オール・パペッツ
オール・パペッツ
オール・パペッツ
火星の鉱山口から採掘作業を終えた火星人たちがぞろぞろと出てくる。
「おい、ババイヤ、どうだ?この後、いつもんとこで飲みに行かないか?」
採掘チームのリーダー、オドオドアが大きくて長いスコップ状の前足を上げながら、副リーダーのババイヤに向かって叫ぶ。
ババイヤは一瞬動きを止め、振り返らずにオドオドアに叫ぶ。
「今日はカミさんと新婚旅行の計画を立てなきゃいけないんだ!」
オドオドアは立ち止まり、ゆっくりと前足を下げた。
日が暮れ、鉱山近くの繁華街では多くの火星人でごった返している。
オドオドアはバーのカウンターで1人、大きなモニターに映るニュースを見ながら、地球の栄養豊富な泥水を飲んでいる。
ニュースでは火星人アナウンサーが地球へ輸出する予定の鉱物資源アララ1日分の採掘量を発表している。
「ピピピ!」
オドオドアの左前足に埋め込まれたディスプレイが火星語で着信が入ったことを知らせている。
ディスプレイを操作し、左腕に向かって話すオドオドア。
「やぁ、君かぁ。」
着信元はメスで幼馴染のカレアで、明日に会おうという内容だった。
オドオドアは久々の連絡だということもあり、快く承諾した。
オドオドアの胸は少し高まっていた。
地球で、火星貿易推進委員会から仕事を請け負っているフェイトオブマーズでシナリオライターをしている能木守と彼の上司、伊集院源道が日本のオフィスでオドオドアの1日を彼の視点でモニターしていた。
「まぁそうだな。オドオドアもそろそろ結婚させたほうがベターだろう。カレアは幼馴染だし、うってつけだな。それに、お前もすでに3歳になる子持ちだし、結婚生活のシナリオも充分書けるだろう?」源道の言葉を聞き、目を丸くする守。
「いえ、実はカレアを結婚相手にしないつもりです。彼女のライターは彼女を政治家にするつもりだそうで、オドオドアを支えるには多忙すぎるかと。」
「なんだって?まったく、お前はまだわかっとらんな。あいつらにとっては言葉が第一だ。奴らがどう思っていようと、お前が書いたセリフが翻訳され、奴らの脳にあるチップで一言一句話すことで奴らの思考は自然に構築されるんだ!誰でもいいからさっさと結婚させればいいんだ!」
「はあ。」守の気のない返事を聞き、思わず席を立った源道は後ろを向き、窓からオフィス街を眺めながら続けた。
「お前は奴らのことを考えすぎている。いいか、この程度のことで火星人が人間に反逆を起こすことはないし、彼らにはできない。我々の生活の大半は彼らの採掘するアララによって支えられているが、我々だって彼らに与えているんだ。人生が保障され、彼らは喜んで働いている。ウィンウィンな貿易だよ。養蜂業者だと思えばいい。」
養蜂業者とは違うと守は思った。彼らは蜜を取るために、生まれた時に頭にチップを埋め込み、彼らの言葉や行動、すべてをコントロールしたりしない。そして、守は少し怖かった。あの2本足で歩く、ケラに似た巨体の火星人たちが。源道の「オドオドアを来週までにプロポーズさせろ」という言葉を思い出しながらホバーカーに乗り込み、家へ向かった。
「こんちわー。」源道の愛人で年不相応のメイクをした女子大学生の麻里が源道のオフィスへツカツカと入り、正面に腰かけた。
「どうしたんですかー?不愛想な顔して。」
「まったく、最近の若いものは肝がすわっとらん。」源道が顎に蓄えた髭をいじりながらぼやく。
「わたしのこと?」
「君のことじゃない。こっちの話だ。火星人の1日の会話は少ないとはいえ、シナリオの締め切りを守れていない男がいてな。1人のシナリオが遅れたら、その周りの火星人のシナリオも遅れてしまうというのに。いちいち火星人がどうこう考えているのかわからんが。」独り言のようにつぶやき、葉巻を吸い始める源道。
「ふーん、締め切りを守れなかったらどうなるの?」
「それは許されんが、間に合わなければ、瞬時に火星のすべての時間は止まり、1週間前に逆戻りするだろう。お金はかかるが。」
「えー、そんなことできるの?」
「冗談だ。そんなことできるのは、人間よりはるか上の存在だろう。」
