潜む龍

スマホゲーム「モンスターストライク」の二次創作物です。

夜の学校、と聞くと冒険心を擽られるものだが、実際、本当の「夜の学校」は、存外暗いものである。それもそのはず、学校という広大な敷地内の全ての明かりが消え、なおかつ室内というおまけつき。煌びやかな街の電灯に目が慣れてしまった都会っ子が入ったら、いつもは当然の如く移動している廊下や教室内も、途端に暗闇の迷路と化すだろう。
そんな、夜の学校の、屋上のさらに上。
タンクの役割を果たしている楕円型の大きな貯水槽の上に。
一人の男がいた。
その男に、コツ、コツ、コツと靴音が近づく。学園の制服のボタンを上まで締め、ズボンからシャツを出しているその男は、あぐらをかき、髪を風に揺らし、そして脇にある愛刀「陸奥守吉行」に手をかけた。鞘を滑らし、月光に照らされた白銀の刀身が姿を覗かせる。
「...誰ぜよ」
闇に切っ先を向け、低い声で告げる。
「分かってないフリなんてしなくてもいいのよ」
靴音の主は、その顔に死を付けつけられながらも微笑み、そう答えた。
「お前か」
「だから分かってる癖に、全くいつも自分の強さを隠す人ね」
「それで、何の用ぜよ?わざわざこんな時間にこんな所まで来て、お前らしくもない」
「んーとね」
唇に指を当て、少し考える素振りをする。
何も考えてなどいないのに。
「私、あそこに居る事にしたわ」
「...こりゃ驚いた」
全く驚いた風な顔などせず、笑いながら、何の屈託もない笑顔を浮かべながら、その男は言う。
「お前にも『居場所』が出来た、ちゅーことかい」
「恥ずかしながらね。それにしても、案外驚かないのね」
つい数秒前、自身で驚いた、と言っているのにもかかわらず、その男は肯定した。
「そりゃお前という人間を知っていれば、そこまで驚きゃせん。...いや、お前という悪魔、の方が近いか」
言われ、悪魔は答える。
「そうかもね」
いつも通りの微笑みを浮かべながら。
「だって私は」
全ての味方で。
全ての敵で。
全ての仲間で。
全ての敵で。
全ての友で。
全ての敵なのだから。
「全ての人を救う事などできんぞ」
ベルフェゴールの些細な表情の変化から見透かしたのか、その男は言う。
それでも、怠惰の悪魔は。
「分かってるわ」
これまたいつも通りの微笑みと共に。
「全く、俺は未だにお前という存在が理解できん」
「お互い様でしょう」
かかっ、と景気良くその男は笑う。
「あなたの方こそ、見つかったの?」
「...5年に一人。4年に一人。卒業生に一人...それと、誰かは判らんが2年生に一人。これくらいかのう」
「2年生とは随分飛んだわね」
「しかも2年生には剣気を当て続けちょるのに全く祭りにならん。恐らくその2年生の奴がはじき返してるんだろう」
「どうでもいいけど。長い付き合いだけど、結局あなたにとっての『祭』の意味は判らないまま終わるのかしらね」
「かかっ、知らんでいいぜよそんなもん。知って何になる訳でもないぜよ」
「教えてくれたっていいじゃない」
「...そうじゃのう」
雲に隠れていた月が現れ、月明かりがその男の顔を照らす。
男はまるで玩具を与えられた子の様に、とても、とても期待しげに、笑った。
「強いて言うなら、闘いじゃのう」
「...答えになってないけど?」
「実のところお前も本当は分かってるだろう。こんな茶番はよしにして、酒でも飲まんか、門出のな」
「私が悪魔だとしたら、あなたは龍ね」
「龍か...そういえば昔、そんな事も言われたぜよ」
「それと、未成年の飲酒は禁止よ」
「うっ...そ、そのくらい良いじゃきに」
「ダメ。最後くらい、素面で語り合いましょうよ。もう2度と、こんな風に会うこともないのだから」
「...それもそうぜよ」
それ以降、雲が月を隠す事は無かった。
人知れず、1人が他者を求め。
人知れず、1人は自己を求める。
そんな関係を、締めくくるために。
語らいという最後の祝杯を、君に。

潜む龍

どうも管理人です。「潜む龍」どうでしたか?前作で意味深な発言をしたベルフェゴールさんと、隠してはいるけど口調でバレバレな誰かさんとの掛け合いです。この2人は実は不倫関係のようなもので、ひっそりと会ったりしています。お互いがお互いの気持ちを分かってはいるが、口には双方出さない、みたいな感じですね。ご意見、ご感想等あれば、次回作の参考に致しますので、どしどし送ってくれたら嬉しいです。Twitter→(@mnst_gakuen)

管理人も、この歴史上の人物は大好きです。

潜む龍

本来なら誰もいない筈の夜の学校に佇む、2つの影。そんな影たちの、甘く切ない、ただの語らい。ただの、最後の、語らい。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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