料理と私

過食嘔吐のお話です

ぽろぽろ、ぽろぽろこぼれ落ちていく。

料理にとって必要なのは材料と調味料なのだと思う。
おしゃれな料理はみんなそこら辺のスーパーで揃えられない食材やスパイスを使って作られていて私にはさっぱり作れる気がしない。
例えば貴方のためにちょっとおしゃれな料理を作ろうとするでしょ、そうしたら私、最初の材料から買いにいかなきゃならないもの。
海老だとかエキストラバージンオリーブオイルとか。そうしてそろえた一度きりしか使ってない材料で私の家のキッチンは圧迫されている。
 貴方はうまくできた私の料理でも絶対「おいしい」って言わない。ただ黙々と皿を空にするだけだ。でも貴方がおかわりするたびに私の心はちょっとずつ満たされていく。
おかわりするたびちいさなピンク色のこんぺいとうが私の胸に少しずつ溜まって行く。それで私はお腹がいっぱいになるの。
 いつも帰ってくる貴方の食卓には貴方の為のごちそうしか用意されてない。一回一緒に食べないのか?って聞かれたけど「私は先に食べたから」っていつも私は断るの。
 貴方が食べることで私の心は満たされるけど、同時にからっぽにもなっていく。
 本当は、私はおしゃれな食事なんて好きじゃないし外食なんてもってのほかだ。食べる行為はただ胃を満たせばいいだけだ。貴方の為の料理は貴方の為にあるのであってそれは私のためじゃないの。
私はコンビニでカロリーしか栄養がないようなものばっかり買って毎回カゴをいっぱいにしてそれを獣のように貪り食べる。食べる間に私の胸に穴があいて、ぽろぽろ何かが落ちていく感覚がする。
そうしてトイレにこもって指を突っ込んで片っ端から吐いていく。吐いていく度に生理的な涙が出てくる。それでも私は2リットルのペットボトルの飲料水をかっこんで吐いていく。
悲しい、悲しい。何が悲しいのかもわからない。けど貴方がくれた幸せのこんぺいとうがぽろぽろ、ぽろぽろ零れ落ちていくのは確かにわかる。
 貴方は幸せ、私は不幸せ。でも、それでいいの。
私は今日も吐きダコが出来た手でビーフシチューをかきまぜる。
なみだがひとつ、ぽろりと鍋におちて混ざって消えた。

料理と私

料理と私

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted