ですとろいガール 脆い砂丘その4

ですとろいガール 脆い砂丘その4

省略。

Aぱーと

省略。

Bぱーと

「次で今日は最後かな」
駐在さんは地図を見ながら歩みをすすめる。
ながらスマホなどが危険視される現代、<ながら>と付くだけで嫌味を言われそうな現代に。この駐在さんは<ながら地図>をやっていた。
(本来怒るべき人物自身がそれをやっているとは、いやはや、皮肉なものですな…………)
いっひっひ、と石田は気味の悪い、性悪な笑いを漏らした。直ぐに手で覆う。が、目はいじらしく、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。

「とりあえず嫌なことを考えている気がするから殴るね、えい 」
ドゴッ、とゲンコツにより石田の頭から聞こえた。
「あへぇっ!!」
みっともない声をあげ、地面にうずくまり小さくなる石田。黒い手袋をはめた両手で頭を押さえる。密編みはブルブルとバイブレーションのように震えている。目には涙。ボロボロと大粒を流した。

「ひどいっ、ひどいよぉ。暴力だぁ。わっ、わだじはまだ何もしていないのにぃぃ!!」
高校三年生の大人になる間近だというのにこの恥態。恥ずかしくはないのだろうか。
「うるさいよ。近所迷惑」
しっ、と口元に指を当て軽蔑か飽きれのような視線を向ける駐在さん。
誰のせいで泣いているのか分かっているのだろうが、それにしても、あんまりだ。駐在であり周りとは、普通とはかけ離れているが、それでも彼は駐在。周りの手本とならなくてはならないのに。まあ、それでも、それだからこそ。彼らはお似合いなのだろう。
今までせき止められていたものが出たのか、ボロボロと涙が溢れ出る。地面のコンクリートが色濃く変色していくのを駐在さんは見ようともせずに歩きだした。いつものことのようである。

次の目的地まで、少しばかり遠いようだ。
駐在さんははや歩きだ。



「ぶち殺す。んでもって」
■べてやる。

そんな誰にも聞かれないような声で囁かれた言葉は誰にも届かなかった。
誰も振り向かないし、気づかない。
そんなことを気にもしない。
言った犯人は仕事用の手袋をしっかりと両手ではめ、歩きだした。
歩きだした先には獲物のニンゲンがイッコ。
犯人は手を合わせ。スーツの胸ポケットにある得物に手をやりゆっくりと抜き取る。
イタダキマス。







「アァ、オイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシイナオイシクテオイシクテ」

クセニナリソウ。
モット、モット、■べてミタイなあ。


「アッハ」

Cぱーと

タイムリミットまでもう少し。早くしなければ。
じゃないと、力を制御できない。

Dぱーと

ブスリ、というこの感覚。差し込み捻り上げたときに体が震えるこの生理的衝動。これが堪らなく愛しい。なんて愛らしいのだろうか。可愛らしいのだろうか。美しい。この世の全ての至極が詰まっている。完成形と言っても過言ではない。アァ、アァ。もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。まだだ、まだとまるな、生きてろ。喋るな。この音以外は、この動作以外は今はいらない。必要としていない。もっと、愛らしく、もっと、俺の好みにしたい。染め上げたい。作り上げたい。みずみずしい若葉も腐りかけの枯れ葉も普通と違う色を持つこれらは美しい濃い赤を流させて、赤くグラデーションをかけて、より美化し、より昇華し、それでもって、切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。切り取る。顔はそのままに。苦痛を表す顔、恐怖を表す顔、美しい顔、どんな顔をしていたか、食べている間だけはこれらのことを覚えていたい。顔は食べない。食べるなら脳だ。中国には猿の脳を食べるという文化があるらしい、ならばこれらの脳だって食べれるはずだ。脳は足とか腹よりも、もっと効果的で、もっとオイシイはずだ。だから、これは、脳をたべよう。切り取ったものは勿体ないから、他の奴等にでも与えて。ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリという感触、これもまた、愛しい。可愛らしい。いいね、またいいよ。…………アハハヘハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。できた。腕が疲労で痛い。頭蓋骨は意外と固いらしい。………では、イタダキマス。…………………食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイ、食べる、オイシイオイシイオイシイナオイシイナ。ゴクンと俺は飲み込み、余韻に浸る。ずっとこうしていたい。うん。アァ。さっそく、馴染んできた。さすが、脳だ。早い。ウン。アァ、オイシカッタ。御馳走様でした。バイバイ、マタネ。ではドロン。

Eぱーと

「もう嫌ーでーすー。疲れました。まったく、どうしてこんなに歩かなくてはいけないですか?足が太くなるです。もう、疲れたのですー。休みましょーよ駐在さん。ほら、あの、やってるのかやってないのか分からないカフェにでも入ってー。駐在さんの奢りでパフェでも頼んでー」
やってるのか分からない。
店に対して、何て酷い暴言なのだろうか。これ以上無いくらいの言葉である。
「やってるのか分からない店にはいかないよ」
駐在さんは怒るべきときだが、一切怒らず、むしろ肯定した。
ぶー、と石田は不服のように言う。
「せめて、せめてあのベンチにでもっ」
「ダメ。時間ないの」
「べっつにー、ちょおっと過ぎたってぇ、平気ですよぉ」
ふくれて石田は言う。
やれやれ、というように駐在さんはため息をした。そして、無言でベンチに座る。目的地まで、まだ少し距離があるのだが、これは駐在さんの優しさなのだろうか。それとも。
「少しだけ、だよ」
「やっふー!!」
石田は頬を赤く染め、ぴょんぴょんと跳ねるようにベンチへ座った。
「俺らは戦うタイプじゃないしね」
「分かってますよぉ。まあ、もし、もしものことがあれば<名探偵さん>に助けてもらえばいいのです。あの、万能家さんにね。ゲロゲロッ」
石田は胸ポケットから、片手で覆える程度の携帯を取りだし、指差す。石田が通う学校からもらったものなのだろう。
「私はお気に入りですからね」
「自分から言うことじゃあないね、それ」
はい、ですが実際のことなのですよ。
石田は嬉しそうに、ベンチから浮いた足をぶらぶらと揺らす。密編みは揺れ、輝くようなソバカスは駐在さんにとって眩しかった。

制限時間までもう少し。
駐在さんは不意に立ち、じゃあもう行こうと歩みだした。

「まだ、休みたいのですけど」
不服そうな石田。なら、どれくらい待てば良いのだろうか、犯人によって、殺されるまでだろうか。
駐在さんは歩みを止めなかった。
カルガモのように、石田は付いていく。
目的地まで。
終わりまで。
最後まで。






四体不満足事件現在参加者
町の駐在さん
石田かぐね
林川少年



犯人

第一の被害者 匂島 清流
第三の被害者 奈佐 来未来を含む
被害者6名。


以上10名。

ですとろいガール 脆い砂丘その4

続きます。

ですとろいガール 脆い砂丘その4

警察官になりたい何でもな女子高校生石田かぐねと疲れきっている町の駐在さんのお話。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-08

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