青い挑戦

青い挑戦

青い挑戦

友の死

 九月の半ばなのに一向に暑さが和らぐ気配が無く今年は異常気象とかで、ワンルームの工藤浩二の部屋はクーラーが無いため窓を開けてある。室内は外気とおなじ温度になつていた。
 朝の六時なのに、浩二はベットの上で汗にまみれていた。
 ボーっとした頭で「今日も暑そうだな・・・仕事んで・・・吾郎でも呼び出して遊ぼうかな?」と考えていた。工事が遅れているため半月も休んでいなかったのだ。
 浩二には小学校から高校まで一緒に育ち、今も親友と呼べる友が七人いた。満夫、吾郎、新一、健太、和正、信二、則道それぞれ個性あふれる仲間だ。
 満夫は開校以来の逸材であると言われ、東京大学へ一番で入学した。
 新一はインターハイ陸上の記録で推薦入学出来たが、行かなかつた。
 信二は、俺の人生はたぶん大したことないと思う。だから面白く過ごすと言って、地元の組へ入った。ヤクザになったわけだ。
 真面目な則道は、地元の市役所に勤めた。紅一点の紀子は高校の時から則道
の嫁になる気だった。
 俺は信二とつるんで、ケンカに明け暮れていた。登校しない日はあっても、ケンカをしない日はなかったと思う。県下の悪のあいだでは『あの二人とは掛かり合いになるな!』と恐れられていた。そんな俺は卒業と『毎日格闘技ができて!銃が撃てる!』それだけで迷わず自衛隊に入った。俺は二千人いる隊の中で、座学以外の格闘技、行軍、射撃などの全ての実科で上位の成績を上げていた。だが、態度がでかかったらしい。ある時、防衛大学を出た上官が皆の前で『本当の格闘技を教える。身体に当ててもいい。私も当てる。本当の格闘技を教える』と、言って相手に俺を指名した。
 五分後、上官はタンカで医務室に運ばれた。
 二週間ほどたった頃、また防衛大学を出た若い上官が『一人で大勢の敵と闘う技を教える』といつて俺を指名した。相手は四人で、『身体に当てても構わない』と宣言した。
 これは訓練ではなく、上官たちのの面子をかけた復讐だ。訓練でないならば・・・これはケンカだ。思い切りケンカを楽しむ事にした。
 『始め』の合図で横にいる奴の股を蹴った。股を狙ったつもりが膝に当たり、変な音がして、脚が『く』の字に曲がった。
 前に居る奴に手形で首筋に当てると、そいつは仰向けにびっくり返った。
 もう一人が後ろから首を締めてきたので、肘で締めてきた奴の横腹を肘で思い切り四ほど当てるとたまらず転がった。
 残りの一人は逃げ出した。
 三人はタンカで医務室に運ばれた。
 三日後。人事部に呼ばれ、退官するように言われた。理由を聞くと鎖骨を折った者。肋骨を折った者。脚を折った者。
 『こんな激しい訓練をしていると知ったら誰も入隊しなくなる』と言われ、俺は後で揉めたくないので、『訓練上の怪我』ということを一筆書いてもらい自衛隊を辞めた。
 僅かな退職金と貯金を持って東京に出た。部屋を借り皆と食事をしたら、殆ど無くなり食う為に今の建築会社に日給月給で働いて居る。
 仕事を休む連絡をして置こうとしたら、携帯携帯がなりだした。
 
「浩二」
「吾郎か?電話しようと思ってたんだ」
「大変だ則道が死んだ」
「何?」
「直ぐ上野駅に来てくれ、皆も来る」
「なにを馬鹿なこと言ってんだ。この間携帯で話しばかりだ。紀子との結婚を惚気てたんだぞ」
「本当のことだ。直ぐ上野に来い」
「俺も理由は知らん。いつものキヨスクの横に来い」
 何もわからないまま、顔も洗わず部屋を飛び出して電車に乗った。

 いつもの集合場所である常磐線ホームのキヨスクの横には皆が来ていた。
「則道の話し本当か?」
「交通事故か?」
「どうなつている!」
「はっきりした理由が解らんのだが、死んだことだけは確からしい」
「駅で信二が待ってる」
「信二に聞けばわかるだろう。早く列車に乗ろう」
 俺たちは生まれ故郷の日立市へ向かった、電車の中では則道がどうして死んだのか訳けがわらず、全員がパニック状態だった。
 電車がホームに停まるなり
「着いたぞ」と言いながら、自動ドアを手で開けるようにして飛び出した。

「信二は・・・いたいた」
「信二。どうなつてんだ」
「則道は本当に死んだのか」
「どういうことだ」
 信二は駅内にいる客の目を気にして
「落ち着け。駐車場へ行こう」と皆を停めた車の方へ引っ張って行った。

「聞け。則道が死んだのは本当だ」
「ゆうべの二時頃お父さんがトイレに行くとき、二階の手摺から首を吊った則道を見つけたんだ」
・・・・
「今から理由いう。俺達の二個上に松田というのがいたろう。松田清だ」
「親父が県会議員で養豚業をやつてて、豚松って馬鹿にしてた奴だ」
「その豚松が、紀子を見て嫁に欲しいと、親父に泣きついたんだ」
「紀子は則道さんと言う婚約者がいると、はっきり断ったんだけど・・・豚松の親父が県会議員の顔を利用して、則道がいる市民課の上司に紀子と別れさせろと命じたらしい」
「紀子の親父さんが勤めている会社の社長にも圧力をかけたみたいだ」
「まだある。則道の親父さんには別れさせなければ会社をクビにしてやると脅し、二百万円置いていったらしい。」
「親父さんは事故の後遺症で足が悪いから、他に働けるところはないって・・・」
「豚松の親父から金を貰ったことを知って、絶望したんだろうか」
「そんな馬鹿な話があるか。許さん、豚松を殺す。則道の仇をとる。」
「待て」
「いいか、勝手な事は駄目だ。やるなら一緒だ」
「約束してくれ。阿呆の豚松をヤルくらいで一生を無駄にするな。計画練ってわからないようにやるんだ
「今は則道を安らかに送る方が先だ・・・」
 
 俺たちは混乱していた。
・・・どうして相談してくれなかったんだ?
・・・俺達に迷惑をかけると思い何も話さず、一人で悩んで、逝ってしまったのか?
・・・俺達はそんなの仲じゃないのに
・・・小学校からずっと、怒られることもほめられることも一緒だったのに
悔しかった。皆悔しかった。

「お父さん。則道のこと聞いて飛んで来ました」
「ありがとう。則道の顔見てやってくれ。私も悔しいよ」
 則道の頬や肩をさすりながら・・・月並みな言葉しか出なかった。何も考えられなかった。
「何なんだよ寝てるみたいじゃないか」
「則道起きれ、皆来たぞ」
「起きれ」
「何で寝てる。起きれ」

立ち上った健太が言い出した。
「満夫。葬儀屋に頼まないで俺達で則道おくってやろう」
「満夫、おまえが指図してくれ」
「分かった」と答えた満夫は、
「信二、金が要る
「俺たち七人の責任で七十万借りてくれ」

「組でやってるサラ金なら、何時でも借りられるから、すぐ行ってくる」
「吾郎、健太、信二と行って、祭壇の花、お供え、蝋燭や線香もいる」
「あ、香炉や蝋燭建もいるぞ。他にも気がついた物を買ってくれ」

「浩二。お通夜に出す酒や寿司なんかを手配してくれ」
「新一。車庫の上のお前の部屋はまだあるのか」
「よし、今夜は皆で雑魚寝だ」
「俺は坊さんと明日の手配をしておく」
「皆四時までな。戻れないときは俺の携帯に連絡くれ」
「おお」昔からの仲間どうしは細かい指示を必要としなかった。

「お父さん市役所の人来ないですね」
「満夫君、役所の人は誰も来ないよ。県会議員が怖いのさ」
「ひどい奴らだ」
「親戚の者たちと近所の人達は来てくれるだろう」
 彼らは『則道の最後を立派に送ろう』と、涙をこらえ与えられた事をこなした。胸のなかは悔しさと豚松に対する憎しみが渦巻いていた。
 七時にお坊さんも来親戚や近所の人達も来てくれた。お経が終わり、お酒や弁当を食べてもらい、直ぐ帰る人には弁当と酒の小瓶を持って帰ってもらった。

「お父さん僕たちこれで今夜は帰ります明日は八時頃に来ます」
「すまないねこんなにしてもらつて。則道も喜んでいるよ。一番なかのよい友達に送ってもらって・・・申し訳ないが明日もよろしくお願いします」
 
 暗い夜道を彼らは元気のない足取りでとぼとぼと歩いた。
 信二がポツンとある街灯の下で、皆に顔を見渡しながら言い出した。
「俺こっちの道行くから。新参者だから。組に顔出すから」
「わかった明日八時な。今日はご苦労さん」
「明日な」と言ったきり俺たちは会話もなく暗い夜道を新一の部屋に向かった。
「イタ!」
「どうした新一」
「何か蹴飛ばした。何が入ってる」
「新一。東京の明るい夜道に慣れたか」
「ああ、昔ながらの暗い道だ・・・」
「何かわからんが、とりあえず貰っとこう」
 
 車庫の上にある新一の部屋に入った。身体が疲れているたわけでもないのに皆無口になつていた。豚松に対する憎しみと、何もしてやれなかった自分の力のなさにも腹をたてていた。
「もう寝るか」
「その前に窓から外見てくれ外が五月蝿い。さつきからサイレンの鳴りばなしだ」
「なんだあーこの街のパトカーが全部集まっているみたいだ」

 葬式の朝。今日も暑そうだ。
「刑事さんだ。皆に聞きだい事があるって」新一が訪ねてきた刑事を案内しながら
「朝早くからすいません。昨日は何時頃部屋に帰って来ました」
「十時頃だと思います」」
「誰かと会いましたか」
「私たちはこの街の出身でこの辺は詳しいのですが誰とも会いませんでした。何かあつたのですか」
「拳銃で撃たれた男が直ぐそこで死んでいたのです。朝早くからありがとう」

 この街では一度も起きたことのない殺人事件が起きていた。県道の向こうで死んでいた男は、背中の刺青から暴力団との関わり合いが予想され、指紋からも身元確認は時間の問題とされていた。

 お経も終わり出棺間近になっても、市役所からも職員組合からも誰も来なかった。
「なんて奴らだそんなに豚松の親父が怖いのか。許さん、絶対豚松を殺す」
「満夫、浩二、皆が来てくれた。同級生が先生方も来てくれたぞ。皆ありがとう則道も喜んでいるよ」
「君たちで則道君の旅立ちをお世話して要るのか、一番仲の良かった君たちに送られて則道君も喜んでいるよ」
「先生皆ありがとう。則道も喜んでいるよ、何か先生や皆が来てくれて胸のもやもやがとれた」
 わずかな親戚とともに火葬場に向かった。
「本当に則道ともお別れだ。あの煙り天国へ行く階段かな天国って良いとこだといいな」
「皆あれ紀子じゃあないか行こう、紀子どうなつている教えてくれ」
「皆が則道さんを送ってくれたのありがとう。則道さんも喜んでいるわ」
「全部話すわ。私、皆も知ってる豚松に結婚申し込まれたの。婚約者いるってはっきり断ったの」
「そうしたら、市役所の上司の課長に別れさせろと命令したの。私の父のところや、勤めている社長にも別れさせろと県会議員の親父さんが来ていうの」
「父の勤めている会社と豚松の養豚会社と取引があって、父も社長も大変こまつていたわ」
「そんなとき、則道さんのお父さんが脅されて二百万円受け取ったことが則道さんの耳にはいつたの」
「則道さんに東京に行こう。皆がいるからなんとかなると、何回もいつたけど、親父さんを置いていけ無いと言うの」
「全部豚松親子のせいよ。私、則道さんに言う機会がなかったんだけと豚松に捕まって二日間も犯されたわ」
「これから言うこと、良く聞いて」
「今、私のお腹に則道さんの子供がいるの」
「豚松と結婚して二人で復讐するわ」
「絶対負けないから。もういくね」
「散歩してくるって出てきたから」

「紀子。俺達、二人の味方だ」
「なにかあつたら、満夫でも信二でもいい。電話くれ。一人で悩むなよ。どんな事でもする。身体に気をつけろ。これで則道が何時でも俺達の側に居ることになる」
「親父さんが出てきた。則道の骨を拾いに行くぞ」

「則道こんなに小さくなって悔しかったろな。絶対俺達が仇をとるからな」
遺骨を持って則道の家に向かった。
「お父さん僕達これて帰ります。四十九日にまた来ます」
「ありがとう葬式まで出してもらつて。お金まで使わしてすまんね」
「則道も喜んでいると思う。ありがとう」

「新一の部屋で一休みして帰ろう」
「俺こっちの道行くから。今日、組の当番だったんだ。顔ださないと。なんせ新入りだから
「お疲れさん」
「おお、お疲れ・・・」
 
 新一の部屋にもどったが会話もなく、それぞれが昨日から今日の出来事の断片を思い出していた。悔しさだけが残っていた。

 部屋の隅に昨晩の帰り道で拾ったバックがポツンと置いてあった。
「忘れてた。何が入ってるのかな」カギを壊してチャックを開けた新一が叫んだ。
「お!金だ」
 新一が震える手でバックから一つずつ出しながら、畳の上に積み上げた
全員が見つめる中、
「三十五個。一束百万だから、三千五百万だ」
「昨晩(ゆうべ)死んだ奴の物かな・・・」
 バックの底に新聞紙に包まれた拳銃が出てきた。
「貸せ」
 受け取った浩二が、指紋が付かないように新聞紙のまま開けて
「これはロシア製のトカレフだ。制式銃だ」
「こっちは三十八口径のコルトスペシャルだ」
 浩二は拳銃から銃弾を抜いて、新聞紙に包みなおした。
「さわってもいいぞ。指紋を残すな」

「満夫この金どうする」
「新一。新聞持って来てくれ」
満夫が新聞の記事を読んだ後で、信二に電話した。
「信二。今日はご苦労さん。電話いいか」
「ああ、何だ
「昨日の撃たれて死んだ奴、その後どうなつているか知らんか」
「身元は直ぐ分かった。組の金を持ち逃げした大阪の極道だった」
「どこかで撃たれて、ここまで逃げて来て死んだようだ」
「車の中は血だらけだったってよ」
「で・・・」
「大坂から遺体を引き取りにくるそうだ」
「警察では他の街で死んでくれれば良いものをとボヤいているらしい」
「遺体を引き渡して終わり、ってことみたいだ」
「満夫なんでこんな事、聞くんだ」
「昨日の夜うるさかったし、今朝、刑事が聞き込みに来たんで、わかったんだ」
「ま、俺たちにゃ関係ないけどな」
「帰るとき駅からまた電話する。じゃあな」
電話を切った満夫は皆の顔を見渡し、
「新聞も信二の話しと大差ない。この金のことは誰も知らないんだ」
「金と一緒に拳銃が入っていたらもっと騒ぎが広がってるはずだ。金はともかく、拳銃は徹底的に探す」
「誰も見た奴はいない。知らない」
「則道のプレゼントだ。貰っておこう。満夫決めてくれ」

思い切りの良い満夫は
「分けよう。公平に分配だ」
「とりあえず一人あたま二百万。残りはストックしておく」
「よし」
「いいぞ」全員が賛成した。
「問題は拳銃だ。浩二、どうすればいい」

「持ってるのは危険だ」
「あれば豚松に使う奴が出てくるかもしれない」
「絶対に使わない。使うときは全員の賛成が要る、と約束した出来るなら油を引いて隠そう」
「これからの人生で必要な事が起きるかもしれない。使う時は皆で決めよることにして、ガキの頃遊んだ天神さんのお社の隠そう」
「いいな。お祭りのときしか人が集まらないし、普段は近所の人がお詣りするだけだ」
「俺たちしか知らないご神木の洞がいい。絶対見つからない」
 銃に慣れている浩二が軍手をして、銃に万禅なく錆止油スプレーを吹きかけてぼろ布で巻き、ビニール袋に入れて密閉した。
 畳の上に小さな包みが二つ残った。
「信二に拳銃の事は言うなよ。知ったら欲しがるに決まってる」

「そろそろ帰ろう」
「健太と吾郎。神社に行って隠してくれ」
「指紋付けるなよ。駅で会おう」

 満夫が駅へ向かいながら、駅裏の駐車場へ信二を呼び出した。
「信二、呼び出して済まん」
「いや、友達が東京へ帰るんで見送ってくるって言ってきたから」
「そうか。さっきの話。死んだ極道だけど・・・昨夜な、新一が大阪の極道の落とし物だと思う金を拾ったんだ」
「え・・・」
「誰も知らないいので貰う事にした。三千五百万あつたんで、二百万ずつ分けることにしたんだ。残り、一人頭三百は俺達に何かあつたときに使うために残すことにした。俺が預かった」
「勝手だけど俺の判断だ。これでいいか・・・」
「満夫が変なこと聞くと思った」
「これは則道が俺達にプレゼントしてくれたんだな。それでいいよ。大阪の事や警察の事は、それとなく探っておくから」
「結果は電話で教える。次会うのは四十九日だな」

皆、少しばかりの余裕のある生活をしていた。瞬く間に四十九日が来て、則道の家で忌開けをして食事をする事にした。信二が座敷のある店を予約していた。
「ここは組の人達もこないし、静かに話ができる」
「信二、忙しいみたいだな」
「今度、俺の親分が本家の六代名を継ぐことになったんだ。でも、なんせ子分が六十五人しかいないんで、新しく五人が杯を貰った」
「信二、兄貴無しか。そりゃ良かった。阿呆の兄貴に付いたらたまんないからな」
「襲名披露で兄貴達てんてこ舞いしているよ。後、二十六日しかないから。でも俺はあんまり関係ない。下っ端だからな」
「今でも総長賭博ってああるのか?祝儀もごついんだろう」
「兄貴達の話しでは、祝儀は八千、博打で五千、締めて一億三千万円位といつていた。博打もだらだらやらないそうだ、二時頃には終わるそうだ」
「ノータックスだろう、さぞかし親分の家にはでかい金庫があるんだろう」
「いやそれが極道のつらいとこで、高校の職員室にあつた鍵のついたロッカーがあつたろう、あれとおんなじ物だ。只、若い衆が当番で三人。いつも居る」
 その日は、皆が近況などを話して終わった。

 一週間ほどして、満夫から皆に呼び出しがかかった。
「皆いい顔している。あの金が効いているな」
「満夫、俺は一月三万円使ってる。気持ちに凄く余裕ができたんで、働いていてもこの頃女性の胸や尻が気になりだした。前はいつぱいいつぱいの生活だったからそんな事考えないようにしてたんだ。何とかしようと思っても、どうにもならなかつたから。」
「フーッと思う時がある。今、この金が無くなったらどうなるんだろうと思ってな」
「俺もおんなじさ、何とかなると思っている」
「皆に話がある。聞いた後、やらなくてもいい。良いか・・・」
「浩二と相談した。信二の親分の金を頂く。一億三千万円そっくりいただくことにした。」
「極道の襲名祝や博打の金だ。税金を払わない違法な金だし、取られても警察には言えない」
「どうやってやる若い衆が居るぞ」
「襲名披露のあと若い衆も親分も酒を飲んでいると思う。」
「笑気ガスを使う。誰にも見付からないようにやるが、皆の力がいる」
「具体的にどういうふうにやる」
「襲名披露のあと、祝儀と博打のアガリを持って親分の家に帰ってくると思う」「若い衆も親分もガスで眠らす」
「ロッカーはバールで簡単に開けられる」

「俺はやる」
「もう会社と家の往復に飽きたし、聞いただけで身体中から力が出て来た」
「楽しくなつてきた。賛成の奴は手を上げろ」
「浩二、満夫皆やるよ」

「これは遊びじゃない。失敗は無しだ」
「残り二十日しかない」
「まずガスと車が要る。手当てできるか、盗むのも借りるのも駄目だ」
「ピッタリの車がある。千葉の柏市の外れに大きな解体工場があるんだが、そこに廃車手数料を払いたくない奴が車を捨てて行くんだ」
「車検証がないだけで、動くし、車検シールも生きてる」
「それを使おう。健太、車は任す」
「よし」

「ガスは病院もいいけど、どれだけ入っているか解らん。工場か販売店がいいと思う。インターネットで調べれば、直ぐ分かると思うぞ」
「突然の話しなのでいい考えが浮かばないと思う。三日後、今日の時間にここで会おう」
 毎日何の目標も希望もなく、ただ日を数えていた生活だった。皆目標の出来たことを身体中で喜んで、足取りも軽く分かれていった。
 失敗する事など考えられなかつた。



祝儀、寺銭、強奪

 三日後。待ちきれない皆は、時間前に集まっていた。小学校・中学・高校とロクでもない悪戯(ワルサ)を実行するときの顔だ。
「皆の顔見るといい考えが出たみたいだな」
「俺から言う。車は任せろ、柏の現場で見てきたが、鍵のついた車が何台もあつた。それお使う。持ってきた車の置き場も決めてある。以上」

「次俺。インターネットで調べたら、関東に二ヵ所ガスの工場があるんだ。どっちも下見してきたが、高い塀があって、入口はガードマンが詰めてた。工場はとても無理だ」
「俺は販売店に行ったんだけど、ここはOKだと思う。塀もガードマンも居ない。倉庫の前に屋根だけの車庫があって、空のボンベと満タンのボンベを積み変えてた」
「次の日にトラックが配送に出る準備を済ませてしてから帰るようだ。に代のボンベは満タンだ」
「駐車場の入口は、鎖がはつてあるだけだ」
「俺も見て来た。吾郎の見てきたのと変わらん」
「車とガスは目途が付いた」
「後は親分の家の見取り図だ」
「俺が書こう。家を建てる時、則道のお父さんがいて、何回もお昼弁当を持って行ってそこで遊んだから、中の様子も良く覚えてる」
「改装したら信二に聞けばいい」
「今回は信二を巻き込むとヤバイ。どこでバレルかわからんから」
「信二は勘がいいから、迂闊には聞けないが、それとなく聞いてみよう」

「次は買う物」
「濃いグレーの上下服」
「中国製の靴」
「小型の無線機。イヤホン付」
「それとリュックサック」
「その中に靴と着替えを入れる・・・終わったら、本番で使った物を全部入れて捨てる」
「それと金を入れる袋だ。後、何かあるか」
「指向性マイク。これがあると家の中に何人居るか、寝たかが分かる」
「健太いい考えだ。性能のいいやつを買おう」

「だけど満夫どれだけガスを使うのか知ってるのか。長く吸うと廃人か死ぬ可能性があるんだろう」
「医学部の学生に聞いたんだが、人によって違うらしい。一番頭が痛いとこだ」
「少し吸わして、ブラックジャックで頭を殴って気絶させるのはどうだ」
「俺達が吸うとまずいから、海に潜る時使うアクアラングの小型版みたいなもんで、口にくわえるだけで十分位潜れるらしい」
「俺、よく調べて買ってくるよ」
「気絶したらガムテープでグルグル巻きにして、直ぐ窓を開ければ何とかなるんじゃないか」
「それでいこう」
「買う物は?疑問は?気が付いたことは?」
「さて最後だ、中国語をいくつか覚えてくれ」
「中国人の仕業に見せかけるのか?」
「そうだ、それっぽくなるまで練習してくれ」
「金だ。早くしろ。金,加快(ジン・ジャーカイ)」
「寝ているか。睡着吗(スイジャオマ)」
「早く開けろ。快速开(クァイスーカイ)」
「もう行くぞ。已经去(イージンチー)」
「目ぼけている奴に中国人と思わせるんだ」
「靴は帰りに買い履き慣れてくれ」
「健太、車、いつやる?」
「俺にまかせてくれ。一人の方がいい。捨てた車だから見つかっても窃盗にはななるまい」
「置き場も決めてあるんだ。高岡団地の駐車場。この団地はお年寄りばかりになったんで大きな駐車場ががら空きだなんだ」
「ここにシートを掛けて置く。ガスを頂く前にやるよ」
「で、ガスは誰がやる」
「新一か、よし下見に行こう」
「じゃ一週間後、この時間に。緊急は俺の携帯な」
 以前の彼らではない。目が輝き、顔にはハリとツヤが出てきた。歩く姿にも自信がみなぎり、失敗など微塵も考えてていなかった。東京へ出て来て二年。ただ食う為に働き生きるため働く毎日で、先の事など何もわからなかつた。
 いや、わかつていたような気もしていた。その辺の女を捕まえて結婚し、いつぱいいつぱいの生活の中で子供を育て、小さな家を三十数年のローンで買う。年金などあてにならず、気が付いたらボロボロの家だけが残っていた。その家さえ買えるか分からない、何とかしたいと思ってもどうしようもなかつた。
 そんなときに誘われた計画だった・・・これで人生が変わる。小学校からの友達だ。良いことは少ないが悪いこと何でも一緒にやつて来た皆となら、失敗する事は無い。失敗は考えられなかつた。

「皆いい顔になった後十日しかない詰めの打ち合わせをしよう」
「俺から報告しよう。健太、吾郎と三人で車と小型のガス二本を器具着きで頂いて来た」
「ホースも長めに二本買った。テストの結果もOKだ」
「今、団地の駐車場にシートを掛けておいてある」
「早いな。今日打ち合わせしようと思ったのに、車、大丈夫か」
「心配無い。空いている場所を確認してあるから。
「色の違うシートをかぶせて移動させればいい」

「次、俺と新一で親分の家を見て来た」
「図面を見てくれ」
「子分の居る部屋はここ、入口の脇だ」
「親分の部屋はここ。入口から一番奥だ」
「古い家だから壁に暖房器具の排気口がある。そこからガスを流そう」
「背は低いが植木がたくさんあるんで、隠れる所はたくさんあった」
「忍び込んだのか、いい度胸しているよ」
「皆やることが早い。焦るな。落ち着いて行こう。、失敗は天国から地獄へ真っ逆様だ。ここまで来たら俺達は運命共同体だ。俺達の人生がかかつてるんだから、何としても成功させなきゃならん」
「信二に電話で聞いたんだが、予定通りに襲名披露をするそうだ」
「信二は博打の接待係で、忙しいみたいだ」
「もう一度持ち物を点検しよう。忘れ物無いか要るもの無いか、健太ボンベがぶつかった時に音がしないようにな」
「スポンジを巻いた」
「指向性マイクもテストしたが、凄い性能だ。無線機もOK。文句なしだ。バッテリーも予備を準備した」

「この潜水用ボンベは十五分もつて書いてあるが、十分と考えたほうがいい」
「口にくわえたとき鼻で呼吸したら終わりだからな」
「だからこのシンクロスイミングで使う鼻栓を間違い無く付ける。慣れるまで家で練習してくれ」
「当日は作業服を着て、目出し帽をかぶる。隠してあるあの拳銃は使わない」
「最終確認だ。まずいいか、ガスを撒くのに一分」
「乗り込んで殴るのに一分」
「ロッカーを開けて、金を袋に詰めるのに三分」
「逃げるのに一分」
「合計六分」
「二手に分ける。子分を気絶させたら一人残して、直ぐに親分の部屋にくること。子分の部屋と、親分の部屋だ、質問あるか」
「親分達が帰ってくるまで何処にいる、庭に隠れるはまずいだろう」
「考えてある。親分の家の斜め前にある建築の資材置き場に隠れよう。いろんなものが雑に積んであるから、隠れていることが解らないだろう」
「博打を終えるのが二時だから一時四十分に、健太と新一が庭に忍び込み、子分の人数を集音マイクで確認する」
「親分が帰って来て、寝たら健太の合図で庭に入る」
「そしてガスを撒く」
「親分の家に入ったら、一切口をきくな。使うのは覚えた中国語だけだぞ」

「皆、気がはやり過ぎてるようだ。吉向の前にもう一度相談しよう。それからでも遅くない。後、気が付いたこと無いか?買う物無いか」
「黒い軍手、スタンガン、あつたほうが良いと思う」
「よし。だが一遍に何個も買うとアシがつくから各自で買ってくれ」
「決行の前日に会おう、王子の飛鳥山公園に七時な」
「前日も決行日も、会社休むな」

 嬉しかった。
 高校時代、海へキャンプに行くために、知り合いの土建屋の社長に頼み込んでアルバイトをさせてもらつた。きつい仕事だったが皆と一緒なので、苦にならず後の楽しみ・・・キャンプの事だけを考えていた。東京に出て二年。何の変化も無く、只会社と部屋の往復、テレビでやつている若者達の生活や恋愛自分には関係の無い世界だと思っていた。この話しがあつてから皆となら出来る、今の無気力な生活から抜けれる、金を奪ってからどうする何に使うそんな事考えてもいなかった。只高校時代の要に一緒に出来る、今回は少し危ない俺達なら出来るそれだけだった。

「いよいよ明日だ気が付いたことはあるか」
「車に乗る前に手袋忘れるなよ。車を捨てるのは五時頃だから、指紋を拭く時間が無い。忘れ物もおんなじだ」
「明日はバラバラに集合する。知り合いに見つかるな。集合は午前一時二十分。神社の裏だ」
「身元がわかる物、免許証や携帯は家に置いてこい」
「使った物、着てる物、靴、無線機、スタンガンはガスボンベを重石にして川で捨てる」
「実行後は二人ずつ、二十四時間やつているファミレスに降ろす」
「バラバラに帰って、夕方六時。東京ホテル集合だ。

「意見、質問無ければ飯を食べよう」
「飛鳥山公園の横に将軍吉宗時代からやつている店がある卵焼きで有名だ贅沢しよう、酒やワインも飲もう、俺達の明日に向かって乾杯しよう」
 たいして飲めないワインを飲み、顔を赤くして店を出ると夜風が皆の顔を優しく撫でた。
 決行の日。新月の夜。全員が真っ暗な神社に集まった。
「全員揃ったな。健太途中何も無かったか」
「無い。検問にもあわなかつた」
「よし行こう車に乗れ。
「車を置く場合まで行く間に、無線機を付けて最終テストだ」
「OK?」
「感度良し」
「停まれ。親分の乗った車からは行きも帰りも見えないだろう」

「行くぞ」
 健太と新一が庭に忍び込んだ。茂った樹木の陰にかくれて集音マイクを突き出した。「三人だな。かなり飲んでるんじゃじゃないか」開いた窓から漏れる薄明かりのなかで、身振り手振りで会話した。

 一分を二時間にも三時間にも感じた。
 部屋の中から電話の呼び出し音が響いた。親分の帰宅を知らせる電話だ。子分たちが部屋を片付け始めた。
 十分ほどたったころ親分達を乗せた車が着き、若い衆が車のトランクを開け、二人で大きなカバンを二個取り出し、留守番をしていた三人に手渡した。
 親分夫婦は襲名の宴会や賭場で酒を人だようで、風呂も使わずに寝室へ入った。車が組事務所へ引き返してから二十分ほどたつと電灯が消え、更に十分後には子分達の部屋からも親分の部屋からもでかい鼾がきこえてきた。
 更に十分殆ど待つことにした。新一が手にしていた釣竿を伸ばした。健太は思議な顔をして、新一の耳元で囁いた。

「新一その釣竿なんに使うんだ」
「釣竿にホースを縛って開いている窓から接顔に吹きかける」
 二人はゆっくりと窓に近づいた。釣竿の先にホースの出口を縛り開いている窓から差込んで、三人の顔にガスを吹きかけた。ガスが効いたようだ。窓を全開して忍び込み、ブラックジャックで一振りずつ頭を殴りつけた。
 親分の部屋に向かい、部屋に入ったら吾郎がロッカーをこじ開ける所だった。「金。早くしろ(ジン・ジャーカイ)」と満夫がいい。金(ジン)、金(ジン)と中国語で浩二が叫んだ。ロッカーの中にもかなりの金があつたのでそれも頂いた。さあ行くぞ(イージンチー)といつて引き上げた。
「健太スピード出すなよ。制限速度だ」
 座席の上で服を着替え、犯行に使ったった物全部お袋に詰め二個に分けガスボンベを抱かせ針金で縛り、橋の上から川の中央の深みに投げ入れた。

 最初のファミレスで吾郎と新一を降ろした健太は、
「俺一人で車置いて来る。リスクは少ない方がいい」
「もう一度車の中見てくれ」
「忘れ物ないか?」
「俺の荷物持って行ってくれ、何かあつたとき金があつたのではまずいからな」「あのファミレスで降りてくれ」

「健太、任した。六時に東京ホテルで合おう」
 五時。動き出した電車に乗って部屋へ戻り、いつものバックにそれぞれの戦利品を隠して、いつもの生活に戻って行った。会社ではいつものように淡々と仕事をこなし、長い一日もようやく終わりを告げる頃、東京ホテルに向かった。

「何事も無く終わった。
「いい事です。ガスを撒いてから車に乗るまで俺時間をはかった。九分だ俺達大したもんだ何でもやれる気がして来た」
「このベッドの上に金を出せ、戦利品を数える沢山ある皆で数える」
「嫌になつてきた。腹もへつてきた。数えても数えても減らない金数えるのは生まれて初めてだ」
「新一だけじゃないよ。俺何か自分の給料しか数えた事無い」
 ベッドの上に山のように積まれた金を皆で一時間程かかり数え終えた。
「凄い。いくらあると思う。三億六千万円だ。どうしますか、何を買いますか」
「なにを買うって言われても分かんない。浩二いい考えあるか、満夫はどうだ」
「これは提案だが、一人二千万円ずつ分ける。残りは俺達に何かあつたときにつかう、紀子も入る。紀子のお腹には則道の子供がいる」
「皆で何か商売してもいい」
「その意見に賛成だが、二千万円、どうしていいかサッパリわらん」
「あの二〇〇万円でさえ考え考え使っているのに。これは金の強奪より難しい」
「そのうちに慣れる。銀行に入れておけ」
「銀行にしてみれば大した額じゃない。心配だったら二~三行に預けろ」

「信二に四時頃電話したら、お昼頃親分が事務所に来て、物凄く不機嫌だったそうだ。幹部達と相談してる奥の部屋へお茶をもつていつたら、中国人・中国人といつていたそうだ。事務所の雰囲気が物凄く悪いといつていた。犯人は中国人と思っていると見て間違いない」
「思った通り警察には届けてない」
「皆お金取ってくれ」
「それから吾郎、和正。残りの金二~三日預かってくれ、二人の所はワンルームマンションでオートロックだから俺の所より安全だろう」
「構わないけど精神的に良くないな」
「分かった預かる」
「飯を食いに行こう、新一が腹減ったといつている」
 中華屋で飲み慣れないワインを飲み成功を祝った。その夜はホテルに泊まり翌日一度部屋に行き着替えて金を隠し会社に出た。一週間程して満夫から皆に呼び出しが掛かった。
「信二が東京に出てくることになつた」
「あのお金は取りあえず俺の名義にした。銀行に勤めている先輩がいて入学のときから面倒みてもらつていた先輩と相談して預けた。紀子の金も預けた紀子には話してある」
「信二も会社で言えば栄転か又楽しくなる」
「来た来た。信二栄転おめでとさん」
「行こう部屋を予約してある。和食の店だ個室を予約してある」
「高そうな店じやあないか。皆こんな店で飲み食いしているのか」
 予約はしたが皆も初めて入る店だった。玄関には下足番の男の人がおり手入れの行き届いた庭に面していた。繁華街にあるとは思えない静かさだった。若い彼らには場違いな感じがした。

