壊れた時計
僕は彼女に救われた。
僕は十数年前に死んだ。
自殺だった。
理由と名前は今になっては思いだせない。
でも、1つだけわかったことがある。
それは、
『死んでも救われない』
っという事だった。
死んで、気が付いたら僕は図書室に浮いていた。
生前、よく来ていた場所ということで選ばれたのか、
適当に選ばれたのか分らなかった。
何度か出ようとしたが、
何度ドアをくぐっても、窓から出ようとしても
外に出ることは出来ず、
何故か図書室に戻っていた。
それからずっと僕は一人だった。
家族のことは全く心配にならなかった。
元々僕は家族に必要とされていなかったから。
それからは退屈で仕方なかった。
図書室にやってくる生徒を脅かしてみたりしたが、
全く驚かない。
あたりまえだ。
彼らには僕が見えていないんだから。
脅かすのも飽きて、
それからまた十年近く経ったある日、
全く使われなくなってきた図書室に
彼女はやってきた。
初めて僕を見ることができる女の子だった。
何に対しても感情が大きく動かず、
人に心を開かず、
そして、死にたがっている女の子。
最初はもし彼女が死んだらここに居てくれるようになるんじゃないかとか、
数十年の孤独から解放されるんじゃないかと思って、
不謹慎にも彼女が自殺するのを待っていた。
でも彼女に話しかけて、
話をするうちに彼女に生きてほしいと思うようになった。
それから僕は彼女に死について話すようになった。
どれ程孤独なものなのか、
悲しいものなのか。
彼女は最初、胡散臭そうに聞いていたが、
少しずつ聞いてくれるようになった。
それから、彼女の死にたがりも消えていくのが分かった。
その他に他愛のない話も幾つかした。
この作家の本が好きだとか、
猫より犬の方が好きだとか、
色々話した。
僕は生前こんなに誰かと話したことはなかったと思う。
死んだ理由は覚えていないが、どんな人間だったかは覚えてる。
友人は居なかったし、
誰かと話したいとも思わなかった。
でも、彼女と話しているときはこんなにも楽しいと思えた。
それに、僕は彼女に特別な感情を抱いた。
生前も、死んでからも誰にも抱いたことのない感情。
これが「恋」だということは最初は分らなかったが、
丁度いいことに図書室だったために「恋」に関する本は沢山あった為、
自覚することに時間は掛からなかった。
でも、彼女に伝えるわけにはいかなかった。
伝えたら、彼女はここに来なくなるかもしれないから。
ずっと黙っているつもりだった。
それから何か月か経って、
彼女の卒業式の日がやってきた。
彼女は生きている。
きっと最後の日くらい友人と過ごすのだろうと、
僕はもう会いに来てはくれないと思っていた。
そんなことを考えていると不意にドアが開いた。
てっきり、例年通り卒業後の告白に使われるのかと思い、
物陰に隠れた。
でも、聞こえてきたのは僕を呼ぶ聞き覚えのある彼女の声だった。
ドアを開けたのは彼女だった。
卒業証書の入った筒を持って彼女が立っていた。
「なんで来たの?」
至極真っ当な質問を彼女にぶつけると、
彼女は不思議そうな顔で
「あーさんに会いに来たんだよ。当たり前でしょ?」
と答えた。
「最後の日くらい友人と過ごさないの??」
「ぼっちに何言うのさ。」
少し不機嫌になった。
「あーさんこそ、卒業式にも出ないで…。
写真撮ろうと思ったのにいないしさ…。」
この言葉を聞いて泣きそうになった。
僕は彼女と写真に写れないし、卒業もできない。
そんな現実を噛みしめていると、
彼女がきょとんとした顔で僕を見る。
「どうかした?」
「え?」
「あーさん、泣きそうだよ?」
・・・ばれてたのか・・・。
「気のせいだよ。それより最後に時計の話してもいい?」
僕は笑って彼女に言う。
彼女はまだ不思議そうな顔をしていたが、首を縦に振ってくれた。
僕はまた時計の話をした。
自分でも驚くほど穏やかな気持ちで話していた。
彼女はもう自分から死を選択せずに済むことが分かったからかもしれないが。
話終えると、僕は彼女の目を真っ直ぐに見た。
最後に伝えようと思っていた言葉を告げた。
「僕の時計はとっくの昔に壊れているんだよ。」
正直、彼女が逃げ出しても追いかけることはしないつもりだった。
でも、彼女は真顔で驚きもせず、立っていた。
真顔の彼女の顔を見ていたら、
なんとなく吹きだしてしまっていた。
一通り笑った後、
僕は彼女に初めて触れた。
思っていた通りというか、
彼女は暖かかった。
ここで僕は気づいた。
自分が透けていることに。
もう、本当に彼女に会えなくなることに。
だから、もう聞こえるかどうかのときに、
僕は口を開いた。
「夏弥、愛してる。」
聞こえたかどうか、僕にはもうわからない。
でも、それが僕の最初で最期の告白になった。
今、僕は学校の図書室にはいない。
もう、本当の意味でこの世にはいない。
今も僕は一人ぼっちで過ごしてはいるが、
ここがあの世と呼ばれる場所なのか僕にはわからない。
でも、昔よりも孤独だとは思わなくなった。
僕にも楽しみができたから。
彼女…いや、夏弥の時計が止まって、
僕と同じ場所に来たら、
夏弥の時計が止まるまでの話を聞こうと勝手に思っている。
あの頃のように、また話すことを希望にここに居る。
そして、
叶うなら今度はちゃんと夏弥に伝えようと思っている。
あの頃から、僕は君を愛していたと…。
壊れた時計
拙い分でお目汚し申し訳ないです。
そして読んでいただきありがとうございます。
『時計』のあーさん目線でございます。
『時計』を書いて速攻で浮かんだため急いで書きました。
かなり文章がひどいと思います。申し訳ないです…。