アンダスタンド・メイビー
2014年 島本理生著
直木賞候補になった島本理生さんの作品です。
読み始めた途端、ズンと作品の中に惹き込まれた。
10代から大人になるまでの独特の危うい雰囲気に惹かれた。
主人公の黒江という少女の中学3年から20歳になるまでの時間が流れている。
彼女は色々なことを抱えているが、愛しくてたまらなかった。
あるとき黒江は転校生の彌生に心奪われる。
「やっと見つけた、私だけの神様を」—。
しかし、彼女はあっさり彌生との関係を壊してしまった。
その後も羽場先輩、賢治と2人の男性と付き合うが、やはり違う。
皆、黒江にとって神様に近かったけれど、絶対的なものはなかったのではないだろうか。
期待して、信じては裏切られ、黒江は彷徨うしかなかったと思うと苦しくて窒息しそうになる。
彼女は堕ちるところまで堕ちるしかなかったのだ。
そして黒江は高校を退学し、単身東京へ上京する。
書店で目にした写真集に心奪われ、カメラマンになるという夢を抱かせてくれた浦賀を頼りに。
彼女は東京で浦賀の家で住み込みのアシスタントをすることになる。
まさに夢の一歩を踏み出したと思った矢先、不意に過去の記憶がよみがえる。
それは知りたかったことではあるが、物語が進むにつれ明らかになる色々なことが辛くてたまらなく、目を背けたくもなった。
ただ黒江が悲しい。
彼女は心の中で悲鳴をあげていたことだろう。
誰か助けて、声が聞こえないの?
そして、再び心を通わせていた初恋の相手である彌生との間にも暗い影を落とし始め—。
黒江は自分で自分を追いつめ、どんどん不安定になっていったに違いない。
全てを知って、それでも傷を抱えながら生きていこうとする黒江が痛々しかった。
傷つくのは自分の責任だと疑わない黒江に涙が出そうになる。
傷ついたときに手を差し伸べてくれる人が必ず神様ではないという事実が体を突き刺してきた。
だからこそ、傷ついた分、彼女を救い、支えとなる人が現れないかと思わされる。
そんな彼女にとって浦賀が彼女を必要としているという事実は大きかった。
浦賀がいたからこそ黒江は一人で立つことができたのだと思う。
最後の浦賀から彌生につづった手紙におさえていた感情があふれそうになった。
全ての想いを知ったとき、これはこの物語の救いだと思った。
人を救えないと言う浦賀こそ人を救っていたのではないかと。
読んでいてずっと呼吸が苦しかった。
圧倒的な熱量が私にのしかかってくる。
読みやすい文章なのに伝わって来る感情が重くて熱い。
重い作品が続いたから今度は明るい作品を読もう。
さて、何を読もうか。
アンダスタンド・メイビー