「信二栄転おめでとさん。まずは乾杯東京に出て来た感想聞かしてくれ。それと、寝るとこ仕事あるのか」
「東京に居る兄貴が俺を呼んでくれた」
「上野の仲町通りに兄貴がホテトルをやつている。四軒位やつているらしいんだがその中の一軒で見習いをする事になったんだ
「そこに部屋がある。それより聞いてくれ」
「襲名披露の翌日から親分も兄貴達も機嫌が悪い。親分の家で当番してた奴らはたんこぶを作り指を詰めた。多分祝儀も寺銭も中国人にとられたと思う」
「そのお陰で会費が上がった俺で二万五千だ」

「何で皆ニヤニヤしている」
「信二よ落ち着いて聞いてくれ。あのお金な俺達が頂いたんだ」
「取られても警察には行かないと思ってやった。行けば立場がまずくなる面子があるからだれにもいえない。おかみさんは殴らず意識が朦朧とさせ中国語を覚えさせたついでにロッカーの中にあつた金もいただいた」
「三億六千万円あつた。皆で一人二千万円ずつ分けた残りは俺達が何か合ったら使う。商売してもいい」

「信二怒っているか」
「怒ってはいない。凄いよあんな少しの情報でやるなんて。満夫の計画で皆の行動力か」
「俺がヤクザになつたのは簡単な理由さ。皆には悪いが大して頭の良くない田舎での高卒では先が見えている。世間の奴らよりいい車。旨い酒。いい服装。いい女。そう思ったらヤクザしか無かった。勿論リスクも納得済みさ」
「今の親分には今の所、恩も義理もない。古い組なので関東では親戚だらけなので揉めても直ぐ話がつくから入ったんだ」
「だけど凄い。兄貴達は中国人を探している。東京で世話になる兄貴はこのけんについて一言だ」
「間抜け」
「後は何にも言わない。俺も薄々は泥棒に金を盗られたと思っていた。だけど皆だと思ってもみなかった。二千万円皆は何につかうか見当も付かん。俺も今度から東京だ。なんでもするぜ」
「信二。ヤバイ仕事はもう無しだ。盗られて警察にも言えない仕事何てそうないよ」
「仕事の話しは終わり。これで皆東京に揃った。時たま揃って飯でも食べよう」

 再び平凡な会社と部屋の往復の生活に戻った。しかし態度や心構えに余裕があった。浩二だけが親しかった自衛隊の人たちに連絡を取ったりアメリカ大使館に出向き色々調べていた。そして吾郎、新一、和正、健太に浩二から呼び出しがあつた。

「信二と満夫は呼んで無いのか」
「呼んで無い。二人は目標に向かって進んで居るから」
「話がある。一生を左右する事になるかもしれない話だ」
「話を聞いて辞めてもいい」
「アメリカに留学しないか」
「アメリカに留学って・・・俺、英語全然駄目だ」
「英語得意なのは吾郎だけだ。で、何を勉強するんだ」
「傭兵学校にいく。アメリカのノースカロライナ州に”ブラックバード”と言う傭兵専門の学校があるんだ」
「そこで下士官コースに行く十二カ月だ」
「俺は自衛隊をやめる時なんとかなると思った」
「食う為に取りあえず建設現場で働いた。その間に色んな会社に面接に行った採用通知も貰った。だけど何か違う。お金があるから商売でも使用と思っても何をするかさっぱり解らん」
「俺思うんだ。これから益々格差社会になると思う。一割の金持ちとまやかしの中流。大半は何とか生活している。ローンで小さな家を買って、子供の為に親は何でも我慢して、気が付いたらボロボロの家しか残らん。その頃には年金も貰えるかどうか解らん。俺は小さな家さえ買えるかどうか解らん」
「浩二。おんなじだ。俺の人生も先が読める。浩二の言ったとうりだ。夜中に目が醒めて考えると大声で叫びたくなる。俺の今持っている物はこの若い身体だけだ今の生活から抜けれるなら俺やる」
「俺もわかるだけどどうしたらいいか解らん俺やる」
「賛成の者は手を上げてくれ。皆か傭兵になるには、まず英語の読み書き。特に聞くことが大事だ」
「命令が解らないと死ぬか怪我をする」
「それとハードな訓練に耐える強靭な体力。精神力」
「下士官コースなので勉強・勉強。又勉強。予習復習は当たり前。それと十二カ月で六〇〇万円掛かる。衣食住、火薬、銃の弾全て含まれるけど」
「全部OKだけど、英語と勉強がたまらん。講義は全部英語なんだろう。どんなカリキュラムなんだ」
「アメリカ大使館で聞いてきたが、大雑把にしかわからなかつた」
「午前中訓練。午後講義。夕食後十時まで自習」
「下士官コースだと覚えることが沢山ある」
「マナー、一般教養。自分の部下を守ること。言ったらきりが無い」
「自衛隊にいた頃の友達で沖縄出身の奴がいて、沖縄に四〇〇年前から古武道がある。殺人技だそうだ」
「ブラックバードの入学は九月からだ。そこで体力付けて行きたい」
「そこで吾郎に先生になってもらい、英語を習う」
「来年の一月五日ぐらいに沖縄に行きたい。帰りは八月の半ばだ。よく考えろよ。六〇〇万円は大金だ家の頭金になる」
「いくよ東京とも一カ月程でお別れか。これから大変だと思うが何かとてもいい気分だ」
「今度逢うときは信二も満夫も呼んで話そう。それと親に何と言うか考えて来てくれ」
 気の早い商店街のジングルベルがかかり出したころ、七人はいつもの店に集まった。

沖縄へ

「満夫、信二も目的を持って頑張っている。このままだと俺達は潰れるそれで俺達も目的を持った。五人で沖縄に行き古武道を習いそのあとアメリカに行き。傭兵学校に行く」
「傭兵学校って卒業したらドンパチやるのか。怪我したり死ぬかもしれないんだろう。偉い事考えたな。この平和呆けの日本で。そんな事考えたの五人だけだよ」
「傭兵学校には行く。その間に色んなこと考える。色んなことが出来るようになると思う」
「分かった自重してくれ。則道で沢山だ怪我しても足や腕が無くても帰って来い」
「わかったありがとう。親の言い訳考えたか」
「沖縄の米軍の基地に勤めて英語を勉強する事にしたから、しばらく沖縄に行く。これでいい」
 勤めている会社に今年いつぱいで辞めることを伝え、アパートも出ることを伝えた。要らない物は全部捨てた大事な物は実家にもっていった。正月を実家ですごした五人は親達を説得するのに苦労したが、何とか認めてもらった。一月三日に全員が集まった。

「俺達の新しい人生が始まった。後戻り無し前進のみ勉強も訓練も大変だと思うがポジティブで行くぞ」
「新一えらい張り切りようだ。最初から飛ばすな後で参るぞ」
「俺考えたんだが俺達で会社作らないか。俺達もう直ぐ住所不定無職になる。今なら印鑑証明が取れる」
「いい考えだ。資本金はあのお金を使おう。明日仕事始めだ。印鑑証明は満夫に預けて行こう。会社の名前だどうしますか」
「EITO興産。俺達八人だ。則道の子供が居る」
「悪く無い。俺賛成。皆か決まり」
 翌日役所に行って印鑑証明を取り、自炊なので炊飯器を買った。請求書を送って来る所が無くなったので、満夫に携帯を一台買ってもらった。軽く夕食を食べ明日は見送りは要らないと伝え別れた。翌朝飛行機に乗ってから顔から笑顔が消え、これかの八カ月の厳しい稽古。そして英語の勉強。何としても耐える。俺だけが落伍者になるわけにわ行かない。俺ならできるそんなことが頭の中で渦巻いていた。そんな中、浩二だけがノートにボールペンを走らせていた。

「着いた東京より暖かい。これからバスだ南城市という所に行く。それからフェリーに乗り十五分位で神の島久高島につく。そこに道場がある」

「島に着いた。この島周囲八キロしかない。神が最初に降りた島で土地は誰の物でもないと書いてある」
「ここだ。だけど屋根しかない藁ふきか草ふきだ。床ははつてある」
「俺達にはふさわしい。屋根が台風で飛ばされても直ぐなおせる。先生の所に行こう。先生東京から来ました」
「来たか。上がれ。言って置くことがある。八カ月しか居られ無いとの事だが覚えるのに早くて。四年は掛かるそれで。相手を倒す技だけ教える。それと防御。それで良かったら教える」
「先生それで十分ですよろしくお願いします」
「家を借りて置いた。電気、水道、ガスいれておいた。今日は要る物の買い物掃除をし、明日の朝からにしよう」

「掃除道具も何にもない。まずは買い物。フェリー乗り場の所にスパーがあつた。今日から先生にも食事を出す。なんぼ沖縄でも夜はまだ。寒い寝具あるといいな」
「時間割りを言う。五時から七時までランニングおよび体操。七時から八時、朝ご飯。八時から十一時訓練。十一時から十二時昼飯。十二時から三時訓練。三時から五時英語の勉強。六時から十時英語の勉強。質問あるか、無ければこれで行く」
「日曜日はどうする」
「身体を休めよう。英語の勉強は各自自由」
「このスケジュールきつくないか」
「皆に言っとく。傭兵学校に行けば倍の訓練を受けて倍の勉強になる。火薬。銃。地図の見方。弾道学。下士官としてのマナー。一般教養。数え上げたらきりがない。下士官になろうと言う奴はみな優秀だ。官費でくるやつもいる。特に優秀だ。国に帰れば将校だ。アメリカ大使館員の話しでは十一時まで皆勉強しているそうだそんな所に俺達は行く。使い古した言葉だが日本人だ。大和魂で行こう。恐らく日本人で前も今後も入学する奴はいないだろう。俺達で”ブラックバード”に伝説を作ろう。小学校からずうっと良いことも悪いことも助け合って来た。俺達なら出来る」
「後戻り無しだ。前の生活には戻りたくない。俺は日本人だ。外国人には負けたくない。おそらく条件はおんなじだ。日本人の優秀さを見せてやる」
 
 沖縄での初めての夜。これからの訓練の過酷さと勉強に付いて行かなければならない事に思いをめぐらせ、なかなか寝つけなかった。

「皆沖縄に行くと決めた時から走り込んだな。今朝もう八キロ走った。少しずつ増やそう。四カ月後には三十キロ位背負って走ろう」
「君たちの走りを見せてもらった。いい走りだ。二カ月は基礎体力と形を教える。これをしっかり覚えないと怪我をする」
「二カ月後から殺人技を教える。何せ八カ月しかない。受け身と殺す技だけ教える。この技は心構えしだいで殺人鬼にもなる。心の鍛錬も忘れるな私が教えるわけにわ行かない。君たちで技も心も磨きなさい」

 若いだけに武道の鍛錬、走り込みには皆は難なく付いていつたが、英語の勉強だけはかなり苦労していた。書くことより読む事、聞くこと、喋ることをに重点的に勉強した。そんなとき満夫から電話があつた。

「今月の末に紀子の結婚式がある。豚松も親父も妊娠に大喜びだそうだ。だから結婚が早くなった。信二も頑張っている。そっちはどうだ」
「身体力的には問題ない。英語だ。皆は昼間の倍疲れるといつている。だがなんとかなる」
 沖縄に来て四カ月がすぎようとしていた。来たときは長袖シャツだったが、半袖シャツでも汗ばむ季節になり、周りの景色も花が咲き緑が多い季節になつていた。海開きも終わり海水着姿の若者達の姿が多くなった。

「吾郎、俺達の英語どうよ」
「まだまだ読む方は七十点。喋る事、聞くこと五十点。あと発音が悪いから聞き辛くなる。残り四カ月しかない。今日から先生に喋る事以外、全て会話は英語にする。破ったら罰を与える」
「罰ってどうするんた」
「皆で決めよう面白い罰を」
「吾郎から話しがあつたように。後四カ月しかない明日から三五キロ背負う。懸垂も二〇〇回二カ月後には四五キロ背負う」
「腕立て伏せ三五〇回やる。四五キロ背負って、一日四十キロ歩く。これはどこの国の軍隊でもやつている」
 贅肉が落ち、頬もこけ引き締まった身体になり、日常生活も機敏になつていた。
「皆居るか」
「居るな。フェリー乗り場で馬鹿が騒いでいる。この島には警察は居ない。行っておとなしくさせてこい」
「怪我はさせるな」
 フェリー乗り場に行くと五~六人が火を炊いて焼き肉をしていた。かなり酒に酔っているみたいだった。
「ここは焼肉をするところじゃない。火を使うのは禁止されている。浜辺でやってくれ」
「何だ島の青年団か。五月蝿いこと言うな。俺達はここが気に言っている」
「水持って来たから、かけろ」
 水をかけたため灰が舞い上がった。と同時に若者達が浩二達に飛びかかったが、軽く受け流し、一撃で地面に這わした。
「きれいに片付けろ。宿に帰って寝ろ」
「今度騒いだらもっと痛い目を見ることになる。お前たちが島を離れるまで見ているからな」
「浩二俺強くなつたのかな。相手の動きが読めた。これも練習の成果なのか」
「勿論練習の成果さ。新宿や六本木に居る兄さん達と喧嘩しても負ける奴は居ない。だが軍には居る。ここでしっかり技を覚えて、そいつらをブチノバス」
 沖縄の海開きは早い。海水浴客も大勢来るようになり、日中は三十度を超す気温が続いてすっかり夏の気候になつていた。
 浩二達はあい変わらず重い荷物を背負い走っていた。沖縄に居るのも残り二カ月程になつていた。
「明日の朝からナイフの使い方を教える。日にちが少なくなったこういう時が気が緩み、怪我をする。気を引き締めろ」

「吾郎、俺達の英語上達しているのかな」
「かなり良くなった。書くことは七十点。読む事は九十点。聞くこと七五点。喋る事六七点。発音がまだまだ。慣れだからアメリカにいれば旨くなる」
 満夫からパソコンにメールがあり。紀子が男の子を出産し母子とも健康な事。豚松が仕事をしないため、紀子が殆ど養豚業を見ている事。信二が兄貴から一軒任され、張り切って仕事をしている事などが書いてあり、皆も頑張っているので、俺も学部では無く卒業生の仲で一番で卒業する。怪我に気をつけてくれ、あう日を楽しみにしていると結んであった。

「ナイフの使い方は今日で終わる。後四十日しかない。明日からはおさらいをする」
 海水浴客達で一杯の中を、五人は荷物を背負い毎日四十キロ程走った。全員食べても食べても肥ることが無く、贅肉は全く無かった。

「皆後十日で先生ともお別れだ。先生に何かしてあげたいけど何がいいかな」
「お金は失礼になる。こんなのはどうだ。道場の屋根を吹き替えしないか。かなり傷んでいる」
「それはいい考えだだけど島に屋根を吹き替える職人居るかな」
「明日隣のおばさんに聞いて見るか」
 先生に屋根の吹き替えの許可を貰い、吹き替えをする事になった。
「この島の男のお年寄りは全員屋根吹き替えが出来るそうだ。昔全部の家が茅吹きだつたから助け合って吹き替えしたそうだ。吹き替えは口実で終わった後の宴会が楽しみ何だそうだ」
「盛大にやろう宴会には島の人全員呼ぼう。分担してやろう」
 三日後に屋根の吹き替えと言うか宴会と言うかをやることにした。
「明日だ。料理の方は近所のおばさんに頼んだ」
「豚二頭。野菜の煮物」
「子供が来ると思うので、菓子やアルコール以外の飲み物がいる」
「泡盛もどれだけ買えばいいかサッパリ解らんから、瓶五個。足りないと困るのでビン三十本おばさん達に二十万円渡してある。豪華な宴会になるといつていた。食器類は島の会館にあるのを借りる事にした。以上」
「吹き替えの方は材料を搬入する人と屋根を剥がす人にわかれ。二時頃には終わるそして宴会」
「明日はお世話になつている島の人達に飲んで食べて貰い、俺達も楽しもう」
 翌日、平屋なので仕事がはかどり二時前に終わった。
「さーあ、宴会だ。島の人達も集まって来た。太鼓や蛇皮線(サンシン)もある賑やかな宴会になる。子供達にお菓子や飲み物を配ってくれ」
「沖縄の人達は酒強いな。泡盛グイグイ飲んでいる」
「料理が美味い。何ヶ月振りだ。こんな美味しい物食べるの」
「仕方がないよ俺達が変わりばんこで飯作ったんだから」
「踊りが始まった。吾郎俺達も踊ろう」

「瓶が五つ無くなった。凄い。電話して持って来て貰おう。後三甕あれば良いだろう」
 二時頃から始まった宴会も、酔い潰れた先生を背負って部屋に戻した七時頃、宴会が終わった。

「明日で君たちともお別れだ。この八カ月私はとても楽しかった。まだ教えることがあるが残りは大したことは無い。重点的に人を倒す技と守る技を教えた。アメリカの傭兵学校に行くそうだが。格闘技では無敵だ。日本人ここにありと示してやれ。この技を覚えた以上、心の鍛錬を怠るな。君たちは優秀な生徒だった。私の代でこの技も終わりかと思っていたら君たちが来てくれた」
「ありがとう。明日は見送りに行かない」

 満夫に明日羽田に着く時間をおしえ、日本に居る間に紀子と子供に会いたいと伝えた。
「先生に何かお礼がしたい。何がいい」
「お金は失礼だと思ったが先生は余り豊かでは無い。みたいだお金がいいと思う。健太幾らある」
「チケットは買ってある。一〇万円残して八五万円ある。電気水道は明日止まる。先生に頼んでその中から払って貰おう。浩二行ってきてくれ」

 翌朝、先生に挨拶とお礼をいい、桟橋に向かった。
「島の人達見送りに来ている」
「嬉しいな」
「皆さんありがとう。皆さんのことは忘れません」
 那覇空港から羽田に向かった。機内では全員が直ぐに寝た。無駄な事をせず寝れる時に寝る。この八カ月身に付けた事だった。
「満夫もが信二も居る」
「ただいま全員怪我もせず。無事に帰って来ました」
「皆偉い変わりようだ。顔着きが変わった」
「新一ポッチャリ体系でなくなってる。贅肉が無い」
「毎晩吾郎にいじめられた。罰まであるんだ痩せる思いで八カ月いた。満夫。信二。吾郎には友情とか情け何て無い」
「じゃあ英語かなり上達したな。上野にホテルを取ってある行こう」
「紀子は二、三日の内に会える」

 久しぶりにあつたので話が弾んだ。
「信二、仕事任されているんだつて」
「東京の女性は信用出来ないよ。昼間は良い会社に勤め、夜は金を取って男と寝る。何にも悪いと思ってない」
「信二、東京の生活に負けているのさ。余りにも自分の生活と世間のギャップに開きがありすぎる。俺達だってヤバイ傭兵学校に何て行きたくない。前にも言ったが世間の人達より良い生活をしたいからやるのさ」
「俺が女だったら若い身体しか持ってないだったら、若い身体を切り売りする。だが男だ。若い身体を傭兵学校の下士官コースで学び、良い給料を取るのさ」
「戦場に行ったら、殺すか殺されるか、それしかない。殺した相手にも親兄弟いや女房、子供が居るかもしれない。だがこれが現実だ。満夫。信二深刻な顔するな。飲もう」
「傭兵学校卒業したらドンパチやるのか。多分アメリカだから中東にいくぞ。新聞に出ていたが女性子供老人どれが敵か民間人かわからないそうじやないか皆行くのか」
「まだ決めてない。皆と話したんだが、習ったことを試したくなる。そん時決める」
「両親に言うのか」
「そんな事言ったら駄目にきまつている。そこで満夫に頼みがある」
「きちんと英語を覚えるには矢張りアメリカで学ばないと駄目だ。満夫の先輩がアメリカにおりアルバイトと住むとこを学校を世話してくれる。アメリカの生活は心配ないと言ってくれないか」
「明日皆家に帰る。三時頃家に着くようにする」
「明後日早めに家をでよう。長居するとボロが出る」
 家に帰って高卒じゃあどうしょうも無いので英語を勉強して、外資系の会社に勤める。それにはアメリカの学校に行かないと駄目だ。アメリカは広い方言が沢山ある。日本では方言を教えてくれない。アメリカには満夫の先輩で東大卒の人が世話をしてくれるだから心配無いと苦しい言い訳をし朝早く家を出た。
「説得するのにエライ苦労した。だけど田舎は東大卒は大したもんだ。渋々賛成してくれた浩二は」
「もう一日泊まる。何か用事があるそうだ」

 習慣で朝の五時に目が覚めたので、ホテルの前にある上野公園と不忍池の周りを十周した。それを見た人達は何をやつているアスリートなんだろうと見ていた。
「今日紀子が来るお昼頃になる。春日屋を予約した」
「浩二話がある。市役所の課長、いまは部長か。やったの浩二か。朝テレビのニュースでやつていた。右肘から切断。左足膝から切断と言ってた」
「済まん俺だ。アメリカに行けば一年は戻らない我慢出来なかった。前日帰り道を調べて襲った。石で頭を殴り気絶させ、右肘と左膝を石で殴った。誰にも見られていない。自転車を盗んで二っ先の駅から電車に乗った」
「一人の方がリスが少ないと思って。勝手なことして済まん」
「俺達仲間で親友で戦友にもなる。何でも話し合って行こう」
 浩二の話を聞いて皆は何か忘れ物があるような、もやもやしていた気持ちが無くなった。
「浩二。俺達に合う下着や訓練服。あるのか無ければ買いに行こう」
「学校の中に大きな売買がある。世界中から来るのでサイズは豊富だそうだ」
「それに戦闘服は支給される。靴もだ食事だが世界中から来るので豚を食べない奴。牛を食べない奴。色々なので自分達で作ってもいいそうだ。それと金は沢山持ってくるな。トラブルの元になると言われた」
「日本円で三十万円位で良いだろう」
「学校に着いたら買うもんがかなりあると思う。無くなったら学校に送れば良いそうだ。全員同じ部屋にしてくれと頼んだらOKが出た」

「そろそろ紀子が来る。紀子と別れたら買い物に行こう」
「信二、仕事休んだのか」
「兄貴に許可貰った。今日から一年皆と逢えない。兄貴びっくりして感心してた。今の若者にしていい根性だ珍しいいい友達を持った。お前も頑張れと言われた。春日屋だ入ろう」

「何よ皆の身体。引き締まった顔。すっかり変わった」
「アメリカに行くんだって。傭兵学校だって。怪我しても帰って来てよ。則道さんだけでたくさんだからね。私二人で頑張るから」
「皆抱いてやって」
「可愛いな紀子。俺達アメリカに行くけど、満夫も信二も居る。一人で悩むなよ。話しによっては俺達アメリカから帰って来てもいい。紀子も俺達も切磋琢磨して頑張ろう。全員元気で日本に帰って来るから」
「ありがとう私負けないから。そろそろ帰る。この子の健康診断と言って出てきたから。皆が居ると思うと二人で頑張れる行くね」

「紀子も帰ったし秋葉原に行こう」
「欲しい物がある。太陽電池で動く電波時計。時間に遅れると軍隊では降格になるそれと衛星携帯電話。それと映像が出るパソコン」
「後。欲しい物あるか」
「炊飯器と薬色んな薬。アメリカのやつは日本人には合わないかもしれない」
「満夫も信二もパソコン買え。同じパソコンでないと意味が無い」
 秋葉原の電気街で買い物をし、ドラッグストアで一年分の薬を買った。銀行に寄って各自百万円を下ろし、お金が要りよううになったら送ってもらう事にして満夫に預けた。
 健太が、池袋のデパートで関の刃物展をやつているんでポケットナイフが欲しいと言うので、池袋に行きポケットナイフを買った。日本で最後の夜なので日本食を食べる事にた。

「俺はまだ皆が傭兵学校に行って、ドンパチやるなんて信じられないよ」
「信二何を言っている。お前がヤクザになるといつたとき俺達信じられなかった」
「満夫これで皆目標を持った。俺達五人はアメリカで頑張る。五体満足で一年後帰って来る」
「信二、長い勤めなしだ。約束してくれ」
「満夫キャリアの試験受けて小さくまとまるなよ。俺達の星だ」
「皆相談がある。満夫が大学院に行くならあのお金使って貰おう」
「それはいい考えだ賛成」
「ありがとう。あんまり俺を買いかぶらないでくれ。約束する。学部では無く卒業生の中で一番で卒業する。俺と信二でどんな事でもフォローする。言ってきてくれ。紀子のことは二人で相談しながら見守る」
「兄貴が親分に当分俺を預かって仕事を仕込むと言ってくれた。兄貴はまだ一度も刑務所にいつてない。行く奴はバカだといつている。兄貴と俺は同じ匂いがするらしい」
 明日は朝が早いので見送りは要らないと言って別れたホテルに戻り各自荷物を点検し新たな出発にそして彼らの夢に向かった。。


傭兵学校へ

 成田空港で円をドルに替えるとき「金額が大きい」と言われたが、留学の入学金と言って入学証を見せたらドルに変えてくれた。これから十何時間も乗るのだから寝ようと思っても寝れなかった。
 沖縄であんなにきつい訓練をして来た俺なら出来る。絶対皆の足を引っ張ることはない。俺だけが落伍者になったらどうしよう・・・そんな事の堂々巡りをしていた。それでも無口と退屈で七時間程立った頃、五人は寝た。
「随分寝た。あと一時間程でニューヨークだ。腹減ったが、機内食はいい」
「ニューヨークでアメリカでの最初の食事をしよう」
「俺、豆とポテト。ステーキ・アメリカの定番」
 アメリカの上空になつてから、数時間前の不安は消えていた。俺ならできる!やり遂げられる!にかわつていた。世界中から来るらしいが日本人の優れた所を見せてやる。俺達は一番で卒業だ!。

「バスに乗るあれだ」
「吾郎、間違い無いだろうな」
「任せろ。ガイドブックに出ている。何回も読み直した。俺達の泊まるホテルの前に止まる」
 チェックインを済ませ部屋に荷物を置くと、直ぐ食事に出た。
「ここだステーキが美味いと。ガイドブックに出てた。高そうな店だが入ろう。アメリカで初めての食事だ」
「英語が試される。通じてくれよ」
「サラダ。ポテト。豆。ステーキ。ワイン以上皆同じ物」
「新一バッチリだ。まずは乾杯しよう」
「俺達のアメリカでの成功を」
「乾杯」
「乾杯」

「どうなつているんたこの量。」
「一つの皿で皆が食べれる。ステーキを見ろ半分がやつとだ」
「食べながら聞いてくれ」
「これからが俺達の体力、運、チームワークが試される」
「日本で皆と話したように、十%の金持ちと四十%のまやかしの中流。五十%の下流生活者。これから益々格差社会になる」
「俺達は傭兵学校を一番で卒業する。必ず運が開ける絶対十%の中に入る」
「それから注意する事がある」
「アメリカに行くと決まった時本など買って勉強したと思うが、人種差別のような話しは禁句だ」
「宗教も同じだ。否定や馬鹿にすると殺し合いになる。俺達はイエローモンキーと言われ、差別される可能性がある。言葉が解らないふりをして相手になるな。訓練や格闘技で思いしらす」
「日本人は白人から格下に見られる」
「明日の早朝バスに乗ってノースカロライナ州に行く」
「ノースカロライナ州は農業とインディアンの州だが。この五十年ニューヨークに継ぐ金融の州になつている」
「七十%が白人でキリスト教だ」
「四カ月もしたら一目置かれるようになろう」
「日本人の優秀さを見せてやる。アドレナリンが出て来た」
「四カ月程したら、一目置くどころか尊敬させてやる。浩二、任せなさい」
「そんなに最初から飛ばすとバテる。徐々に行こう」

「アメリカは自由・平等・民衆主義の国だろう」
「それは権力者と金持ちだけだ。本音と建て前は違う」
「新一お見ろ全部食べた」
「大きい奴に勝のはまず食べて体力を付ける」
「あそこのウエイレスを見ろ。背は高いし。胸も尻もでかい」
「食べて体力を付けないと。ヤンキーレディにも負ける」
「ところで、何でバスに乗るんだ。レンタカーじゃ駄目か」
「外人になれるためだ。それと英語で隣の人と話すためだ。訛りに慣れるためにも、大いに話そう」
「明日は早い。乾杯してホテルに帰ろう。俺達の未来のため全員怪我も無く日本に帰ろう。乾杯」
 
翌朝、軽い朝食を食べノースカロライナ州に向かった。

「大きいな。ニューヨークと変わらん。どのビルも高い」
「空港でも思ったがここも。人種の坩堝だ」
「吾郎、間違い無いのかこの道」
「任せろ。この道を行くと左りにある」

「ここだ。でかいビルだ。ブラックバードと書いてある」
 受付へ進んだ吾郎が、受付にすすんだ

「日本から学校に入るためにきました」
「そこの部屋でお待ち下さい。係の者がきます」
「遠くの日本からよくきました」
「言っておくことがあります」
「訓練はとても厳しいです。特にあなた方は下士官コースです。訓練と勉強がキツイです」
「毎年、下士官コースには四百人入学します。その内三二%途中でが辞めます」「当校の授業料が高いです。今ここでやめても恥ではありません」
「皆さん全員入学ですか。では費用を払って下さい」

「ようこそブラックバードへ。頑張って卒業して下さい」
「オフィス前の停車しているバスで、学校へ案内します」

 バスに二時間程乗って山の中の学校へ着いたが、途中に建物がなかった。

「遠い日本からよくきた」
「私が一年間君たちを指導する軍曹マイクハワードだ」
「ここはアメリカ軍とおなじ訓練と規律で運営されている」
「規律に反した場合は不名誉除隊もある」
「特に君たちは下士官コースだ。学ぶことが兵隊より多い」
「下士官としてのマナー、部下の安全・・・兵の倍以上ある」
「訓練の後勉強しなければならない。君たちは特別に十一時まで勉強する事を許可されている」
「今から学校内を案内する」
「ここが君たちの部屋だ。私物はそのロッカーへ。鍵は必ず掛けろ」
「次は食堂だ」
「壁の注意書をよくおぼえろ。後で注意する事を書いた本を渡す」
「行くぞ要る物を渡す。迷彩服。帽子。靴。二着ずつある。足り無ければ隊内のショップで買える」

「ここは君たち以外に。一~二カ月で再訓練を受けて出て行く者がある。不名誉除隊者。なんらかのトラブルをもつている者。そいつらには構うな。今日、明日はお客さんだからのんびりしろ。自由に学校の中を見ておけ」
「明日の朝グランド走っても良いですか」
「許可する。以上」

「ベッドが十二ある。俺達の他に来る奴がいるな」
「小隊は大体十二名だ。来てもおかしくない」
「この本キツイ事書いてある。規律だらけだ。何でも採点の対処になる」
「ベットメイク。靴の汚れ。ロッカー内の整理整頓。服装の乱れ」
「特に戦闘服は毎日洗濯して置けと書いてある」
「喧嘩をして相手に怪我をさせたときは、地元の警察に通報する事がある」
「上官に逆らったり口答えしたら営倉に入れられる」
「規律、規律だらけだ。一年持つかな」
「健太。大丈夫普通にやればいい」
「一ヶ月もすれば身体が覚える」
「自衛隊も似たようなもんだ」
「戦闘服はもう一着あつたほうがいい。明日買おう。靴下も足りない。洗濯は当番を決めて毎日洗濯しよう」
「夕食を食べに食堂にいこう」
 何もする事が無いので早めに寝た。翌朝は習慣になつているので五時頃には目が覚めグランドを一時間程走った。
「食事は悪くないどころか、美味しい。さるがにアメリカだ。学校もグランドもでかい」
「学校とグランドは私有地だが、演習地は国有地だから、入ったら木の枝一本折ってはいけないとガイドブックに書いてあった」
「右の山は木があって緑なのに、左りの山は木一本生えて無い」
「でかいな、これがアメリカか。全部国から借りているんだ」
「あの山で訓練するんだろうな。四百人の生徒が、登ったり降りたり、走ったりするんだ」
「見ているとむしやぶるいがして来た」
「浩二、入学する時に説明されなかったけどこ、ガイドブックによると特別コースがあるみたいだ」
「ノースカロライナ州に第八八空挺師団があり、別料金で訓練が受けられる」
「俺は行きたいが、皆どう思う」
「皆賛成か」
「これは無事に卒業してからの話だ。まず卒業だ」


過酷な訓練

「軍曹に敬礼」
「明日の朝グランドを走るな。これからイヤになるだけ走る」
「いい走りをしている。一年間楽しみだ」
「下士官コースの者だけは〇五三〇時(まるごさんまるじ)、起床」
「洗顔ベットメイキンクの後〇五四五時、グランド集合」
「ストレッチ、駆け足。〇七〇〇時朝食」
「〇七四五時、グランド集合」
「朝は一年間変わらない」
「敵は雨や雪がでも攻撃を止めることはないから、朝は冬でも上着を着用しない。天候気温にかかわらず上着を着ずグランドに集合」
「以上」

「明日の早朝から気合いを入れて行こう」
「吾郎。軍曹の指示がよくわかる。英語はこんなもんか?貰った本も読めた」
「いや、俺たちにもわかるようにゆっくり喋ってくれている」
「俺達の語学力を試しているんだ。訓練の時はだみ声で、早口になるだろうが、慣れるからそう心配しなくてもいい」
「晩飯を食いに行こう。帰ったら靴の手入れを教えるよ。自衛隊もアメリカ軍も靴の手入れは変わらんだろう」
 靴の手入れをしたら何もする事が無いので、早めに寝た。開き直りと少しばかりの自信が彼らを寝かせた。

 翌朝グランドに整列して校長のスピーチを受けた後、訓練担当の将校がステージに上った。
「私が君たちを一年お世話するマイケル中野大慰だ」
「我々は毎年四百ほどの入学を許可しているが、約三十二%の生徒が途中で退校している」
「訓練と勉強がきついが努力するように」
「隊をА隊二百名。Β隊二百名に編成する。更にA、B各隊とも宿舎の部屋単位で小隊とする」
「各小隊は班長を決定し、一七〇〇時に軍曹まへ届ける」
「学習訓練期間内は体調不良を含めすべての指導担当の軍曹に相談する事」
「全員が無事に卒業できることを願っている。以上」

 午前中は行進とグランド走。午後は学習内容と学校での注意点を教えられて一日が終わった。
「浩二。行進と体力付けるのどれくらいかかるんだ」
「一カ月。行進が駄目だ。A隊もB隊もバラバラだし、体力が無さ過ぎる」
「行進すると言うことは隊の中で一個の歯車になることだ。だから軍では徹底的に行進をする。個人では無く隊の歯車にするんだ」

 緑が眩しかった山の木が色着き始め、暑さも和らいで来ていたが、A隊もB隊も厳しい訓練の為季節の移り変わりなど目に入らなかった。
 そんなある日、指導軍曹から夕食後に部屋で待機するよう指示された。
「皆いるか」
「全員居ます」
「今夜からこの二人が同室になる。仲良くしてくれ」
「各々で自紹介してくれ。以上」
「俺の名はアレティーノ」
「ミケレツト。アメリカ国籍だがイタリア人だ」
「オヤジが野球好きで、小さい頃からストライクと呼ばれている。ストライクと呼んでくれ」
「オヤジはニューヨークでマフィアのボスをしているが、俺がチンピラにナイフで脅されて小便チビったのを見てここに放り込んだ。よろしく」
「私はハーティル。アバカールと言います。国は今言いたくない。子供のころテルと呼ばれていました。テルと呼んでください」
「夜中に穴を掘られそうになり軍曹に話したら。ケツ日本人はその習慣がないと言って部屋を変えてくれたテルもそうだといつていた」
「なる程それでベッドを開けてあるんだ」
「二人に話して置くことがある。俺達の小隊はどんな事があっても卒業し、何でも一番で卒業する。しっかり覚えて置いてくれ」
「偉い小隊にきたな。頑張るよ」
「陽気な人と真面目な人。皆で助け合って行こう何でも相談していこう」