実際、彼らはセリフに頼らず自分で話すことになるが、思考が人間に対して反抗的になれば、その火星人は不慮の事故で亡くなることになる。しかし、源道は麻里に教えなかった。彼女に話したといって何がどうなるわけでもない。
「とにかく、火星人のことを考えていても無意味だということだ。」
地球から取り寄せている昆虫の盛り合わせがおいしいレストランのテーブルで1人カレアを待つオドオドア。1年ぶりに会うため、彼は少し緊張していた。幼いころからの付き合いのオドオドアはカレアに恋心があった。彼自身気づいてはいなかったが、レストランに来る前に自慢の前足のスコップを何度も磨き上げ、地球産スカンクのオナラ口臭スプレーをいつもより多めに使っていた。
先に泥水を飲み始めようとした時、彼女が店の入り口からやってきた。しかし、カレアはもう1人、メスの火星人を連れていた。
2人を見たオドオドアは立ち上がり左足を上げて合図した。
カレアを見て相変わらずきれいだとオドオドアは思った。オドオドアは昔からカレアの大きな触覚と外骨格の斑点模様が好きだった。
「わたしの友達のプポラよ。わたしが火星中央病院に入院していたとき、病院の受付員をやっていたの。」
カレアがプポラをオドオドアに紹介し、2人は軽く挨拶を交わした。
オドオドアはプポラを見て、カレアほど綺麗ではないが、ぴったりの友達だと思った。
3人はウェイターに地球産昆虫の盛り合わせを注文した。
カレアとオドオドアはなぜかお互いのことを話すことはなく、プポラとオドオドアが会話の中心になっていた。
プポラはオドオドアのことが気になりはじめていた。
「それにしてもやっぱり、鉱山で働く人の体って逞しくてステキだわー」
褒められたオドオドアは触覚には表さなかったが、内心は喜んでいた。
「じゃあ、俺と付き合ってみる?プポラだったら大歓迎だよ。」
オドオドアは気づいていないが、このセリフを言った後、本当にプポラが好きで、付き合いたいと思っていた。そして、恋心を抱いていた。カレアよりもプポラと付き合いたいと思うようになっていた。
カレアはオドオドアの言葉を聞き、泥水を飲んだ。そして、昆虫を口にいれるペースが速くなっていた。食事の後半、カレアはほとんどしゃべらずにレストランを出た。
出口でプポラとオドオドアはお互いの左腕を使い連絡先を交換した。
2人の後ろでカレアの触覚は悲しみを表していた。
「それじゃあ、また今度。」オドオドアは2人に別れを告げ、自分のトラックへ向かった。
頭の中は、プポラとのデートはどこに行こうかということでいっぱいだった。
地球産の深海魚が出るレストランがいいと思った。あそこなら農薬や遺伝子操作種子がまじった泥水が出ることはない。すべて栄養価の高いアフリカ産の泥水だ。
その瞬間、オドオドアの頭についた2本の触覚から両目にまで強烈な電流が走った。
「ただいまー」守が家に入ると3歳になる息子の健が玄関までやってきて、守を迎える。
守は健を抱き上げて、妻である冴子のいる居間へ入る。
「はぁ。」健を抱いた守は居間へ入るなり溜息をつくと、鞄をテーブルに置く。
「どうしたの?溜息なんか。」冴子が振り返る。
「オドオドアを早く結婚させろって編集長に言われてさ。」
「させればいいじゃない。幼馴染の子がいたじゃない?確か…。」
「カレア。」健を抱いたまま、ホワイトロシアンを作るために冷蔵庫からお酒とミルクを片手で取り出す守。
「でも、彼女は政治家になる予定なんだ。だから、寂しがりやのオドオドアは支えられないと思うんだ…。」
納得のいかない顔をする冴子。
「ふーん、私はカレアと一緒になるのかと思ったけど?両想いっぽいし。」
「そうかなぁ、俺はオドオドアの事を思って別の人と会わせたんだけど…。」
「私はカレアでよかったと思うなぁ。」訴えるような目で守を見る冴子。
彼女にはオドオドアとカレアが学生のころ、ちょうど守が前のシナリオライターから担当を引き継いだ時から2人の事をよく話していたので、ときどき口を出してくるのだ。
「そうかなぁ。でも、もうセリフ書いちゃったし、明日の夜、カレアがオドオドアに女の子紹介するんだよなぁ。」ホワイトロシアンをひと口飲んで守が言った。
「そっか。でも職業なんて関係ないと思うなぁ。まだいけそうなら、私はカレアと一緒になってほしいなー。」
