第一話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」
61 作
Sunday 編
ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合
昔、昔の物語。
日本にとある出版系列のグループがありました。
日本児童への教育に熱心な家の人達で築いたグループで、日本の子供達なら誰でも一度くらいはご本を読んだことあるかも?
たいそう、子供たちが大好きな一族でしたので。
教科書だってお医者さんの本だって、子供をよろこばせる雑誌だって作ります。
これはその最後の、雑誌を作っていた家柄に起こった、とある代のお話です・・・。
でも。本家筋の皆さんは集まって相談しあいました。
・・・この家ってこの先、生き残れるんだろうか?
あまりに心が優しすぎやしないか?
一族は相談を進める。
もしも。家系に競争相手がいるとしたら?
ここで一気に全員の議論は加速する。
そうだ。もう一つでいい、分家を作ったらどうだろう。
たしかあの家に弟妹がたくさんいたはずだ。
・・・一族は話し込む。
ちょうどおなじような家族構成の、弟妹からひとつ分家を出さないか?
こうして、小学館の家から似たような弟夫婦が別れてそれぞれ家を持つこととなりました。
分家のほうは集英と名乗る事で決まりました。
どちらにも娘達がいたので、一族の話し合いは娘たちへも・・・。
ちょうどおない年っていなかったか?確かどちらも娘だ。
都合がいい、安全だ。
うん、安全だ。安全に双方で競争しあう。お互いが磨きを掛け合って、しかもどちらも我々の家の庭の中で争ってるんだ。
これほど娘達を傷つけない争わせ方ってあるか?
どんどん深く、現実的に。
更に互いを同じ学校にさせるんだ。
千代田女学院はどうだろう?いいね、あそこならおなじ業種の女子が集まる。だとしたら別の会社の女子との社交技術まで磨かれる。
へー、まるでそれは将来への準備のようだ。
しかも他の空気も吸わず出版界の空気だけ吸う。それは素晴らしい。だとしたら育った娘達は・・・。
彼らはお互い笑顔で頷き合ったのです。
我々の庭で成長する、この世界しか知らない純正な娘達なんだ!
こうして仕上がった土台に、頷き合ったその笑顔はいわゆる会心の笑顔ってヤツでした。
そして、時代は現代へ!
「サンデーとかwww発行部数少な杉wwwwwwwザコスwwwwwwwwwwww」
「ジャ、ジャンプちゃん・・・そんな事いわないでよ・・・ぉ」
「うるせーよwwお前なんていらねwwww」
「お前またサンデーちゃんいじめてんじゃねーぞっ!」
「うはwwwwwマガジンきやがったwwwwwwww発行部数俺より少ないヤツは黙ってろよwwwwwwwwwwwwww」
「ほらサンデーちゃん、あっち行こう」
「おいwwwwお前ら無視すんじゃねーよ」
「あ、ちょっと・・・マガジンちゃん?」
「おいコラ待てよwwwwwwww無視すんなっつって・・・
「ウゼーんだよついてくんな!」
「・・・・・・無視、すんな・・・って、サンデーまで・・・」
千代田女学院ではあんまり良家の子女とは言えない言葉が飛び交ってる。
まだ初等部を卒業したばかりとは言え、あまりに自由すぎる。
が、学校側も個性の尊重、と教育方針をうたっている。だから実質礼儀作法に関しては野放し状態だ。
締めてる所と言えばクラス分けぐらいか?
クラスはきっちり彼女たちの成績で上位順で分けられてはいる。
将来、彼女たちは自分の家の家業を継ぐのだ。
成績はさすがになにがしろには出来ない。
・・・それは学生たちも感じ取って、おのずとクラスでの立場も決まっていた。
一番最初の言葉はジャンプちゃん。
集英家の何番目かの娘だ。集英は新興の家柄とはいえ、ここ最近の業界ではかなりの出世頭だ。
中でもかなりの成績を誇る彼女は現在絶好中。
言葉も荒くなろうものか。
外見は悪くはないのだが・・・。
ちょっと勝気そうだが活気に満ちた瞳。表情がくるくる変わるポジティブさ。
それが場面が変わればドキッとするほど綺麗にも見えるから人を惹きつけて離さない。
自分でも分かってるのか、だからあまり自分を律するとか関心なさ気だ。
クラスでもやりたい放題で、しかも成績は残すから誰も何も言えないのが現状。
・・・ただ、マガジンちゃんを除いては、だが。
マガジンは割りとジャンプにもハキハキと物言いするから、大人しいサンデーを連れて避難させてやった。
ったくなんでオレがお子様たちの面倒見なきゃいけないんだか。
あー、もう本当ジャンプって子供だよ、おガキ様だよ!!
サンデーと言えば、マガジンの後を付いていきながら視線は落としたままだ。
足取りも・・・
「ん?疲れてる?」
マガジンがさっぱりとした口調で振り返った。
「え、あ、う、ううん!」
サンデーはすぐに顔を跳ね上げて優しい笑顔になった。
マガジンは内心は思うところあったが、口調を改めて、
「ごめん。サンデーちゃんはオレたちのグループでも無理してるんじゃない?」
マガジンがサンデーの顔を覗き込んで微笑んだ。
「オレら歩くのやたら速いしなあ。付いて来るのに精一杯ってカンジ!」
そして快活に笑い飛ばした。
マガジンちゃん。講談と言う古い出版社の家柄の、これまた何番目かの娘。
今こそはスカートも短くして可愛いしぐさで笑顔振りまいたり、と変化はあるものの実は昔はこの辺りでは相当のカオだったらしい。
美しい髪をさっそうとひるがえして喧嘩を買うどころか喧嘩を楽しむような姿は近所の記憶にも新しい。
・・・きっと昔もステキだったんだろうなあ・・・・。
小学館サンデーはぽーっとその笑顔を見た。
サバサバした雰囲気と頼りたくなるような可愛い・・・というよりも美人、って表現したいんだけどなぁ。
学校の外では男子が「可愛い可愛い」と騒いでるのが不思議だ。
マガジンは立ち振る舞いもきびきび潔くて美人・・あ、違う。麗人、って言うのかな、こういう場合・・・。
「どした?やっぱオレらに付いて来るの疲れちゃう?」
「え?う、ううん!だから私は本当にマガジンちゃん達といるの楽しいし・・・」
「あはは。でも無理してる感はあるな~」
「そ、それは私がトロイし・・・その、みんなのノリを壊してるって言うか・・・」
あー、そうかもね。マガジンは言わんとすることが分かった。
この少女は心根が優しすぎる。あまりハメを外さない真面目さだ。
妹のコロコロちゃんなんかは外しまくりなのにね~。マガジンは苦笑した。
妹って気楽!