 この二人となら楽しく過ごせそうだ。と五人は思ったまだベッドが空いて居るので人が増えるだろうと思った。小隊としては人数が少ない。
入学してから二カ月が過ぎようとしていた。ようやく身体が時間割になじんだ。それと訓練にも身体が付いて行くようになった。

「浩二いつになつたら銃撃てる。。おんなじ事の繰り返しで飽きて来た」
「ようやく隊列も揃ったし、体力もついた。今背負っている荷物は十キロ程だ。もう直ぐフル装備で二十キロ程になる。その時銃も支給される。弾はその後だ」
「訓練もきつくなるが勉強がもっときつくなる。弾道学。気象学。医学」
「特に地図の見方を徹底的に仕込まれる。迷子になったら部下の命も危ない。その外火薬。無線機の修理。陣地の作り方。国際法。上げたらきりがない」
「今でも俺達全員十一時まで勉強しているのにたまらん。来た以上頑張るしかないか」
「今日から背負っている荷物を増やす。銃も支給する。この砂袋を入れてこれを着ろ」
「チェストリグだ(カトリッヅ小型無線機。緊急キット。などいれるポケットがたくさん付いているチヨツキのような物)鉛の板を渡す。四枚」
「カートリッジ(弾が二三~四二入っている)のかわりだ」
「お前たちはB隊に七日程遅れている。日にちを取り返す」
「今日は山登りを二周する。小隊ごとに行け。小隊の仲間が倒れたら背負ってでも二周しろ」
「ゴー。ゴー」

「荷物が重くなって行きなり二周かよ。午後の勉強がこたえる」
 日に日に訓練がキックなり午後の勉強も難しくなっていった。
「今日も終わった。洗濯当番だれだ?ストライクか」
「靴俺か磨くだせ」
「新一飯随分食べるようになった」
「訓練が食べさせる。ここでは食べる事だけが楽しみだ
「軍曹だ!気をつけ!」
「日本から荷物が届いている。個々にサインしろ」
「満夫に英語の辞書と、俺達が使っている腕時計を送ってもらった。ストライク。テル使ってくれ俺達は親友で戦友だ。これからも助け合って行こう」
「この学校に来るのも大勢の仲間が金を出してくれた。前にもいつたが独裁者を倒す為に勉強に来た。この学校で一生の友に会えるとは思わなかった」
「テル泣くなその涙は革命が成功するまで取って置け。俺達もその時は一緒に行く。武器を買う金も皆で考えよう」
「軍曹の部屋の前の告知版に書いてあつた。俺達もやつと銃が撃てる」
「ストライク撃ったことあるのか」
「拳銃も銃もあるが、サッパリ当たらん。テルはあるだろう」
「正式に教わって無いが何とか当たる。楽しみだ」
「満夫のメールによると、紀子が先週男の子を産んだ。二人とも元気だそうだ」
「それと、皆の家族に傭兵学校に居るのがばれた。何とか満夫が誤魔化してるが自信がないといつていた」
「怒られても仕方がないよ。嘘付いて来てる」

 山の木々もすっかり色着き、だいぶ涼しくなつてきていた。
「お前たちはどこを見て撃っている。目弾おかしいんじゃないのか」
「B隊はもう速射を始めてる。動かない的だよく見て撃て」
「止め。その場で腕立て伏せ二百。始め」

「当たらんな。和正とテルだけだ。この銃、欠陥あるんじゃないか」
「そんな事無いか。和正は良い腕しているよ。天才だな」
「軍曹が躍起になるのよくわかる。軍曹のA隊は二年続けてB隊に負けているそうだ。それと日頃の訓練結果を見るため、近い内にA隊とB隊で一番長い所を走らすようだ」
「長い所って山登り三つあるやつか」
「恐らくフル装備で走らすんだろう。たまらんな」
「二五キロ担いで三十キロ走るか・・・」
「よーし一番になつてやる。そろそろ俺達の小隊の実力を見せてやる頃だ」
 
 秋も深まり木の葉も落ちだしていた。勉強もかなり難しくなつていた。新たに国際法、弾道学などかなり専門的になつていた。国際法など専門用語が沢山出て苦労していた。
「昨日伝えたが今日は日頃の訓練の結果を見せてもらう。今まで一番良いタイムは三時間四六分だ。このタイムを超えろ。小隊全員がゴールしなければ到着とは認めない。仲間同士で銃や荷物を持ってやるのは自由だ」
「合図と共に一番前に出る。道が狭いので抜くのか大変だ。」
「ストライク疲れたらいつてくれ。荷物持ってやる。遠慮するなよ皆もだ」
「前の方に行こう。よし行くぞ旨くいった」
「一番前だ。スピード落とそう後半が持たなくなる」
「良い話を聞いた。去年の優勝小隊は二日間の外泊許可が出た。俺達も優勝して外泊許可をもらおう」
「優勝してニューヨークに行こう。ニューヨークの夜を楽しもう」
「任せろオヤジはマフィアのボスだ。俺の父親にも会ってくれ。女の子と楽しもう」
「ストライクの話を聞いたら、何か足が軽くなった」
「ニューヨークに行きたいが、後ろの小隊となんぼも離れていない」
「後ろの小隊はB隊の奴らだ」
「大丈夫だ一番の山の下り坂だ。このままの走りなら離せる」
「二番目の山の登りではかなり離している」
「しかしでかい。何時も思うんだが見渡す限り岩だらけの山の、隣に森林があるなんて凄い」
「二番目の山の頂上だ」
「二分休憩」
「水分補給しよう。沢山飲むな」
「これからスピードが落ちる。敵もおんなじだ。」
「行こう。ニューヨークで女の子と遊ぶ事だけ考えて走ろう」
 キツイ走りだったが、秋も終わりにちかずき涼しく、また曇り空が救いだった。
「三番目の頂上だ」
「皆大丈夫か。ストライク銃持とうか。荷物分けて持とうか。遠慮するなよこれからイツキに駆ける」
「三時間四六分を更新する行こう。あと三十分もすればこの訓練も終わりだ」
 浩二の小隊は走りに走った。ゴールの前では偉いさんに混じって軍曹の笑顔があつた。
「一番だ。一番だけど足がガクガクだ」
「よくやったタイムが更新した。三時間四十分だ。六分更新した凄い事だ。当分破られない」

「午後の授業勘弁してくれないかな。俺眠くなって身に付かない」

「今日の洗濯当番だれだテルか。靴出しておけ」
「テル元気が無い始めての外泊だというのに」
「皆テルは国で大勢の人に授業料出してもらつたといつてた。お金が無いかもしれない。俺達で金カンパしないか。一人百ドルでどうだ」
「テル。革命家に俺達からカンパだ。皆で勝ち取った一番だ。ニューヨークを楽しもう。俺達は戦友だ。気にしないで受け取ってくれ」
「わかった遠慮無く使わしてもらう」
「これが外泊許可証だ。ニューヨークに行くのか?アホが居るところに行くなよ。楽しんで来い」
「飛行機を予約してある。十一時頃にニューヨークに着く」
「明日よ早く来い」
「オヤジにあつてくれ。そしてパーティーだ」
「オヤジの別荘に行く。女の子を呼んでまたパーティーだ。次の日は、俺の知ってる店で昼飯を食う」

 小学生の遠足のように、皆ははしゃいでニューヨークに向かった。
「ストライクの家ってこれ。城って言うか。お屋敷って言うかだろう」
「アメリカがイギリスの植民地時代に、イギリスの貴族が建てた。ニューヨークの無形文化財に指定されているんだ」

ハーイ、パコ元気か」
「はい元気でおります。お父様も皆さんもお待ちです」

「お父さんただいま。僕の大事な戦友を紹介するよ」
 紹介が終わり広い庭にでると、バーベキューコンロを囲んで四十人ほどの男と十人ぐらいの女性がいた。
 ストライクの顔つきと贅肉の付いていない体、何よりも立ち居振る舞いと言葉遣いに驚いていた。客の一人一人にミスターやミセスなど日本語でいえば”様”付けで呼びかけていることに戸惑っていた。
 新一が輪の中に入り、ストライクがもう少しで穴を掘られそうになつた話しを面白可笑しく伝え、笑いをとつていた。四時頃パーティーが終わりリビングでコヒーを飲みくつろいだ。
「皆さんのおかげでストライクがすっかり変わった。根性はないしやることがいい加減でどうなるかと思っていたんだ」
「ありがとう。私も若い頃、兵隊で立川の基地に居ました。日本人のことは知っているつもりです」
「晩婚で可愛がり過ぎました。本当に行く末が心配でしたが、もう心配無い」
「本人の努力です。私たちは何にもしてません」

「ところで、今、ニューヨークの景気はどうなんですか」
「悪い。かなり悪い。聞いて要ると思うが、私のファミリーは港湾労働者の組合と建築土木作業員の組合がメインだ。女性の斡旋や薬は一切扱っていない」
「女性を日本に出せますか?しっかりした処だったら。もちろん合法的にです」
「前にそんな話しがありましたが、断りました。手数料が高すぎました」
「女性が可哀想です。良い女性はいくらでも集めれます。今ニューヨークでは稼げない」

「浩二。別荘へいこう」
「楽しんでください。パコが全て仕切ります」
 ロングボディのリムジンでお父さんの別荘に向かった。
「凄い屋敷だったがこの別荘も凄い。見ろよ眼下の景色。海が凄い」
「今度は海の幸を楽しんでくれ。ニューヨークは魚貝類が豊富にとれる」
「間もなく女の子が来る」
「どうですか相手を女の子に選ぶのは?公平だと思いませんか」
「賛成」
「任す」
 そんな騒ぎを目にしながら、浩二は信二に電話していた。長い呼び出し音のあと、
「信二か」
「俺だ。浩二だ」
「寝ているところ済まんが、でかい金儲け話だ」
「世界中の女性を東京に送るから、信二が仕切ってもいいとなつたらあの金使え四~五日中にまた電話する」

「ストライクのお父さんの世話で女性を日本に送れば、手数料が入る」
「相談だが、これでテルの革命の武器が買える。どう思う」
「意見をききたい。女性は粗末には扱わせない」
「いいけど、どれぐらい手数料が入る」
「分からん。これからの話だ。かなり貰うつもりだ」
「手数料が入ったら皆の金だ。貰うわけにはいかない。気持ちだけ貰う」
「テルの夢は皆の夢だ。全員が賛成している」
「俺達の夢でもある。圧制されているテルの国の国民を俺達で救おう」
「テル泣くな。解放の後で泣けと言ったろう」

 女の子達と海鮮バーベキューパーティーを楽しみ、二人づつ部屋に入った。翌朝十時。タクシーで女の子を返して、ストライクの知っている店へ向かった
「ここだハム。ソーセージではニューヨークで評判の有名店だ。小売りもしているんだ」
「ストライクしばらくね。随分変わったわ。元気にしてた」
「傭兵学校に入学したと聞いた時は、務まるかと心配したのよ」
「大丈夫みたいね。いいお友達も出来たみたいで嬉しいわ」
「さ、みなさん沢山食べていつてね」
「俺の母親だ。俺が六歳の時オヤジと別れた。その頃オヤジは拳銃とナイフをいつも持ち歩き撃たれたり撃ったり。怪我がたえなかった。我慢できず別れたお互いに嫌いではないようだ。ここに来るときはいつも金を貰いに来た。今思うと恥ずかしい」
「美味い。こんなの食べたこと無い。ソーセージが美味い、ムも美味しい」
「B隊の人にランドリーで聞いた話しだが・・・確認してないけど。クリスマスの二十四・二五日は全校休みで、全員に外泊許可が出るといつていた
「本当かな」
「そんないい話しあるのか?傭兵学校に入って始めての良い話だ。帰ったら軍曹殿に聞こう」
「又来て、あなた方なら歓迎よ待っているわ」
ストライクのお母さんと別れ夕食前に学校に戻った。

「軍曹殿に聞いてきた。本当だ
「明日から」
「第二ステージだ。告知版に貼ってあつた。浩二どういう訓練だ」
「ハードな訓練になる。二メートルの塀越え、十メートルのロープ上り
「ほふく前進、水の中の前進」
「最初は荷物を持たない。その後フル装備三十キロ程を担ぎ、同じ事を繰り返す」
「勉強は弾道学。気象学。地図の見方はコンパス無しで方向を決める」
「また格闘技。ナイフの使い習ってない・恐らく第三ステージだろう」
「勉強もキツクなるな。俺、小学校、中学校、高校の中で、今一番勉強している。学生の頃これだけ勉強していれば今頃満夫といっしょに東大生だ」
 訓練もハードで高度になり勉強も同じく難しくなつていつた。彼らの部屋の明かりが十一時まで消えることが無かった。

「信二か?俺、浩二」
「あの話し、どうだ?」
「皆に笑われると思うが、俺にはそんな力が無い」
「やっても直ぐつぶされる。済まん貫目不足だ」
「兄貴に話した。〝やろう〟と、言ってくれた」
「交渉は任された。どうしたらいい」
「兄貴がマフィアのドンのこと調べた。本物だといつていた」
「クリスマスの二十四,二十五日全校休みだ。俺達もニューヨークにいく。来い満夫も連れてこい。ホテル取っておく」
「信二英語習っているんだって?いい機会だ試せ」
「英語は満夫が得意だ。心強い」
「ストライクの話しでは、お父さんが世界中の良い女性を送れるそうだ。日本なら安心して出せるといつている。小さく考えるな。ホテルを丸ごと買うか借りてしまえ客は政府の高級官僚、財界の偉いさん、口の固い金持ち、地方の政財界の人達」
「女性も一回五十人は送ろう。信二儲かるぞ」
「でかい話だ。兄貴に話す。二十四日に満夫とニューヨークに行く。詳しい話はその時」

 訓練は相変わらず厳しいが、毎日ジングルベルの曲がかかり、学校全体がウキウキしている様に思えた。
「テル。ストライク。俺達の日本の友達を紹介する。皆仲間だ革命にも欠かせない奴らだ。行こうニューヨークへ。ホテルで落ち合って飯を食いに行こう」

「又一段と逞しくなった。訓練大変みたいだ」
 信二と満夫をストライクとテルに紹介し、ホテルで打ち合わせする事にした。
「日本の方は全てOKだ。赤坂に潰れたホテルがあり、銀行が押さえている」
「こちらの話がまとまり次第にホテルを買う。兄貴一人では無理なので会社組織にした」
「役員は大物の国会議員、銀行の元頭取、財界の大物、訳の分からん大金持ちと俺と兄貴」
「超高級クラブにする」
「話しがまとまったらホテルの改装に三月欲しいそうだ」
「俺達は明日学校に帰る。ドンとは明日十時に会う」
「手数料だが、一人二〇〇万円欲しい。ドンと俺達で一〇〇万円ずつ分ける」

「新一が腹へったといつている。飯食いに行こう」
「新一どこに行く」
「ストライクのお母さんの所。ソーセージ、ハムが美味しかった」
 
翌日十時にドンの所に行き、打ち合わせをし、新一が又お母さんのところにいきたいと言うので行き、食べて二人と別れ学校に戻った。

「少ないが革命の足しにはなる。卒業するまでに、一億にはなる」
「A隊もB隊も人数が少なくなった。これからもっとやめる奴増える」
「短期間入学と言うか再訓練の所人数が増えて、めまぐるしく入れ替わっている。若い人が多い中東に行くのかな」
「ストライク。〝中東〟上手くいってないのか?」
「俺、中東で実力試してみたい用な気もする」
「うまくいつてない。殆どが元軍人だ。再訓練を受けて中東に行く」
「軍隊に居るときより五~六倍以上の給料が貰える。将校は十倍以上」
「不名誉除隊の者、何らかの理由で除隊した者」
「皆何らかの理由がある。だから民間人とテロリストの見分け付かず、やたらに撃つ。民間人の犠牲者が出る余計に憎悪の対象になる」
「正規軍の兵士が戦死すると年金、戦死見舞金など戦死者に莫大な金が掛かる」
「特に世論が五月蠅いから傭兵が必要になる。傭兵が戦死しても、生命保険と僅かな見舞金ですむ」
「そのかわり給料が良い。若い奴らは。今、アメリカは不景気だ仕事が無い」
「ここに来ている若い奴らはおそらく大学を出ている」
「アメリカは殆どの大学生は、国と民間の奨学金銀行で学費を借りる。仕事がないと言って払わないとキャリアにキズがつきいい会社に採用されない」
「中東に行くと一~二年で払える。ただし生きていればの話だ」
「国際法で習ったとうり、傭兵にはジュネーブ条約は該当しない
「拷問、銃殺何でもありだ。若い奴らは恐らく銃も撃ったことなど無い奴大勢居ると思う」
「だから二カ月訓練を受けて中東に行く。粗製乱造だ。今アメリカで儲かっているのは軍事産業だ」
「俺達が中東に行ったらどれぐらい貰える」
「俺達は下士官だかなり貰える。下士官が足りない。将校より現場では下士官の優越で作戦が決まる」
 
 下士官コースの処は変わりがなかつたが、短期コースはざわついていた。その年も終わり新しい年を迎えようとしていた。
「ハッピーニューイヤー。新しい年だ」
「今年も頑張るぞー掛かって来なさい」
「ストライク、今日は休みだ。軍曹がいつていた。食堂で酒を飲んでも良いそうだ」
「今日だけ酒が売っているそうだ、後で飲もう」
 
傭兵学校で新しい新年を迎えたが、日本と違い正月の休みなど無く二日から平常通りの訓練が始まった。
「明日はフル装備で二十八時間の行軍をする。帰って来たら平日どうり」
「班長、要るものを用意させるように。以上」
「よく身体を休めておけ」

「帰って来たら、勉強か。眠くて仕様がないいだろうな」
「携帯食、水、ロープ」
「班長は懐中電灯忘れるな。各自とりにこい」
「食べた容器かす絶対に持って帰れ・採点の対象になる」
「新しいコースだ気をつけろ」

 岩といつても背の高さ以上の高さがあり、登り坂になっており、岩と岩の中を通った。
「すげー山だ。道なんかないじゃないか。この岩と言うか岩壁登るのか?」

「やつと昼飯だ。時間が長く感じる」
「水は少しずつ飲め。これしかない」
「この携帯食、腹が減っているから食える」
「俺は美味い。こんなに美味しいと思わなかった」
「この携帯食セット。スプーまで付いているチョコレートまである」
「上手い」
「新一だけだよ。美味しいといつているの」
「靴下を替えろ、足よくみろよ」
「ここは国有地だ。缶詰の空き缶、ゴミ残すな」
「出発だ。行こう」

 四時間程岩だらけの山を登って昼飯を食べ、二時間程歩いた。そして谷間と谷間の間に上下二本のワイヤーが張ってある処についた。
「持っているロープを端の方で身体を縛れ。片方の端を輪を作り上のワイヤーに縛れ」
「今からワイヤーの上を渡る。一度に四十人渡っても大丈夫だ」
「最初はどの小隊が行く?」
「しっかり縛れ。落ちたらアウトだ」

「教えられたとうり縛れ」
「浩二小隊行きます」
「すげー深い二〇〇メートルはある、長さも五十メートルはある」
「ストライク。真ん中に入れ」
「よし行くぞ」
「谷底から風が吹き上げて来る。足を外すな摺り足で行け。もう直ぐだ」
「足がガクガクだ。どの小隊も渡って来ないじゃないか。軍曹怒っているみたいだ」
 全員が渡り終えるまで。二時間程掛かり浩二小隊にはいい休憩になった。岩だらけの山を降り、夕食になり。二時間の休憩になった。
「皆さんが何と言おうと携帯食は美味い。この豆と牛肉の缶詰、最高だ」
「新一の味覚おかしい」
「皆靴下替えよう。足に肉刺が出来たらクスリ塗っておけよ」
「軍曹が不機嫌だ。一時間の遅れだ。谷で時間が掛かったようだ」
「寝るなよ。汗で下着が濡れている。風邪をひく」
 
 夜間の訓練も四回やり重火器、迫撃砲、ロケットランチャーなどの実弾訓練が多くなった。特に勉強は弾道学、コンパス無しの地図の見方を徹底的に覚えさせられた。
 季節も冬が過ぎ、すごしやすい春の四月になつていた。勉強は十一時までしていたが、実弾訓練はかなり楽しんでいた。
「信二と満夫からメールが来た。ホテルが完成したのでストライクのお父さんに東京に来てもらつたそうだ」
「来週信二と満夫が女性の事でアメリカに来る」
「日曜日なら外出許可が貰える。ここに呼んだ」
「紀子の子供の写真も送って来た」
 
 一週間があっという間に過ぎ日曜日になり、外出許可を貰って学校を出た。
「ますます逞しくなったと言うか精悍になった」
「オヤジが東京では二人にずいぶんお世話になつたといつてました。デラックスなホテルだと言ってました。ありがとうございます」
「信二は何をするんだ」
「総支配人をする。と言っても女性の面倒、アメリカとの連絡を担当する」
「実務的なことは副支配人がする。いい社員が集まった。何せ給料が高い。口止め料も入っている」
「政財界の偉いさんがお客様だ。検察庁、法務省、警視庁の偉いさんもお客様だからややこしいことにはならない」
「今、什器、備品を搬入している。二~三日には全て揃う。何時でもOKだ」
「やることが早い。信二の兄貴はたいしたもんだ。満夫はどうする」
「皆との約束どうり一番で卒業した。今大学院生だ」
「皆済まん。ちょっと満夫と信二に話しがある。直ぐ終わる」
「浩二皆に言えない話か」
「そうじやない紀子の子供の事だ。目のあたりが則道に似てきた。大きくなればますます似てくる。アホな豚松でも気が着く。メールでは豚松の親父、癌なんだろう。今の内に金を借りまくれ」
「農協、農林中金、銀行。借りた金旨く隠してくれ」
「信二、豚松と仲良くなつてクスリの大好きな女の子を世話しろ。豚松は直ぐ虜になる」
「仲良くなるのは簡単だ。何せ同じ高校でお互いに面識がある。親父が県会議員で豚松が後を引き継ぐ。なんとかなる」
「俺達も九月に卒業だ。一度日本に帰る。」
「以上だ」
「伸二。今回は何人頼むんだ」
「取りあえず五十人。足りなければ追加を頼む」
「部屋は一二〇室ある。ゲスト用に十室もある。皆が帰って来たら泊まってくれ」


総合演習

 山も緑一色になり、右を見れば緑、左を見れば岩だらけの山とアンバランスな景色になつていた。傭兵学校に来てから早くも八カ月が過ぎようとしていた。
「明日から待ちに待った格闘技だ。楽しみだ掛かって来なさい」
「格闘技とナイフの使い方で四十日になる。いつA隊とB隊の試合があるんだ」
「大慰と軍曹の話を聞いた。明日だ。訓練の成果を見る為に本社からも偉いさんもくるらしい。それと陸軍の新兵と師団規模の演習があるらしい」
「新兵訓練の成果を見るため、古参兵と合同演習が自衛隊でもあつた。装甲車、戦車、砲兵隊、恐らく海兵隊も来る。楽しみだ」
「どんな事するんだ」
「二個師団で別れて陣地を取り合う。師団長、幹部も採点される。負けたらキャリアにキズが着き昇進が遅れる」
「だから真剣になる。演習の終わり頃陣取りが行われる。それと各競技もおこなわれる。射撃、格闘技、ナイフ。勉強の試験は無い」
「助かる。勉強の試験なんかあったらたまらん」
「今日からA隊B隊に別れ、日頃の訓練の結果をみせてもらう。一日目は射撃、小銃。遠距離射撃。重機関銃。迫撃砲」
「二日目行軍」
「三日目格闘技」
「小隊事に別れて行う。班長選別しておけ」
「今日から三日は午後の授業は無い。それと来週からアメリカ陸軍、海兵隊と合同演習を行う。以上」

「小銃。これは全員だ。遠距離射撃は和正とテル。重機関銃はストライクと新一。迫撃砲は吾郎と健太。これでいく俺は連絡係をやる」
 一日の成績は小銃は二位、遠距離射撃は一位、重機関銃は二位、迫撃砲は三位で終わった。
「悪く無い成績だ。何とかなる」
「一番になる。勉強が無いのは良い。早めに寝よう」
 久しぶりに彼らは十時に寝た。寝られる時に寝る。食べれらる時に食べる。傭兵学校に来てから自然と身に付いた習慣だった。
 
 真夜中の二時に突然。起床ラツパがなり軍曹が廊下で大声で喋っていた。
「起床。今から訓練をする。フル装備で十五分でグランドに集合。もたもたするな急げ」

「早く寝せてくれると思ったらこれかい。ベッドメイキング忘れるな。行くぞ」
「携帯食二食。水。GPSを渡す。今日の三時まで戻れ」
「あのヘリコプターに乗れ。小隊毎に降ろす」
「降りたはいいが真っ暗だ。ヘリコプターがぐるぐる廻るからどこだかサッパリわからん」
「恐らく八八空挺師団の演習地だろう。コンパスではこっちだ行こう」
「明るくなつてきた。方角は合っていると思う。この山の頂上で朝食にしよう」
「アメリカはでかい。見渡す限り家も道も無い。だけどこんな所農地にも牧場にも何にもならない」
「美味い。日本に帰るときお土産に買って帰ろう」
「新一の味覚壊れた。俺の桃缶食べるか」
「食べる下さい」
「オーッ。日本製だと書いてある岡山県かな福島県かな。懐かしい日本の香りがする」
「新一食べ過ぎで腹壊すぞ。こんな所で腹壊したら最悪だ」
 朝食を食べ、道の無い所をコンパスだけを頼りに歩いた。
「やっと木がある所に来た。この山越えるのか?木が密集して、おまけに蔦だらけだ」
「俺はこの山を迂回してふもとを行けばいいと思う。この山は体力をかなり消耗する。三時に付かない恐れがある」
「俺もそう思う。小枝や蔦を払って、登り降りはかなりきつい。三時には付けない」
 時間が掛かるが山のふもとを行くことにした。雑木林なので歩きやすかった。途中昼飯を食べ、歩いた。

「やつと平らな所に出た」
「時間を食いすぎだ急ごう。三時まで一時間二十分しかない」
 学校が遠くに見えてから。歩いても歩いてもつかなかつた。
「やつと着いた。何と、俺達三位だ。一番になりたかつた。明日はぶちきりの一番で行こう」
「四時だが、半分も着いてない。軍曹不機嫌な顔してる」
「まだ時間が掛かる。お前たちは解散ゆっくり休め」
「迷子になった小隊も要るみたいだ。全員帰って来るの時間が掛かりそうだ」

「信二からメールが来ている」
「女性五十人が東京に来て、もう商売しているそうだ」
「ホテルに入ったら五万円とり、女性のお金は別だそうだ」
「午後一時から営業し、翌日の九時までだそうだ。千客万来で大変なことになっているそうだ。手数料はストライクの口座に振り込んだと言ってる」
「日本人はスケベな奴らばっかりだ。それなのに少子化とはどういう事だ」
「掲示板に演習の事が張り出してあつた。八八空挺師団の演習地でやる。空から飛び降りるから演習地がデカイ。もっとも農業、牧畜に適しない土地だから使い道は演習地ぐらいしか無い」
「まだ戻らない小隊いるみたいだ。静かだ完全に迷子になったか怪我をして動け無いのかもしれない。これで除隊する奴が出る」
 
 格闘技は各小隊ごとに別れ、全小隊がトーナメント方式で出る。浩二小隊は。二回戦から出る事になった。
「ストライク直ぐギブアップしろ。後は任せろ」
 次に健太がでた。相手は健太より大男でチビを一蹴りと足を飛ばして来た。僅かに横に身体をずらし軸足の膝の後ろを蹴ると、大男は音を立てて仰向けにひっくり返った。起き上がり、健太に飛びかかって来た。腕を掴み、身体を腰にのせ放り投げた。三メートルほど先で完全に気絶してしまった。タンカをもつてきたが要らないと言って起こし、背中にカツを入れると気が付いた。
 新一。吾郎。和正。浩二も同じ様なことをし、テルも勝った。四回戦後は各小隊が棄権したために途中で浩二小隊の優勝が決まった。
「総合優勝はA隊。小隊優勝は浩二小隊。私は今とても良い気分だ。君たちがあんな凄い技を隠して居るなんてずるい。だが満足だ。最後の訓練にアメリカ陸軍と合同演習がある。その時陸軍の新兵、古参兵、シール、海兵隊もくる。君たちなら海兵隊、シールに勝てるかもしれない以上だ」


合同演習

「皆聞いてくれ。八八で降下訓練を受けるか。受ける者は申し出る様にと告知版に出ていた。金はこの間の手数料を使おう。皆賛成か。では申込用紙を取ってくる」
「今日から四十五日、アメリカ陸軍と合同演習を行う。日頃の訓練の成果を見せてやれ。一番多いのは演習中迷子なることだ」
「銃の弾は模擬弾だ。当たると赤い色が出る。模擬弾でも目に当たると失明する。ゴークルを渡す。演習中はかけていろ」
「それと、教官の撃つ弾は本物だ。以上」
「トラックに荷物を積め。真ん中にだ。端はお前たちが乗る。もたもたするな」
「どうなつている。もう四十五分もトラックに乗っている。滅茶苦茶に大きい」
「軍曹に聞いた。ハワイ島とグウムがスッポリ入るそうだ。だから空挺師団がある」

「サッサとテントを張れ。出来ない小隊は野宿だ」
「今日は新一の好きな携帯食だ。明日の昼飯から炊事隊の作る飯だ」
「俺達のテント張りが終わった。シャワーを作りに行こう。出来上がったら俺達の仕事は無い」
「見たかM1エイブラムスだ初弾命中率九十%だといわれている」
「M109A6自走榴弾砲。何か名前の分からん大型兵器俺見て興奮した」
「明日から楽しみだ」
「和正、今日だけだ。演習に来たの後悔する日が毎日続く」
「二個師団と言うのに人数少なく無いか」
「この広い演習場の。何処かにいる」
 二十日もたつのに塹壕掘りと、戦車について行き、突撃と行軍と訓練ばかりで、おまけに夕食だけが炊事隊の作った食事で朝、昼と携帯食だった。
「教官達の撃つ実弾やたらに撃つ。頭の上をヒューッと飛んで行くと尻の穴がムズムズする」
「大砲の弾が近くに着弾したとき、模擬弾と分かっていても俺は死んだと思った。訓練で疲れているのに今夜歩哨だ」
「まだ良い。十二時までだ。戦場なら夜間の交代は無い。そのまま翌朝から作戦に就く」
「明日から夜間の斥候の訓練だ」
「どういう事するんだ」
「地図とコンパスを渡される。地図上に印が付いている。そこに行き、置いてある何かを持つて帰る」
「浩二、採点されていると思う。俺達どうなんだ」
「そつなく。失敗もない。普通だ」
「こんなの沢山いる。これからが差がついて来る」

 夜間斥候は人数が多い為、三班に分け一晩九小隊ずつ、時間をずらし出た。
「三時間しか時間が無い。どこかに教官が居る」
「無駄口をするな。話すときは小声で話せ。音を立てるな」
 演習も残り二十五日程になり実弾訓練が多くなった。
 迫撃砲、グレネードランチャー、ロケットランチャー、手榴弾。サムテツク(C4プラスチック爆弾)をつくり、電子雷管をセット。爆発。 遠距離射撃、機関銃、地雷の除去。模擬家をつかつてのテロ掃討。

「今日は陣地を移す。テントをたたみトラックに載せろ。グズグズするな」
「そのあと塹壕を埋める。元のとうりにする。かかれ」
「ブルトーザーがあるのに。又、新しい陣地で塹壕掘りさせられるな」
「ぼやくな吾郎。敵も同じ事している」
「今日から模擬弾だが実戦訓練を行う。同じ人数の敵がこの演習場にいる。敵は赤い色の布を首に巻く我々は黄色い布だ。首にまく」
「夜、関係無く小隊ごと歩哨に立つ。斥候を出して敵より早く、敵を見つけ叩き潰す」
「今日より臨戦態勢なので、全て携帯食だ。班長は黄色い布をとりにこい」
「いよいよ始まった。赤を叩き潰す。浩二、俺達はどこ護る」
「右翼の前列だ。とりあえず行ってみよう」
「機関銃がある。一番戦車に狙われる。そのため単発使い捨て無反動砲AT―4が五発ある」
 二日も経つのに敵も見方も相手の陣地が分からないらしく、何の変化も無かった。浩二小隊にも斥候の順番が回って来た。
「今日から夜間斥候だ。俺達が最初だ」
「腹減らしの新一、携帯食持ったか行こう」

「四時間も歩いている。浩二休憩しよう」
「雨が降らないのが責めての救いだ夜食を食べよう」
「皆二時の方向を見ろ。明かりだ」
「こんな所に民間人は居ない。敵の斥候だ」
「彼奴らバカだ恐らく新兵だ。捕まえて捕虜にしよう。そして基地の場所をはかす」
「俺達は付いている。彼奴ら野営する気だ。敵の陣地分からないと言って帰る気だ」
「方角が分かった行こう。一時間位で遭遇する。声をだすな足音を立てるな」
 
一時間二十分程で敵の居そうな場所に着いた。小高い丘になつており、大きな岩の塊のようた丘だった。
「皆ここにいてくれ。俺一人で行ってくる」
 浩二が岩だらけの丘に登って行った。そして二十分程でもどつてきた。
「歩哨もおかず全員寝ている。小隊斥候だ。一二~三人居る」
「もう直ぐ明るくなる。そしたら襲う。奴らを囲み叩き起こす。銃は絶対に持たすな。面倒になる」
「奴らから基地の場所をはかす。ソロソロ行こう」
 二手に別れ、寝ている兵隊を見ると、若い奴らで新兵のようだつた。銃もまとめて置いてあつた。
「赤隊起きろ。こんな所で寝てんじゃ無い」
「銃にさわるな撃つぞ。手を上げろ」
「健太、ストライク。銃を取り上げろ」
「お前が班長か、基地の場所を教えてくれ」
「ほー、認識番号だけか、教科書どうりだな」
「よし新一、吾郎。班長を後ろから押さえろ」
「口を開けろ。小便を飲ます。それでも言わなかつたら。糞食べてもらう」
 小便を飲ますといわれ。赤隊の班長はスラスラと基地の場所を喋った。
「浩二、班長の持っていた地図にも同じ所に印が付いている。間違いないみたいだ」
 嘘だったら帰って来て小便を飲ますと脅し。浩二と和正が確認に行くことにした。残りは捕虜を見張ることにし、基地に無線で赤隊の位置の緯度を教え、これから確認に行くと伝えた。
「もう二時間以上歩いた。この辺だ」
「あの岩山に登ってみよう」
「浩二、二十三時の方に歩哨が居る。ここだ。気づかれるな」
「いた。無線で連絡しよう。テブールの周りに偉いさんが大勢集まっている」
「師団長も副官も居る。狙撃してやる。そのためにM40A3狙撃銃(口径7.63ミリ、ボルトアクション)を持つている。四百メートルくらいだ。必殺距離だ」
「あの歩哨をやっつける。帰りにじゃまだ」
 まだ黄色隊の場所が分からないらしく。師団長がテブールの地図上を指差していた。師団長を撃つと、胸にパーッと赤インクが飛び散った。素早くボルトを操作し左右の副官も狙撃した。
「浩二逃げよう。副官もやった」
 二人は足の続く限り、砂と小さな岩の混じった所を走りに走った。
「もう直ぐ皆の居るところに着く。音がするエンジン音だ」
「進行だ。戦車も自走野砲もHEMTT(機動性戦術的トラック)もいる。一個師団が進行している」
「凄い。砲兵隊が止まった。砲撃の準備だ」
「新一達が手を振っている。行こう」
「浩二、小隊は捕虜を連れて基地に戻れと軍曹から指示があつた。戻ろう」
 師団長と副官二人が戦死したため命令が旨く伝わらず、おまけに不意に砲撃され赤隊が負けてしまった。
「黄色隊の勝ちだ。気持ち良い。明日から小隊同士の競技だ勝つぞ」
「浩二小隊の班長付いてこい」
 テントの中に入ると、赤隊の師団長、黄色隊の師団長、将官クラスがずらりといた。
「今から君に尋問する。師団長を狙撃するのはルール違反じやぁないか」
「私は学校で、兵士を狙撃しても余り効果は無い。幹部を狙撃して始めて効果がある。狙撃の目的はそこにあると教わりました」
「君は捕虜に基地の場所を言わないと。小便を飲ますと言ったそうだが、違反だと思わなかったか」
「私は傭兵学校の生徒です。傭兵はジュネーブ条約に該当しない。スパイと同じで拷問、銃殺、何でもありと習いました。私は正規の兵士ではありません」
 周りの将官達が大笑いし。赤隊の師団長が赤くなり俯いた。
「後三日で終わる。美味い物食いたい。あれだけ模擬弾を撃つなら食費に廻せ」
「スケジュール表もらつてきた。射撃は全員だ」
「遠距離射撃は選抜。グレネードランチャーも選抜。格闘技も選抜だ」
「出る奴言うぞ。遠距離射撃は、和正とテル。ランチャーは、ストライク。格闘技は五人全員。これで良いか。解った」
「それと各競技はどこから出てもいいそうだ。どうする格闘技は俺は四回戦から出てもいいと思うがどうだ」
 翌日、各競技は平凡な成績に終わり、遠距離射撃の和正だけが三位に食い込んだ。
「不公平だよ。彼奴ら軍隊に何年も居る。俺達銃撃ったの七カ月前だ」
「その分明日頑張ろう」
 広場に小石を拾い。その上にマットが引いてあつた。日頃の訓練結果を見ようと将官達が大勢来ていた。浩二小隊は四回戦からなので、午前中練習をした。

