FalleNGoD Ⅲ

FalleNGoD10~15話です。がんばりました。

「さ~て、何食べようかな~。前はパスタだったから今度は……」

 男が一人、レストランへと向かっていた。そのレストランで何を食べようか迷っているうちに、彼は周りの空気がおかしいことに気がつく。なにせ人がいないのだ。静まり返った昼の街の一部は、何か寒気がするような冷たい風が吹いている。いつもならこの時間帯、行列ができる焼き肉屋も一人も並んでいなかった。まぁ店自体休みなのだが、今日は休みの日ではないはずだ。
 彼はなぜ人が一人も歩いていないのか、それを謎に思いながら辺りを見渡すと、そこには球体の水の中に包まれた男と、その前でそれを見つめている男の姿が見えた。
 彼は一瞬、ほかに人がいてほっとするが、すぐに我に返った。
 なにをしている?なぜあの男の人は水の中に包まれている?あれでは息ができない。なぜもう一人の男はそれを助けないで、見つめて笑っている?
 彼は自問自答を繰り返し、遂に答えに辿り着いた。

〈アイツは魔術師か何かで、あの水はアイツが操っている〉

 彼が通う学校、この街のほとんどが人間の中に宿される『魔力』を操り、具現化するための開発を行っている。なにせ科学が優れた都市であるため、機械を使ってその開発をする。表では授業になっているが、ただの開発である。
 そんな魔術を使用できるものがたくさんいる中で、水を操る能力ならいくらでも見たことがある。彼は目の前で起こっているのが、水型の術式を使用する魔術師が、男を殺そうとしている。という答えに至った。

「なにやってんだよ!」

 彼は思考を重ねながらも男に近寄っていた。そしてその球体の水に近付くと、そう言った。言葉と同時に彼は両手で男を助けようと水の中に手を突っ込む。その左手が付いた瞬間に水は、まるでロウソクが酸素のないところに突っ込まれ、一気に火が消えるときのように水が消えた。
 それが、まるで最初からなかったかのように、その空間から水が消え去ったのだ。

「え……?なんで水が消えたんだ……?」

 『水流氷変』の男も、水から解放された蒼空も驚いていた。蒼空はゲホゲホと咳をしながら、自分を救出してくれた男を見る。
 その男の左手の甲には『無』と紋様が刻まれたいた。

「『無』の紋様。神の手の持ち主か」

男三人しかいない街は、風の音がはっきりと聞こえるくらいまで静かだった。100m程離れた場所で石が落ちたら、その音すら聞こえるんじゃないかと思わせるほどの静寂。蒼空と男の額からは、その空気からの重圧(プレッシャー)により汗が流れる。

「サンキューな、俺は蒼空ってんだ。お前は?」

 蒼空は今さっきまで水の中にいたのだ。体に一滴でも水滴が付いていてもおかしくはないのだが、それすらも綺麗に打ち消されていた。

「あぁ。俺か?蓮だ」

 二人は簡潔に名前だけを知らせ合うという自己紹介を済ませると、『水流変氷(アークプリズン)』の能力者に視線を向ける。蓮は奴のことを、水型の術式を使用する魔術師だと思っていたが、次に発せられる蒼空の言葉によってその思考は打ち消された。

「気を付けろ。アイツはこの街で開発されている『魔術師』なんかじゃない。『神』だ」

 蓮は急に『神』だなんて幻想的(メルヘンチック)な事を言われても、普段の日常生活の中では信じることはできなかっただろう。だが、こんな状況だからこそ蒼空の言うことを信じることができた。
 そして、自分の左手が水に触れたときの感覚を思い出しながら手を握る。手の甲に刻まれた『無』の紋様を眺めながら。
 これは一体何なのか?『魔術』の一つなのか?なぜ俺は今までこんな物騒なものに気がつかなかったのか? 頭の中をよぎる大量の疑問を押し殺し、今は目の前の敵と相対しようと意識を敵に向ける。
 こちらは重圧(プレッシャー)により動くのが敵より一歩遅れてしまった。
 レイトは両手を二人がいる空中に向かって伸ばした。二人には何をしているのか見えなかったが、彼は確かに、確実にそこに向かって何かを発していた。

 だが、ただ立ち止まっているわけにもいかないので、蒼空はその茶色みがかった髪をなびかせながら右手の上に小さな空気・風の竜巻、左手には『空裂砲(エアブラスト)』を備え走る。
 蓮は左手に宿る『神の手』とやらを握り締める。
 もし、この手が異能の力に反応し、それをすべて打ち消してしまうなら、俺はコイツに勝つことも可能で、学校でも敵なしなどといった、めっちゃ良い待遇じゃねぇか!と心の中で叫びながらレイトに向かう。
 だが、一瞬でその足は止められてしまった。男の一言で。