「でも使用人はかなりスポーツ出来るのいるじゃん」
「え、うん・・・」
「甲子園、体操、メジャーリーガー、なんでも揃ってる?
さっすが一ツ橋グループは雇える使用人は違うわぁ~」
またカラカラ笑うマガジンにサンデーはもっと視線を落とした。
「でも・・ジャンプちゃんの家の使用人はもっと・・・その、期待されてるし・・・・・」
そこまでで言葉は途切れる。
彼女たちは一流の名家なので、使用人も半端じゃない事も前もって添えさせて欲しい。
と、言うかおのおのの家の情熱が半端じゃない。
マガジンが言った通り、例えばスポーツ。
メジャーリーガー、Jリーガー、オリンピック選手は当たり前。
学問なら有名な探偵の子孫。医師なら珍しいのでは獣医までいる。
身を守るための格闘のプロですら選り取りみどり。
・・・・すべて彼女たちの成績の為に。
彼女たちが将来、家業を継ぐためにおのおのの家が必死だ。
「無理しなくってもいいよ?だいたい、ジャンプとサンデーちゃん達ってさ。元々、えーと、その・・・」
今まで歯切れのよかったマガジンが言いよどんだ時。突然サンデーがさえぎった
「違う!!!」
マガジンは驚いて目を見開いた。
「違うよ!私は・・・ジャンプちゃんが好き!大好き!!仲良くしたい!お母様たちが許さなくたって・・・!」
後は唇をかみ締めた。
おっどろいたぁ。
マガジンは授業中、くるくるシャープペンを指で回しながら上の空だった。
だってガッコの教師、ヌルイしぃ。家に住み着きの家庭教師のがよっぽど使える。
暇なのでサンデーを盗み見る。
あーあ、真面目にノート取ってるわ。
マガジンは苦笑した。
真剣に黒板を見て、先生がポイント!なんて本当だかどうだかな事まで必死にペンを動かしている。あの真面目さはほんっと賞賛に値する。
オレ、ダメ~。
なので、観察する。
授業中にだけ掛けている眼鏡が似合ってるな。
柔らかい顔つきが授業中には真剣になるからかな?
ちょっと笑みをもらす。
本当はかなり優秀なはずなのに努力だけは怠らない。
表情からは学問を学べる事への楽しみしか見られない。それ以外の理由なんてないみたいに。はは、教科書にしたい位のムスメ!
・・・なんてゆーか、あの娘はガツガツしたトコよねえ。
・・・・・オレやジャンプなんて成績欲しさに割りとお行儀の宜しいコトしないのに。
そこでマガジンは視線を落とした。
なんだよねぇ・・・。
そこなんだよね。あの娘はおっとりとして優しい笑顔でいつも礼儀作法も正しい。
いっつも人の和ばっかに気を配ってる。
現在、クラスでボス風吹かせてるジャンプとはそこが違う。なんでだろ。
成績順位なんて興味すらナイってカンジ。こりゃオレらと人種違うわ。
上の空のマガジンを見すかしたようだ。
「マガジンさん!次を読んでください」
「あ、はい!」
マガジンは急に観察を中断されて立ち上がった。
まず。あれ?今ってなんの授業だっけ。
そして放課後。
ジャンプが
「イェーイ!サッカーグラウンド一番乗りぃー!」
スクールバックをかっさらうように教室を飛び出す。
サンデーは何かジャンプに言いたかったのか。
でもその隙もなかったらしく後姿だけを見送った。
「サンデーちゃん、もしかしてサッカーしたかったりして?」
その様子をガンガンちゃんがからかう。
クラスのちょっとしたお姉さん的存在のガンガンはさり気なく気が回せる。
無理を見せない様子が余裕を感じる。
長身なのだが、そのさり気なさで威圧感とかはまったく感じない。
その逆だ。理知的な空気とあわせてクラスメイトが頼りたがる美少女。
「う、ううん。私は読書、好きだし・・・」
学級文庫の小泉八雲をちょっとだけ持ち上げた。小泉八雲はサンデーの一番の愛読書だ。
「あら、でもスポーツだって得意じゃない」
「それはクラスのみんなだっておなじだよお」
苦笑いしてから、チラっとクラスメイト達を見回す。
白泉姉妹だってそうだ。スポーツ得意なはず。
サンデーの目が羨望の目つきになる。
でも姉妹そろっておなじような趣味だから持ち寄ったファッション雑誌や、最近は劇団にも興味があるらしい。仲よさそうに情報誌を覗きあって楽しそうだ。
・・・いいなあ。やっぱ双子だと趣味も合って仲がよくなるんだなあ。
他だってそうだ。
苦手科目に気づく事のがめったにないのに、それでも自分の趣味をあまり曲げない。全員がなにか特色がある。
これが個性尊重の教育なのかな。
「ふぅん。じゃ、今何考えてた?」
ガンガンはいたずらっぽく覗き込む。
「え!あ、ううん・・・。その、個性ってなんだろうなあって。
個性って誰かが誰かと仲良くなるのと関係あるの?」
ガンガンは「ん?」と首をかしげる事で説明を促す。
「だから・・・あ。
そっか。こう言った方がいいんだ。
ガンガンちゃんは誰かと楽しく話したいなあ、とか思うときって趣味が合う人と話す?
一緒に共有出来るって言うのかな、この人と仲良しになりたいなあって思う時ってどんな時?