「午前中の結果が張り出してある。見に行こう」
「見ろよ所属隊。殆ど海兵隊とシールの奴らだ」
「何で海兵隊やシールが居るんだ」
「合同演習だ。作戦上必要なんだろう」
 この日は演習最後の日と言うことで、朝食から炊事隊の作った食事が出ていた。昼飯を食べいよいよ五人の出番が近づいてきた。
「新一そんなに食うと。腹打たれると吐くぞ」
「もうやめる。うまかった」
 会場に行くと選抜選手がもう集まっていた。
「でかいな。頭一つでかい。でかいのに動きが速い」
「健太行け。次、新一。和正。吾郎。俺。この順番でいく」
 シールの隊員と健太が向かい、始めの合図と共にシールの隊員がストレートを繰り出してきた。健太は身体を右に傾け、相手の左股の内側を足の甲で思いっきり叩いた。前に出ながらストレートを繰り出したので、前のめりこんだ。素早く起き上がり、又ストレートを繰り出した。
 同じ所を又足で蹴ると倒れ、起き上がろうとしたが左足が痺れと痛さで起き上がれなかった。新一は軽い蹴りをもらつたが、相手の鳩尾に拳を叩き込み気絶させ、タンカを持ってきたが要らないと言って上半身を起こし、カツを入れると気が付いたので会場中ざわめいた。
 順調に勝ち進み、決勝では傭兵学校のイエローモンキーに負けたらアメリカ陸軍の恥とばかりに力んで来たが浩二小隊の全戦全勝だった。

「やったこれで俺達は傭兵学校とアメリカ陸軍に名が残る。なにせ六人も気絶させ、蘇生させた」
「そのままでいい。こんなに強いとは思わなかった。海兵隊はアメリカ陸軍の中から募集し、入っても七十%が訓練がきつく辞める。シールは海兵隊の倍以上きつい」
「驚いた。小隊長、大佐がお呼びだ来てくれ」
「大佐殿。浩二小隊長。連れて来ました」
「楽にしてくれ。海兵隊やシールは誰にも負けないと思っていた。手も足も出ず完璧に負けた。世界中から格闘技の好いところだけ集めて作った。それが完全に負けた。その技は日本に昔からある技なのか」
「はい四百年前からありますがこの技は人を殺すだけの技なので、余り人には教えていません。覚えるには心の鍛錬が必要です。覚えると試したくなり、分けの分からん殺人が多発します」
「私達に教えてくれないか」
「構いませが、私達は八八で降下訓練を受けることになってます。降下訓練を受ける前に。日にちがあるので一度日本に帰ろうと思って居ます。出来たらスケジュールはお任せしたいと思います」
 翌日朝から野外演習の道具をか片付け、塹壕を埋め戻し、ゴミや忘れ物ないかを確認して学校に戻った。

「大慰殿がお呼びだ。全員ついて来い」
「そこに掛けてくれ。一番で卒業だおめでとう」
「本校始まって以来の成績だ良く頑張った。日本の平和ボケの若者が務まるか心配した。久しぶりに日本人の血が騒いだ。私の家は三代ハワイ島に居る。妻も日本人だ。君たちなら八八にいっても大丈夫だ。今夜のパーティー楽しんでくれ」
「パーティーって女性居ない。生徒と教官だけだだけど生徒ずいぶん居なくなった。三十二%辞めたそうだ。ほとんど中東に行く。三十二名が国に帰る」
「軍曹が教えてくれた。八八終わったらどうする」
「俺中東にいつてみたい」
「軍曹がいつていた。八八終わってからでも良いと言っていた」
「皆に相談がある。テルの仲間にあの金で練習用の武器を買ってもらう。革命の時、武器が有っても打ち方知らないとまずいどう思う」
「OKか?テル信頼の置ける仲間アメリカに呼べるか?直ぐだ」
「八八いくまで十日ある。ストライクのお父さんに任せ切りではまずい。皆で日本に行く。取りあえず明日ニューヨークに行こう」
 
 翌日の朝一緒に苦労した仲間達、教官に別れを告げてニューヨークに向かった。傭兵学校の門を出るとき訓練も勉強もよく耐えた。これからは何でも出来る過酷な訓練を一番で卒業した。全員自信に満ちていた
「俺、夕食ストライクの。お母さんの所で食べたい」
「新一、随分気にいったみたいだ。テル、仲間いつ来る」
「電話したとき時差の関係で向こうは朝だった。明日の昼頃着く。付いたら浩二の携帯に連絡が来る」
「浩二、ホテル取ったら夕食まで時間がある。着る物買いたい。このヨレヨレでは日本に行きたくない」
「良い考えだ。俺も欲しいと思っていた。吾郎、パソコンでチケット取ってくれ。遅い時間がいい。信二と満夫にも連絡頼む。日本に帰ったら取りあえず実家に帰ろう」
「それが一番頭が痛い。満夫の話しでは皆の両親カンカンに怒って居るそうだ。出してくれなかったらどうしょう」
「兎に角元気で無事な姿を見せることだ。俺だって怖い嘘付いているんだ。仕方が無い」
 ホテルに入り飛行機のチケットをとり、満夫と信二に到着時間を教え、服を買いにストライクの行きつけの店に向かった。そのあと新一のリクエストでストライクのお母さんの店に行き、たらふく食べ飲み、ホテルにもどつた。ストライクはお父さんの所に帰らせ、翌日ストライクにお金を銀行から下ろしてもらい、お昼過ぎテルの仲間とホテルで合流した。テルの国、西アルロマから二人が来て紹介し終わつた。
「テル、誰かに聞かれるとまずい。ホテルの部屋で話そう。万が一と言う事もある」
「今信頼出来る仲間はどれくらい居ます」
「二千人は居ます。武器ですが、銃しかありません。五百丁と弾丸は六千発位です。武器の闇商人から買いましたが、全部ソ連製のカラニコフです」
「足りない。銃だけでもあと五千丁は要る」
「機関銃、迫撃砲手榴弾、グレネードランチャー。サムテツク(C4。プラスチック爆弾)ロケットランチャー」
「上げたら切りがない。テル一回で成功させなければ。二回目は大勢の若者達と市民が死ぬ。一回だ。失敗すると二回目は長い時間が掛かる。完璧な計画でやろう。たとえ時間が掛かつてもだ。それと親しい仲間でもあんまり計画を喋るな。人選して数人の幹部でやつてくれ。裏切り者が居ると想定して動こう」
「この金、革命に使ってくれ。三千万円ある。俺達は革命の仲間で、親友で、戦友だ。遠慮するな」
「国民の事を考えてくれ。話しがあるだろうルームサービスを頼んでおく。俺達はお土産を買いに行く」

「お土産は空港の免税店で買おう。ニューヨークに来て何も見てない。ブラブラしよう。おのぼりさんのようににキョロキョロしながら」
 空港に行く時間になつたのでホテルにもどつた。
「テルも私達も日本に行きます。革命はどんな事が有っても成功させましょう。又直ぐ逢えますホテル代は払ってあります」
 最終便に乗り、七人は東京に向かった。来るときと違い彼らには心に余裕があつた。ただ実家に帰った時、どんな言い訳をするか・・・頭が痛かった。


東京へ

「日本に着いた。一年ぶりだニューヨークより暖かい」
「いたいた。只今」
「又一段と逞しくなった。贅肉が無い。なんかのアスリートに見える。行こう小型バスを予約してある。取りあえず浩二のホテルに行く」
「満夫、かあちゃん達そんなに怒って居るか」
「覚悟して帰れ。親同士連絡とりあつている。一番悪いことは手紙も電話も無いことだ」
「お金が無いから俺の所に電話が有って皆元気で居るからと伝えてくれといつているというと、コレクトコールがある、掛けて来るようにと言われた。覚悟して帰れ」
「俺帰るのやめようかな」
「馬鹿なこというな。全員帰って一晩泊まる謝ってこよう」
 そんな話しをしている内に都内に入り、赤坂のビルの前に止まった。大きな庭があり、木が一階を隠していた。
「着いたここだ。良いホテルだろう」

 『日本未来談話室』と書いてある偉い名前つけた。
「十二階建てだ一階はサロンとレストラン。二階は会議室と小さなサロン。地下の駐車場からエレベーターで誰にも会わず女性の部屋にいける」
「三階から六階まで女性が使っている」
「皆は十二階に泊まってもらう。女性が足りない商売繁盛だ」
「信二、当局は大丈夫か」
「心配ない裁判官、検事、判事。検察庁、警視庁。国会議員の与党、野党。財界政財界、何でもありだ。偉いさんも奥さんが怖いから昼間来る。一時から営業し翌日の九時までだ」
「どうなつている。少子化対策でやつている訳じやぁないよな。偉いさんて精力絶倫だ」
「兄貴が後で挨拶に来る。皆が家に帰った時俺と満夫でテルとストライクを鎌倉に連れて行き、夜は熱海に泊まる。日本の夜を楽しんで貰い、日本の文化をみてもらう。皆はお父さん、お母さんに怒られて来なさい」
「今夜は日本料理を堪能してくれ」
「明日何時頃家に帰る。俺は遅く行って。翌朝帰りたい」
「三時頃家に着くようにしよう。翌日十時頃の電車に乗ろう」
「ノックしている。だれかきた」

「俺の兄貴を紹介します。野口さんです」
「今回は御世話になりました。儲けさせて貰って居ます」
「ありがとうございます」
「良く俺達のような若僧の話しで、凄い投資をしました。只驚くばかりです」
「簡単なことです。阿呆の若者ばかりの日本で傭兵学校に行く」
「今の日本では考えられません。それだけて信用出来ます。信二も似たような考えでヤクザをやつてます。お金の事ですが、出した人達はろくでもない事で儲けて表に出せない金です。信二から聞いたが又直ぐにアメリカ行くそうですね。変な言い方ですが日本を楽しんで下さい。信二が心得て居ます。では失礼します」
「貫禄あるなとてもヤクザに見えない」
 
 その夜は日本料理を久しぶりに食べ日本酒を飲み、翌朝、満夫と信二がテルとストライクを連れて鎌倉に向かった。
「帰るの億劫になった。昨日電話したら不機嫌だった」
「怒っているんだろうなぁ。仕方が無いか。親に嘘付いている」
「出してくれないと困るから・・・皆、行かなかったら莫大な違約金取られると言わないか」
「それ良い考えだ。賛成。皆話し合わすぞ」
 三時過ぎに五人は家に着き、長々と怒られてお土産など見向きもされず、只怒られた。「帰らないと膨大な違約金を取られる」一生掛かっても払われないと言った。取りあえず行くことは渋々認めてくれた。寝ても寝付かれず、只朝を待った。朝になり又怒られひと月に一度は手紙か電話をくれる事と「くどくど」と言われた。
「参ったよ。まさか「生命保険」の証書が家に送られて居るとは思わなかった。オヤジが酒を飲みながら酔っ払って怒り。親に怒られて居るときは正座して聞け。と言われ酔っ払って寝るまで。三時間も正座させられた」
「俺の家おばちゃん居るだろぅ。おばちゃん泣いて言うんだ。結婚して直ぐ主人を兵隊に取られ、見送って何とか帰って来たけど戦死した人随分見送った。孫まで戦地に行くの見送る。何て私は長生きし過ぎたんだろうかって、泣きながら言うんだ。俺泣いた。嬉しくて申し訳なくて」
「俺の妹何を勘違いしてるんだか。死なないで帰って来てと言うんだ。親や弟妹はありがたい。俺も泣いた」
「俺のオヤジの家貧しくて子沢山で、国民学校を出ると志願兵になり南方を転戦したそうだ」
「終戦になり捕虜になったそうだ。学校出て無いから後でポツダム中尉だった」「だから日本人として卑怯なことするな。退去と撤退は違う。恥はかくな。死ぬ時は恥じるような死に方するなと言われた」
「それを聞いたかあちゃんが、馬鹿なこというなといつてオヤジに飛び掛かり、大喧嘩になった」
「親に嘘付いたんだ。怒られても仕方無い。同年代の若者達と違うことしてる。もうこの話しはやめよう」

 夕方テル、ストライク、信二、満夫が鎌倉から帰ってきた。夕食に鍋を食べようとなり、すき焼き店にいつた
 翌日、ストライクのお母さんお父さんにお土産を買いに銀座に行き、夜は信二が銀座のクラブに招待した。
 ホテルに帰ってから、遅くに浩二の部屋を信二が訪ねて来た。
「豚松は女と部屋に居る。間違い無く薬をやつている。裏に車がある。俺の舎弟が運転する。薬は舎弟が持つている。奴の事は心配ない」
 二人は無言で目的地にむかつた。
「ここです。三階の右端の灯りの付いている部屋です。ドアチェーンが付いて居るかも知れないのでカッターを持って来ました」
「これ薬」
 エレベーターを使わず階段で三階に向かい、ドアに耳を当てると微かにいびきが聞こえた。ドアのノブを廻すと廻り、鍵が掛かって無く、チェーンも掛けて無かった。部屋に入ると訳の分からん異様な匂いがした。奥の部屋に行くと豚松も女も裸で寝ており。ベッドの周りに薬の入っていた小さなビニール袋が散らばっており、注射器も何本も転がっていた。女も豚松も痩せて、昔の豚松の面影が無かった。注射器を拾いその中に混ざり物の入ってない薬をたっぷり入れ、豚松の足の血管に打った。素早く部屋を出、ホテルに向かった。
「今夜はありがとう。これ取っておいてくれ」
「兄貴から何時ももらってますから。受け取れません」
「兄貴とは別だ。遠慮するな」

 翌日昼飯ご飯を皆と食べ、見送りは要らないと言って信二、満夫と別れ成田に向かった。
 翌日の昼前にニューヨークのケネディ国際空港に着いた。お土産があるのでストライクのお母さんの所で遅い昼飯を食べる事にした。
「お母さん日本のお土産です。包丁のセットです。骨切りからペティナイフまであります。日本刀と同じ造り方してます。全部イニシャル入りです」
「嬉しいわ。使いやすそう。砥石まである。ありがとう」
 昼飯を食べてから。ストライクのお父さんの所にむかつた。
「東京の人達がくれぐれもよろしくとの事です。日本のお土産です。ナイフです。二十本あります」
「ありがとう家紋入りか。凄い。早速主だった人にわける」
「良い造りだ。あんなに立派なホテルだと思わなかった。ニューヨークじゃあ寒空の道にいても客が着くか分からない。綺麗な部屋で客が来る。手数料を取らないのが凄い。取るのはクリーニング代と部屋代六万円だけだ。稼げる」
「早くも帰りたく無いと電話がある。兎に角パスポートの関係もある。切れる前に帰し、変わりの女性を送る。そのほうが殿方も喜ぶ」
 お父さんの世話で又セミプロの女性を呼んでもらい、別荘で久しぶりに楽しんだ。
翌日飛行機で八八空挺師団に向かった。


八八空挺師団

「浩二、八八でどんな訓練をするんだ」
「俺達は基礎ができている」
「自衛隊では、三、四日降下する時の基礎勉強をする。その後十日くらい着地の時の訓練と、高い鉄塔からパラシユートで飛び降りる」
「後は飛行機から飛び降りる。そして集合訓練のくりかえしだ。聴いた話だ。自衛隊と変わらんと思う」
 八八空挺師団に行くと、色んな装備品を渡され部屋に案内された。
「俺達だけか。ベッドが十五個しかない。中隊単位で訓練をすると聞いていたのに」
「浩二小隊長。師団長がお呼びだ」

「楽にしてくれ。私は司令官のクラーク小将だ。こちらは特殊訓練教官長のケーリ大佐だ」
「アメリカ軍は世界中の格闘技の好いところだけを取って格闘技を作りあげた。だが君たちに海兵隊もシールも完全に負けた。三軍の教官長にビデオを見せた。今の格闘技では駄目だ、となった。教えて欲しい」
「教えるのは構いません。だがこれは人を殺すだけの技です。日本に四百年前からあります。危険なので一部の人しか知りません。軍隊を除隊した後、街で使うと訳の解らん殺人が起きます。心の鍛練が必要になります。それで良ければ私達は構いません」
「ですが私達は降下訓練生です。スケジュールは任せます。ハードでも構いません」

「皆聞いてくれ。格闘技を軍に教えることになつた」
「軍では教えてくれると思って最初からスケジュールを組んである。この部屋もそうだ」
「これがスケジュール表だ」
「この部屋見た時、偉い良い待遇だと思った」
「この表を見ると飛行機からの降下訓練は午前中に二回飛べる。午後格闘技。五時夕食。六時から十時まで格闘技」
「浩二、腹減る。サンドイッチでも出すように頼んでくれ。何とかなる」
「テルとストライクは生徒として参加する」
二日後から本格的になり、他の軍の人達は一日一回しか飛べないところを浩二小隊は午前中二回飛べた。格闘技もさすがに教官達なので覚えが早かった。
「皆聞いてくれ。八八、終わったらどうする。中東に行くか後十日しか無い。和正どう思う
「俺は行きたい。一年間習ったこと試したい」
「月どれくらい貰える。ストライク聞いているか」
「俺達は下士官だ。直ぐに小隊を任せてはくれないと思うが、戦闘の時下士官で優劣が決まる。月百万円にはなる。普通の傭兵で六十万円ぐらいだといわれて居る。それでも正規軍の二倍になる。傭兵の中でも人種差別がある。低開発国の出稼ぎは二十万円ぐらいだ。衣食住付だからお金は全部国に送る。彼らにしたら良い稼ぎになる」
「だがパトロールに行くとき、トラックに付いている機関銃を任される。一番最初に狙われる。戦死者が一番多い。戦死したら見舞金と生命保険が出る。彼らの国では凄い大金だ」
「生活環境はどうだ」
「プレハブだがクーラーが付いている。食事は本国の軍隊より良い。PXもあり、冷たいビールも飲める。基本的に本国の軍隊と同じだ。それでなければ議会が五月蝿い」
「軍隊の戦死者は公表の三倍以上と言われている。傭兵は民間人と公表され、四倍以上と言われている」
「傭兵と言っても軍隊と同じ基地にいる。二十四時間勤務と同じだ。俺行きたい」
「賛成する者手を上げてくれ」
「皆か」
 
 八八に居るのも後三日となつたが。飛行機の都合で三日伸びその間に格闘技のおさらいをした。教官達は五台もビデオカメラで撮っていた。
 中東に行く当日、百ぐらいの民間人、多分傭兵だと思う人達と中東に向かった。途中ハワイ島で給油し、二時間の自由時間があつた。基地から出る事は禁じられた。
「ストライク。皆傭兵になるんだな」
「アメリカを出るとき親父と話した。アメリカは景気が悪い。ニューヨークも予算が無いから警察を首にしている」
「街では麻薬欲しさに売人に金の代わりにピストルを出し、くれなければ殺して薬を奪っている。警察は大忙しだといつていた」
「食堂でなんか食べよう。後十時間以上飛行機だ。ビールを呑んで寝て行く」
 機内では何もすることが無いので全員が寝ていた。
「何処に降りるか知らないがもう直ぐだ。健太、外を見ろ。何処を見ても薄い茶色とあんまり高く無い山ばっかりだ」
「機内の温度上がっている。外は暑いだろうなぁ」
「日の出と共に給油機で給油してた。さすがにアメリカ軍だおそらくフィリピンから飛んで来たんだろうな」
「高度が下がっているいよいよだ」


中東

「暑いと思ったが想像以上だ。空気が乾燥している。この国の天気予報は世界一当たる。なぜなら、晴れ・暑いです。雨は降りません」
 降りた所は見渡す限り砂と岩だらけの平地だった。長い滑走路一本と三棟の格納庫、かなりの兵士達のプレハブ。何にも生活感の匂いのしない所だつた。
「トラック乗る前に銃、弾丸を持て。トラックにM2重機関銃が付いている。誰か受け持て」
「乗車しろ」
 飛行機に乗って来た全員が、ここは戦場で最前線だと思い知らされた。基地のゲートを出るとトラックはフルスピードで走りだした。のろのろと行くとゲリラから狙撃されるからだった。
 三時間以上走り、ようやく基地についた。景色は飛行場と余り変わりばえしなかった。小さな山が近くにあるとこだけが違った。二千人の兵士と。千五百人の民間人(傭兵)が居るとのことで、基地の規模がでかかった。大きな基地を有刺鉄線で二重~三重に囲み、出入り口は三か所ある。

「皆集まれ。私はブラッドリー小慰だ」
「お前達は観光で来たわけでは無い。新聞やテレビ言って居ることは嘘だ。毎日コンボイが襲撃され。毎日戦闘がある。お前達民間人。兵士が死んでいる」
「ここで困ることはどれが敵で市民か分からない事だ。女子供でも油断するとアウトだ。死体運搬用の袋に入る事になる。おかしな動きがあったら撃て。それがお前達の生きる道だ」
「今から装備品を渡す。お前達は民間人なので好きな銃が選べる。なお、ここはアフガニスタンでカンダハルから二百キロ離れ、パキスタンの国境に近い」
「明日からのスケジュール表を渡す。小隊長は取りにこい」
「それと小隊の名前を決めろ」

「取りあえず、部屋に私物をおきにいこう」
「この部屋俺達だけだ。ベッドが十台しかない
「俺達は下士官待遇だ。流石にアメリカ軍だ」
「銃は統一しよう。M4Aブラックホークダウン(装弾数三十~五十)これの特長M203グレネードランチャー(銃に手榴弾のような物を飛ばす装置)が装着出来る。和正には狙撃銃を持ってもらう。(マーク一二モット01)がいい。精密射撃用に出来ている。マガジンに二十~三十発入る。有効射程圏は五百五十メートルだ」
「戦闘服色が兵士と少し違う。凄いこの防弾チヨツキ軽い。ケプラー社製だ」
「この鉄兜、プラスチックでケプラー社製だ。なにもかにも全部が新品だ。金が掛かっている。弾丸どれたげ持つ」
「腰に五個。バックバックに五個。ランチャーの弾十個。手榴弾二個。これぐらいでいいだろう」
「拳銃はどうする。俺持ちたい。下士官だから持てると思う。そこにある。ベレッタM92PS持ちたい」
「持とうマガジンは。二個で良いだろう
水筒、緊急キット、ナイフ、予備の水、弾丸など、全て身に着付けると十キロにもなった。
「良いか、寝る時も銃に弾丸を装着し、直ぐ手に取れる所にをけ。ここは戦場で最前線だ。二四時間戦場だしたがって。土曜日曜は無い。休みは通常勤務終えた後小隊事歩哨に着く。朝まで交代は無い。その後二十四時間の休みがある。その外ベースキャンプを維持するためいろんな作業がある。明日は気候とベースキャンプに慣れる為。休みだ」
「キャンプを維持する作業ってどういう作業ですか」
「カンダハルから水、ガソリン、食糧、弾薬。このキャンプを維持する全てだ」
「楽しい仕事を教える。バキユームカーで糞を汲み取り捨てに行く。その時も銃を離すな。捨てるとこはキャンプの外にある」
「それとパソコン。携帯電話は使用禁止だ。持って居るものは軍で預かる」
「出せ。電話を掛けたい時は軍の電話を使え。ただし会話は録音される」
「手紙はブラックバード経由でくる」
「銃の手入れ、帰って来たら必ずしろ。質問無ければ終わり」
「見ると聴くとじゃあ偉い違いだ。最前線のど真ん中だ。俺達の小隊の『コードネーム』何にする」
「皆動物の名前を付けると思う。俺はブラボー。明るく行きたい」
「悪くは無い。次無いか」
「皆賛成かじゃあ。ブラボーにする。健太お前の携帯隠せ」
「俺達も居るがテルは国との連絡が必要だ。残りは出せ」
「待ってくれメールが満夫から来ている」
「一面新聞記事だ。豚松が死んだ。同居している女が騒いでわかった」
「二人共覚醒剤中毒者で、打ち過ぎて心臓が持たなくて男が死んだ、と出ている」
「満夫からのメールもある。紀子は心配ないそうだ。お金も隠したといつている」
「此方の事情を説明してやってくれ」
 翌日朝食を食べると直ぐ、物資をとりにカンダハルにトラック四台で行くことになった。各トラックには五十口径の機関銃が着いており。各トラックに一個小隊が乗り込んだ
「この道はゲリラも出るが山賊も出る。物資を奪おうと待ち構えている。弾薬、銃はいい金になる。ブービートラップを仕掛け、爆発と同時に襲って来る。油断するな」
 フルスピードでカンダハルに向かい。途中何事もなくカンダハルに着き。トラックの荷台に平らに荷物を積み、昼飯を食べ、ベースキャンプに向かった。
「これ戦車砲の砲弾だ。ロケットランチャーが直撃したら。俺達死体も残らん。なんか尻が落ち着かん」
「昨日インターネットで見た新聞に、豚松のことが出ていた。俺達東京に居たとき起きた。浩二お前だろう。何故皆に相談しない」
「どうしても我慢出来なかった。こういう事は一人がいい。済まん」
「今度は必ず相談してくれ」
 無事にベースキャンプに着き、その日は終わった。始めての任務なので身体は疲れなかったが、何となく疲れていた。
 翌朝作戦命令が出た。
「昨日カナダ軍のコンボイが襲われ、二十台が大破し大勢死傷者が出た。これからそのゲリラを掃討しに行く。この先四十キロの所を逃走してアフガニスタンに逃げ込むという情報が入った。乗車」
「M113装甲兵員輸送車や装甲装輪装甲車があんなにあるのに、何でトラックなんだ」
「文句を言うな。あれはアメリカ軍用だ。俺達出稼ぎは乗れない」
「降りろ。これからは徒歩だ。油断するな。情報が正しかったらもう直ぐ敵と遭遇する」

 一時間程歩き山の裾野に出た。大きな岩だらけの山だった。
「どうした吾郎。足挫いたか、皆止まれ」
「まずい。俺ならあの岩陰で待ち伏せする」
 吾郎が皆を呼び止め、靴の紐を直す振りをしたとき、岩陰から機関銃と小銃の一斉射撃が起きた。
「岩陰に隠れろ。撃て。撃って撃ちまくれ」
「和正、新一俺について来い。あとの者はランチャーを使え」
「和正、新一左に廻り込む。行くぞ。和正、二時の方向に尖った岩がある。そこに居る奴が指揮者だ。指図している頭ぶっ飛ばせ」
「新一、ランチャー撃ちまくれ」
「よしヒットした。指揮者をやった」
「逃げて行く。取りあえずは勝った」
 長い時間のようだったが二十分程で戦闘が終わった。始めての実戦なので自分がどう動いたか余りわ判らなかった。だが、ランチャーの弾が全部無くなり、銃のマガジンが三個空になつていた
「ブラボー小隊が左に廻りこまなかつたら、もっと犠牲者が出た。死傷者は居るか」
「ブラボー小隊は全員無事です」
「最初の一斉射撃でやられた。死傷者を運ぶ」
「俺、小便ちびつた。気分悪い」
「俺もだ。気にするな。怖かった」
 傭兵四人、兵士六人の戦死者が出た。負傷者十二名その内重傷者四名。それらをおぶつたり担いだりしてトラックに乗せ、キャンプに戻った。初めての戦闘で、寝ても寝付かれず、全員朝方少し寝ただけだった。その日は基地内の雑用をした。
「次は糞の汲み取りだ。健太、バキユームカー持って来い」
「毎日汲み取りの仕事をしている。ここでは食べる事だけが楽しみだ」
「凝固剤入れろ。健太運転頼む」
「後の者はハンヴィー(高機動多用装輪車両)に乗れ。行くぞ」
「無線テストしろ。気を付けろ。襲われたら味方が来るまで俺達だけで戦う事になる。テル五十口径(機関銃)頼む」
「デカイ穴だ。真ん中までパイプが通っている。このパイプに接続して穴に捨てるんだ」
「前日捨てた糞乾いている。風で糞が飛ばないように凝固剤入れるんだ」
「あんまりニオイがしない。これだけ日差しが強ければ一日で水分が無くなる」
「終わった行こう。後夜の歩哨まで仕事が無い」
 時間があつたので皆は手紙を書いた。出すのも来るのもブラックバード経由だった。夕食を食べ、朝まで交代無しの小隊歩哨に着いた。
「この場所一番ヤバイ所だな。五十口径が二台もある。おまけに迫撃砲まである」
「ストライク。熱式暗視スコープ。テストしてくれ」
「吾郎無線テスト頼む」
 何事も無く夜が明け、朝食を食べ、簡易ベッドに潜り込んだ。食べられる時に食べ、寝れる時に寝る。身体に染み付いており直ぐに寝た。寝て三時間程立った頃、中尉の声で起こされた。
「起きろ。イギリス軍がテロリスト達に包囲され苦戦して居る。今から救援に行く」
「皆任務に着いており、今出せるのは五個小隊だ。ここから百キロ程離れた国境のそばだ。トラック五台で行く武器は何でも積め。二十分後に出発だ」
「トラックに三台五十口径付けれるな。三台積もう。それとグレネードランチャーの弾、沢山積もう。AT4(単発使い捨て無反動砲)も積もう」
 砂塵を巻き上げ、フルスピードで救援に向かった。途中から道の無い所を進み、遠くから機関銃や小銃の発射音が聞こえて来た。

「トラックから下車。バラバラに進め」
「中尉殿ブラボー小隊はこのままイギリス軍とテロリスト達の真ん中を進みます」
「良いか最初はAT4を撃て。その後M32グレネードランチャー(六連発型軍用リボルリンググレネードランチャー)と機関銃だ」
「新一、行け」
 敵も味方も突っ込んでくるトラックを見て唖然とした。AT4が四発爆発、その後ランチャー弾が至る所で爆発し、機関銃弾が地面を舐める用に撃ち込まれ、援軍が向かって来るのでテロリスト達は浮き足立った。一人が逃げたら釣られて一斉に逃げ出した。
「追うな国境を越えてはならない。撃つな。国際問題になる」
「ブラボー小隊負傷者は居るか?良くやった」
「取りあえずイギリス軍の車が大破して使いもんにならない。我々のベースキャンプに連れて行く。衛生兵は手当てしろ」
 イギリス軍の負傷者と戦死者をトラックに乗せ、ベースキャンプに戻った。
「浩二今日の作戦はもうなしだ。ロケットランチャー敵が持つていたらアウトだ」
 中東に来て四カ月が過ぎたが、キャンプの門を出ると緊張し不安になった。帰って来る車には必ずポンチヨ(死体を入れる袋)があつた。戦闘が無いときは狙撃されていた。ブラボー小隊を含め全員が慣れると言う事は無かった。

「でかい作戦みたいだ。二個大隊位出て行く」
「ブラボー小隊はキャンプの警護だ。キャンプの周りを見てこよう。ハンウィーを使ってもいいと許可が出ている。誰か五十口径(機関銃)を頼む行こう」
「浩二変だ。三人も人を見た。双眼鏡でキャンプを見ていた奴がいた。キャンプを一周し全部で四人だ」
「報告したが、奴らには二面作戦をするほど兵力がないそうだ。出て行った二個大隊は今夜は夜営するそうだ。人数が少ないが。神経質になるなと言われた」
 一時間起きに基地の周りを廻り、一日の任務が終わった。人数が少ないせいか基地は静かだった。
 寝ようとしたとき。大慰が飛び込んで来た。
「敵の作戦にまんまと引っかかった。情報はガセだった。間もなく敵が攻撃して来る。ブラボー小隊は何時もの歩哨の所を守ってくれ。いるものは何でも使え」
「今キャンプにはどれくらい居ますか」
「コック、事務員総動員しても千人ぐらいだ。その内戦闘員は。五百人ぐらいだ。ブラボー小隊の所破られたら基地内に敵が侵入される。頑張ってくれ」
「機関銃もう一丁持つて行こう。手榴弾、ランチャー」
「塹壕の五十メートル前にはちかずけるな手榴弾を投げられる」
「M18A1一(クレイモア地雷)沢山使おう。リモコン信管を使う」
「急ごう」
「何とか間に合った。浩二、地雷は五十個セットした。何とかなる」
「照明弾も山盛りもつてきた」
「新一、何食べている」
「干し肉倉庫に行った時にあったから持つて来た。沢山ある。食べるか」
「皆が死んでも新一だけ助かるような気がする。くれ」
「熱式暗視スコープで良く見ててくれ。無線テストする」
「全部配置に着いたそうだ」
「そろそろ来る。斥候だと思う奴が居る」
「無線の話しを聞くと包囲された。コックさん。事務員さん頼みますよ」
「飛行機は来ないのか。戦闘機でも戦闘ヘリコプターでもあるだろう」
「迫撃砲だ。照明弾を撃て。凄い人数だ」
「撃つな。地雷まで引きつけろ」
「まだまだ」
「よしやれ」
 五十個が一斉に爆発し。前方五百メートルにいた敵の姿が消えた。その後は壮絶な撃ち合いになった。風も無い為に硝煙と血の混じった匂いが漂い、小銃、機関銃訳の解らん爆発音の音の間に悲鳴と、微かに衛生兵を呼ぶ声が聞こえた。
「これがジハードか。倒しても倒してもくる」
「ここは突破されるな。されたらキャンプは全滅するコックも事務員もがんばつている。もう直ぐ戦闘ヘリコプターが来る」
「この攻撃は師団規模の攻撃だ。人数が凄い。死ぬことを恐れていない」
「来た。ヘリコプターの音がする」
「頭を引っ込めろと。無線が言っている」
「ありがたい。敵が撤退し出した。もう少しで弾切れになるところだった」
「もう直ぐ夜が明ける。長い戦闘だった」
「それにしても戦闘ヘリ遅い。CIAの情報部何をしていた。騙されやがって」
「愚痴を言っても仕方が無い。戦闘解除だ。夜が明けた」

「滅茶苦茶だ。食堂は直撃弾だ。倉庫も直撃弾だ」
「携帯食も無しか。こたえる」
「新一、飯の心配かよ。何があっても新一だけは生き残れる」
「全員怪我もなく無事で良かった。俺達の部屋も半壊だ」
「皆銃交換してもらおう。銃芯が曲がっている可能性がある。これだけ撃つと回転不良をおこす」

 工兵が来て。十日位で全て元に戻った。ブラボー小隊は、コンボイの護衛とパトロールの通常勤務に戻った。
「ブラボー小隊は。明日から四日カンダハルに行く。任務はメディアの護衛だ」
「世界中から新聞記者、テレビクルーが来る。服装、マナーに気をつけろ。戦闘服は洗濯しろ」
「特に言葉使い。戦闘の事は言うな。以上」

 翌朝トラックに乗りカンダハルに行へ行った。仮設テントに案内され、メディアとの注意をいろいろいわれた。
「随分居るな。護衛だらけだ。皆臨戦態勢だ」
「出て来た」
「テレビクルーに張り付け。女性のリポーターが多い。建物の窓に気を付けろ」
 五分程歩いた時、百メートル程先の小型トラックが、フルスピードでメディアの所に向かって来た。
「自爆テロだ」
「撃て」
 小型トラックが爆発し、それと同時に至る所から銃声がして来た。
「新一、吾郎皆を建物の中に入れろ」
「和正、二時の方向の右端の二階の窓だ。スナイパーが居る」
「やれ。アメリカ兵がやられた」
「窓から覗くな。頭ぶっ飛ばされるぞ」
「窓から離れろ」
 一斉射撃の後銃声がやみ、敵が逃げていった。一人も捕まらなかった。敵の犠牲者は和正の撃った一人だけだった。アメリカ軍の方は四人が死亡、重傷六人を出した。慌てた軍の関係者は、メディアの関係者を返すことにした。
「明日から掃討作戦を行う。お前達も参加する。世界中にアメリカ軍は恥を掻いた。CIAの情報部の奴らどうなつている。遊んでいるのか」
 三日間探しだが、一人も見つからなかった。
 
 夕方浩二が司令部に呼ばれた時、かなり緊張していた。
「俺一人では決められないこと頼まれた。メディア襲撃の時、イギリスの記者二名が拉致された。一人は皇室の関係者でかなり近い親戚らしい」
「荷物も一緒なので、その中に携帯電話のGPSで居場所がわかつている」
「電池が切れると居場所が分からなくなるし、身分がばれると政治的にかなりまずい」
「ここから五時間ぐらい行った所に『ピールヅャン』という小さな町がある。イラン領だ。その町はイスラム教の小学校と大学があり、子供達は第2のメッカと呼んでいる。そこに監禁されている」
「武器は持って行かない。飛行機で降下し奪回する。一人一千万出すそうだ」
「何故アメリカ軍がやらない」
「もしアメリカ軍の兵士が捕まったら、国際問題どころか戦争になる。それと降下訓練受けた兵士を呼ぶ時間が無い。電池が切れる」
「良いとなつたら民間人の服装で行く」
「ピールヅャンの町は武器持ち込みが禁止されている。敵ももつていない」
「俺やってもいい。敵はどれくらいだ」
「人工衛星では六人となつている。まだ身分がばれていないから人数が少ない。時間が無いやるか手を上げてくれ」
「おー。皆か」
「報告して来る」
「暗視スコープが要る。それとGPSだ」
 時間が無いので直ぐに飛行場に行き、飛行場に飛び乗った。
「衛星写真だ。頭に叩き込め。丸が付いている所に居る」
「国境の十キロ手前に降下する。十五キロ程歩く」
「衛星写真では平らだ。民家は無い」
 二時間程何もする事が無いので、寝た。
 降下ランプが着き、素早く皆は飛び降りた。
 十分後皆は集まった。
「磁石では此方だ行こう」
「随分歩いた。国境は越えた」
「電気が無いからよくわからん」
「止まれあれだ。建物が見える。音立てるな行こう」
「浩二、あれだモスクだ。その横の巡礼者用の宿だ」
「暗視スコープで見たら八人居る」
「ストライク。俺達が部屋に入ったら、懐中電灯二本で左右に照らせ」
「ドアに鍵掛かって居ませんように」
 第二のメッカと言われているだけに、鍵は掛かって居なかったのでいきなり飛び込み、床に寝ていた六人を襲い、気絶させた。
「助けに来ました。帰りましょう。急いで」
「荷物がある。もつていかなくちゃ」
「これ、私達が持ちます」
「急いで。国境まで走ります」
「私達は武器を持っていません。助かる道は走る事です」
「こちらブラボー。買い物は済んだ」
「タクシー頼む。荷物が多い」
 危険を侵して。国境の五キロ程の所にヘリコプターが降りて来てくれた。
「浩二今度から値上げしよう『おぶる』とは思わなかった。重かった」
 カンダハルから戻ってから十日位立った頃、満夫から部厚い手紙が届いた。
「新聞が何紙も入っている」
「これ俺達だ。一面トップに出ている」
「ここで死ななくとも、帰ったら父ちゃん母ちゃんに殺される」
「こっちの新聞には。俺の母さんの話が載っている。高校の時の同級生の話も載っている」
「満夫の手紙では日本で大騒ぎになつている。満夫の所にもテレビや、新聞記者が来たが、日本は職業の自由が保証されて要る。問題は無いと言ってやった。皆の両親からの電話は答えたと書いてある」
「紀子も子供も元気で居る」
「信二の所は女性が入れ替わり八十人になったそうだ。繁盛している」
「関東テレビの女性アナウンサーで西野香織さんという人から、新一に電話欲しいと頼まれた。どうなつている。日本の事は何とかする。心配するなと書いてある」
「新一。あの場面で大したもんだ。その余裕立派だ」
「明日歩哨だ。夜電話しよう。日本は昼だ」
「この頃随分若者の傭兵が増えた。食堂で話した奴なんかハーバード出ている。そいつが彼奴も。彼奴も。そうだと指差した。アメリカは不景気なんだ。中東の戦費が多すぎる」
「警察が人員整理され。ニューヨークはかなりヤバイらしい。女性達も食うのと部屋代で一杯一杯らしい。ここに居る若者達はおそらく。奨学金の支払い。の為に来ている。親父は東京と皆に感謝している」
 何カ月居てもキャンプを出ると緊張した。ここ一ヶ月は「ブービートラップ」で輸送トラックが爆破され、小さな小競り合いが。二回程あつただけだつた。浩二が又司令部に呼ばれた。
「又難しい事頼まれた」
「ブラボー小隊に十億出すそうだ。二回やつて。二回共失敗している。かなりヤバイ難しい作戦だ。命がいくら有っても足りない」
「よくきいてくれ。仕事の場所はアフリカだ」
「アメリカと言うより世界中がまずい。ソマリア、ケニア、エチオピアの三ヵ国に囲まれた所に『ベニトロ』という町がある」
「三ヵ国共、自国の領土と主張している。ここでダイヤモンドが採れる。ゲリラが横行しダイヤが運び出せないで居る。かなりの量らしい」
「それをソマリアと山賊、海賊が狙っている。ソマリアの海賊に奪われたら。高速挺を買い、最新式の武器を乗せたら世界中の貿易が打撃を受ける」
「アメリカとしてはどんな事があっても、ソマリアの海賊には渡せない。四百ロ行って。四百キロ戻る。そしてダイヤを持ち帰る」
「鉱山も爆破する。鉱山の所長はイギリスの大学を出ていて此方の味方だ。ダイヤの入っている金庫を開けれる」
「特殊部隊があるだろう。何故行かん」
「一回目、三十人。二回目、三十人。途中で全滅している」
「特殊訓練受けたものが全滅とは。裏切り者が居るんだろう」
「身内に居るか所長だろう」
「何故俺達なんだ。失敗しても元々。俺達は使い捨てか」
「現地が緊張している」
「六~七日でソマリアの海賊が鉱山に着く。それを知った他のゲリラも鉱山に向かって居るどうする?行くか」
「俺行ってもいいが、条件がある。所長には教えるな」
「アフリカに屍を晒すことになる。死体など両親の元に戻らん」
「ストライクは一人っ子だろう」
「テル、革命が出来なくなる」
「だが、成功したら十億が入る。明日の朝まで考えよう」
 考える事など無かった。アメリカ軍の中でも精鋭と言われた特殊部隊が失敗したのなら俺達がやってやる。利用されているとわかっていても成功して見せる・・・
「浩二、員賛成だ。明日まで待たなくとも良い。作戦を立てよう」

「時間が無い。山でゲリラと遭遇したら、孤立無援で戦わなければならない」
「合わない方がいい。飛行機で降下する」
「人工衛星の『赤外線探査機』なら夜間でも人が居るか分かる」
「夜だけ動く。アメリカ軍もそれぐらいサポートしてくれるだろう」
「そして明け方、寝込みを襲う。こんな作戦でどうだ。現地の事がわからないので臨機応変で行こう」
「帰りはどうする」
「アメリカ軍の考えではソマリアを四百キロ横断したら潜水艦が拾ってくれる。それに乗って帰る」
「取りあえず報告して来る」
「中東も初めてなのに今度はアフリカだ」
「夜行って、夜帰る。俺達まるで泥棒だ」
「考えが同じだった。飛行機で行き降下する」
「鉱山の所長には今回は教え無い」
「二時間後にエジプトに出発する。今回も私服だ何も要らないそうだ。エジプトに用意してある」
「隠してある携帯電話もつていく」
「充電してあるか?コンパス忘れるな」
「精巧なアフリカ地図貰って来る。それとエジプトでありとあらゆる注射をする。アメリカ軍から一人俺達と同行する」
「おそらくCIAの奴だな。事務方で足手まといになったらたまらん」
 カンダハルから飛行機に乗り、エジプトに向かった。彼らの為に用意した。特別機でブラボー小隊以外乗客はいなかつた。

「よく決意した私が君たちと同行する。マクレガー中尉だ。指揮を取る。ゲリラと遭遇するのは、五日後になる」
「飛行機で降下すれば三日後に鉱山に着く」
「何としてもゲリラには会いたくない。だから今夜飛ぶ」
「銃はロシアのカラニコフだ。手榴弾、各自三個。カートリッジ(弾)十個。C4(プラスチック爆弾)五キロ.時限装置雷管五個。食糧十食。水八キロ。緊急キット。その他全部で四十キロになる」
「キツイ作戦になるが支援は無い。目的地の海岸に付いて初めて支援がある」
「降下する所は山の麓にかなり広い原っぱがある。そこに降下する」
飛行機は他国の上空を無断で飛ぶ為高高度を飛んでいた。降下する所には人が居ないとアナウンスがあり、飛行機が行きなり急降下した。飛行機が水平になった時降下ランプが着き、素早く全員が飛び降りた。
「全員怪我無いか」
 
 
ダイヤ強奪作戦

暗い夜道を、コンパスと暗視スコープで越えなければならない。山裾に向かった。雑草が茂り、小さな木がまばらに生えていた。
「明るくなつてきた。衛星で調べたらこの辺には人は居ないと報告があつた。取りあえず夜に備えて。休憩する所を探そう」
「ここが良い。午後からこの岩が日陰を作ってくれる」
「交替で歩哨に着く。朝飯を食べよう」
 体力温存というより、歩哨以外何もする事が無いので、岩陰で寝て過ごした。
「今夜中に頂上まで行きたいが、どれ位時間掛かる」
「七時間ぐらいで頂上に着く予定だ」
「マクレガー中尉殿。今夜中に麓に降りませんか」
「明日一日敵の動きみたいし、敵の人数も知りたい」
「私も敵の人数が知りたいと思っていた。さっきの連絡ではこの辺には人が居ないと連絡があつた。明るいが行こう」
 頂上まで登り、まだ暗い内に山の麓に着いた。
「コンパスの位置ではこの前ぐらいだ」
「灯りが見える。鉱山じゃあ無いか。もう少しいつてみよう」
「スコープはどうだ」
「建物が見える」
「幾つかある」
「もう直ぐ夜が明ける。気持ちの良い朝だ。昼間の暑さ考えられん」

「明るくなつてきた。左にある二個の平屋は鉱山で働く人の宿舎だろう」
「右端にあるのが事務所と。二階が監督の寄宿だろう」
「広場の先にあるのがダイヤモンド鉱山だ」
「マクレガー中尉殿。所長が金庫開けなかったらどうしますか」
「それも考えていい物もつてきた」
「この二個の薬品を混ぜるとどんな金属でも溶かす。一個じゃあ振っても、落としでも飲んでも何でもない。増せると金属を溶かす」
「煙突から煙が出て来た。事務所の隣は食堂だ。これで人数が分かる」
「二階は間違い無く所長の住居だ。ベランダがある。人数確認の為に全員で人数を確認しよう」」
「所長も入れて十五人だ」
「彼奴ら鉱山の人間じゃ無い。ゲリラだ。弾帯付けていた」
「鉱山の人間は逃げたんだ。武器を持っている」
「寝込みを襲う」
「夕食にもう一度人数を確認しよう。明日の朝明るくなったら決行する。四時三十分頃明るくなる」
 歩哨以外何もする事が無いので、寝た。
「今四時だ無線テストする」
「武器確認。新一、吾郎。鉱山爆破しろ」
「テル、ストライク。マクレガー中尉殿について行け」
「健太、和正。俺とゲリラをやる」
「新一、降りたとこでC4(プラスチック爆弾)を。吾郎に渡せ」
「重い。気をつけろ」
「新一、吾郎。手榴弾をくれ」
「行こう」
「新一、奥からやれ。終わったら事務所で会おう」
「窓から手榴弾投げると俺達の逃げ場所が無い。入口から投げる二個でいい」
「安全ピン抜け。もう一個は歯で抜け」
「投げたらあのショベルカーの陰に隠れる」
「入口に鍵が掛かっていたら蹴破る」
「所長と話ししている頃だ。行こう」
 入口は鍵が掛かっておらず、薄明るくなった室内に手榴弾を投げた。素早くショベルカーの陰に隠れると同時に、六発の手榴弾が爆発した。助かった奴がいたら射殺しようと思い、銃を構えたが誰も出て来なかった。
「新一」と吾郎がトンネルから飛び出してきた。事務所の陰に隠れると同時に、地面を揺るがし、重苦しい爆発音がした。爆発音が収まると同時に、事務所から乾いた拳銃の発射音と小銃の発射音がした。
「ストライク、テル。大丈夫か」
「トンネルの爆発音がしたら所長が『何をする』といつて、金庫の中に有つた拳銃でマクレガー中尉を撃った。俺も所長を撃った」
「ストライク、金庫の中の袋数えて出せ」
「七五個」
「皆手分けしてナップサックに詰めろ」
「吾郎探せ。その辺にタンカがあるマクレガー中尉を運ぶ」
「どっちに逃げる?ソマリアの方に逃げるとゲリラに合うかも知れない」
「皆の意見を効きたい。どっちに逃げる」
「ソマリアはまずい。元来た道を引き返す」
「エチオピアを通ってジブチまで出たら、サウジアラビアかエジプトに出て、アメリカ軍に電話したら迎えに来る」
「なんせダイヤをもつている。どんな事があっても迎えに来る」
「他国へアメリカ軍の飛行機で皆殺しの強盗に行った。バレたら世界中が湧き上がる」
「その意見に賛成だ」
「俺は潜水艦に乗るのがヤバイと思う。ダイヤだけ取られ、毒殺でもされて、魚雷の発射管から撃ち出されるのは御免だ」
「元来た道を引き返す。タンカ代わる代わる運ぶ」
「行こう」
「和正何してる行くぞ」
 
 マクレガー中尉を運ぶ為思うように進まなかった。
「浩二駄目だ。マクレガー中尉を埋めて行こう。ゲリラに追い付かれる」
「ダイヤを持っているんだ。敵も必死で追ってくる」
「そこの窪地でいい。上に石を積もう」
「GPSで場所が分かる」
「マクレガー中尉の携帯電話壊せ。俺達の居所を分からなくする。行こう」
 マクレガー中尉の遺体を埋めて身軽になったといつても、ダイヤが一人二十五キロになり、残りの水、食糧、弾丸で四十キロ以上になつていた。
「GPSでは国境を越えた。エチオピアだ」
「ダイヤと武器を携帯している。捕まったらアウトだ」
「夜になつたら動く。昼間は身体を休める。寝よう」
「俺、エチオピアに親友が居る。エチオピアの大統領の甥で、今副外務大臣をしている。彼なら助けてくれる」
「フランスのソルボンヌ大学で四年間ルームメイトだった。部屋代も食事代も出してくれた。彼は信用出来る」
「エチオピアからジブチに入るのに国境がある。越えるの大変だ」
「それよりジブチの国境まで六~七日かかる。水と食糧があと三日分しかない」
「三日分あれば間に合う。彼に迎えにきてもらう」
「それしか無い。テルに頼もう」
「ストライクお父さんに頼んでくれ。ジブチの港に漁船でも何でもいい、居てくれるように頼んでくれ。ジブチを出たらサウジアラビアでもエジプトでも、入ったら軍隊と警察がしっかりしている。捕まる可能性が大きい船なら何とかなる」
「親父に頼んだらなんとかなる。ニューヨークは世界中の人間が居る。ファミリーの仲にも中東の人間が大勢仕事をしていた」
「明日から待機してもらう親父なら見つけてれる」
「なー皆、俺達こんなに苦労して居る。十億じゃあ納得出来ない。七五個袋がある。俺達も貰っても良いと思う」
「それと個々にある袋。金庫に鹿平と書いてあつたので日本製だと思った」
「引き出しの奥に隠し引き出しがあるの知っていたので、引っ張り出したらこの袋五個が入っていた。かなり良い物だと思う。ブルーやピンク、イエローさっぱり値段が解らんが貰っておこう」
「解った十袋貰おう。報酬の十億とダイヤでかなりの武器が買える」
 翌日歩哨だけ残し、皆は日中寝る事にした。お昼過ぎにテルとストライクが電話した。
「迎えに来るそうだ。『ドロウ』と言う所に小さなモスクがあり、夜は誰も居ない。着いたら動くなということだ」
「心配無い。アメリカに居るとき何度もメールした。皆の事も教えてある。二日後の夜十二時に合流する」
「今首都のアデイスアベバにいる。ロルマウサルデキオルパティオという大統領の甥だ心配無い。エチオピアは古い国だ。キリスト教とイスラム教が半々だ。他のアフリカと違って陽気さはないが、礼儀正しく控え目だ」
「公用語はアムハラ語だが州によって違う。オロモ語、イグリニャ語などだ。英語など高級ホテルでなければ通じない。古い国だから世界遺産が沢山ある」
「四年間、彼はこれからの国の事。俺は革命を成功させる事を朝まで語った」
「メールでは今問題になつているODAで中国に道路や橋を作ってもらうと、人夫も一緒にきてエチオピア人は使わず、終わったら人夫をそのまま置いて帰る。今、中国人五万人エチオピアに居るそうだ」
「そんな良い国に俺達は武器を持ってこそこそしている。恥ずかしい」

「親父の方はOKだ。俺も知っている人だ。明日から港に居るそうだ」
「小さなタンカーだが、何処にでも行ける許可証をもつている。黄色の旗を出しておくといつていた」
「なーテル。西アルロマつてどんな国だ。女性は美人か。石油、鉱物が取れ貿易をするには良い位置にあって、良い港があるぐらいしか知らない」
「私の国は、長い間フランスとイギリスの植民地だった。だからキリスト教とイスラム教が半々だ」
「そして東アルロマはフランス、西アルロマはイギリスに分断された。今は解放された独立国だ」
「東アルロマは海岸の所に大きな山があり、霧が発生して農業が盛んだ。果物も採れる。農業国と言ってもいい」
「西アルロマは砂漠が多い。十年程前から石油、鉱物が採れるようになった。石油の埋蔵量が凄いらしい。だから今中国が盛んに援助している。このままで行くと中国と独裁者に国の富をもつていかれ、国民には何の恩恵も無い。国民はますます貧乏になる」
「どうして東西一緒にならない。なったら凄い国になる。恐らく自給自足が出来る」
「私の国、西アルロマが独裁体制なので難しい。独裁者を倒したら直ぐにでもなれる」
「今はパスポート、ビザが要らない国境警備隊が居るが、麻薬と犯罪者を取り締まる為にあるようなものだ。両国民は自由に出入りしている。イギリスとフランスの植民地が長かったので混血が多い。女性は美人だと言われている」
「早くテルの国に行きたい」
「皆水はどれくらいある?明日の夜まで持たせろ」
「ダイヤ売ったらどれくらいになるかな。十億位にならないかな。そしたら二十億にはなる。どれくらい武器が買える」
「小銃四千。弾五万発。機関銃五十台。弾四万発。迫撃砲四十台。弾三百。使い捨てロケットランチャー百。手榴弾五百。最低でもこれぐらい居る。その外医薬品。無線器。運送費。上げたら切りがない」
「そんなに要るか?」
「足りないぐらいだ。失敗はなしだ」
「二回目は何倍もの金が掛かり、大勢の若者達が死ぬ」
「一回で成功させる。今夜はかなり歩く。寝よう」
 日差しがきついが、湿気が無いため日陰に居ると寝れるので歩哨以外寝た。
「歩いても歩いても民家と言うか、集落が無い。エチオピアは広い」
「だけど樹木はあんまり無いけど雑草が多い。穀物地帯になる可能性がある」
「休憩しようGPSとコンパスで位置を確認しよう」
「薄明るくなって来た。あと五時間程で合流地点に着く」
「車が通れる道があると言うことは、民家がある」
「この辺で夜をまとう。方向は間違って無い」
「テル、革命成功したらどんな国にするんだ。革命より時間が掛かり難しいと思う」
「成功の後が大変だと思う。宗教や派閥、利権それらの言うこと聴いていたら民主主義国家はなり立たない」
「他の国と違うのは部族長が居ないことだ」
「革命後の混乱を起こさない事だ」
「直ぐ臨時の議会を立ち上げる。そして世界に新しい国家の宣言をする」
「今の独裁者がひとつだけ良いことしている。教育が充実している。小学校から男女共学で大学も三校ある百五十年の歴史がある大学もある。識字率が高いだから民主主義は直ぐ受け入れられる。最初が肝心だ」
「そうか。そこまで考えて居るんだ」
「日本も応援すると思う。民主主義国家から石油、鉱物が買える。かなりすると思う。俺達が両国の仲介役だ」
 日差しの強い中、木陰で皆はこれからの事を熱望く語った。そして夜に備えて寝た。
「行こう一時間前にはモスクにつきたい」
 五時間程歩き約束の一時間前にモスクについた。モスクを囲むように民家があつた。
「道路の左右に別れよう。絶対人に見つかるな。テルの友達に迷惑が掛かる。テル、ナイトビジョンで確認頼む」
 待機してから四十分ほどして、車のライトが近づいて来た。
 モスクの手前で止まり、ライトを二回点滅させた。
 テルがナイトビジョンで確認し、車に向かった。二人は再会を喜び、抱き合った。そしてテルが大きく手を振った。
「挨拶は後で。この場離れましょう」
「ジブチまで三日掛かります。今日はナゲレまで行きます。そこに泊まり翌朝早く出て、アデイスアベバに行き、泊まって翌朝出て、ジブチの国境には夜着きます」
「私はジブチには入れないので、ジブチの人が迎えに来てます。信用の置ける男です」
「何から何までお世話になります」
「気にしないで下さい。四年間随分聞かされました。やっと皆さんのお陰で夢が叶います。友としてこんな嬉しい事はありません。私もお手伝いしたいのですか立場上出来ません。こんな事ぐらいです。この国での事は任せて下さい」
「私の国はとても貧しいです。インフラ整備の為外国から援助を受けています。特に中国からです。横柄に振る舞っています。アルロマも中国から援助を受けているようですが。良い考えではないと思います。革命が成功したら我が国も中国との着き合いを考えるでしよう」

 夕方ナゲレに着いた。
「ホテルを取ってあります。中で食事が出来ます。外に出ない方がいいでしよう。私も泊まります」
「その前に着ている物替えましょう。臭い」
 ホテルに入り、久しぶりにシャワーを使い新しい下着と服に着替え、温かい食事をした。そしてベッドでぐっすり寝た。
 翌朝アデイスアベバに向かった。
「今夜はエチオピアの民族料理を楽しんで下さい。ホテルの中では酒も飲めます」
 エチオピア料理をご馳走になり。ワインも少し飲み、翌朝ジブチに向かった。
「間もなく国境です。大使館の者がジブチの港まで案内します。信頼の置ける男です」
「私はここまでです。立場上行けません」
「居ました。あの男です」
「テル、成功祈っている。死ぬなよ。お前が死んだら革命が成功しても意味がない。今度会うときは祝賀会の会場だ」
「ありがとう。助かった」
「頼みがある。これアメリカに送って欲しい。十一個あるこの一個は貰ってくれ」
「テル要らない。貰ったら私とテルの友情が壊れる。これもアメリカに送る。外交官荷物で送る。任せろ」
「行け。人目につく」
 大使館特権と賄賂で無事に国境を越えた。
「どれぐらいで。港まで行けますか」
「三時間ぐらいです。大使館ナンバーなので警察や警備隊に止められる事はありません」
 昼前に港に着き、岸壁のはすれに五百トン程のタンカーが停泊しており、デッキに黄色い布が二枚かけてあった。ストライクが行き、大きく手をふつたので全員タンカーに向かった。
「親父の処に十五年いた。船長は子供の頃から知ってる」
「お金を貯めて国に帰り船を買うと言ってお金を貯めていた。夢が叶った」
「マフィアにいて真面目と言うのも変だが真面目だった」
「信用出来るだけどタンカーだとは思わなかった」
「ドンの処で真面目に悪いことしてお金貯めました。漁船にしようかと思ったが、収入が不和定なので、儲けが少ないがタンカーにしました」
「出港します。エジプトに向かいます」
「二日で着きます」
「ストライク、良い若者になった。さぞかしドンも喜んでいるでしょう」
「部屋に案内します。ベッドがありませんが、マットがあります。風通しが好いです。デッキで寝ても構いません」
「この辺の人は中国の人も日本の人も見分けがつきません」
「食事はあんまり美味しくはありませんが、我慢してください」

「皆聞いてくれ。基地に戻ったら色々聞かれるから話を合わそう」
「鉱山を爆破したら所長が怒ってマクレガー中尉を撃った。テルが射殺した」
「マクレガー中尉の遺体をタンカで運んだが、遠くにゲリラが見えたので来た道を引き返した」
「マクレガー中尉の遺体を運んでいたら追い付かれるので、遺体を埋めた」
「携帯電話は壊れた」
「車を盗みジブチまで出て、五千ドル払って船でエジプトまで来た」
「これでいいか。よし頭に叩き込め」
「ストライク船長のお礼五千ドルでいいか?払って来てくれ」
{明日プールサファーシャて降りる。一時間ぐらいの所に米軍の基地がある。迎えに来てもらおう」
「ドンに世話になり、この船も買ってもらったような物なのに、こんなに貰えるんですか。辞退したいがエンジンの音がおかしい。どうしようと思っていました。使わせて貰います」
 その夜エンジンの音と波を切る音を子守歌に、皆はぐっすり寝た。
「着いた」
「コレクトコールで電話して来る。小銭が居る。船長から借りてくれ」
「俺が浩二のバックアップに行く。そこの上着貸してくれ。銃を隠す」
 中々つなからなかつた。つながった時、電話の向こうでは驚いてている様子が伝わった。
「驚いていた。彼奴ら荷物の事ばっかりいつていた。一時間ぐらいでむかえにくる」
「荷物の事も何も話すな。守秘義務があるといえとさ。マクレガー中尉が死んだと言ってもさほどおどろかなかつた。荷物の事だけしつこく聞いた」

「船長色々ありがとう。この銃、海にでも捨てて下さい」
「とんでもない貰います。海賊や強盗が多い。銃は高く売れます。弾着きならなお高く売れます」
「そろそろ行きます。出港してください」
「ありがとう」

「三番倉庫の横に居ろといっていた。間もなく来る」
「トラックかよ。俺達は何処でも荷物扱いだ」
 着いた所は俄か作りの滑走路とプレハブの建物。中東なら何処にもある風景だった。少佐が来て色々聞かれたが、作戦の事は言えない、上官の許可をもらつてくれと言って突っぱねた。
 二時間程して飛行機が降りて来た。直ぐに乗りカンダハルに向かった。
 カンダハルのベースキャンプにつれて行かれ、民間人のような奴に色々一人ずつ聞かれたが、マクレガー中尉の事より荷物を持って帰って来たことに驚いていた。
 
翌日自分達の基地に戻った。
「聞いてくれ。今日と明日、休めと許可が出た。そのあとまた世界中から報道陣が来る。護衛のためカンダハルにいく」
「新一。香織さんに会えるな喜べ。キスかハグぐらいしろよ。だけど俺あんまり彼女の記憶がない。新一、香織さん美人か」
「からかうなよ。あのあと空港に行くあいだにメールのアドレス教えただけだ」
「そこだよ。あの緊迫している時にそう言う事が出来るということは。かなり気にいってる。そうだろう」
「皆に相談がある。今回のダイヤの件でも良く成功したと思う。アメリカ軍の精鋭が二回も失敗している。人と人の繋がりで成功した。この次も成功するとは言えない」
「アメリカ軍と言うよりCIAに良いように利用されている。ダイヤを受け取った奴らは軍人ではない。雰囲気で分かる。奴らは間違いなくCIAだ」
「辞めないか。死ぬのは嫌だし。誰も死んで欲しくない。今あるお金で作戦を上手く立てれば革命は成功すると思う」
「和正。俺もおんなじ考えだ」
「皆どうする?辞めたい奴は手を上げてくれ」
「皆かカンダハルには行こう。アメリカ軍が作戦を立て、俺達も組み込まれている。明日辞めたいじゃあまずい」
「この作戦が終わったら月末だ。タイミングがいい。なんぼなんでも二回もアルカイダの襲撃は無いだろう。もしあったらアメリカ大統領のクビが飛ぶ。だから情報部もCIAも、安全だと確信したから世界中のメディアを呼んだ。パトロールより楽な仕事だ」
「明日辞める事を話す」
 ブラボー小隊全員が今月末に辞めると言うと、人ずつ呼ばれ、ここであった事は外部に喋りませんと言う誓約書にサインさせられた。
 翌朝またトラックに乗せられ、カンダハルに向かった。砂と岩とほんの少しの雑草だけの景色。そして暑さ。中東を去ると思ったら、それらさえ何か愛おしいと思った。全員怪我もなく帰れると思った。神に感謝した。
「新一さんお久ぶり。香織です」
「又会えると思ったわ。皆さんお元気でしたか。後で取材させて下さい」
「香織さんと言いましたか。新一から噂は聞いてます。私達より中東の今を良く取材してください」
「私達の広報部長は新一ですから、何でも聴いて下さい」
 市民より護衛の兵士の方が多いような中で。二日間取材が行われた。翌日お金を精算してもらい基地を後にした。カンダハルからエジプトまで送るが、後は勝手に帰れということだつた。
「軍用機でエジプトまで送ると言うから親切だと思ったら、イギリス軍の偉いさんと一緒かい。まぁいいか」
 軍用機に乗ってからの彼らは複雑な気持ちだった。これで帰れる誰一人欠ける事無く負傷もせず。だが、幾度も戦闘を繰り返し、相手を撃ち死なせた。彼らにも親や兄弟、いや妻や子供も居たかも知れない。いや居たろう。関係の無い他国に来てただ仕事だからと殺す。そこにはイデオロギーも愛国心もなく、単なる仕事。死にたくない。敵より早く撃つ。それだけだった。途中からはアメリカの事などどうでもよかつた。ブラボー小隊だけで無く、全部の隊の仲間のために戦う。分かっていても答えなど無かった。
「今夜はエジプトに泊まろう。飛行機のチケット買わなければ・・・何処いく」
「ニューヨークに行こう。取り敢えず家を借り、そこを拠点にして動く」
「ニューヨークでいいか。分かった。ニューヨークのチケット買おう」
「早い便に乗ろう、明日自由にニューヨークに着く」
「インターネットで取れた。五時ジャストだ」
「今夜泊まるホテル高いけどいいか?ホテルの中で酒も飲めると書いてある。中東最後の夜だ。酒でものみながらこれからの事考えよう」
 緊張感が抜け、いい考えも出ないうちに僅かなワインで酔ってしまい、部屋に戻り寝てしまつた。
「新一さんおはようございます。どうしたんですかこんな所で会うなんて」
「香織さんこそどうしたんですか」
「私はイランの取材の帰りです。これからニューヨークに行きます」
「私達は傭兵を辞めました。ニューヨークに行くとこです。五時のフライトです」
「同じ飛行機だ。取材させてください」
「私入社して直ぐアナウンサー兼リポーターになつたの」
「一部上場会社の社長さん、弁護士、大物の歌手、一般のサラリーマン、首相・・・色んな人に会ったけど、あなた方はどれにも当てはまらない。あなた方を見ていると分からなくなる。常識に当てはまらないの」
 搭乗し皆はインタビューを受け、その後何処でも直ぐ寝る癖がついているのでぐっすり寝た。六時間程立った頃機内が騒がしくなった。
「なんだあの男。五月蠅いな」
「機内が空いてるので軽快な旅が出来ると思ったら、三人も騒いでいる」
「新一さん、ハイジャックよ。見てピストル持っている」
「勘弁してくれよ。香織さんと会えたし、楽しい旅だと思ったのに」
「浩二、ハイジャックだとよ」
 ハイジャックされたので逆らわずに落ち着いて下さい、と言うアナウンスがあったが、アメリカ人が多い為、機内がパニック状態になつた。
「飯は出るのか?腹減った」
「新一。飯の心配かよ。良い根性してるよ」
「腹が減っては。戦が出来ない」
「新一やる気か?一人でやるな。三人だが乗客の仲にまだ居る可能性がある」
「皆に通路側に座れと連絡しろ」
「俺が窓見て大声出したらやれ」
『このままニューヨークに向かい、拘束されている仲間を載せてカンダハルに戻る。その時全員を解放する。抵抗しなければ何もしない』とアナウンスがあった。
 二時間ぐらいたって、香織さんが新一にスマートフォンの画面を見せた。そこには日本人の乗客の名簿がのつていた。
「たまらんなぁ。リアルタイムで伝わる。又父ちゃん母ちゃんに心配させる。俺、怒った。叩きのめす」
「準備しろ。そろそろだ」
 ストライクとテルが変だと思った乗客の隣りにさりげなく座った。そして怯えた顔で話し掛けていた。
 三人が皆の居るところに近づいて来たとき、浩二が窓を指差し大声で『エンジンから火が出ている』と叫んだ。
 犯人が驚いて窓を見たとき、新一、和正、吾郎が犯人に飛び掛かった。ストライクも、隣の男が懐に手をいれたので手刀で首を打った。素早く拳銃を奪い、皆に銃口を向けた。
「紐が要る。何か無いか。ガムテープ。それでいい」
「機長を呼んでくれ」
「健太足も巻け」
「機長。もう居ないと思うが男は機長、女性はアテンダントで身体検査を頼みます」
「全員左に。私達は。椅子の下を調べます」
「機長。私達は腹減った」
 関東テレビ局だけが美味しい思いをしていた。隠し撮りをかなり撮っていた。
 程無くケネディ国際空港に着いた。
「参ったなぁ、インタビュー断れ無いのか」
「傭兵辞めても危ない事するって、父ちゃん母ちゃんに怒られる」
「何でこんなに居るんだ。早く終わらそう」
 一時間程色々聞かれ、中東での事も聞かれた。中東での事はトラックの護衛と言って通した。

