救助?」
「そうだよ・・・っ。清潔な真水が手に入らないから、とかそんな非常時に脱水症状で、とかなら・・・なのに私、個人を特定してまでなんて・・・
異常だよ!!
・・・・・もう私、私、実家にだっていられない、どうしよう、こんなの人に知られたら・・・!」
ジャンプは・・・思わず噴出した。


「ははっ、それ、マジぃ??」
ジャンプちゃんは笑いながら、改めて恋人を抱きしめた。
「ねえ、マジで言ってるの?それって異常なの?」
「・・・」
「だったらヤバイよ。オレもだもん」
サンデーが驚いたようにジャンプを見る。
「嬉しいに決まってるよ。サンデーの唾飲むのって、それだけふかーくキスした、って事じゃん?フツーにしてたらそんな事態、起こんないもん。むしろ生理的に受け付けないって、言われる方がよっぽどショックだよ」



サンデーがああ・・と気が抜けたようにつぶやいて、身体をほどかせていく。
ジャンプの身体からも一緒に力が抜ける。
こちらは可笑しさで。悪いと思いつつ声に出して笑ってしまった。やっぱこのコ、幼いよ?。
ジャンプは自分を棚に上げて、笑い続ける。どんどん力も抜けて行く。知識ばっかが充実してるわ先行するわで、おかげで心配してるの、とんでもない方向だよ。人命救助って!
そして一拍置く。よし、この勢い、利用しないテはない。

「ははは、おっかし?。ね?だから話すべきなんだよ。
自分達だけで悩んでても、お互いトンチンカンな事ばっかになっちゃうもん」
「・・・」
「言うべきだよ、恋人になれたのも何もかもさ、」
サンデーの目の色が、だんだん変わってくる。
今までが卒倒しそうだったので、ジャンプはサンデーの手も握りなおしてあげる。ぐったりと力が入ってなくて、すんなりと握れた。
お互いの指と指も深く交差させてぎゅっと。よし、イケる!

「オレ達が今こうしてるのも、本音を打ち明け合った時からだよ」
ジャンプはサンデーの目に真剣に目線を据える。
「この関係をずーっと続けて行くんだよ?じゃあオレのリードに合わせるべきだ。オレのリードって危ない?信じれない?」
サンデーが呆けたようにジャンプを見ていたが、
「ずーっと・・・?」
つぶやいて、握られた手にゆるゆる指が絡められる。

「あ、あの本当に・・・軽蔑しない?そ、そのフィクションをおかずにいただいちゃうんだよ?」
ごめん、それがフツウなのよ。固くうなずく。
「そ・・それと・・・その、誰にも言わない?」
語尾がさらに震えて聴こえないくらいだったが、
「言うわけないよ。だってオレ達の関係を誰かに言うわけないもん。二人でずーっと守って行くんでしょ?」
サンデーの頬に徐々に血の気が戻る。
「小説なんだ?」
サンデーがこくん、とうなずく。やっぱね。この本の虫少女め。


で。それってオレ、知ってる本かな?
顔が熱くなりそうでごにょごにょ自分に言い訳する。
ほら、どんなデート希望かなー?とか?その・・・どんな?風に・・・ねえ?したら喜ぶかなー、とか?知りたい気持ちするじゃん?下調べっつーの?したいじゃん?

「題名は?」
サンデーは・・・ずいぶん迷っていたようだ。だがジャンプが握る手に力を込めると。背中を押されたみたいだ。小さくか細い声で
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お・・・『おねがい☆パイレーツ』・・・」

ジャンプちゃんの語尾が上がったのは、今度は意外さからだった。
「はい??パイレーツぅ?」
「・・う、うん。私は簡単におねぱぁって呼んでるけれど・・・」
はい?この「教科書に載ってる本以外は読みません」みたいな真面目っ娘にしては漫画みたいな題名だな。あ、そっか。

「そっか、ラノベみたいヤツ?」
もしかしてそれ、オレも読めるかも。違うんだよ?ほら、恋の予習だから!
だがサンデーはちょっと困惑するような表情をした。
「それはライト・ノベルの事?ごめんなさい、ライト・ノベルは、その、読んだ事はあるけれど面白さが私には・・・」
言いにくそうに言ってから、後はかぶりを振る。


????確かに。サンデーが挿絵付きの本を読むところも想像できない。
「でもね!でも、とっても面白いの!小説なのに私個人の心に重く響くの。
万人に向けて書かれただろうに。倫理と己のエゴのはざまで苦悩するヒロインのゆらぎは、私個人へのメッセージのよう。そう、我が事みたいな読後感なんだよ?この才能は軽視出来ないな、きっと将来の文壇は・・・・・・・・・・」

