第四話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」+番外編

第四話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」+番外編

61 作

サンデーの胸の内で百合

・・・期待していた反応とまんま逆だったな。
サンデーちゃんは泣きたいような気持ちだった。わくわくして登校したのに。「ジャンプちゃんみた〜い!」「すごーい、素敵だよ〜」なんて

歓声の的だよ、とわくわく、わくわくして、元気良く教室に飛び込んだのに・・・・


・・・しかし反応は期待と真逆だった。
クラスメイト達は・・現れたサンデーの姿に罰が悪そうにお互い顔を見合わせた。
期待に教室をきょろきょろ見渡すサンデー。なのに誰も視線を合わせてくれない。話題以前の問題。

仲良くしてくれている白泉姉妹だけは励ましてくれたが。
「でもさっすがサンデーちゃん。勉強にはなる内容だよ〜」
「うんうん、催眠なんて斬新だし。楽しみながら学習出来ちゃう」
「しかも・・現実にある方法だしさ?」
「リアリティ?があるかも?・・・・・死神さんより」
双子だから、左右をはさまれるとステレオを聴いてる気分だ。よくよく注意すると二人のささやかな違いに気付くが。
「それに感心したよ。作画までまるでトレースなんだもん〜」
さっきから懸命になってくれているのは白泉ララちゃん。
ほわほわと春の陽気を思わせる白泉姉妹でも、のんびりと人のいい様子が妹らしい。
「構図までそっくり!原作の方々、とってもファンなんだってよく伝わるよぉ」
「ちょっと?ララ・・・」
おなじほわほわでも軽やかさを持つ花ゆめちゃん。妹にはない察しの速さで
「・・・あ・・」
マガジンちゃんを視線で示す。
ララの声もあわてて小さくなる。
「・・・ご、ごめんなさ・・」
「ん?いーよ、ジャンプに謝罪なんて慣れてるしぃ〜」
マガジンは気にした風もなくケタケタ笑い飛ばす。
当のジャンプも複雑そうな表情で何も言わない。
サンデーは泣きたいぐらいだ。・・・びっくりさせようと秘密にしておいたのに。
ジャンプちゃんみたいで素敵だと思ったのに!まるで、まるでジャンプちゃんの素敵な活躍みたいって絶賛の嵐だろうなって・・・!


誰かが言ってあげれば気も付くだろうか?
「みたい」とか言ってる時点で駄目なんだよ。他人から真似されるくらいでなきゃ。


・・・また自分が盛大に外した、と悟ったサンデー。とぼとぼと図書館に向かう。
いつも利用していた椅子には座らない。
ここ最近のサンデーは書棚の前に立って読んでいる。
誰にも読んでいる本を覗かれないように。今の悲しい気持ちにぴったりで、胸がきゅんとするお気に入りでも読もう。
サンデーちゃんは悲しい気持ちで本の背を目で追う。
女の子同士なんて中々見ないので困るが。フツウのラブストーリーなら選り取りみどりなのにな。
その内、一冊に目を留めた。どきどきしながら本をとる。周りに誰もいないのを確認してから開く。
えーっと、あのくだり、胸がきゅんとしたな・・・・・。


しばらくサンデーは本の内容に没頭する。
ヒロインに同調して、現在の心を慰める。うんうん、ちっぽけな自分とは違う、輝かしい同級生への描写がすてき。なのに2人は固く結びついて

。うらやましいくらい!
あんまり熱心になっていたからか?傍に人がいたのに気付かなかった。
「重くない?」
「ひゃ、ひゃい!!」
ささやくような声だったが、あんまりに驚いてその場で背筋を伸ばす。

振り向くと、
「あ・・・お姉さん・・・・」
集英月ジャンがきょとんとしていた。

集英月ジャンは、ジャンプちゃんとおなじ名前をもらってはいるが、ジャンプよりお姉さんになる。
なので区別を付けるためにも簡単に月ジャンなんて呼ばれている。
今、高等科かな?集英の血筋らしく気丈な少女だが、サンデー達よりもお姉さんなせいか。ちょっとした瞬間にコケティッシュさものぞけて、

それがまたえもいわれぬ魅力。
面差しがジャンプちゃんに似てるかも。サンデーは思わず見とれた。
ジャンプちゃんが成長したらこんな綺麗な・・う、ううん、今はそんな事、考えちゃ駄目だめ!
でも・・姉妹なんだし。将来はこんな雰囲気になるかも・・・。


サンデーの様子に困ったように微笑んだ。
「びっくりさせちゃった?」
相変わらず小声でくすくす笑う。サンデーもあわせて声を落とす。
「い、いえ・・・」
「それ、文庫は?重くないのかなって」
視線で示されて、本はさり気ない風を装って閉じられた。
「ええ。この質感がいいなあって・・・」
そしてサンデーはどきどきしながら用意しておいた返事を暗唱する。
「確かにハードカバーは雰囲気あるわよね」
月ジャンはタイトルをちらっと見た。
「意外だわ。もっと牧歌的な小説が好みかと思ったけれど」
「え、えーっと、この作家さんって空気が乱歩に似てません?」
「そうね。あら?それって探偵さんは出てきたかしら?」
「・・そういえば・・・・・」
「短編が好きなの?乱歩でも短編集に熱心よね」
サンデーはなんで私の読んでいる本まで把握してるのかな?と疑問だったが。


「乱歩もですが長さも、あと探偵の有無も気にしてません。トリックらしいトリックがなくても平気です。だって推理物のように緊迫感がある

もの。不思議ですよね。
だから勉強になるんじゃ?なんて。トリックであっと言わされるのも楽しいけれど、そこに至るまでの雰囲気づくりもあったら楽しめませんか

?」
立石に水、だ。本の事となるといつもは聞き役になりがちのサンデーも熱心に話しこむ。
他の利用者に邪魔にならないような小声が、館内でこそこそ耳をくすぐるよう。


しばらく月ジャンは微笑みながら熱心なサンデーに相槌を打っていたが。
「あ、そうだ。月ジャンさんのお家でも乱歩生誕の記念に探偵団の作品発表されていた先生いらっしゃいませんでした?」
・・・月ジャンは返事をせずに、そっと視線をサンデーから外す。
「素敵な画風でしたねぇ。そう言えば雰囲気がある画風の先生が多くないです?個性的で素敵!」
熱心に話しこむサンデーに月ジャンはしばらく黙っていたが、
「・・・私はもう引退したから」
さすがにはっと口をつぐむサンデーに・・
「妹が現在、先生方をまとめてくれているわ。
?そんな顔しないで?今の生活も楽しいの。時間がある分、充実してるしジャンプや姉さん達や・・・・・SQちゃんも。見ていられるしね」
月ジャンが明るく言ってくれたが、気まずい空気は隠しようもなかった・・・。