反対に・・・・・その、この人とは一緒にいたくないなあ・・とか、好きじゃないかも?とか思う事は・・・」
最後がだんだんと声が小さくなっていったのでガンガンはさらっと遮った。
「そりゃあるけれど」
「うん!」
「言っちゃっていいのかな?他人の感想って悩んでる時には返って荷物になる事、あるゾ?」
サンデーは心の中を見透かされたようで顔が熱くなる想いがした。
「参考程度ならいくらでも言うけど」
「そ、それをお願い!」
「そおねえ・・・」
ガンガンは手元の自作品に視線を落とした。
ガンガンの趣味は工芸なので、今面白いと思ってる天然石ビーズアクセをもてあそぶ。
どうしよっかな。
サンデーちゃんの心をむやみに傷つけたくないけど。
「私は無関係の人との交友が好きよ」
サンデーの表情があからさまに曇った。
「日常に関係してくるのとまったく無縁の人とお付き合いするのが好き。
しがらみがない関係って奴ね。
もしかしたらクラスメイトともこれは表面上のお付き合いなのかもね。
学校の外の人といる方が好きなんだな。あ、これは感想だからね」
ガンガンはいっそうサンデーを覗き込んで困ったように笑う。
「お互い、イヤ~な世界とか知ってるでしょ?
そういうの、いちいち背負ってまで友情を築きたいって思わない。
しょせんこの学校だって・・・まるで将来への準備体操だなぁって。
感じたりして。学生のうちから慣らしとけ、みたいに」
サンデーの表情はどんどん曇っていく。
ガンガンは、でもここで顔を上げた。
そして満面の笑みを浮かべる。
「で、こぉーんな本音言えちゃうのも学生ユエなんだな!」
「え・・・」
「将来、公の場でこんな事私が発言でもしてみたらどう?
ちょっと想像してみて?」
サンデーはちょっと驚いた顔をして、そしてすぐに声に出して笑った。
「あはは!」
「だから、この学校はスゴイ!」
「・・・え」
「と、私は思ってる。さっきはあんな返事したけど・・・。
もしもよ?
もしも・・・自分の辛さを理解しあっこ出来るからこその関係が・・・あったらステキだなあって。
ちょっと期待持ったりして」
「それは・・・」
「もしかしたら楽な人よりも、手軽な人よりも、一番に優先させるとっても深くて固い関係なんじゃないかって・・・私は、そう、感じてるの」
「だからこそ・・・」
「そう。
お互い、理解できるからこそ。嫌な事も辛い事も理解できて共有できるからこそ生まれる一番深い物。
サンデーちゃんには分かる?」
サンデーは上の空のような口調で、でも
「なんとなく・・・」
言いたいことが不思議と理解できた。
「甘いかもしれないんだけどねぇ。でもいいじゃない!
学生だもの、ちょっとくらい甘いくらいの希望とか夢とか持っちゃえ持っちゃえ!」
後は気持ちよく笑ってまた作業に戻る。
サンデーは読んでいた本を開いたままの状態で
「学生だから・・・」
ぼんやりとつぶやいた。
さてさて、こちらは女子サッカー部。
ジャンプを主将としてマガジン、チャンピオン・・・などなどを中心にかなりのいいチームに仕上がっている。
見学に来る女子ジュニアの初等部生たちの憧れの的だ。
今は集まったメンバーで、部活最初のミーティング。
「なんだよ、マガジンうぜーよ口出しすんじゃねーよ」
「そーゆー言い方止しなよ」
「お前、じゃあチャンピオンがジャッジのたんびに審判につっかかるのどうなのよ」
「ガキは黙ってな!不当なときは喧嘩売る覚悟くらいで上等さ」
「オレそーゆーのダメ~。楽しくなきゃスポーツじゃないじゃん。
いいじゃん、じゃ、そん時さ、マガジンがパンツでもチラって見せたら?審判ジャッジ変えるんじゃねー?」
そこまで言ってジャンプはケタケタ笑い声を上げた。
全員が眉をひそめたが中でも苦虫を噛み潰したようなのがマガジンだ。
「しかもパンチラとパンモロでジャッジが変わってきたらさらに吹かね?
おまえらどこまで好きなんだよ~って。笑えるー!」
チャンピオンちゃんはここでジャンプを一括したい気分になった。
ちょっと古風なくらいの和風美人のチャンピオンは正直、ジャンプとマガジンのここ最近に腹を据えかねていた。
中でもジャンプの態度は目に余る。自分の成績がいい事を盾に、言いたい放題・やりたい放題だ。
成績と品格を一度に求めるのはいけないことか?
「・・・やっぱ、おなじ穴の狢ってのは理解しあえるのか?」
チャンピオンが低く言った。
「あー?」
「あんたら、実はすっごいお互い理解しあってんじゃねえか?
同属?割と似てるよな」
「は・・・」
「どうせ自分達でも分かってるんでしょ?あー、なんか似てるなー、とかさ」
ジャンプの表情が固まった。
「あー、その点衝かれると痛いなー、とか。私たち競い合ってるんだし、分かるんじゃない?
お互い触れてほしくないトコロとか?」
「・・・!」
これに。
立ち上がったのはマガジンだった。
「・・・・チャンピオンちゃん?」
「・・・」
「言いたい事は痛いほど分かるわ・・・・・」
マガジンはそこまで言って、ふ、と肩の力を抜いた。
「・・・ただみんなの前だけはカンベン。
後でゆっくりジャンプと傷でも舐めあっとくよ。
でもきっかけはありがと!やっぱあんたはこの学校にいないと困るよねー!」
マガジンはチャンピオンの肩にがしっと手を回すと部室に向かって
「さーて!他メンバーは意見あるかなー?
そういや成人女子のサッカー試合、見た?オレたちのお姉さんたちの試合。将来、ああなりたいよねー!
・・・・・」
後はマガジンがその場をまとめだしてジャンプは呆然とそれを見ていた。
「・・・・・なんなんだよ・・」
ジャンプはしだい奥歯を食いしばった。
気に入らねー・・・!
「・・・おまえら一体なんなんだよ・・・」
ジャンプの目はミーティング以来、怒りで解けそうもない。
ここは校舎の屋上。
マガジンが手すりを背にしてジャンプを睨んでいる。
あの日以来、ヘンな緊張感が学院に流れている。
ので、マガジンはジャンプを呼び出した。
「あんたの我が物もしょーじきそろそろしんどいわ」
この場所を選んだのは、マガジンは今に至るまでは結構ここでサボってたからだ。
「だから今から、あんたにだけ本音ぶっちゃけトークしまーす。
おっと、逃げるな」
「逃げてなんか!!」
「聞きたくなくても、そろそろ現実を見据えなきゃいけなくない?
売り上げが~、とかで誤魔化し効く?
オレは効かないけど。将来、どーすんの?だーれも聞いてくれないよ?
本音なんて言えるの?弱音吐けるの?
どこで?
誰に?