「編集長には1週間以内にプロポーズさせろって言われているからなぁ、難しいと思うけど、できればやってみるよ。」守は少し迷ってから冴子に言った。
守と冴子はオドオドアに対し特別な情を抱いていた。純粋に2人は、彼に幸せな人生を生きてほしいとシナリオを書いていた。
バチンという音の後、意識を失うオドオドアの体を支えるカレアとプポラ。カレアは2本の電流棒をハンドバッグにしまった。
2人はオドオドアの肩を持ち、周囲をうかがいながらカレアのセダンまで運んだ。
オドオドアの体は予想以上に重く、2人はやっとの思いで車のトランクに入れる。
意識を失っているオドオドアの顔を見下ろす2人。
プポラはあがった息を抑えながら笑った。
「彼、わたしのこと好きになったかしら。」
カレアに笑いながら話しかけるプポラ。
「そうみたいね。」カレアは穏やかに言った。
「彼のことが好きなんでしょう?食事しているときのあなたの態度ったら!まったくあんたはわかりやすい女だわ!いまだってまさに図星って触覚が言っているわよ!」
プポラを睨み付けるカレア。
「やめてプポラ!今はそれどころじゃない!時間がないのよ!火星の運命がかかっているの!」トランクを締めるカレア。
少しの偏頭痛を感じながら、目が覚めたオドオドア。目の焦点はぼやけていて、よく見えない。周囲は薄暗く、地下室のようだった。
「起きたようね。」プポラがカレアに合図する。
「オドオドア!カレアよ。」カレアが心配した様子でオドオドアの傍に近づく。
「ごめんなさい、仕方なかったの。こうでもしなきゃ奴らを欺けないの。」
オドオドアがぼやけた3つの影のうち、近づいてくる影に顔を向ける。
「カレアか?ここはいったい?何も見えない!」オドオドアが頭に着いた装置に気付き、はずそうとするが取れない。
「大丈夫、目はすぐに見えてくるはずよ、頭の方はそのままにしていて。」
オドオドアはカレアが手を握っているのを感じた。部屋の奥からオスの声が聞こえる。
「はじめまして、オドオドア君、私はマリャ医師だ。これから言うことを冷静に聞いてほしい。」
オドオドアは動転して、返事もできなかったが医師は続けた。
「我々は地球人に操られている。頭に植え込まれたチップによってね。」
オドオドアには意味がわからなかった。
「カレア、この人は今なんて言ったんだ?どういうことなんだ?」
パイプ煙草を吸いながらプポラがオドオドアを叱咤する。
「黙って先生の話を聞くのよオドオドア!」
オドオドアは驚いた。さっき一緒に食事をしたプポラとはまるで別人だった。
「オドオドア君。我々の頭に埋め込まれているチップは常に我々の行動と日々のセリフがプログラムされている。1週間単位でね。」
「どういうことだ?チップは個人情報管理用に政府が…。」
火星政府の公式発表ではチップは個人識別のためだった。
「でまかせだよ。オドオドア君。すべての火星人は地球人のシナリオ通りに動いている。1日1日、どこへ行って誰と何を話すかまで細かくね。」
「しかも、私たちの目にしている視覚情報をチップで転送し、すべてモニターしているわ。」プポラが険しい表情で付け加えた。
「そんな馬鹿な。」
オドオドアにとって、信じがたい話だった。さまざまな疑問が湧き上がってきた。
「今までの人生があいつらのシナリオだったっていうのか!それにこの会話はどうなる?」オドオドアの目は、ほぼ回復していた。
パイプ煙草の煙を吐いた後、プポラが再び話しはじめた。
「あの電気ショックよ。あれであなたは1時間ほど失神したわ。チップはマヒしたはず。6時間ほどは機能しないから、地球人は泥水の飲みすぎで倒れたか寝たと思っているわ。」
「君たちの目はどうなってる?」
「私たちはそれを使って自分のチップをマヒさせた後、レストランへ行ったの。」
カレアが示した先には口で噛むタイプの小型の電気ショック装置があった。
その時、頭の装置とつながっている後ろの装置から紙が出た。マリャ医師が取り出し、オドオドアに見せる。
そこにはオドオドアの月曜から日曜の行動とセリフがあった。
「今日は土曜日だから、この部分だ。明日はプポラとデートへ行く予定らしい。」
マリャ医師が示した箇所に今日レストランで話したことがすべて書かれていた。
プポラは険しい表情でオドオドアを見た。