しばらくは沈黙が降りた。
月ジャンが思いついたように話題を変えた。
「そうだ。サンデーちゃん、読書が好きよね」
「え?は、はい。大好きです」
サンデーはほっとしたように顔を上げた。
「・・・私も物語を書いてみようかな」
「へえ!」
サンデーは顔を輝かせた。
「素敵ですね!」
「うふ。引退してね、時間が出来ちゃった。
我が家の本を読んでいたら、中々面白いわね。私も書けるかな」
「書けますよ、書物を愛していたら、愛の分だけ」
「・・・もしも書いたら、サンデーちゃん読んでくれない?」
「はい、是非!」
「うふふ、サンデーちゃんは読書家だし一番に読んで欲しかったのよ」
「月ジャンさんなら素晴らしい読書体験がおありなんでしょうね。うわあ、楽しみ!」
嬉しそうなサンデーに、うなずく笑顔に一点のくもりもなかった。
もしもあってもサンデーに見抜けるはずもなかろうが。中等科の中でも、さらに幼い少女に。

と、言うわけで今、サンデーの学習机の上には一冊の本がある。
私服に着替えて一番にスクールバックから取り出したのだ。あんまり楽しみで学校で読みたかったぐらいだったけれど「恥ずかしいから家で読

んで?」と念を押された。

わあ、可愛らしい表紙。
ファンシーグッズコーナーに置いてあるような、女の子向け日記帳だろう。明るいグリーンで四葉のクローバーがあしらってある。ハードカバ

ーが好きなんて言っちゃったけど、無理はさせちゃってないかな?厚手の冊子。


まだ、題名は考えてないの。
月ジャンが手渡しながらサンデーに気持ちを伝えた。
・・・まだ完成していないし。ほんの導入しか思いつかなくって。
そしてサンデーを真っ直ぐに見て言った。
それでね。続きを一緒に考えてくれないかな。

・・・見る人が見たら、何かを含んだ表情と気付いただろうが、まだ幼いサンデーには分からない。

不思議そうなサンデーに、そのまま月ジャンは続けた。
読書家のサンデーちゃんならきっと素敵な感想くれるわ。サンデーちゃんの意見を聞いて、それから続きを書く。ね?力を貸してくれない?

「私専用のお話かあ・・・」
ぺらぺらとページをめくってうふ、とサンデーは嬉しそうだ。
月ジャンは言葉を続けた。
意見が欲しくてサンデーちゃんの図書カードも見たしね。
サンデーちゃんが好きそうな作風にしてみたし、主人公も同い年くらいの女の子にしたのよ。ね?一緒に考えて?
だから、表紙も無題。一緒に考えて欲しいから無題なまま。


あまりの力の入れようにサンデーの心は躍る。
うふふ、アンケート結果によってお話が変わる、とかそんな形式みたい。
なんだか心躍るな。私の図書カードまで検討に入れてくれて、私にだけなんて!
サンデーはわくわくとページをめくった。
「えーっと。
『あなたは放課後の校庭を横切っていました』・・・」
サンデーは文章の冒頭だけ音読する。後は字に目を走らせる・・・・・
・・・・・


『あなたは放課後の校庭を横切っていました。
もう日が傾く頃です。あなたの影があなたの足元から伸びます』


なるほど、これは二人称のお話ね。
一人称でも三人称でもない形に嬉しそうにサンデーに笑みがこぼれる。
いかにも自分の為に書いてくれた!って雰囲気。

「ふむ、ふむ・・」
また字に目を落とす。


   『校舎裏へと急ぐあなたの長い影。
   校舎裏には学校が管理している温室があります。
   今日はそこで待ち合わせ。
   あなたは待ち合わせをしている人を思い浮かべました。
   お相手は短気ですよね?待つのが苦手。
   だからあなたは次第に駆け足になりました。
   ・・・あなたにとって大事なその人を怒らせたくないから』


サンデーはページをめくった。
ふぅーん。なんだか私の性格まで把握されちゃってるみたい。漏れた笑みが深くなる。

 『息を整えるのももどかしくて、すぐにガラス戸を開けます。
   「ごめんね、待った?」
   あなたがドアを開けると、相手が視線を上げました。
   あなたはちょっと相手に見とれました。
   夕焼けが右頬に当たってとても綺麗です。
   あなたが大好きな、いきいきとした瞳。ちょっと勝気なくらいな。
   その瞳にそっとまつげの影が落ちました。
   「・・・もしかして・・・・・オレの為に?」
   あなたの息がはずんでいるからでしょうか。伏せ目がちに訊ねてきます。
   あなたは当然、
   「当たり前じゃない。私達、恋人でしょ?」
   相手はその言葉に顔を赤らめてうつむきました。』



なるほど、私がヒロインの恋愛ストーリーなのね。
サンデーは困ったように笑った。好きな人がいるのにラブストーリーなんて読んじゃっていいのかな。

  『「・・べ、別にいいのに・・・」
   「え?」
   あなたが不思議そうに首をかしげると
   「・・・だって・・・オレ・・・・・」 
   彼女はすこし口ごもってから、小さい声で続けました。
   「だって、オレ、あんたの事待つの・・嫌いじゃないし・・・」
   あなたはうっとりと彼女の唇にみとれました。』



・・・?彼女?
サンデーは意外な気持ちで字に目を走らせた。
オレって言ってるし男の子かと思った。それに・・・・・

 『あなたは二人っきりで会う時の彼女が大好きです。
   普段は見ることが出来ない彼女が見られるので。
   普段の彼女は、後ろ暗いところなんてないように胸を張っていますよね?
   彼女は正義感が強くて、うっとりするぐらい覇気のある少女。
   明朗活発って言葉がなんて似合うんでしょう。
   でも、二人っきりで会う時だけは違う部分が次々と見えます。
   今、見せているような血の昇った唇。目に落ちるまつ毛の影。
   あなたは知っていますね?その表情は・・・・・』



