生徒会長の朝

スマホゲーム「モンスターストライク」の二次創作物です。

モンスト学園において生徒会長を務める女子生徒の、ただのありふれた日常の一ピース。


生徒会長の朝は早い。
寮の起床時間より1時間程早く起き、髪と服装と荷物を整え、食堂で簡易な朝食を手早く腹に納め、寮から5分程歩いた所にある校舎へと向かう。
外に出ると季節は初夏から本格的な夏へと移ろいでいるようで、こんな時刻だというのに照りつける日は白い肌をじりじりと焼く。
「今日も早いですね」
箒で地面を掃きながら歩く彼女に近づき声を掛けてきたのは、美しい金髪のセミロングを持った級友、アーサーだった。
「おはよう、アーサーこそ、毎日お勤めご苦労様ね」
その美髪の持ち主、アーサーは生徒ながらにして寮の総管理職を校長から任されており、様々な仕事があるので生徒会長同様、朝が早い。
「いえいえ、お互い大変ですが今日も頑張っていきましょうね」
「そうね、頑張りましょう」
いつも通りの他愛も無い会話を交わし、微笑む。
アーサーとはお互い多忙な毎日を送り、かつ朝、寮前で必ずと言っていい程会うので自然と仲良くなった。普段あまり笑う事のない生徒会長も彼女の前では自然と笑みがこぼれてしまう。それは、「困った事があればアーサーに」と呼ばれる程おおらかで優しい彼女の性格の成せる事なのだろう。
学園の門の鍵を貰い受け、寮前の毎朝の掃除を続けると言うアーサーと別れを告げ、学園へとまた足を向ける。
途中、アーサー以外の誰とも会う事も無く、校舎へと辿り着いた。緑地が多いこの学園は、この季節になるといかんせん虫が多い。幾つもの声が反響して、もはや雑音の域にまで達している蝉達の鳴き声を聴きながら、門の鍵を開ける。早朝の開門はいつも彼女の役目だが、学校に入るのが一番という訳では決して無い。
その理由が、今目の前できびきびとしたラジオ体操をしている小さな物体である
「...前校長、おはようございます」
その物体は体操を止め、振り向く。
「君か。今日も早いね、ご苦労様」
彼はこの学園の前の代の校長、マシューである。彼とはそれこそ腐れ縁と言ってもいい付き合いがあるが、未だに彼女は何故これがこの学園の校長になれたのかが全くもって分からない。只者ではない事は確かだとは思うのだが。
「ありがとうございます。校長も早く教室やらに行かないと生徒達が登校してきてしまいますよ」
それに、不思議な事に前校長は自分の正体をほぼ全ての生徒や教師に隠し、自分を2年生の生徒と扮して学園に通っている。それを何故かと聞いた時、本人は「生徒の視点から学校を見てよりよい学校に云々」と言っていたが、それが本当かどうかは分からない。ちなみに、彼の正体を知る生徒は彼女とアーサーのみだ。
「おぉ、もうこんな時間か、ありがとう。じゃあな」
言うと、こちらが別れの言葉を掛ける前にどこかへ行ってしまった。本当に神出鬼没な菌類である。
さて、私も行かないとね...そう心の中で呟き、彼女はまた歩みを進める。
「職員室の鍵は...空いてるわね」
ドアをノックし中に入り、生徒会室の鍵を取り、その場所へと行く。
鍵を開けると、途端に夜の間溜まりに溜まった蒸し暑い空気かむわっと彼女に襲いかかる。
資料やプリントが多い生徒会室では扇風機は使えず、篭った暑さにうんざりしながら窓を開け、「会長」と置き札が立てられている机に座る。
すると、ポケットに入れていた携帯電話の着信が鳴り、手に取ると画面には【徳川慶喜】と表示されていた。
徳川慶喜は、生徒会で副会長兼書記を担っている、言わばオリガの右腕のような存在だ。性格は無邪気かつ天真爛漫で、好奇心旺盛。元気を体現させたような女の子だ。しかし、二つの職を掛け持ちしていながら、仕事は本当によく出来る。このままだと現役中に追い越されるかもしれない、と危惧する程に。そんな徳川慶喜は...
「...え、風邪?」
「そうなんですよー!すみません今日私風邪で休むんで、仕事よろしくお願いしますです」
やたらと元気な声だが本当に風邪なのだろうか。
「了解したわ。仕事は金光にでもやらせておくからお大事にね」
「うん!ありがとうございます!久し振りにかいちょーのデレも見れたし私満ぞk」
「じゃあ仕事あるから切るわね。ゆっくり寝なさい」
そう言い切り、通話を切る。
軽口を叩ける元気があるのだから明日には治っている事だろう。
「早速金光に電話しなければ...って、また着信?今日は朝から多いわね」
