欠陥と超能力者

始めまして、初めまして皆さん。

神蔵悠介です。ちなみに、かむくら と読みます。

この作品を読んでくれるととても嬉しいです。

1話 変わりゆく日常編 Ⅰ

 超能力、それは魔法の次に人が求める力の1つだろう。
 夢を叶えたり、自分自身が楽になったり、ヒーローにもなれる。
 しかし、その中には人殺し、破壊を目的とした者もいる。
 何故、人は超能力や魔法を欲しがるのか? 答えは簡単だ。
 自分に無いものであり、架空の能力であるからだ。
 だが、1980年に超能力者が発見された。世界中がその超能力者に注目した。
 そして、科学者達は超能力に本格的に研究を始め、1992年に超能力の解明をする。
 科学者達は人間は本来力を抑え込んでいると言う。
 人間は自身でリミッターを掛けている。
 そのリミッターを外す事で人は超能力を扱えると言う。
 しかし、人間はリミッターを外してしまうと、身体を壊してしまう。
 だが、ある者はリミッターを外しても身体を壊す事は無かった。
 科学者は人類全てが超能力を使える訳では無いと分かった。そして、超能力を使えるかどうかのテスト。
 超能力カリキュラムを受けさせ、超能力を使えるか使えないかの適切審査を行い、能力者を誕生させる事に成功した。
 これにより、世界に超能力者を生みだすことが可能となり、超能力者(略称を能力者という)を養成する機関が設けられた。
 全世界で能力者育成に取り組みを始め、能力者同士の国際大会も作られた。
 各国は能力者育成に競って取り組んでいる、それが国の力となる存在でもあるからだ。
 何よりカリキュラムで分かった事が、一人一つの能力が付くという事。
 そして、超能力が浸透した2026年超能力者観測を目的とした都市が日本に作られた。



「はい、次のワードを有原。ここの都市の名前を答えて答えてみて」
 大きな電子モニターに文字が並べられている。そして、現文(現代文)の先生は問題を出した。
海上都市(かいじょうとし)ですね」
「正解、では次のページに」
 有原は淡々と答え、席に座る。
 それを後ろで見ていた天月(あまつき)彰吾(しょうご)
天月(あまつき)彰吾(しょうご)、超能力が浸透した世界で普通の学校に通う高校2年生。
『相変わらず、頭が良いな〜有原(ありはら)』
 そんな事を思う彰吾。
「相変わらず、アイツは頭が良いな……」
 隣にいる、宮下(みやした)(しゅん)が彰吾に小声で話を掛けてきた。
 宮下(みやした)(しゅん)、天月とは高校に入った当初に友人となり、今でもつるんでいる
 同じ事を考えていたのか、と電子モニターを見ながら思う彰吾。
「確かにな、でも、ランクBだからな」
 ランク。それは、この時代においての自分の地位的な物だ。
 ランクはC~Sまで存在する。
 ランクが高ければ、科学者達がそのデータを取る為、その分の報酬金が手に入る。
 しかし、この報酬金システムはA+ランク以上からである。
 そして、ランクが高ければその分脳の発達が高い為、一般人よりも知能が高い。
 だが、それでも知能が低いものがいたりもする。
「小言でしゃべってないで勉強してくださいね??」
 話に気を取られ勉強に集中仕切れていなかった彰吾は、現文の先生の声で現実に引き戻された。
「――!」
「うお!?」
 彰吾と俊の二人は驚き、まずい!と思い、ゆっくりと正面を向くと。
「後で、職員室に来てくださいね??」
 二人は正面を向くと、現文の先生は二人を見ながら言う。
 満面の笑みで二人に言ったが、内面が笑っていないのがヒシヒシと伝わった。
「では、授業を再開します」



 
 授業後、現文の先生に言われ職員室に行き、注意を受けている。
 現文の先生が使った超能力は、反響声(ボイス・エコー)
 対象に声を乗せる事の出来る能力。
 ちなみに教員は能力者の者も入れば、普通の教員も入る。教員が能力者の場合、ランクは不問。
 ランクSであっても、教員は他と変わらぬ給料だ。
 あくまで、発展途上中の学生を対象にした報集金システムだからだ。
 ランクは学校を入学する時に超能力カリキュラムを受けさせる事で、ランク測定されている。
 能力者のみの学校は日本で全五校しか存在しない。
 いずれも入るには成績優秀か莫大なお金、もしくは能力に可能性があると判断された者のみが入学を許される。
 はっきり言えば、エリート校。
 一つが神奈川にある共学の第1東都高等学校。
 二つ目が京都にある共学の第西都高等学校。
 三つ目が秋田にある共学の第3高等学校。
 四つ目が海上都市にある第4女学院、第4女学院は中等部から高等部のある学院である。
 最後に山口にある第5学園、この学園は小等部から高等部まであり、エスカレーター式の学園。
 彰吾と俊はそこらへんの一般の高校に通っている。
 超能力者オンリーの学校が五校しか無いだけで、別に超能力者でも他の高校は受けられる。
 超能力者オンリーの学校があるこの海上都市は、能力者だけじゃなく一般人も住んでいるのだ。
 そして、ランクがA以上であると免除申請が勝手に行われ、自分の行きたい五校の内どれかに行くことになる。
 基本、第一高校を略して1校と呼んでいる。
 他は2校、3校。 第4女学院は4女、第5学園は第5と呼ばれている。 
 などと、現文の先生が言い出した。
 説教はまだまだ、掛かりそうだ……。と思う二人だった。



「「失礼しましたー」」
 と、職員室を出る二人は、はぁ……と二人でため息をつく。
 こってり絞られたが彰吾は注意で終わりすぐだった。
 だが、俊は細々と注意され、最終的には全く関係の無いことまで注意された。
 昼休みを使って説教染みた注意を受けて、昼休みがつぶれるのが一番の悪夢。
 長引きそうだったので、彰吾は俊に助け舟を出して、現文の注意を終わらせた。
 そして、彰吾達は職員室を出ると、そのまま食堂に向かう。
 向かおうとすると廊下が生徒で埋め尽くされていた。
「おい、見てみろよ」
「うお! すっげ!」
「何でこの学校にいるのかしら?」
 前にいる生徒達が言う。彰吾と俊は何が何だか分からなかった。
「何が凄いんだ?」
 俊が前にいる生徒に聞く。
「来てるんだよ」
「誰が?」
爆弾師(ボマー)が」
「「は?」」
 彰吾と俊はハモった。驚くのも仕方なかった。
 なにせ、Sランクの爆弾師(ボマー)がこんな所にいるのがおかしい。
 Sランクは全世界に56人、日本に7人しか居ないため、驚くなと言われても驚くだろう。
 しかし、通り名と噂、能力は知っているだけで当本人の顔を見たことが無かった。
「ちょっと見せてくれないか?」
 俊が前にいる生徒に言うと生徒は俊と彰吾に見れる様にその場をどいてくれた。
 そして、初の爆弾師(ボマー)を拝む。
 そこには美少女がいた。茶髪でロング、目が大きく、スタイルもかなり良い。
 これがあの爆弾師(ボマー)だとは思えない彰吾だった。
 爆弾師の能力は爆炎を生み出す能力。さまざまな物にその爆炎を付与する事が可能となっている。
 その為、自分の意思で好きな所に爆炎を生み出す事が出来る。
 先ほど言ったこれがあの爆弾師(ボマー)という理由。
 爆弾師(ボマー)は単身で人質のいる状態でテロリスト20人のみを爆破させたと言う、残虐性を持っている聞いた。
 理由は不明。 だが、傍から見ても解るぐらいの犯罪者嫌い。
 しかし、そんな人物が何故こんな所にいるのか彰吾には分からなかった。
「何で、爆弾師(ボマー)はこんな所にいるんだ?」 
 俊が彰吾に聞く、それが分かれば苦労はしないと思う彰吾。
 だが、何故こんな所にいるのか直ぐに分かった。
「私はここの学生の人に呼ばれて来たのですが、誰が呼んだか知りません?」
 と、爆弾師(ボマー)が言う。 辺りが沈黙した。
あれだけザワザワとしていた廊下が急に静かになる。爆弾師(ボマー)はそんなのお構いなしにいい続ける。
「こんな手紙が学生寮のポストに入っていたので」
 爆弾師(ボマー)が手紙を片手に言う。その手紙を見た生徒全員は思った。
 ラブレターだ……。
 ラブレターを見た瞬間、またザワザワし始める。
「これは、公開処刑……」「まさかの爆弾師(ボマー)に告白とか」「これは、当たって砕けろと言うより、当たって爆散しろだな」
 案外ここの生徒は面白いヤツもいるもんだなと思う彰吾。
「ん~、この学校ではなかった感じですかね……?」
 爆弾師(ボマー)はそういうと帰ろうとする。
「ま、待ってください!」
 彰吾、俊の後ろから聞こえた。その場に居合わせた生徒全員が声のする方を向く。
 そこには顔を真っ赤にして涙目になっている生徒がいた。岡野だ。
 岡野は野球青年だ、ボウスの。岡野は意を決した用に力強く一歩一歩、爆弾師(ボマー)に向かう。
 岡野の邪魔にならないように生徒達が廊下のはじにより、真ん中を岡野のためにあける。中にはこんな声も。
「頑張れ! 岡野!」「俺たちの分までいけ!」「爆破しろ」などと、応援の声が岡野だけに聞こえる様に小声で言う。 最後の除き。
 岡野はそこに居合わせた生徒全員に応援された状態で、爆弾師(ボマー)の前に立つ。
 不思議そうに爆弾師(ボマー)は岡野を見た。 
 見られた岡野はまた、顔を赤くする。
 深呼吸をする岡野、それを見ている爆弾師(ボマー)
 そして、岡野が言う。
爆弾師(ボマー)さん! 僕と付き合ってください!!」
「無理です」
 笑顔で断る爆弾師(ボマー)。あたって砕け……いや、当たって爆散した。
「な、何故ですか? 僕が、ボウズだからですか?」
 岡野は何故自分が振られたのか気になり、爆弾師(ボマー)に聞く。
 もしかしたら、4女は交際禁止とかあったりするかと思う彰吾。
 周りも断った理由が聞きたいらしく、真剣な眼差しで爆弾師(ボマー)を見る。
「え、だって。人の名前を呼ばない人とは付き合いたくはありませんから」
 真っ当な、誰も言い返せない、誰もが黙る、ぐうの音も出ない、ぐう正論を爆弾師(ボマー)は発言した。
 それを聞いた瞬間女子から「確かに」「うわ、ないわ~」「人の名前ぐらい覚えろサル」
 確かにその通りである。さすがに、サルは言いすぎだが。
 これはさすがの男子全員が岡野から顔を逸らす。
 当然、彰吾と俊も含まれている。
「では、お名前を!!」
 岡野が言うと、またまた辺りは沈黙する。それはそうだろう、ここの生徒は爆弾師(ボマー)爆弾師(ボマー)としか呼ばれているのしか知らない。
 だからこそ、ここにいる全員が彼女の爆弾師(ボマー)の本名を知りたかった。
 爆弾師は《ボマー》は少しため息をつき、少し間を空け、
東堂(とうどう)沙由利(さゆり)です。では、私はこれで」
 爆弾師(ボマー)は東堂沙由莉と名乗り、その場を去る。
 沙由莉の名前を聞いた生徒達、東堂沙由莉。
 それが爆弾師(ボマー)の、東堂沙由莉と言う名前だ。
 名前を知り、数分後チャイムが鳴る。
 そのチャイムを聞き、彰吾と俊は思い出す。
「あ、昼飯……」
「あ……」
 そして、次の授業をお腹を空かせながら授業を受ける事になった。


 全ての授業を終え放課後、やっとの思いで食べる事になった昼御飯。
 彰吾と俊は放課後も開いている食堂に行き、お昼御飯を食べている。
「それにしても……、あんな理由で来るとはね……」
「何が?」
「東堂沙由莉、爆弾師(ボマー)の事だよ」
 食べ物を口に含んだ状態で彰吾に話を掛けてくる。
 ハムスターやリスの様に頬がパンパンの状態で。
「ラブレターの用件だけで……来るなんて……いい子だよな」
「……、いや、多分、あれは……」
「ん? なんだ?」
 あの反応を見る限り、間違いないだろうと思う彰吾。
「多分だけど、東堂は手紙の事をラブレターだと思ってない」
「へ? それは……ないだろう」
「いや、東堂はラブレターを手紙と言ったからな」
「それは……ラブレターだと言わないで……遠まわしに言ったんだろ?」
 そう、そうだと彰吾も最初は思ったのだが。
「この学校では無かった感じって言ってただろ? あと、その前のここの学生の人に呼ばれてと。この時点で東堂はあの手紙をラブレターだと思ってないと分かった」
「なんでだ?」
「そもそも東堂がなぜ、生徒が一番集まる食堂付近にいたのかと言う事だ。ラブレターだと分かっていればあんな場所には来ない。ラブレターに書かれている場所に行くはずだ」
「場所が分からなかったとかは……?」
「それは無いだろうな」
「……、なんで?」
「ここの食堂は二階の奥だ、二階に来る必要はない。多分校内地図でも見たんだろう」
 でなければ、この二階の奥にある食堂までこれる筈が無かった。
「だから、岡野が息を荒くしながら現れたんだ」
「あ~……なるほど……」
 顔を真っ赤にしていたのはまさかの展開が起きたからだろう。しかも公開処刑だ。
 多分、岡野はラブレターに場所を指定したハズ、そこで告白する予定だったんだろう。
 しかし、沙由莉はラブレターだと思わず、人の集まる食堂付近に向かい、ラブレターの差出人を探した。
 そこで、岡野は校内が騒がしい事に気づき、校内を探すとそこにはなんと、想い人の東堂沙由莉がいる。
 最悪な事に、ラブレターを誰か聞いている。そして、帰ろうとした沙由莉。
 ここで帰ればもう二度と会えないだろうと思った岡野はここで告白。
 だから顔を赤くしていたのだろうと思った彰吾だった。
 味噌汁を飲みながら、彰吾は俊を見る。
「なぁ……、彰吾……、今日はオフ……?」
 まだ、口の中に物を入れハムスターみたいに頬を膨らませ、話している俊。
「わり、今日はこのあと買い物。時に俊」
「……、ん? なんだ……?」
「さっきから、口に物入れて話さないでくれるか? 少し汚い」
「ごめん」
 こうして、遅い昼御飯を済まし彰吾と俊は一緒に下校する。
 彰吾と俊は家が近い為、帰りはだいたい一緒だ。
 帰りの最中、前にいる女子生徒、うちの学校の女子達が何やら話をしている。
「ねぇねぇ、この海上都市の都市伝説知ってる?」
「知ってる! 知ってる! 一時期調べてたんだー」
「え、どんなどんな!?」
「一つはね、能力が使えなくなるんだって」
「えぇーなにそれー」
 前の女子達が話してる様に、この海上都市には7つの都市伝説がある。
 一つは先ほど話していた、能力が使えなくなると言う伝説。
 どこかの生徒がその人物と遭遇した日、どうやら能力が使えなかったらしい。
 あくまで都市伝説なので嘘の可能性もある。
 二つ目は路地裏のお金。学測都市にある裏路地にお金が落ちていると言う事。  お金が落ちているのは不明、もしかしたらヤバイお金なのかも知れないという。
 三つ目はドッペルゲンガー。超能力者にいてもおかしくは無いのだが。
 ドッペルゲンガーは不可能とされている。
 更にドッペルゲンガーの自分に会うと不幸な目にあうといわれている。
 四つ目は同じ能力を使う。相手とまったく同じ能力を使うと言われている。
 どうやら、能力を編み出しその能力を使った必殺技をそのまま使われたとか使われて無いとか。
 五つ目はデータ人間。電脳世界に住んでいるといわれた人間、パソコンを開いていると突然画面はしから人の手が映ったといわれている。
 2chでは「自分の嫁画像だろ? ワロス」と小馬鹿にされている。
 六つ目が闇の痴女。闇と付いているが暗い所にいると言う痴女らしい。
 それも痴女にあった女は痴女になると言われている、男子の味方。
 そして、最後の七つ目が分解をする人間。
 能力だろう言われている、うわさだと相手を分解する事が可能らしい。
 しかし、一部を分解する事でその部分は霧状となり消えるといわれている。
 そして、見た者はいないとか。
「ね、怖いでしょー」
「えぇー痴女には会いたくないー」
 と前にいる女子達が言う。 彰吾も知ってはいたが、知っていたのは最後の分解をする人間しか知らなく、意外と勉強になったと思う彰吾だった。
 話を聞いていると、いつの間にか目的地のスーパーに着いていた。
「んじゃ、買い物してくる」
「俺もいくわ」
 彰吾と俊は買い物カゴを取り、入店した。 このスーパーは格安を売りとしているスーパー。
 そして、今日の日替わり商品が格安かつお目玉商品だと知り、このスーパーに足を運んだ。
 お目当ての商品を手に入れる為、その場所へ向かう。彰吾はお目当ての場所に着く。
 待つこと数分、従業員専用扉から店員が出て、店内マイクを手にとる。
 時は来た。
「それでは皆さん、お待たせしました。ただいまのお時間からタイムセールとします! 本日の日替わり商品は17時からなのでお待ちいただいたお客様には大変ご迷惑をおかけしました。では、今日の日替わり商品の卵です! 八個入り1パック150円です!! こちら、お一人様一点のみとさせていただきます。それではどうぞ!」
 店員の合図と共に、家庭を支えてきてた屈強なおばちゃん達が我さきと言わんばかりに卵に手を伸ばす。
 彰吾は運の良い事に人ごみに紛れ込みなんとか前の方まで行った。
 しかし、ここからが勝負。
 彰吾も負けじと手を伸ばす、だが、卵はこちらの方には来ない。運良く店員が卵をこちらの方に渡そうとする。
 チャンスが来た。
 彰吾は卵に手を伸ばす。だが、卵に触れた瞬間横から卵を取られてしまった。
「甘いわね! 貰っていくわ!」
 そう言いながらよくいる太った髪が紫色のおばちゃんが、卵をかっさらって行った。
 くそ! 後、もう少しだったのにと思う彰吾。
 卵が残り半分になっていた、あの一瞬の間に卵がドンドン無くなっていく。ここで彰吾にまた、チャンスが来る。
 なんと、店員が後ろの方にいるお客様の為に卵を渡そうとしている。しかもその卵は彰吾の真上にある。
 後ろの人には悪いが、こちらも生活が掛かっているんだと思い、彰吾は手を伸ばす。
 そして、卵を掴んだ瞬間、横からまた取られてしまった。
「悪いわね! この卵はいただくわ!」
 彰吾は卵を潰さない程度にがっちりと掴んでいたハズなのに鬼神の力の如く横から取られてしまう。
 やはり、家庭を支えてきているおばちゃんは強い……と思う彰吾。
『今日の日替わりタイムセールの卵はあとわずかです! お早めにどうぞ~!』
 店員がなんとも聞きたくない事言う、彰吾は残りわずかの卵を手に入れる為手を伸ばした。
『本日の日替わりタイムセールは終了です! 誠にありがとうございました!』
 と、店員が言った。 彰吾は後一歩の所で1パック150円の卵を取り損ねた。
「はぁ……」
 深いため息をつく彰吾。なかなか疲れたのに戦果はゼロ、これはかなり痛かった。
「あら? 彰吾ちゃんじゃない」
 落ち込んでいると、突然誰かに話を掛けられた。彰吾はその声方を向く。
「どうしたの? 彰吾ちゃん?」
「いや、今日の日替わりの卵を取り損ねて…」
 そこにはいつもお世話になっている商店街の肉屋のおばちゃんがいた。
「あら、そうなの……、そうねぇー彰吾ちゃんならこれ、いる?」
 そう言うと肉屋のおばちゃんが今日の日替わりの卵を彰吾に差し出している。
「え!? 良いんですか!?」
「いいのよ。これお一人様一点でしょ? 今日娘が来れなくなって、卵を店員さんに返そうと思ってたから。はい」
「あ、ありがとうございます……!!」
「いいのよ! もう、彰吾ちゃんはいつもウチで買ってくれるからね! これくらいはもう安いもんよ!」
「だって! おばちゃんの肉屋のコロッケうまいんだもん!」
「ありがとうね、今度なんかあげるわ。それじゃ、彰吾ちゃん自炊しなくちゃだからおばさんはこの辺でね」
 そう言いながら肉屋のおばちゃんはまたね、と言ってその場を去った。
 何と素晴らしいタイミング。
 彰吾は買い物カゴに貰った卵を入れ、他のコーナーに向かった。
 そして、買い物が無事終了。少し後に俊も買い物を済ませ一緒に帰宅をする。
 いや、本当にラッキーだった、卵が手に入らないと落ち込んでいる所に救世主が現れたもんだ。
 そんなことを思っている彰吾だった。
 帰宅している最中にスーパーであったことを俊に話すと、「へぇ~そりゃあ、ラッキーだったな」といわれた。
「あ!」
 突然俊が立ち止まり言い出す。
「なんだ? どうした?」
「ごめん、今から銀行行っていいか? 今日夜に荷物届くんだよ」
「別に良いけど、何買ったんだ?」
「妹は何処(いずこ)へのDVDをな」
「あぁ、なるほど」
 俊はアニオタだ、特に『妹は何処へ』はかなりのオタ。
 去年の2057年の四月に放送されたブラコンアニメ。
 妹は常に兄の視界からいなくなり、兄に自分がどこいるのか探させるという何とも良く分からないアニメ。
 しかし、これが爆発的ヒットを起こした。
 どうやら、探させる間に兄の部屋にもぐり込み禁断の領域まで行きそうになるらしく、兄はそれを何とか堪えて妹を受け流していく。これがハマッたらしい。
 そして、『妹は何処へ~それはあなたの心~』と二期までやった。初めてタイトルを聞いた時にイラッとした彰吾。
 彰吾は俊に強く押され、最終的には俊が彰吾の家に来て一期を全26話を見せられた。
 そのせいで、妹は何処へは分かる。
 一応二期も見た彰吾だった。
 そんなことを思っていると銀行に着く、彰吾と俊はそのまま入り。
 俊はATMへ彰吾は近くにあったソファーに腰をかける。
「~♪」
 俊が鼻歌で妹は何処への一期の1クールのOPを歌っている。それほど、待ち遠しいのだろうと思う彰吾。
 17時でも何だかんだ人が多い銀行。
 しかし、黄色いジャンバーを着た男が突然立ちだし窓口に行く。
「どのような用件でしょうか?」
 笑顔で男に言う女性銀行員。
 だが――――
「ここに金を入れろ」
 男は突然銃を女性銀行員に突きつけた。
「へ……!?」
 困惑する女性銀行員に対し男は、銃を天井に向け発砲した。パーン!と銃声が銀行内を響かせた。
 そしてそのまま、銃を女性銀行員に突きつけた。
「金を入れろってつってんだろうが!!」
 男が激怒しながら女性銀行員に言う。
 後ろの男の銀行員が警報を鳴らそうとした瞬間、パーン!と彰吾の後ろから銃声が聞こえた。
 男の銀行員は肩を撃ち抜かれ、その場に倒れこんだ。
「次変なマネしてみろ! この婆さんを撃ち殺す!」
 隣にいた、おばあさんに銃を突きつける。
 そして、座っていた男が立ち上がり銃を持った黄色いジャンバーの男の隣に行く。
「おい、シヤッターを下ろせ」
「え……?」
「全入り口のシヤッターを下ろせって言ってんだよ」
「わ、わかりました……」
 男の言うとおりに女性銀行員はシャッターを下ろして貰うように指示した。
 入り口に立っていた男が窓口の近くに行き、話をしている。
「おい、ここにいる全員はこっちに集まれ」
 強盗犯のリーダーらしき存在が、銀行内にいる人全員をお客様窓口の方へ移動させられた。
 強盗犯は全員で三人。
 三人とも銃を一丁づつ持っている。
 これから何が起きるのか、分からないでいると外からサイレンの音が聞こえた。
『犯人に告ぐ、人質を解放し、すみやかに投降したまえ』
 外から犯人に向けての要求を言ってきた。
 間違いなく、外にいるのは警察とガーディアンだろう。
 ガーディアンとは、この海上都市内で起きた超能力に関する事件を解決するために作られた組織。
 警察とガーディアンの関係は、同じ部署ではあるが能力者が関わる事件には警察だけでは対応しきれぬため、出動する。
 だが、警察と違って逮捕する権利を持っていない。あくまで確保をして、警察に引き渡す仕組みになっている。
 ガーディアンは能力者に対抗することで、国に認められた能力者がそこに所属している。
「こいよ、ガーディアンと無能な警察。殺してやるよ……」
 そう言うと一人の男が銀行内にいた男性を立たせ、奥の部屋へ行ってしまった。
 いったい何が起きるって言うんだ、と思う彰吾。
 間違いなく、おぞましいことが起きる事は確実。
 強盗犯は殺してやると言った。警察とガーディアンの人たちを殺す気だ。
 そして、先ほど男性を連れて行った強盗犯だけが戻ってきた。
 戻ってくると仲間の強盗犯に首を縦に振った。
 多分、準備万端ということだろう。
 しかし、連れて行かれた男性が帰って来ないと感じた彰吾だった。



 銀行の外は警察とガーディアン。
 そして、報道陣達が銀行を囲っていた。
「犯人は三名で、奥の部屋に一人だけ移動させられました」
「それは間違いないか?」
「はい、感知地図(マッピングソナー)で感知しましたから」
 ガーディアン感知能力者の千道真弓(せんどうまゆみ)
 それを指揮する、新垣涼子(あらがきりょうこ)
「こんなの馬鹿の集団だ、機動隊を潜入させフラッシュバンからの拘束弾で拘束で終りじゃないか。何に躊躇する?」
 警察の機動隊リーダーが言う。
「相手に能力者がいたらどうするんですか」
「そんなもん拘束弾とフラッシュでどうにかなる。たかが三人、お前らのようなスキルドロップ共は見てろ」
 スキルドロップとは、能力者は基本的に企業、軍、能力者機関などにスカウトされるが、それすらも拒否された能力者の事。
 だが、ガーディアンの隊員は国から認められている能力者で、スキルドロップではない。
 これが、世界共通の超能力者に対する批判。
 ちなみに教師の場合のみスキルドロップとは呼ばれない。
 能力者が教師になる時は、能力者機関で認められなければ教師になれないからである。
「では、後学の為にその道のプロに教えてもらいます。一応、私達の班もつきますのでそこはあしからず」
「あぁ、見てろ。まぁ、何も出来ずに見てるだけに本当になるだろうけどな」
 機動隊のリーダーが高らかに笑う。それを涼子は機動隊リーダーに聞こえないように鼻で笑った。
 そして、機動隊が中の状態をカメラと銀行の間取り図を見ながら進入経路を探していた。
「涼子さん、アイツら本当にむかつきますね」
「そうね。でも、ちゃんと何かあった時はすぐにカバーしてあげて」
『了解』
 真弓はガーディアン各自にカバーに入るように指示を出した。
 指示をだすと、機動隊が進入経路を見つけ潜入の準備に掛かる。



 警察とガーディアンが着てから30分が立つと、強盗犯達が立ち上がった。
「そろそろだな……、おい」
「あいよ」
 そう言うと強盗犯達は一人残してまた奥へ向かった。今なら一人、倒してなんとか逃げるかと思った瞬間。
「うおおおおおおおおお!」
 一人のサラリーマンが犯人に突っ込んだ。そして、犯人に体当たりをしようとした。
 パーンと銃声が銀行内をまた響かせた。そして、その銃声がした方向を銀行内の全員が振り返る。
 そこには銃を持ち、片手に何かボタンのようなものを持っている共犯者がいた。
「ばっかだなぁ~、こんな人の多い所で一人にさせるわけ無いでしょ」
 サラリーマンは腹部を撃たれ血を流して倒れている。
『どうした?』
「ん? あぁ、正義ぶった馬鹿に鉄槌を食らわせた」
『そうか、では作戦どおり進めるぞ』
 銃声を聞いた強盗犯はトランシーバーを通じて会話した。その間にサラリーマンに近づいた女性。
「おぉい! なぁにうごいちゃってんのぉ~? 殺されたいの?」
「私は、看護師です……! このままでは、この人は死んでしまいます……!」
「んじゃ、応急処置だけね。それ以上やったら、殺すから」
 強盗犯が看護師に銃をつきつけられたまま、サラリーマンに応急処置を行おうとしたその時。
 奥の部屋の方から銃声が聞こえた。



 機動隊が準備完了した時、銀行内から発砲音が聞こえた。すぐさま、真弓は能力を発動する。
「状況は! どうなってんの!」
「……、犯人がもう一人お客に紛れていた模様……、誰か一人が撃たれました」
 真弓は言うと、それを聞いた機動隊リーダーは潜入作戦を決行した。そして、機動隊の潜入が始まった。
『こちら、A1隊倉庫室異常なし』
「了解、慎重に行動しろ」
『了解』
「なぜ、今潜入させたのですか」
 涼子はこのタイミングで潜入させる事が分からなかった。
「裏の倉庫室からこのオフィスは通気口を通っていけるからな、そこまで行き。フラッシュ投下、捕獲という事だ。おや、もしや、そちらのソナーは通気口に気づけなかったのかな?」
 機動隊のリーダーはそう言いながら真弓を見た。涼子は真弓を見えないように機動隊のリーダー目の前に立った。
「まぁ、みてろ。A1様子は?」
『こちらA1、異常な―誰か倒れているいます!』
「よし、犯人でないか確認しだい救助せよ」
『了解』
 A1機動隊は倒れていた男性を起こした。
『大丈夫ですか?』
『は、はい。 ありがとうございます』
『失礼ですが、あなたは?』
『ここでお金を下ろそうとした者です』
『救助しますか?』
「ああ、救助しろ」
『了解』
 倒れていた男性を起こし外傷が無いか確認し、隊の一番後ろに行かせた。
『あの、もしかして7人だけですか?』
「えぇ、そうです。 安心してください、お守りしますので』
『そうですか』
 突然男が喋りだすと隊の数を気にした、そして、
『殺しがいがあるじゃねぇか』
 突然男性が一番後ろにいた機動隊のひとりの首をナイフで切った。機動隊はすぐに男性に発砲する。
 しかし、銃弾は男性に当たらず寸前のところで曲がった。
 まるで弾が男性を避けていくように。
『弾が寸前で避けた!? 能力者か!』
 すぐに真弓は、何の能力か検索を掛けつつ感知をする。
『さぁて、何の能力でしょう~?』
『クッ……! 撃て!!」
 機動隊の隊長は、隊員の一人を殺した能力者に発砲をするが、弾は当たらずに、寸前のところで先ほどと同じ様に曲がった。
『やはり、弾が寸前のところで曲がるか……!』
「能力者検索でヒットしました! 相手のランクはCランク能力は衝撃装甲(ウェブラルアーマー)です!!」
 衝撃装甲(ウェブラルアーマー)の能力は、自分の体の上に薄いベールを纏う事で、何かの衝撃がベールに触れた際に発動する。
 これにより、何からしらの衝撃を受けた際に衝撃同士で相殺をする事が出来る。もしくは、衝撃を受けたときに、衝撃で石の軌道や銃の弾の軌道を変える事も可能。
「まずい……、カバーして!」
『了解!』
 涼子の指示に待機していたガーディアンがカバーするため、潜入した場所から入ろうとしたが、室内から突然二人組みの犯人が出て来て潜入した場所を撃ち、倉庫室に入れないでいた。
『くそ! これじゃ援護もできない!』
 ガーディアン、機動隊はただ見ている事しかできなかった。そして、銃声が聞こえなくなった時にガーディアンは突入を試みたが、
『突入しないで、無理よ。待ち構えている筈、一旦後退して態勢を立て直しましょう』
『了解……!』
 涼子は隊に指示を出し、後退させると、
『ハァ~ロォ~?』
「――!?」
 突然トランシーバーから知らぬ声が聞こえた。
『あれぇ~聞こえてますぅ~?』
「要求はなんだ……?」
『聞こえてたのねー良かった良かったー。え? 要求? そうだなー…』
 犯人かと思われる人物からの通話。要求を聞かれてると、犯人は悩むと。
『じゃあ、もっと人よこしてよ。殺したりないからさ』
 狂気に満ちた返答をされる。これを聞いた涼子は耐え切れず。
「何言ってるの…!! 人の命をなんだと思ってるの!!」
『ん? あんた誰?』
「私はガーディアン指揮官の新垣涼子(あらがきりょうこ)
『あそ、人の命? そんなの一つしか無いじゃん、何言ってんの?』
「それが分かってて何故殺すの!」
『楽しいから、他に理由が欲しいなら言うよ? 人肉を切る感覚がたまらないから、必死に生きようと生き延びようとしてるヤツの最後の顔が見たいから』
「狂ってる…!」
『アッハッハッハ!!! そうだね、狂ってる。でも、人生楽しいのが一番じゃん? 俺が楽しいと思うのは……あれ、まだ生きてる、ラッキー』
 犯人は機動隊の生き残りを見つけ、機動隊に向かっている。
「やめないさい!」
『はぁ~い、では、皆さんにぃ~……どぞ!』
 涼子の言葉なんか無視して犯人は機動隊にトランシーバーを近づけた。 はぁはぁと息遣いが荒いのがトランシーバーから聞こえた。
『た、たすけてください……』
『うん、いいよ』
『あ、ありがとうございます…!』
『はい』
 犯人がはい、と答えると同時にトランシーバーと銀行から銃声が聞こえた。 そして、ドサッという音がトランシーバーから聞こえた。
「なんで、何で殺したの!!! 助けるって言ったわよね!」
『助けるなんて一言も言ってないよ? 助けて、いいよ?と答えただけだよ。それに助けてあげたじゃん?』
「何を言ってるの……?」
『この世界から助けてあげたんだよ? 俺は、優しいじゃん?』
 この犯人は完全に狂っていた。もう、何を話しても意味がないと感じた涼子は黙るしか無かった。
 涼子との会話を聞いていた機動隊リーダーは呆然としながら震えている。
『まぁ、あと一時間でこの銀行爆破させるからよろしくね~。アハハハハハ!』
 犯人が最後に言い残すと、トランシーバーがブツンと音を立てノイズ音に変わった。
 機動隊は全滅させられたに違いない、あの狂気に満ちた(犯人)が生かすはずがない。もはや、手詰まり状態であった。
「どうしたんですか?」
「さ、沙由莉!」
「涼子さん、どうしたんですか?って大体見ればもう分かるんですけど……、強盗ですか?」
「そうだと思うのだけど……」
「どうしたんですか?」
 作戦本部に沙由莉が現れた。涼子は沙由莉に事情を話すと。
「……、私が処理します」
 目つきが変わった沙由莉。沙由莉はシャッターが下ろされている、正面口に立った。



「あー! 最高だった!!」
 奥にいた二人の男が帰ってきた。奥でかなり銃声がしていたが数分で銃声は聞こえなくなり、そのちょっと後に銃声が聞こえた。
 多分、突入部隊と銃撃戦をしていたに違いない。よく見ると一人は先ほど連れて行かれていた一般男性だった。
 そして、奥から現れた一般男性は先ほど連れて行った男性に近づくと顔を掴み、そのまま引っ張った。
 ビリビリと音を立て、顔がはがれた。そこには、先ほど連れ去られていたはずの一般男性がいる。
 奥から現れた一般男性の顔が溶け、そこからは強盗犯は現れた。
二重複製(ディアルトレース)で顔を……」
 二重複製(ディアルトレース)姿を対象に映すようにする能力。
 これを使えば、ある人物の姿を壁に映し、デコイを作ることが可能としている。
 無論、対象に自分の姿を映し、相手の姿を自分に映すことも出来る。
 銀行員が強盗犯に向かって言う。強盗犯は「正解」と言って、銀行員に近づき首に何かを巻いた。
「はぁーい。では、今から一時間後にその首についている爆弾がドッカーンと爆発しまーす。ちなみに私達はその爆破に耐えられるようにしてあるので、あなた達が死んでも気にしませぇーん」
 強盗犯はいきなり言い出す、強盗犯の言葉を聴いた彰吾含めた人質の人達。彰吾は覚悟を決めた。
 彰吾は強盗犯三人を相手しようと考えた。すると、隣にいた俊が彰吾の肩を叩く。
 どうやら俊も彰吾と同じ考えのうようで、つくづく気が合う彰吾と俊。
 彰吾と俊は三人がある程度意識がそれた瞬間二人で強盗犯を倒す計画。
 そんな計画をしている中で、周りは爆弾の話を聞いてから大騒ぎになっている。
「し、しにたくない!!」
「くるな!」
「娘がいるんです! お願いします! 出来るだけ遠くにいってください!!」
 と、自分の身が一番の状態で爆弾をつけられた男性に言う。それに対し男性は。
「俺だって死にたくない!! 誰かこれを……、これをはずしてくれ!!」
 周りはパニック状態におちていた。これは彰吾、俊にとって好都合。
 周りが騒いでくれればそれだけ、相手に視界と音を防いでくれる。
 そして、彰吾と俊が行動しようとした瞬間。
 物凄い音と同時にとシャッターが爆発した。シャッター前にいた強盗犯の一人が吹っ飛ばされたシャッターに直撃する。
 煙が上がる中、煙の中から何かが投擲された。投擲された物は地面に当たると同時にものすごい音と共に光った。
 投げ込まれたのは、フラッシュバンだ。
 フラッシュバンによって視角と聴覚を奪われた銀行内にいる人達。
 だが、彰吾と俊はシャッターが爆発した瞬間目を閉じていた為、フラッシュバンから逃れる事が出来た。
フラッシュバンから逃れた彰吾と俊は強盗犯に突っ込む。
 俊は視角と聴覚を一時的に麻痺している強盗犯を殴る、殴られた瞬間強盗犯が吹っ飛んだ。
 俊は能力者だ。能力は衝撃波(バースト)、衝撃波を放つことの出来る能力。
 衝撃波(バースト)を使えば、大ジャンプや一瞬で最高速度までする事が出来る。だが、俊はランクがCで低い為、相手を殴った時の衝撃を利用した衝撃波を放つことしか出来なかった。
 ランクが低ければ、本来の力をしっかり出すことが出来ない。本来なら、近づかなくとも衝撃波を放ち、そのまま相手を吹き飛ばせる。
 これがランクCの実力。
 彰吾は残り二人を自身の能力、重力(グラヴィトン)を使い、相手を地面に伏せさせる。
 重力(グラヴィトン)、重力操作を扱う能力。
 重力を自由に操作できる能力者。重力(グラヴィトン)を使えば、自身の周りだけを無重力空間を作ることができ、飛行可能とする事が出来る。
 飛行可能とする能力は、全ての能力の中で重力系能力と風系能力の二つしか使えない。
 しかし、彰吾もランクCである為、対象に重力の負荷を掛ける以外は出来なかった。
 三人を彰吾と俊で制圧すると、煙の中から沙由莉が出てきた。
「あれ? 倒されてる……、あなた達がこの三人を?」
「えぇ、まあ…」
 沙由莉は彰吾に近づき、すぐに状況を理解すると彰吾に言う。それを彰吾は答えた。
 まさか、ここで東堂に会うとは……と思う彰吾。
 そして、沙由莉は気づいた。
「あれ? その制服は今日、行った学校の生徒さん?」
「そうです」
「なぜ、こんなところに?」
「いや、まぁ……。 友人が金を下ろすって事でいたら」
「巻き込まれたって事ですか、なるほどです」
「アハハ……、東堂さんは何故ここに?」
「騒がしかったので、大ごとになる前に潰しておこうかと」
「なるほど……」
 沙由莉と何だかんだ、会話した彰吾。
 それにしても、騒がしかったから来てそれで潰すって、怖いなこの人と思った彰吾。
「あの、犯人グループは四人と聞いたのですが、もう一人は?」
「あぁ、それなら――」
「うごくんじゃねぇぞ!!!」
 シャッターに吹っ飛ばされた犯人が出てきた。
「ちくしょう! いってぇな、くそが!! そこの男ごと殺してやるよ!!!!」
 犯人は男性の首に巻いた爆弾の爆破ボタンを持っていた。
 それを見た沙由莉は片手を犯人に向けると、犯人が持っていた爆破ボタンが突然爆破した。
「あああああああああああああ!!!!」
 突然犯人の持っていたナイフが爆発するのを見る彰吾。
『これが、東堂沙由莉の……、爆弾師(ボマー)の能力か』
 犯人は断末魔を叫びながら片手を押さえている。犯人は片手を押さえながら沙由莉を見た。
「殺す、ころおおおおおす!!」
 犯人はポケットからナイフを出し、もう一つの片手でナイフを持って沙由莉に向かって走った。
 彰吾は犯人自体に重力負荷を掛ける。そして、沙由莉は犯人をゴミを見るような目で、
「ほんと、何であなたみたいのが生きて他が死ぬの?」
 と小さい声で言った。先ほどと同じ様に犯人の持っていたナイフがまた爆発した。
 先ほどよりも強めの爆破。爆破を受けた衝撃で倒れている犯人。
「あ、悪魔めぇ……」
 沙由莉は犯人がもう動けない様にする為に、手を振り払うと、犯人の真上に小さい爆風を起こした。
 爆風を直に受けた犯人はそのまま気絶する。沙由莉は彰吾のほうへ向く。
「重力負荷ありがとうございます。おかげで完璧にナイフだけを爆破できました」
「いや、俺がやらなくとも狙えたと俺は思うんだけど」
「どうでしょう? もしかしたら手ごと爆破させてたかもしれません」
 笑顔で言う沙由莉、彰吾は何も聞かず沙由莉を見ていた。
「あの、お名前宜しいでしょうか?」
「俺か? それともあっち?」
 彰吾は親指で後ろにいる俊に指した。それを見た沙由莉は笑う。
「面白いですね、フフフ。お二方です」
「俺は天月彰吾、後ろにいるのが宮下俊」
「天月さんに宮下さんですね。覚えました、今度お茶にでもお誘いさせて下さい。この事件のお礼として」
「ん、まぁ……、はい」
「フフ、では、また」
 そして、沙由莉は自身で吹っ飛ばしたシャッターから出て行った。
 沙由莉が出ると、その後に機動隊、ガーディアンが入ってきて犯人確保をする。
 全員の救助が終わり、彰吾と俊は事情聴取を行われた後に機動隊、ガーディアンから激励を頂いた。
 彰吾と俊は現場用意されていた椅子に座っていた。
「いや、まぁハチャメチャな一日だったな。彰吾」
「ああ、確かに」
「あーあ、妹は何処へのDVDとっくに来て、帰ったんだろうなー」
「だろうな、俺はこっから飯を作らないと……―――あああああ!!」
 突然彰吾が叫びながら立ち上がる。それに驚く俊。
「な、なんだよ」
「今日苦労して手に入れた卵が……」
 彰吾が指を指す、その方向にはボロボロになった銀行を指していた。
 彰吾はガーディアンの人に中に買い物袋があるか確認して貰うと、予想通りのボロボロ。卵が全てつぶれていた。
 それを見たガーディアン指揮官の涼子は「えっと、今から卵買ってきますけど大丈夫ですか?」といわれ何とか、卵を仕入れることに成功した。
 そして、事件は終わり彰吾と俊はガーディアンの人達に家まで送って貰い、帰宅した。
 自分の部屋の前に着き、鍵を出し扉をあける。
「ただいまー」
 誰かいるわけも無く、ただいまと言う。
 彰吾はさすがに疲れ、軽くシャワーを浴びてカップラーメンを食べてベットに横になった。
 ベットに横になるとすぐに睡魔に襲われ、そのまま眠った。



 第4女学院の学生寮、東堂沙由莉は自分の部屋にあるベランダに出ていた。
「天月彰吾に宮下俊か……、面白い人達 日程を早く決めて誘おうっと」
 沙由莉はつぶやきながら、部屋に戻りベランダのドアを閉めて寝た。



 つづく

2話 変わりゆく日常編 Ⅱ

 朝起きて、いつもの風景がそこにはあって、顔を洗って、朝ごはんを作って、テレビのニュースを見ながら朝ごはんを食べて、制服に着替えて、歯磨きをして、家を出る。
 それが彰吾の朝の一連の動作であり、日常。
 彰吾は俊と待ち合わせをしているため、待ち合わせ場所に向かう。
 向かってる最中、スクランブル交差点の赤信号を待っていると、ビルに設置されている大型テレビからニュースが流れた。
 ニュース内容は彰吾と俊が関わった強盗のニュースが流れている。
 あの事件から2週間が経っていた。
 強盗犯は刑務所に連れていかれたと書いている。
 強盗犯罪は全員で四人。
 その中で二人は一般人、二人が能力者。
 一般人は普通の刑務所に入れられるが、能力者は特殊な刑務所に入れられ、能力が使えなくなると聞く。
 赤信号から青信号に変わり、横断歩道を渡る。そして、目的地が見えてきた。
 目的地にはすでに俊が待っている。
 あぁー、ちょっと待たせたか。と思う彰吾。
「またせて、ごめん」
「いや、別に時間通りだから気にすんな」
「ありがと」
「んじゃ、行くか」
「ああ」
 彰吾と俊は学校に向かう。 登校中、ニュースの話を俊にしたり、他愛の無い話しをする。
「ああ^〜皐月(さつき)ちゃんが可愛いんじゃ^~」
 俊がいい始める。 俊の言う皐月は妹は何処へのメインヒロイン。
 この皐月と言うキャラが主人公から姿をくらます妹だ。
「そうか、良かったな」
「なんだ、冷たいな」
 流石にそのレベルまでは達してない彰吾。
 それを察したのか、妹は何処への話をやめる俊。
「とりあえず、東堂ちゃんのお誘いはまだかなー」
「東堂ちゃんってお前…」
「だって、お茶会誘うって言ったんだぜ?」
「だからと言って2週間で来るか?」
「いや、来るね! 俺の勘がそう言っている!」
 俊の勘は良く当たる。けど、流石に2週間は早すぎと思う彰吾だった。
 そんな話をしていると学校の正門に着く。そして、チャイムが鳴る。
 上履きに履き替え、階段を上がり教室に入る。
「おはよ」
「おはーよ」
 彰吾と俊は教室に入り挨拶をした。すると、それに反応した生徒達があいさつを返す。
 窓側の席が彰吾の席で、その隣が俊の席。
 彰吾は席に着き、次の授業の準備を始める。
 次の授業の準備をしていると前の席に誰かが座る。
「よっ有原」
「…………」
 俊が立ち上がり、有原の隣に行きあいさつをすると有原はそれ無視した。
 有原(ありはら)賢次(けんじ)、この学校で唯一のBランク能力者。
能力は電磁操作(マグネットアプリション)、磁場を操作できる能力、これにより、少しだけ宙に浮くことが出来る。
 何より、相手の磁場を操作することで、+と-を付与する事が出来る。
 有原はランクBの為、遠くにいる相手にも磁場操作が可能。
 それだけではなく、少しだけ宙に浮くことが出来る。
 移動はリニアモーターを同じ原理で動くことが可能。
「なぁ、俺なんかしたか?」
 あいさつを無視され、後ろの席にいる彰吾の隣に来て言う。
「さぁな」
 なぜ、有原が無視をしたのか彰吾も分からない。
 いつもなら「あぁ、おはよ」と軽くあいさつする。
 みんなにはあまり知られていないが、有原は真面目で優しいヤツだ。 
 しかし、有原はクラスで浮いている。
 それもそのはず、有原はランクBで他はランクCと一般人。
 いじめは無い、ただみんなが有原に声を掛けづらい存在になっているだけだ。
 そんな話をしているとチャイムが鳴る。数分後、ガラガラと音と共に担当教師が入った。
 教卓に着き、連絡簿を置く。
「おはようございます、それははじめましょう」
教師の掛け声と共にクラス委員長が「起立、礼、着席」と言う。
こうして、今日の授業が始まった。



キーンコーンカーコーンと放課後のチャイムが鳴り、生徒それぞれが部活なり帰宅を始める。
 彰吾も帰宅の準備にかかると、
「今日暇か?」
 俊が言う。彰吾は今日はバイトも買い物も無い為、断る理由もなく。
「ああ、今日は何もない」
「そうか、妹は何処ヘOVAが届いたんだが見るか?」
「まぁ、暇になったらな」
 そう言いながら、帰宅の準備を済まし教室を出る。
 教室を出て階段を降りて下駄箱で靴に履き替える。
 すると、校庭に何やら人が集まっている。
 この光景にデジャブを感じた彰吾。
 有名人でも来てるのか?と言う俊。
 有名人と言うのはあながち間違いではなかった。
「こんにちわ、天月さん、宮下さん」
 爆弾師(ボマー)の事、東堂沙由莉だった。
 満面の笑みで彰吾と俊にあいさつをする沙由莉。
 こんな人の多い所で挨拶されたら変な誤解を生むに違いないと思う彰吾。
「え、天月君と宮下君とどういう関係?」「修羅場(しゅらば)?修羅場(しゅらば)なの!?」「まさかの天月君の三股疑惑!?」
 これは変なうわさが流れてもおかしくはない、てか、待て。
 最後の三股はまさか、俊が入ってるわけじゃないよな?と思う彰吾だった。
 そもそも何故、沙由莉がここに入るのかわからない彰吾だった。
「今日は先に約束した、お茶会へお誘いに来ました」
 満面の笑みで言う。ああ、その笑顔で何人が落ちたか、と思う彰吾。
「今俺は生きていて良かったと感じている」「かわいいいいいいい」「俺の恋心は撃ち抜かれた……。いや、恋の爆弾が投下され俺の恋心が爆散した……」
 それぞれの男子が東堂沙由莉に落ちた瞬間だった。
 てか、一番最後のうまいな、爆弾師(ボマー)だけに恋の爆弾、爆散。俺もそんなギャグセンスが欲しい。と思う彰吾。
「それで、今日は大丈夫でしょうか? 急で申し訳ありませんが……」
 お茶会に断る理由も無い、何せ彰吾と俊は今日は何もなく彰吾は俊の家に行こうとしてたから。
「大丈夫」
「いきます! いかせてください!」
「では、こちらに車を用意させていますので、どうぞ」
 沙由莉の指す方を見ると、そこにはリムジンがあった。
 彰吾と俊はポカーンとしていた。
「いきましょう」
 沙由莉が先導する、それに驚きながら着いていく彰吾と俊。
 沙由莉に先導され、そのままリムジンに乗る。
 リムジンに乗った彰吾と俊はまた驚く。
 そこはまったく別の世界であった。
「「すげぇ……」」
 思わずハモる彰吾と俊を見た沙由莉は笑う。
 これからどんな所に連れて行かれるのか彰吾と俊の二人には分からなかった。
 すでに豪華な場所にいるのに更に豪華な場所に連れて行かれるとしか考えられなかった。
「お二方は仲がいいんですね」
「えぇ、まぁ」
 突然、沙由莉が彰吾に話を掛ける。あまりいい反応が取れずにいる彰吾だった。
「あ、こんなところで話してしまうと後で話す内容がなくなってしまうので少し黙ります」
 沙由莉の発言に彰吾と俊は沙由莉を見た。
 ここで黙るなよおおおおおおおおお!!と思った二人。
 とても気まずい空気になった。彰吾と俊はお互いに隣の窓を見て気を紛らわすのに必死になっていた。
 車を走らせ数十分。ようやく目的地に辿り着き、車を降りる。
 車を降りるとそこは、
「4女……」
 俊が言う、彰吾もそう思っていた。第4女学院(略称を4女と言う。※一話参照)に着いた三人、ゲートみたいのがあり、沙由莉が隣にある管理人に事情を話すと門が開いた。
「第4女学院へようこそ、二人を歓迎します」
 そして、沙由莉、彰吾、俊の三人はそのまま、お茶会が用意されている場所へ向かう。
 お茶会の場所に向かっている最中に女子生徒からあいさつされる沙由莉。
「東堂さん、お帰りなさい!」
「おはよう」
「お姉さま、お帰りなさいませ」
「おはよう」
 ちょっと歩くだけで女子達が集まり始める。結構人気があるんだなと思う彰吾。
 すごい可愛い女子がいっぱいと思った俊。
 沙由莉、彰吾、俊の三人はそのまま、女性生徒を通り過ぎる。
 沙由莉の後ろを付いて行っている彰吾と俊を見る女性生徒。
「何あの男?」
「分からない……でも、お姉さまが男を連れて来るんです者相当な者ですわ」
「試しみましょう」
 一人の女子が自身の能力を使おうとすると、
「やめな~、沙由莉の怒りを買うわよ?」
 一人の女子、その女子は、
「久能会長(くのうかいちょう)!」
 この4女の生徒会長であり、日本に七人しかいないSランク能力者。
「まぁでも、東堂が男を呼んでお茶会をするのは気になりますね」
 三人の後ろ姿をフフと笑いながら三人を見る工能だった。



「ここが今日お茶会をするテラスです」
 そこはガラス貼りにされた壁に円形のテラス。
 真ん中にはテーブルが置いてあり、近くにティーセットを乗せた物があった。
 彰吾と俊はテラスに入り、周りを見渡す。
 幻想的な空間、ガラス貼りにされている為、光が差し込んでまた幻想的な雰囲気を醸し出す。
 見とれる彰吾と俊の二人。それを見た沙由莉はまたフフと笑う。
「お気に入りました?」
「なんと言うか……、幻想的だな」
「た、たしかに……」
 彰吾と俊の二人は周りを見ながら答える。
「良かったです。 そう言って頂けて、ではお茶会をしましょう」
 沙由莉は言うとテーブルにカップを三つ用意し、テーセットの置いてある置物からお湯を空のカップに注ぐ。
 空のカップにお湯を注ぎ、保温する籠おとして茶菓子を用意している。
 なんとも手際の良い作業であっと言う間にほぼ全てが用意されていた。
「立っているのも何ですから、お座りください」
 二人は沙由莉に言われるがまま、椅子に座る。沙由莉も座る。
「さて、お話でもしましょう。この日を楽しみにしてました」
「そ、そうか」
「俺はずっと楽しみにしてまいた!」
「ありがとうございます」
 沙由莉は笑いながら言う。本当に楽しみだったのだろうと思う彰吾。
「そうですね、お二方はどちらでお会いしたのですか?」
「俺と俊は高一の入学式のときに」
「なるほど、そのまま仲良くなったと言う事ですか」
「まぁ、そうなるな」
 彰吾と沙由莉が話す。それを横目で見ている俊。
いや、話したいなら話せよ……と思う彰吾。
「東堂さんはいつからこの学園に?」
「そうね、私は――」
「中一からよ」
 突然、テラスの入り口から女性の声が聞こえた。
 三人は入り口の方を見るとそこにいたのは。
「久能……」
「ハロ~沙由莉~」
「く、久能って……」
「雷光(ライトニング)……」
 沙由莉が心底嫌そうな顔をしているのに対し、彰吾と俊はSランク能力者の工能の存在に驚いている。
 久能凛花(くのうりんか)、能力は電気系統全般。
 通称、雷光(ライトニング)と呼ばれている。
 電気を扱う物は全て扱うことが可能。電気という事があって磁力操作も可能としている。
 能力自体もしっかりと彰吾と俊は把握仕切れていない。
 ちなみに見た目は黒髪のポニーテールでボンキュッボンの女性。
「突然話に入ってくるのは困るのだけど……、凛花」
「そう? でも、面白そうだから私も混ぜて?」
 などと言っている凛花。それを嫌そうな顔をしながら見る沙由莉。
「ほら、私のお茶は別に後ででもいいから。今は二人に出してあげなよ」
 テラスの入り口に肩を寄せて、テーブルに置いてあるカップに指を指す凛花。
 はぁ……とため息をつき、保温していたカバーを取り、カップに注いであったお湯を別の容器に入れて紅茶を淹れた。
 紅茶を注がれると同時にさわやかな香りがした。
「とりあえず、天月さんと宮下さん。どうぞ。今から作るから待ってて……」
 彰吾と俊に紅茶を出すと沙由莉は横目で凛花の方を見て言う。凛花は笑いながら片手で手を振る。
 沙由莉は新しいカップを用意し、先ほどと同じカップにお湯を入れた。
「話がそれてしまったのだけど、私も参加していいかしら?」
 と凛花がいう。
「もう、参加する気でしょ? もう、いいですよ」
「ありがと」
 満面の笑みで沙由莉に答える凛花。沙由莉の隣の席に座り、彰吾と俊を見る。
「話は聞いてたから、続きを話しましょうか。ね、沙由莉」
「はぁ……、あんまり話さないでね?」
 沙由莉はあきらめ、話を続けることにした。
「中学一年生からこの学園にいます。その前は、小学校に通ってたのですが」
「私と沙由莉は幼馴染なの」
「あ、そうなんですか」
「そうなの~」
 ムフフーと笑う凛花。凛花の隣で睨む沙由莉と彰吾を睨む俊。
 いや、だから話せば良いだろってのに…と思う彰吾。
「あ、俊さんと彰吾さんは中学と小学校はどうでした?」
「俺は、中学の時はこれと言って楽しいことはなかったなー、小学校なんて自由気ままにやってたからな、彰吾」
「まぁな、それなりに過ごしてたよ」
「そうですか、良かったです。あ、お二方ご両親は?」
 沙由莉が両親の話を持ち出した瞬間、あたりが静まった。
 俊が苦そうな顔をしている。
「え、えーと俺は普通の親だよ?」
「そ、そうですか……、彰吾さんは……?」
「いないよ」
「え?」
「俺には親がいない」
 きっぱりと彰吾が言った。俊はあちゃーと顔に手を当てているのに対し、凛花はテーブルにひじを付き顔を隠している。
 俊が彰吾の肩を叩き呼ぶ、凛花は沙由莉の肘のすそを軽く引っ張り呼ぶ。
『おま! 少しはそういうのなんかかわせよ!』
『いやだって、ごまかしで答えたら後で面倒になるじゃんか』
『少し濁す形で言えば俺が何とかしてやるから! いいな』
 俊と彰吾は小言で言う、話が終わり正面を向く。
 沙由莉を後ろに向かせた凛花。
『あなたは何であの空気で聞くの!? 明らかにOUTでしょ!』
『ご、ごめん……』
『私もフォローするし彼、気にしてないと思うから他の話振りなよ?』
『はい……』
 そして、沙由莉と凛花は彰吾と俊の方へ振り返った。
「コイツ確かに親がいないんですけど、今は楽しいんで大丈夫です」
 俊が彰吾に親指を指しながら言う。
「今が楽しいと言うのはいいことですよね」
 凛花が俊に続いて言う。
「そうですよね! 彰吾さんは小さい頃何をしてたんですか?」
「おぼえてない」
 また、あたりが静まる。また、俊と凛花が隣にいる彰吾、沙由莉を後ろに向かせる。
『おまえさ、アホなの?』
『正直に答えただけだ』
『こういう所抜けてるのはヤバイぞ』
『す、すまん』
 沙由莉もまた、先ほどと同じように後ろに向かされている。
『なぁんで、親がいない話をした後にそういう話をするの!?』
『だ、大丈夫かと思った……』
『大丈夫なわけないでしょ、親がいないんだから小さい頃なんてOUTでしょうが』
『ご、ごめんなさい』
 そして凛花、俊は振り返ると凛花と目が合う。
「「えへへへー」」
 笑ってしまった。笑うとすぐにまた振り返る。
『どーしてくれんの!?』
『どーしてくれんですか!?』
『いや、俺に言われても……』
『いや、私に言われても……』
 ほぼ四人とも同じ反応をしていた。
『『とりあえず、何とか話をそらそう』』
 四人とも一緒に振り返る。だが、振り返っても一言も話さなかった。
 時間だけが過ぎていく、ゴーンと4女のチャイム(鐘)が鳴る。
「あ、紅茶もういいかな」
「え? 何が?」
「紅茶もうできてるから、淹れるね」
そういうと沙由莉はお湯の入っていたカップのお湯を別の容器に入れ、凛花のカップに紅茶を注いだ。
 また、いい香りがあたりを覆う。
「やっぱり、いい香りだ……。でも、何だろう…この香りは…」
「では、この香りは何でしょうか?」
フフンと言いながら沙由莉は彰吾に問題を出す。
 彰吾はこの香りをどこかで嗅いでいる。
何だろう……、何処かで嗅いでいるはず……。日常的に嗅いでいる匂いだと思うな……。
 彰吾は紅茶と日本茶が好きでよく専門店に行き、茶葉を買っている。
 その中で自分なりのブレンドをしたりして楽しんでいる。
 まずは、この花の香り的なのはラベンダーだ。
 だが、後にやってくるほんのり甘く、酸っぱい匂いは何だ……? 彰吾はラベンダーの後に来る匂いの元が分からない。
 フルーツ系だとは彰吾は分かったいた。
 果物で甘くて酸っぱいヤツ、桃、グレープフルーツ、パイナップル……。
「あ、分かったと思う」
「え!? 本当ですか!?」
「ん、まぁ……、自身無いけど。ラベンダーとパイン?」
「正解です……! 正解ですッ!!」
 テーブルに手をつけ、乗り上げながら彰吾に言う。
 それほどまでにうれしかったのかと思う彰吾。
「本当に分かる人がいてうれしいです!」
 満面の笑みで彰吾に言う、それを横目に見ている俊。
  沙由莉を見てクスクス笑う凛花。
 なんだ、この二人少し似てるなと思う彰吾。
 そしてお茶の話で盛り上がり、いつの間にか17時になっていた。
「あ、そろそろ帰らんと」
「ん、確かに」
「それなら家まで送ります」
「「いや! 近くにある駅まで歩くからいいです!!」」
 沙由莉が言うと彰吾と俊は同時に言う。もうあの雰囲気が耐えられないからだ。
 沙由莉は「そうですか……」と少しへこんでしまったが、これだけはどうしても回避したい彰吾と俊だった。
 テラスを出て彰吾、俊、沙由莉、凛花の四人で正門に向かう。
 正門に着くと、凛花が近くの駅までの地図をくれた。
「今日はごちそうさま」
「いいえ、これくらいしか出来ませんが、また今度呼びますので楽しみにしていてくださいね」
「ありがと」
「今度来るときは私も誘ってね?」
 凛花が沙由莉に言う、沙由莉はため息をつき「その時がきたらね」と言った。
 二人に見送られ、彰吾と俊は近くの駅に向かった。
「楽しかったな、彰吾」
「あぁ、まあな」
 実際確かに楽しかったのもある、紅茶の話もできたしな。と思う彰吾。
 そんな話をしながら近くの駅に向かう彰吾と俊。
 歩いて20分、駅に着き最寄の駅まで電車に乗る。
 電車に乗った二人、ちょうど混雑する時間だった。
「おぉう、かなり混んでるな」
「まぁ、この時間だしな」
 電車の中で言う彰吾と俊。そんな話をしていると、次の駅のアナウンスが入る。
『次は~野台(のだい)野台(のだい)』
「んじゃ、降りるか」
「あぁ」
 電車を降りるため、ドアの近くに行く二人。



「で? どうするんだ?」
「まず、手始めに電車の暴走。このシステムの実験台になって貰う」
「この時間だとかなりの人がいるな。まぁ、俺たちの夢の踏み台にさせてもらおう」
暗い部屋の中、二人の人物が言う。そして、一人がコンピューターのエンターキーを押した。
「さぁ、ショータイムの時間だ……うまく働いてくれよ? ンフフフ」



