ある国の政治家

星新一さんのショートショートみたいな作品です。

ある国の首相M氏は悩んでいた。法案を議会に通そうとすると、野党がこぞって反対して通らないのだ。このままではなにも進まない。せっかく首相になったというのに自分の理想とする国が実現出来ない。
M氏の考える理想は、自由競争により、民間企業が切磋琢磨努力する国家が望ましく、自由競争の敗者は、かわいそうだが負けたのだから仕方がないとあきらめてもらう。そうしなければ、人間は努力などしないのだ。そして、政府の役割は必要最小限の行政サービスにするべきだとも考えていた。
しかし、野党は、弱者救済だといってこぞってM氏の法案に反対していた。
M氏は思った。
「しかし、野党はなんでもかんでも反対するばかりで、自分たちの仕事は反対することだと勘違いしているのではないだろうか。本来は、政策を実現することが政治家の仕事だろうに。」
本気でM氏はそのように考えていた。
「そうだ!!やつらは何でもかんでも反対するのだから、まずは実現しようとする政策の全く逆ことを法案にすればいいのだ。その後、自分の通したい法案をだせば、さすがにやつらも反対はできまい。」
かくして、M氏は、自分の実現したい法案とは全く逆の法案を国会に提出した。弱者救済のための法案ではあったが、案の定、野党はこれでもかといわんばかりに反対をし、M氏の予想通りの展開となった。頃合を見て、M氏はあたかも野党の反対があったため法案成立を断念し、やむを得ず新たな法案出すかのようして新たな法案を国会に提出した。M氏が本当に実現したかった法案である。
「さすがに、野党もこれには反対できまい。」とM氏は思った。
しかし、M氏の思惑とは逆に、これにも野党は反対をし始めた。
「しまった!やつらは、本当に反対することだけが野党の仕事だと思っていたのだ。私が甘かった。」
その後も、M氏は、なんとか傾きかけた国を立て直そうと様々な法案を考えたが、実現することはなかった。国の財政収支は赤字で、その穴埋めを国債の発行に頼った。国の借金は積み重なっていった。
そして、ついに、返済期限の来た国債を返済するためには、あらたな国債を発行するより外はなかったが、国債の引き受け手がいなくなってしまった。なんとか外国に助けてもらおうと、国債を買ってくれるよう頼んだが、国の財政収支を黒字化しなければ貸さないといわれてしまった。
M氏は、増税と、支出に占める割合の多かった年金削減など社会保障費を削減する法案を国会に提出した。こんな状況で公務員が給料を多くもらえるのはおかしいと国民に反対されたので、公務員の削減と給料カットも行った。しかし、このような状況になっても野党は法案を反対し続け、さらに与党の中にも反対するものさえ出てきた。
財政を黒字化するための法案は成立せず、外国もお金を貸してはくれなかった。国債の返済は出来ず、国の通貨は大暴落し、史上最悪の不況が訪れた。
税収は上がらず、必要な行政サービスも滞るようになってしまった。警察も機能せず犯罪者が増えた。年金も支払えず、仕事をしたくても仕事が出来ない無職者のための生活保護費も支払うことはできなくなった。老人や貧しい者弱いものは、次々に死んでいった。ある程度裕福な者たちの財産は減ったが、苦しいながらも何とか生きた。生き残った人々は、貧しい生活の中でも生きるため努力を続けた。
 そして、このときM氏は思った。
「多くの犠牲をだしてしまったが、いまの国家は必要最小限の行政サービスをする小さな政府であり、一部の犯罪者を除けば、人々は苦しい状況から抜け出そうと真面目に努力を続けている。犯罪者は昔からいたのだから、もしかしたら、これは、私が実現しようとした国家なのかもしれない。私は、理想の国家を実現させようといろいろと努力をしたが、何もできなかった。それでも私の思い描いた理想の国家に近づきつつある。人々は困難に直面して初めてそれと戦うために努力している。人間が理想に近づくために必要なものは適度な困難を与えてやることなのかもしれない。私がやるべきことはいったい何だったのだろうか?」

ある国の政治家

いかがでしたか?こんな感じの短い話だとすぐかけるのでいいですね。思いついたネタを誰かに見てもらいたくて書きました。

ある国の政治家

星新一さんのショートショートみたいな作品です。短いのですぐ読み終わります。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-13

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