透明な僕

完全にジャンケンの成り行きでドロケイを始めようということになって、ドロボウが3人、ケイサツが2人でゲームはスタートした。
タクと僕がケイサツでよっちゃんとしょーへーとこうきがドロボウだ。
僕らは10数えてドロボウの3人を捕まえるため牢屋から出動する。
それでもみんな10秒のうちにどこかに隠れたらしい。全然姿が見えない。
タクの方を見てみると流石に仕事が早い。もうよっちゃんが捕まっていた。
よっちゃんを連行すると、そのままタクは牢屋に残って見張りを始めた。つまり後二人は僕に任されたということだ。よし、頑張るぞ。と、気合を入れて探してもなかなかほかの2人は見つからない。
そもそも僕らがドロケイを始めた場所は遊具があまりなく、ただ広いことだけが取り柄の公園だ。だからそんなに隠れる場所はないと思うんだけどなかなか見つからない。
どうしたもんかと公園の周りの植え込みを見て回っていると、数少ない遊具で、ちょっとごつくて結構死角を作る滑り台の上にしょーへーを見つけた。後ろからそ〜っと近づいて捕まえてやろう。
そーっと慎重に、足音を立てないよう優しく。かつ、なるべく速くしょーへーの後ろから近づいた。
けど、後少しのところだった。
しょーへーがなぜか後ろに振り向いた。
そして、近づこうとしている僕と目が合うと、急いで滑り台からかけ降りた。
僕もすぐにしょーへーを追って走り出す。でもなかなか追いつけない。
しょーへーは僕から逃げつつ、タクの居る牢屋の周りをぐねぐねと走り回っている。
するとどこかでそれを見ていたこうきが滑り台の所からピューっと飛び出していく。
まずい、今はしょーへーよりこうきをタッチするのが先だ。そう思って僕はこうきの方へ駆け出した。
このまま走って僕とこうきがクロスする場所で僕がタッチできるかはギリギリだ。届かないかもしれない。
なんとかこうきにタッチしたい。
こうきが近づいたところで僕は思いっきり手を伸ばした。しかし、こうきには届かなかった。
それが最初からわかっていたかのようにこうきは走ってるときにコースをずらしたりすることなく、真っ直ぐに走ってきてた。
直ぐにそのことを思い返して僕は悔しい気持ちになった。
結局そのあと突っ込んだ勢いが強すぎて方向転換しきれずにこうきは捕まっていた。が、反対側からしょーへーがよっちゃんにタッチしようと走り込んできている。
けれど僕が先に、よっちゃんとしょーへーの間に走り込んだ。
「よっちゃん!」「しょーへー!」といって2人は手を伸ばし始めたので僕は「させるかぁ!」と叫んでやった。
するとしょーへーはクルッと後ろを向いて逃げ出した。
タッチされる心配がなくなって一安心してから、僕とタクでしょーへーを追う。
ドロボウはもう一人しかいないから全力で追えばいいだけだ。
タクのやつはなかなかすばしっこく逃げたが、最後にはタクに捕まっていた。牢屋に走り込んだ時にしょーへーは曲線で走ったけどタクは真っ直ぐ走った。それで差が詰まったのだろう。
人数が少ないという理由で1回でドロケイは終わってしまった。
暇だからみんなでWiiでもやろうって話になって、そのまま一番家の近いよっちゃんの家にみんなで行くことになった。
その道中、僕はあまり暑いとは思わなかったがみんなはパタパタと胸元の部分で扇いだりだとか、「あちー」とうめいてみたりということを、僕以外の4人はずっとしていた。
6月という時期を考えれば別に珍しいことじゃないけど、そんなに言うほど暑いとはどうしても思えないので、みんながやたらと暑がるのを不思議に思った。
なんとなく「疲れたね」とタクに言った。
タクは気だるそうに上を見ながら歩いてる。「ああー」と気のない返事がかえってきた。そんなに暑いかな?
ドロケイをしてた公園からしばらく歩いてよっちゃんの家に着いた。
「おじゃまします」と言って家に上がり、2階にあるよっちゃんの部屋を開けるとしょーへーは「うわっ」といって顔を伏せた。
「どうしたんだ?」とこうきがたずねる。
「いや、なんかもわっとした空気が出てきたからさ」
「空気が淀んでんだな。よっちゃんの部屋汚いから」
「おい!言っとくけどおれは片付けてるほうだぞ」というよっちゃんの部屋の床には広々と足の踏み場が確保されていた。
ピッっとクーラーをつけて今度はWiiを起動している。よっちゃんはあれこれとせわしなく動いたあとで「ジュース持ってくるよ」と下に降りていった。
その間にタクがスマブラ挿入して読み込ませ、タクとしょーへーとこうきが素早くコントローラーを確保された。おかげで僕は最初観戦だ。負けたら交代というのがルールだった。そして、よっちゃんが戻って来る頃にはタイトル画面が表示されていた。
QOOのりんごとコップ4つを載せたお椀をみんなが座ってる真ん中あたりに置いてよっちゃんも座ってコントローラーを確保した。
よっちゃんが最初に注いだを見計らって他の3人もコップを取りジュースを注ぐ。
そこで僕は自分のコップがないことに気が付く。
「よっちゃん、僕の分は?」と声をかけてみるけどよっちゃんはすでに始まった乱闘に夢中になっていた。
暇になってぼーっと眺めていると全然涼しくならないことに気がついた。ほんとにクーラー効いてんのかな?
しばらくして、しょーへーがビリに決まったが、コントローラーを渡そうとはしてくれなかった。
「変わってよー」と言ってもしょーへーは僕そっちのけで観戦している。
「しょーへー?」
「おーい、しょーへー」
「無視するなー」
となんども言ってみたけど全然返ってこなかった。
目の前で両手をパンっと勢い良く合わせても全くの無反応。瞬きすらしない。
しかもそのうちしょーへーは「クーラー寒くなってきたなー」と言い出した。
「寒くないじゃん!誤魔化さないで変わってよ!」
「よっちゃん、ちょっと切ってもいい?」
「いいよ」
「無視しないで!」
そのうち試合は終わったが結局しょーへーが僕にコントローラーを譲ってくれることはなかった。
ここまで完璧に無視されたのは初めてだ。
僕は悔しかった。「もういいよ!」と言って勢いでよっちゃんの家を飛び出してしまった。
仕方なく、家に帰るしかなくなったので、家に帰ろうと思ったけれど自分の家の場所が思い浮かばない。
これは困った。どうしたことか僕は自分の家のことを忘れてしまったらしい。家族の顔すら出てこない。
訳が分らなくなって、よっちゃんの家の前で4人の笑い声を聞きながら立ち尽くすほかなかった。
それにしても、僕が怒って飛び出したというのにあの4人には全く答えていないようだ。それがなんだか悔しくて、僕の心はぐちゃぐちゃでいっぱいになった。
僕が立っていると、「しっかし、4人でドロケイはねーわ!タクすげーよ!よく全員捕まえられたな」という憎きしょーへーの声が聞こえてきた。

透明な僕

透明な僕

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-06

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