身に染みて分かってくれて共感してくれる存在と?」
「きょ、共感なんて、オレは・・・!」
「ストップ。
じゃ、まずオレの本音から。
それ、最後まで聞けたらあんたの普段の強さって奴も認めてあげる。
出来なかったらチキン。
どう?」
ジャンプは胸がドキドキするのが分かった。握った手が震える。
マガジンはそれを遠目から見守った。
・・・・・もしも誰かがこんな彼女を見たら信じるだろうか?
あの強気で勝気なジャンプが。
どんな逆境でもいつでも根性だけは失わなかった娘が。
「手短に。
媚?売るのが楽しい性格なんて買ってでもなりたいわあ~」
ジャンプの表情が。悲痛にゆがんだ。
「や、止め・・・」
「そう?じゃ、明日からあんたのあだ名はチキン。
いいなら逃げな」
ジャンプは震えを抑えるように、でもなにか感じるところがあったようだ。
マガジンの口がまた開くのを待つような視線。
「おっけ!
あんたは媚び売るのって、楽しい?
返事はいいよ。オレはね。
ちっとも楽しいって思わないわ。
成績が伸びようと、本当は知ってるから。周りの人、みーんなオレが媚で成績伸ばしてるのを」
マガジンの視線はジャンプの目から一瞬も逸れない。
ジャンプはこんな時なのにまったく別の事を考えてた。
そういやこのオンナ、昔はめっちゃ喧嘩っぱやくって強かったんだ。
もちろん当時は髪型、洋服、まったく気遣ってなどなかった。けど・・・
「でもね。親が媚びろって言ったら、そう教育されたら媚びるわ。
本心はどうであれ・・・・・成績がなきゃ、オレ、即切られるしね。
切られて、どーせ分家の子供でも連れてきて、苗字だけ据えてその子供に継がせるのよ。
今は媚びないと安心もできないくらいよ。
あはは、アレってちょっと癖になるね。もしかして依存症かも」
なのにここ最近のマガジンは・・・彼女の言うとおり媚・・本当は単語ですら聞きたくないが・・・・・自分で認めてるくらいに、媚、が売りってくらいだ。
どんなに嘲笑われようが成績のために・・・なんでもしてる。
制服のスカートの丈は短くなる一方だ。そのくせ、クラスでは宝塚の男役みたいな振る舞いでクラスメイトに溶け込んだり・・・。
表での甘えた声との、その二面性にちょっと心配になるくらいだ。
でもそれは自分だって・・・
「あんたさ。今言った事、実は分かってない?」
ジャンプの肩が揺れた。
「・・・あんた、昔は良かったなぁ、とか思ってない?」
「う・・・」
「ありのままの自分を受け入れてもらえて。楽しくおおらかに」
「それは・・・・・」
「今じゃそんなあんた、誰が受け入れてくれるんだか。
ま、オレも一緒なんだけどねー。
だからあんたの気持ちがちょこっと分かったり・・・」
「分かる?誰も分かるはずがない!!!
オレは、集英家はアイツらの為に用意された存在なんだ!
本家筋が守りたいのはあの家だけなんだ!オレ達は捨て駒なんだ!!!
媚がなんだって言うんだ!それくらいしなきゃ、成績残せなきゃオレ達は意味がないんだ!」
ジャンプの怒鳴り声は止まらない。
「・・・おまえとは違う、違うな、お前は挿げ替えが効くとか言ってるけどオレなんて捨て駒の挿げ替えだよ。
あはは、笑えよ、媚ぐらいいくらでも売ってやる!それで小学館家も本家筋も傷が付くことがないんだしね。興味すら持ってもらえねー。
あはははは。安心してやりたい放題出来るね。きったねぇ~って方法だってなんだって使うよ、成績こそが唯一だね。
おまえに分かるか。これがオレ達のお仕事なんだよ!小学館サマがお上品にお商売をなさる、オレ達はその為のどぎたねー部分をするんだよ!小学館サマが良心的な安全なモノをご提供なさる、その為にオレ達はなんだってするよ。
なんだって・・・
なんだって・・・・・」
吐き出しながら、ジャンプは感情が高ぶってきたのか。・・・今までのことを思い出してしまったのか。
しだい、涙声になってきた。
最後は我慢しきれないのかしゃくりあげだす。それでも立ってるのはちょっとマガジンも認めたが。
マガジンがジャンプに歩み寄った。
気づかずに手放しで泣きじゃくってるジャンプを軽く胸に抱いてやった。
「・・・言っていいよ」
「ひくっ、う、うるせ・・・っ」
「誰もいないし、オレしかいないから。全部吐き出しちゃえ。
おなじじゃないけど、たぶん一番近い理解してあげられるだろうし」
ジャンプは泣きながら、歯を食いしばった。
「・・・・・・・羨ましかった・・っ」
「うん」
「いいな。いいな、サンデーは。
大事に大事に守られて。
あは、あの娘達はきっとオレがどうなろうと、関係ないんだよ。
きっと本家筋は最後の力を使ってでも守るんだ。
・・・・・オレとは大違いだ。妹のコロコロだってそう。
そういやおまえんとこのボンボンは?」
「・・・・・」
マガジンは奥歯をかみ締めただけで何も言わなかった。
「じゃ、分かるよな?
あはは・・なんかすっげー惨め。
もお惨め過ぎてどおでも良くなっちゃうよ。
・・・嫌いたければ嫌えよ。あはは、クラスメイト全員、オレの事嫌ってるの知ってる。
オレ、やり方汚ねえし。
でもおまえは・・・」
マガジンはただ頷いた。
「・・・やっぱ分かってくれるのおまえだけかもな。
ダメだ、オレ。・・・なんかもう時々疲れるんだ。しょーじきしんどい。
あはは、全力疾走してどんな手を使っても先頭にいなきゃいけないのに・・・サンデーはおっとりお上品に走ってても何にも言われないんだぜ?
あはは、きっと今まで出来なかった逆上がりが出来ただけで「お嬢様すごい!」なーんて拍手喝采なんだ。
・・オレは・・・出来て当たり前、みたいなのに。
出来なきゃいる意味すらねーっつーの。あははは。
すごい違いだ・・・・。すごい違い。
だからかなあ」
やっとジャンプがマガジンに視線を上げた。
「・・・・・憧れる」
マガジンは痛そうな表情をした。
「いいなあ。いいなあ。
あんなおっとりと・・・誰にでも優しい。
あれは飢えてないからなのか?