「こ、恋の味を分けあう者同士・・だけ・・・・・」
サンデーはかすれた声で読み上げて、後は続かなかった。
すぐに本をぱたん、と閉じる。

どきどきどき。
こ、これはどういう・・・う、ううん、落ち着いて!落ち着け、私!
サンデーはぶんぶん、と頭を振った。
ま、待って。え?どういう事だろう。こ、これは物語で、月ジャンさんが読んで欲しいって書いた物で、私とはまったく無関係で、そもそもな

んで私がどきどきしてるの?おかしいじゃない、私がどきどきする理由なんてないはず!
そうだよ、だって私に恋人なんていない!
・・・と、表向きはなっている。ジャ、ジャンプちゃんに言われたとおりに、慎重に、慎重に。慎重に振舞ってきた。うん、みんなにもバレて

ないし。
相談だってマガジンちゃんだけだよね。しかも友達の話だよって念を押した上にマガジンちゃんは他人に言わないって。うん、漏れるはずは絶

対にない。


サンデーは、呼吸を整えた。
これはきっとこういうストーリーなんだよ。
疑問な点がないでもないが。・・あれ?でも女の子との恋愛物語なら主人公は男の子の方が都合いいんじゃ・・・あ、そうか。私に合わせる、

って言ってたな。じゃ、温めてあったストーリーの主人公を私に変えただけ。うん、そうそう。
じゃ、平気。
そもそも月ジャンさんはわざわざ私を指定してくれたんだよ?読まないのは失礼!
・・・なんとか言い訳を作るのに一生懸命なのは。サンデーは、続きを読みたかったのだ。だって、このお話のヒロインと恋人って・・・・・

 『あなたの胸はどきどきしています。
   あなたは、そんな様子の恋人を見るだけでもぽーっとしちゃうくらいです。
   あなたは彼女が大好きで、彼女が世界の中心。
   ・・・あんまり一所にじっとしてくれる中心ではありませんがね。
   でもあなたは満足です。
   彼女が恋人ってだけで心臓が壊れないのが不思議。夢見ている心地。
   「あ、あんたさあ、もっとオレに我が侭言っていいんだよ?」
   でも今日の彼女はちょっといつもと違いました。
   おや、とあなたは思いました。
   なにか奥歯に物が挟まったよう。いつもの明朗さがありません。
   「やだぁ。どうしたの?」
   くすくすとあなたは笑いました。
   「平気。私、我慢は得意だし」
   彼女はそれをこころよし、と言った表情ではありません。
   「・・・それはオレにも?」
   「え?」
   「こ、恋人同士になれたのにさあ、あんた・・・オレにまで?」
   あなたが首をかしげると、
   「・・・・・あんた、いっつも我慢ばっかりじゃん?
   オレにまで?」

 『あなたは不思議な気持ちでした。
   「オレには我がまま・・・言っていいんだよ?」
   どきん。予期した事無い言葉にあなたの胸が大きく鳴りました。
   まさか、こんな台詞を、よりによって私になんて・・・。
   我慢しない彼女。自分の思い通りにならないとかんしゃくを起こす彼女。
   ・・・他人の都合なんて気にした事もないだろう彼女なのに。

   もちろんあなたは信じられませんよね?
   「ど、どうしたの?」
   「・・・オレさ、不安なんだよね」
   「?」
   「オレ、あんたの望みが叶えられなくって・・・。
   ・・・・・あんたが離れていくのがヤなんだよ」』

 『「オ、オレはさ?・・・あんたの事が好きだから・・・取られたくないな・・・・・」
   彼女は本当、思い立ったら即行動、な性格ですね。
   隠すつもりもないみたいです。次々と吐き出します。
   「あんたを取られないためなら・・・なんでもするよ」
   ああ、あなたにはなんてとっておきの言葉でしょう。
   なのに彼女の表情であなたの心臓は更にどきどきと壊れそうです。
   ・・・あなたが知る彼女の中でも一番目ってほど。
   「我慢とかしないで、なんでも言って?・・・なんでも」
   あなたは確認を取りました。あなたの性格どおり、慎重に。
   「で、でも怒らないの?
   ほら、昔からちょっとでも自分の気に触らないとすぐに・・・」
   あなたは笑ってはいましたが、胸がはやるのを押さえられません。
   なんでも。その言葉がぐるぐる頭を回ります。
   なんて美味しそうな匂いのする言葉!
   彼女は目を上げてあなたをじっと見ました。
   「・・・いいよ。あんたを取られるくらいなら、オレ、なんでも出来るし」』


サンデーちゃんはどきどき、どきどきとページをめくった。
な、なんて私好み!ジャスト、私サイズ!!
すっかり胸もはずんで、文字を追うのももどかしい。
・・・当然、ヒロインとその恋人は自分たちに変換されている。

 『あなたは我が身を振り返って、とまどいました。
   なんでも、って・・・。で、でも、私って常識からはちょっと・・・・・
   「なんでも言って・・・?なんでも叶えたいんだよ・・・好きだもん」
   あなたは、慌てました。良く見たら、彼女の唇は震えてます。
   ・・・驚きですね。少しそむけられた顔は泣き出しそう。
   「あんたを失いたくないんだもん、大好きなんだもん」
   彼女はぎゅ、と目をつむりました。
   「恋ってさ、好きになった方が負けって言うじゃん?
   だから、オレはあんたに無条件で投降する!!
   ・・・あんたを失わないためなら、なんだって出来る。
   希望通りにしてあげたいんだよ、希望通り。
   だからなんでも言って?」』