語りに突入されて、ジャンプは両の手のひらを見せた。
「あー、うん、分かった、分かった。なんつーかマジメな本なのね」
オレ、絶対に読みたくないわ。絵が付いてないヤツね。


でもこれ、マガジンの言ってたのと符合する。熱狂的になる作家なんだよね?
「あー、その作家って魔女裁判とか奴隷貿易とか出てくるでしょ」
試しにカマをかけたら、サンデーがあまりに分かりやすく赤面してくれた。

「なっ、なんでそれを・・・っち、違うの、文学なんだよ?文学的題材として・・・っ」
慌てふためいた返事にひとつ頷く。よし、確定。
「オレからあんたに指示出すよ。その本はもう読むな」
サンデーの表情が
「???」
ジャーキーを取り上げられた子犬のようで、胸が痛まないわけでもなかったが。
「オレよりもおかずのが魅力的なら仕方ないけど」
サンデーが顔をはね上げた。
「そんなわけ・・・!」
「じゃ、言う事聞けるね?」

ジャンプは声色をやわらげない。サンデーの両手を固く握る。
「オレ達はこれからもずっと、ずっとこの関係なんだもん。
秘密だって二人で守って、二人で解決して行くんでしょ?」
「・・・ずっと・・」
「ならオレのリードに付いてくるべきだよ。ね?オレ、間違ったリードしたコトある?」
質問されて。サンデーの両手もジャンプを力なくだが握り返した来た。そして
「・・・・・読みません、決して読みません」
何度も何度も頷いて、うわ言のように繰り返した。


勝った・・・
サンデーの返事と様子を確認して、やっとジャンプも最後の緊張をほどく。

どうよ。このソツのないリード。さすがにジャンプちゃんは自分を褒めずにいられなかった。
しかもデートコースも解消してんのよ?やっぱすげー、オレ。業界をリードして行く存在だよ。
そして背中に何かが当たっているのにも、やっと気付けた。ああ・・・さっきから抱きつかれて押され気味だったからだな。ちょっと苦笑する。背中にベンチの端が痛いくらいだ。
後々、いい思い出になってくれないかな。


ジャンプはずっと恋人の背中を撫で続けていたが、落ち着いたみたいなので髪の毛も撫でる。サンデーはされるがままにじっと撫でられている。
その目の色がどんどん、どんどん大好きな目付きになる。
ジャンプのことだけを仰いで、ジャンプの言いつけだけを守る事しか考えてない目。変化の急激さに疑問がなくもなかったが。
オレの真剣さが伝染したとか。
そうかも。自分に自信がなきゃ、恋人だって・・・うん、まあ、ねえ?安心て付いて来れないもんね。ところでおねがいなんとかって・・・一体どんな小説よ?完全、ラノベのタイトルだろ。

両手はお互い二人で握り合って、しばらくはお互いだけを見詰め合ってじっとしていた。その目は信頼の目。
・・・・・一番、肝心な部分は置き去りにして。 


しばらくしてから、ジャンプがサンデーを立たせる。二人で春の小道をゆっくり歩いた。
また都電に乗る。
がたごとがたごとと、揺れる列車。街の谷間を縫うようだ。

ジャンプは訊こうかどうか迷ってから、
「なに?」
視線に気付いてはいた。が、一応顔を覗き込んでたずねてあげる。サンデーはうっとりとジャンプを見つめて、視線が離れる事がない。
「・・・・・ううん・・・・・・やっぱりジャンプちゃんはすごいなぁ・・って・・・・・」
ジャンプは思わず顔を逸らした。まともに向き合うには心臓に悪すぎる。


がたごと、がたごと揺れる。
サンデーはじーっと自分を見てるだけで、なにも言わない。うっとり尊敬するみたいな。こ、これはさすがに照れるっつーか・・こそばゆいっつーか。
「・・・・・また・・来たいな・・・」
つぶやかれてジャンプの心臓がぴょこんと飛び跳ねる。
「・・また・・・先生方に手を合わせに来たいな・・・・・・・・」
うっわー、オレ、さっきおんなじ事考えてた。ジャンプはちょっと顔を赤くしながら
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
こほ、と小さくせきばらいした。
「また一緒に来ようよ」
サンデーの顔が嬉しさに輝いた。

サンデーはふわふわ、雲の上を歩いてる心地のまま自分の家に帰った。
ちょっと放心しているような表情。今日一日に、まだ理解が追いついてないのだろう。
不思議な一日だったぁ。
ジェットコースターよりもどきどきした一日だった。天国にいたのを急に地獄につき落とされちゃって、また天国に連れて行ってもらえたみたいな気分。思わずくすくす笑ってしまう。本当、私ってジャンプちゃんに右往左往してる。おろおろしちゃって。
「おねーちゃんお帰り?。お土産はぁ?」
ぼーっとしっぱなしでコロコロちゃんの声も耳に入らない。