画面を見ると、そこには自分が丁度電話をかけようとした人物、フィリップ金光の文字が。
「...もしもし?丁度良かったわ。あなたに頼みたい事が」
「あ、会長さん?ちょっと今日は各国のお偉いさん方が集まる大事なパーティがあるから学校行けないんだ〜、よろしく」
「え、ちょっと、待っ...」
プツッ。ツーツーツー...と、こちらが口を挟む間も無く電話は切れてしまった。まぁ、そんな凄いパーティに誘われているというのならば仕方もないのだろう。
先程の電話の主はフィリップ金光、生徒会では会計の席に座っている。そして、何を隠そう彼は世に名を轟かすフィリップ財閥の御曹司。噂では、既に彼の私有財産のみで数十億を突破しているとか...。
だがそんな事など、彼女にとってはどうでもよい。そもそも生徒会長である彼女は、彼の庶民とは掛け離れた金銭感覚によって度々頭を痛くさせられている。彼がどこぞの財閥の御曹司である事など彼女にとってはマイナスでしかない。
しかしその2人トラブルメーカーがいなくなって安心、という訳にはいかない。何故なら、2人が休んでしまったら生徒会は生徒会長のみとなる。つまり、今日の仕事は全て1人でやらなければいけない、ということだ。
これは中々に骨が折れる。
今日はいつもの3倍頑張らなくちゃね...そう心の中でひっそりと思い、彼女は自分のデスクに座り、仕事を始めた。
何十分か経っただろうか。時計を見ると、時刻は8時20分。25分には教室で着席していなければいけないので、鍵を閉め、三人分の書類が入った段ボール箱を両手に持ち、足早に生徒会室を去った。
彼女の教室は3階で生徒会室は1階にあるので、少々急ぎ足で階段を登り、角を曲がろうとした。が、急いでいたのもあり、曲がり角で人とぶつかり、お互いに倒れてしまった。その衝撃で段ボール箱を落とし、様々な書類が床に散乱する。
「す、すみませ...」
彼女は書類を集める前に衝突した人に謝ろうとした。しかし、その人物の顔を見た瞬間、心臓がドクンと脈打ち、言葉が続かなかった。
「わ、悪い...って、あぁあ!お、お前だったのか!すまん!悪い!ごめん!」
あわあわと散らばった書類ををかき集めながら謝りに謝るその主の名前はストライク。生徒会長と同じ学年で、いたって普通の男子高校生である。
「...別にいいわよ。こちらこそ」
彼女も、ストライクとは違ってテキパキと書類を集める。そして全て集め終え、ファイルに入れ、段ボール箱にまとめるとすっと立った。
「じゃ、私はこれを運ばなくちゃいけないから」
そう言い残し立ち去ろうとしたが、彼は、声をかけてきた。
「なんで今日はそんなに多いんだ?書類」
「...貴方に話す必要があるのかしら」
「ま、理由は何にせよそれは流石に多すぎるだろ。ほら、半分持ってやるから」
「え...お、大きなお世話よ。私一人でできるわ、じゃあ」
そうストライクを突き放し、歩こうとしたが、段ボール箱の中の書類がずれ、バランスを崩してしまった。
「きゃ...」
「危ない!」
ガシッ!と、両の腕でその細身を支えるストライク。手の支えを失った段ボール箱は床に落ち、またもや書類が散乱する。が、生徒会長はそんな些事など目には入っていなかった。
「大丈夫か?」
瞬間、顔が朱に染まる。頬は上気し、頭が真っ白になる。背中で腕の感触がする。腕が握られている。顔が近い。心配そうにこちらを見つめる眼が、そこにはあった。
「だっ、だだだ大丈夫よ、もう大丈夫だから、大丈夫だから、手離して!」
「ってもなぁ、今手離したらお前倒れちまうからな」
そういい、ストライクは絶賛思考停止中の会長様をぐあっと持ち上げ、元の姿勢へと戻した。
いつもの理性的な素振りはどこへやら、ただぽけーっと突っ立つ会長。
「ほら、こんな事になるから俺手伝うって」
そうストライクが告げたところでようやく我に返ったらしく、
「はっ!て、手伝いなんていらないわよ、生徒会長なんだもの、これくらい一人で...」
しかし、彼は言葉を遮る。
「あのな、生徒会長とか、んなもん関係ないだろ。お前だって一人の女の子なんだから」
...あぁ。
生徒会長は思い出す。
この学園に入り、初めて彼とあった時を。
「我慢する必要のない事を我慢してるのは、ただの馬鹿だ」
またあの時と同じ言葉。彼の方こそ覚えていないだろうが、彼女の目にはまるで今起こっているかのように鮮明に映し出される。
そうやって、この人は、また。