な、なんて都合がいいの・・・!
こんなの現実にあるわけない、ううん、でもあったら素敵だな。こ、恋人にこんなこと言ってもらえるなんて・・・私なら・・・・・

『あなたは信じることが出来ませんでした。
   なので試しに少しだけ言ってみました。
   「じゃ、じゃあ・・・」』


「『め、命令みたいになっちゃうじゃない・・・』・・・・・」
サンデーはかすれる声で読み上げた。

 『一番彼女が嫌いそうな言葉を選んだのに。
   彼女は・・・こくん、とうなずきました。
   頼りない様子が、あなたを更にどきどき、どきどきさせます。
   「あ、じゃ、じゃあ・・・例えば・・・
   えーっと・・・・に、24時間・・ひとつの部屋から出ちゃ駄目?
   なんて言ったら?さすがに・・・」
   あなたはあわてて、
   「あ、食事とかお手洗いだとか、生理的な物は私がするけど。
   ・・・その、それでも?」
   彼女がうなずいたのであなたは信じられないような気持ちでした。
   なので更に
   「そ、その・・・私に?
   我慢できなくなる毎に・・お、お願いてくれたら、その・・・・・」
   彼女はやはりうなずきました。こ、これは本当なんだ!!
   「え、えーっと・・・・・でもさ、長時間じゃ飽きちゃうかもしれないじゃない?」
   身振り手振りで説明しました。
   「あ、飽きちゃうよ、きっと!
   飽きて、すぐ帰るぅ〜とか帰っちゃう。
   だから・・・そう!まず服!
   服着てなかったら飽きちゃったからって外に飛び出しちゃえないよね。
   た、助けとかも・・・よ、呼ばれちゃったら心配だよ。うん、心配。 
   だから、その、あのね、あの、例えだと思って聞いてね?
   た、例えばの話だから、怒らないでね・・・・・?」
   あなたは思い切って、自分の希望を彼女に伝えました。』


なんて心おどる展開!!
すごい、すごいよ、月ジャンさんは天才だよ、すごい!!
あ、でもこれ、相手はうなずくのかな?どんなお願いでも?この流れだと絶対にうなずくよ!・・・私ならどんなお願いしよう。
ううん、め、命令だよ!だって恋人が命令でいいって言うんだもん・・・!
私なら、どんなめ、めめめめ・・命令?うん、なんてしよう!
だが・・・・・


「・・・・・は・・・」
そこでお話は途切れていた。
サンデーは張り詰めていた息を吐き出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・そんなぁ・・・・・・・・」
ここまでぇ?ページの次がなくってサンデーは肩すかしを食った気持ちだ。
息と一緒に、全身の力を抜く。
す、すごいな、この内容。

どきどき、どきどきと鼓動が胸をうるさいほど叩く。月ジャンさんは天才だよ!
私専用のお話を書いてくれたって言っていたけれど、まさに自分好み。
それから、息を整えて。
ど、どうしよう、下着、きっと・・・。そわそわと確認に椅子の上でもぞもぞ動く。
や、やっぱり・・・。机の下に手を伸ばして指でも確認する。
・・・どうしよう・・・・・拭く?
でもお手洗いに行くまで誰かに会うかもしれない。!そうだ、この下着は捨てちゃおう!そうだよ、元がなんなのか、分からないようにはさみ

で丁寧に切っちゃえば家の人だって・・・。
それから、ちらっと寝室のドアを見た。
時計も見る。・・・まだ5時。
普段なら、こんな大胆な行動は取らない。夜寝る前以外なんて。
でも。サンデーは目をきゅっとつむった。
どうしよう。ふとももをこすり合わせるほどになる。自分で自分の体を抱いて切なく息を吐く。
ちょっとだけ。ちょっとだけ、気持ちを落ち着けるだけなんだよ?ちょっとだけ・・・。
そして、自分の部屋なのに、誰もいないのにきょろきょろしてから寝室にさも用事です、とそしらぬ表情を振舞ってそろそろ、きょろきょろと

近づく。
・・・・・まったく、可笑しなムスメだ。

さて、こちら集英家。
末の方の娘で家で一番・・・いや、日本でも一番手の娘、ジャンプがよろよろしながら帰ってきた。
日曜まで部活ってどゆことよ。
声も出ないので心の中で毒づいた。全国でも目指してんの?スポーツで食ってく予定もないし。監督だけが盛り上がってる状況、ダサっ。
ああ・・・ジャンプは人恋しい気持ちでぐすん、と鼻を鳴らした。
特定すると一人に。あーあ、こんな時にサンデーが抱きしめてくれたら気持ちいいんだろうなあ。
・・・あの心地いい胸で抱いてくれて、よしよし、って撫でてくれないかなあ。よしよし、やっぱりジャンプちゃんはすごいよねぇ、って。あ

のコ我慢強いから、きっとオレがもういいよ〜って止めるまで撫でてくれるんだよ。いつまでも。


「あ!チャンバも走るエースストライカーだ」
ぎくぅ!とジャンプは足を凍らせた。

「・・・・・」
「せいぜい宣伝効果しか見込めないのに感心、感心。『集英家のご息女、オリンピック出場!』ぐらいだろ、ははは」
・・・・・さすが、おんなじ事考えてるな。
目を上げると、そこには仲がいい姉のヤンジャンがいた。このオンナも確か初等部から女子サッカー部だ。
すっかり大学生が板についている。
フェミニンよりもカッコイイ女風が好きな姉。タイトなミニにうっわ、いけ好かな。胸元に下がってるの、なんか見覚えあるロゴだよ?名前知

らないけどさ。


「ねえ、エースストライカー、お姉ちゃん悩みあんのよぉ。聞いてくんない?」
前置きだけすると、後は余分な説明も無くストレートだ。
「中等科にいる私の妹が最近、色気づいてきたんスけどね?」
「っ」
「姉としては、これがハラハラしっぱなしなの。
だって妹の様子がさぁ、まんま欲しいおもちゃが手に入った子供そのもの。
浮かれっぱなし。あのコ、敵が多いのに大丈夫ですかね」
「・・・・・」
「日本中が虎視眈々と狙う地位でしょうに。競争相手どころか・・・・その家業のレースから脱落した人達も眼中にないご様子。お姉ちゃん、

心配で心配で」


はい?
ジャンプの表情に素が入る。た、確かに・・・オレは浮かれてたけど・・・。
かもしんないけど、このオンナ、一体何が・・・・・

サンデーなら大丈夫だよ、だってオレ以外にバーサクになんないもん!
サンデーは誰にでも好かれそう。
しかも本当は優秀。・・・・・前の親睦会で・・分かってしまった。顔が熱くなりそうだ。あのコは止せってほどに優秀・・・なムスメなんだ