「チップが送る信号でセリフは自然と話しちゃうんだから、今のうちどこへ行き、何を話すかインプットしておくことね。奴らは私とあなたをくっつける気よ。」
明日のシナリオを読み終え、カレアを見るオドオドア。
「彼らは見ているわ。シナリオ通りにしなきゃだめよ。」
オドオドアの肩に手を置き同情するカレア。
「こんなこと続けなくちゃならないのか?」
オドオドアの心の中ではこんなこと知りたくなかったという思いと地球人に対する不信感や怒りが渦巻いていた。
「私は1年よ。」カレアが言った。
「私なんか2年よ。あなたは本当に運がいいわね!」ウンザリしたように言うプポラ。
「いつまで続ければいい?」
「火星人の自由を取り戻すまでだ。」とマリャ医師が言った。
「地球人に気付かれずに他の火星人たちを覚醒させるっていうのか!一体何年かかるんだ!」抗議するようにマリャ医師に言うオドオドア。
「あなたは私たちが2年も何もしてなかったと思っているの?馬鹿ね。」プポラがパイプタバコをふかせながら言った。
壁に貼られている火星の地図を示すマリャ医師。
「火星の他の小規模採掘チームはほとんど覚醒済みだ。我々には伝書ネズミを使ったネットワークがすでにある。我々は約束の日に地球人の火星基地を叩く。君の鉱山では30人働いていたね、その日までに君のチームをすべて覚醒させるのだオドオドア君。」
「約束の日ってのは…?」
3人を見て、恐る恐る聞くオドオドア。
「1週間後の日曜よ。」
つぶやくようにカレアが言った。
翌日。地球のフェイトオブマーズのオフィスでは、守がオドオドアの明日から日曜までのシナリオを、源道に読ませていた。
「まるで大昔の安ドラマだな。結局、日曜日の夜、ぎりぎりでカレアにプロポーズするのか。まぁいい。直ぐに翻訳機にかければ明日には間に合うだろう。」
守は源道にうるさく言われると思ったので、ひと安心した。
しかし、源道は続けた。
「最初から、カレアで良かったんだ。昨日は無駄にプポラと出会わせて飲みすぎで倒れたんだろう?おまけに今日はデートときた。」
やっぱり愚痴を言われたかと守は思った。
しかし、守はオドオドアが倒れたことは知らなかった。昨日の記録をまだ見ていなかったのだ。
そして、不審に思った。オドオドアは泥水を10杯以上飲んでも倒れたことはない。
源道のオフィスを早く出たかったので、詳しいことは聞かず、後でオドオドアのチップの記録を見てみることにした。
「今度は遅れるんじゃないぞ?火星人の事を深く考えすぎるのもやめろ、いいな?」
守に指をさして注意する源道。
「はい。それでは失礼します。」
源道のオフィスを出た守は自分のデスクに戻ると、目の前のディスプレイでチップの記録を照会した。記録にはオドオドアがレストランでカレアとプポラと食事をして出るまでを記録していた。
試しにカレアとプポラの記録を照会したが、2人はレストランへ来る前に記録が消えている。
守は偶然だろうと思いつつも、映話スクリーンのスイッチを入れ、火星への接続を待った。壁に埋め込まれたモニターにはデートをするオドオドアとプポラが映っている。
水曜日。すでに15名の採掘チームを覚醒させたオドオドアは暗闇の中、小型の電気ショックマウスピースを見ながら、うんざりした気持ちになっていた。今晩も5名覚醒させなければならないため、思い切ってマウスピースを噛み、気絶した。
オドオドアは採掘チームの副リーダーババイヤと、今晩で新しく覚醒する5人目の鉱山労働者をマリャ医師の自宅地下室に運び入れた。入るなり、プポラが叫んだ。
「ちくしょう!」
プポラが紙くずを壁に投げつけた。カレアが心配しながらプポラに訳をきく。
「地球人は、土曜に私を友達の結婚式に出席させるために、隣町まで行かせるつもりよ!」
カレアは驚いた。
マリャ医師は険しい表情で言った。
「言う通りにするしかない、作戦が第一だ。隣町の急襲チームに加わりたまえ。日曜日に奴らの基地で会えることを祈ろう。」
金曜日。オドオドア行きつけのレストランで、オドオドアとカレアが昆虫の盛り合わせを食べている。
カレアは頭を抱え、悩んだ様子を見せた後、口を開いた。
「私、もう耐えられない!」
オドオドアは驚いた表情で言った。
「耐えられないって…?」
カレアが答える。
「あなたの事よ。私、プポラに嫉妬しているのに気付いたの。」
オドオドアは沈黙した後、言った。
「俺もどうかしていたみだいだ。そして、子供の頃から一緒だった君を失うことが、怖くなったんだ。プポラのおかげで気付かされたよ。君への思いを。」
オドオドアの首に毛虫が付いている。
マリャ医師の自宅地下室で、マリャ医師が新しく覚醒した5人に日曜日の作戦について話している。マリャ医師は連日、作戦について同じ説明をしており、オドオドア達も聞いている。
「隣町の3チームが3つのゲートにそれぞれ突入しだい、照明弾を順に発射する。3つの照明が上がったのを確認後、我々は1番大きな正面ゲートからトラックで突入する。」
基地内の地図を広げ、示しながら説明するマリャ医師。基地内の様子や動きについては、基地に入ったことのある火星人から細かく調査済みだった。
「指令室のある、この建物にトラックごと突っ込んだ後は、副リーダーババイヤを前、オドオドアとカレアに後方を守らせ、指令室を目指す。4階の指令室に入るのはオドオドア達だ。地球人の幹部たちをすばやく人質にし、奴らを降伏させる。」
ひと通りの内容を聞いた採掘チームの5人がマリャ医師に質問する
「どうやって戦うんだ?」
マリャ医師が答える。
「奴らの背は低い、全員、火星製の盾を使い体当たりし、奴らの武器を奪い取る。」
5人は注意深くマリャ医師の話を聞き、マリャ医師も細かく説明する。
「ところであなた、いいの?あのシナリオ。」
プポラがカレアに小声で呟く。
カレアは頷き、オドオドアの傍に近寄る。
「少し話せる?」
オドオドアは頷き、2人は真っ暗な庭に出た。
「やつら、日曜にプロポーズさせる気よ。」
オドオドアはすでに理解していた。カレアが日曜に、地球人のシナリオでプロポーズされたくないということを。
「わかっている。まるで安ドラマだ。でも、今日のセリフは本当の気持ちだったよ。」
オドオドアはカレアの目を見て言った。
「俺と結婚してくれ。」
カレアはオドオドアに抱き付いて答えた。
「もちろんよ。」
カレアはオドオドアの首に毛虫が付いているのに気付き、ふるい落した。
日曜日。大きなトラック3台が基地のゲート近くに止まっている。トラックの外でマリャ医師が腕時計を見ながら、照明弾が打ち上げられるのを待っている。
オドオドアは3台目のトラックの荷台で他のメンバーと一緒に待機している。
「予定より30分も遅れているわ。」
隣に座っているカレアがつぶやく。
オドオドアは黙っていた。
辺りは静寂に包まれ、緊張で張りつめていた。最初の照明弾が打ち上げられたのを見て、マリャ医師がトラックの荷台を叩きながら、他の皆に知らせる。
「最初の合図だ。すぐに次のも上がるはずだ!用意しておけ!」
自由を手に入れるために、全員が命を懸けていた。オドオドアは、カレアの肩を抱いた。
「指令室到着まで40分程度だ!その間だけでいい!全神経を集中させて戦うのだ!そのあと、我々は自由を勝ち取る!本物の自由だ!」マリャ医師が士気を高めるように叫ぶと、荷台にいる火星人たちがざわついた。
「2番目の合図だ!」マリャ医師が再び叫ぶと他の火星人たちも自分を言い聞かすように答えた。
オドオドアはカレアの肩を抱き、言った。
「戦いが終わったら、式を上げよう。」
カレアが頷く。
「3番目の合図だ。行くぞ!」
マリャ医師が1台目の助手席に乗り、3台すべてのトラックのエンジンが始動し、すべてのトラックがゲートへ向かって全速力で走る。
ゲート前までトラックが到達すると警護している地球人数名が発砲してきたが、荷台の火星人数名が飛び降り、殴り倒し、武器を奪った。武器はオドオドアが受け取り、トラックは再び、全速力で走り出した。
走るトラックの周りでレーザーが飛びかうが、追うものも阻む者も少なかった。他のゲートにまだ気を取られているらしかった。
オドオドアはレーザー銃をスコップ状ではない手を使い、追ってくる地球人に撃ってみた。
レーザーは地球人たちのトラックに当たった。
「楽勝だな!」
「いけるぞ!」他の火星人が言うと、オドオドアもそう思った。30人もいるのだ、司令部まで全速力で走れば、奴らを人質にするのは簡単だ!