降りる為にドアの近くに行った二人。
 だが、電車は減速せずそのまま野台駅を通過した。
「は?」
「なんで? これ各停だよな?」
 彰吾と俊が言う。周りも二人とほぼ同じことを言っている。
そして、車内アナウンスが流れる。
『大変申し訳ございません。システムトラブルで野台駅の停止シグナルが飛んでしまい、停止が出来ませんでした。大変ご迷惑をおかけしますが、次の川(せん)ノ崎(ざき)でお乗換えください。大変ご迷惑をおかけします』
 車内アナウンスを聞くと周りの人達は「なんだよ」「うわ、めんどくさ」「まだ、仕事があるのに」などと言ってる。
 まぁ、しっかりと止まるならそれでいいかと思う彰吾。
 だが、違和感を感じた俊は気づく。
「……、なぁ彰吾」
「なんだ?」
「通常運行ってか、これドンドン加速してないか?」
「は?」
 彰吾は扉の窓を見ると、周りの景色が物凄い速度で過ぎ去る。
 おかしい、確かにおかしかった。そう思っていると、隣から現れた電車より早い。
 各停ならばそろそろ川ノ崎の為減速するはず。
 しかし、この電車は減速する様子が見えず、加速している。
「おかしいな……」
「だろ……」
 彰吾と俊が顔を合わせ確認する。
 そしてもう一度隣の電車を見た瞬間、戦慄と確信した。
「う、うそだろ……」
 俊が言う。無理もない、隣で走っているのは、
「快特……、野台から終点まで止まらない電車より速い……」
隣で走っていたのは快特だった。7駅素通りする電車より速く走っているこの電車。
 もうすぐで隣の快特を抜かそうとしている。それに気づいた車内の人。
「おい、あれ……快特じゃないか? なんで各停が快特より早く走ってんだ?」
 男性の発言に、車内にいる人達が窓を見る。 
「おかしくない? これ……」
「ちょっと車掌さん呼べよ!」
 事態を把握した人達が騒ぎ出す。騒ぎ出していると、俊が思い出す。
「やべぇぞ……、彰吾……」
「何が?」
「この先――」
「なに!?」
 周りがうるさく、俊の言葉が聞き取れない。
 俊が黙り込み、もう一度言う。
「この先、線路が一緒になる!」
 基本各停は各駅に止まる為、急行など駅を素通りする電車を優先で走らせ、レールを調整する。
 上り、下りの線路で二種類のホームが絶対にある。
 それが全部で四つあるところもある。
 しかし、次の駅川ノ崎は駅のホーム一つしかない為、急行などが先に行かねばならないのだが、この電車は加速をしっぱなしで減速していない。
 線路が一つしかない為、この先で起きることは、彰吾は容易く想像できた。
「ぶつかる……――クッ!!」
 彰吾は人ごみのなか、車掌の居るところまで行こうとする。
「すみません! 通してください!」
 彰吾は人ごみの中車掌のところに向かう。俊も一緒に車掌のところに向かっていた。
 このままじゃ、まずい。この電車の方が圧倒的に速いし車両もある。
 隣で走っている快速とぶつかってしまう。
うまく前に進めない状態で苦戦していると後ろから押された。
なんだと思い後ろを振り返ると、人が前にいる俺たちの居る車両に来ていた。
「ぶつかるぞー!!」「前にいけよ!!」「邪魔なんだよ!!」
 そういいながら人がどんどん俺たちのいる車両を埋めていく。人が増えすぎて、前に進めなくなった彰吾と俊。
 まずいと思った瞬間、その時が来てしまった。
 後ろからガシャーン!!!!と大きな音を立て、車体が揺れる。ぶつかってしまった。
 この各停は全部で10車両に対して快特は8車両だった。
 ぶつかったときに後ろの車両が倒れ、残り8車両となった。
 そして残った車両内は、衝突した衝撃で車内にいる人達が倒れていた。
 彰吾と俊は人と人の間にいたおかげでなんとか人がクッションとなった。
 だが、人がクッションとなる事は誰かが押しつぶされる事となる。
 彰吾は人が倒れていて、静かな状況の今が車掌のところに向かうのは今しかない。
 人の上を通る、申し訳ない気持ちでいっぱいの中、彰吾は車掌のいる車両に着いた。
 車掌のいるところに着き、窓を叩き車掌を呼ぶ。
 返事がなく、窓から中を見ると車掌が倒れていた。
 彰吾は窓を割り、扉の鍵を開けて車掌のところに行く。
「起きてください!! 車掌さん!」
「うッ……」
 頭から血を流していて腕がおかしい方向に曲がっている。
 折れている、だが、彰吾は安堵の息をついた。
 車掌が生きているなら、レクチャーを受けながらこの電車を止めることが出来る。死んでいたらそれが出来なかった。
 ちょっと後に俊がやってきた。
「彰吾、どうする……?」
「とめるしかないだろう」
「マジかよ、運転できんのか?」
「いや……、車掌にレクチャーしてもらいながらやる。俊、衝撃波(バースト)の準備をしてくれ」
「……、頼むぞ」
「ああ」
 俊は隣でいつでも能力を使える様に構えている、彰吾は車掌を起こす。
 時間が無い、この間にも二つの駅を通り過ぎている。
 残り、4駅でこの電車を止めなければいけなかった。
「電車を止めないといけないんです! 起きてください!!」
「ウッ……、あ、ここは?」
 目を覚ました車掌に大まかな現状を話す。
「自動運転がおかしくなっている……、システムでブレーキを掛ける事は出来ない……」
「どうすれば……!」
「マニュアル操作でブレーキを掛けるしかない……。マニュアルの仕方を今教える」
 車掌にマニュアルの切り替えを教えて貰い、オートからマニュアルに変更した。
 マニュアルに変更している間に一駅通過する。
 残り三駅。
「彰吾急げ!」
「分かってる!!」
 彰吾は車掌にマニュアルにした後、アクセルギアを下げる。
「嘘だろ……!」
「何が!?」
「減速しない……、むしろ下げても上がりっぱなしだ……」
 システム的に、もはやアクセルが壊れて加速しかしていない状態。
 彰吾は車掌にブレーキのやり方を教わり、ブレーキを掛ける。
 キキッー!!と車輪が大きな音を立てる。その音で目を覚ました人達はまた騒ぎ出す。
 そして、激怒した一部の人達が車掌室に来た。
「おい、どういう事なんだ? ああ!」
「ちゃんと説明してもらおうか?」
 などと、言いながら突然車掌室に入り車掌に言う。
「なんで、子供が運転してんだ? 触ってんじゃねぇよ!!」
「お前がこの事故の犯人か!!」
「捕まえろ!!」
 大人たちは俊と彰吾を捕まえる。
「はなせよ! この!!」
「ふざけ――俺は今この電車を止めようとしてんだよ!! 触んな!」
「馬鹿な事言ってるんじゃない! 君なんかにこれが止められる物か!」
「警察とガーディアンを来るのを待ちましょう! そしてコイツらを警察に突き出す」
 大人たちが彰吾に理不尽なことを言っていると、
「いい加減にしろ!! 今あんた達の命はその二人に掛かってるんだ! 邪魔をするな!!」
 車掌が大人たちに言う。
「元はといえばお前のせいだろうが!!」
「ふざけんな! このクソ野朗!!」
「後、三駅でこの電車は終点の総都区(そうとく)に衝突する! それまでに、警察、ガーディアン? これるわけが無いだろう!! 今時速180kmだ!! 乗り込む事は不可能だ!」
「じゃあ! どうすんだよ!!」
「だからその子達に託しているんだ!! 邪魔をするな! むしろ、妨害行為をしているのはお前たちだ!!」
 ハァハァと荒く息を吐きながら言った車掌。
 車掌の発言に何も言い返せない大人たちだった。
「彰吾! 駅を通過する!!」
 大人につかまりながら俊が彰吾に言う。
 そして、また一駅が過ぎる。
 残り、二駅。
「早く下ろせ!! 死にたいのか!!」
 車掌が大人たちに言い、大人たちは彰吾と俊の拘束を解いた。
 彰吾はすぐに、操縦席に戻りブレーキを掛ける。
「まずい、この先カーブだ! 脱線する!!」
 彰吾はブレーキを掛け続ける。ここで頼みの綱が俊だ。
「俊!! 合図をしたら正面と横に衝撃波(バースト)頼むぞ!!」
「分かった!!」
 カーブに差し掛かる瞬間、彰吾は全車両のブレーキを掛ける。
「いまだ!!」
 俊は正面の車掌室の壁に手を当て、衝撃波を発動させ前から衝撃波を起こさせ、車体を後ろに下げた。
 俊はすぐに横の壁を触り衝撃波を放ち、車体を安定させる。
 彰吾は全車両ブレーキを切る。
 全車両ブレーキを掛けすぎると熱でブレーキがイカれてダメになってしまう為、後ろ車両と彰吾達のいる車両にブレーキを掛けた。
「車掌さん、後は真っ直ぐだけですよね?」
「あ、あぁ……そうだ」
「あとのブレーキよろしくお願いします。多分、俺もやらないとこれ止まるかわかりませんから」
「わかった……」



電車のシステムをおかしくした人物たちは盛大に笑っていた。
「アハハハハハ! すばらしいね! 電車に使うなんて」
「電車にに入るなんて、一旦本部に進入のそこから車両データに進入の後にやっと、電車に入れる間に何個の壁にあたるかな」
「全部で10個の最大級のブロックデータ、もはやファイヤーウォール以上だよ。だけど、少し修正しないとな」
「なぜ?」
「連結部分が切り離された。切り離しが無かったらもっといってた」
「へぇ、そうなんだ。でも」
 一人が列車の映像を見ながら口元を緩め笑う。
「これでもうあの電車は終わりね」
「あぁ、そうさ。これでこのシステムデータは売れる。ちなみにこの映像はお偉いさん方も見てるからさ……」
 アハハハハハと笑う人達。
「さっさと事故っちゃってよ。ンフフフ……アッハッハッハッハ!!」



彰吾は車掌さんにブレーキを任せ、俊と一緒に電車の止めに入った。
「彰吾、何か策はあるのか?」
「あるっちゃある、だが」
「だが?」
「出来るかわからない」
「なら、平気だ」
「は?」
「お前はそういう時ミスはしない、俺が保障する」
「フッ……、あーそうかよ。なら、やるさ…」
 彰吾の策は自身の能力、重力(グラヴィトン)の事だ。
 彰吾は能力で相手に負荷を掛ける事は出来るがそれ以外が全く出来ない。
 本来なら重力(グラヴィトン)は重力制御が可能としている能力。
『俺の能力ならその重力のベクトルを上じゃなく、正面にする事が出来るはずなんだ』
 電車の前に重力をかければ重力により、電車は減速していくだろう。
 そこに俊の衝撃波(バースト)を加えれば完全に電車はとまる。
 そう思っている彰吾だった。
 彰吾は上からの重力を掛けるのではなく、正面に重力をかけようとしていた。
『くそ! 上からじゃない! 前だ! ゆっくりだ! ゆっくりと前にもってこい!!』
 思うようにいかない彰吾、能力を使っていく内に頭に頭痛が走る。
「クッ……!」
 頭痛が激しくなっていく、しかし彰吾は何とか重力を前に持っていこうしている。
『くッ……そ! イメージは床式のエスカレータだ! そうだ、良いぞ…、そのまま下がれ』
 そして、重力が少しづつ正面に向きつつある中。
「彰吾!! 最後の駅を通過したぞ!! 5分で終点だ!!」
 まさかの事態、まだ下がりきっていない状態でこれはまずいと思う彰吾。
 彰吾は焦りで、重力制御がうまく行かなくなってきた。
『クソクソクソ!! 下がれよ! 下がれよ!!』
 そう思っていると、突然過去の事を思い出した。
 小さい頃、人を吹き飛ばしたことを思い出す。
「は?」
「どうした!!」
「いや、何でもない……」
「急げよ!」
 俊に「ああ」と答え、また集中する。
 だが、意味が分からなかった。
 何故、俺は今更になって小さい時の記憶を思い出した? 小さい頃の記憶なんて一切覚えて無いのに。
 訳が分からないが、彰吾は思い出した記憶と共に感覚を思い出し、正面に重力を掛けることに成功する。
「俊いつでもいけるぞ!!」
「ああ!!」
「私が全車両のブレーキを掛けますので、合図と共にお願いします!」
「分かった!」
「いきます!!」
 そして、車掌が全車両のブレーキを掛けた。
「今です!!!!」
 車掌の合図と共にフルパワーで衝撃波を放った俊。
 彰吾も重力を掛ける。
 俊の衝撃波が終わり、後は全車両のブレーキだけだが。
「くそ! 止まらない!!」
 車掌が言う、もう駅は目視可能の距離だった。
 彰吾は正面だけでは無理だと感じ、全車両自体に重力を掛けた。
「お、俺が……! 止めて……や……るよ!!!」
 全車両に重力を掛けた彰吾。頭に激痛が走り、鼻血がでる。
 だが、重力を掛けるのをやめない彰吾。
「と、止まれえええ!」
「無茶だ!!」
 俊が彰吾に言う。無茶すぎている。
 彰吾が電車を止める場合、20km以下で止められるラインだが、これをゆうに超えている。
 俊と全車両ブレーキ、彰吾の重力でやっと180kmから100kmまで落ちた。
 彰吾は今100km+車体の重さ+車内にいる人の重量を合わせて重力で止めようとしている。限界を超えている状態だった。
 もし、このまま続ければ彰吾は脳細胞が破壊され廃人となってしまう。
 そして、終点の総都区のホームが見えた。
 俊が覚悟を決める。
「最後だ! 彰吾!! 俺も最後の衝撃波(バースト)をやる!! それも今出来る最大でな!!」
 俊がそう言うと右手を握り、集中する。
 彰吾は無言で頷き、理解する。
 電車はホームに入りながら減速している。
 俊も大分無理をしている。車体自体の物量が俊の能力では止めるのに、もはや限界を超えている。
 そんな状況で全力で能力を使いっている俊だった。
 俊が力を貯めていると、そのときが来た。
「いまだ!!」
 車掌が言うと、俊が衝撃波を放ち、彰吾も正面の重力を最大にした。
 重力と衝撃波、全車両ブレーキで一気に減速する車両。
 終点のストッパーに正面の車体がぶつかり、スプリングがギギギと音を立てる。
「「止まれえええええええええええええええ!!!!」」
 彰吾と俊が最後の力を振り出し、能力を使って車体を更に減速させた。
 
 そして、

 電車は止まった。

 電車が止まるとすぐに警察、ガーディアンが車内にいる人達を外へ誘導させ、けが人はすぐに手当された。
 彰吾と俊は先頭車両で座っていた。
 もはや、動くことが出来ない状態だった。
「使いすぎたな」
「あぁ、確かにな」
 彰吾は目が充血しながら鼻血を出し、俊は右手がボロボロになっていた。



電車の暴走に失敗した人物たち。
「うそだ!! 止まるはずがなかったのに!!」
「どうすんだよ!!」
「うるせぇ! あぁ! もう!!」
 そういいながら近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばした。
「だまれ、まだ、あれがあるだろう? あれを出せば、問題ないはずだ」
 暗闇から人の人物が言う。そいつに言われ、他の連中はすぐに用意に掛かった。
「電車を止めたヤツを調べておけ、後で始末する」
「Shi」
そして、その人物は暗闇に消えた。


動けない彰吾と俊をタンカーに乗せ、救急車に乗せようとしていた。
「今回も助かりました、ありがとうね。天月君、宮下君」
 ガーディアンの新垣涼子にお礼を言われた彰吾と俊。
「いや、まぁ……」
「そうだな……」
「本当にありがとう、心から感謝します。おかげで被害が最小限に抑えることが出来ました」
「そう、ですか……」
「へへ……、それは……、いい事だ」
 涼子の感謝の気持ちを受けた瞬間、彰吾と俊は気絶した。
 その後、病院に運ばれる彰吾と俊だった。
「涼子さん!」
 この事件の英雄二人を救急車に搬送するのを見届けた後、真弓に呼ばれた涼子。
「どうしたの?」
「実は、電車に何かウイルスが入っているのを確認しました……」
「それはどいう形式で?」
「外部からです。それもこのウイルスは見たことがありません」
「対策会議を開いて、これはかなりの大物かもしれないから」
「了解!」
 涼子はかなりやばい匂いがすると感じていた。
 そして、彰吾と俊はまさかこんなことになるとは思っても居なかった。



 つづく

3話 変わりゆく日常編 Ⅲ

 学院内の敷地には大きな噴水があり、花畑や草の壁で囲まれているティータイムには打って付けの場所もある。
 校内は常に清潔、授業なんかは最新機器を使ってるだけでなく、大きな図書館もあり何より広い。
 ここは第4女学院。
 超能力者の生徒のみが集められた学校である。
この第4女学院にあるテラスに二人の女子生徒が紅茶を飲んでいた。
「そういえば、沙由莉」
 日本に七人しかいないSランク一人、雷光(ライトニング)の久能凛花が言う。
「なに? 凛花」
 それに答えるSランクの一人、爆弾師(ボマー)の東堂沙由莉。
「なんで、あの二人に肩入れしてるの?」
「あの二人?」
「はぁ……、天月さんと宮下さん」
「あぁー、あの二人ですか…」
 そういうと沙由莉は紅茶を飲み、一息ついてから。
「私の直感が言ってるんですよね、何かある……って」
「あの二人?」
「ううん、宮下さんじゃなく、天月さん」
「ふーん、そう」
「多分、彼は何かあると私は思いました。だからお茶会に呼んだの」
「まぁ、沙由莉が男を呼んだのは初めてだからね。それほど、興味津々って事がわかれば私はいいや」
 そして凛花も紅茶を飲み、一息ついた。
 沙由莉も紅茶を飲み、空を見上げた。
『天月彰吾、あなたは何かある。そう思います』と思う沙由莉であった。



「とりあえず、退院しても大丈夫だよ」
だるそうにカルテとレントゲンを見ながら言う十月(とおつき)遠加(たちか)
 それを見ている彰吾と俊。
 彰吾と俊は電車暴走事故の後、病院に運ばれた。
 しかし、運ばれた所はこの海上都市で最大最先端の病院。
 国立能科病院、ここでは能力者、一般の患者などを請け負う病院。彰吾と俊はそこの診察室にいる。
 そして、目の前にいるのが世界でも有名な医者の十月達加。
 彼は医療の世界で神医と呼ばれている存在。
 彼のオペは完璧手術。治せない者は無いと呼ばれている位の人物。
 脳にダメージを受けてしまうとどうあがいても身体の一部が動かなくなるのは当たり前だ。
 しかし、彼は脳にダメージを受け、うまく身体が動かせなくなった人を補助機が付いてだが治した。
 日常的に補助機をつけていれば完璧に治されたと言える。
 例え補助機が無くとも、前よりはしっかりと動くと言う。
 そんな人が彰吾、俊のカルテとレントゲンを見ていた。
「あれ? 聞こえなかった? 退院してもいいよ?」
「軽いですね」
「まぁね、ただ脳を大分酷使しすぎただけだから」
 達加に言われ、彰吾は立ち上がり部屋を出ようとすると無言で俊も付いてきた。
「では、ありがとうございました」
「まぁ、気をつけてね~」
 彰吾と俊は診察室から出て感謝の言葉を残しその場を去る。
「ふ~ん、天月彰吾に、宮下俊ね~」
 カルテと脳のレントゲンを見ながら言う。
「どう考えてもこの脳の発達ぶりは……」
 フフフと笑いながら言うと。
「ランクCではないよねぇ~」



診察室を出た彰吾と俊は受付に行き病院を出る。
 彰吾は無言で何処かへ向かう、それに着いて来ている俊。
「……」
「……、なあ彰吾」
「なんだ?」
「どこ向かってんだ?」
「腹が減ったから、牛丼でも」
「なるほどな、俺も腹減ってるしここら辺の近くに牛丼屋あるから案内するわ」
 俊は彰吾を先導する為に前に行く。
 彰吾の前に行くと、彰吾は自分の携帯を見ていた。
 何を見ているのか俊には分からなかったが、あまり気にする事は無かった。
「なぁ……、えと……」
「なんだ?」
「えとだな……」
 そう言いながら彰吾は携帯を見ながら俊に言う。
「何でも無いわ俊」
「ん? まぁ、いいが。お、あそこあそこ」
 俊が案内してくれた牛丼屋に着いた。牛丼屋に入り食券を買い、店員に渡す。
「つゆだくで」
「俺も」
 彰吾と俊は店員に言う、店員は「かしこまりました」と言って裏のキッチンに向かう。
 数分すると注文した牛丼を店員が持ってきた。
 店員は「お待たせしました」と言いながら牛丼を彰吾と俊のいるテーブルに置いた。
 そして店員はまたキッチンへ戻る。
 彰吾と俊の二人は牛丼が来ると、箸を出し、それぞれ好みのトッピングをする。
「とりあえず、七味にカルビソース」
「まぁ、紅しょうがに軽く七味」
 彰吾はテーブルに置いてある七味とカルビソースを掛け、俊は牛丼の肉が見えないくらいに紅しょうがが一面に広がっている。
「それ食うの……?」
「これがうまいんだよ」
「毎回驚くからそれ禁止な」
「はぁ~!? 何でだよ!お前のカルビは……カルビは……」
「フッ……なんだよ?」
 俊は何も言えなかった。カルビソースをかけるのは別に不味くはない、むしろおいしいといえるからだ。
 ただ、普通の味が良いと言う人がいるだけで基本はおいしい。
 それに比べ、紅しょうがを一面にやるのは極少数派の為、それもかなり人を選ぶ。何より、
「そんなに紅しょうがやったら店員にも迷惑だし、味が大分壊れるだろうに」
 これが最大の理由、紅しょうがの消費が多い為店員に迷惑を掛けるだけでなく、味が壊れる。
「まぁ、好みはそれぞれだ。ほどほどにな」
「気をつける……」
 そして牛丼を食べ終え、店を出る。
 店を出ると、彰吾はうーんと考え始めた。
「なぁ……俊……」
「なんだ?」
「俺ボケて来てるのかも……」
「は?」
 唐突に言う彰吾、それに驚く俊だった。
 何を言っているのかさっぱり分からない彰吾は更に俊に言う。
「いや、お前の事少し忘れてたんだよ」
「はー? 何言ってんの? さっき病院行ったじゃん? 何も無いから退院だろ? 薬の副作用で少し疲れてるんじゃないのか?」
 そう言われれば彰吾はかなり疲れていたのが自分でも分かった。
 あれ?何でこんなに俺疲れてるんだ?と思う彰吾。
「とりあえず、暇つぶしにゲーセンかカラオケ行くか?」
 思っていると俊が言い出す。
 彰吾は疲れてはいるが、別に気にしないレベルなので俊とゲーセンに向かった。
ゲーセンに向かっている最中にテレビからニュースが流れる。
『昨日の電車暴走の事故で鉄道会社は外部による不正アクセスでウイルスが流れたと言っており――』
「だとよ?」
 俊が彰吾に向かって言う。
 あまり気にしてない、むしろ彰吾は死人がいないか確認する。
『なお幸い、死人は出てないの事です――』
 安堵の息をつく彰吾だった。そして、ゲーセンに向かう二人。
 ゲーセンに着くと二人はそれぞれやりたいゲームをやる。
 俊は機動戦士マンダムウルトラブーストと言う2on2でやるゲームを。
 彰吾は音ゲーなどガンゲーをやる。
 音ゲーをある程度やった後に、ライムクライシスをやる。
 ペダルを踏めば隠れる事が出来、相手の攻撃を避けたり防いだりもし、リロードも出来る良いゲーム。
 彰吾はワンクレでどこまで行けるかいつもチャレンジしていて、今は2-2の狙撃をしている。
「あ、外した……。うわぁ……、戦闘ヘリ増えるんだよなぁ……」
 呟きながら画面に出てきた戦闘ヘリを捌いていく。
 いつの間にか後ろのギャラリーが増えていくことに気づく。
 物凄くやりづらい……、と思う彰吾。
 それもその筈だ。後ろのギャラリーでは、ガヤガヤと何か言っていた。
「へたくそだな」「いや、ワンコインでノーダメだぜ」「もしかしたらわざとヘリコースかもな」
 などと言っていたり。
「えっすごいんだけど!?」「てか、あの男子ちょっとかっこよくない?」「誘っちゃいなよー」
 と言っていて、彰吾はそんな中ゲームをしている。
 非常に彰吾としてはうれしくない状況だ。
とは言ってもゲーセン内自体がうるさいのであまり変わらないかもしれないが、近くでゲームをすると音が聞こえる。
その為、音と画面で判断している。
 周りがうるさくともそのゲームをしている時は、そのゲームの音が聞こえるのであまり気にしないが、後ろに気配と視線を感じながらやった結果。
『ゲームオーバー』
 とライフゲージが無くなり、カウントが始まるがすぐにゲームオーバーにさせる。
 さすがにもういいやと思う彰吾。
 自分のやるゲームが終わり、俊を探す。
 しかし、探すと言っても俊のやっているゲームは分かる為、そのコーナーに向かう。
 俊のやっているゲームコーナーに着き、俊がどの台に座っているのか探す。
 起動戦士マンダムウルトラブースト全24台!と書いてあり、縦列で12台置いてあった。
 その二列目の真ん中に俊が座っている。俊に近づき、俊のプレイを見る。
 俊はコスト3000の一番高い機体を使っている。
 しかし、俊の使っている機体のHPが後少ししかない、あと一回でも攻撃を受けたら落ちてしまう状況でいる。
 何とか落ちないように立ち回る俊。
 だが、俊の仲間が落ちてもう俊が落ちれない状況になった。
 もし、ここで落ちてしまったらそこで試合終了だ。俊はため息をつき、必死に相手の猛攻から逃れている。
 しかし、横から現れた敵に闇討ちされ、俊の使ってた機体のHPが0になり試合が終了する。
「……、はぁ……」
 ため息をつく、その気持ちは分からないでも無かった。
 彰吾もこのゲームをやっている為、俊の気持ちが痛いほど分かった。
「まぁ、どんまい」
 彰吾が後ろから話を掛ける。
 俊は振り返り「おう」と言って台を他の人に譲る。
「固定行くか」
 俊が言う。本来は隣同士の人と組み、2on2で戦うゲームなので、今まで俊がやっていたのはシャッフルと言う誰とも知らない人と組み戦うルール。
 このルールだとすぐに人が集まり対戦が出来るが、パワーバランスが崩れる為、運の悪い人は弱い人と組むこととなる。
 もちろん、シャッフルは一人一人の実力があればいつの間にか連携が出来る為、勝てる事には勝てる。
 そして俊は固定台に座り、その隣に彰吾も座る。俊が3000コストの機体を選択し、彰吾はそれに合わせる為に2500コストの機体を選んだ。
 このゲームはあらかじめ決められた戦力ゲージを0にすることでゲームの勝敗が決まる。
 デフォルトが6000コスト。ここで3000と3000で組んだら、3000が一度落ちれるが、もう一機は落ちることが出来なくなる。
 この事故を起こさない為に、どっちかが調整をする。
 機体を選び、第一ステージで腕慣らしをしていると、ピーピーピーと画面の端がアラートと書いてありそれが横にスクロールしている。
 対戦前の合図。今、相手が向かい側で機体を選んで彰吾と俊の二人に対戦をしようとしている。
 そして、機体を選び終え、画面が暗くなり対戦モードに移行した。
 相手の使う機体が画面に映る。
「うわ、めんどくさ」
 俊がいう、それは彰吾も思っていた。
 相手はこのゲームの中でもかなり強い機体を選んできた。
「まぁ、やるだけやろう俊」
 俊がめんどくさそうにしているが、彰吾も同じだ。
 だが、ここで気持ちが負けてしまうと意外と相手の対処に関わる。
 ゲームが始まり、二人は最低限の言葉しか交わすことは無かった。