でもそれもオレ限定って分かったんだし・・それ以外、一体何を・・・

ぐるぐる頭を回転させる妹に、ヤンジャンの表情は・・実は最初から真剣で真摯だった事に・・・ジャンプが気付いたのはかなり後だ。
「志村ー!後ろ、後ろー!
・・・なあんて日本一の妹に怒鳴りたい気分なんスよお。どう?集英ジャンプさん?」
翌日。
サンデーは1限目の放課から図書館に足を運んだ。
月ジャンさんいないかな、と思ったからだ。
そわそわ、そわそわ図書館中を本も見ずに探し回った。くるくる、きょろきょろと本棚の間を歩き回る。
なので、放課後にやっと捕まえた時にはサンデーにいつもの落ち着きはない。
「月ジャンさん・・・!」
興奮気味に袖を捕まえる。
「あら、サンデーちゃん」
月ジャンはちょっとだけ・・・複雑そうな目でサンデーを見てからすぐ笑顔になる。
「もしかして、それ・・・?」
視線をやったのはサンデーの胸にしっかと抱かれた害がなさそうなファンシー文具。
「読んでくれたんだ」
「もちろんですよ。もちろん、なんて素敵なおか・・・・・・」
そこまで言って、サンデーははっ、と言葉を止める。

駄目!おかず、って言葉はイコール・・・・じ、自慰行為?につながっちゃうよ。
「も、もちろん熟読しましたよ?」

サイドテーブル、とかも単語としてNGかな?・・・うん。話題は慎重に選ばなきゃ。
「え、えーっと・・・その・・・・・
そうだ。私の図書カードのどの辺りを参考にされたのですか?」
月ジャンはそんなサンデーを観察するようだ。
じっと表情を見つめてから、
「・・・・・そうね。猟奇的な作品が多いかなって」
「それは・・・!だ、だって我が家には乱歩に熱心な先生が・・・」
「?どうしたの?困ったみたいに」

あせる様子も、否定の言葉もなにもかもを観察しているような目。

「だって・・・その、今って猟奇事件多いし・・・・・・」
「?」
「良くありませんよ。誤解・・されちゃう・・・」
「うふ。本のお話なのに」
「!」
「本の中では自由。そう思ってたのにな」
本の中では自由。
魅惑的なフレーズがサンデーの警戒心を溶かしだす。

「・・・・・で、このお話の続きなんだけれどね。サンデーちゃんの意見を取り入れたいってお話したよね」
ページをぺらぺらとめくる月ジャンにサンデーはごくんと唾を飲み込んだ。
「サンデーちゃんなら、きっとステキなアイデアくれそう」
しょ、小説の話・・・。
「一緒に作って?」
サンデーは何度か呼吸を繰り返す。
「・・・・・・あ、あの・・・こうなったら素敵かな?ってぐらいなら・・・」
「へえ?」
「でも月ジャンさんが予定しているプロットとかありますよね?」
「?ないわよ?」
月ジャンに当たり前のように微笑んでもらって
「サンデーちゃんのアイデアが欲しいな。続きが思いつかなくって」
「!じゃ、じゃあ・・・一読者としてなら・・・・・」
「うふ。教えて?」
重ね重ね、ってほど慎重だ。確認を取ってサンデーは呼吸を飲み込んだ。ごくん。

「まずは私ね、手足の自由と五感を奪ってから放って置かれるとすっごく不安で泣き叫んじゃうほどだよ、って本で読んだ事あるんです。あ、

解説だけですよ?
どうせならあのくだりから最終的にはそこまで展開させたら素敵じゃないです?
是非、その展開にするべきですよ!」
顔を上げたサンデーは、もう止まる事はない。


「・・・」
「まず、導入はあのままで行きましょう。物語の本文への、自然な素敵な導入。
問題はヒロインと恋人だけの24時間ですね?物語の一番の山場になれる、素晴らしい発想ですね!・・・私、才能に感心しちゃった。
この発想は最大限、有効に使いたいですよね。
起承転結で言うなら承と転の部分でこの二人きりの時間を消化させましょう」

サンデーは自分の生徒手帳の空白ページをやぶって図を書き込む。

「ここで、さっきの感覚の話に戻ります。
導入部分の発想を土台にして、どうせならもっと恋人を自分に縛りつけちゃった方が盛り上がりますよ?
だから私なら承の段階でこう盛り込みます。
ひとつだけの感覚だけで私を感じて?って」

サンデーは嬉しそうに
「ね、ね!素敵だと思いませんか?たったひとつですよ?
自由な行動ができない、食事も・・・・・お、お手洗い?も。
なのに更に決定的に主人公しか頼る人がいなくなっちゃう。
24時間も自分に引き止めて置けるだけでも素敵なのに。そこまで相手を自分の物に出来ちゃったら!
で。触覚は・・・まあ、ねえ?除外として、口も現在、確定。ヒロインが助けを呼ばれる点を心配する部分はいい前置きでしたね。
じゃあ、残りは目か耳です。私なら見えないようにしますが・・・でも後者も魅力的なんだよなあ。24時間、恋人に必死に眼で追われるっての

も捨てがたいんだよなあ。どっちでも恋人は自分に釘付けなんですけれどね。
月ジャンさんだって迷いますよねぇ。
だから前者の場合なら気配を殺してうふふ、って楽しむパターンでしょうけど、後者は放って置いて目の前で日常生活、ですね。あ、いたんだ

?ぐらいに。これは精神的に参っちゃいますよお!
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・」

ジャンプちゃんは放課になりしだい
「あ、サンデー!」
誰もが褒めるスピーディーさでサンデーを引き止めた。
ここの所、サンデーは忙しそうで教室に落ち着いてもない。そーいやろくに話していなかったな。

「ね、今日さ・・と、図書館付き合ってくんない?」
図書館に行く、は二人の間では厳密には図書館の地下に、だ。
二人っきりになろう?の合図。
ジャンプはまぁうなずくだろう、と確信してたのでその先から心配する。
そういや密会する日もなにもかもオレが決定っつのも不便なものだよねえ。あ、いや。でもオレがタチなんだし。タチがリード側だしそんな物

か。
姉に言われた事をサンデーと二人で照らし合わせて話し合うつもりだ。
二人で会議とでも言えばいいのか。サンデーだってオレと同じ状態なはず。だったら・・・こほ、と小さくせきばらい。オレが先導してあげな

きゃね。

しかしサンデーはジャンプの言葉にうなずかなかった。
「と・・図書館・・・・・」
つぶやいたサンデーはすぐに真っ赤になる。
「?」
「そ、その・・・今は図書館は駄目!」
「・・・は?」
「う、うーんと・・今は駄目なの!その、今ね・・・
そう!新入生のための図書カード作らなきゃいけないの!」
「・・・・・そうなんだ・・・・?」
「そ、それに私、今日待ち合わせしてる人もいるの。どうしよう、せっかく時間作っていただいているのに・・・どうしよう困ったな・・・・

・」
腕時計を確認するサンデーに。ジャンプの肌が違和感を伝える。
「・・・・・別に・・今日じゃなくてもいいんだけど・・・」
サンデーはほっとしたように微笑んだ。
「そう?良かった。あ、待ち合わせの相手にこれからは図書館以外にしてくれませんか?ってお願いしておくから。・・ああ、もっと早くにお

願いして置けば良かったなぁ・・・。次は必ず図書館に安心して行けるよ?すぐに伝えてくるね」
そして急ぎ足で教室を出て行く。
なに?今のなに?なにこの違和感。なにかオカシイ。あのコ・・・・・

「ってわけでさあ、あんた、そのぉ〜・・・ちょっとあのコの話?でも聞いてあげてくんない?」
「・・・・・」
もーカンベンして。なんでオレ?
マガジンちゃんは頬を預けていた机から視線だけを上げる。
「・・・・・」
「サンデーの様子、あれ絶対にヘンだろ、オカシイじゃん、言葉的に!!
ヤバイ、あれ、なんか隠し事してる!オレに隠し事なんてそんなはず・・・・・」
「・・・・・」
「!あ、べ、別に隠し事してもいーんだけどさ?でも・・・ほら、その、従姉妹としては心配なわけ。悩みとかあるかもしれない」
「・・・・・」
「・・・・・うん。悩み。あのコ、どうもオカシイ。だからあんたもサンデーと仲いいでしょ?それとなく聞いてくれない?」
気楽そうにわめいているジャンプにマガジンは最後まで無言で、ただうなずいた。
これは・・・困ったよ・・・・・。

なにゆえ困るかと言うと。
「ふぅーん・・サンデーちゃんがねえ」
ああ・・・なに?この関係。なに、この関係性?
ジャンプの相談はマガジンちゃんから、自動的にガンガンちゃんへと筒抜ける。
ガンガンがマガジンの異変を見逃すはずもないし、白状させないはずもない。


ああ・・・困る。ほんっと困る。
困る。どっちも嫌いじゃないから困る。

新しい世界を夢見がちに拓きつづけてる元気ムスメ、ジャンプ。
忍耐強く教科書どおりを守りつづける真面目っ娘、サンデー。

どっちも嫌いじゃないから、ひっじょーに困る!
「・・・・・ここでマガジンちゃんの人徳を損なうのは我々にとって不利よね?
相談事すらしてくれなくなっちゃう!うん、私がサンデーちゃんにお話しましょ。
あらあら?難しい表情しちゃって。他人にかまうとすぐスネるんだからぁ。このツンデレさんメ〜」
マガジンちゃんの頬をぷに、とつついてガンガンはころんころんと嬉しそう。
・・・どうしよう。あんまオレに頼るな!ってジャンプに固く言い渡さないと・・・・・。

・・・・・月ジャンは自分の部屋に帰ってくるとふぅ、とため息を吐いた。
案外、重いな。
視線を落とす。他人の秘密って案外重い物だわ。


「・・・・・24時間って時間制限も素晴らしいですよね。作品にメリハリが付きます。
1日の終わりに恋人から5感すべてを捧げると申し出てもらえる、ハッピーエンド」

・・・・・意外、の他に表現が思い浮かばずに月ジャンは返事を忘れた。

「起承転結の流れは、書き出すとこうなります。
恋人が泣きだすのは外せませんよね。転、辺りではもう涙が出ないよ〜ってくらい参らないと。結びのインパクトのためにも、2人の恋心の描写

にも必要ですよ。
ああ、恋人同士が二人きりでなんて心行くまでな一日。まさに小説の中でしか出来ない、誰もが焦がれる一日ですね!!
あ、い・・色っぽいシーン・・・は・・・・・その、もちろん私は気にしないで下さい?
分かってますって!これだけの舞台と条件。誰だって自分で温めたいもの!!」

熱心に話して聞かせるサンデーの頬は血が昇って、目もキラキラ輝いていた。
・・・・・あ、あんな娘なんて。いつも友人達の後ろで控えめに微笑んでいる姿から予想もしていなかった。

「月ジャンさんなら素敵に描き出せますよ!私、応援してます!」
ちく、と胸が痛まないでもなかったが。
サンデーの、やっぱり毒っ気も無縁の笑顔。・・・大事に、大事に育てられたんだろうな。無邪気なお嬢さんのような・・・・・
でも月ジャンはふるふる、とかぶりを振った。苦そうに笑ってつぶやく。
「・・・仏心なんて今更だわ・・・・・」
そのお嬢さんのお家ほど、我が家は甘くない。

その時。こんこん。
重い身体を預けるほどにもたれかかっていた扉がノックされて、月ジャンは飛び上がるくらいに
「は、はい・・・!」
あわてて扉を開く。

「・・・・・」
立っていたのは
「な、なんだ・・・SQちゃん」
ほっ、と微笑んだ。微笑んだついでに自分でも可笑しくなった。ヘンじゃない。一緒に育った家族の方に、私、緊張してない?


「・・・すみません、驚かせましたか?」
この娘は、あまり感情を表に出さない。
「ううん?なあに?」
「引継ぎの先生について質問したい事があったのですが・・・」
月ジャンの様子をちらっと見て
「急いでないので、後にしましょうか?」
「いいよお〜」
月ジャンは大きな仕草で手のひらを見せた。
「なんでも聞いてちょうだい?もっちろん全力で支援するよ?」
相手の表情をほどけさせるようにわざと肩口をこつんとこづく。スキンシップ。
「・・・・・」
SQは月ジャンの努力に関心なさ気だ。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
事務的に持ってきたプリントに目を落とす。

月ジャンは自分の後任の少女を見た。
そりゃあ全力にもなるわよ。
この娘の成功、イコール私の地位の確定だもの。前身としての。あはは、皮肉ね。
中々打ち解けてくれないけれど。なに考えてるのかしら。

SQは温度をかんじさせない美少女だった。
感情を表に出さないし、なんだか事務的。・・・そういやこの家に連れられてきた時からだわ。我が家は助かってるようだけど。情の部分では

かかわらず、貢献だけはする。


あれは月ジャンがまだ中等科の頃か。
成績の冴えない日常に、突然引き合わされたのが彼女だ。
「今日からお前の妹だ」
・・・この家はソトから誰かが連れて来られたり連れて行かれたりで、慣れっこな風景だったが。あれはさすがにショックだった。
「もしもお前がこのままならこの娘は役に立ってくれる。仲良くしなさい」
本家筋の一人が宣告する。みんなおなじような顔付きで、それが誰だったのか覚えもない。ただその時にうっすらと「ああ、私、切られるのか

な」と予感がした。
自分を見る目。私に特別な感情を持ってない事が感じ取れる目。私はどんな目つきだったかな。まあいっか。お互い様でしょ?