「俺腹減った。ストライクのお母さんとこ行きたい」
「新一のリクエストでお母さんの所に行きますか。ストライク、食べたらお父さんの所に帰れ。待っている」
「電話で話した。明日、バーベキューパーティーに招待したいそうだ」
「ありがとう。よろこんて行かしてもらう」
 翌日行くと、英雄がきたと大歓迎受け、ドンの身内とバーベキューを楽しんだ。
 住む所を買うか借りる。買おう。頼んだ。
「親父から面白い話しを聞いた。都心から三十分ぐらいの所に第二次大戦の時ニューヨークを守る為に作った飛行場跡がある。『親父の知り合い』と言ってもマフィアだが、売りたがつている」
「元々インディアンの土地だったが国が借りた。戦争が終わりインディアンに返した。民間のレジャー飛行場にしたが、銀行が金貸さない為マフィアから借りて潰れた」
「だが規制がある。二ヶ所の飛行場の真ん中にある為、高い建物、大規模開発が認められていない。だからあんまり高くない」
「売れれば綺麗な金だ。マーネロンダリングしなくとも良い。不景気で予算がない為、麻薬で貯めた裏金をCIAが狙って要ると親父がいつていた」
「だから皆でまとめてイタリアのシチリア島に送るらしい。親父の所はそんな金が無い」
「飛行場跡尾を見に行こう。ストライク。レンタカー借りてくれ」
レンタカーを借り飛行場跡に向かった。
「ここか。郊外出たら二十分位だが、敷地に入ったら五分もかかつた」
「でかい滑走路が二千×千五百ある。当時の戦闘機なら充分だ」
「見ろよ木のでかい事。百年以上はたつている」
「建物は駄目だ。屋根も窓枠もボロボロだ。あの倉庫と言うか。格納庫も使い物にならない」
「この建物ボロボロだが壁がぶ厚い。爆撃に耐えるように作られている。修理すれば使えるかも知れない」
「俺ここにしたい。開発なんかしない。風通しがいいように木を少し間引きする。雑木だけだ」
「ストライク、どれくらいと言っている」
「電話して親父に聞いて貰った。一億七千万といつている。交渉して負けてもらおう」
「後の事相談しよう。パーティーの時お父さんに聞いた。ダイヤの加工が後十五日位で出来上がる。二十億位といつていた」
「小さな袋に入っていたダイヤは、かなり高価なので時間が掛かるといつていた」
「今使える金は三十億ある。残りは飛行場跡を買ったり、生活費にいる。武器を買うのは二十億位だと思う。残りは武器を運ぶ船のチヤァター代、医薬品、無線器など買うものが沢山ある。闇で買うので高いと思う」
「武器はどれぐらい買える」
「大した事無いと思う。少なくともロケットランチャー、迫撃砲、機関銃、手榴弾、C4(プラスチック爆弾)これらは絶対要る」
「小銃だって四千丁、弾十万発は要る」
「少ない武器で西アルロマに行くか。それとも何かいい方法あるか」
「金かーぁ、欲しい一回で成功させたい」


マフィアの金強奪

「俺から言う。ストライクには申し訳ないが、マフィアの金、CIAに盗られるなら俺達で盗らないか」
「俺は関係無い。面白いやる」
「皆も賛成か。考えろ」
「相手は武器を持っている。しかも、CIAを敵に回す事になる」
「一生刑務所か死ぬ事になるかもしれない」
「だが成功すると想像の付かない金が手に入る。俺は思う」
「警察問題にはならない。世間にばれると。国税局が動いて。脱税でマフィアの連中はパクられる。一生刑務所暮らしだ。盗られても泣き寝入りだ」
「だからCIAも狙っている。彼らはキレイな金を腐るだけもつている。騒がない」
「まず何処に金をストックするかだ。ストライク、それとなくお父さんに聞いてくれ。どんな事が有っても。お父さんを巻き込むな。作戦はそれからだ」
「今夜帰ったら飛行場跡の交渉してもらつてくれ」
「ホテルに帰ろう」
 ホテルに帰ったら、満夫から長い動画がパソコンに入っていた。皆で見て、ハイジャックの事で日本が大騒ぎになつている事を知った。
 ご丁寧に街の人達のコメントを長々と、入れ替わり入れ替わり若者達からお年寄りまでしていた。機内の様子を捉えるとこまで出ていた。香織と新一のワンマンショーみたいになつていた。
「何でこうなるんだ。サッパリ解らん」
「新一。一躍時の人だ。これで香織さんのハートは新一の物だ」
「満夫起こす。電話貸してくれ」
「満夫。俺新一、まずいことになつている。母ちゃんから電話あつたか」
「新一、電話あつた。皆の両親落ち着いている。危ない事辞めてくれ。それだけだ。傭兵辞めて今ニューヨークに居ると伝えてある。電話を掛けろ」
 皆はその場で家に電話した。連絡を取り合って居るらしく。身体に気をつけて危ない事をしないようにと、怒らずに淡々と言われた。
「俺見放されたかな。怒って無い」
「弟の学校で俺達英雄だってよ。俺達の母校だ。先生達も騒いでいる。参るな」
「怒らないのが怖い。寝る」

 家に電話したので、何となく気持ちが落ち込んだので早く寝た。翌朝朝食を食べていたらストライクが来た。
「食べたら飛行場跡に行こう。ここではまずい」
 皆はレンタカーで飛行場跡に向かった。
「飛行場の代金から言う。一億五千万だ。金のありかは分からないが通称親指トムの所に金が送られて来る。俺の考えだが隠し金だ。銀行では無い」
「記録が残る。だから宅急便だと思う。親指トムは麻薬王と言われている。大手の卸元だ。子分も大勢いる」
「金をシチリア島に送ったら引退する。後四人ぐらい引退するらしい。ニューヨークと東部の卸元だ。毎日金が入る。表に出るのはほんの少しだ。マネーロンダリンクしても追いつかない。凄い量だと思う。二十年分ぐらいの隠し金だ。大型トラック一台分はあると思う」
「親指トムの家はマンハッタンの高級住宅地グラマシーにある」
「事務所はイーストビレッジにある。倉庫街だ。最近レストランや高級ブティックが倉庫を改造して出店している」
「トラック一台分の金かーぁ。恐らく全部一〇〇ドル札だろうな。見当が付かん。俺やる全部頂く」
「ストライクどうする」
「やるアメリカと言うよりCIAに思い知らせてやる。ブラボー小隊は。随分良いようにCIAに使われた。CIAが金を取ってもろくな事に使わん。俺達の方が有意義に使う」
「やろうストライク」
「欲しいものがある。中国人の偽パスポートだ。親指トムの家の前に見張り所を作る。それにはパスポートが要る」
「中国人と日本人の見分けは付かないと思う」
「偽パスポートを作る所知ってる。親父の友達だ」
「これからパスポート用の写真を取りに行こう」
 
 明日の夕方までパスポートが出来ると言うので、その日は借りているレンタカーで親指トムの家と、事務所を見に行った。
「事務所は何とかなるが、家の前にはマンションしかない」
「全部ふさがっているみたいだ。飯でも食べながら考えよう」
 翌日の夕方、偽パスポートをもらい、兎に角不動産屋に行くことにした。すると、親指トムの前のマンションの反対側の部屋が空いていた
「これでは駄目だ。どうするか」
「良い考えがある。ここ借りよう。浩二借りてくれ」
「飯を食べに行こう」
「和正どうするんだ」
「屋上にテレビカメラを付ける。コードレスのやつを付ける。部屋にモニターを置けば良い」
「良い考えだ。ズームも付いて上下左右に動くカメラを置けばいい。音声は要らない」
 不動産屋の人に屋上を見せてもらつた。屋上は各部屋のクーラーの機材で一杯だった。
「故障しない限り住人は屋上にはあがつてこない」
「バッチリ。親指トムの門が写せる借りよう」
 偽パスポートを見せ、中国人の名前で部屋を借りた。
「飯を食べてからカメラを買いに行こう」
 電源が無いのでバッテリー式のカメラを買い、ついでにに生活用品も買い込んで、マンションに戻った。
「流石に日本製だバッチリ写る。ズームも最高だ。後は事務所だ」
「二、三日様子を見よう」
 二日後、昼過ぎに親指トムの門の前に宅急便が止まった。荷台から段ボール箱三個が降ろされた。
「段ボール箱の中は金だな。重いから台車に一個ずつ積んでいる」
「家の中かから四人も出てきた。散弾銃持っている奴もいる。間違い無く金だ」
 一週間に一、二回段ボール箱が配達された。
「これで金は親指トムの所に集まるのが分かった。後は何処にストックするかだ。まさか親指トムの家では無いだろう。俺達が見張り出してから一八個配達された」
 一週間たつたが段ボール箱は入るだけで出ることは無かった。入る度に散弾銃を持った男がガードしていた。
「見ろよ大型のバンが入った。運び出すんじゃあ無いか」
「人が出てきた。段ボール箱積んでいる」
「上手に付けろ新一。吾郎行け」
 
大型のバンを付けてから。四十分位で新一、吾郎が戻って来た」
「直ぐそこだ。イーストビレッジだ。事務所からワンブロック先の倉庫だ」
「ハッキリとは見えなかつたが、中に大型のトラックがあった。俺の考えだが荷台にコンテナが積んであると思う。直ぐに船に積める」
「その考え、合っていると思う」
「ストックの場所も分かった。夕食を食べながら相談しよう」
「飛行場跡に金を払う。賛成の者は手を上げてくれ」
「分かった。名義をどうするか?取り敢えずATOK興産にしないか」
「全員賛成か」
「信二が来る。女性の入れ替えの打ち合わせと、人数を増やしてもらいにくる。その時満夫も呼んで登記してもらう。それとテルの仲間を呼んで武器を買う金を渡そうと思う。今やつているミッションが失敗するとしたらマフィアよりCIAの出方によって決まる」
「保険を掛ける。俺達が捕まっても革命が成功すれば西アルロマにアメリカが援助の条件にアメリカ軍の基地の提供を言うと思う。なんせF15戦闘機なら無給油で中東のどこの国でも行って帰って来れる」
「おまけに石油、鉱物が取れ民主主義国家だ。俺達が捕まっていても西アルロマが言えば直ぐ出れる。皆どう思う」
「その通りだ。西アルロマに基地が出来るなら俺達の事などどうでもいい。俺は賛成だ」
「分かった。皆賛成か」
「次、金のストック場所が解った」
「これから手分けして動く。ストライクはここに余り来ないほうがいい。見られるとお父さんに迷惑が掛かる」
「ここの見張り。笑気ガスを手に入れる奴。飛行場跡にある格納庫を修理する」
「奪った金を一時保管するトラック事隠す」
「ストライク。ガス何とか頼む。今の仕事代わり代わりやろう」
「浩二、倉庫の中の人数分からないので赤外線暗示装置が欲しい。扉がしまつていても中の人数が分かる。縦、横から見るとベッドの位置もわかる」
「要るものは買おう。ストライク、武器を買うとこ紹介してもらつてくれ」
「だけどいつやる。根こそぎ頂こうと思うが。終わりの日にちが解らん」
「和正。俺の考えを聞いてくれ。これだけの金を運ぶんだ。船長に親戚の者を選ぶと思うがそう旨くは行かない。恐らくイタリア人でシチリア島出の船長を選ぶと思う。イタリア船籍なら尚いい」
「もっとも、荷物は教えないと思う」
「インターネットで着く日にちと時間がわかる。船長と船籍も詳しく載っている」
「裏切ったら家族、親戚皆殺される。俺に任せろ」
 五日後、皆バラバラに仕事をしているので、報告の為集まった
「俺から言う。ガス確保した。中くらいの三本。飛行場跡に置いてある。絶対バレない」
「船の着く日にちが解った。一カ月後だ。イタリア船籍でシチリア島出の船長だ。そしてコンテナ船だ。該当するのはこれだけだ」」
「格納庫はまだ掛かる。ボロボロだ」
「親指トムの動きには変わりが無い。五日間で二十四個配達された」
「明日夕方テルの友達と満夫と信二が来る。明日は皆でホテルに泊まろう。今やつている仕事の話しは無し、な」
 久しぶりの再会を喜び又部屋で飲み食いをした。新一が食べたいというので、ストライクのお母さんの所のハム、ソーセージなどが並び豪華な宴会になった」

 親指トムの見張りを休みテルと仲間を残し。飛行場跡に向かった。
「浩二この建物ボロボロだ。おまけにこの広さ、どうするんだ。飛行場でも経営するのか」
「追々考える。兎に角、皆気に入っている。ATOK興産で登記してくれ」
「それは大丈夫だ。大学の先輩に頼んだ。ニューヨークにいる」
 
 その夜又部屋で飲み。今後の打ち合わせをした。
「テル、大金だ振り込んでも大丈夫か」
「大丈夫だ。。南アルロマの銀行に振り込む」
「銀行の頭取は西アルロマに親戚が大勢いる。とても我々に理解がある。西も東も元は同じ民族だ」
「明日十億振り込もう。幹部以外に言うな。振込が敵に分かると革命が近いと悟られる」
 細々と打ち合わせし、翌日彼らは西アルロマに帰った。信二は新しい女性を頼み人数も増やしてもらつた。
 満夫の先輩に登記をしてもらい。夕方の飛行機で帰った。
 
 彼らが帰ってから十日立つが。格納庫だけはまだ修理が終わってなかった。
「後十二日で船着く。荷物が毎日届く。数も多くなった。日にちは間違い無い」
「午後、全員手伝ってくれ。ストライク、トラック借りてくれ。四トンでいいだろう」
 昼飯を食べ、浩二の言うまま目的地に向かった。
「ここだ。ストライクのお父さんに紹介してもらつた」
「言われた物全部揃っています
「浩二。これ全部武器か。テルの所に送るのか」
「イヤ飛行場跡に運ぶ。積もう」
 言われるままに急いで積み、飛行場跡に向かった。
「これM240機関銃だ。しかも四台もある。こっちはM4ショートカービンだ。しかもランチャー着きだ」
「迫撃砲もある。手榴弾もある。小型ロケットランチャーだ。此何に使う」
「アルミ粉、硫黄、ケロシン・・・これってナパーム弾の原料だろう」
「土嚢袋だ。浩二どこと戦争するんだ」
「聞いてくれ。気が付いて居ると思うが。恐らく俺達のことをCIAが目的が分からないが気にしている。金を奪ったら初めて目的が判り、ここに来る」
「撃ち合いになるのか」
「皆に聞きたい。俺は撃ち合いにはならないと思う。なぜなら俺達のことは調べれば直ぐに分かる。俺達が全滅しても彼らの戦死者は中隊規模になる。理由を聞かれたらCIA。政府が困る」
「獲物を分ける事で話が着くと思う。だからこんなに買った。ハッタリさ。武器屋の親父にも大袈裟に言うように頼んだ」
「俺も気が付いていた。CIAの奴らおんなじ色の車に乗り。いつも二人で乗っている。馬鹿でも気がつく」
「これから二手に分けよう。親指トムを見張るのと飛行場跡で陣地作りだ」
「倉庫は夜に行けばいい。赤外線暗示装置で分かる。今夜から飛行場に代わり代わり泊まる。二名ずつだ」
「武器がある。盗まれるとまずい」
 見張り以外何もする事か無いので。傭兵学校で習った陣地作りをした。
「船が後三日で着く。意見を聞きたい」
「ガスのことだが、エアコンの室外機からまく。日本製だ」
「メーカーのニューヨーク支店に行って図面をもらった。任せろ」
「侵入しそうな所に赤外線装置と思ったが、木の枝が邪魔して駄目だ。それでウイヤレスマイクを付けたい。音で侵入場所が分かる」
「武器屋のオヤジさんの所に行って、これ取ってきた。ベレッタM9だ。消着器つきだ」
「持っていくが、なるべく使わないようにしよう」
「エアーマウスを買って来た。二個ずつある。十五分と書いてあるが十分としよう。間違ってもこれを付けて鼻から息をするな。鼻栓も買って来た」
「食糧はまだ買ってない。石油コンロ、鍋、食器、水これらは買った。買う物がまだ沢山ある」
「偽パスポートで車を買った」
「トラックの鍵が無かったら直結で動かすので、トラックの窃盗のプロに教わって来た。トラックの全面をデジカメでとって見せた。任せろ」
「インターネットでは、船は予定通りだ」
「この四、五日着く荷物が増えた。一日三十個の時もあつた。倉庫の中の人数も増えた」
「後は待つだけた。マンション解約しよう」
「本国から帰国命令が出た。でも何でもいい」
 ワイヤレスマイクをセットしたり、食糧を買い、もう一度基地の弱い所を直したりして過ごした。
「いよいよ今夜だ。後で船を見に行こう」
 船を見に行き、沖に停泊しているのを確かめた。
「十一時には十八倉庫の中にいた。赤外線暗示装置では正確には分からないが酒を飲んでいるみたいだ。酔っ払っていて欲しい」
「二時に現場につくようにする。装備品をもう一度点検しよう」
「せっかく新一が買ってくれた目出し帽持って行って被ろう。行こう」
 中東で基地の門を出る時の緊張感を皆は感じていた。何も考えず任務を遂行する、只それだけだった。現場に着くと素早く赤外線暗示装置で確認し、和正が室外機に飛び着いた。
 一分ぐらいでセットしガスを五分ほど流し、新一と吾郎が持ってきた梯子で二階から入った。
 中の全員が寝ているのを確かめ、扉を少し開けた。
 和正だけ外に残り、室外機を元に戻しながら見張っていた。
 矢張り鍵がないので、ストライクが直結した。その間に新一と吾郎が窓という窓を開けた。トラックのエンジンが掛かり、扉を開け、トラックが出ると閉めた。ストライクが運転し、横に健太が乗った。
 その後を浩二達の乗った車が続いた。
「テル、健太、降りて付けて来るか。二時間程見張ってくれ」

「トラックから全部降ろす」
「降ろしても降ろしても・・・」
「ある明るくなってきた。もう少しだ」
「全部でいくつだ。二千二箱か。その上に硫黄、アルミ粉、ケロシンを載せてくれ。撃ち合いになったら金は渡さん」
「新一。朝飯、なんだ」
「アメリカの定番。スクランブルエツグとベーコン」
「コーンスープとトーストとコーヒー。以上」
「いつくるかな。誰がとつたか。解らんことは無いよな」
「そんな事無い。今頃はCIAのメンツが無いとカンカンさ」
「来るとしたら明日だ。二人づつ歩哨に付いて寝よう。ここまで来たら。相手次第だ」
 歩哨以外寝ることにした。昼とはいえ林を通って来る風が心地良く爆睡した。
「浩二。皆、起きろ。ヘリコプターがホバリングしている。赤外線熱感知器で。俺達を見ている」
「俺達がやったと思っているんだ。明日がたのしみだ。新一、晩飯何だ」
「スーテキ二百五十グラム。それとポテトサラダ。フランスパン。牛乳、アップルパイ。以上」
 翌朝又ヘリコプターがホバリングしていた。
「十時には来ると思うが。浩二どう思う」
「俺もそれぐらいだと思う。そろそろ準備しよう」
「待つのって時間が遅い。いらいらする」
「来た。車二台か」

「俺達舐められたもんだ八人か」
「いやいや見事な作戦ですな。長い人生で見たこと聴いたことないです。私はクリスディンと言います。中央情報局の人間です。世間ではCIAと呼んでます。あなた方の中東での活躍は見事ですな」:
「本題に入りましよう」
「あのトラック渡してくれませんか。十%出します」

「あなたわどういう立場の人ですか。民間の役職でおしえてください」
「課長って、とこですか」
「決定件のある部長クラスの方呼んでくれませんか。お金の事ではありません。アメリカにとって、イヤ、世界中によって有意義な話しです」
「そのためにこの作戦をしました。私達から仕掛けることはありません」
「こちらからお客様です。狙撃兵さんです」

「隙は無しですか。報告書どうりですな。電話しましょう」
「三十分位で来るそうです。よく運び出す日にちがわかりましたね。残念ながら私達判らなかった」
「簡単です。これだけの荷物を預けるのには故郷の人間しか居ません。イタリア人の船長で、イタリア船籍で、コンテナ船。インターネットで直ぐ見つかりました」
「盲点ですな。東洋人の発想かな」
「来ました」
 良いスーツを着て、見るからに高級官僚とわかる人が車から降りてきた。
「私はジョン。シャロンと言います。海外安全局の部長を勤めています。お話をききましょう」
「私達はこの金を私利私欲で取ったわけてはありません。中東に西アルロマという独裁国家があります」
「石油、鉱物が最近取れるとわかつたので中国が進出してます。潤うのは独裁者と中国だけです」
「西アルロマはフランスとイギリスの植民地だったので、民主主義国家が直ぐ出来ます。革命後はアメリカの支援が無ければやつていけません」
「テル、お前の国のことだ説明しろ」

 テルが革命後の事を熱っぽく話した。課長も部長も真剣に聞いていた。
「解った。テルは革命後重要な役に就くのか」
「我が国にも人材はいます。分かりません」
「アメリカの窓口になれ。話しは分かった。三十%でどうか」
「それで結構です」
「お願いがあります。革命が成功したら。大統領のメッセージが欲しい」
「解った。後は課長と相談してくれ」
「武器を買うの。御世話してくれますか」
「それは無理だ。だが黙認は出来る。金がある闇で買え」
「この金を一度日本に持っていきたい。日本政府に一時置くだけだタックスはなしと言ってくれますか」
「それと。アメリカ国籍が欲しい」
「わかった。OKだ。成功を祈る。後は任す」
「皆トラックに積んでくれ。六百二箱残し、全部積んでくれ」

「終わった」
「和正。明日エアービンで日本に送る。日本にお昼頃着くようにインターネットで手配頼む。数は五百五十個だ」
「ATOK興産の口座のある銀行だ」
「テル、情勢が変わった。四、五日後ぐらいに友達を呼んでくれ。詳しく言うな」

「新一、お昼ご飯のその量。誰が食べるんだ」
「捨てるの勿体無い。後。夕食と。明日の朝食だけだ。沢山食べてくれ」
「飛行機が取れた。明日九時まで持ってきてくれとの事だ。五百五十個といつてある」
「俺ここに住みたい。建築士呼んで聞いてみないか」
「ストライク、お父さんに建築士頼んでくれ。それと闇の武器商人と足の速い秘密の守れる船を頼む」

 翌朝空港で荷物を送り。空港のショップで布地の鞄を五十個買い。お金を詰め替えた。途中、課長と部長に一個ずつ宅急便で送った。飛行場跡に行くと建築士が来ていた。水道屋と電気屋も来ていた。
「広いですね今調べましたが、水道、電気は新たに引かなければなりません。浄化槽も駄目だと思います」
「建物ですが、壁は爆撃に耐えるように作られています。壁と床だけは使えます」
「明日から頼む。手付け金は明日渡す。金は掛かっても良い。重厚感を出してくれ」
 建築士と別れ、武器商人の所に向かった。ストライクのお父さんの話では最初に紹介したところが、口が固く何でも揃う。武器商人と言うので頼む事にした。
「こんなにですか?難しい物もあります。ステンガーミサイルは何とかなるが。C4(プラスチック爆弾)四トンは有っても高い。テロ使われるのでうるさい。特に電子雷管は難しい。日にちさえ貰えれば揃う」
「そう難しくないと思う。どれぐい掛かりますか」
「三十日くださいだが電子雷管は遅れるかもしれない。ボスの紹介です。何とかします」
「これ手付け金です」と言って鞄二個をさし出すと驚いていた。
 武器商人の社長とわかれいつものホテルにもどった。

「日本は朝だ。早いけど満夫に電話しよう」
「満夫、おはよう。今日昼に銀行に段ボール箱で金が届く。取りに行ってくれ」「額が大きい。守秘義務があると言ってとぼけてくれ」
「良い一日でありますように。じゃーな」

「残りの金少し分けないか?一人で使う事あるだろう」
「人一億でどうだ」
「その金額でいいと思う。明日銀行に行って、口座とクレジットカード貰おう」
「いいものが届いた。これだ開けるぞ」
「綺麗だ。あのダイヤか」
「そうだ出来上がってきた。ここにあるダイヤはあんまり採れないそうだから高い。全部で十五億で買うそうだ。特にピンク色が高いといつていた」
「凄いどうする」
「あれだけ苦労したんだ。俺達で分けないか。売るというより記念に持ってたい」
「俺も持っていたい。この間のダイヤもあるし。俺これで何か作る」
「新一、これで香織さんにやる婚約指輪が出来た」
「そんな仲じゃーないよ」
「これ見せたら一発だ」
「俺達では値打ちが解らん。公平に七個に研磨の社長に分けてもらおう」
「親父が条件にピッタリの船があるといつていた。明日分かる」
「ルームサービスで酒と何か取らないかもう七時だ」
「そうしよう。出るのかったるい」
 久しぶりぶりに穏やか気分になり、苦労した話やこれからの事で話が盛り上がった。十二時過ぎに満夫から電話があつた。
「吾郎か。大金と言ったがどうなつている。余りにも多すぎる。俺は財務省、内閣調査室、外務省わけの解らん偉いさんに質問責めだ。守秘義務があるといつて突っぱねているが何かアメリカが絡んでいると思って低姿勢だ。気持ちが悪い。それとあの金、カビ臭い」
「俺、浩二。ご苦労さん。大金持ちの気分どうだ」
「馬鹿なこというな。女性五人で数えてもまだ半分しか数えてない。後五人増やすそれでも残業になる」
「言ってやれ。日本一の銀行に二、三年でなれる。頑張って数えてくれといつてやれ」
「浩二酔っ払っているな。話してもしようがない。金額明日教える」
「良い一日でありますようになんて、とんでも無い一日だ」
 翌日銀行に行き、一億ずつ預け、クレジットカードを作って貰った。ついでに貸金庫を借りたが、多すぎて三個も借りた。五個だけ持って銀行を出て飛行場跡に向かった。工事の人達が大勢来ていた。
「水道と電気は今日からかかります。建物は窓枠や床、木を使っているところは全部駄目なので撤去します」
「建物の中の水道、電気も替えます。エレベーターも替えます」
「三日で外壁だけにします。その時アウトラインの絵コンテを持ってきます」
「四階は住居にする。真ん中はリビングにしたい。足りなければ三階の半分も住居にしてもいい」
「それと敷地を塀で囲う。コンクリート塀はだめだ。高くする。四カ所位。出口を付けて入口に門も付ける」
「それと小さい木を引き抜いてくれ。大きいのはだめだ。草もかつてくれ風通しを好くする。間引きも頼む」
 これ手付け金と言って鞄二個渡すと、現金なのでびっくりして数えようとしたが諦めて経理の女性三人を呼んでいた。

 次の日。武器など格納庫に置いて置けないので、武器商人の社長に頼んで預かってもらつた。硫黄やアルミ粉、ケロシンなどいらないので、ただで引き取って貰った。

「船が見つかった。三十日後なら何時でも良いそうだ」
「テルいつくる。満夫と信二は明日夕方つく」
「明後日お昼頃つく」
「これで最終打ち合わせをしよう。テル一回だ二回は無い。国の様子を聞いて決めよう。臨機応変にな」
 工事を急がせる為に二割増しを出し急がせた。翌日飛行場跡にいくと。現場監督が浮かない顔をして皆をまつていた。
「地下室の奥に鉄の扉があります見て下さい」
「サビ着いている。開くかなバリを取って来よう」
「ハンマーで叩け。開きそうだ。鍵はかかって無い」
「開いた空気が乾燥してる。ジメジメしてない空気が巡回している」
「外とつながっているんだ」
「広い。見ろよ。飛行機がある」
「これ、グラマン戦闘機だ。四機もある。第二次大戦の忘れ物だ。地下室は格納庫だったんだ」
「分かった。格納庫の中に鉄が張ってある所がある。昇降機だ」
「飛ぶかなぁ」
「電気系統が駄目だろう」
「こっちにあるの高射砲だ。この木箱、弾じゃないか」
「西アルロマに持っていっても弾はもう製造してないし。オブジェとしてここに飾ろう。二台ある門の前にでも飾ろう」
「戦闘機はどうする」
「一応はアメリカの財産だ。CIAの課長に相談して、いらないといつたら飛行場に飾ろう」
「満夫達もうホテルに着いている。明日でかい懐中電灯買って調べよう」
 
 ホテルに戻ると浮かない顔して二人はいた。
「大きい金を送るといつたが大き過ぎる。全部百ドル札だ。全部数え終えるのに十五人で残業した。特にしつこかったのはアメリカ局の局長だ。アメリカ大使館から直接電話があったみたいだ」
「取り敢えず守秘義務があり、聴いた者も罰せられると脅して置いた。信二と二人で飛行機の中で考えたがサッパリわからん」
「幾らあつたと思う?七千四〇〇億だ。信じられん金額だ。おまけに湿っていてカビ臭い」
「あの金は全部俺達の金だ。西アルロマの開発に使う」
「勿論外の事にも使う。何でもやる。金の出所は後で説明する」
「全員集まったので話がある。一人二百億づつ分けないか。前にも話したが。紀子も入る。賛成か」
「ありがとう。五千億をATOK興産の資本金にする」
「ストライクもテルも役員に入り、公平に株を分ける」
「それと個人的に紀子の会社に出資しようと思う。一人五十億出したい。アジア一の食肉食品会社にする。出資するか」
「全員賛成か。分かった」
「今の話は全部賛成だ。だが会社の役員には入れない。国が落ち着いて来たら色々いう奴が出て来る。皆に迷惑が掛かる」
「皆でいい方法を考えよう」
「西アルロマまで船で二十日ぐらいかかるらしい。後五十日位しかない。テル皆と帰るか」
「そのつもりでいる」
「テル大丈夫か。マークされているんだろう。テルが帰って来たとわかったら革命が近いと思わないか」
「明日皆で良く相談しよう」
「ご飯食べに行こう。腹減った」
 メキシコ料理を食べにいくことにし、途中スーパーで大きな懐中電灯を五台買った。
「信二、満夫、驚くな凄い物みせてやる」
 翌日飛行場跡につくとかなりの人がいた。
「明日から電気が使えますので夜も工事をします」
「ですがフェンスは倍の時間が掛かります。長い」
「建物の外壁はコンクリートの打ち放ししではまずい。レンガか何か張って下さい。室内はオーク材を使って下さい。お金は掛かっても良いです」
「地下室に行こう満夫」
「信二驚くな。これだ」
「飛行機か。戦闘機だ。凄いこれどうするんだ。まさか西アルロマに持っていくのか」
「まさか。第二次大戦の忘れ物だ。今のところアメリカの財産だ。要らないと言ったらオブジェとして滑走路に置く」
「こっちが高射砲だ。弾もある。撃てるかどうか解らん」
「こっちはベッドが並んでいる。おそらくパイロットがここで寝ていたんだ」
 地下室の扉を付け替えてくれるように頼み。ホテルにもどった。彼らは着いていた。再会を喜び合い、国の様子を聞き作戦を練った。
「軍隊の将軍は。どういう人ですか」
「イギリスの陸軍大学を出ています。とても物静かで紳士ですが、どっち着くかハッキリ言って分かりません」
「軍隊が中立を守ってくれたら助かる。近衛兵はどうだ。宮殿守っているんだろう」
「近衛兵は六百人います。軍隊より待遇がいいので抵抗するでしょう。だが夜は武器を持たせません。武器庫に鍵を掛けて保管します」
「軍隊も同じです」
「警察ですが、市民に同情的で中国人の護衛のようなことをさせられて怒っている。何でも頭ごなしに文句を言い態度がでかい」
「夜、武器を持っているのは宮殿の護衛の奴らだけです」
「警察は拳銃とライフルしかもつてません。奴は軍隊も近衛兵も信用してません」
「軍隊と近衛兵の武器庫を抑えよう。恐らく中国人はほとんどが軍人だろう。ここも武器庫を抑えよう」
「これが持って行く武器です」
「こんなにですか?凄い量だ」
「足りないぐらいだ。物量作戦だ。二回目は無い一回で決める」
「今夜は遅くなつた。テル、明日俺達は飛行場跡に行くが話があるだろう。来なくてもいいよ。夜、最終打ち合わせしよう」
 
翌日飛行場跡にいつて四カ所の裏門の場所を指示し、間引きする木に紐を縛り目印にした。休憩していると高級自家用車が来た。降りたのはCIAの部長と課長だった。
「この間は結構な物、ありがとう。早速見せてくれ」
「地下の格納庫。こちらです」
「これは新品だ。凄い見ろ機銃に装填してある。ここはニューヨークを守る為急いで作ったらしい。地下があるとはどの書類にも載ってない」
「極秘で作ったんだ。今スミソニアン博物館に展示してあるグラマン戦闘機は外見のパーツがかなり違う。これは全部当時のままだ航空博物館にも展示する。頂こう」
「外に出す昇降機が使えないと思います。あれです」
「部長、昇降機は我々が直します。ここから飛んで行って欲しい。ボロ格納庫で直し飛ばしましょう」
「素晴らしい、そうしよう」
「四機編隊で飛ばそう」
「監督に聞いてきた。昇降機を作ったメーカーが大きくなって、今もあるそうです。技術者を呼んでもらいました」
「「何と手回しのいい。世の中こうあつて欲しいものだ。飛行機の事は任せてくれ明日から掛かる」
「監督に頼んで置きます。私達居なくても良いようにしておきます」
「仕事は進んでいるのかね」
「後五十日位で終わります」
「仕事の成功願っているよ。帰ります」
「部長。高射砲どうしますか。要らなければ下さい。オブジェとして飾ります」
「後で返事する」
「アメリカ市民書とグリーンカードだ。これであなた方はアメリカ国民だ。異国でまた会いましょう」
 
 帰りに武器商人の所に寄った。
「大量な物なのにスムーズに集まります。特に手に入りにくいC4と電子雷管が集まった。何となく分かるが何も言いますまい」
 ホテルに戻ると、緊張と安堵感の入り混じったテル達の顔があつた。
「皆、テル達は明日帰る。最後の打ち合わせをしよう。変更するときは衛星電話でしょう。後で五台位買おう」
「昨日まとめた事を言う。夜の一時頃岸壁に船を付ける。入国管理局を上手く誤魔化す。あるいは武力で制圧する」
「人数を五隊にわける。A隊は三百人で中国人を制圧する」
「B隊は五百人で近衛兵を制圧する」
「C隊は千人で軍隊を制圧する」
「D隊は五百人で警察を制圧する。何か所もある気を付けてくれ
「E隊は五百人で宮殿を制圧。その外放送局。新聞社。警察署長宅。将軍宅。近衛兵の将軍宅。電話局その他の幹部宅」
「船からトラックに武器を積み込んだら、皆の待っている場所に行き、武器を渡し、行動に移る」
「荷を積み下ろしたら、三台の拡声器で革命が起きた事を市民と連絡の取れていない仲間に伝える」
「大事なことは夜、武器を武器庫に仕舞っていることだ」
「武器を持たせるな。まず武器庫を制圧することた」
「成功、失敗は敵に武器を持たせるか持たせないかにかかつている。その時電波妨害も出す」
「浩二、予備軍がいない。苦戦してる所に応援をしないとまずい」
「拡声器で集まった人達を予備軍にする。各隊の人数の上下は現地のテル達に任す」
「テル、当日独裁者の王様の居場所。分かるようになっているのか」
「心配無い。コック長と事務局長が仲間だ。信頼が置ける仲間だ。臨機応変にやる」
「質問無いか?無ければ言う」
「幹部は安全な所に居て、万が一失敗したら逃げろ」
「兎に角逃げろ。日本に逃げろ。彼らが居る。金もある。テルも俺達もその時は居ない。だが二人がいればリターンマッチが出来る」
「忘れるな。ここに居るのは仲間で親友で戦友だ」
「男が泣くな。革命が成功したら泣け」
「新一が腹減ったような顔してる。飯食いに行こう。腹一杯食って楽しく飲もう」
「テル、話しがある。向こうにいこう」
「テル、皆には話してないが遺書を書け。皆に書かせる」
「タフな戦いになる。お父さんお母さんに財産を残してやれ」
「書いて満夫に渡せ。俺達もそうする。希望を書いて。満夫に全て一任すると書いて渡せ。成功したら破って捨てる」
 その夜久しぶりにBARにいき、騒音の中で飲んで騒いだ。
 翌日テル達と別れ飛行場跡に行くと、空軍の軍人と作業服を来た民間人が大勢地下にいた。

「飛びますか」
「飛ぶ。だが全部オーバーホールする。一週間で飛ばす」
「明日から百五十人体制で修理する。滑走路を使わして下さい。テントを張ります」
「昇降機は手動で動かすように、今日の夕方までに直すそうです」
 明日満夫と信二が帰ると言うので、夕食を食べる前に財産目録と遺言書を書いて満夫に渡した。
「満夫死ぬと決まったわけじゃ無い。万が一だ。そんな顔するな。又元気で会える」
「帰ったら、直ぐ紀子の会社を作り優秀な社員を集めてくれ」
「何せ資本金五百億の会社で、資本金五千億のATOK興産の会社が付いている」
「良い人材は他社から引き抜け。ATOK興産の社員も頼む。満夫なら出来る。信二もいる」
「取りあえず迷惑をかけるがよろしく頼む」

 翌日昼頃。満夫と信二が日本に帰った。
「和正、日にちがある俺達も一度日本に帰るか」
「帰りたいけど帰らない。何か決心が鈍るような気がする。親父やお袋に合いたい気がするが我慢する」
「俺もそんな気分なんだ」
「ストライクのお母さんに甘えさせてもらおう。今夜行こう」

 飛行場跡ではエンジンをばらす者、機体をばらす者それぞれにわかれ、手際良く作業をしていた。
「後二日で組み立てが終わります。そうしたらエンジンをかけます。OKなら飛ばします」
「ストライク、その後何か聞いているか。お父さんに迷惑かかってないか」
「CIAに盗られたと思っている。完全に諦めている」
「ニューヨークでは今クスリが暴落している。各ファミリーが売ろうと思いきり値引きしあっている」
「不景気だから余り売れない。買うと言うので行くと、拳銃を出し、只で取られる。親父はマフィアの中で今一番景気がいい」
 帰りに武器商人のところに寄った。
「大体揃いました。後は小物類です。無線機、赤外線暗示ゴックル、電波妨害装置、医薬品、拡声器などです。三日後には揃います」
「昨日エンジンが掛かった。明日飛ばすんだろう。偉いさんもくるらしい。そのまま目的地に行くそうだ」
 翌日飛行場跡にいくと、大勢の人の中にテレビ局の人達もおり、お祭りのような騒ぎだった。
「エライ人だ。制服が多い。それと年配者が多い。テレビ局も来ている」
「エンジンがかかった。滑走路に出た」
「いけ。六七年前の飛行機が飛んだ。凄い四機とも飛んだ」
「編隊を組んで旋回している。凄い」
「行っちゃった。これで静かになる」
 戦闘機が飛び去ると全員が引き上げ、CIAの課長も浩二達に手を振り、帰って行った。
「後は空調機を入れたら終わりです。直す所あったら言ってください」
「地下室に電灯を引いて下さい。それと地下に付いている空気口を大きくしてファンを付けてください」
「地下にある高射砲貰いましたので、出して付けて下さい。場所は明日教えます」
「フェンスがまだかなり掛かります」

「行こう。武器商人の社長が待っている」
「倉庫に見に行きますか。案内します」
 二時間程走り郊外の牧場に着いた。ニューヨークにこんな所があるとかと思う程のどな牧場に着いた。
「なんぼなんでも市内には置けません。ここは牧場と倉庫になつてます。牧童達は警備員も兼ねています」
「凄い量だ。トラック何台位ありますか」
「十台も見ればいいでしよう。口の固い運送会社知ってます。私がいつも使っています」
「手配お願いします。それと明日から荷物を分けたい。銃ばかりトラックに積んでも駄目です。銃、弾、機関銃、迫撃砲、小分けして中隊規模の装備にして積みます」
「明日の朝来ても良いですか。仕分けしようと思います」
「構いません。彼に言ってください」
「重い、全部鉄でできている。当たり前か」
 二日がかりで仕分けをし十個に分けた。
 次の日、建築業者と武器商人に金を払ったら、鞄が一四個しか残らなかった。
「船は今ニューヨークの沖に停泊している。明後日昼の三時に積み込む」
「武器商人の社長にトラックの手配お願いした。プレゼントがあるそうだ。明日行こう」
「軍靴は履き慣れた物で良いが、俺達の制服が欲しい。迷彩服は嫌だ」
「賛成。格好いい制服買おう。ストライク、そんな店知っているか」
「軍の払い下げなら世界中のものがある店知ってる。武器でも何でもある」
 車に乗り四十分程走り、大きなスーパーのような建物が見えてきた。大きな駐車場に車を止めた
「でかい、広い。武器でも制服でも世界中のものがある。食器、コンロ、ナイフ。ここで買えば多国籍軍が出来る」
「この黒がいい」
「それはシールの制服だ。まずい。上着が黒でズボンはこの薄茶色でどうだ。Tシャツも黒。悪くはない」
「それにしよう。米軍のガナーベスト(沢山のポケットが付いており、無線機、医薬品、弾、手榴弾吊す)黒だ」
「黒のベルトも帽子もアサルトバックバックもある」
「気が着いた。小物買ってくれ」
「制服は二着買おう。テルの制服忘れるな小物もだ」
「浩二、中国製の。トカレフ(拳銃)何に使う」
「要るんだ」
「買ったか?行こう。今夜はニューヨークの最後の夜だ、楽しもう」
「明日の夜は身体を休めよう」
「BARも良いが、女性とのバーベキューパーティーの方が好くないか。後の楽しみもある。親父の別荘に手配した」
「ストライク、よくぞ気がついた」
「俺賛成。下半身がムズムズして来た。今夜は頑張る」
「行こう。新一、香織さんに内緒にしてやる。男の友情だ」
 その夜遅くまで良く食べ飲み女性と楽しん。だ翌日九時に女性とわかれ。ストライクのお父さんの所に行った。
「あなた方とお会いしてからストライクが変わり、近頃の若者たちにしては珍しい若者だと思った。驚きの連続でした」
「大量の武器を買い、それを持って異国にいくと聞き、只驚いた」
「そして現金で払い。その現金がカビ臭いと聞いたとき何という事したんたと思ったが、彼らに金が有っても。社会的に何の影響もない。あなた方に有効に使ってもらった方がいいと思う」
「私と約束してください。あなた方にも親、兄弟がいるでしよう」
「片足や片腕無くてもいい。帰って来て下さい。約束ですよ」
「約束します。必ず帰って来ます。色々準備がありますので失礼します」
「参った何でも見とうしだ。太っ腹な人だ」
「俺、涙が出そうになった。何か本当の親父に言われているような気がした。親って良いもんだ」
 
 ストライクのお父さんの所を出て、武器商人の所に向かった。
「お待ちしてました。プレゼントがあります」
「尤も新しいケプラー社製の防弾チヨッキです。軽い。今米軍が使用している物より倍の効力があると言われています。だが高い。まだ予算が着きません。二十着あります。二枚重ねて着て下さい。違和感はありません」
「頼まれた。ベレッタM92FS(装段数二十五プラス一)です。ケースはサービスします。マガジンケースもあります」
「それとM4カービン&ユニットです。全部グレネードランチャー付です」
「これが頼まれたパレットM82大型狙撃銃(口径五十ミリ。装段数十プラス一、有効射程千八百メートル)です。弾は五百あります。装甲車など穴だらけに出来ます」
「頼まれた物は以上です。トラックは明日の朝十時に十台倉庫にきます」
「時間は掛からないと思います。荷物は全部パレットに乗っており、リフトが二台あります」
「明日の夕方ボスの所にお土産持ってお礼に行きます。儲けさせて貰いました」
 武器商人の社長と別れ飛行場跡に向かった。
「初めこのボロ壊そうと思ったが、立派な建物になった。室内が凄い重厚な作りだ。ここオフィスにするの勿体無い。俺達の部屋も凄い。火と泥棒に気をつけよう」
「俺達が居ないあいだ。ストライクのお父さんに人を頼んだ。フェンスはまだ二十日位掛かるそうだ。今夜はお母さんの所に夕食食べに行こう。食べたら皆家に電話しよう」

 日本時間朝の六時頃に皆は電話し、元気で居ると伝えた。それでも親達は何となく違和感を覚えた。翌日朝の十時に行くとトラックがもう来ていた。
「ストライク、時間があるのでここで一時間程待機する。その間に俺達の荷物を船に積んで、車を置いてきてくれ」
「船長に一時間位積み込みが早くなると伝えてくれ。新一も行きたいそうだ」
 
 渋滞に巻き込まれる事も無く、無事に港に着いた。船に付いているクレーン二台で素早く積み込んだら、二時に出航出来た。
「私の船にようこそ。この船はディーゼルエンジンではありません。ガスタービンエンジンです。スクリーュも二個付いています。だから船足がとても速いです」
「麻薬、武器、密輸品、死体、何でも運びます。だからとても高い」
「中東の西アルロマでしたな、行き先は」
「海賊の出るソマリア沖を通ります。海岸線が九百キロもあります。海賊達も最初は金品を取るだけでしたが、そのうち武装し船、積み荷、人質まで取るようになりました」
「ソマリアは無政府状態が続いており、海賊は一大産業になつています。だがこの船は四十ノット(時速約七十五キロ)出ます。沖を高速で通れば問題ないと思います」
「各国の海軍もパトロールしてます。そう言えば日本の自衛隊の航空機も上空をパトロールしています。問題ないでしょう」
「この船は人も運ぶので客室もあります。個室ですこの船は何でもありです。只博打だけはダメです」
「この男はイーサン・ハントと言います。三ツ星レストランでコック長をしていました。海が好きだと言うので働いてもらっています。腕は一流です満足いただけると思います」
「それとこの船はありとあらゆる通信ができます。受けもできます。後は彼が説明し案内します。二十日位凪ぎが続きます。良い航海になります」
「海賊も待っているでしょう」
「船長お願いがあります。甲板で運動したい」
「構いません。雨の日は空いている船倉を使って下さい。乗船期間が二十日もあります」
「船室を案内します。好きな部屋を使って下さい。トイレは室内にありますがシャワーは廊下の奥にあります。何時でも使えます。海水を真水にする装置が付いています。この船は船長のすべてです」
「朝食は七時。昼飯は十二時、食は七時です。シーツは二日ごと変えます」
「では夕食までくつろいで下さい」

 翌朝の五時に起き、六時三十分までストレッチをし、七時三十分から十一時三十分まで甲板を走つたり腕立てなどし、午後も身体を動かした。船長が言ったように油を撒いたようなベタ凪ぎが続いた。
 十日もすると完全に元の身体に戻った。
「明日の朝方から海賊の出るソマリアに近づきます。沖に出ます」
「船長、陸地の近くを航行してください。世界平和の為に海賊を退治する」
「武器は売る程ある。殺しはしません、船を沈めるだけです」
「ロケットランチャーでも持ち出せば別ですが・・・」
「いいでしよう。私も何か楽しくなつてきた」
「退屈してたところだ。明日の朝から戦闘準備だ」
「浩二、M2二機関銃で良いだろう。漁船の鉄板なら穴だらけに出来る。吃水先を撃ったら直ぐ沈む」
「左右に一丁ずつ置こう。次いでに俺達のM4カービンと弾も持ってこよう」
「夜襲って来るかもしれない。照明弾と赤外線暗示ゴーグルもたのむ」
「今から歩哨につく。三時間交代にしよう」
「操舵室で良いだろう。クーラーがきいている楽だ」
 海は凪ぎで中東独特の乾いた風でなく、海の上なので湿り気のある風が心地よく穏やかに吹いていた。お昼過ぎに二隻の漁船が近づいてきた。

「皆お客さんらしい」
「良く確かめろ本当の漁船だったらまずい」
「船長。旗が上がった。何の合図ですか」
「あれは停船せよの合図です。間違いなく海賊だ」
「間違いない、皆武装して居る。ロケットランチャーは今のところ持ってない」
「二手に別れた挟み撃ちにする気だ。空に向けて発砲している」
「これ以上近づけるとまずい」
「吾郎、ストライク」
「吃水線を撃って沈めてしまえ」
 古い漁船なので百発も撃つと大きな穴だらけになり、漁船が沈みだし大きく傾いた。
「新一、双眼鏡で確かめろ」
「人数は分からないがゴムボートが浮いている。浮き輪や浮く物にしがみついている。全員何とかなるだろう。陸地までそんなに遠く無い」
「今夜が危ない。別のグループが襲って来るかもしれない」
「明日の夕方にはソマリア沖を出る。船長頼みがあります」
「明後日の夜の一時に西アルロマの港に着きたい。行けますか」
「今計算します。五時間程早く着きます。明日の朝からスピードを落とします。任せて下さい」
「歩哨以外。夕食食べて夜に備えて。寝よう」
 夜中の一時頃、新一が皆を起こした。
「急げスピードがある高速艇みたいだ。二隻だ。又挟み撃ちする気だ」
「船尾から近づいてくる。こいつら慣れている」
「ロープを取り出した。デッキに引っ掛けて上がってくる気だ」
「照明弾を打ち上げたら撃て」
「よし。吾郎、撃て」
 照明弾が上がって海賊たちは上空を見上げ、驚き慌てた。同時に二台の機関銃が左右で吠えだし、応戦どころではなくパニックに落ちた。たちまち船が傾き海賊たちは海に飛び込むのがやっとだつた。
「これでソマリア沖も。しばらくは。静かになる」
「海賊たちあのままで良いのか」
「ほっとけ。奴らもプロの海賊だ。海は凍っているわけじゃあない。泳いで帰る」
 朝食を食べ、軽いストレッチを終え甲板で休んで居ると浩二から話があつた。
「満夫に電話した。紀子はいい経営者になると言っていた。政財界で紀子の会社の事で大変らしい。日本中からプロを引き抜いている」
「埼玉県に膨大な土地を買った。インターチエンジの傍らしい。そこで豚の育成をし、商品にして出荷する」
「行く行くは牛肉も扱う。日本の食肉の五十%を扱う日本一の食品会社を目指す。鹿児島県と北海道で牧場用地を捜している」
「それと家族に電話しろといつていた。新一、香織さんが衛星放送の機材も持ったテレビクルーと南アルロマに向かったそうだ。世界初の珍獣をリポート出来ることは光栄で、新一に感謝しているそうだ。香織さんが電話欲しいといつていた」
「新一、香織さんに珍獣が見つかったといつたのか」
「だって革命が起きるから来い、とは言えないよ」
「どんな珍獣だって行った」
「頭はライオンに似てて身体は縞馬、尻尾はライオン」
「間違ってもそんなの居ない。香織さんのテレビ局よっぽど閑なんだ」
「吾郎。嘘と分かって来るんだ。新一に会いたいから」
「新一、革命の起きる。五時間前に香織さんに電話して西アルロマに入れといつてやれ。恐らくアメリカ、イギリス、フランスのテレビ局も来ている」
「車がいる。南アルロマに着いたら兎に角車を確保しろと、電話して教えてやれ」
「間違いないと思うが、船倉に行ってもう一度点検しよう」
「今夜コック長に頼んで美味しい物作って貰って、ワインでも飲もう。俺達の使う物も持ってこよう」
 その夜船長も交え、楽しく飲み食べた。翌朝もストレッチをこなし、甲板を走った。
「テルと話した。軍隊も親衛隊も宮殿も普段と変わらないそうだ」
「ストライク、中国人を受け持ってくれ」
「吾郎と和正は親衛隊。新一と健太は軍隊。俺とテルは宮殿」
「ストライク出来るだけ中国人に怪我や死人を出すな。後が面倒だ。だが奴らは全員軍人だ。抵抗したり撃って来たらやれ」
「最初のトラックは新一と健太。二台目、吾郎。和正、三台目。俺とテル四台目」
「ストライク、クレーン二台で下ろす。積んだら直ぐ集後場所にいき。武器を渡し目的地に向え」
「後の荷は別の人がやる。後七時間程で着く。夕食を食べ、寝よう」
「新一、香織さんに電話するの忘れるな。船は荷を降ろすと直ぐに出港する」
 一時間程前に起き、自分達の武器を点検し、服を着替えて接岸を待った。中東で基地を出る時のように緊張し、アレドナリンが出、顔が引き締まった。船のエンジンが止まり、タラップが下り、テルが上がって来た。
「今のところ気づいてない。全員それぞれの待機場にいる」
「武器庫を押さえる。奴は現地で二時四十分に行動に移る」
「テル、着替えろ。防弾チヨッキは二枚着ろ」
 最初小型トラック三台にそれぞれ拡声器と電波妨害を積ませ、街の中に行かせた。二台のクレーンで素早くトラックに積み、待機場に向かった。

革命

 二時四十分になり。拡声器で革命が起きた事を市民に伝えた。
「戦士は武器を取って立ち上がれ、決められたら場所に集合しろ」と、伝えた。同時に電波妨害を出し、電話局、放送局、警察署を押さえた。

「作戦本部、全部武器庫を押さえたか」
「親衛隊、軍隊、警察。中国、全部押さえたと連絡が入った」
「吾郎、和正。親衛隊の状況はどうだ」
「武器庫は押さえたが抵抗している。和正が今ロケットランチャーで車を吹っ飛ばした。武器を持ってない。降参も時間の問題だ。こっちは任せろ」
「新一、健太。軍隊はどうだ」
「当直士官しか居ない為自分達では決められない。隊内に入ったら闘う、といつている。伝令を走らせた」
「将軍と連絡を取り、将軍が今こちらに向かっている。中立を守ると言っているらしい」
「ストライク、状況を教えてくれ」
「完全に制圧しただが。中国語なのでさっぱり解らん。英語を解らない振りをしている」
「中国語のわかる奴を呼んだ」
「テル、俺達思ったより時間がかかっている。行こう」
 宮殿には三個小隊程しか居らず、革命軍の人数を見て全員武器を捨て、降参した。
「浩二、二階の右側の四室目に奴は居る」
「テル殺せ。生きていると裁判とかあると奴のシンパどもが騒ぐ。特に中国だ」
「解っている殺す。ここだ開けるぞ」
ドアを開け室内に入ったが、抵抗する気配がなかった。
「居ない。ベッドが空だどっかに逃げ道でもあるのか」
「居たベッドの下だ」
「出て来い」
 パジャマ姿の男が居た。出て来ないので浩二が足を掴み、引っぱり出した。
「浩二、右肩を見てくれ。傷跡がある」
「あった。弾の抜けた後だ。古い傷跡だ」
 浩二が離れるとテルが額に打ちこんだ。浩二が右手に中国製トカレフを握らせ。ドアに向けて二発撃った。
「テル家族を監視して貰ってくれ。皆を二階に上げてくれ」
 バルコニーがあったので出て見ると、宮殿の前には市民で埋め尽くされていた。テルが両手を上げ独裁者が死んだと伝えると。大歓声に包まれた。
「新一軍隊の動きは」
「将軍が、今、軍隊は中立を守り国民と共にあると声明を出した」
「吾郎、親衛隊はどうだ」
「放送局封鎖が解除になり、将軍の声明を聞いて幹部が逃げ出した。兵士も逃げだし組織として機能はしてない」
「警察はニコニコして革命を支持すると言っている」
「ストライク中国人の動きは」
「幹部が抵抗したが今は全員おとなしくなり、任務が失敗したので、帰国したら何らかの処罰があるので心配している」
「特に幹部は重労働をさせられると心配している。炭坑で働かせられるらしい」
 テレビ・ラジオで革命が成功したことを繰り返し伝え、秩序ある行動取るように伝えた。
「テル 、岸壁に停泊していた貨物船。中国の国旗を掲げていた。あれに中国人乗せて帰さないか」
「中国人保護の名のもとに軍隊を送り込んでくる可能性がある」
「奴らに口実を与えない方がいい。その時中国人の持っている食料も積ませる。船には大勢に食べさせる食料はないと思う」
「俺も中国人をどうしようと考えたが、いい考えが出て来なかった」
「そうしよう」
「急ごう。革命が起きたので船が出航するかも知れない」
 テルがテキパキと指示を出し、三時間で出港するように命じていた。そして新一達に宮殿に来るように言った。午後三時に臨時の大統領の声明が出されることになった。
「新一さん凄いわ。日本のテレビ局は私達だけよ。無血革命の現場にいられるなんて。新一さん達がやつたのね」
「香織さん誤解だ。革命は西アルロマの国民が起こし、成功した。私達は少しお手伝いしただけだ」
「でも制服が代表の人と同じだわ」
「これは私達と代表者との友情の証しです。三時に臨時の大統領の声明があります。アメリカもその他の国も何らかの声明を出すでしよう。日本も出して欲しい」
「リアルタイムで送っています。何らかのメッセージがあると思うわ」
 大学の教授が臨時の大統領に就き、臨時の内閣も発足した。テルは国防大臣になった。大統領は三時の演説で『民主主義の国を作り、世界各国と仲良くし、西アルロマは始まったばかりの若い国なので、インフラ開発に協力をお願いしたい。六カ月以内に大統領選挙と国会議員の選挙を行う』と演説した。
 
 アメリカが素早く。西アルロマの内閣を承認する演説を大統領がした。
「満夫。日本はどうなつている。アメリカが承認した」
「革命が起きてから夜中に起こされ。今首相官邸に居る。浩二達が革命を起こしたと思っている」
「浩二。馬鹿なこと言うなといつてやれ。西アルロマの国民が起こした」
「俺達は手伝っただけだ。日本も早く承認しろといつてくれ。仕事の事や日本の事を考え早く承認しろと脅せ」
「今アメリカと連絡を取っているみたいだ。日本の意志がない。決められないでいる。世界情勢がわかつてない」
「何とか頑張る」

 アメリカが大統領声明を出してから二時間がたった。
「浩二。日本はどうだった」
「まだ承認のメッセージが出てない。俺達が革命を起こしたと思っている。リアルタイムで放送されている。夜中、昼関係ないみたいだ」
「満夫が今首相官邸に居る。新一が、俺達のスポークスマンになつている」
「母ちゃんに又怒られる。人様の国に鉄砲持って行って暴れていると、言うに決まってる」
「新一、香織さんにサービスするからだ」
「今夜革命の成功を祝ってささやかな晩餐会がある。俺達も出席する。テルがホテルをとってくれた。ブラブラと行こう」

「吾郎、テルの言うように女性は美人が多い」
「見ろよ教会とモスクがある。しかも並んで居る。中東では見たこと無い。デジカメで撮っておこう女性もな」
「これ大学じゃあないか。どこの国の大学もあんまり変わらん」
「イヤ、変わってる。女子大生美人だ」
「新一。香織さんに言うぞ」
 革命が成功した事で気をよくし、軽口を言いながらホテルに入った。まだ武装解除の許可が下りてないので、ホテルのフロントの人達はビックリしていた。
 シャワーを浴びくつろいだ。
 ホテルの大広間に行くと、大統領をはじめ、閣僚、革命の幹部達が大勢居り、浩二達を拍手で迎えてくれた。
 大統領のスピーチが始まった。
「ここに居る日本の若者達が居なかったら、革命は成功しなかった。もう一度拍手を」
「皆さん。先程イギリス、フランス、アメリカ、日本から御祝いのメッセージを頂いた。その外十五カ国からも頂いた」
「アメリカは如何なる事があっても友好国だと、別に親書を頂いた。民主主義国家をこの中東に作りましょう」
「アメリカの動きの早いこと。南アルロマに大使館がある。テレビクルーの中にCIAのエージェントが居たんだろうな」
「新一そんなに食べるな。日本を代表しているんだ」
「昼飯食べてない。腹減っている」

「浩二。大統領、将軍、テルがいない」
 ボーイが浩二達のところに、大統領が別室で呼んでいると呼びにきた。
「何かありましたか」
「今アメリカから連絡があつた。隣りの国アフミスが不穏な動きをしている。アフミスも我が国も中国から援助を受けていた」
「この五、六年我が国が石油、鉱物が採れるとわかり、援助をする民間人と言って、三百人。あと千人来る予定になつていた」
「全部軍人だ。革命が起きて中国人が排除され、腹いせに甘い言葉でアフミスをけしかけたと思う。アフミスは軍人が支配している独裁国家だ」
「我が国とは軍事力が違う。空軍がある」
「どれくらい。軍事力の差がありますか」
「空軍は戦闘機八十機。全部中国製です。十年前の物です。隣国と国境線の事で揉めているから。作戦には十五機位でしょう」
「定期点検や修理。隣国の備え、これぐらいでも多いぐらいでしよう」
「陸軍ですが、兵八千人。戦車二百五十台」
「作戦には歩兵二千、戦車百台。これぐらいの規模で攻めて来るでしょう」
「我が方の戦力はどれぐらいですか」
「我が方には空軍はありません。戦車もありません。兵士は陸軍二千人だけです」
「兵器は何がありますか」
「戦車用地雷が三百個。昨年セルビア兵器見本市で買ったスエーデン製使い捨て携行対戦車砲AT―4、七十台」
「イギリス製L118榴弾砲(口径百五ミリ)二十五台」
「野砲(八十五ミリ)三十四台」
「迫撃砲それぞれ百五十台」
「機関銃七十台後は小火器」
「少ないですね」
「独裁者がケチで、中国が持たせなかった」
「南アルロマに援軍を頼んだらどうですか」
「我が国を占領したら南アルロマに行く可能性がある。それは出来ない」
「将軍、来るとしたらどこから来ますか」
「国境線は岩だらけの山です。戦車は通れませんが大昔の川の跡があります。そこだけ平らです。三キロの幅があり戦車壕を掘ってあります」
「二個小隊で監視しています。攻めて来るならそこでしょう」
「大統領、アメリカに応援して貰いましょう。きっと来てくれる。西アルロマはアメリカにとって大事な国になります。私達も高官に知り合いが居ます。頼んで見ます」
「撃退しましょう。空軍は怖くない。スティンガーミサイルがある。二、三機も打ち落とせば飛んで来なくなる」
「戦車は地雷もC4(プラスチック爆薬)もあるから何とかなる」
「戦車壕はどれくらい深いですか」
「五メートルくらいです」
「浅い。十五メートルはいる。四十五度位の角度がいる」
「明日の朝からかかろう」
「テル、ユンボ、ブルトーザーを集めてくれ」
「アフミスの奴らに思い知らしてやる」


アフミスとの攻防戦

「部長。浩二です。今西アルロマから電話してます。まずい事になりました騎兵隊の応援を待っています」
「革命は上手くいったな」
「心配するな。地中海艦隊が向かっている」
「明日は進行の準備だろう。明後日の朝だ」
「それから四十八時間持ちこたえろ。そしたら艦載機が届く。脅威になる情報は逐一教える」
「四十八時間持ちこたえろ」

「わかりました持ちこたえます」
「不幸中の幸いは、持って来た武器が手付かずにある事だ。何とかなる」
「明日は早い。寝よう寝れない日が続く」
 翌朝国境線に行くと、ブルトーザー十二台。ユンボ十五台が来ていた。民間人も大勢来ていた。
「テル、戦車壕掘るの二時くらいまでに終わらそう。地雷やC4(プラスチック爆薬)埋設する時間が要る」
「明日の朝進行して来ると思う。前線が破れたと想定して、後方にも塹壕掘ろう」
「テル、衛生兵はどれくらい居る」
「訓練受けた者三十。医師三。民間人の医師二名。看護士五名だ」
「民間人は全員志願者だ。足りないと思うので志願者を募って要る」
「足りない。後方に野戦病院を作る。民間人に協力頼んでくれ」
「負傷者を前線と後方の野戦病院に運ぶ車も要る。それと食事の手配お願いします」
 予定通り二時に戦車塹壕と、兵士が隠れる塹壕が出来上がった。その後戦車塹壕の前に対戦車地雷を埋め、無傷で進んで来る戦車のために、戦車塹壕の中と登って来る戦車のためにC4を埋めて電子雷管をセットした。
 機関銃を四十メートル置きに配置した。
「今アメリカから連絡があつた。敵の集結が終わったみたいだ。戦車六十台。歩兵千五百くらいと言うことだ」
「砲兵はいないのか。それとも戦車砲で充分と思っているのか」
「なめやがつて」
「イヤ、恐らく戦闘機の爆撃で充分と思っている。助かる。砲撃は大勢の負傷者が出る」
「浩二、話がある。敵は恐らく十キロくらい手前で集結し、攻めてくる」
「アメリカ軍もそうだつたが、戦車長は全体を見て進めの合図をして戦車の中に入る」
「戦車長を狙撃する」
「そして妨害電波を出す。命令系統が滅茶苦茶になる」
「着弾観測兵も出さなければならない一緒に行く」
「分かった何人要る」
「着弾観測兵入れて五人ぐらいでいいだろう」
「テル、人選してくれ。新一達は駄目だ。スティンガーミサイルを撃つ奴がいなくなる」
 何事もないように夜がふけ、風もなく、昼と違って爽やかな夜で、見上げると満天の星空だった。兵士達は寝る奴、寝れずに星空を眺める奴、皆思い思いに過ごしていた。これから始まる事など信じられない思いでいた。
「アメリカ軍から連絡があつた。此方に向っている。三時頃には着く」
「戦車五十台、トラック十台。歩兵が乗っている。恐らく千五百人くらいと言うことだ」
「浩二、そろそろ行ってくる」
「和正。無理するな。電波妨害も砲撃も全てOKだ」
 和正達五人は山の裏側を通り、二時間程歩いた。
「そろそろだ。頂上に登ろう。斥候が居るかも知れない」
「俺が見てくる。何も無かったら、懐中電灯を付けて直ぐ消す。上がって来い」
 斥候が居ないので四人を呼んだ。
「煌々とライト何かつけやがって。すっかり舐めている。思い知らせてやる」
「明るくなったらもう少し進もう。それまで身体を休めよう。誰か歩哨に付け」
 一時間もしないうちに明るくなつてきた。早い朝食を食べ終え、敵の動きが慌ただしくなった。
「ここで良いだろう。ここから狙撃する」
「ここからって、千二百メートルはありますよ」
「朝だ。陽炎もないし、風もなく絶好の狙撃日和だ」
「双眼鏡で戦車長を確認してくれ。アンテナが長い後ろの真ん中の奴ではないか」
「ストライク、新一、吾郎、健太。この順序で行く。射程圏に入ったら撃て」
「待て。プロペラ機が来た」「
「撃つな。吾郎、健太、偵察機だ五十口径で撃ち落とせ。ミサイルは使うな」

「よし撃墜した。連絡したと思う。戦闘機が来た二機だ」
 ストライクと新一の撃ったミサイルが見事に命中した。低空で飛んできたのでパイロットは戦闘機と共に地上に落ち、爆発した。
「来た二機だ。吾郎、健太落とせ」
 最初の二機と後の二機も同じ運命をたどった。
「戦車のエンジンがかかった。乗り込んだ」
「後ろのアンテナの長い戦車で間違いないと思います。まだハッチが閉まらず上半身出しています」
「右手が上がった」
 右手が下がると同時に和正が撃った。前のめりになりそのまま戦車の中に沈んだ。
「やった戦車の中に落ちた。凄い」
「此方和正。戦車長をやった。電波妨害頼む」
「着弾観測しながら帰ろう。斥候も出さず完全に舐めている」
「初弾撃ってくれ」
「もう少し右。前方百」
「いいぞそこだ。撃ちまくれ」
 戦車の後ろに付いて行く歩兵は榴弾砲にやられたが、戦車はそのまま前進して来た。
「戦車砲の射程圏に入る」
「塹壕から頭を出すな。低くしろ。機関銃を塹壕の中に入れろ」
 戦車砲を撃ちながらようやく戦車地雷の前にきた。
 戦車地雷で八台が破損または大破した。
「自分の埋めたC4覚えているな。側に来たらスイッチを入れろ」
至る所で戦車地雷とC4が爆発し、かなりの戦車が動かなくなり、塹壕を登って来た戦車は使い捨て携行対戦車砲AT‐4で腹を撃った。ひっくり返って、登って来る戦車の上に落ちた。油の燃える匂い、鉄の焦げる匂い、血と肉の焦げる匂い、火薬の匂い・・・至る所で衛生兵を呼ぶ声がし、戦車砲の着弾で土壌が舞い上がった。
 小銃の音。重い機関銃の発射音。迫撃砲の爆発音。そんな音も匂いも感じずに、只、前の敵を倒す事だけをしていた。

「敵が撤退している」
「撃ち方止め」
 彼らは初めて知った。味方の死体そして衛生兵を呼ぶ声を。衛生兵すら戦死していた。
「テル、犠牲者が大勢出た。だが敵の犠牲者も大勢出た」
「ここから数えると戦車は二十八台やった。多分明日の朝立て直して来るぞ」
「今度は恐らく砲兵も来る。此方にミサイルがあると分かったから、戦闘機は来ないと思う」
「戦車も兵士も補強するだろう。明日の朝が正念場だ」
「明日の朝持ちこたえたらアメリカ軍が来る。敵もアメリカ軍が来る事を知っている。タフな戦いになる」
「今のうちに地雷、C4(プラスチック爆薬)を仕掛けよう」
「全部使おう。明日の朝で全てが決まる」
「それと敵は兵士の戦死の多いのに驚いているはずだ。今度は戦車の後ではなく山伝いに来ると思う。山に陣地をつくろう左右に三カ所ずついる」
「どれくらいの人数がいる」
「迫撃砲、ランチャー、機関銃。一カ所に三個小隊は要る。兵士が足りなければ後方の兵士を使おう」
「後方は民間人に頼もう」
「それと、敵の戦死者や負傷者があんなにいる。明日の朝戦車に踏み潰されるのは可哀想だ。戦死者は山の裾に、負傷者は手当てしないか」
「分かった。手分けしてやろう。拡声器で伝えよう」
 山に陣地を作る者と、敵の負傷者を助けるものとに分けた。
「アフミスの兵士の諸君。君たちの戦いは終わった。君たちは立派に国に尽くした。今から手当てしにいく。抵抗しないでください」
 戦死者を山裾に運び、負傷の軽い者は手当てして山裾に集めた。重傷者は後方の野戦病院に運んだ。軽い者には水を与えた。
「将軍だ」
「アメリカ軍から連絡ありましたか」
「戦車を集結している。三十台位と砲兵を出す用意をしている。歩兵も集めて居る。千人ぐらいらしい」
「君たちには驚いた。これが日本の武士道か。敵の負傷者を助けるなんて。我が国の運命が明日決まる。何としても阻止しなければならない」
「将軍、砲兵が来ると我が方の損害が多くなる。塹壕に屋根を着けましょう」
「この際木造の民家、学校を壊しませんか」
「こちらの砲は届かないと思う。砲撃では負ける。それで此方から行って敵の砲兵を粉砕する」
「どのようにする」
「敵の砲兵隊に近づき、迫撃砲でやる」
「分かった直ぐやろう。後はテルと相談して決めてくれ。屋根を付ける事は直ぐやろう」
「浩二これは我が国の事だ。これ以上甘える事は出来ない。我が国の兵士だけでやる。今人選している。人数はどれくらいいる」
「大型の迫撃砲を使う。砲弾が重い一人三発が限度だ」
「十人で三十発。迫撃砲を運ぶのに四人機関銃二台に六人。最低でもこれぐらいは居る。恐らく四十キロは歩く」
「分かった。人選が終わったら直ぐ出発させる」
 二時間程してトラックで、材木、厚い鉄板など運ばれてきたので塹壕の上に蓋をし、その上にユンボで土を被せた。夜中の二時までかかった。
「わずかな時間しかないが皆寝よう。今日は西アルロマの運命の決まる日だ」
 明るくなり三十分程立った時、遠くで遠雷のような音がしてきた。そして大きな爆発音もきこえた。
「こちら遠征隊。成功した今から撤退する」
「よし砲撃は無い」
「来るぞ。塹壕からでるな」
 四十台程の戦車が進行して来た。歩兵は矢張り戦車の後ろではなく、岩だらけの山を進行して来た。戦車砲弾がいたる所で炸裂した。味方の砲兵隊も射撃を開始し、山にいる敵の歩兵隊に砲弾を浴びせた。
「出ろ。塹壕から出ろ」
「戦車を鉄屑にしろ」
「この一戦で全てが決まる。撃退しろ」
「対戦車地雷除去装置の付いた戦車を先頭に進んできたが、最後の戦闘になると思いC4(プラスチック爆薬)を多めに全部埋設したので、いたる所で戦車が大破した。前の戦車が大破した為後続の戦車が前に進めなくなつていた。そこを対戦車携行戦車砲AT‐4で仕留めた。
「来たアメリカ軍の艦載機だ。六機だ」
「今から山にいる敵を攻撃する。頭を引っ込めろ」
「すげー。あの下にはいたくない」
「敵が逃げて行く。テル逃げて行く。敵を撃たせるな。戦意が無い終わりだ」
「アメリカ軍が早い。どこかの国が給油機を出してくれたんだ」

「皆、怪我無いか」
「俺中東より戦いやすかった。敵はおんなじ軍服を着て前から攻めてくる。中東では子供、女性、老人まで敵に見えてどこから来るか解らんかった。怖かった」
「終わりだ。夕方までには沖合いに空母が停泊する」
「腹減った。朝飯食べてない。もう直ぐ昼だ」
「新一、皆おんなじだ」
「テル、犠牲者はどれくらいだ」
「昨日と今日で戦死者二百五十人。重傷者四百人」
「比較的軽い者三百人。戦死者がまだ増える」
「将軍と大統領が来た。服装を正せ」
「ありがとう。そして御苦労様」
「この国があるうちは国民があなた達のことは忘れることがないでしよう」
「香織さん帰ったのでは無いのですか?どうしてここに」
「大統領の許可を貰い一緒に来ました。他のメディアの人達もおんなじです」
 各国のメディア達は戦車壕の上から戦車の残骸や塹壕、兵士達の喜びと安堵間の顔など撮っていた。
「新一さん革命の成功といいこの戦いといい、全部あなた達がやつたのね。日本にいる若者達とは違う。凄いわ。どうしたらこういう事出来るのですか 」
「香織さん前にも言いましたが、私達はこの国の国防大臣のテルとの友情でお手伝いをしただけです。血を流したのは西アルロマの若者。国民が敵を撃退したのです」
「テル、負傷者は治療出来ているのか」
「今敵の負傷者も見ている。後方に送っている。医薬品、医師が足りない」
 携帯電話を取り出し、満夫に電話した。
「満夫、日本から医薬品、医師を送ってくれ。国がグズグズ言ったらATOK興産で送れ。二十四時間で頼む。遅れると若者達が死ぬ。復興に必要な若者達だ」
「分かった浩二。日本は今大変なことになつている。皆のことで湧きかえつている。革命と隣国の侵攻を撃退した。しかも日本の若者がした。なんせ香織さんがリアルタイムで送って来る」
「戦場の戦車の残骸、敵味方区別無く負傷者の治療。私をマスコミが探しているが、首相官邸では手が出せない。助かっている」
「皆が怪我もないのが何よりだ。皆の両親には、私から怪我もなく元気でいると伝える」
 夕方になりアメリカの空母が西アルロマの沖合いに停泊したので、中隊規模の兵士を残し浩二達は引き揚げた。
「満夫、医薬品どうなつた」
「後二時間程で岡山県から国境の無い医師団が東京に着く」
「飛行機をチャーターした。医薬品はもう積み込んだ。医師四人,看護士十五人で行く。ATOK興産で送る。別に首相の判断で送るが時間が掛かる。明後日になる。医師八名看護士十八名と医薬品だ。ATOK興産の飛行機は十八時間後に着く」
「ありがとう助かる。今ホテルに居るATOK興産の社員集まっているか」
「銀行の先輩と集めている。紀子の会社の時余分に集めた。片っ端からいい人材を他社から引き抜いている」
「会うのが楽しみだ。後二、三日で諸々の話しが終わる。そしたら復興や開発、インフラの話しが出る。かなりの仕事を貰う。楽しみに待っていてくれ」
「テル、今夜は飲もう飲もう。この国で武器を持つことはもう無いだろう」
「十八時間後に日本から医師団が来る」
「それとこれ使ってくれ。戦死した家族にやつてくれ。困っている家族も居るだろう。八個カバンがある」
「テル、泣くな」
「革命が成功したら泣けと言ったじゃあないか」
「戦死した者に家族が大勢居る。皆貧乏だ大統領と相談したがお金が無い。独裁者の金はスイスとかいろんなところにあるが、時間が掛かる。国の金庫が空なのには驚いた。助かる遠慮無く使わしてもらう」
「テル、西アルロマの名物が食べたい。何か愉快な話しで酒を飲みたい」
 大して呑まないのに開放感か安心感か、自堕落な格好で部屋で飲んだので直ぐに酔いが周り寝てしまった。
 三日程革命と侵攻の後始末をし、浩二達もアドバイザーの資格で参加した。
「いよいよ明日から開発、インフラ整備の話しだ。全部は取れないフランス、イギリス。アメリカが特に五月蝿い。世界中から来る」
「浩二、日本はどうなつている。主だった国が大使館を作るために役人を派遣している」
「満夫と話したのだが、外務省の動きが鈍い。大使館を作るには首相の許可が要るらしい」
「良い場所、建物もう無いぞ動きが遅い」
「単独で決めた。宮殿前の親衛隊の跡を借りた。要らないといったらATOK興産の事務所にする。大きいから大使館と兼用で使えばいい」
「港湾の拡張。電力、鉱山、石油、インフラ、飛行場の拡張。上げたら切りががない」
「OK興産としては電力、鉱山ガス、石油これは譲れない。日本の為だ」
「中にはジョイト開発もある。大体の事が決まったら一度日本に帰ろう」
「満夫が品川にビル一棟借りた。紀子の会社も入る。三十二階建てだ。昨日の話しではもう。百六十人の社員がいる。年齢がバラバラだが、その道のプロだそうだ」
 十日間西アルロマと南アルロマの開発、叉は今後の国のあり方に南アルロマを交え話しあつた。取りあえずの借り契約書をもらった。
「大統領。閣僚の皆さん、素晴らしい計画だと思いますが、資源が無くなった時どうするか考えておく必要があると思います」
「和正、いい考えあるのか」
「資源がある時税金、ガス、石油、水道、家賃。これらを国が出す、国民は只。やめましょう」
「歴史が証明してます。ローマの市民はパン、娯楽、只。午前中しか働かない。だからローマは滅びた。国民に勤労と納税をしっかり伝えましょう」
「それと資源がある時、中小企業を育てましょう。その中から大企業も産まれます。この国の位置が素晴らしい中東、アフリカ何処でも近い。取りあえず繊維は中国製がほとんどです。この国はまだ人件費が安い。今の内に基盤を築き上げましょう」。
「どの様にしますか」
「難しい事。お金の沢山掛かる事駄目です。一、二年で儲かる事をします。まず布製品。下着、Tシャツ、作業ズボンその他です。それとプラスチック製品です。色んな物作ります。これは簡単です。それと南アルロマと合併したら農業。果実を作ります。これらは日本が得意とするところです」
「私も資源が無くなった時どうなるか心配したが、いい考えが浮かばなかった。素晴らしい計画です」
「私達は明後日、一度日本に帰ります。アルロマの合併式に来ます」
「テル、明後日帰る。今夜飲もう六時から宴会だ」
「歩いて行こう。ストライク、いつみても女性は美人だ。背はあんまり高くないし胸もお尻もあんまり大きくない。結婚したいぐらいだ」
「新一、そんなにデジカメでとるな。失礼だろう」
 その夜したたかに飲み、二日酔いで飛行機に乗り、ニューヨークに向かった。
「飛行場跡に行き色んな物買い、今夜から泊まろう。何時までも飛行場跡ではまずい。名前を付けよう」
 飛行場跡に行き荷物を置いて買い物に出掛けて、ベッド、家電、気がつくもの全て買い、飛行場跡に戻った。品物が間に合わずその日はホテルに泊まった。
「ストライクのお母さんのとこで夕飯を食べよう。ストライク、俺達が日本にいるあいだ親父さんの所に泊まれよ」
「飛行場跡は駄目だ。心配ばかりさせた。親孝行しろ。俺達も怒られながら親孝行する」
「皆、相談がある。アルロマは今後アメリカ軍が基地を作る。アルロマの軍はアメリカ式になる。アルロマ軍の訓練は民間に委託すると思う。アメリカからそう言う打診があった。それでだ傭兵学校の軍曹と大慰に教官になつてもらう。新兵の訓練に精通している給料は。ATOK興産で出すどう思う」
「いい考えだ。彼等なら新兵の訓練に精通している」
「賛成だけど、あと二、三人は軍曹クラスが要ると思う」
「彼らがOKなら人選と人数はまかそうと思う」
「話しは終わり。俺達、中東、エチオピア、イギリス色んな国に行ったが、いつも素通りだ」
「あんなに長く中東に居たのに、ピラミッドさえ見てない」
「ニューヨークでも自由の女神さえ見てない。明日は観光しないか」
「今まで追われているように走っていた気がする。気持ちに余裕がない。若者達の楽しみを忘れている」。
「分かった。だが明日は買った荷物が届く。それと出来た塀と地下室など点検し、直す所は直し、付け加える所もあると思う。明日からは寝る」
 別に直す所もなく、ただ格納庫が古く汚いので取り壊し小さい倉庫を建てる事にした。二日程ニューヨークの博物館や自由の女神、五番街など面白く馬鹿になり楽しんだ。
「ストライク、俺達は明日日本に帰る。十日位で戻って来る」
「両親に怒られて来る。留守番は頼んだ」


再び中東へ

お昼頃、ケネディ空港に付いた。
「皆、十時間以上機内だ。何か食べよう」
そ の時一人の日本人近づいてきた。
「日本の方で、ブラボー小隊の方ですか。私は領事館の田辺と言います」
「お話しがあります。ご同行願います」
 付いて行くと奥まった大きな部屋につれていかれた。部屋には三十人ほどの人がおり、五、六人の高級将校もいた。皆かなり緊張していた。
「ブラボー小隊。よく来た。君たちに来てもらつたのは、昨夜からテレビで放送している事で呼んだ」
「私達はテレビを見ておりません。説明をお願いします」
「テレビを見て無いのか。二十八時間前にアルシエルで事件が起きた。イギリス、日本、アメリカ、カナダの石油プラント。石油製品プラントの建設の技術者及び現地の作業員が拘束されている」
「アメリカ人百五十人、イギリス人八十人、日本人百三十人、カナダ人七十人、現地の作業員二百五十人。六百八十人が拘束されている。犠牲者も八名出ている」
「君たちも中東に居たから、東の全般のレクチャーは受けていると思う」
「アルシエルで国民が蜂起し、王政を倒し、無血政権交代した。王様達は第二宮殿に家族、親族と共にいる。今回部族長達と組んで事件を起こした。それで我々も第二宮殿を襲い、人質をとり、人質の交換をする。あくまでも民間人として行動する」
「プラントにはどれくらい。敵が居るのですか 」
「はっきりした人数は解らんが。千二百くらいだと思われている。第二宮殿には。一個中隊位が警備に付いている」
「どれくらの人数で作戦を行うんですか」
「降下訓練を受けている者で、戦闘の経験者が今二十五名いる。人数はあまりいらない。民間人でなけれはならない。時間が無い。時間が立つと、敵の人数が増える。どっちに付こうかとまよつている部族長達がいる」
「四倍位の敵ですよ。人数が少なくは無いですか」
「十キロ手前で降下し、。朝奇襲する。宮殿と兵舎の間に二百くらいのグラウンドがある。宮殿の前で迎え撃つ」
「門から宮殿までは百メートルくらいだ。門を爆破し、一気に襲う」
「細かいことは機内で説明する」
「皆行くか」
「分かった。なんせ日本人が百三十人も拘束されている。何もしないと叉日本が世界中から叩かれる。行きます」
「二時間後に出発する。銃はM4カービンを使用する。要る物言ってくれ」
「M4にランチャーを付けたい。それとベレッタM92FS(拳銃)。バックバック。弾薬は多めに持って行く。室内の戦闘になる。散弾銃M1014も欲しい」
「狙撃銃M40A3。これは一丁でいい」
「出発三十分前には届ける。申し訳無いがこの部屋からは出ないで下さい」
 時間通りに言った物が届き、迷彩服に着替えて機内に乗り込んだ。
「目的地の二時間前に起こすから寝ろ」と指示があつた。民間人とはいえ全員がプロらしく寝た。
「起きろ、今から飯を食う。空港のサンドイッチだ。美味いぞ。珈琲もある食べ終わったら作戦を言う。君たちは民間人だ。意見は言ってくれ」
「十キロ手前に降下する。目的地に着いたら門を爆破する」
「テレビカメラが付いているので門の鍵を開けようとしても無駄だ」
「一気に宮殿に踏み込む。宮殿の警備隊は十人ぐらいという情報だ。後は兵舎にいる。」
「一階が警備室と執務室、会議室、食堂などだ。二階が親族達の居間と寝室になつている。一階を制圧したら余り抵抗は無い」
「だが広い。見落とすな」
「親族達を集めたら俺達と同じ民間人がバスで迎えに来る。親族達を乗せて引き上げる」
「宮殿の内部は分からないが、衛星写真を頭に叩き込め。質問?」
「兵舎から応援が来たらこの作戦は時間が掛かりすぎる。兵舎から出さない為に宮殿の玄関前に機関銃と狙撃兵を置いて威嚇する」
「前はグラウンドで身を隠す所が無い。引き揚げるときは人質を盾にする」
「それと非常階段があると思う。そこにも人を配置したほうがいい」
「分かった。それで行こう」
「宮殿前に四人。一人は機関銃の後ろをガードしろ」
「狙撃兵士を一人。宮殿の左右に一人ずつ威嚇しても親族達は殺すな」
「二人は非常階段を見張れ。後は突入する」
「門を爆破したら時間との勝負になる。三十分以内で終わらす」

 降下地点に着いたので素早く飛び出し、全員怪我もなく集合した。夜なので涼しい穏やかな風が吹き、星が輝きこれから起こる事が嘘のようだった。
絶えずGPSで位置を確かめ、一時間程歩いた。
「あれだ。少し時間がある。休もう」
「変だ。あんな鉄塔、今朝は無かった。連絡をとる」
「あれは今朝作った。プラントの奴らとの連絡用電波塔だ。連絡を取られるとまずい。C4で爆破しよう」
「連絡では宮殿の中は変わりが無く、通常どうりだ」
「武器を確認しろ。赤外線熱感知スコープでは塀の外に敵は居ない」
「衛星の探索でも、外に敵は出ていない」
「行くぞ」
 一気に走り、門の側の塀に張り付いた。素早く一人が門にC4をセットし爆破した。硝煙の中を通り抜け、走りに走り、宮殿の前に来たら敵が出て来たので、散弾銃で倒し、中に入ると敵が銃も持たず、数人が様子を見ていた。銃を向けると慌てて手を上げた。
 他の者にまかせ浩二達が二階に上がろうとした時、重苦しい狙撃銃の発射音がしだした。続いて爆破音がし、鉄塔の倒れる音がした。軽快な機関銃の発射音がしだした。
 ドアを蹴破り、中の人間を廊下にたたせた。
「写真で確認しろ。もう一度部屋を探せ」
「何をしている。女、男分けなくともいい」
「駄目だ女性達はパジャマだ。服を着せベールをかぶつてもらう。このまま連れて行くと中東の全部の国と戦争似なる」
「吾郎、健太。部屋に連れて行き服を着せろ」
「和正そっちはどうだ」
「和正。敵が兵舎から出て来ない。宮殿にくるには何も身を隠す物が無い。ビビっている。それと塀の外にバスが二台。トラック二台が来ている」
「行こう。人質を囲むように行け」
 人質をバスに乗せ、浩二達は女性達のバスに乗り込んだ。前にトラック、中に二台のバス、後ろにトラック。トラックには機関銃が据えられており十人ぐらいの人が乗っていた。
 フルスピードで二時間程走り、プラントの四キロ手前で止まった。
 そこには大きなテント二個と五個のテントがあつた。人質を大きなテントに女性と男性を別々に入れた。
「一時間前から交渉に入っている。敵はかなり動揺している。解決は時間の問題だ。ここでも民間人として行動している」
「人質を殺したら我々も殺す、と言ってある」
「後はこの国と旧王様との条件闘争だけだ。我々の目的は元に戻し、社員の身の安全を確保する事にある」

「浩二、日本の大使館の人が来た」
「御苦労様です。これで日本も非難されずに済みます。百三十人の人質がいます。自衛隊の派遣も憲法上出来ず、このままだと世界中から非難されます」
「分かっています。憲法上の事も」
「私達は日本人が困っている。お手伝いしただけです」
「民間人としてです。異国で日本人が困っていたら。日本人なら誰でも助けます」
「浩二、満夫から電話だ」
「浩二、今臨時ニュースで皆のことが出ている。日本政府が浩二達に頼んだと言っている。官房長官の話が間もなくあると言ってる」
「どうなつている。俺と信二で成田に迎えに行った」
「済まん。全て秘密にしてくれ。電話も駄目だと言われた。全員元気で怪我もない。直ぐ帰れると思うが、日にちが解らん。叉両親が騒ぐと思うが、上手く頼む。それと社員の皆さんに謝っておいてくれ」
「恐らく叉首相官邸に呼ばれると思う。なんといつておく?答えが解らん」
「思い切り言ってやれ。外国で日本人を助けられない憲法など要らない。大使館に常時武官を配置し、何かあったとき対応出来るようにしろ、とな」
「たまたま俺達がいた。国は何もせず民間人に頼るな、と文句いつてやれ」
「それは言えないODAなど政府から金を出して貰わなければならない。今回は政府に貸しを作る。それでどうだ。任せろ今度は俺の出番だ」
「いい考えだ。俺達は自主的に民間人の考えで行動した。それで行こう。帰る時に電話する」
 人質の見張りは他の者がしたので、作戦に参加した浩二達はテントの中にいた。恐らくマスコミに逢わせないようにするための処置の用だった。
 翌朝責任者らしい人から、食後に話があった。
「楽にして聴いてくれ。昨夜遅くに話がまとまった」
「人質の交換が間もなく行われる。内容はこの国と旧王様の話だ。我々が首を突っ込むと内政交渉になる」
「内容は分からないが、此方の要求はきちんと言った。それに沿った交渉が行われたと思う」
「人質をバスに載せたまま交換して終わる。そして帰る」
 一時間程して人質の交換になり、浩二達は日本人の交換に立ち会うことになつた。
「迎えに来ました。もう大丈夫。生命の危険はありません」
「怪我してる人、体調の悪い人いますか」
「居ませんか、良かった。リストがあります。名前を呼びます」
 涙声で返事する者、泣き出す者、安堵の為座り込む者らを連れて対策本部に行った。
「浩二。日本のマスコミが共同インタビューさせてくれと言ってる。どうする」
「俺やりたくない。こんな事で有名になりたくない」
「それでなくても有名なのに」
「俺もそう思う。大使館の人から言ってもらおう」
「私達はインタビューを受けません。官房長官から聞いて下さい。コメントする立場にありません」
「後三時間程で帰る。昼飯食べて身体を休めてくれ」
「昼飯って、携帯食かよ?喜ぶの新一だけだ」
「吾郎、贅沢言わないで食べなさい。豆と牛肉の煮たの美味い。色んな種類がある楽しみだ」
 米軍の軍用機に乗り、ニューヨークに向かった。機内で武装解除になり、武器を渡した。後は何もする事が無いので、全員寝た。
 ケネディ空港に着くと、社員用の入り口に先日浩二達を呼び止めた人が待っていた。
「ご苦労様でした。これからどうしますか。日本行きの便は四時間後に便があります。後は六時間後ですどちらでも。外交特権でチケットが取れます」
「朝早く日本に着いても仕方が無い。皆六時間後でいいか」
「分かった。六時間後な」
「新一さんお久しぶり。こんなとこで会えるとはおもわなかつた」
「香織さん何処にいくの。アルシエルに行くの?もう終わったよ。別のTVクルーいたよ。応援にいっても何にもないよ」
「俺達も日本に帰る。時間があるから俺達の事務所にくるかい」
「今電話する。待ってて下さい」
「新一、飛行場跡に香織さん連れて行くのか」
「新一は香織さんに弱いねぇ。まぁー、いいか」
「皆さんと一緒行く許可貰いました。私達も一緒に日本に帰ります。インタビューさせて下さい」
 タクシーに乗り飛行場跡に向かった。
「凄い何処かの宮殿みたいこれ。ATOK興産のニューヨーク支店なの。ここでインタビューさせて下さい」
「現地では共同インタビューを断った。香織さん他のテレビ局から恨まれるよ」
「いいの偶然何なんだから。恨まれる事など無い」
「私は日頃の行いが良いの」
「何か自信が溢れているよ。香織さんの為にやりますか」
「ただ色んなミッションをやったので、言えない事もあります。我々には守秘義務があります
「最初に・・・何故、傭兵学校に行き、傭兵になつたのですか?今の日本の若者達には想像が付かないと思う」
「私達には八人の仲の良い友達が居ました。小学校、中学校、高校」
「良いこと、悪い事、嬉しい事、悲しい事、何でも一緒でした」
「私は自衛隊。一人は地方公務員。一人は極道。一人は東大生。後の五人は東京に出ました」
「私は一年で自衛隊をやめて東京に出ました。働いても働いても食う為に働くのか、働く為に食うのか・・・。そんなとき地方公務員の友が自殺しました」
「訳の解らん理不尽な事で思いあまってのことです」
「原因が解っても。私達にはどうする事も出来ず。出来る事は友を送る事だけでした。そんな事があつてから。極道になった友の言葉が何となく分かるようになりました」
「田舎のたいして勉強の出来ない奴がなんぼ努力しても、死ぬまでに家の一軒でも持てれば最高の人生だ。そんな奴でも。その辺の似たような女性と結婚し、子育てと家のローンに追われ何でも我慢し年取って・・・気が付いたらボロボロの家しか残らない」
「まだボロボロの家でも残ればいいほうだ。年金なんか当てにならない。俺はだから極道になって太く短く生きる。今の世の中人の噂なんか気にしない奴がいい生活が出来る」
「そんな極道の考えが理解できなかつたが、友が死んでから何となく分かるような気がしてきた」
「私達五人は金が無いので、日曜日には飛鳥山公園で会ってこれからの事を話したがいい考えが出なかった」
「そんなとき、傭兵の下士官が足りなくて給料が月一〇〇万も出ると聞いたが、傭兵学校に行く金が無かった。一年で六百万円も掛かる。そんな時、いつも私達の近くのベンチに座っていた九十歳位の老人が『若者達と話がしたい。ここしばらく若者と話をしたことがない。ご迷惑と思うが年寄りの頼みを聴いてくれ』と言ったので、今の生活や行きたい傭兵学校の話をした」
「話と言うより愚痴を聴いて貰った。三回目の日曜日に『傭兵学校の費用を私に出させてくれ』と言った。『戦争で皆死んだ。身寄りが無い。私が死んだら財産は国の物になる。それぐらいなら若者の夢を叶えて上げたい。条件は二つ。傭兵学校にいったら日本人として努力し恥を欠くな。手紙を月に一度、必ず全員がくれること』それだけだった」
「私達には想像も出来ない大金をもらった。恐らく元軍人だったと思う。入学まで日にちがあるので沖縄で武道を習って傭兵学校に入学した。卒業後の中東の事は香織さんの知っている通りだ」
「私、中東であなた達を見たとき異質な感じがした。今の日本の若者達と全然違う。私の周りにはいない」
「訳がわからなかつた。部長に聞いても異端者扱いしてた。だが『俺、こういう若者好きだ。日本の若者も捨てたもんじゃ無い』としか言わないの」
「香織さん」
「私たち沖縄に行って昼は武道。夜は英語の勉強」
「傭兵学校にいったら、命令も勉強も英語。語学が大変だった」
「傭兵学校にいっても昼は訓練。夜は十一時まで勉強。科目が多い中には下士官としてのマナー。部下の指導。気象学。弾道学。理系。東大で教える事全部見たいだった」
「夜の十一時まで必死に勉強した。これだけ勉強したら。東大など間違い無く合格した」
「香織さん私達は飛鳥山で考えた事をほぼ達成した。これからが私達の正念場だ。日本はこれから益々貧富の差が出てくる。一割の金持ち、三割のまやかしの中流、六割の貧乏人」
「関東での東大の合格者が六割もおり、その内三割が東京だそうです。サラリーマンでも上場企業の社員が多い。給料が高いから塾でも家庭教師でも呼べるし行かせる」
「私達も、ATOK興産の社員も一割に入る。努力と勉強です」
「香織さん、私達は多くの敵を倒しました。イヤ、殺しました」
「その上に私達がいます。彼らにも親兄弟がいたと思います。一生彼らの事は忘れられないでしよう」
「私達はこの荷物を背負って生きて行かなければならない。後悔はしていません。このインタビューが発表になったら賛否両論、日本中に渦巻くでしよう」


東京へ

「そろそろ行こう。個人的な事は機内でしよう。時間がたっぷりある」
 ハイヤーを呼び空港に向かった。
「浩二、老人の話しとても良かった。笑いをこらえるの大変だった」
「極道の寺銭を強奪したとは言えない。その老人死んだ事にしよう」
 機内で三十分程個人的にインタビューを受け、後は爆睡した。

「満夫、信二、出迎えありがとう」
「偉い活躍だ。皆は日本の英雄だよ。明日午後二時に官房長官が合いたいそうだ」
「取りあえず会社に行こう。皆待っている。小型バスを予約してある」
「何と東京の変わった事。品川にこんなにビルは無かった」
「満夫、このビルか。建てたばっかりだでかい」
 皆がビルに入ると、盛大な拍手で迎えられた。
「遅れてすいません。私達よりこの開発計画書を待っていたのではありませんか。飛行機の中で抜粋しておきました」
「これ、誰かコピーしてください」
 急いで百部程コピーし、配った」
「西と南アルロマは合併します。そこに発電所十五か所とありますが、全部は取れません」
「取れますが、イギリス、。フランス、アメリカが黙っていません」
「アルロマの為にもなりません。日本で取った仕事は全て、我々が元請けです」
「それとお願いがあります。私達は仕事、商売の事はなにも知りません。知っている事は戦闘の事だけです。勉強します教えて下さい」
「パーティーの準備が出来ているらしいので、時間が早いがやりましょう」
 パーティーでは、新一と和正の撮ったアルロマの女性の写真で大いに盛り上がった。
「満夫。官房長官と逢うのにこんな服装で良いのか」
「構わないと思う。昨日帰って来たばかりだ」
 官房長官が来て『人質の件ではお世話になった。日本政府としては・・・』と、お礼とも言い訳のような話しを聞き本題に入った。余りにも大きい話しなので驚いていた。だが日本政府としては全面的に協力すると確約を貰った。帰りに仮契約書を置いてきた。
 その夜の内に。コピーが財界政界の人達に渡った。
「皆、私達叉勉強。勉強だな。人間生きている内は勉強だと言うが。あんまりしたく無い。仕方ないか」
「俺達。傭兵学校で習った事しか知らない。今どきの若者達のすること何にも知らない。カラオケ。女の子とのデート。合コン。俺まだ女の子と手をつないで歩いた事無い」
「何を言う。私達は五千億の会社の役員で株主だ。しかも大金持ちだ。これだけになるには無くす物があって当たり前だ」
「これから取り返す。大会社の社長でも毎日勉強だ」
「しっかり遊んでしっかり勉強だ」
「家に帰らないとまずいよな・・・いつ帰る」
「お金少しお土産として渡すかな」
「幾ら渡す」
「各自で決めたらいい。私は家を建ててやる。おばあちゃんに日当たりの良い部屋を造ってやる」
 翌日、皆は家に帰った。もう危ない事などせずに仕事をすると約束した。その夜、皆の家では大騒ぎが起きていた。
 一億ものお金を両親にプレゼントした者。この街一番の家を建ててやると言った者。
 弟、妹に、勉強して大学に行き、勝手に人を好きになってはいけない。お兄ちゃんの立場にふさわしい人をお兄ちゃんが選ぶと言った者。
 叉東京に家を建てるから東京に出て来い。働かなくともいいと言った者。
 命や怪我を心配してたのに今度は訳の解らん事で心配した。一晩泊まっただけで全員東京に戻った。
「参るよ一億のお金両親にやったら、出所をしつこく聞くんだ。それなのに母ちゃんしっかりお金をもつている。満夫どう思う」
「私の所もおんなじだ。皆が帰った後全員のお母さんから電話があったが、上手く説明しておいた」
「官房長官から『アルロマに外務省の職員を派遣し大使館を出そうと思ったが、いい場所が無い。いい所はもう外の国が押さえている。何とかしてほしい』と電話があった」
「動きが遅い。外務省の職員呼んでくれ。こんな事だと思った」
「仕事の打ち合わせしよう。皆会社の役員で株主だが経験が無い。それで副常務で取締役で行かないか。何年掛かるか解らないが。一人前になるまでだ」
「賛成それで行こう。かなり不安だった。時間が有れば出来る。傭兵学校で習ったから生き延びられた。叉勉強だ」
「満夫は駄目だ。最初から代表取締役社長だ」
「そう思う。だけど人材は居るのか」
「役員含みで人選した。その道のプロだ。副社長には銀行にいた私の先輩になつてもらう。お金を借り安い」
「信二の事だが、極道を辞める。兄貴に言われた。資本金五千億の役員が極道ではまずいと。信二の舎弟が後を引き継ぐ」
「それと何をやりたいかいつてくれ」
「私は中小企業を担当する。中東、アフリカ、ヨーロッパに糸偏(いとへん)、家庭用プラスチック製品を作り、売り込む」
「アルロマはまだ人件費が安い。輸送費が安い」
「中国には充分対抗出来る。二年で黒字にする。日本と同じ物を作り。世界中に売り込む」
「材料は日本から買う。エチオピアにも工場を作る。恩返しをする」
 それぞれやりたい仕事をいい。取締役常務の下に副常務取締役に着くことにした。石油、ガス、鉱山は社長が受け持つことにした。

「会社が大変な事になつている」
「仕事を取ろうと大手の役員が押し掛けている。中には大臣の紹介状をもつてくる役員もいる」
「世界中が不景気だ。そんなときの大型プロジェクトだ。世界中が狙っている。発電所だって五カ所は取れる。発電所だけで一兆円以上にはなる。作った後もメンテナンスで稼げる。そして実績があり外の国に売り込める」
「紀子の会社の事だが、私達皆が株主だ。役員になる。身内で固める」
「後十七日しかない。アルロマに行ったら、一カ月は帰れない」
「式にはアメリカ、フランス、イギリス、日本。その他十五カ国の大統領、首相が主席する。皆さんセールス外交に来る」
「日本もどれだけ受注できるか。譲れない物もある。石油、ガス、鉱山だ」
「恐らくどこかの国とジョイント開発になる。だが六〇%は譲れない」
「私、皆に相談がある」
「信二、何でも言え。大金が掛かる事は今言わないと、後では難しい」
「アルロマでは、今民主主義にあった法律をつくっている」
「ホテルを建て、カジノを作る。世界遺産が沢山ある」
「その提案スゴク良い。いずれ石油、ガスが出なくなる。だから私は中小企業を育て大会社に育てようと思った」
「賛成だが満夫お金あるか」
「石油、ガス鉱山は国のお金を使う。安定供給出来る。問題無い。副社長のところに銀行からお金を借りてくれと随分来ている」
「ホテルは問題ない。一個ではまずいラスベガスにも声をかけよう」
「私はアルロマを農業国に出来ると思う。力を入れたい」
「それとエチオピアも農業国と畜産国になれる。行ったとき、木はあんまりなかつたが、雑草が沢山生えていた。風土に合う牧草や作物があるはずだ」
「もうないか?まだ色々出て来ると思う」
「テルと相談しながらやろう。今はアルロマ国の事だけど、世界中を相手にしよう」
「信二のホテルはまずい」
「部屋借りよう。住所不定じゃあまずい」
「会社の隣りに大手の不動産屋の支店があつたので聞いてきた」
「いい物件があった。皆で行こう」
「満夫、信二、お前達も借りろ。世間がうるさい。適当な値段のやつ借りよう」
 毎日企画し、他の部所と摺り合わせし、夜遅くまで会社にいた。
 瞬く間に日にちがたち、会社の幹部、財界の人達とチャアーターした飛行機に乗り込んだ。香織さんが一緒に行きたいと言うので、特別にテレビクルーと乗せた。
 飛行機が飛び立ち、しばらくすると浩二達はこの十五日間を振り返り、何も知らない事に愕然としていた。特に数字に弱く、知っている事は弾道学と地図上の距離を計算する事ぐらいだった。帳簿や試算表など読めるはずもなかつた。 だが、これから勉強だ。私達なら出来る。
 今までの事を振り返れば、何も知らない田舎の若者が世界に通用する会社を作った。そしてリッチになった。
 私達なら出来る。今度は世界相手の商売の戦争だ。
 そんな事を考えている内に寝てしまった


エピローグ

 十五年が立った。ATOK興産は世界の三十二カ国に支店を持ち、子会社などなど含めると売上高が二十五兆円になった。
 紀子の会社もストライクのお母さんに教えて貰ったハム、ソーセージが値段が高いのに良く売れ、日本でもトップクラスの総合食品会社になつていた。
 浩二が紀子と結婚し、三人の子供がいた。
 新一は香織さんと結婚し、二人の子供がいた。
 信二はホテル部門を受け持ち、世界十五カ国の首都にホテルを出した。アルロマの女性と結婚し二人の子供がいた。
 ストライクもアルロマの女性と結婚した。
 吾郎、和正、健太、満夫も結婚し、それぞれ子供がいた。アルロマは中東で唯一の民主主義の国家として栄え、皆が育てた会社も中小企業とは言えなくなつていた。
 テルもアルロマの大統領になり二年になっていた。




終わり

青い挑戦

青い挑戦

  • 小説
  • 長編
  • アクション
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
更新日
登録日
2015-01-04

Copyrighted
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