氷菓

夏目ゆさ

何をしに来たというのだ。
私の前に一人の女が座っている。一体、幾つなのだろう。顔を見るとそこそこの年にも見えるが、全体的に見ると小学生の様にも感じられる。黒色のジャンパーに、履き古されたピンク色のジャージ、長靴といったなりである。身長は低く、そんなに高さのない椅子ではあるが、床に届くのがやっとといった状態で、如何せん大らかな体型であったので、足は更に短く見えた。
迷いに迷ったが、ここでは女、と表記したいと思う。
女はただひたすらに、氷菓を貪っていた。鼻を鳴らして、或いは口で吸い込む音を発しながらである。実に不愉快だった。
一応言っておくが、私は氷菓が嫌いな訳ではない。寧ろ好んで食べる方である。特に、冬、炬燵に入りながら、またストーブをたいた暖かい部屋で食べるのは、とてつもない至福の時である。
ただ気になるのは、音を鳴らして食べている女である。ましてや部屋は冷え冷えとしていて、人数も少なく、音が響き渡る。壁という壁に反響し、四方八方から不愉快の元凶であるそれが、嫌でも耳に入ってくる。
夢中であるが故なのか、それともこの食べ方が普通なのか、そもそも何故鼻と口を鳴らしながら食べれるのか、恥ずかしくないのか...など、頭の中はそのことでいっぱいになった。そして、こんな事を考える事も私の不快さを更に高めさせた。

ここは、市から外れた田舎町の小さな駅の待合室である。
大荒れた天気で、今日はもう電車が動くことはない。私は、迎えを待っていた。
駅の中には私を含め三人。もう一人は女の付き添いの男だった。男の年は四から五十といったところであろう。年端もいかない娘か、又は最愛の妻をじっと見つめ、食べ終わるのを待っている。その際、一切の会話も無かった。
さっきも言ったが、ここは小さな駅の待合室である。午後六時を過ぎると駅員は家路につくため、無人駅となる。今は午後六時十二分、外を見るとしんしんと雪が降っている。既にストーブは消され、そろそろ中が冷えてきていた頃だ。
目の前の女は、まだ、氷菓を食べている。縁という縁を舐めり、最後の一口も逃さないというように、もう夢中であった。

「あんた、その今使ってるやつぁ、やっぱり高いんだが?何万す」
突然男の顔がこちらを向いた。今使ってるやつとは、画面を触って操作する携帯端末のことである。
「まぁ、それなりに...けど、普通のとそんな変わらないですよ」
目を見て答えると、あぁ、んだが、と言い、また視線を元に戻した。
女はもう食べる手を止め、足をブラブラさせていた。
「食べ終わったなら、行ぐべ」

二人は一斉に立ち上がり、吹雪の中に消えていった。

氷菓

氷菓

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-07

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