それから、今日のサンデーにも思いを巡らせた。

図書館で小学館家の娘を良く見るのでちょうどいいから声を掛けた。
もう引退したし。掛けれる保険は掛けておきたかった。
方便に話題にした物語とやらだったけど、あんなに食いつかれるとは。小説が本当に好きなのね。私の言ってること疑う気配も無かった。
文章なんて書くの嫌いだし、意欲出れば・・と妹を攻撃対象みたいにしてみた。


やはり中等科の制服の妹。・・・おなじ名前をもらった妹。
あの調子に乗りに乗って独走状態の妹。・・・あの妹だけはこの家で不動なんだろうな。特別扱いだしね。

そうしたらぞろぞろと自分にとっての有利な性格しか明かされなくって驚きだ。
かえって心配になるくらいだ。駒だとしたら割りといい位置だけれどね。・・・えらく攻撃的じゃない。
持っていた明るいグリーンの冊子に視線をやる。
妹みたいなムスメ、嫌いなんだ。なんだか使えそう、この意外な事実。


それから目の前の少女へ目を移す。
この娘にも今日のこと教えてあげたらどんな顔するかな。驚いた顔?・・・感謝されたりして。だよねえ、生き残りたいのは誰だっておなじだ

よねえ。


「・・・・・お姉さん」
考え込んでいた月ジャンは、目の前の少女に急に呼ばれて、なによりもまず背筋に寒気が走った。

「って、呼んだ方がいいんでしょうかね」
SQの声色がそうさせた。温度を感じさせない声色。自分をまっすぐに見つめる目は、笑ってはいたが身体は自然と震えてくる。
「なんだかこの家、人が多くて覚えるのが大変ですよね。突然家族が増えたり減ったり。混乱しませんか?」
冷静な少女の声色に月ジャンは改めて思った。
この家、異常だわ。

ここはいつでもお花畑でなによりです。
中等科。の、中でも業界の精鋭を集めた教室なはず。
だがそれが反対にいいのか。微妙にバランスを取り合いながら、今日もお花畑です。

おだかやじゃないムスメもいるが。
昼放課を告げる鐘が鳴ると同時に、サンデーちゃんは立ち上がった。
ここ最近のサンデーは声を掛けるのをためらわせた。
目が、据わってる。
クラスメイト達はそれとなく察してサンデーに当たりも触りもしない。


そんな時に教室中が頼よりにするのはこの少女だ。
「サンデーちゃ〜ん、お昼をご一緒しない?」
スクゥエア・ガンガン・エニックスがそんな皆の複雑さを微塵にも見せない、のんびりと朗らかな声でサンデーを呼び止める。
「・・?でも私・・・」
まったくいつでもヘンな落ち着き払いようだ。声色に動じた様子もない。
「うふ。そんな怖い顔しないで?
お昼の放送で日本文学の朗読、なんて企画してみようかなって。初回は漱石なもの?鴎外?ほら、順番がデリケートすぎてこれはサンデーちゃ

んにしか頼れない!」
サンデーが食いつく単語をぞろぞろと並べる。

・・・・・・で、中庭にて。
「へー」
「ね?ね?すごいでしょ?月ジャンさんは将来、小説家になれると思うの!」
ほとんどを聞き出される。

なるほどねえ。ガンガンは考え込む。
無邪気に勢い込むサンデーの笑顔を観察する。なるほど、小説を介在してとは。考えたわね。
・・・強敵、現る。ガンガンは目をつむる。
こんな香ばしい人畜無害カポーそりゃ魅力的でしょう。獲られてなるものですか!
「うん、素敵だわ!」
考えた末にガンガンちゃんは、ぽん、と手のひら同士を合わせた。
「でもサンデーちゃんの、その助言も素敵!うらやましいくらい」
「・・え?そんな事は・・・」


後はずっとガンガンちゃんのターンになる。
「うらやましいわよお。私もね、月ジャンさんと同じなの。
うん、そうそう。私も物語書いてみたいなあ、って。いいなあ、月ジャンさん、サンデーちゃんみたいな素晴らしい読者を・・・
え?私のも読んでくれるの?嬉しい!
助言も?うわあ、頑張る、もちろん頑張る!・・・・・・・」

数日後。月ジャンがサンデーちゃん、最近来ないなぁ、と思ってたら。
渡り廊下で会った。しかも通りすがりだ。以前の彼女なら熱心に探してくれたのに。

「ご、ごめんなさい、最近、忙しくって!本当、ごめんなさい、すっごく読まなきゃいけない・・・その、読まなきゃいけない物があって!!


申し訳なさそうな、でもいきいきとしたサンデー。
「え・・?あ、うん・・・」
「その本を返却しなきゃ!今から貸してくれた人に会うんですよ?そのお話を読むまで待ってくれませんか?」
そわそわと浮き足立ってすぐにでも飛んで行きたそう。答えも待たずに一礼する。
サンデーが大事そうにぼろぼろのコクヨキャンパスノートを抱えていた。が、制服にそれはあまりにさり気なさ過ぎて月ジャンの気がつくはず

もない。


・・・・・どういう事?
月ジャンはキツネに化かされた気分だった。
ぽけ、とサンデーの背中を見送っていたが。ふいに頭の隅に浮かぶ少女。温度を感じさせない、心を覗かせない義妹。
ああ・・・これってあの娘にとってもチャンスを逃したって事かな・・・・・。