あのサンデーがガッツく事ってないのかなあ」
「・・・」
「誰かや何かを必死で求めたり・・・
あいつは誰にでも優しいし、お友達に囲まれてるよね。
あはは、誰かを必要なんてしなくていいよね。
いいなあ。いいなあ。
おまえらはいいなあ。
なんの含みもなくサンデーと一緒に笑ってられていいなあ。
いいなあ。
いいなあ。
羨ましいなあ、オレだって、オレだってなんの含みもなくサンデーと・・・」
ここで。
「やったぁ!やっと見つけた。マ・・・」
突然、屋上の扉が開いた。
「ガ・・ジンちゃ・・・・・」
ジャンプとマガジンはとっさに離れた。
ジャンプは急いで制服のすそで目をぬぐう。
マガジンはさすがに落ち着いている。
「どうしたの?慌てて。
サンデーちゃんらしくもない」
空けた扉から手を離せないように、二人からも目が離せないらしい。
息せき切ってやって来たのかサンデーは呼吸ははずんでいた。
の癖に、ごくっと細い首が鳴った。
「あ・・・・」
ジャンプは必死に目をこすっている。
「あの・・・国語の先生がマガジンちゃんを探して来いって・・・・・・・その、ごめんなさい、なんか私、いっつも間が悪いよね。
す、すぐ帰るから!」
後はまるできびすをかえすようだ。来たばかりの階段へとダッシュする。
「・・・!」
それにジャンプの体が揺れる。
でも、
「追っかけなくっていいの?」
マガジンに冷静に言われると、瞬間でカッと顔を赤くした。
「うるさい!やっぱりおまえ、大っ嫌いだ!死ね!今すぐ死ね!
喧嘩なら買ってやる、オレに傷でも付けたら世間が黙ってないぞ!」
そう言ったきり、歯を食いしばって拳を固くしたジャンプをマガジンは哀れむように見下ろした。
翌日。
きちんと始業前5分前にはいる、クラスメイトでも良心派で教室は賑わっていた。
サンデーはグループこそ違うが仲良くしている、白泉姉妹の熱心な話に嫌がらずにひとつひとつ頷いている。
あんまり熱くなりすぎて特定の役者に高い歓声があがるのにすら嫌な顔をしない。
そこへ
「・・・・・」
朝礼にも出なかったジャンプが無言で入ってきた。
ジャンプは成績がいいから教師も何も言わない。
サンデーが気付いて視線を上げるのと同時に、
「あーあ、教室にうっとーしー奴いるとほんっと空気悪っ」
サンデーに向かってものすごい足早に近づいた。
「え、ジャンプちゃ・・・」
周囲も驚く。
「教師に言ってクラス替えしてもらおっかなー」
「!」
ジャンプがサンデーの肩を小突き出した。
「イヤなオンナいると成績下がるんですけどー。とか。
教師、みんな私に逆らえないしぃー。
聞いてくれるよね。誰かさんを別のクラスにするくらいー」
「ジャ・・・」
「そもそも自分がイヤなオンナって気づいてないわけ?
あー、ヤダヤダ空気読めないってサイアクー。だからあんた嫌われてんのよ、あんたそうやって誰にでも笑っていいかげん・・・」
そこで。
教室全部に響くような一括があがった。
「サイアクは誰よ!!!」
全員が注目する。
仁王立ちになってマガジン。
すごい迫力だ。
クラスメイトは今更、彼女の過去を思い出す。そう言えばこの少女は・・・
「あんた、好かれてると思ってるわけ?
それこそサイアクだよ、うっとーしーのは、誰ですかッ?あ?!」
全員が恐ろしそうにマガジンを見守る。
「マガジン・・・」
「ああん?成績?
あんたからそれ取ったら何が残るわけ?」
ジャンプの肩が大きく揺れた。
「教えてよ。ほら、言ってごらんよ」
「あ・・・」
「成績悪くなったあんたを誰が振り返るわけ?
だーれも振り返らないわよ。あ、でも伝説になったりして?
みんなで笑うかもねぇ。
『そういや昔、ジャンプっていなかった?』」
「・・・や、止め・・・・・・・・・・」
「『アイツ、誰にでも媚び売りまくってさあ、そりゃみんな離れてくっつーの(笑)』」
ジャンプの足がガクガク震えだした。
よっぽど恐ろしいのか歯までカチカチ合わなくなりだす。
「『な、お前がジャンプ買わなくなったのいつからー?』
あっははー、伝説?その時も自慢したら?
日本で一番売れてるのは~とか。あ、売れてた、の間違い?
あっははー。かぁーなしぃ~」
「・・・・・・・・あ・・・あ・・・・・・・・・」
「さぁ~びしぃ~。ねえ?あっははーん」
ジャンプの震えがさらにひどくなる。
かぶりまで振る。聞きたくない、と言わんばかりに。
次くらいにとどめか。
演説のような独断場のマガジンがさらに口を開いたとき・・・・。
教室に大きな平手の音がはじけた。
こんどこそ教室が静かになる。
まさに水を打ったようだ。
全員が息を呑むのも出来ない。
「黙りなさい!!!」
平手の主はサンデーだった。
あの大人しいサンデー。冷静さを失ったところなんて誰が見たか。
ましてや・・・かなりの怒りなのか。
おだやかな瞳が、怒りで芯の強い彼女らしく固く強く光っている。
その足でジャンプへと戻ると彼女を腕に抱き込んだ。
「ジャンプちゃんの悪口いう人は例えマガジンちゃんだろうと許さない!!!
許さない、私の忍耐強さは周りの誰もが認めるわよ!一生許さない、死ぬまで恨むわよ、絶対に後悔するわよ!