「くあー悔しいなー」
「わり、最後逃げ切れなかった」
「まぁ、仕留められなかった俺のせいでもあるからお互い様だな」
彰吾と俊はゲーセンを出て近くのベンチに座っている。
 ちなみに二人は10連勝していた。
 最初の戦いはさほど辛くは無く、普通に勝てた。
 だが、その後に興味本位で入ってきた二人組みを倒すと、次々に対戦を申し込まれた。
 10戦目では猛者が入ってきて二人はなかなか苦戦するも、ギリギリ勝てた。
 11戦目で同じ人一人と違う人と組んで挑まれ彰吾と俊は負けてしまった。
「あぁー連勝補正超やべぇよ……」
「確かにな、こっちのダメージは半分に対して、食らうのはほぼ二倍だもんな」
 あのゲームにはある一定連勝すると連勝補正が掛かる。
 5連勝から補正が入っていく。その中で何十連勝もする人は猛者の中の猛者だと言えるほどの実力者。
 それでも彰吾と俊はかなり良い方であり、猛者の一部。
ベンチに座り、道中でコンビニに寄りジュースを飲みながら二人は言う。
まぁ、ワンコインで10連勝はおいしいから大分楽しんだし、元も取ったなと思う彰吾。
「はぁー明日面倒くさ……」
「確かにな」
「能力測定とか面倒くさすぎ」
「仕方ない、それが法律だからな」
 超能力が発展した世界で各国全力で能力者育成の為に奮闘している。
 その中で能力者になった者は、国にその能力の測定を義務付けられている。
 能力を測定、そして観測していく為であり、研究に使われるからだ。
 この法律を無視し測定をしないでいると捕まり、特別収容所にいれられる。
 それは自国に対する裏切り行為と言う事だろう。
 彰吾と俊は明日に備え、帰宅する事にした。
 公園を出てスーパーに寄り、買い物をしてから帰宅。
 帰宅し、夜御飯の調理に掛かる。
 ある程度調理した後、お風呂に入り今日の疲れを取り、お風呂から出ると先ほどの夜御飯の調理に取り掛かり、完成させた。
 お風呂に入っている最中に御飯を炊いておき、お味噌汁も作っておいた。
 最後におかずを作り、これで夜御飯の完成。
 茶碗に御飯を盛り、お味噌汁も別の茶碗にいれ、最後に丸皿におかずを盛ってテーブルに運び、テレビをつけて夜御飯を食べる。
「いだだきます」
 お手を合わせ、感謝の言葉を言う。
 テレビを見ながら御飯を食べていると、暴走列車のニュースが流れる。
『三日前に起きた、暴走した電車の事件についてです。鉄道会社はこの事故は外部による妨害工作と言っており、警察と共に犯人確保に全力を尽くしているとの事です。なお、鉄道会社社長は『この様な形でお客様皆様にご心配を掛けた事、深くお詫びします』と謝罪の言葉は言っておりました』
 ニュースキャスターが言う。彰吾は御飯を食べ終わり、片付けに入る。
 そして、自習をして課題を終わらせると23時になっていた。不意にあくびが出る。
「ふぁ~……そろそろ寝るか」
 そう言うと、彰吾は歯磨きをしに洗面所に向かい歯磨きをする。
 明日は早いため、ちょうど良く眠気に襲われた。
「さっさと寝て、明日に備えよ」
 明日は授業と言う授業が無い。
 能力測定は一時間目から4時間目まで丸々使って測定する。
 能力測定日の場合4時間目しか無い為、楽といえば楽。
 だが、能力を使うことで脳を酷使する事となり、授業どころではないと言う事で、測定日の日だけは4時間授業しかない。
 彰吾は歯磨きをして、ベッドに入り明日に備えた。
 次の日。
 彰吾と俊、そして、学校にいる能力者達はグラウンドに集められていた。
 この測定は全4個まである。
「おはよ、俊」
「おう、おはよ」
 とりあえず、俊にあいさつをしておく彰吾。
 彰吾と俊は合流すると、そのまま第1測定の身長と体重を図るため、武道場に向かった。
 身長、座高、体重を図る二人、彰吾は身長が3cm伸びて、現在は172cmで俊が171.6cm。
 身長測定が終わり、次に座高測定で測定してもらう二人。
 天月 彰吾、座高、91.4cm。
 宮下 俊、座高、92.3cm。
 座高の測定を見た彰吾は、俊に「胴長短足(どうながたんそく)」と馬鹿にされた。
 第一測定の最後の、体重測定に向かう。
 彰吾は自信があった。
 筋トレなど、健康を考え基本的に飲み物は水しか飲んでいないからだ。
 自信満々で体重計に乗る彰吾。
 

 天月 彰吾、
 

 体重、62.6kg。


 嘘だと言ってくれよ。バー○ィ。と思う彰吾。 
 落ち込んでいる彰吾。そんな事を知らずに、俊は測定が終わり、彰吾の所にやってくる。
 俊の測定をみる彰吾。


 宮下 俊、


 体重、63.7kg。


 その測定結果を見た彰吾は、無言で俊に腹パンする。
 突然、腹パンをされた俊は、「なんで!?」と言いながら、彰吾に殴られた。
 第一測定が終わった二人は、第二測定の体力テストを図るため、グラウンドに出ている。
 柔軟、100m走、握力と測定していく。
 彰吾は柔軟測定では、床まで体をつけることができる。
 対して、俊はガッチガチといった、体が硬かった。
 柔軟測定が終わり、100m走に入る二人。
 一人一人測定するため、時間がかかる。
 5分後に彰吾の番が回ってきて、彰吾はスタートラインに立ってから、クラウチングスタートの態勢を取る。
 始め!という合図と共に、彰吾は100mを走りぬけた。
 結果、天月 彰吾、12秒38。
 結果を見た測定員の人が、「陸上の大会に出たら?」と言ってきた。
 彰吾は、興味が無く、丁重にお断りした。
 その間に、俊の測定が終わり、結果を聞いている。
 宮下 俊、14秒47。
 俊も俊で、なかなか速かった。
 彰吾は、俊に自分の結果を伝えると、「何でそんなに速いんだ?」と言われる。
 正直、彰吾もわからない。
 陸上部の様に毎日走っている訳でもなく、普通に帰宅部の人間のため、自分でも結果を聞いたときは、驚いた。
 第二測定最後の握力測定を行う二人。
 彰吾は適当に力を入れ、握力測定を行った。
 天月 彰吾、握力、46キロ。
 ふぅ……と一息つく彰吾の結果を見た俊はニヤッと笑い。
 俊は測定器を握る。全力でやっているのか、体が小刻みにプルプル震えていて、顔を真っ赤にしていた。
 全力を出し切ったのか、やりきった顔で彰吾を見る。
 宮下 俊、握力、58キロ。
 ドヤ顔で彰吾を見る俊。それをみた彰吾は本気を出す。
 俊と同じような状態になっていた。
 彰吾も全力でやり、結果。
 天月 彰吾、握力。
 68キロ。
 思わず、彰吾は片手をあげる。
 今なら、完全勝利したUシーが流れるだろう。
 そして、第2測定が終わった。
 彰吾と俊の二人は第3の測定を行おうとすると、一人の測定員が二人に近づく。
「君達が天月君と宮下君ね?」
「あ、はい」
「どうしたんですか?」
「うん、君達はそっちの測定器じゃなく、こっちの測定器」
 彰吾と俊は体育館に案内される。体育館に入ると、何やら黒くてゴツイ物が置いてあった。
「これで測定しますので」
「なんかいつもと違いますね」
「そうですね。でも、今回はこちらで」
 測定員の人が二人に言う。
 彰吾と俊の二人はそれぞれの測定器に近づき測定を行おうとすると。
「では、この物体に正面から重力をかけてくれ」
 一人の科学者が彰吾に言う。彰吾は正面においてある黒い物に重力を掛ける。
 電車の時と同じ要領で重力を掛ける。
 上にかけている重力を正面に掛け、黒い物体が彰吾に押される様に下がった。
 その黒い物体を下げると科学者達は「おぉ…」と声を上げた。
 そして、いつも通り、下方からの重力制御に上方からの重力制御を行い彰吾の測定が終了する。
 俊は彰吾と同じ様に黒い物体が俊の正面にあり、俊は科学者から「この黒い物体に衝撃波を与えてくれ」と言われ、言われた通りにする。
 とりあえず、俊は正面の黒い物体に衝撃波を放つ。
 黒い物体は俊の衝撃波を受けるとブォオオオンと重低音の音を鳴らしながら震えている。
 それを見た科学者は彰吾と同じ反応をする。
 俊も同じ様にいつも通りの衝撃波の届く距離を測定して終了する。
 最後の第4の測定を行おうと体育館を出ようとすると、
「君達はこれで終わり、後で通知が来るから学校で待っててください」
 一人の科学者に言われ、二人は体育館を出て食堂に行く。
 彰吾と俊は食堂の自販で飲み物を買い、測定通知を待っていた。
「にしても、何だったんだろうな? あれ」
「さぁな、俺達にはわからん物だよ」
「だよなぁ」
 俊と彰吾はそんな話をしていた。
 確かにいつもと違った為、彰吾も何故だろう?と思っていた。
 そんなことを思っていると食堂に有原が入ってきた。
「よう、有原」
「測定終わったのか、早いな」
 俊と彰吾は有原にあいさつもかね、話を掛ける、
 すると、有原は「はぁ…」とため息をつき、二人を見る。
「お気楽だな、お前ら」
「お気楽ではないけどな」
「そうか」
 突然有原が言い出す、彰吾はそれに答えた。
 突然なんだ?と思っていると、
「まぁ、どうにかなる」
 有原がニヤッと笑い言う。
 何がまあ、どうなるか二人には分からなかったが有原が何か知っている事は分かった。
「何を知ってる?」
「すぐに分かる」
 有原が言うと校内放送用の音楽がなる。
『二年一組天月彰吾と宮下俊は特別室に来てください。繰り返します――」
 校内アナウンスで彰吾と俊の二人が呼ばれた。有原は「いけば分かる」と言って、食堂を出た。
 とりあえず、二人は一階の特別室に向かう。特別室の扉の前に着き、ノックをして特別室に入る。
「「失礼します」」
 特別室に入ると、ソファに先ほどの測定を行ってくれた科学者が座っていた。
「座りたまえ」
「はい、失礼します」
「失礼します」
 科学者に言われ、二人は椅子に座る。
 座ると、科学者が能力測定通知を二人に渡した。
 二人は測定通知を見ると驚愕する。
「え?」
「嘘だろ」
「嘘ではないよ」
「しかし、これは……」
「良くある事さ、成長するんだ。〝能力も〟」
 彰吾と俊の二人が驚いているのは、自身の能力ランクが上がった事に驚きを隠せなかった。
 一般的には小学、中学で大きく能力が成長する。高校生になると、能力が全く成長しなくなる事が多い。
理由として、脳が大人の脳になり、これ以上発達の余地が少ない為。
 小さい頃なら、脳はまだまだ発達する為成長もする。
 だが、高校生からは脳が大人の脳になる為。成長をしなくなる。
しかし、高校生が稀に急成長する事がある。
 身体も急激に成長する、同時に脳も成長する事がある。
「君達は電車を止めたみたいだね。それも能力で」
「そうですが」
「何か関係があるんですか?」
「あるさ、能力の成長は何かのきっかけさ。美術家だってそうだ。ふと、物を見たら良い絵が描けてそれが世界的に有名になるとそういう事さ。君達は、あの電車をきっかけに成長したんだ」
 確かに彰吾と俊は自分の能力では出来ないことをやってのけた。
 彰吾の能力、重力(グラヴィトン)で重力制御を行い、今までは真上と真下にしか 重力を掛ける事は出来なかったが、今は横に重力制御を行う事が可能としている。
 俊は衝撃波(バースト)の威力、回数が増えた。
 前までは、回数も2回が限度で衝撃波もさほど威力がなかったのだから。
「まぁ、これで君達はランクCではなく、ランクBだ」
 彰吾と俊の二人はランクCからランクBに上がった。
 その後、二人は食堂に行き、昼御飯を食べ彰吾はバイトに向かい、俊もバイトに行った。
 彰吾はケーキ屋の裏方のバイトをしている。
 そこで彰吾は今日あった事をお互い休憩中のバイトの先輩、伊月作間(いづきさくま)に話した。
「ハッハッハ。そうか、天月はランクBか」
「信じられないんですよ」
「そうか?俺は無能力者(ノンスキル)の一般人だから分からないが、すごいんだろ?」
 無能力者をノンスキルと言う。
 この学側都市に住む場合、能力カリキュラムを受けさせられる。
 そこで、一般人とされた人を無能力者(ノンスキル)と言う。
 別に無能力者だからと言って、能力者からの差別は無い。
「すごいんですけど、その自分にそこまで力があると思えないんですよね」
「……、たばこいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
「すまん」
 そう言うと作間はたばこを吸い、一息すると、
「信じられないって言うけど、天月。お前はランクBであり、人を救ったんだ。力が無かったらあの大勢の人達を助ける事は出来なかったと俺は思う」
「……」
「きっかけに過ぎないと言ってたな。そうだと俺も思う。その電車の件でお前が急成長して人を救ったんだ。この事実は変わらない、お前とお前の友達でその場にいた人達全員を救ったんだ」
「そう、ですね」
「だろ?それにあそこには俺の彼女が乗っててな。お前に助けられたもんだ。天月、今更だが、ありがとう。本当に感謝してる」
 作間が天月に頭を下げる。
「あ、あたまを上げてくださいよ! 大丈夫ですから!」
「そうか、でも、ありがとう」
「いえ、こちらも先輩の話で自信になりました。ありがとうございます」
 そう言って彰吾は作間に感謝の言葉言い、バイトに戻った。
 バイトが終わり、彰吾は帰ろうとすると、俊からメールが届く。
「ん? 早めに終わったから、一緒に帰ろうぜ。か…、まあいいか」
 彰吾は俊に「いいよ」と送り、待ち合わせ場所を決めてその場所に向かう。
 待ち合わせ場所に向かうと俊が既に待っていた。
 お互い「おつかれ」といい、帰宅する。
 やはり、今日あった事を先輩など同僚に話したらしい。中には「死ね」と返ったきたらしい。
「は~疲れたな。どーするよ、彰吾」
「俺も今日は疲れた、どっか寄るか」
「賛成、家で飯作るとかもう死んでまうわ」
 そして、二人は近くのファミレスを探す。



とあるビルの屋上に一人の男性が双眼鏡をのぞいていた。
「いました、例の電車の件を止めた奴ら二人を、どうしますか?」
 なぞの男性がトランシーバーを片手に通信をすると、
『始末しろ』
「Shi……」
 そう言うと男性はナイトスコープをつけ、狙撃用ライフルを取り出して狙いをつける。
 目標は――――
「天月彰吾、宮下俊…、ヒーロー面するとどうなるか教えてやる。あの世でな」
 そして、トリガーを引く瞬間。
「――! 誰だ!!」
二人を狙撃しようとしたスナイパーの男性が後ろから気配を感じ振り返るとそこは、全身を黒い何かの戦闘スーツを着ていて、頭も何かで覆われて顔が見えない人物が立っていた。
「だれだ、お前は」
「……」
 スナイパーは謎の人物に話を掛けるが、返事が無い。
 スナイパーは腰に装備してあるマシンピストルを取ろうとすると、謎の人物がスナイパーに向かって走り出す。
「くッ!」
 スナイパーはマシンピストルを素早く取り出し、謎の人物に向かって連射する。
 謎の人物は体勢を低くしてジグザグに走ったり、障害物を使い、銃弾を避ける。
「くそ!化けもんかよ!」
 マシンピストルが弾切れになり、リロードしようとすると、謎の人物が一気にスナイパーに迫る。
 目の前まで近づくと、スナイパーはニヤッと笑った。
 謎の人物は何かを感じ、瞬間的に後ろに下がった。
 下がった瞬間、スナイパーの目の前が突然爆発する。
 謎の人物は爆風を受けたが、うまく空中で体勢を整え、着地する。
「くそ、後もう少しで丸コゲだったのによ」
「……、炎使い(フレイマー)か」
「お、やっと話したか。フッ……まぁな、狙撃も出来るが……、こうやって能力も使えるんだよ!!」
 スナイパーは炎の玉を謎の人物目掛けて飛ばさせる。
 謎の人物はモモの辺りに着けている変わった銃を取り出し、炎目掛けて撃つ。
 撃つと、炎が一瞬で消えた。
「な、何をした!」
「知らなくていい、お前はここで消える」
「くそったれが!!」
 分が悪いと感じたスナイパーはビルの屋上から飛び降り、隣のビルに移動しようとしていたが、
「な! 何だ! なんで止まってるんだよ!!」
 スナイパーはまさかと思い後ろを振り返ると、そこには謎の人物が片手の手のひらをスナイパーに向け、銃をスナイパーに向けていた。
「てめぇ、わ、分かってんだろうな? お、俺を今ここで殺せば下にいる奴らに気づかれるぜ? それにただですまねぇぞ」
「安心しろ、お前が死ぬのは誰も気づかない。それにお前ら全員捕まえるか、消す予定だ。そっちから来てくれるなら好都合だ」
 そして、謎の人物が片手を挙げるとスナイパーもそれに反応して上空にあがる。
 上空に上がったところに、謎の人物はもう片方で持っている銃をスナイパーに向け、撃つ。
「ぐ、ぐあああああああああああ!!!! あ、あ、あ、ああああああああああああああ!!!!」
 断末魔を叫びながら、スナイパーは一瞬で消えた。



「定期連絡がない、失敗したか?」
「確認中です」
暗い部屋で幹部らしき人物達がスナイパーの定期連絡が着ない理由を探っている。
『こちら、ゴースト。目標地点に人影無し、辺りを捜索する』
 捜索に向かった応援部隊が到着し、スナイパーが最後にいた場所を調べると。
『戦闘の形跡あり、スナイパーは捕まったか、殺されたと考えられます』
「了解、では、帰還してくれ」
『Shi――なんだ、貴様! な、何をする! うッ……』
「どうした! どうしたんだ!」
 突然の断末魔に幹部は驚きを隠せないでいた。
 すると、トランシーバーから何か声が聞こえた。
「お前らが、ゴーストか?」
 まったく聞き覚えの無い声がトランシーバーから聞こえた。
「貴様か、スナイパーそして、部隊を殺ったのは」
『安心しろ、スナイパーは殺ったが、他は気絶だ。お前らは全員俺らが処分する』
そういうとトランシーバーからブツン!と音がなり、ノイズ音に変わった。
「すぐに調べろ。そして、電車の件の奴らも始末しておけ」
「Shi」
 冷静な判断で部下に命令をした。


「ふぅ……」
 謎の人物が一息つき、双眼鏡で天月彰吾、宮下俊を見る。
 彰吾と俊はファミレスに入り、注文の品を食べている最中だった。
 それに対して、謎の人物の周りはゴーストと言う組織の応援部隊の奴らが倒れていた。
 もう一度、二人を見て謎の人物は、
「お前らは狙われていたのに、こうも知らなければ呑気でいられる。あきれるよ」
 そういって、謎の人物は双眼鏡と狙撃用ライフルを消した。

