キミがいる幸せ
真琴×遙
『さあ、紅組からは若い世代から圧倒的人気を誇るkanaさんです!』
テレビからは司会の女優さんの声が聞こえ、紹介された歌手が歌いはじめる。
年末好例の紅白歌合戦がはじまってから4時間、そろそろ番組も佳境だろうか。
机の上には食べ尽くされた鍋の残骸や、お菓子の袋が散乱している。
そろそろ片付けて、年越しそばの準備をしなきゃかな。
そう思いながらもコタツの暖かさと満腹のお腹のせいで、意識がはっきりとしない。
なんとかコタツから抜け出し向かいに座っていたはずのハルをさがすと、
彼は寝転がり気持ち良さそうに寝ているようだ。
少し微笑み、そのまま台所へむかう。
俺は高校最後の年越しをハルの家で迎えている。
家族には申し訳ないけど、水泳部のみんなで集まると伝えて、
昼過ぎからおじゃますることになったのだ。
実際はもともと渚も怜も来る予定はなく、2人きりで年越しをするつもりだった。
最高のチームでのリレーを泳ぎきったあの夏。
初めてハルと喧嘩したのもあの頃。
目を閉じただけで、水の感覚も匂いも心の高鳴りまで鮮明によみがえるのに、今はもう冬なのだ。
このまま年を越して、春になる頃には俺は東京の大学に行く。
ハルも東京に来るそうだが、俺たちは側にいても別々の道を歩むんだ。
今、コタツで寝ている愛しい存在はいったいどこまでいってしまうのだろう。
水のように自由な彼に、俺は必要なのだろうか。
ふといつもの悪い考えが出てきて、蓋をするように料理に没頭した。
準備が整い、ハルを起こそうとゆっくり彼の側へ近づく。
艶やかな髪、長い睫毛。
見つめられると吸い込まれそうな深い青の瞳は今は閉じられている。
もうこの想いをしまっておくのも限界なのかもしれない。
凛が夢を共有する存在ならば、俺は人生そのものを共有したい。
蓋をしたはずの想いはすぐに溢れ出した。
「ハル。ハル、眠い?年越しそばの準備ができたけど食べられそう?」
そっと肩を揺すり質問すると、少し目を開いたものの眠そうな声が聞こえる。
「んっ、真琴...」
「気持ちよくて眠くなっちゃうよね、この時間がいちばん」
少し微笑んで、彼の目にかかりそうな髪をそっと掻き分けると、額に触れた。
「...真琴、手」
「?」
「つめ、たい」
「ああ!ごめんごめん」
台所に居たためか、すっかりと冷えてしまっていたのだ。
慌てて手を引こうとすると、それはハルよって阻まれた。
「気持ち、いい」
俺の手首を掴んだハルは手のひらに頬を寄せ、逆上せた自身の熱を逃がすようにすり寄ってくる。
ーああ、俺は別の意味で逆上せそうだよ。
可愛くも色気を感じるハルの姿を見て、顔に一気に熱が集まる。
触れていると、さっきまでの未来への不安がすっと消えていく。
やっぱり俺はハルの側が一番落ち着く。
「ハル、寝ぼけてる?そば、伸びないうちに食べよう」
そっと伝えると、覚醒してきたのか目をしっかりと開き、起きあがると俺の手を解放した。
「ああ。今年も、終わるのか」
「うん。あっという間だったね。ハル、今年もありがとう。見たことのない景色をたくさん見せてくれて、側にいさせてくれて」
俺はふにゃっと微笑みをむける。
「別に、これからも、だろ」
ハルは俺の言葉に照れたのか、少しぶっきらぼうな物言いにまた笑みがこぼれる。
「そうだね、これからもよろしくね。ハル」
俺もハルもぼんやりしていた未来に夢を見つけたように、これからお互いの人生は少しずつ変わっていくだろう。
だけどハルの隣に居ると落ち着くこの気持ちはずっと変わらない。
今はもうすぐはじまる新しい年に、未来に願おう。
ーどうかこれからも君のとなりで笑えるように。
Fin
キミがいる幸せ
あけましておめでとうございます。
Free!のまこはる書いてみました。
ほのぼの微甘にしようとしたら、若干シリアス入りましたね...
でも2人は書いてて私も癒されるのです。
半裸もいいけど、冬のぬくぬくしてるのも可愛いと。
次は宗介×凛書きたいな。
それでは。