どこにいようと死ぬまで追って、ゆ・・・許すもんか!!!」
ジャンプは・・・。
それをサンデーの胸の中で聞いた。
・・・・・ひとつひとつ、最後まで。
振るえは止まっていた。
サンデーの胸は思ったとおりの優しさで、振るえどころか頭が理解をしてくれない。
まったく頭が回らない。
一方。ぶたれたマガジン。
頬を押さえてサンデーの様子に目を丸くしていたが・・・ふっと顔を緩めた。
気分よさ気に教室を見渡す。
教卓で一部始終を眺めていたガンガンに視線をとめる。
そうして「どう?」なんて、まるで自分の手腕の感想でも求めるように右肩をすくめた。
ガンガンは吐き出す大きな息と、笑顔が顔いっぱい満ちるのが自分でも分かった。
満足そうな笑顔。
あ、今ので返事になったかしら。
賞賛の笑顔。これには感嘆しかない。
やっぱりマガジンは基本が出来ている。底が深い。
あれだけ周りから含みある視線を向けられようと中々揺らがない。
そりゃあ・・・ガンガンは悟られないよう自嘲する。
誰だって媚なんて売りたくもない。私だって昔はもっともっと自由におおらかに・・・。
そこまで考えて、自分へもケリをつけるように
「ケンカはおしまい!」
手をぱん!と高く打つ
「サンデーちゃんは気持ちが高ぶってるみたいだからジャンプちゃんと一緒に一休みでもして来なさい。
サンデーちゃん図書委員?
図書室でも中庭でもどっか一息つけるところでジャンプちゃんと頭冷やして来ること!
さー、他のみんなは授業始まっちゃうぞ?
すーぐ先生来ちゃう。席にまず着こうよ」
言いながらパンパン手を打き続ける。
それが合図だったようだ。緊張で静まり返った教室がほっとほどける。
周囲同士で落ち着きの安堵しあったり、今驚いた自分を照れるように笑い流しながらおのおの席へと急ぎだす。
状況が分からないようなサンデーに向かってマガジンはその手拍子へ軽く顎をしゃくった。
「痴話げんかはヨソで、って?」と言葉を添えてからおどけた風にちょいっと首をすくめる。
後は自分の席へすたすた戻る。
サンデーとジャンプだけが教師が来るまでその場にへたり込んでいた・・・・・。
・・・生まれてこのかた、こんな幸せな事ってあったっけー・・・。
ジャンプはサンデーの胸の中でぼーっと考えた。
考えがまとまらないのに、幸福感だけはあふれそうだ。ああ、どうしよう。
あれからサンデーがほぼ何も出来ないジャンプの手を引いて、一番近い階段の踊り場まで連れてきてずーっと抱きしめている。
そういや入って来た教師にガンガンがなんか言って・・・ああ、ダメだ、なんか覚えてない・・・・・。
誰にも傷つけさせるもんか、とずっと胸にジャンプの頭を抱きしめている。
ああ、なんか考えなきゃ。
だけど、気持ちいいなあ。
こんなに気持ちいいのは生まれてからあったっけなあ。
ずっとこうしてたいなあ。
安心だ・・・。
ああ、なんでだろ。すごい安心・・・。こんな安心ははじめてだ。
幸福感で頭も飽和してる・・・ダメだ、考えがまとまらない・・・。
抱かれていた胸が、深呼吸するように上下した。
ジャンプはちょっとだけ我に返ったが、腕がほどかれないのでやはりそのままずっと頭を預ける。
「・・・ごめんね、ジャンプちゃん」
しばらくしてサンデーが小さく言った。
「あぅ?」
「マ、マガジンちゃんと・・・もしかしてケンカさせちゃったり・・・した?」
言いながら呼吸が早くなったり細くなったり、心臓がどきついたりしてるのまで分かる。
ああ・・・なんて幸せなんだろう。
「・・・ああー?」
「ご、ごめんね・・。ごめんね、嫌だよねこんなうざったい・・・・・
今日言われてやっと分かった!」
そうしてバッとジャンプを離す。
自分の真正面に置いて、今にも泣きそうだ。そんな笑顔を見せる。
「・・・・・ごめんね、私、ジャンプちゃんみたいに聡明って言うか・・・なりたいのに・・・ごめんね、でも・・・」
言いながら泣き出した。
あまり声を立てずに必死に嗚咽をかみ殺している。
なんでだろう・・・。
「なんで我慢するの・・・?」
「っ、な、なんでっ、て・・・」
「あんた我慢なんてしなくてもいいんじゃない?大事に大事にされて・・・」
またあの激情だ。
この娘は忍耐強い分、高ぶるとジャンプですら身構える迫力を見せる。
「私には我慢しかないじゃない!
知ってるんでしょ?分かってるんでしょ?それで・・・いっつも私を笑って・・・バーカバーカって私を・・・・・」
泣き声で後は聞き取れない
ああ、考えなきゃ。今は考える時だ。
ジャンプはサンデーの右肩に手を置いた。
「それはどういう?」
ジャンプは考えろ、考えろ、と自分の頭に言い聞かせる。
サンデーのかみ殺した嗚咽と遠くで授業の声が聞こえる。
サンデーは高ぶっていた物が納まったらしい。
「いいよ。・・・自分でも分かってるし」
ポツ、ポツと話し出す。
「私はジャンプちゃんの為にいるんだよね」
「はああああああああああああああ?!」
ジャンプの驚愕の叫びはほぼ始まりらへんで止められた。
自分の手で自分の口をふさぐ。
今、ここに誰かが来られたら・・・かなりイヤだ。
「いいよ。・・分かってるし・・・感じるから。
家にいたら、生まれた時から感じるよ。
私、ジャンプちゃんの為にいるんだよね」
そう言ってまた泣きそうな笑顔を見せた。
ちょっと待て、それ、反対だろぉ?!!
ジャンプの混乱をよそに、
「・・・ジャンプちゃんが自由に、好きになんでもやって成績収めて、凱旋するために私、いるんだよね。
いいなあ。いっつも憧れてた。 いいなあって。羨ましいなあ。
いいなあ、自由で」
「ちょ、ちょっと待って?」
「・・?」
いや、考えろ。質問を考えるんだ、オレ。
「それっていつ、どんな時に・・・は?生まれた時から?え?え?は?」
サンデーは優しく微笑んだ。
涙をぬぐって
「ジャンプちゃんはそんなの興味ない?」
それも反対では?