『オリガ』として、私を見る。

それは、彼女にとっては、この上なく心地いいものだった。
「...全く、ずるい人ね」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないわよ、それより早く運ばなきゃ遅刻するわよ」
「うぉ!そうだそうだ、ってオリガお前顔めっちゃ赤いぞ!どうした、熱か!?」
気付けば、顔はいつにない程熱く、真っ赤になっていた。
「えっ、いいいやいやこれはその、違うのよ、熱とかじゃなくて、えーっと...」
「いやその赤さは絶対熱だ!どれどれ...」
「ひゃっ!な、なにおでこにおでこあててんの...もぅ...」
「熱っつ!おいお前これやばいぞ!早く保健室へ、いや救急車か!?そうとなれば119番に...」
「だから違うって言ってるでしょ...」
オリガの唯ならぬ雰囲気を流石に感じ取ったのか、ストライクの動きも止まる。不思議そうに、訝しげに顔を歪めるストライク。そんなストライクに向けて、

「全部、あなたのお陰で、あなたのせいよ」

最上級の微笑みと共に、言う。
その言葉の持つ意味を、この朴念仁は感じ取る事はないだろう。
でも、いつかは。きっと。

いつもとはまた違う、甘酸っぱく、そして心地いい生徒会長オリガの一日が始まる。

生徒会長の朝

「生徒会長の朝」どうでしたか?各キャラクターのビジュアルは、検索していただいたりで把握していただけると嬉しいです。ところでこの「生徒会長の朝」では、これからも登場するであろう、オリガ主点の話となりました。オリガは自分がモンスターストライク、というゲームの中でも一番好きなキャラクターでしたので、自分の筆で彼女を動かすことができて本当に嬉しいです。ご意見、ご感想等あれば、次回作の参考に致しますので、どしどし送ってくれたら嬉しいです。Twitter→(@mnst_gakuen)

生徒会長の朝

初夏、いつもと変わらぬモンスト学園の生徒会長の日常のハズだったが、生徒会メンバーが全員欠席とのことで自分一人で仕事をしなければいけなくなり…?意地っ張りで頑張り屋な、可愛い生徒会長さんの甘い日常です。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work