ああ、胸がいっぱい。
何日も前から幸せな気持ちで、今日、突然ジェットコースターに乗せられたみたいだったな。ぐるんぐるん回されちゃった気分。安堵と幸せの終点なのも一緒だけれど。
一体なにに、そんなに気持ちが急降下したり急上昇したんだっけ?一日だけで。
そうだ。ジャンプちゃんに今日、突然に質問されたんだよ。

ほぅ、とため息をつきながらソファに沈み込む。腰にノートが当たる。あれ?なんの教科かな。復習するのにこんな所まで持ってきたんだ。

問いただされて、やっと気が付くなんて。それまで楽しみ倒していた自分の迂闊さが信じられないよ。さすがジャンプちゃんだなあ、お見通しなんだ。
しかも今日は大告白した気分。宣言しちゃった。ジャンプちゃんを取るって。あんなに魅力的なおかずなのに・・・・・おかず・・おかず・・・・・・・・・。
ブルーのコクヨキャンパスノートを手にとって。ぼろぼろの表紙と題名を確認してサンデーちゃんの顔色が変わる。
「!!」


ノートを手にしたとたん。
克明によみがえったのだ。ガンガンから預かる時の胸の高揚も。今までさんざ使ってきた内容。導入で使うくだりもクライマックスに使う好物も、なにもかもが。


「・・!・・・!」
焼けた物を触るようだ。ノートを手放して、手まで引っ込める。ぱさ、と落ちるノート。
なんで私・・・!なんて私、恐ろしい、こんな、こんな犯罪まがいを恋人に対して!
がたがたと震える。な、なんて私は恐ろしい・・・。ガンガンちゃんの才能は疑いもないんだけれど。リアルすぎて、下敷きにした恋人達がいたのかも、なんて史実読み漁っちゃった。魔女審判も奴隷制度も、むごたらしいだけって分かりきってるじゃない。
あんまりおびえていたからか。さっきからドアが叩かれてるのも気付けなかった。
「おねーちゃんったらあ、どうしたの?開けてよォ」
コロコロだ。がたがた身体の震えが止まらないが、なんとかノブを回す。
「おねーちゃん?!」
コロコロちゃんがびっくりした声を上げた。
「ど、どーしたの・・・!」
相当のおびえようだったのだろう、あわてたように幼い体が姉に抱きつく。ぎゅ。高い体温。
「・・・コ、コロコロ・・」
がくがく震えながら、サンデーはブルーのコクヨキャンパスノートを指差した。
「・・ご、ごめんね、あのノート・・・お、お姉ちゃんのスクールバックに入れて・・・?」
自分が触れてはいけない気がする。普段お小言ばかり言ってる妹相手に、震える声で頼む。


「!」
コロコロの顔が輝いた。ちゃおと言い、この少女と言い、アナタ達は十分ですってほどの力の持ち主なのに。年上に頼られるのが嬉しくてしょうがないらしい。
「どれ?どれどれ?」
嬉々として部屋に入り込む。またゴキブリでも出たのかな?

指されたノートを見て思わずぷ、と噴出した。
ごくごく変わったところのない、コクヨキャンパスノート。
「な、中身・・・開いちゃ駄目!」
昆虫でも勉強したんだ。という事は理科のノート?あはは、ぼろぼろ。このおねーちゃんはマジメで困るね。学校以外で勉強とか、ボク、理解できない。
指されたノートを持ち上げて、恐ろしげに見守る姉の目の前にぶら下げる。
「・・もー、どっちが妹?」
コロコロはやっぱり、と得意さも上昇。虫を殺してあげたってこんな様子だよね?。見せないでっ、て。もう死んでるってのにきゃーきゃー逃げ回ってさ。


あんまりイジメても可哀想だね、とスクールバックに入れてあげる。
「虫も殺せぬ、なんて。もう中等科なんでしょ。ボクが心配しちゃうゾ?」
説教するみたいな口調なのに、姉は涙目で、うんうん、頷いている。
姉の様子にコロコロちゃんの得意さが絶頂になった。
えー?どうしよう、最近のボクの株って上がりっぱなしじゃない?ガンガンおねーちゃんに親友にしてもらえたり。サンデーおねーちゃんまでボクに参りました?みたいだよ!