「氷変(アイスメイク)」

 その一言で、空に発せられた物が何か分かった。
 水だ。
 空に発せられた水が、男の一言で『氷の刃』となって降り注ぐ。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 その叫び声を発したのは蒼空だった。最初は風の真空刃で斬り防いでいたが、あまりの数に防御が間に合わなかった。
 蓮は『神の手』の効果により、その『氷の刃』は防ぐことはできた。『氷の刃』は、空中に発せられた水が凍るという状態変化によってできたもので、その水自体は異能の力でできたもの。『神の手』は反応した。蓮は思った。もしこの腕がなければ俺は『氷の刃』で八つ裂きにされていただろう……と。
 彼は術式を操ることはおろか、何型かすらわからない無術者(ゼロスキル)だ。そんなただの一般高校生が空から無数に降り注ぐ『氷の刃』などかわしきることができるスキル・体術など習得しているはずがないのだ。
 彼は『神の手』の存在にホッとしながらすぐに我に返り、蒼空の方を見る。
 蒼空も軽い傷ですんだが、蓮からしてみれば軽い切り傷ながらも、澄んだ赤色をする血を見るだけでそれは軽傷には見えなかった。

「くっ、俺は大丈夫だ。敵だけを見ていろ」

 蒼空は無数にあるけがをおさえられるだけおさえながらレイトの方を見る。蓮もレイトの方を見る。

「おっと、時間切れのようだ。俺はもう降りるけど、またいつかウォリアの奴が奇襲に来る。それだけ教えておいてやろうかな。まぁアイツの『白き片翼』の前には……うん」

 そういうと、彼の体は水に変化し、そのまま地面にビシャリと流れ消えていった。



「OK。宿題終了だ」

 蒼空は、レイトとの戦闘後蓮の家へと来ていた。家といっても寮なのだが。そしてやはりこの部屋は暑苦しかったため、二人の格好はTシャツ姿だ。
 蒼空の家はというと、なぜか『追跡者』が襲ってきて半壊。直すほどの金はないため、あの廃墟下にいた。今は武瑠の家に居座らせてもらっているのだが。
 そして今は、命の恩人・蓮の宿題を手伝ってやっている。彼は『無術者(ゼロスキル)』のため、こんな術式の問題なんぞわかるわけがないだろう。と思いながらもその宿題を終了させた。
 蒼空は術式を普段使ってはいない。魔術はかなり体力を消耗するからだ。だが、彼ら『神』が使う能力は魔術に比べると疲労が抑えられる。
 天徒は術式に型がなく、『力面力与(パワーポイント)』などといった個人特有の魔術を使用する。
 大抵の人は型が存在するのだが、そのどれにも当てはまらない特殊な魔術には名称がつけられる。
 姫の場合は『雷型』の魔術師だったため、あの時に『電撃の槍』を放った。これは一般的な型だから他にも使用者はたくさんいる。

「おぉ。すげぇな蒼空!お前はもう終わらせてあるのか?明日学校だけどよ」

「あぁ。もう終わらせているから大丈夫だよ」

 用がすみ、蒼空はTシャツの上に服を着て帰る準備をする。内心、この暑い空間から速く出たい気もあり、宿題をいつも以上に全力を注いでやった。蓮……よくこんな熱い空間にいることができるな。と思いながら立ち上がる。
 窓を開け換気をしているのだが一向にこの部屋の温度は変わらない。夜が丁度良いらしい。

「わかったよ。あんがとな、宿題終わらせてくれて」

「お前は命の恩人だからな」

 蓮は宿題を片付けて、玄関で靴をはく蒼空を見送りに行く。
 蒼空がドアを開けた瞬間、冷たい風が吹いてきた。それは、熱い部屋の中で長時間いた蒼空の体の熱を心地よく奪ってくれた。

「じゃぁな。また明日会えるだろうけども」

 蒼空はそういうとドアを閉める。蓮は換気のため少し窓を開けようと思った。

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 日は月曜日。
 一般の学生は今日は登校する日。
 蒼空は準備をし、片手にかばんを担いで学校へ歩いた。

「ヤッホー、玖珂裂(くがさき)。元気だったか~?」

 一人、蒼空と身長が同じくらいの男が近寄りながら話しかけてきた。
 彼は唯宮辰樹(いみやたつき)。蒼空の親友の一人だった。赤茶色の髪をしたショートで、この高校に来てから仲良くなった。

「たった二日だっただろうが」

 蒼空はいつも週のはじまり、月曜日にこの発言をしてくる唯宮(いみや)にいつも通りの返答をして歩き続ける。

「そういえばさぁ~、最近街外れの廃墟でなんか爆発みたいなものが起きたらしいんだけどよ。知ってるか?」

 唯宮(いみや)は何もかもを知っているような口ぶりで蒼空に尋ねる。だが、蒼空も「それは自分達(・・・)がやった」なんて言う訳にはいかないので適当に知った口調で返答する。

「俺が思うに、あれはどっかのアホ魔術師がやったんだとおもうんだよな~」

 テメェ。俺の事をアホ魔術師だと!?覚えておけ。などと心の中でそう絶句しながら歩く。
 
二人は他愛のない話をしているうちに学校へとたどり着いた。辺りを見渡すと門をくぐり中に入っていく生徒たちがズラリ。その中の7割が『魔術』を駆使する『魔術師』共だ。まぁ、大抵の人が開発によって『魔術』を使えるようになったもので、『天然術者(クローサス)』はその1割ほどなのだが。
 二人も周りの者同様、門を潜って靴箱へ向かった。
 自分の靴箱に外靴をいれ、中靴を取って履く。
 蒼空達は2年なので、階段を上り3階にある教室へと向かった。この学校は最近造り直したので、中はかなりピカピカの新築状態だった。

