左手
プロローグ
最初から手を出しては犯罪になること、わかっていました。
けれど頭ではわかっていても、心では理解したくない事、あるでしょう?
あなたにはないかもしれない。
少なくとも、私にはあった。
「シホリには俺がついてるから、大丈夫。」
大丈夫じゃなかった。
大丈夫になれなかった。
後悔とかはしていない。
けれど、これでよかった、なんてとても思えない。
きっと過去に戻れていたとしても、私は同じ道を選び、同じ答えを出す。
私はあなたの手が大好き。
でも、左手の薬指で光る、それは。
就職
専門学校をでてから、就職した先は美容室。
美容師の学校を出たから、あたり前と言ったら、そうなのだけれど。
就職して半年。
学生の頃からしてだいぶ生活は変わった。
自分の時間はとても短い。
特殊な職業だからってのもある。
早朝の練習から営業、そして深夜までの練習で一日は終わる。
やめたい、と思ったことは正直、何回も、何十回もあった。
もしかしたら、何百回も、かもしれない。
周りの友人がすでに数名脱落した噂を聞いた。
それくらい続かない職業なのだ。
けれども、私は環境に、というか、人間関係に恵まれていた。
だから、辛くとも楽しいと感じることも多かった。
左手