春、うららかな日差しです。
千代田女学院、中等科。初等部からあがったばかりの、少女らしさも混ざり出す笑い声。なんともいいお花畑教室。
「・・・・・」
講談マガジンは、あいかわらず自分の机に頬を預けながらそれを聞きいている。

やっぱ関係あるのかなー?おねーさまが渡してくるノート、新作が途切れてる。
ちらっと仲のいい従姉妹二人に目を上げる。

元気ムスメのジャンプがますます絶好調だわ?。あのコは元気無いくらいでちょうどいいのよ。そもそも何?全てを自分だけで解決しましたー、みたいな。おまいはジャイ子か。
真面目っ娘のサンデーちゃんも、いつもよりしっとりとした落ち着きだ。あの娘、ほんと分かりやすいわ、相変わらずジャンプをうっとりと尊敬の目つき。横暴なワンマン娘相手にこっちが感心よ。

二人の間に健やかな空気しか見られない。新作もない。これは・・・安心していいって事?
「・・・・・・」
それから、傍らでレース編みの編み棒を動かすガンガンちゃんに目を移す。
あんまり考えたくない関係図・・と言うか循環図?が思い浮かびそうで、あわてて打ち消す。いや、流されるな、オレ。
ガンガンはマガジンちゃんの視線に気付いたのか。目を上げて、にこっと微笑む。
「・・だぁーい好き」
ささやかれた声をマガジンは聴こえない振りした。流されるな、流されるなオレ。

マガジンちゃんはあまり考えたくないので、力なく立ち上がる。だ、誰かと会話しないと・・・。
ジャンプが白泉姉妹につかまった瞬間を見つける。いつもの輪に入るぜ!


「長年のギャグ、完成?」
マガジンは気分を変えたくて、相手の首にまでがしっと抱きついた。
「オレと二人で『マンデー』ってさんざ言われたもんね!サンデーちゃんも胸すいた?だってコンビニにも並ぶんだぜぇ?」
サンデーの顔も覗き込んでケタケタ笑う。
「このさいだから、発売日まで往年のギャグ通りにしよっか。
月曜発売。ジャンプにぶつけるの。ね、二人がかりならなんとかなったりして!」
マガジンにいたずらっぽく笑われて、サンデーは気まずい気持ちでジャンプに振り返る。だがジャンプちゃんは・・・

「あ、いーよ、気にすんなって」
あっさりと言われて、サンデーちゃんは嬉しい気持ちはしなかった。その表情は・・・
「大変だよな?。オレは応援してるし」
どこか同情するような・・・・・・・・・・・・・・・・・・哀れむような?

「ちぇ。あのオンナ、ピンでも自分は安泰だしー、って?余裕だよねぇ、むっかつくわあ?」
サンデーちゃんの胸の端にじりっ、と焦げ付くような痛みが走った。?なんだろう。嫌だな、こんな気持ち・・・。

更に
「ねーねー、ジャンプちゃんのお家が雇われる役者さんの話だけど」
白泉姉妹の声が、後押しする。
「ん?どれ?」
劇団の雑誌を持って白泉姉妹がジャンプの左右をはさむ。
「すごいよね、最近のジャンプちゃんの実写作品」
「ねー!映画もヒットばかりだし。ミュージカルだって」
「いいなぁ。劇団とかと縁故できちゃうんだ?」
「まーね」
ジャンプちゃんの返事に、白泉姉妹が高い声がかぶさる。


「サンデーちゃん?」
呼ばれてはっ、と
「え?うん」
「?」
マガジンは心配そうに見ているが・・・胸の焦げ付きが止まらない。
ちらちら、ジャンプを見る。白泉姉妹にも両方から歓声を上げらている。あんなにみんなに囲まれて。その内・・・私なんてもういーや、って言うかも。魅力的な人や物に関心が移って。
・・・デート以来、すっかりとなりを潜めた部分が、じりっ、じりっと焙り出されていくような感覚。
ジャンプちゃんを独り占め出来ちゃったらどんなに楽しいだろう、と。ううん、あんまり考えちゃ駄目!

ガンガンちゃんが、のんびりとそんなクラスメイト達の表情を眺める。
「あらあら」

この理知ある教室のお姉さん的存在。マガジンちゃんが考えないように努める関係図を、的確に想像しつつじっくりと吟味する。
「これじゃいつまで経っても図が完成しないじゃない。無限ループ?」
困ったようにころんころん笑う。
声の割に楽しそうだ。
関係図どころか図の先も思い描きだす。どうせなら面白くしたいわよねぇ。その楽しそうな様子には、さっき愛をささやいた表情はない。まったく。何を考えてるのか、底知れないガンガンちゃんの笑顔・・・


                  雑誌界の女子の関係図は完成しないまま・・・
                   次回、ガンガンお姉様が描く未来図とは?!

第五話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」

第五話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」

2007年ごろpink-bbsにて投稿されていた作品の転載です。 スレッドの更新が滞ってから長年経つので、作者の方の許可を得ておりませんが、好きな作品なので勝手ながらここに転載させていただきました。 作品の一部は18禁となっております。18歳以下の方、ご了承ください。 http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1172759176/ ※リンク先は18禁掲示板となっております(2015.1.12現在リンク切れ)。

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更新日
登録日
2015-01-12

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