 つづく

4話 変わりゆく日常編 Ⅳ

 ランクBとなった天月彰吾と宮下俊。
 ランクBになったからと言って、今の生活が変わる訳もなく、学校に登校していた。
 時間はお昼休み、彰吾と俊の二人は食堂に来ていた。
 彰吾と俊の二人は、食券を買い、注文した品を貰って席に着く。
 二人が席に着くと、周りに生徒が集まってきた。
「天月くんってランクBになったんでしょ?」
「何か生活変わったか!?」
「どーなんだよ、教えろよ」
 ランクBになった事を知った生徒達は二人を囲み、彰吾に聞いてくる。
 彰吾は俺だけじゃないんだけどなぁ……と思っていると。
「俺もランクBだが?」
 有原が話を割って入ってくる。彰吾は有原にサンキューとアイコンタクトを取る。
 有原が間に入ると、二人に群がっていた生徒が数歩後ろに下がった。
「そ、そうだったな……、お前も何か変わったか?」
「いや、別に変わらん。変わるのはランクA+からだからな」
 有原が答えると、それを聞いた生徒達は黙り、その場を去る者も出てきた。
 なぜ、有原が答えると他の生徒が離れて行くのか、理由は有原がこの学校に入って一年生のときの話。
 上級生に絡まれた下級生を助けた事から始まった。
 その上級生は能力者で、不良生徒でもあったため先生も手に負えていた。
 その日、有原は授業が終わり掃除をしてた。
 ゴミを出しに行った男子生徒の帰りが遅く、有原が他の班の生徒の代わりに様子を見に行くと、上級生に絡まれ、殴られた後と財布を男子生徒が取り出していた。
 それを見た有原は三人の能力持ちの上級生を無傷で倒した。そして、有原が上級生の胸倉を掴む。
「今度やってみろ……? てめぇら……これで済むと思うなよ……?」
 と有原が言った。その場を凌いだ有原だったが、その上級生は他の知り合いを使い、有原に報復しようと他校から名のある不良生徒と能力者を集め、有原に挑んだ。
 その数、67人。その中で能力者が24人もいた。
 結果は有原が全て一人で倒した。それを気に有原は生徒の中、他の学校中で有名になり、それ以来他の生徒から恐れられるようになったのだ。
 もちろん、報復をしようとした上級生徒は有原に前回言ったとおり、ただではすまなかった。
 そして、今に至る。
「じゃ、じゃあ、俺達はこれで……」
「ま、またな、天月、宮下……」
「放課後に、どこかであえると、いいね……」
 そう言いながら二人に集まっていた生徒が蜘蛛の子散らすように去っていった。有原すげぇー……と思う二人。
 二人はやっと落ち着きながら昼御飯を食べる。
 有原はいつのまにか二人の正面の席に座り、一緒に昼御飯を食べていた。
「どうした?」
「ごく自然に、いつのまにかそこにいたなぁ~と思って」
「席が空いてなかったからな。探してたら、群がっててじゃまだったから」
 あー確かに、あそこまで群がれると周りの人からジャマだろうなぁ……とは思ってた彰吾。
 会話が終了し、有原は学食で買ったカレーライスを食べている。
 彰吾は日替わり定食で俊がとんかつ定食。黙って三人で食べていると周りが静かになる。
 おい、何故静かになる……と思う彰吾。そんな中、有原が黙って食べていたが、有原は俊のとんかつを見ている。
 まさか、と思う彰吾。思った瞬間、有原は俊のとんかつを一切れを取る。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 俊がとんかつを取られた瞬間叫ぶ、断末魔かと思うぐらい食堂を響かせた。
 隣でそれを聞いた彰吾は正直、うるさいと思った。
 ワナワナと俊が震えている、それに対して有原はご機嫌の良い状態でカレーを食べている。
 俊が有原を睨む、それに対し、有原は見下ろす感じで、おまけに顔を逸らせて俊にドヤ顔で見ている。
「あ、やべ。有原、そっちに箸転がったから拾ってくんね?」
「あ? まぁ、いいが……。よっと……、どこだよ?」
 俊が箸を有原の近くに落としたと言って、有原に取ってくれるように言う。
 有原は仕方なしに椅子を引き、机の下と、椅子の下を見るが見当たらない。
「おい、どこだよ……? ――――ああああああああああああああああああああああ!!!!」
 箸が見当たらず、有原が顔を上げて俊の方を見るとまず視界に入ったのは、
「テメェ!! 何、人のカレーにソースいれてんだよ!!」
 俊が有原のカレーにソースを垂らしていた。
 俊はドヤ顔をしながら有原を見ている。
 それを隣でみた彰吾は、はぁ~……とため息をつく。
 子供の喧嘩か…と思う彰吾。
「いや、味が薄いんではないかと思いましてねー!! プククク」
「あぁ!? 十分な味付けだ!」
「いや、私は、ソースもいいのでは? と思いましてねー」
「てめぇ、やってみろよ? あぁ?」
「まーあ? ソースラーメンならぬぅー……、ソースカレーでも食べればいいんじゃないでしょうかぁー!! アッハッハッハッハ!!」
 俊が盛大に笑う、それを睨む有原。ズイッと俊に近づく有原。
「良い度胸だ……、トンカツを食べれると思うなよ……?」
「今度はしょうゆのトッピングがご所望の様だな……?」
 マンガならドン!ドン!と顔のカットインの場面だろうと思う彰吾。
 彰吾からしたら何とも低レベルの喧嘩過ぎて、止める気も失せていた。
 にらみ合いが始まり、俊と有原の二人の空間だけ、異様な空気を可持ち出す。
 しかし、にらみ合いのままお互いに自分の昼御飯を食べている。
 何だこの、格闘マンガの師匠に御飯を取られない様にするあれは……、あれか? 御飯食べている時も修行だ!と言って御飯を掻っ攫うあれか?と思う彰吾。
「……ん?」
 ソースカレーを食べている有原が不思議そうな顔をしてカレーを見る。そして、もう一度ソースカレーを口に入れる。
「……、うまい…?」
 などと、有原が衝撃の発言。さすがに彰吾と俊はドン引きした。
 絶対に味覚がおかしくなったに違いないと思う彰吾。
「いや、多分、うまい……?」
「いや、多分、まずい……」
「いや、多分、美味しいかも……」
 有原が彰吾と俊に言う、彰吾は信じられずにいたが、俊の反応だけおかしかった。
 そう言うと、有原がソースカレーを二人のテーブルの真ん中に置く。
 周りもソースカレーに興味が沸いているのか、静かに彰吾と俊を見守る。
「食ってみ?」
 彰吾は少し引きつった表情でソースカレーを見る。そんなことを気にせず、俊はスプーンを有原から借り、ソースカレーを一口食べる。彰吾は俊を見つめる。
「……、うまい……?」
と、俊が言った。さすがの彰吾もソースカレーが気になり、ソースカレーを一口貰う。
「……、うまい……ような……」
「なんというか、コクが出た?」
「深みがあるような感じもある」
 彰吾が言うと有原と俊が言う。三人の会話を聞いた周りの生徒はざわつき始める。
 未開の地を開拓したような物だ、そりゃあ気にもなる。
 まさかの発見、ソースカレーは意外と行ける。
 だけど、パッケージの裏に、
 ※カレーにソースは別に無い事も無いですが、味が物凄く変化してしまい原型の味が無くなって美味しくないカレーが出来上がるかも知れませんので、ソースの量にはご注意。
 なお、このソースカレーをやって不味かったどうしてくれる。
 などと言う事は一切責任が持てませんのでご注意を、と書いてありそうな感じだ。
 これから、カレーにソースというのが流行りそうな雰囲気が漂い始める。
 しかし一人、この事態に気づいた人物がいた。
「……、ん? これって結果オーライ?」
 俊がソースカレーの波から帰ってくると言った。
「そうだな、結果オーライだな、むしろ新しい発見だぞ、俊」
 その後、すごいぞと言う彰吾。彰吾が言うと、俊は鳩が豆鉄砲でも食らったかの様なポカーン状態になっている。
「え、じゃあ、なに? 俺は、トンカツのお返しにやったソースが良い方向性に行ってしまったって事?」
「そういう事になるな、むしろ新しい可能性を導いたんだ。これはブーム来るぞ? 俊」
 彰吾が言うと俊が顔を伏せ、ワナワナと震えだす。
「――ツッ!」
「え? 何? 聞こえんが?」
 俊は何か言うが聞き取れず、彰吾が聞いた。そして、顔をバッと上げ、
「俺のトンカツゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
 トンカツゥゥゥと言い放つ、一体全体何が起きたのか分からない彰吾。周りもまた、何が起きたのか分からない状況であった。
 突然俊が食堂で言い出すのに、困惑する彰吾。
「え、あ、はい? 何? どうしたの?」
「俺はトンカツを盗られた恨みでソースを入れたんだ! なのに、なのに…」
 泣きそうな表情で言う俊。泣きそうだったが、有原に指を指すと同時に真剣な表情になり、有原を睨む。
「何故、美味しくなったんだぁぁぁぁ!! 俺はただトンカツを盗られただけになったじゃねぇか!!」
 あぁ、そういうことか。と思う彰吾。
 しかし、これだけ熱弁をしているのに有原は俊の事なんか気にも止めていなかった。
 あああああ!と絶望している俊。モクモクとソースカレーを食べる有原。
 二人を見守りながら日替わり定食を食べる彰吾。何だ? この光景…と思う彰吾だった。
 俊が嘆いていると、有原がソースカレーを食べ終える。それを見た俊。
「てめ! このやろう! トンカツ返せ!」
「あぁ……、まぁ、お礼だ。受け取れ」
 そういうと有原は俊に何かを渡した。俊は受け取り、有原が食器返却口に向かう。
 一体、何を受け取ったのだろう?と思う彰吾。だが、すぐに分かった。
「彰吾……」
「なんだ? もうトンカツ良いのか?」
「五百円貰った」
 満面の笑みで言う俊。それを聞いた彰吾はテーブルに肘をつけ顔に手を当てて思う。
『単純バカだ……』
 そして、彰吾と俊は昼御飯を食べるのであった。


「今日どうするよ?」
 放課後になり、彰吾と俊は学校から帰宅中に俊が言う。
「いや、どうするといわれてもなー……、出かけるか?」
「お、いいね。んじゃ、帰宅したら、お前の家の前で集合な?」
 そういうと俊が走り去る。彰吾は歩いて家に向かう。
 彰吾の家は学校から40分ぐらいの場所にある。
 近くて良い、最高だ。と思う彰吾。帰りに商店街に寄り、二日分の御飯を買い込む。
 すると、彰吾を見た商店街の人達は。
「おう! 彰吾、これやるよ!」と八百屋のおっちゃんが言う。
「彰吾ちゃん、この茶葉余ったから使って」和菓子のおばちゃんが言う。
「彰吾ちゃん、コロッケあげる」と肉屋のおばちゃんが言った。
 商店街を通り過ぎる度に、彰吾に何かをくれる商店街の人達。
 そのうち彰吾の手にはパンパンになった買い物袋をぶら下げる事になった。
 学校に向かっている最中、彰吾は鞄しか持っていなかったのに、今は両手に商店街の人達に貰った物で、パンパンになった買い物袋をぶら下げている。
 別に嫌な事ではない、むしろ感謝するべき事態。
 買い物袋を持ちながら帰宅をする彰吾。
 帰宅すると、急いで買い物袋の中の食料を冷蔵庫に入れ、着替えて集合場所に向かう。
 彰吾は学校指定のマンションに住んでいる。
 エアコン、ネット環境、駅の近く、お風呂とトイレの別のリビングありで。
 6万5000円と言う素晴らしい物件。
 しかし、彰吾はバイトをしているが、月に5万と少ししか稼いでいない。
 だが、彰吾は滞納はしていない。彰吾は国からの支援で何とか生活している。
 これは国が家賃の一部を支払い、残りを支払うシステム。
 しかし、これは便利ではあるが、国の申請が通りづらい点もある。
 そして、このシステムの最大の欠点は、家賃を支払った分だけ後で返さなければいけない。
 要は国に金を借りている状態。
 このシステムは二十歳まで有効。彰吾は今いる部屋に国の割引で3万2500円。
 それだけでなく、彰吾は両親がいない、両親の居ない人の為の施設に入れられている事で、更に安くなっている。
 両親が居ない事はこの時代ではありえない事ではない。むしろ多いと言える。
 無能力者(ノンスキル)が居ると同時に、能力者を毛嫌いする人がいる為だ。
 そのせいで、自分の子供が能力者であった事で、捨てられるケースが多々ある。
 もしくは、研究の為だけに生まれた子もいる。
 その施設+国の割引で彰吾が月に支払っている金額は、2万8000円。彰吾は一番最初にこの金額を見た瞬間、何かの間違いかと思い、国の対応窓口に連絡すると、
『そちらであっています。間違いありません』と帰ってきた。彰吾はこれで貯金とそれなりに暮らしている。
 彰吾はエレベーターに乗り、俊と約束した集合場所に向かう。
 彰吾は白いシャツに灰色の薄いパーカーを着てから、その上に茶色のジャケットを着た。下はジーパン。
 集合場所に着いた彰吾。先に俊がいるか確認するとまだ着ては居なかったがその後、すぐに俊が現れた。
「わりわり、ちょい荷物が来ててな」
「別に少しだけ、遅れただけだろ。で? 何が来たんだ?」
「妹は何処(いずこ)へのフィギュア」
「とりあえず、行くか」
「ちょい! おい!」
 俊の妹は何処への話が出てきた瞬間、彰吾は話を切って目的地に行こうとすると俊がつっ込む。
「なんだよ?」
「いもいずよ!?(妹は何処への略称)」
「俺は見たが、興味がない」
「な、なら今度は違うのあるから! 貸すから! 見ようぜ!」
「まぁ、今度見るよ」
「うぃ」
 こうして、俊にオタの色を少しづつ染められている彰吾だった。
 そして、彰吾と俊は集合場所から少し歩き、どこに行こうか考えている。
「どうするよ?」
「んー、横浜行くか?」
「おーいいねぇ。久々に海上都市出るな」
 海上都市(かいじょうとし)は実は海の上に作られている。
 ちなみに大きさが約253.72kmで色丹島より少し大きい、人口が3万8千人。
 神奈川県の近くに作られていて、東京や横浜に向かう場合は、リニアモーターカーに乗る。
 一応、海上都市にも空港があったり、船も存在している。
 この海上都市を作る計画の際に、漁船などの海上ルートを新しく開拓するなどをしてこの海上都市を作る事に成功している。
 外部に出る場合、海上都市の住人登録パスを通らなければならない。
 そもそも何故、海上都市が海の上に作られたか。
 これは、観測をしやすくする為の事。一部に集めて置けば、観測がしやすい為、このような事をしている。
 何も能力者を隔離する為ではない、あくまで観測の為。
 海上都市は能力に見込みのある学生や人物を海上都市に入れる事によって国の繁栄、国の力に自動的に変換されているのだ。
 その為、学生の身分を終えた者や能力者は外部で働く事が多い。
 東京などの会社に入り、働く者もいる。
 しかし、海上都市以外の場所で能力者が問題を起こした際は、海上都市内で決められている罪以上の罪が科せられる。
 下手をすれば、能力剥奪(スキルアウト)にさせられるケースがあるのだ。
 能力を与える事も出来れば、失くす事も出来る。
 だが、失くすと言っても完全に消し去る事は不可能。
 一度覚醒させた脳を元に戻す事は出来ないが、脳にリミッターを掛ける事は出来る。
 脳にリミッターを掛ける事によって、能力を使えなくさせる事が出来る。
 イメージとしては、ドアを開けようとしたが、つっかい棒で突っかかっている為、少し開くが開かない状態。
 これではいつか開いてしまうが、人間の脳は負担を掛ければ掛けるほど、廃人になってしまう可能性がある為、現状では不可能とされている。
 彰吾と俊は目的地が決まり、海上都市入場所に向かう。
 電車に乗ること20分で入場所に着く。見た目は空港のターミナル。
 管理員がゲートに立ち、行く人、来る人を通していた。
 まず、外部に出る場合、指紋認証からの顔認識を通し、最後に個人データがゲートに届き最終目視確認をしてから入ることも出ることもできるシステム。
 彰吾と俊は指紋認証と顔認識をスムーズに済ませて、目視確認をしてもらう。
「はい。では、遅くならない内に帰ってくるんですよー」
「わかりました」
 ゲートに居た管理員に言われた彰吾はそれに答える。
 先に終わらせた俊が、リニアモーターカーの近くで待っているので、少し早めに歩いて俊の近くに行った。
「んじゃ、行きますか」
「ああ」
 そして、横浜行きのリニアモーターカーに乗り、横浜に向かう彰吾と俊だった。


横浜にある一軒のビル。
「で? 応援部隊の消息は?」
「ハッ! 現在、警察署にいる模様です」
「そうか……では、電車を止めた人物は?」
「ハッ! 電車を止めた人物はこの二人です」
 そういうと、男性が椅子に座っているゴーストのリーダー、イリアス・ノーゼン。
 薄暗い部屋にパソコンが三台ありパソコンの画面の灯りで部屋を照らしている。
 パソコンの前に工作員が座りキーボードに何かを打ち込み、今後の計画のために動いていた。
 全体を見渡せるように、その後ろにイリアスが座っていて、近くに資料を持っている工作員。
 三つの資料を渡し、イリアスは資料に目を通す。
「天月彰吾、宮下俊……」
「どうしましょうか、ボス」
「……、ゴヴィン」
 イリアスがゴヴィンと言うと、男が暗闇から突然現れる。
 男はイリアスの前に立つと、足を肩幅ぐらいに開いて立っている。
「お呼びでしょうか?」
「ゴヴィン。任務から帰ってきて、すぐで申し訳無いのだが」
 イリアスが三つ目の資料をゴヴィンに渡す。ゴヴィンは受け取り、資料に目を通す。
「我々の計画に邪魔な存在だ。見つけ次第排除せよ」
「Shi……」
「それと、我々の計画に支障をきたす存在が現れた場合も、排除せよ」
「Shi……」
 そういうと、ゴヴィンが暗闇に消える。イリアスは、三つ目の資料にもう一度目を通す。
「第4の騎士がまさか出てくるとはな……」
 イリアスが椅子に座りながらフフフと笑う。
「ボス、失礼します。天月彰吾、宮下俊が海上都市を出て、こちら横浜に向かっているとの情報を掴みました」
「始末できるなら始末しておけ」
 パソコンの前にいたゴーストの工作員が、二人の情報をイリアスに流し、それを指示する。
「Sh--」
「だったら、その二人俺に殺らせて下さい」
 部下がShiと答えようとすると、ゴヴィンと同じ様に暗闇から男が現れる。
「ルドガー、何故だ?」
「何故ですか……、それはですね……」
 イリアスがルドガーに言うとルドガーはうつむき、握り拳を作り、爪が手の肉に食い込む程握ってる。
 そして、歯をギリギリをかみ締め、顔を上げイリアスを見る。
「あの、クソガキを、殺さないとッ! 私の怒りが収まらないんですよぉ……」
 怒りを通り越し、殺意しか沸かないルドガー。それを見たイリアスは、
「分かった。この件はお前に一任する。くれぐれも気をつけたまえ」
「Shi……!」
 イリアスの発言に殺意むき出しの満面の笑みで言う。Shiと答えると、ルドガーはその場を去った。
「さて、これで問題は解決されるだろう。このままで行けばな……」
 そういいながら、最終目標の計画書を見るイリアスであった。 


「着いたー久々の横浜ー」
「そうだな、着いたな」
横浜に着いた彰吾と俊の二人。今は昼の15時過ぎぐらいの時間の為人が多かった。
 彰吾と俊は西口出て、交番の近くにあるたい焼きを買い食べ歩く。
「さて、どうしようか?」
「服とか本とか、ゲーセンでも行くか?」
「そうだな、それでいいか」
 そういうと彰吾と俊は適当にぶらつく、服を見に行き、その後、本屋に行った。
 ヨド○シに行ってイヤホンを買うなど、体験版のゲームなどプラモも見た。
 ヨド○シを出てると、やることも無くなったので、彰吾と俊はゲーセンに行きゲームをやる。 
そして、ある程度ゲーセンで時間を潰し、やることが無くなった為、歩きで映画を見に行った。
 映画を見ている最中に彰吾は気づく。
『……、これさ、どっちか女子だったらデートだったな……、野郎とウインドショッピングとか……。マジか』
 思う彰吾だったが、まぁ、いいやと流し、映画に集中する。
 今二人が見ている映画は、SFものでスーパーギャラクシーと言う映画。地球以外の生物がいるのか?と言う疑問から、宇宙船を作り、宇宙に飛び出す内容。
 人間以外の形をした、ウッドマン。手足がある木の存在、単眼の人型のゴブリンの様な奴。メインヒロイン何だろうか、綺麗な女性もいる。が、ホログラフィックの女。
 画面から嫁が出てこない現象を映画で見るとは二人は思わなかった。出てはいたが、触れることは叶わぬ、存在。
 しかし、ラストはホログラフィックの女性のデータが全ての元凶の為、主人公がアンインストールし、別れる事になった。
 だが、ホログラフィックの元になった女性に会い、ホログラフィックの時の記憶を受け継いでおり、主人公と再会して幸せになったと、そういう物語であった。
 案外、楽しめた彰吾と俊。いつの間にか19時を回っていた。
 お腹が空いたので、109シネ○ズを出て横浜に向かう。
 109シネ○ズを出て、今は新高島駅の近くにいる。
 周りに飲食店は少ない、仕方ないので二人は歩きで横浜に戻る。
「いやぁ、意外と楽しめたな。スーパーギャラクシィー」
「そうだな、意外と楽しめたな」
 横浜に戻っている最中に映画の事を話す二人。そして、何故かスーパーギャラクシーの発音が無駄に良い俊だった。
「……、すまん。トイレ行って来ていいか?」
「はぁ? お前、こっからだと5分かかるぞ」
「それは大丈夫、走る」
 突然トイレと言い出す俊、そして決め顔で言う。ため息をつく彰吾。
「はぁ……、行って来いよ。待ってるから」
「わり! んじゃ、行ってくる」
 そして、俊が来るまで待つことになった彰吾。信号を渡った横浜三井ビルの向かい側の歩道で俊を待つ彰吾。
 暇なので、彰吾は携帯を取り出してソーシャルゲームをやり始めた。
 ソーシャルゲーム起動してから10分は経ったが、俊がまだ帰ってこない。
 遅いなと思った時に、109シネマ○の方から、誰かがやってくる。
 一人の美しいゴスロリ女性が現れた。見た目は黒い服に白と、ところどころに赤が入っている
 髪型は縦ロール、頭には黒と白のヘッドドレスがつけられていた。
 何だ、俊じゃ無かったかと思い、ゴスロリの女性から目を離すと。
「こんばんわ、天月彰吾さん」
 突然、ゴスロリ女性が話を掛けてきた。
 ゴスロリ女性はスカートの(すそ)をつかみ、丁寧にお辞儀をしている。
 なんで、この人俺の名前を知ってるんだ?と真っ先に思った彰吾。
「なんで、俺の名前を知ってるんだ? と思ってますね?」
 図星を突かれ、少し驚く彰吾。彰吾は携帯をポケットにしまった。
「ああ、思ったが。で、何で知っている?」
「それはですね……」
ゴスロリ女性から何かを感じる彰吾、そして気づく。
『周りに人が、いない……?』
 ゴスロリ女性に対して身構え集中する。
「安心してください。周りには人おろか、車も通りません」
「へぇ~、そうかい、不思議な事が起きるんだなぁ」
 だが、先ほどソーシャルゲームをやっている時に携帯を確認すると電波は通っていた。
 ということは、何かしらの方法でこの辺りから人を居なくなるようにしたと考えた彰吾。
「ですので……」
 突然ゴスロリ女性の口元がニヤリと微笑む。微笑むと同時に殺気も放たれる。
 殺気を感じた彰吾を数歩後ろに下がった。
「死んでください……」
 そう言いながらゴスロリ女性は腰からククリを二本取り出し、彰吾に突っ込んだ。
 彰吾は相手に重力を正面に掛け、彰吾に近づけさせない様にした。
「ンフフフフ」
 重力を掛けられ思うように前に進めず、少しずつ後退していくゴスロリ女性は不意に笑った。
「何がおかしい?」
「それで、止めたんですね……」
「何をだ?」
「電車だよ……」
「何……?」
「テメェのせいで、俺の評価が落ちたんだよ……! このクソガキがぁ!!!!」
 突然ゴスロリ女性が豹変する。表情がゆがみ、殺意と狂気染みた表情をで彰吾を見た。


 ビルの屋上で双眼鏡を持って、彰吾を見ていたルドガー。
「テメェのせいで、俺の評価が落ちたんだよ……! このクソガキがぁ!!!!」
 ルドガーは叫ぶ。電車の件でルドガーはゴースト内の評価が落ち、仲間から馬鹿にされていた。
「安心しろよ、お前が死んでもだぁれも悲しまねぇよ……」
 ンフフフと笑うルドガー。
「だからよぉ……! 死ねよ!!」


