KRESNIK

Prologue

第二次世界大戦が終わり、人々の暮らしに平和が訪れたかと思われた。しかし、この国土224.8平方キロメートルのイギリスでは、ある不可解な現象が、ここ三年で頻繁に起こるようになっていた。

ある老人は杖をつき、屋敷の長い地下廊下を歩いている。拷問室、処刑所、牢獄……かつてこの屋敷はイギリスでも有名な城だった。しかし、初代シルヴァニアがこの城を買ってからはここを使っただろうか?なんて老人は呑気なことを考えていた。

不思議なことに、自分の死が近いのにどうしてこんなにも心に余裕があるのだろうか。

老人の片手に持つ小瓶には、赤い血液が入っていた。誰ものものかは分からないが、その小瓶を大切に持っている。

地下廊下を歩き、最深部に到達した。その扉は先ほどあった拷問室や処刑所の扉よりも禍々しく、そして恐怖が渦巻いている。扉には鍵がかかっていると言うのに、文字の書いてある鎖が巻き付いており、更に錠前にも巻き付けてあるではないか。

「よ、よろしいのですか?シルヴァニア卿……」

一人のボディーガードが訊ねてきた。

「大丈夫だ、彼は血の契約は守るし、害のないものには手を出さんよ」

老人は扉に巻かれた鎖をひとつの鍵で外す。そして、もう一つの鍵を錠前にさし、回した。

重苦しい音を立てて扉が開く。ボディーガードはその中に入ることさえも恐れているというのに、老人は顔色一つ変えずに中に入っていくではないか。埃っぽくてかび臭い、何年もこの部屋を放置していたのがわかる。

すると、老人はある逆十字架の前で立ち止まった。黒い逆十字架に打ち付けられた『それ』は、姿は人間だ。人間そのものだ。肌は白く、血色はないが、整った顔立ちをしており、眠っているように思える。放置したままの長く黒い髪が床に着き、無造作に広がっている。心臓に打ち付けられた白い杭には、何かの呪文のようなものが書いてあり、『それ』を封印しているようだ。

「やあ、クロムウェル……久しぶりだね」

老人は旧友に会えたような喜びを笑顔に変えた。そして、小瓶の蓋を取ると、キュポッと言う音が部屋に響いた。そして、その血を彼の口の中に垂らす。

瞬間、部屋の埃が舞い上がり、部屋には空気の流れができていた。カランと木製の何かが転げ落ちる音と共に、男の唸り声が聞こえた。

「う、うああああっ!」

ボディーガードが恐怖のあまり銃を構える。

「やめろ!撃つんじゃあない、彼は私の親友なのだ」

老けたその声には威厳があり、ボディーガードを我に返させた。

「……クックックック、久しぶりだなあ……デイヴィッド、随分老けたじゃあないか」

低い声の彼の目は、妖しく、そして赤く光っていた。暗闇の中でもわかる赤、服装は拘束着のような格好のままだ。

「おや?この血は……お前のものではない、生まれたて……女の赤ん坊の血の味だ」

口の中にまだある血の味を確かめるように彼は言う。

「クロムウェル、その血は私の娘の血なのだよ」

「なんだと?」

「君に契約して欲しい……頼む、娘を守ってくれ」

クロムウェルと呼ばれた彼は、デイヴッドを赤い目で見つめた。

「私は病にかかってしまってな……この通り、もう動くのも限界だ。頼む、娘を……リリィを守ってやってくれ。べラトリクスと協力して、リリィを……立派な跡継ぎに、げほっげほっ、ごほっ」

「シルヴァニア卿!!」

ボディーガードがデイヴッドの体を支えた。すると、クロムウェルがニヤリと笑った。

「いいだろう、我が友人デイヴッド・シルヴァニアよ。その契約、成立だ」

「……ありがとう、クロムウェル……我が親友、よ」

満足したようにデイヴッドは微笑み、親友に見守られ息を引き取った。

Dracula

ロンドン某村にて、猟奇的な連続殺人事件がここ最近立て続けに発生している。

KRESNIK

KRESNIK

20世紀末、世界大戦が終わると同時にイギリスでは様々な怪奇現象が頻繁に起こっていた。その怪奇事件の調査、対処に当たっていたのは、人員50人、局長18歳という極めて異色を放つイギリス特務機関「シルヴァニア」であった。

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • ミステリー
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-01-05

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