「・・・だよね。後ろ守ってる人はちゃんと役目さえ果たしていたら、興味なんて持つ暇も無いよね・・・
ジャンプちゃんは忙しいんだし。
ちゃんと飛び回って自由に・・なんでも成し遂げなきゃ駄目だもんね・・・
才能を思う存分使って」
それから最後に「あ、その希望を込めて命名されたのかな」と小さく笑った。
その目は自由に空を飛び回る鳥を憧れで見上げるような目。
ジャンプは詰めていた息を徐々に吐き出した。
「・・・・・分かってたんだけど。知ってたし・・感じるよ、それくらい。
私は守っていれさえすればいいんだ。
足元を固めてさえいればいいんだ。
それさえしてればいいんだ。
興味なんて持ってもらえやしない・・期待する理由も無い。
何したって、どうあがこうと・・・あはは、そんなの返って迷惑なのにね」
ジャンプが混乱で何も返事できないでいると。
涙をぬぐいぬぐいだったサンデーが
「ごめんね、私から先生に言うから」
そしてきっぱりと笑顔になる。
「は・・・?」
「クラス別に出来ませんか?って。
ジャンプちゃんはいいよ、ごめんね、気が利かなくて」
ジャンプは思わず、サンデーに抱きついた。
「あははー・・・、何言ってんの?あんた」
「え、あ、あの・・・」
サンデーは抱きつかれた事に相当動揺していたが、
「ごめんね、私・・・その、私からきちんと言えるから。
ジャンプちゃん、気持ちよく学校生活すごして?」
今度はジャンプが深呼吸した。
「だからさっきから言ってる意味が分かんないって言ってんのよ」
ジャンプは考えろ、考えろ、と自分に言い聞かせた。
まじまじとサンデーのつむじを見下ろす。
まず、質問しないと。
「あんたの家ってどんな話題が上がったりしてるわけ?」
コロコロとかお姉さんもいたな。
「え・・・。
ジャンプちゃん達が・・・・ど、どんな事に興味あるか、とか?気持ちよくいられてるかな、とか今度作ってくれる流行なにかな、とか・・・・」
「あ・・あはは・・・それってなんの為?」
「そ、そりゃ私たちはジャンプちゃん達が気持ちよく活躍できるように細心の注意を・・子供の頃から・・・
その為にいるんだし!
お、お行儀だってもちろん注意してるよ!ジャンプちゃん達の邪魔にならないように私達ね?もしも作法が崩れちゃったらいつもは優しいお母様ったら、ふふ・・・・・」
真剣に訴えるサンデーの瞳を見下ろして、ジャンプは全部の息を吐ききった。
なんて事。
なんて事だ、なんて事だったんだ。
ダメだ、これは。
オレらはいいようにされてる。本家筋の手のひらの上で、オレらは。
ジャンプは腕に力を込めた。
「・・・・・サンデーはオレの事、どう思ってる?」
サンデーはちょっと腕の中でびくっと体を震わせた後、
「あ、あの・・・これからは・・・・うっとうしくないように」
それからうつむいた。
「何が?」
「な、何が、って・・・・・」
言葉に困ってしまったようだ。
視線を落ち着かなくさまよわせて見てる方が可哀想になる。
ああ・・・オレ達はこれからどうすればいいんだろう。
いや、オレがだ。オレはどうすればこの娘と・・・・・。
ジャンプは考えた。
「あんた、私にいっつも気を使ってたの?」
「あ、そ、それは当然だし・・・」
「じゃ、あんたの言うこと、みんなあんたの本音じゃなかったんだ?」
サンデーは低い声で言われてちょっと震えた。
「あんたがオレに気を使ってご機嫌とるように言ってるって、これからも聞いとくわ。ま、当然だ。
今のも嘘。ぜーんぶ嘘」
サンデーが痛みにぎゅ、と顔をしかめた。
「だから。今から本音の時間はじめるよ」
「本音・・・」
「今だけだよ。後はないよ。後はみーんな嘘」
サンデーは驚いた。すがるように不安そうにジャンプを見る。
ジャンプは・・・。
はじめて飛んでもいいよ、と背中押された鳥ってこんなカンジに相手を見るのかな、と思った。
サンデーはちょっと迷って。
「・・・・・ごめんなさい、大好きです」
でもしっかりした強い口調で言って、歯を食いしばってうつむく。
「大好きです。ずっとずっと、憧れて、とっても素敵だって、いつだって気をとられて・・・
でも、うっとうしいほどなんて私・・・・・!」
ジャンプは目をつむった。
本音、か。
サンデーの言葉をかみ締めながら、心の隅っこになぜか屋上のフェンスを背にしたマガジンが浮かんだ。
まあ、今回くらいはあの女を認めてやってもいっか・・・。
「ね!サンデー」
サンデーを真正面に据えて明るく言った。
「オレ達、仲直りしよっか!」
「え?!」
サンデーの表情が真っ白になった。
「言っとくけど、まだ本音時間中だよ?
仲直りしたい?」
「う、うん、うん!」
「それはなんで?」
「あ、あの・・・。
ジャンプちゃんが大好きだからです!嫌われたらとっても辛いからです!!」
本音らしい。
こんなにサンデーがこんなにまっすぐ目を据えて、ハキハキ物を言うのは聞いた事無い。
いつだって思慮深く考えて物を言う。
ジャンプは幸福感にため息をついた。
「ね、仲直りにキスしよっか」
「キっ・・・・・・・・・・・」
サンデーの驚きの声はジャンプが遮った。
手でふさいで、しー、ともう一方の手で合図する。
遠くで教師の声と、それに一斉に上がる笑い声が聞こえた。
「イヤ?言っとくけどまだ本音時間だよ?」
「・・・・イヤじゃないです・・・・。でも・・・・」
「でも?」
「キスは・・・あ、でもマガジンちゃんとは普段してたり・・・?」
「あはは、ファーストキス」
サンデーの首から一気に血が昇る。
「あ、あの、それって大切なんじゃ・・・」
「うん、だから。
オレ達は」
ここでジャンプは声を落とした。
「これからもっともっと仲良くしなきゃいけない」
「ジャンプちゃんと・・・」
「そ。これからもっともっともっともっと、分かり合って、仲良くして、信頼で結ばれるんだ。
しかも一生」
サンデーは幸福そうな、うっとりとした表情になった。
「いっしょう・・・」
「これから、一生、本音を言い合うようにだ」
「え・・・」
「ああ、無理はしなくっていいから。急にはいそうですか、ってならないのは分かるし。
だから、まず、キス。あんたはした事ある?」
サンデーはただ、うっとりとした表情でゆるい動作でかぶりを振った。
「じゃ、お互いはじめて同士!
一生の誓いってくらいの気構えでいるように・・・ね、仲直りのキス」
サンデーはただただ頷く。
「・・・一生だよ?