「だからよぉ……! 死ねよ!!」
ゴスロリ女性は地面を強く踏み込み、彰吾の重力を無視するぐらい一気に近づく。
 彰吾はすぐに真上に重力を掛け、相手を倒す。真上から重力を掛けられた瞬間、ゴスロリ女性はその場に倒れる。
 これで、動けないだろうと思い、ふぅ……と安堵の息をつく。
「安心してんじゃねぇよ!!!!」
 そういうと、ゴスロリ女性は前から重力を掛けられているのにも関わらず、持っていたククリ一本を彰吾に投げつけた。
 彰吾はククリを避ける。避けた瞬間、重力が切れ一気に彰吾に近づき、斬撃が襲う。
「オラオラどうしたぁ!! 反撃してみろよ! ああ!!」
 彰吾は斬撃の嵐を紙一重で全て避けていた。相手の剣術は悪くは無かった。むしろプロだと言える。
 だが、彰吾はその斬撃を全て避けている。
『なんだ、何で俺こんなに避けられるんだ?』
 自分でも理解出来ていない彰吾。なぜ、こんなに避けられるのか分からないでいると、ゴスロリ女性がスラスラ避ける彰吾にイラつき大振りを振りかぶる。
 彰吾はその大振りを見逃さず、腕を取りそのまま勢いを使ってゴスロリ女性を背負い投げをした。
 ゴスロリ女性は円を描くように投げ飛ばされた。まずい!と思った彰吾はすぐにゴスロリ女性に正面に重力を掛ける。
 だが、間に合わずに頭から地面に落ちた。彰吾はやってしまったと思った。
 間に合えば、頭に正面の重力を掛ける事によって頭からの着地ではなく、背中からの着地に成功する予定だった。
 手を顔に当て、落ち込む彰吾。落ち込んだ瞬間、右腕に何か当たる。彰吾は、何が当たったんだ?と思いながら見ると、
「ぐ、ぐあああああああああああ!!」
 ナイフが彰吾の左腕に刺さっていた。何が起きたか分からず、ナイフを抜いてそこ等辺に投げる。
「ンフフフフフフフ!!」
 笑い声が聞こえる。笑い声の聞こえた方を彰吾は見た。
「う、嘘だろ? 何で、生きてんだよ……」
 そこには首があり得ない方向に曲がっているゴスロリ女性が笑いながら立っていた。
 何が何だか、分からない彰吾。だが、すぐに気づく。
「能力者か……!」
「お、ピンポーンせいかぁーい。俺の能力はぁ~、何でしょうか~」
 そんなもん分かる訳が無いだろと思っていると、左モモに激痛が走る。
「あああああああああああ!!」
 あまりの激痛に膝をつく彰吾。何だと思い、左モモを見ると、そこにはナイフが刺さっていた。
「くぅッ!!」
 いつの間に刺されたんだ!?と思いながらまた、ナイフを抜きどこかに投げ飛ばす。
 その姿を見たゴスロリ女性はンフフフと笑っていた。
「答えられなかった罰でぇーす。もう、仕方ないから能力教えちゃうね~」
 そういって彰吾に近づくゴスロリ女性。ククリを右手に持ち、左手には何も持ってはいなかったが、突然手を握って開くとナイフが指と指の間に現れる。
「俺の能力は、糸人形(ストリングドール)。そして、この身体は戦闘用に俺が作った人形だ」
 糸人形(ストリングドール)。
 この能力は念力で作った糸を対象の頭につける事によって、その糸を着けた対象を思うがままに操作出来る能力。
 糸の射程は能力ランクによって変わるが、今のところ200mとされている。
 糸をつけられる本数か決まっていて自分の指の数と決まっている為、最大で10人までしか操作が出来ない。
 糸を着けた時に能力者と共有(リンク)させられ、糸を着けた相手の景色を能力者は見ることが可能としている。
 そして、糸を着けられた対象は能力者の景色を見る事ができず、一方的に操作されるだけでなく、その景色を見られることになる。この能力は罠にも活用ができ、デメリットは一切ない。
 そして、ゴスロリ人形は左手に持っていたナイフ一本を彰吾の右足に投げ、刺した。
「ぐあぁ……ッ!」
 ゴスロリ女人形は彰吾の正面に立ち、ンフフフと笑いながら、動けない彰吾に近づく。
「これは人形なんでね、俺の感情がそのまま人形に伝わる。人間臭いだろ? ここまで、精巧に作るのに時間かかったんだぜぇ……?」
 ンフフフと笑いながら近づく。動けない彰吾の前に立ち、ククリを振り上げる。
「じゃあ、死ねよ」
 ゴスロリ人形はククリを振り下げ、ククリが彰吾を襲う。
 その瞬間、彰吾はまた思い出す。
『戦え、その為の存在だ』
 誰だか分からないが変な記憶を思い出す。
 足の痛みが消え、ククリを寸前の所で避けてゴスロリ人形に足払いを掛ける。
 ククリは外れ、そのまま地面ククリが当たった瞬間足払いを受け、後ろに背中から打ち付けるゴスロリ女性。
『糸人形の能力の弱点は頭に指示糸が着けられている、その糸を切ればこの戦いは終わる』
 彰吾はゴスロリ人形から距離を取ると、先ほどモモに刺さって投げたナイフの近くにいたため、ナイフを取る。 
 ナイフを取った彰吾は一気にゴスロリ人形に近づいた。
 ゴスロリ人形もすぐに立ち上がり、彰吾に近づく。
 ゴスロリ人形と斬撃戦が始まった。彰吾は短いナイフのため、ゴスロリ人形の攻撃を全ていなして、その隙に攻撃をする戦いをしていた。
 途中途中で、体術を挟みながら、攻撃をする彰吾。
『なんで、俺ナイフ扱えてるんだ? 俺はこんなプロのようなナイフ捌きは、教わった覚えはないぞ?』
 そう思いながら彰吾は、扱いの覚えが無いナイフを使い攻撃をする。
 そのうち、相手の行動が読め、ナイフ戦をしている最中も、風を感じるぐらいの余裕が彰吾の中には生まれていた。
 その攻撃と防御、所々に入る体術にいつの間にか、防戦するようになるゴスロリ人形。
 ビルの屋上から双眼鏡を覗き、糸人形(ストリングドール)を使っているルドガー。
「何なんだよ……! 何なんだよ!! お前はぁ!!」
 ビルの屋上から叫ぶルドガー。ルドガーの指示で大降りをするゴスロリ人形。
 そして彰吾は、真上からククリを持って振り下ろしている手を蹴り上げる。
 蹴り上げると、持っていたククリが真上に吹っ飛ぶ。
 すぐに体勢を立て直し、彰吾に切りかかろうとしたが、彰吾は目の間に居なかった。
 突然、ゴスロリ人形が倒れた。
 双眼鏡で見て、何が起きたのか分かったルドガーは歯をかみ締め、ギリギリと鳴っている。
「指示糸を……! 切られた、だとぉおおお!!!!」
 彰吾は蹴り上げた後、一瞬で低い体勢取りゴスロリ人形の死角を取って、そのまま真後ろに行く。
 真後ろに行き、普通人形の後ろを見ると何も無いが、よく見ると糸が見え、彰吾はその糸を切った。
 双眼鏡を見るのをやめ、彰吾のいる方向を睨む。
「いいだろう……、全力でてめぇを殺してやるよ!!」
 言った瞬間後ろに気配と糸の感知罠を仕掛けた為、誰かがいると感じたルドガー。
「なに? 何で、お前がここにいんの?」
 そういいながら、冷静になり後ろを向くルドガー。
「第4の騎士、ペイルライダー」
 ペイルライダーと呼ばれると暗闇から現れたのは、彰吾と俊を狙撃しようとしていたゴーストのメンバーを消した存在だった。
 ペイルライダーは無言で狙撃しようとしていた奴を一瞬で消した銃をルドガーに向ける。
「軍の独立部隊、ファントム。それの筆頭、ペイルライダーさんがどーしてこんなところにいるんだ?」
「話す義理は、ない」
「俺らを消す為か?」
「…………」
「そうか、なら」
 どこか、余裕を見せるルドガー。ペイルライダーは周りを警戒すると。
「狙撃に注意しろよ?」
 ルドガーが言った瞬間、ペイルライダーはバク宙する。バク宙後、ペイルライダーの居た場所に弾丸が飛んできた。
 その後に銃声が鳴り響く、ペイルライダーは一瞬で弾丸の軌道を見て、ルドガーの狙撃人形を見つけ撃つ。ペイルライダーに狙撃され一瞬で消える。
「へぇ……それがあの、分子運動放射光線銃(デヴァイド)か」
 デヴァイドで狙撃人形を消し、着地をしてまた、ルドガーにデヴァイドを向けるペイルライダー。
 デヴァイド、分子運動放射光線銃。
 これは、対象に向けトリガーを引くと、目には見えない超光速の分子運動放射光線マイクロ波を放っている。
 デヴァイドに撃たれた対象は、超光速で分子運動を行われ、蒸発して消える。
 電子レンジの構造をうまく利用し、武器に転化した物だ。
 デヴァイドは普通の銃としての機能も備わっている。
 デヴァイドを向けられるルドガーはンフフフと笑い出す。
「何がおかしい」
「いや、もう時間だからさ。ほら?」
 そういうと、突然ペイルライダーの後ろから誰かが襲う。ペイルライダーはそれに対応して奇襲を防ぐ。
「――! 貴様は……!」
 奇襲をかけられたペイルライダー。それを防ぎ、奇襲者が誰なのか確認すると、
「ゴーストの工作戦闘員ゴヴィン……!」
「ほう、あのペイルライダーに俺の事を知ってもらえているとは、光栄だな」
 ゴヴィンはルドガーの前に立つ。ペイルライダーはフッと鼻で笑う。
「大物だな、二人とも拘束する」
「悪いが、それはできないな。我々には成し遂げなければならない理想がある」
 ゴヴィンが言うと、ゴヴィンの脇からフラッシュバンが投げられた。フラッシュバンは光と音でペイルライダーを襲う。その隙にゴヴィンはルドガーを連れ、共に逃げる。
 だが、ペイルライダーは何とかフラッシュバンを回避し、ビルからビルへ移動している二人に、拘束弾を装填しているデヴァイドを向ける。
 その瞬間、ルドガーが操作している人形がペイルライダーを襲う。ペイルライダーは人形を一瞬でデヴァイドで撃ち、人形を消した。
 そして、逃げた二人の方を見るが、そこには誰も居なかった。
「逃げられたか……」
 ペイルライダーはデヴァイドをホルスターに収め、彰吾のほうを見る。
「……、お前は何なんだ? 天月彰吾」
 そういうと、デヴァイドを再び取り出し、天月彰吾の近くに倒れている人形を消し、その場を去った。



 突然、人形が蒸発し、粉末になったかの様に一瞬で消えた。
「おぉう!? びびった……」
 そして、彰吾はその場に座り込み、戦いの疲れを癒す。
 すると、その後に俊が帰ってくる。
「いやぁー、待たせてスマンスマン。なかなか、出なくてよー。奮闘しちまったぜ」
 などと、抜かしたコメントを言ってくる俊に彰吾はあきれた。
「はぁ、もういいや」
「おう、って、何でお前ボロボロなんだ?」
「今度話す。今は飯にしよう。腹が減ってもう無理」
「お、おう? まぁ、いいや、待たせちまったしな。今回は俺が出すわ」
「ありがとよ。てか、ここら辺どこだ?」
「何言ってんだよ? シネマ近くだろ」
「あぁ、そうだったな。俊」
 彰吾と俊の二人は横浜に向かうのであった。



 横浜にある一軒のビルにあるゴースト本部。
「ボス、申し訳ございません。天月彰吾、宮下俊の始末に失敗しました」
「気にするな。次、仕留めればいい」
「Shi……」
 イリアスに言われルドガーは下がる。ルドガーが下がると、ゴヴィンが前に出る。
「予定通り、工作員。そして、ドローンの配備を完了しました。ボス」
「うむ、ご苦労。ルドガーお前の作ったシステムが発揮される」
 ルドガーは「Shi……ありがとうございます。ボス」と答える
 イリアスはゴースト全員に繋がるマイクオンにして、マイクをつかむ。
「ゴーストの諸君。近々に大機械祭が行われる。ここで、我々の兵器とシステムを使い、日本を壊しに行くぞ。そして、我々の兵器を海外などで売る!」
 イリアスの言葉に「おおおお!!!!」と組織の工作員達マイクとモニター越しに声を上げる。
「この国の大統領のツラを汚し、頭を下げさせるぞ!」


 そしてその大機械祭まで残り、2日。



 つづく

5話 変わりゆく日常編 Ⅴ

 自然に目が覚める。最初は少しボケるが、だんだん目が覚めて覚醒していく。
 起きて背筋を伸ばして、ベッドを降りる。そのまま、洗面所に向かい顔を洗う。
 顔を洗い終わり、部屋にある時計を見る。現在の時間は6時30分。
 ここは第4女学院。そして、第4女学院の生徒会長、久能(くのう)凛花(りんか)の部屋。
 凛花は生徒会長の為、早めの登校をする事になっている。
 理由として、朝のミーティングで今日の議題の内容をまとめるためと、一般生徒が登校する時間に正門で朝のあいさつを兼ねた、生徒チェック。
 何より、明日には大機械祭があるため、学院に向かわねばならない凛花。
 朝食を取るため、4女の食堂へ向かう凛花。食堂に着くと、すでに先客がいた。
「あら、珍しいね。沙由莉がこの時間に居るなんて」
 食パンを食べている沙由莉が凛花を見る。
「目が覚めてしまったの」
「そう」
 凛花は食堂のおばちゃんのところに行き、朝食セットを頼む。凛花が頼むとおばちゃんは「いつものでいいの? 凛花ちゃん?」と言った。凛花は「ええ、それで良いです」と笑顔で言う。
 数分で朝食が出来る。分厚い食パンとゆで卵とコーヒーの朝食、これが凛花のいつもの朝食。ちなみに、沙由莉の朝食は、食パン二枚に目玉焼きベーコンという、スポーツ女子が頼む様なメニュー。
 いつもの大食の沙由莉に安心する凛花。
 凛花は沙由莉の正面のテーブル席に着き、コーヒーを飲む。
 食堂のカウンターからカチャカチャと皿の音が流れるだけの静かな食堂。
 今、食堂にいるのは凛花、沙由莉の二人と食堂のおばちゃんしかいない。
 凛花はゆで卵を取り、テーブルの角にぶつけ殻にヒビを入れる。
 ゆで卵の殻をある程度向き、向いたところに口を押し当てて、フッーと勢い良く息を吹く。
「……、汚いわよ?」
「他の生徒の前では出来ませんからね」
 と言いながら凛花はゆで卵の殻を剥く。
 殻を剥き終わり、テーブルにある岩塩を取り、少し剥いたゆで卵にかける。
 岩塩をかける時に岩塩を砕くため、先端だけ回転させて砕くとザリッザリッと音を立てながらゆで卵にかけた。
 岩塩をかけ、凛花はゆで卵を取り食べる。
「ん~、おいしいねぇ~」
 沙由莉は二枚目の食パンを食べようとしている。が、何故か目玉焼きベーコンが残っている。
「なんで、目玉焼きベーコン残ってるの?」
「食パンに乗せて食べるためです」
「あぁ~なるほど」
 凛花が納得すると、沙由莉は食パンに目玉焼きベーコンを乗せた。沙由莉は目玉焼きベーコンを乗せた食パンを食べる。
 そして、二人は朝食を食べ終わり、食堂の返却口にトレイを返して食堂を出る。
「これからどうするの? 沙由莉」
「とりあえず、学院に向かいます」
「じゃあ、一緒に行きますか?」
「分かりました」
 こうして、4女に向かうSランクの二人であった。


彰吾と俊。そして、珍しい事に有原賢次もいる。珍しいメンツで下校していた。
 彰吾が昨日あった事を俊、賢次に話していた。
「俺がトイレの間にそんなことがあったのか」
「ああ、殺されるかと思った」
「電車の件で狙われるとはな……、お前暴走させた奴に会ってたんじゃないのか?」
「かもな」
「ガーディアンか警察には話したか?」
「いや、まだだ」
「今日中に話した方がいい。明日は大機械祭だ。ガーディアンと警察は大機械祭と周りに目を光らせるからな」
 明日やる大機械祭。これは全国の高校、機械科、機械部と商業による発表の広場である。
 この大機械祭は世界でも有名で、機械関連の有名人など、大手の会社の人も見に来るのだ。
 ここで発表され、最優秀賞を取った所は、企業に商品化として使われるか、軍の新しい技術として組み込まれる。
 千載一遇のチャンスと言える場所だ。その為、命を賭けている位の作品が展示される。
 そして何故、警察、ガーディアンが目を光らせているかのことだが、この様に軍に転用されるかも知れない技術がある為、それを悪用する輩が少なからず出てくるためだ。
 実際に、大機械祭で作った二足歩行の機械を、大機械祭の最中に奪われ大暴れしたケースがあった。
 それ以来、ガーディアンと警察はこの大機械祭に監視と保護目的で、出動している。
「そうだな。今日辺りにいくか」
「んじゃ、そうと決まれば警――」
「ガーディアン本部だな」
「え?」
 俊が不思議な顔をしながら賢次を見る。
「何言ってんだ? 有原、そこは警察だろう?」
「分かってないのはお前だ。警察は彰吾の件を聞いてどうするかなんて想像がつく」
「なんだよ?」
「どうせ、分かりました。では、不審者が出ないように付近の警察に巡回させます。なんて言う筈だ」
 あー……と納得してしまう彰吾と俊であった。警察の見解だと喧嘩の果てに……と言う考えになり、親身になって聞いてくれる事は少ない。事件性が無ければ、警察は捜査などしっかりと動いてはくれない。
 唯一の証拠である人形は突然と彰吾の前で消えてしまったので言いようがない。それに傷をつけられた足は、
「そういえばお前、今日体育あったけど、そんな傷無かったような気がするぞ?」
 俊が言う。それを聞いた二人は少し、俊から距離を置いた。
「宮下、お前はそういう奴だったのか」
「俊、あの、俺はそういうの無理だから」
「ちげぇよ! 彰吾と話しながら着替えてたんだ! それに俺は女子が好きだ!」
 なんだ、と言わんばかりに賢次がつまらなそうな顔をする。
「なんで、テメェはそうつまらなさそうな顔してんだよ……!」
「いや、別に」
「チッ……、とりあえず、無かったよな?」
 賢次に舌打ちをして、彰吾に聞く俊。
「ああ、なんか一日で治ったんだ」
「ナイフ刺されたのにか?」
「ああ」
「火事場の馬鹿力か?」
「さぁな」
 賢次が少し驚きながら彰吾に言った。何を言おうが事実、ナイフ跡も無く、ピンピンしている。
 これには彰吾も驚いた。ゴスロリ人形に襲われた後、俊と一緒に御飯を食べて海上都市に帰り、自宅に帰宅してから治療しようした時にナイフ跡がなく、驚いた。
 急に痛みが無くなった時は、アドレナリンが働いて痛みが無くなったのかと思っていた。
 だが、家に帰るとアドレナリンとかのレベルではなく完全に傷が治っていた。
「とりあえず、ガーディアン本部行くか」
 彰吾は家に帰るついでにガーディアン本部に向かうのであった。



