世界の作り方
「僕は誰なのでしょうか」
何もない。
本当に何もない部屋だ。
何一つ僕に影響しない。
ただ空間だけの部屋。
暑い夏の日だ。
僕は支持された場所に向かっていた。というか今さっきついた。
しかし、玄関がわからず、呆然と立ち尽くす。
そこに支持されていたのは壁だった。
白い少し薄汚れた壁。古そうにも見えるし、案外新しそうにも見える。
「…なんだこれ」
誰にも聞き取れないような声で少しつぶやいただけだった。
突然壁がなくなった。正確にはも木でできた門になり、奥には緑が広がっていた。さっきまで壁だったことを考えると奇妙な光景だった。
いきなりの急展開で申し訳ないが、いま僕もびっくりしている。
「はははそう恐れずに入っておくれよ。私たちは君を怖がったりはしないから。」
奥から、妙にはっきりと男の人の声が聞こえる。こんな光景を見せられてどうやって恐れずにいろというのだろう。
でも僕にはもう、ここに入る以外の道は残されていないのだ。
僕は覚悟を決めたように、ゆっくりと門を開けて、石畳みの道を通って玄関の和風の扉をゆっくりと右に引いた。
扉を開けると和服姿の背の高い男が立っていた。
「やあ、よく来たね。待っていたよ。」
僕はここに来ることを誰にも言っていないことを思い出した。
同時にここに来た理由をいわなくてはと思った。
「僕を助けてください」
「そうだね。」
男は知っている、というように答えた。
「まあ、なにはともかく君の寝床と仕事を確保しようか。部屋は私が増やしておいたから、問題ないだろう。」
部屋を増やしたとはどういうことだろう。部屋は増えるものなのか、増やせるものなのか?
「問題は仕事だな。君はなにが好きなんだ?」
好きなものなんてない。何も。
「じゃあ、お前の仕事は好きなものを見つけることだ。ここにはなんでもある。望むものは全て手に入れられる。とりあえずは、小説でも読んで心動かされるものを探すといい。本は旅だ。」
これは仕事なのか?仕事というのは、生活するために仕方なくするものではないのか。いや、これは子供の考えだ。
「まあ、そんなとこだ。あ、一つだけ忘れてはいけないのは、晩御飯は六時にきっちり食堂に来ることだ。それだけ守ってくれ。」
待ってくれ。説明が足りなさすぎる。
「問題は結局自分で解決するしかないものだ。私たちはその手助けしか出来ない。」
お前は答えを知っているのか。
男は用は済んだという風に立ち去った。
部屋は悪くなかった。小さなユニットバスとトイレ、小さなキッチン、たんすがついて、六畳ほどのたたみの部屋だ。これだけそろっていれば1人暮らすには十分だ。とりあえず僕は小説を読もうと思った。本棚はすぐ見つかった。とりあえず、手に取った水色の髪の女の子が表紙の本を読むことにした。
本は地の文がくどかったが展開が意外なのと、表現がわかりやすく、読みやすかった。そのうちに六時になった。
食堂には、ここに住んでいるだろう、と思われる人々がそろっていた。
そこにいたのは5人だった。まず、さっき雑に案内してくれた謎の和服男。
おそらく、今日の夕食を作ってくれたであろう、にこにこと笑顔を絶やさない男。
見るからに男にしか見えない変態であろうおっさん。
猫を抱えた髪のながいお姉さん。
そして、どう表現すればいいのか、くまの着ぐるみが一つ。
個性豊かそうな面々だった。
「まだ自己紹介をしていなかったね。私は心太郎。ところてんって読んでくれていいぞ。きづいているかもしれないが、私は魔法使いだ。」
さらっと信じられない事を言ってきた。魔法使いとか言う割りには和服なのであまり信じられなかった。
「僕はここの食事担当です。名前は桜です。さくらと呼んで下さい。」
とても感じのいい人だ。エプロンが似合っていて、エプロンはこの人が着るためにできたのかと思うくらいだ。
「私は礼奈よ♡」
文面では分からないかもしれないが、今僕はこの言葉を聞いて喉のところに吐き気担当の小人がやってきたような感じがした。見た目で隠しきれて無い分、声で補ってる感じだ。
「れいにゃんぬ♡」
手で♡を作ってウインクしてきた。僕は逆にガン見してやった。
「照れちゃうにゃん♡」
僕はなるべく表情を崩さないように務めた。
「にゃんにゃん言うなおっさん。猫に失礼。」
猫を抱えた綺麗なお姉さんがぴしゃりとおっさんに言う。
「私は、さき。」
……。
「……。」
僕も無口だが、彼女も結構無口なようだ。
しかし彼女は声色を変えた。
「よろしくね!」
!?
「って猫太が言ってる。」
猫の気持ちを代弁してくれたようだ。とりあえず、猫に握手を求めた。がそれはなんか無視された。
一通り話が終ったことを見届けると、クマの着ぐるみがおもむろにタブレットpcを取り出した。ペンで何か書いている。
『よろしくね^_^』
それを見せたあと、タブレットを置いて握手を求めてきた。僕は素直に応じる。が、着ぐるみと握手するというのは、なんか、握手という感じがしなかった。
ここには個性的なメンバーがいることは分かった。僕がこの驚きのメンバーの中で取り乱したりしなかったのは、自分の異端性を誰よりも分かっているからだった。
「さてさて、自己紹介も済んだところで今日のご飯と行きましょうか。」
世界の作り方