 2-Aの教室へと二人は向かう。
 2学年のクラスは4つに分かれている。例えばAクラスは上級者の『魔術師』が集まるクラス。このように、Bは『魔術師』としての器がAより小さいものが集まる。Aが上級、Dが最下級だ。

 ガラガラ と音を立ててドアを開けると、早くながらほとんどの生徒が集まっている。
 その中には、天徒や凪覇などもいた。
 蒼空は『神』なのだが、『魔術』の使用もかなりエキスパートで、何でも上級者だ。そして、顔も良いほうため、女子に告白されるのも何度か。

「ちぃ~す。凪覇」

 蒼空は凪覇ともかなり仲がよく、たまにタイマンするほどだった。

「おぉ。蒼空、久しぶりだな。俺は金曜休んじまったからな」

 凪覇は金曜日休んだ。生徒の前では彼が『プロテクト』のリーダーであることは愚か、そんな裏組織に加入していることなど知りはしないため、いや知られてはいけないため、その日は風邪で休んだことになっている。
 依頼がきていた。この街に謎の十字架を包帯で包んだ物を持ち運ぶものが居たらしく、ソレを排除してくれと頼まれていたが、惜しくも取り逃がしてしまった。

「お大事にな」



時は昼休み。
 蒼空と凪覇、唯宮の三人は屋上で弁当を食べていた。
 空を見上げれば雲ひとつない青空が広がっていた。そんな清々しい気分で三人は雑談しながら食べていた。

「あれ?唯宮、その勾玉のネックレス……なんだ?そんなの持ってたっけ?」

 蒼空は唯宮の首に掛けられた勾玉のネックレスを指さしてそう言う。

「あ、あぁ。これか?コレは父の形見だ」

 唯宮は辛そうな顔をするのを我慢して無理な笑顔を作っていた。

「ごめん……」

「いや、いいよ。大丈夫だから」

 二人にとっては、無理に笑顔を作る唯宮の顔を見るだけで悲しい気持ちになっていく。
 その後は、話を変えてなんとか楽しく雑談をしていた。昼休みが終わりそうな頃、下の方が騒がしくなっていくことに気がつく。

「な、なんだよアレ?鎌なんて持って……」

 三人は生徒が指さしている門の方を衝動的に振り向く。『鎌』という言葉を聞いたからだ。なぜそんな危険な者を?
 門には、一人の男が鉄製の鎌をかついで立ち止っていた。鎌といっても芝刈り用の鎌などではない。
もっと巨大で、丈はその男の身長程もあった。

「アイツはっ!?」

 凪覇はそう絶句しながら立ち上がる。
 なぜか? それはこの前『プロテクト』の本部で、武瑠に見せた『例のアレ』の人物と同じ顔立ち、同じ服装だったからだ。 倒れて、手が消えていた方ではない。その隣に立っていた男のほうだ。

「オイ、蒼空とやら!出てこないとこうだぞ!」

 男はそう叫ぶと、両手を横に広げた。すると、男の後ろから砂鉄や鉄くずが飛んでくる。それは形を変え無数のナイフにと変形した。
 そして、それを校舎に向かって飛ばした。
 男の叫び声が聞こえた蒼空は、自分が狙いだと分かり、それを真空刃で弾き飛ばす。

「やめろ。お前の狙いは俺だろう?俺以外に手を――――――」

 そう叫ぶと、蒼空と男は消える。いや、正確にいえば、蒼空がものすごい速さで男に突っ込み奴を吹っ飛ばしたのだ。

「だすんじゃねぇよ」

 蒼空が男がいた場所で見えた後、3秒後に、蒼空が元いた場所から今蒼空がいるところまでの間に暴風が巻き起こった。それだけ速く移動し、その勢いで男を吹っ飛ばした。
 すると、再び彼は一瞬で男が吹っ飛んだ方へと消えたいった。

「唯宮!俺らも追うぞ!」

「そうはさせないわよ」

「あぁ。そのとおりだ」

 彼らが追おうとするところに、二人の男女が現れた。
 おそらく、男の仲間だろう。

「彪(ひょう)。フィールド」

「了解」

 女が男のことを彪(ひょう)と呼び、『フィールド』という言葉を発した。
 彪(ひょう)は何かをぶつぶつ唱える。
 3秒後、4人がいる場所をなにかで囲まれた。まさしくそれは『フィールド』だった。

「彼の能力は『念動力(サイコキネシス)』。この中からは外を見ることが可能だけど、外からはこの中を見ることはできない、これでいくら激しく戦闘をしようと、フィールドが解けたときには何もなかったかのように戻るわ」

FalleNGoD Ⅲ

FalleNGoD Ⅲ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-13

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