ガーディアン本部に着いた三人。
 彰吾と俊はガーディアンの人にお世話になった事があり、向かう最中にドーナツの詰め合わせを買っていた。
 だが、ガーディアン本部に入りづらい彰吾と俊。賢次は気にせず、入り口近くの自動ドア前まで行く。
「なんでそう、普通にいけるんだよ」
「別に気にすることはない」
「そ、そうだけど」
 俊と賢次が言う。それは彰吾も思っていた。二人を見た賢次ははぁ……、とため息をつく。
「そんなとこにいると最終的に怖気づいて帰ることになるぞ?」
「だがな、有原……」
「なんだ?」
「意外と、でかいんだな。ガーディアン本部……」
 ガーディアン本部は警視庁と同じぐらいの大きさはあった。
 しかし、警視庁よりもガーディアン本部のほうが横に広い。
「ん? てか、なんで警察とガーディアンは同じ警視庁にいないんだ?」
 俊が疑問を言う。有原はため息をつく。
「昔は一緒だったんだよ。だけど、ある事件があってな――」
 有原の話だと、警察内部に超能力課と言うのが昔は存在していた。
 だが、一つの立てこもり事件があり、人質6名に爆弾が仕掛けられていた。
 その時、協力した能力者が、未来予知の能力であった。
 未来予知をした結果、突入しても相手は爆破できずに制圧が出来る未来が見え、隊員に伝えたらしい。
 しかし、突入をした瞬間、未来が変わり、犯人は人質6名を爆破。
 突入した警官20名の内12人が死亡したが、犯人は未だ捕まっていないと。
 そして、この事件を気に、警察とガーディアンは別物とすると国が決めた。
 警察は犯罪者の逮捕、犯罪前の犯行を潰すのが仕事。
 ガーディアンは能力者に対して、特別イベント、演習のみ、警察官との協力をすると国が決めた。
 三人は、ガーディアン本部の扉の前に立っているのも迷惑だと思い、近くのベンチに座りながら有原の話を聞いていた。
 有原は突然立ち上がり、ベンチに座っている二人をみる有原。
「もういいだろ? とっとと行くぞ」
「ああ」
 そういいながら彰吾はガーディアン本部の正面入り口から入った。ちなみに、俊は黙って彰吾の後ろについていた。
 ガーディアン本部に入るとそこは大手の会社に来たかの様なデザインになっている。
 中央が開いていて、サイドに部屋なり何なりとあり、入り口のすぐ近くには受付があり、噴水まであった。
 初めてガーディアン本部に入った彰吾と俊は驚き、口が開いていた。
 それを見た賢治は、フッ……と鼻で笑う。
「あれ? 天月君に宮下君。それに……、有原君まで。どうしたの?」
 そんなことをしていると、新垣涼子が三人に話を掛けた。
「こんにちわ、新垣さん」
「こんにちわ、天月君。どうしたの? わざわざここまで来て、その格好から見るに学校帰りでしょ?」
「あ、はい。そうなんですが……、あ! とりあえず、これどうぞ」
 彰吾は手にぶら下げたドーナツの詰め合わせを涼子に渡した。
「ありがとう! 私はドーナツが好きでね。それにみんな喜ぶよ。ありがとう」
「いえいえ、お礼も兼ねてです」
「礼儀が正しいのね。さてと、どうしたの? ここまで来てドーナツだけじゃなさそうだし」
「ええ、まぁ……」
「……、とりあえず。こっちに、宮下君と有原君も一緒に」
 そして、三人は涼子に連れられ、ガーディアン内にある涼子達の仕事場に連れられた。
「あれ、涼子さん。どうしたんですか?って、天月君に宮下君、有原君だよね?」
「はい、有原であってますよ。千道さん」
 よかった。と笑いながら言う真弓。
「で、どうしたんですか? 涼子さん」
「ああ、実は天月君が何か事情があるみたいなんだ。真弓、今居る隊員達を呼んでくれないか?」
「分かりました」
 涼子が言うと、真弓はすぐに他の隊員達を呼ぶために内線を使った。
 数分すると、真弓に呼ばれた隊員達が集まった。
 一応、周りの人に聞こえないように、扉を閉める。
「さて、これで外部に漏れることは無いから、安心して話してもどうぞ」 
 彰吾と俊、有原は横に広いソファーに座らされていた。
「実は……」
 彰吾は昨日あった事を涼子たちに話した。
「なるほど……、分かりました。多分、その人形使いを私達は知っています」
「本当ですか」
「ええ、でも、これは口外には出来ませんので、すみません……」
「いえ、相手が分かるだけでも良かったです」
「そういって頂けるだけでありがたいです。天月君、そして宮下君。君達二人は狙われる可能性があります」
「え、なんで俺ですか?」
「電車の件で天月君が狙われたという事は、当然一緒に止めた宮下君も標的の可能性があるからです」
 涼子の発言に俊は「マジかよ……」と呟く。実際彰吾もマジか……と思っていた。
「そこで、あなた達二人に護衛をつける事にします。こちらの方で護衛を選びますので、待っていて下さい」
「はい、ありがとうございます」
「ちなみに、天月君に宮下君は、明日の大機械祭には来ます?」
「一応、行こうかと思ってました」
「思ってたんですか?」
「ええ、でも、この状況なら行かないほうが……」
「ご安心を、それなら素晴らしい方を護衛としてつけますので、明日は大機械祭に来て下さい」
 彰吾の心配を跳ね除けるように涼子は言った。
 その後、ガーディアンの隊員と雑談をして時間を潰した。
 そして、護衛のお話が終わり、彰吾と俊、賢次の三人はガーディアン本部を出た。
 ガーディアン本部を出ると、時刻は17時を回っていた。
「やば、俺帰るわ。飯作らないといけないし」
「あいよ、明日大機械祭だし何時にいくよ?」
「始まりが9時からだった筈。8時半でいいか?」
「あいよ」
「有原も行くか?」
「いや、俺はいい」
 彰吾は俊と待ち合わせの時間を決め、一応賢治に聞いた。
 賢次の返答に彰吾は「そうか、仕方ないな」と答える。
「んじゃ、またな」
 そして彰吾は帰宅するのであった。
 ガーディアン本部と彰吾の家は一時間ぐらい掛かる距離であった。彰吾は仕方ないと思い、電車を使うことにした。
 近くの駅まで走り、改札口を抜ける。改札口を抜けると、駅のホームからぞろぞろと人が降りてくる。
 電車が着ている証拠だ。彰吾は昇り専用の通路を走り、ホームを目指す。
 プルルルーと電車の出発の合図が聞こえる。ホームに着き、電車に乗ろうとすると扉が閉まった。
『あー、くそ。間に合わなかった』
 と思うと、何故か扉が開く。扉が開いたので彰吾は急いで電車に乗った。
 なぜ、扉が開いたのだろう?と思っていると、
『扉にお客様のお荷物か何かが挟まり、扉をあけさせて頂きました』
 車内アナウンスが流れる。なるほど、だから扉が開いたのか。
『なお、扉が閉まろうとしているのに無理やり入ろうとすると、お客様のお怪我に繋がりますので、おやめください。なお、扉が開いたからといって入ろうともしないで下さい』
 車内アナウンスが流れた。彰吾は、ごめんなさい、以後気をつけます。と思ったのだった。
 アナウンスが流れ終わると、電車が出発する。彰吾は今いる駅から二つ目で降りる予定。
 それまでこの社会人のおじ様の汗の臭いと奮闘しなければならなかった。
 彰吾はこの時間に電車に乗るのは本心では無かった。なぜなら、この時間は会社が終わり、定時あがりのおじ様が多いからだ。
 しかし、彰吾は急いで帰らねばならない。
 商店街のスーパでタイムセールをやるからだ。
 今回は、豚肉100g50円という破格で売る為だ。
 ちなみに、タイムセールの時間は18時からスタート、現在の時刻は17時30分。
 ガーディアン本部で長居しすぎたかな?と思う彰吾。
 思った瞬間電車がカーブに差し掛かるとグラッとゆれる。
 揺れた際に、バランスを崩したのか、女性生徒が彰吾にぶつかる。
「キャッ……」
「おっと」
 彰吾はつり革を掴んでいた為、女性生徒がぶつかっても倒れずに済んだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、は、はい。ありが――ひッ!」
 彰吾にぶつかった女性生徒は突然変な声を上げ、口元を押さえている。何かおかしいと思った彰吾は女性を見る。
 すると、何かを我慢しているような表情を浮かべていた。
 彰吾はトイレか?と思ったが、何故女性がこんなにも我慢している表情を浮かべているのか分かった。
『安心してください。次の駅で降りましょう? 顔は見ましたか?』
 彰吾は女性生徒にゆっくり近づき、周りには聞こえないように小さな声で女性の耳元で言う。
 女性生徒は軽く縦に首を振る。そして、彰吾は女性生徒の下部を見る。
 女性生徒の下部に誰かの手が、女性生徒のスカートの下に手を入れていた。
 痴漢だ。
 その手はスカートのしたで女性生徒の下部の部分をなでている様に見える彰吾。
『触られてます?』
 彰吾が女性生徒に確認する。女性生徒は先ほどと同じ様に軽く首を縦に振る。
 そして、駅にもうすぐ着きそうになった瞬間に彰吾は女性生徒の下部を触っている手を掴んだ。
 手を掴まれ、必死に逃れようと抵抗するが、彰吾はがっちりとその手を掴んでいた。
 駅に着き、電車内に居た人が降りるのと同時に掴んでいる手ごとひっぱり、駅に下ろす。
「はな、離したまえ!!」
 男性の声が彰吾の背後から聞こえたが、彰吾は無視し女性生徒と共に駅に降りた。
 強制的に男を下ろした彰吾。男は彰吾の手をやっとの思いで振り払う。
「何なのかね! 君は!」
「何なのかねって……、自分でした事分かってるくせに……」
 手を振り払われ、男に言われた彰吾は振り返り言った。
「何!? 私が何をしたというのかね!」
 あきれてため息が出る彰吾。
「見苦しい、やめなよおじさん。痴漢してたでしょ?」
 駅に居た人達が集まり始め、彰吾の発言に周りがざわつき、中には駅員も呼ぶ人もいる。
「私はやっていない! 何かの見間違いだ!」
「そう? 俺はしっかりと見ていたけど?」
「それ以上言ってみろ! 名誉毀損で訴えてやる!」
「女性のお尻を触って置いて、何が名誉毀損だ。痴漢行為が先だ」
「それなら私が触ったと言う事実はどこにある!? 言ってみろ!」
 男は彰吾に事実を見せろといったのに対し、彰吾は女性生徒を男の前に出す。
「こ、この人です……。この人がずっと私のスカートの中に手を入れて触られました」
 女性生徒が男に指を指しながら言う。男は焦り始める。
「ちが! 私ではない!!」
「もういいだろ。やめろ」
 彰吾が言うと、駅員が階段から上がってきた。
 それをみた男はすぐ近くにいた子供を捕まえ、ナイフを取り出した。
「うごくなぁ!! この女の子が、どうなってもいいのか!!」
 と男が言いながら、女の子の顔にナイフを突きつける。
「さがれ! さがれ!! 全員、俺の後ろに立つな!! 向こうへいけ!!」
 男は少しづつ後ろに下がりながら、駅のホームにいる人達を自分の後ろに立たせないように誘導させた。
 子供を人質に取られた母親は泣きながら、我が子を見ている。
「お願いします!! その子にだけは……! その子にだけは、何もしないで!!」
「う、うるせぇ!! こっちは会社クビになって、むしゃくしゃしてたんだ!!」
 男に捕まっている女の子は大泣きしながら「助けてママァー!!」と叫んでいる。
「おい、そこのお前!!」
「俺の事か?」
「おめぇだ! ここに来い! へ、へんな真似してみろ? この子がどうなってもいいのか!!」
 男は彰吾に言う、人質に取られている母親は彰吾にすがるように腕を掴む。
「お願いします! 言う事を……言う事を聞いてあげてください! お願いします……!」
 彰吾もはなからそうするつもりだったため、
「安心してください。行きますので」
 彰吾は優しく微笑みながら言う。彰吾は言われた通り、男に近づく。
「止まれ! そこで止まれ! そして、両手を頭につけて背中を向け!!」
 男と彰吾の距離は2m前で男は彰吾に言う。彰吾は言われた通りに後ろを向き、頭に手をつける。
「これでいいか?」
「ああ、それで……いい!!」
 男は女の子を放りだし、両手でナイフを持って彰吾を刺そうとした。
 彰吾は振り返ると同時に、ナイフをかわしてから腕を引いて、足を出して(つまづ)かせた。
 男は走った勢いのまま足を躓いた為、豪快に転ぶ。転んだ瞬間、ホームにいた人と駅員が男を取り押さえた。
 これで一件落着と思った彰吾。
 だが、
「おい! 女の子が線路に落ちてるぞ!」
 ホームにいた人が言う。男が放りだした時に女の子は線路に落ちてしまった。
 彰吾はすぐにホームから線路に降りて、女の子を助けに行く。
「電車が、電車がきたぞ!!!!」
 誰かが言った。彰吾は急いで女の子を抱え、ホームに上がろうとするが高低差があって上手く昇れなかった。
 駅員がすぐに緊急停止シグナルを送る。が、電車はもう目視できる距離で、今からブレーキを掛けても間に合わずにいた。
 彰吾はしゃがんでホームしたにある、人が落ちて助けが間に合わない時のために、作られてある凹みに女の子を投げる。
 投げた瞬間重力を使い、壁に当たらないようにした。
 そして女の子を助け、彰吾は目の前を見ると電車が待っていた。
 キキキーと電車のブレーキ音がホーム内を響かせる。
 電車はブレーキが間に合わず、彰吾のいたところを通り過ぎた。
 ホームにいた人は声を上げることが出来ずにいる、目の前で人が電車に轢かれればそうなって当然。
 駅員が線路に降り、女の子を確認してから彰吾のいた場所を見る。
 だが、そこには彰吾がいなかった。駅員は申し訳ない気持ちで胸がいっぱいの中、女の子を救助した時、
「おい! 誰かが電車の先端にいるぞ!!」
 ホームにいた男性が叫ぶ、駅員とホームにいる人達はすぐに電車の先端に行く。
 電車の先端にいたのは、
「死ぬかと思った……」
 彰吾だった。
 彰吾は電車とぶつかる瞬間、手の正面に重力を掛ける。
 電車の先端部が手に当たり、正面に掛けた重力のおかげで電車の勢いを相殺して安全に電車の先端部を掴む。
 掴むと後ろに倒れ、その時に背中と足と地面の間に無重力作り、浮くことで何とか衝突を回避した。
 彰吾はすぐに救助され、ホームにいる人達に盛大な拍手を貰う。
 人質に取られた女の子は無傷で、母親が泣きながら「ありがとうございます。ありがとうございます!」と彰吾に言った。
 男はそのまま、職員室の部屋に連れられ、彰吾は駅のホームのベンチに座っていた。
「あの、先ほどはありがとうございました……」
 痴漢をされた女子生徒が彰吾にお礼を言いに来た。
「いや、いいですよ。あーいうの大嫌いなので」
「そ、そうなんですか……あ、私は伊波(いなみ)楓(かえで)と言います。こんど、お礼をさせてください……!」
「いや、別にだい――」
 彰吾が言おうとするが、楓は彰吾に小さなメモ用紙を渡して階段を下っていった。
「あー、まぁ……いいか」
 彰吾はベンチから立ち上がり、次の電車の時間を確認する。
「……、ん?」
 彰吾は自分の目を疑う。もう一度目を凝らし、次の電車の時間を確認すると。
「18時45分……だと……!?」
 ちょっと待て!と言わんばかりにポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
「18時30分……タイムセールが始まってる……」
 どうあがいても間に合わない、彰吾は絶望した。
 例え、タイムセール時間に間に合ったとしても、そこに豚肉はないだろう。
 彰吾はため息をつき、電車がくるのを待つのであった。
 俺は今日、一人の女性生徒を助けたんだ、それだけでも十分だ。うん、十分……。と思う彰吾。
 そして、彰吾は電車が来たので電車に乗った。



 例のスーパーの近くの駅に降りた彰吾、そのスーパーはタイムセール以外のお目当ての商品があるため近くの駅に降りた。
 しかし、そのスーパーに向かう最中に少しだけ、彰吾的には問題がある。
「4女……」
 4女の正門前を通らねば、そのスーパーには行けないのだ。彰吾は何も起きませんようにと思いながら、4女の正門前を通る。
「あら? 天月さん?」
 突然、4女の正門の方から声を掛けられる。彰吾はゆっくりと声のする方へ顔を向ける。
「どうも、天月さん」
 微笑みながら、4女の生徒会長、久能凛花が手を振りながら立っていた。
 彰吾は一息つき、凛花のいる正門に近づく。
「こんな時間まで、どうしたんですか? 久能さん」
「明日にやる大機械祭あるじゃない? あれ、うちのところも参加することになっててね。それの出展用の作品を見ていたの」
「なるほど、それで今終わったところですか?」
「一応はね。で、なんで天月さんはこちらの方に? 真逆だと思うんですが……」
「ここら辺の近くのスーパーに用事が……」
「なるほど、何をお買い求めに?」
 凛花の発言に彰吾は「え、それは……」と言う。
 4女はお嬢様学校でもあるため、スーパーなどのタイムセールと言っても、知っているぐらいで、タイムセールには行かないだうと思う彰吾だった。
「あー、まぁ、お肉を買いに……」
「あ、もしかして、タイムセールのお肉ですか? 安いですよねー」
 衝撃の発言に彰吾は驚きを隠せない。
 なぜ、お嬢様学校に通う女の子、しかもこの学院の生徒会長様が近場のスーパーのタイムセールの事を知っている!?と思う彰吾。
「あ、あの~もしかして、タイムセールとか行ってます?」
「行ってますよ! だって、安いし近いし、お弁当作るときには結局、材料を手に入れなくちゃならないんですもん」
 と、熱弁までするほどの人に彰吾はどこか親近感がわく。
「でも、今日はこれがあるので大丈夫です」
 そう言いながら、凛花は片手に持っていた袋を持ち上げ、彰吾に見せる。
 何だろう?彰吾はと思っていると、
「これ、今日お料理研究部の人と、食堂のおばさん達に貰った材料なので。天月さんさえ良ければ、少しお譲りしましょうか?」
「いいのですか……!?」
「はい、どうぞ。と言いたいのですが、このままでは渡せないので少し待って頂いてよろしいですか?」
「はい、もちろんです。自分はここで待っています」
「分かりました、5分ぐらいで戻ってきますので」
 そういって凛花は学院内に入っていった。凛花が戻ってくる間、彰吾は正門前の壁に背中を預けていた。
 凛花が学院内に戻って5分以上が立っていた。彰吾は携帯で時間を確認し、忙しいんだなと思っていた。
「す、すみません! 天月さん! お、遅れました……!」
 凛花はハァ……ハァ……と息を荒くしながら、走ってきたのだ。
「走ってきたんですか!?」
「え、ええ……、お待たせしてるので……、急いで、来ました……」
「そんなに急がなくても、自分はどこにも行きませんよ!?」
「え?」
 突然、凛花がきょとんと驚いた表情を浮かべながら彰吾を見ている。
「どうしたんですか?」
 心配になり、彰吾は凛花に話を掛けた。
「い、いえ! 大丈夫です! あ、今出ますので少々お待ちを」
 凛花は慌てて誤魔化す、何が起きたのか彰吾には分からなかったが、本人を見て大丈夫と判断した彰吾だった。
 凛花は正門の隣にある、小さい門を開けて出てくる。
凛花が出ると、近くにある小屋の警備員の人に「おつかれさまでした」と言ってから彰吾に近づいた。
「では、彰吾さんの分です。どうぞ」
「ありがとうございますって、こんなに貰ってもいいのですか?」
 凛花は彰吾に野菜、お肉などの材料の多い袋を彰吾に渡した。
「大丈夫ですよ、私はこれくらいで。たまにお弁当を作るくらいですし、あそこまで多く貰ってしまうと、時間かかってその内にダメになって捨ててしまうより全然良いですから」
「そうですか、では、ありがたく頂きます」
「はい」
 大量に材料を貰った彰吾、それを微笑みながら答える凛花であった。
 彰吾は何かお礼をしなければと思っていると、
「お礼は大丈夫ですから」
 と、先につぶされてしまう。
「いえ、申し訳ないので、寮の近くまでお荷物をお持ちしますよ」
「いいですよ、いつもの事ですから」
「今回は、と言う事で、お願いします。お礼をさせてください」
 彰吾はこのままではいけないと思い、食い下がり、凛花に頭を下げている。
「分かりました。では、寮の近くまででお願いします。私の鞄は自分で持ちますので」
 彰吾は「わかりました」と言って、凛花の持っている袋を持つ。そして、彰吾と凛花は一緒に下校を始める。
 下校中、彰吾と凛花は少し話をする。ちなみに、寮は4女からすぐそばにあるらしい、歩いて10分圏内という近さという。
 本当に便利だなぁ、と思う彰吾。そう思っていると、凛花は「本当に便利だなぁって思いましたね?」と笑いながら言ってくる。
 なんだ?Sランク能力者は相手の心でも読めるのか?と思う彰吾だった。
「天月さんの考えは何故か、分かるんですよ」
「そんなに顔に出てる?」
「いえ、ポーカーフェイスだと思います。ただ」
 ただ、と凛花が言った瞬間、どこか少し悲しげな表情を浮かべたあとに微笑む。
「ただ、分かるんですよ。理由は分かりませんが」
「そうですか、まぁ……、嘘はつけないって事ですね」
 彰吾が言うと凛花が笑い始める。何が面白かったのか彰吾には分からなかった。
「フフフ、天月さんって面白いですね。天月さん」
 彰吾より数歩前にでて、彰吾の前に立つ凛花。
「私と話すときは、敬語なしでいいですよ? もう、私達友達ですから」
「いきなりですね、友達ですか。Sランクのあなたとですか」
「はい、私とお友達になってくれませんか?」
 夕焼けが凛花の美しい顔と髪を更に際立たせながら、微笑んでいる。
 凛花は片手を出し、握手を求めていた。
「俺でよければ、お願いします」
「はい、宜しくね。彰吾さん」
「いきなり下の名前か」
「あら~? 彰吾さんも私の事、凛花と呼んでも良いのですよ?」
 笑いながら言う凛花に彰吾は、これが小悪魔系か……と思うのであった。
「では、寮はもうすぐそこなので、ありがとうございました」
「いや、いいさ。これのお礼もあるしな」
 そういいながら彰吾は片手にぶら下げている袋を持ち上げる。それを見た凛花はフフフと笑う。
「彰吾さん、明日の大機械祭は来ますか?」
「ああ、行く予定だけど?」
「では、私達の出展するところにも来てください。明日は私もいるので」
「ああ、分かった。行くよ」
「分かりました、では、この辺で」
 凛花は「さようなら」と言って寮に向かう。凛花を見送り、彰吾も帰宅する。
 電車に乗り、目的の駅に着き、そこから徒歩で自宅に戻る彰吾。
 自宅に戻り、彰吾は夕飯を作ってから、お風呂に入って、夜御飯を食べる。
 ある程度勉強と宿題を終わらせ、携帯のアラームを設定してからベッドに行き、就寝の準備をする。
 本当に今日は色々あったなぁ……、ガーディアン本部行って、女の子二人助けて、久能さんとお友達になってと、色々あったな、と歯磨きをしながら思う彰吾。
 口をゆすいだ後にリビングに行き、冷蔵庫から飲み水を取り出して、コップにいれ飲む。
「本当に最近色々あった。変わってきてるな、俺の日常が」
 飲み終わり、コップを水洗いしてから水をふき取り、テーブルに置いておく。
 日常が変わるのが嫌ではない。それが、あらぬ方向へ変わらないのであれば良いと思う彰吾。
 そして、ベットの近くにある携帯の充電器を携帯に刺してベッドに入る。
 明日は学校は休みだが、大機械祭がある為、彰吾は寝ることにした。現在の時刻は、23時47分であった。
 彰吾はベッドに入ると、良い具合に睡魔に襲われ、そのまま身をゆだね寝ることにした。



 大機械祭の為に早めにおき、支度をしてから俊と待ち合わせの場所に向かい、大機械祭に行く為に横浜に向かった。
 横浜に着き、大機械祭の開催場所、東京湾の近くに向かうと、あふれかえるような人だかりが出来ていた。
 彰吾と俊は、中に入る為に、入場の列に並ぶ。そして、会場内に入って始まりを待つ二人。
 程なくして、場内にピンポンパンポーンとアナウンスの音が響き渡る。
『大変、お待たせいたしました。これより、大機械祭の始まりです』



 そして、



 大機械祭が始まった。



 つづく。

欠陥と超能力者

どうでしたか? よくと●るをパクッた感じと言われますが。

パクってません、能力名などが似ているとか、超能力物自体が似ていると言うのであれば、ハイ。

そこまでです。

王道なので被る物は被ると思いますので、気にしてませんよ~。
能力名は直訳みたいなこと多いので、被ってはないかな?(笑)

さて、皆さん。

この辺で、お別れとしましょう。

では!

欠陥と超能力者

超能力、それは魔法の次に人が求める力の1つだろう。 夢を叶えたり、自分自身が楽になったり、ヒーローにもなれる。 しかし、その中には人殺し、破壊を目的とした者もいる。 何故、人は超能力や魔法を欲しがるのか? 答えは簡単だ。 自分に無いものであり、架空の能力であるからだ。 だが、1980年に超能力者が発見された。 それから、超能力者育成機関が世界中に広がった。 そして、超能力が浸透した2026年。超能力者観測を目的とした都市が日本に作られた。 その都市に住む、主人公、天月彰吾。 彼は超能力者ありながらも欠陥を持っている。

  • 小説
  • 中編
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-01-02

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著作権法内での利用のみを許可します。

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  1. 1話 変わりゆく日常編 Ⅰ
  2. 2話 変わりゆく日常編 Ⅱ
  3. 3話 変わりゆく日常編 Ⅲ
  4. 4話 変わりゆく日常編 Ⅳ
  5. 5話 変わりゆく日常編 Ⅴ