「どんなもんじゃ」

「どんなもんじゃ」


               (警告)

 最初に、以下の話しは、特に今もんじゃ焼きを食べようとしてい

る方や、または食事をしながらお読みになっておられる方々には、

汚らわしい描写で気分を害し食欲を失わせるおそれがあることを

前もってお断りしておきます。
                            ケケロ脱走兵


             短編 「どんなもんじゃ」



 同僚で飲み友達の吉田は関西出身の28歳、俺より2コ上で俺と

同じでまだ独身だ。

「大阪はもう終わったからね」

そう言って3年前に東京にやって来た。仕事は主に賃貸マンション

を扱う中小の不動産会社で、彼は関西人特有の人当たりの良さから

顧客の信頼を得て、上司にも気に入られていた。大体、月一のペー

スで彼からメールがきて、「ええ店見つけた」と言っては気兼ねの要ら

ない俺を誘った。それは、ただ飲み食いするだけの店に留まらず、店

のハシゴをするうちにイカガワしい階段を下ったり上ったりすることも

あった。

 ある日、腹ごしらえの居酒屋を皮切りに四五件の店を渡り歩いて、

最後には酒樽のように転がるほど酩酊しながら、

「東京にはうまいもんがない」

と、彼が言った。

「中でも許せんのが、あのもんじゃ焼きや」

「まずかった?」

「いや、まだ食うたことない」

「何、食ったことないの?」

「大阪のお好み焼きならまだしも、もんじゃ焼きなんか食う気もせ

ん」

そこまで言われて東京生まれの俺も黙ってられなかった。すでに樽

の中には満々の酒が注ぎ込まれていたが、

「食ったこともないのに言うな。よし、それじゃあ今からもんじゃ

焼きを食いに行こう」

と、俺が誘うと、

「おお、東京で一番うまい店に連れて行け」

ということになって、タクシーを拾って月島へ向かった。

 店に入って向かい合って腰を下ろした頃には二人とも意識が怪し

かった。店員が鉄板に火を点け、たぶん俺が注文をしたのだろう、

彼はというと腕組みをしながら頭を垂れ考え込むようにしていびき

を掻いていた。俺はもんじゃを待っている間、仕方なくひとりでビ

ールを呷(あお)った。すると、突然気分が悪くなってきて、あろうこ

とか、前にある鉄板の上にそれまでに食ったものをゲロってしまっ

た。慌てて便所へ駆け込んで便器に向かって嘔吐(えず)き声を上

げた。すっかり吐き出すとスッキリして酔いも醒めた。早速、鉄板

の上の吐瀉物を吉田が寝ている隙に店員に片付けさせなければ

と思って急いで席に戻ると、何と!いつの間にか目を覚ました吉田

が、酩酊しながら小さなコテを使ってそれを食っていた。そして、

「こうやって食うんやろ。しかし、こんな酸っぱいんか、もんじゃ焼きって」

俺は店員が注文したもんじゃを持って来る前に、彼を引きずり出す

ようにして店を出た。

 それ以来、俺は、彼に本当のことを言えずに、顔を合わせるのも

辛くて、彼からの誘いを断り続けている。


                          (おわり)

「どんなもんじゃ」

「どんなもんじゃ」

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-06

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