はい、目、つむって」
「・・・・・」
サンデーはどうすればいいのか分からないようにおどおどそのまま目をつむる。
ジャンプは可笑しいような愛しいような・・羨ましいような複雑な気持ちだった。
オレは昔から教育係がくどいくらいに教えてくれたから、知識ぐらいはある。
ジャンプはサンデーのほっぺたを手で包んで、キスしやすいように上向けて傾けさせた。
えーと、どうやるんだっけな。
しーんとした廊下や階段に授業の音だけ響く。
ジャンプは最初はずれないように丁寧にゆっくり唇を寄せた。
サンデーが可笑しいくらいに息と一緒に体を上下するから、そんな場合じゃないのにちょっとだけ笑った。まるでしゃっくりじゃん。
そのうち、だんだんコツがつかめてきて、角度をちょっと変えたり軽く吸ったりした。
・・・サンデーはぼーっとしながらされるがまま・・・と言うかジャンプのやってる事にだんだん合わせだす。
舌、入れたら声上げられるかな?
遠くでまだ授業の音が止まない。
どうしよ。びっくりして声あげられたらマズイな。
と、考えていたら、サンデーが手放しにしていた両手でジャンプに抱きついた。
薄目を開けると夢中になってるらしい。
あんなに自分を失わない彼女ののどが軽く、ん、とか甘えたような声を漏らす。
これはイケたりして・・・・・。
授業が終わると、開放されたように少女たちがおしゃべりに夢中になる。
その時、教室を追いやられたジャンプとサンデーが帰って来た。
緊張が一瞬だけ走ったが、クラスは間もなく興味を失ったように自分たちのおしゃべりに戻った。
帰ってきたジャンプとサンデーにとげとげしい空気はない。
どころか・・・そういえばジャンプちゃんが誰かと手をつないでた事ってあったっけ?ま、いいや。
「おねーさまはアレ見て、どう思いますかぁ~」
そんなに仲がいいわけじゃないから、珍しい。
マガジンがガンガンの席に来て、机にもたれかかった。
「あら、たぶんマガジンちゃんとおなじよ?」
うふふ、と笑う。
でもちょっと見てる方は恥ずかしいかしら?
ゆったりと首をかしげる。
今までジャンプちゃんになんだか違和感を持っていたけど・・・そうか。彼女、いつもヘンに緊張してたんだ。
今はその身構えた様子がすっかりなくなって、サンデーの手を握って笑い声もとっても自然。
威嚇するみたいな声色でもなくなった。
あー、恥ずかしっ。
マガジンはガシガシ頭を掻き毟る。
あーあ、自分でやらかしちゃって後悔はしてないけど、アレはあからさますぎるわぁ。
ガンガンが教室から追いやってくれて、こりゃ正解だったよ。
サンデーは今まで自分をきちんとコントロール出来てこっちがもどかしい位だったのに。
どーも壊れちゃった?ジャンプをぽやんと見上げて、その視線も・・・。
「あーっ、もう見てらんない!」
八つ当たりするようにガンガンの机をだんっと叩く。
ガンガンは涼やかに笑って自作品を腕で覆う。
そこへ・・・
「あー、おねーちゃん、いーけないんだぁ!」
初等部からか?
サンデーの妹のコロコロちゃんがここだけ険悪な空気の先輩、二人のすぐ横の窓から頬杖を付いてる。
「あら?コロコロちゃん?」
「あ、ガンガン先輩!」
人懐っこい笑顔で悪びれもせずに窓枠にのしかかる。
「いーけないんだ!おねーちゃん達、いっつもボクにばっか叱ってるのに・・・」
ちょっと羨ましそうにジャンプとサンデーの二人を見てぷー、と膨れる。
「あははっお前はサンデーちゃんと違ってやんちゃ娘だからなー」
「言うな!暴力オンナ!」
「なーんだとぅ~」
「おい、マガジン。
お前、おねーちゃん叱ってよ。おねーちゃん、いっつもボクばっか叱るんだよ?」
「先、輩、わぁ~?」
「ひぇ、ひぇんぱひ~」
ほっぺたを引っ張られるコロコロ達をガンガンは微笑ましく見ていた。
「で?」
「いっつも集英家の事じゃきびしーのにさ、学校じゃ自分だってあんな・・・」
そしてもう一度羨ましそうに姉と従姉を見る。
「へー。仲良くしちゃダメって法律出来た?それって天テレぇ~?」
「うっぜーな!じゃなねーよ、ボク達の家族は・・・」
そこで。
ガンガンがコロコロの頭を優しくなでながら
「そうよ」
と自然に遮った。
「学校だったら仲良くしていいの。だから今のは見ない振り。ね?」
しぃ、と自分の唇に人差し指を立てるのに、コロコロはハーっと感心のため息をついた。
「やっぱガンガンおねーちゃん、あったまいー!」
マガジンはその口調に何か感じ取ってコロコロから視線をはずして前に向き直った。ちぇっ。
「じゃあさ、ボンボンとももっと仲良くしていい?下ネタとか言っていい?
あ、 そだ。マガジンー・・せ、先輩。
マガジン先輩、ボンボン知らない?あのコ、最近ガッコ来ないんだぁ」
マガジンはそのまま痛そうな顔をした。
コロコロはそんなに頭の悪い娘じゃない。
何かを感じたのか、マガジンにはもう話しかけない。
「ねー、ねー、ガンガン先輩はボクが中等部になる頃にはおねーちゃん達のお説教、減ると思う?」
「さあ・・・」
ちょっと辛そうにサンデーを見やる。
でもそこにあるのは心底幸せそうな二人の従姉妹同士の笑顔。
「でも希望は持ってもいいと思うわ!
私は持ってもいいって、今日、確信した!うん!!
そうだ。コロコロちゃん、おねーちゃんとお友達になってくれない?」
「わー!なるなる!絶対になる!」
「うふふ」
「うへ、酔狂~」
「うるせー、マガジン、それよりパンツ見せろよぉ」
「・・・・・ハハハ、チビのくせに死に急ぎかぁ?」
「うわ、暴力サイテー!」
「あらあらぁ」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
THE END ォオ!!
出版界の女子たちへの応援のお便りは最下記のあて先まで。
日本の出版界を担えるのは彼女達だけ!!
第一話 「ジャンプとかサンデーとかマガジンで百合」