1人も怪我する事無く、指令室がある建物の近くに到達し、1台目のトラックが階段のあるフロアに全速力で突っ込んだ。
3台すべての荷台から火星人が飛び出し、建物に続々と入っていく。
建物は異様な静けさが広がっていた。
オドオドアは建物に入った瞬間、恐怖でいっぱいになった。それは、他の火星人も同じだったが、皆、階段に向かって走るしかなかった。
最前線で走る火星人が階段を上ろうと足を上げた瞬間、右端の廊下からエネルギー砲が発射され、破裂した。
前列は吹き飛ばされ、辺りに粉塵が舞い散った。
「進めー!」
全員の恐怖を掻き消すような、マリャ医師の怒号が響いた。
全員、怒りで激昂し、次々と階段を登っていった。
エネルギー砲は2階でも、3階でも発射され、半分の火星人が犠牲になった。
4階に上る階段の途中で皆は止まった。マリャ医師とババイヤの姿はそこになかった。
「ちくしょう!やつら待ち伏せていやがった!」先頭の火星人が叫ぶ。カレアとオドオドアは作戦の結果を予想していたが、走るしかないとわかっていた。目は、しっかりと前を見ていた。
「行くしかない!」オドオドアの怒号が響く。
「ちくしょう!」先頭の火星人は呟くと4階へ突入していき、カレアとオドオドアたちも後に続いた。
盾にエネルギー砲が当たるたびに、粉塵が舞い、火星人が倒れる。
オドオドアとカレア、その他3人の火星人はやっとの思いで、エネルギー砲を撃つ地球人達を倒し、武器を奪うことができた。
しかし、背後からは敵が迫っていたため、5人は急いで指令室前まで走り、1人がドアを蹴り破り、指令室に入った。
オドオドアとカレアも銃を構えながら、ついに指令室へ入った。
指令室にはたくさんの地球人が銃を構えていた。オドオドアの正面に、守が銃を構え、源道が横に立っている。
「俺が、毛虫型のカメラを付けていなかったら…。」
守が呟き、隣のスピーカーから変換された火星語が部屋中に響き渡る。
オドオドア達が銃を降ろす。
「他のチームは突入してすぐに壊滅した。プポラも死んだ。俺は、君たちを結婚させたかった…。」守が再び呟くと、オドオドアが守に銃を向けた。
「やめろ!」守が叫び、引き金を引いた。
オドオドアが後ろに吹き飛んだ。カレアが悲鳴を上げながら駆け寄る。
「オドオドア!」守が叫んだ。
死んだオドオドアの体を抱き、鳴くカレア。
カレアは銃を振り上げたが、引き金を引く前に、またもや守に撃たれ吹き飛んだ。
守が膝から崩れ落ち、源道が葉巻の煙を吐きながら言った。
「これで物語は終わりだな。」
吐き出した葉巻の煙が空中で止まった。火星だけでなく、地球を含めすべての時間が静止し、逆戻りした。煙が源道の口へ戻り、レーザーがカレアの体を通過し、守の銃口へもどる。オドオドアの体も戻り、火星人5人の体が指令室から出ていく。逆行は加速し、すべてが元通りに戻っていった。
地球では、守のオフィスにある映話スクリーンに源道が映り、守を呼んでいる。
「シナリオが遅れているぞ!オドオドアをモニターするから、今すぐに私のオフィスまでくるのだ!」守は返事をして、部屋を出た。
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