マガジンは『サンデーちゃんは熱狂的な支持を集める作家の愛好家サバトに参加していました』と報告をジャンプに朗読した。本当に朗読なの

だ、教え込まれた通り。
拍子抜けしたようなジャンプは・・・最後にはうなずいた。時折サンデーが熱に浮かされたように愛読の作家を語りだす様は知っている。聞い

てもないのに。


納得したジャンプは
「あ、解決ついでにもひとつ相談」
サバトって表現が絶妙だな、と妙に感心しつつ言葉を続けた。
「あんたガンガンと仲いいよね」
マガジンがびくぅ!と毛を逆立てる。
「あのさあ、あのおねーさま、ミョーなんだわ。この間の移動教室で向かい合わせになったの。
で、おねーさま授業中、ずっとノートも取らないでオレの事じーっと見てんのよ。・・・・・・・・・・・・・・・そんで最後に一言だけつぶ

やくの」
思い出したのか、ジャンプはぶるっと身震いした。深刻そうに声を潜める。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『キンバクニクニンギョウ・・・』って!!!」


ひ、ひぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
「なにがしたいのよ?どういうこと?なんか響きが怖いんですけど?!
気味悪いよ!!すぐに抗議したんだけど、可笑しそうにだよねえってしきりに一人で納得してんの。一体なんなの、じゃあなにがしたいんだっ

つーのよ!」
マガジンちゃんの背中をだらだら、だらだら汗がつたう。
「それだけでも気味悪いのに根掘り葉掘り訊いて来んの!
サッカーで負う怪我って何?とか場所は?包帯は?痛くないような看病は?歩けない時にご家族は?
なんなの、なんなの?!もー、気味悪い通り越してこえーよ、あのオンナ!!」

マガジンはあわててジャンプにもう一切相談事するな!と言いつけた。
「なんで?あんた秘密守るじゃん」
「言いたくなくっても言わされる、とかこの世にあるでしょ?自分が可愛かったら、もう一切、オレに相談は禁止・・・!」

ガンガンちゃんは返却されたぼろぼろのコクヨキャンパスノートを前に感心したようにうっとりとつぶやく。
「サンデーちゃんのリクエストが香ばしい件」
ほぅ、とため息を吐く。
「全力で応えたいけど・・・現実世界じゃ制約あるしエロ入れるのって難しいのねえ。
念とか使っちゃったりして?チャクラ?パクティオー?錬金術・・・?」
しばらく考え込んでいたが。すぐに照れ笑い。
「いやあね、それこそ催眠術じゃな〜い!」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・



               >>359からのお詫びとお知らせ

     貴スレ「ジャンプとかサンデーとかマガンジンなどで百合」において上作品に
     出てくる雑誌名が事実とは違うと各漫画雑誌信者はご不快とお察しいたします。
     >>359は今回の事態を重く受け止め、深く自戒し、住人や各誌信者の方々に
     ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
     今後は二度とこのようなことが起こらぬよう、信者の方々は指導の形でもって
     将来の貴スレを担う若いレスを育てていただけたら、と願ってます。

番外編 サンデーの胸の内の百合を育てるガンガン

サバト、と言う表現は実は的を得ていた。
「はい、サンデーちゃん、悪いけど目を通しておいてくれる?」
「わあ、いっぱい感想書くよ!」
「うふふ、サンデーちゃんの意見は重宝してるのよ」

ノートの交換しあうガンガンちゃんとサンデーちゃんの姿は、ここ最近は頻繁だ。
手渡されたのは表紙に『お昼の放送・企画No.3』と銘打ってある、ブルーのコクヨキャンパスノート。学校内では誰の目にも留まらない自然さだが・・・


「サンデーちゃんのオーダーによりお手製しました、かぎりなく実話本に近いこちらのスイーツ(笑)ですが」
内容は題名とは違う。そんなフェイクをしてまで秘密裏にやり取りしているからには
「おかずとして絶賛ご愛顧いただいているようで〜す。3冊目って所がエロ本に飢えてる様が手に取るよう。甘酸っぱくって←キャ?ワ!イイv」


相手の頬をぷにぷに、ぷにぷにと突付きながらガンガンは上機嫌だ。
されるがままのマガジンちゃんは・・・もう泣き出したい。
なんでオレに逐一報告してくるの?オレまで罪悪感持っちゃうよ?人のデリケートな秘密を面白半分で探るの、良くないよ?サンデーちゃん、信じてるのよ、おねーさまの事・・・。
「さらにこのお姉様は太っ腹だ!」
「・・・・・」
「マガジンちゃんにも貸し出しちゃうゾ?」
だからなんでオレ?!
「読んだらサンデーちゃんの性嗜好が分かるわよ〜。マガジンちゃんのように察するに早いコなら特にね」
だから!止めて、そんな悪趣味、オレにはないしね?!

無言で顔をそむけ続けるマガジンに
「あら・・いらないんだ」
「・・・・・・」
「意外。私なら隣人の性嗜好なんて是が非でもチェックしたいけど」
ガンガンちゃんはページをぺらぺらとめくる。
「氏でもわいてたら嫌だもの。是が非でもだけどなあ」
あひぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
マガジンは椅子を蹴った押して立ち上がった。
「おねーさま、貸してください!!!11111111!!!!!!!」
「うふ、これが第一話〜」


マガジンちゃんはどきどきしながら渡されたコクヨキャンパスノートを抱きしめた。
ああ・・なに?この関係。なにこの関係性。なんでオレ?なにが巡りめぐってオレがサンデーちゃんの監督役?
そもそも、あのコの性幻想なんて恐ろしくて知りたくないんですけど。更にどーやって軌道修正したらいいの?本人達にも、クラスメイトもご実家の方々も気付かないようにそれとなく?

真剣に混乱状態に陥るマガジンは知らない。そんな自分だからしなくてもいい苦労までしなきゃいけないのだ。
人情深くて、世話焼きなお人よし。そんな苦労症が苦労背負う。

第四話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」+番外編

第四話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」+番外編

2007年ごろpink-bbsにて投稿されていた作品の転載です。 スレッドの更新が滞ってから長年経つので、作者の方の許可を得ておりませんが、好きな作品なので勝手ながらここに転載させていただきました。 作品の一部は18禁となっております。18歳以下の方、ご了承ください。 http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1172759176/ ※リンク先は18禁掲示板となっております(2015.1.12現在リンク切れ)。

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  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-01-12

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  1. サンデーの胸の内で百合
  2. 番外編 サンデーの胸の内の百合を育てるガンガン