金曜日

金曜日

あるカップルの物語。
この2人は、前作に出てきたカップルです。

今日は金曜日。待ちに待った金曜日だ。
週末ともなると、やはり嬉しいものだ。金曜日をやり過ごせば、何もない土日になるのだから。軽音楽部の部休日が金曜日であるからという理由もあるし。
それに…。
今日は好きな人と逢える日である。だから、金曜日は嬉しい。


いつも彼女と会うのは放課後。場所は誰もいなくなった、1Dの教室。
高校生となると、自由だ。中学校と比べて。
彼女は無部だ。この学校は髪型の規制がないため、彼女の髪型は金髪である。2つのお団子が可愛らしい彼女は俺より1個年上である。
そう。つまり、先輩とお付き合いをしているのだ。


出会いは中学校の時。俺が中1で彼女が中二の時で。…確か、夏休み前だ。
俺は顔に自信があり、よく友達に頼まれて女子生徒をナンパしていたものだ。俺のナンパ成功率は100パーセントだった。
でも、彼女と出会った時、その無敗記録は破られたのである。
彼女は元々、暗い人だった。下をいつも向いて歩いていた。俺も丁度、暇だったため、何となく彼女に声をかけた。きっと、ナンパは成功するだろうって油断していた。


『ごめんなさい。……他の…人を、誘ってください』


そう言って走り去っていく先輩の背中を、ただ見送ることしかできなかった。
…初めてだった。ナンパに失敗したのは。俺は悔しかった。あんな暗そうな先輩にどうしてフられなければならないのだろうか、と。
だから、次の日。もう一度、彼女に声をかけた。
彼女はまた、下を向いていた。俺と目を合わせようとしていない。…うざったいかな。でも俺は諦めなかった。


『俺、あなたについていきます。ナンパ、失敗したままじゃ、俺のプライドが傷つきますから』


その言葉通り、その日から、ずっと先輩にくっついていた。
その先輩は本当に暗い人物だった。友達はいなさそうだった。彼女は誰とも話そうとしないし。それに、彼女は1回も笑ってくれなかった。
つい、彼女にそのことを尋ねてみた。
『どうして笑わないの?』と。すると、彼女はこう答えた。
『…笑いたくない。ブサイクだし』
…そんなことないって率直に思った。あれからずっと傍にいて、気付くことがたくさんあったけど。彼女自身、笑えばきっと可愛い女の子になるだろうってことも気づいた。
少しためらったけど、彼女の頭を撫でてこう続けた。
『言ったな、その言葉』
だったら、笑わせてあげよう。ギャグは言えないからなぁと思い、考えついた台詞は。
『言いましたとも』
『その言葉、忘れんなよ。誰にも、実花の笑顔見せんなよ』
…つまりは。“俺には見せて”っていう台詞の裏返し。…恥ずかしい。聞く方より、言う方が赤面してしまうものだ。自爆して、その顔を見られないように下を向いていたら。
クスッと笑う声が聞こえた。
顔を上げると、彼女は笑ってくれた。…笑ってくれてる。
その表情はやはり可愛いらしかった。嬉しくて恥ずかしくて、さらに顔を赤くする俺だった。


それからも、俺はずっと先輩の傍にいた。笑うことが多くなった先輩はこげ茶の髪を金髪にしてしまった。…たぶん、カツラだと思うけど。金髪にしなくたっていいのに。
十分に可愛いのに。
先輩の傍にいるうちに、俺はナンパをしなくなった。…もう、面倒臭いし。金曜日になると、彼女はいろいろと愚痴を言ってくれた。愚痴を言った後にまた、彼女は笑ってくれた。彼女の笑顔を見る度に、俺は嬉しくなった。
もう自覚していた。
先輩のことが好きなんだって。
先輩は…。俺のこと、好きかな?


中1の冬休み明けにこんなことがあった。
『ねぇ、シェイシェイ』
…俺はパンダが好きだ。唐突だけど。
パンダ好きの影響からか、俺はいつも“シェイシェイ”と先輩に呼ばれてた。よくわからなかったけど、一応返事をする。
『このカツラの髪、長いでしょ? …どう結べばいいと思う?』
いつも彼女は下ろしてた。金髪の長い髪を。結んだら、どうなるんだろう。
『…お団子がいい。…2つの』
『お団子? わかった。明日、やってみるね』
そう言っていた次の日の放課後。
本当に彼女は2つのお団子を頭に作ってきた。
『…似合ってる…かな?』
彼女は恥ずかしそうに笑っていた。似合ってる以前に。
『…可愛すぎ』
つい、本心が出てしまい、口を押さえた。また、恥ずかしい言葉を言っているではないか。彼女の様子を伺うと、彼女もまた嬉しそうに笑っていた。
…俺はどうしたらいいんだろう。
抱き締めるべきだろうか。…いや、俺は後輩だしなぁ…と思っていたら。
『…だいすき』
彼女はそう言うと、大きなヌイグルミを抱きしめるかのように、俺に抱きついてきた。
…付き合っていないのに、いいのだろうか。
『…俺もだよ』
彼女より身長の大きかった俺は、彼女をギュッと抱き締めた。彼女の頭を俺の胸に引き寄せた。…やっぱり好きだなぁって改めて思った。

あれからずっと。彼女の頭にはお団子が2つある。
俺の影響だったらいいのにな。
彼女とは今、付き合っている。中学校の時より、彼女は明るくなった気がする。同じ金髪の女の子と友達になったからだろうか。
先に1Dの教室に行ったと思ったら、誰かの机に頭を伏せている金髪の女の子がいた。
「…実花? 大丈夫?」
そう尋ねると、彼女は顔を上げた。…俺と目が合った。
「うん、大丈夫だよ」
彼女はそう言って微笑んでいた。…本当かな。
「なら、いいけど」
彼女の前の席に座り、イスにまたがって彼女に体を向けた。
「…やっぱり…。愚痴らせて」
彼女がそう言ったため、俺は愚痴を聞くことになった。
彼女と一緒にいれる金曜日は、やっぱり好きだ。

おわり。

金曜日

読んでくださって、ありがとうございました!


実は。
私、この2人が大好きなんです。
前作で書いた2人も好きですが、この2人も大好きです。
初めて、この2人を知った方は前作の『君のピアス』の「みかんとパンダ」というチャプターから読んでくださるとわかると思います。
閲覧、ありがとうございました♡

金曜日

あるカップルの物語。 彼女の髪型の話。 前作で出てきたカップルの物語です。ほのぼのしていただくとありがたいです。

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-05

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