小さな夜想曲、一年の最終日


焼きたて厚切りトースト、バター、可愛らしい小瓶に入ったマーマレード、いつもより甘めのミルクティー、マグカップに注いでレモンを搾ったホットワイン、色とりどりのカナッペ。近所のパン屋さんでさっき買ってきた3切れのアップルパイ。
足をのばしてゆったりと寝転べるだけの広さの、クリーム色のソファ。部屋の隅にひっそりと立っている、白い鉢植えのパキラ。紺色のストライプのパジャマ。ソファと同じ色のバスローブ。赤くて履き心地のよい、あったかなスリッパ。三谷幸喜監督の「有頂天ホテル」をはじめとした、コメディ映画のDVDを何本か。ブラウン色のブランケット、同じ色でひざの上で抱きしめる用のクッション。アラビアンストーブ。それから、片手に乗るサイズの、小ぶりな電池式の時計。何年か前に行った旅行先で運命的な出会いをした、真っ白で首元に淡い水色のリボンを結んだくまのぬいぐるみ。
一年の最終日の夜を過ごすにはこれらがあればいい。これ以上であっても、これ以下であってもいけない。
ブランケットとクッションをひざにかけて、お気に入りのストライプのパジャマの上からクリーム色のバスローブを羽織ってソファに腰を落ち着ける。そして自分が一番しっくりくる楽な体勢を見つける。それがお行儀の悪い格好だっていいのだ。一年の最後の日なのだから。
大きすぎず小さすぎないテレビでDVDを観ながら、最初はミルクティーにバターとマーマレードをたっぷりのせた厚切りトーストを、パンのあったかさと、バターとマーマレードの冷たさのコントラストを楽しむ。小腹が満ちてきたところで、蜂蜜とワインを煮立ててレモンを搾ったシンプルなホットワインを飲みながら、色形さまざまなカナッペと、甘すぎず香ばしいアップルパイを、端からつまんでいく。くまのぬいぐるみを隣に座らせながら。そして映画の合間に時々目をやると、パキラがこのひとときを微笑んで見守ってるかのように葉を震わせる。部屋のなかには幸せの香りが広がっている。きっともうすぐ、年が明ける。

小さな夜想曲、一年の最終日

12月31日、『大晦日』と簡単に表現してしまうにはあまりにも惜しいほど、わたしはこの日が大好きです。みなさま、よいお年を。
一年間、ブレの大きい駄作の数々にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。来年も、皆様のあたたかいお声に胸を弾ませながら、遅筆ではありますが何かしらをゆっくりと書いていこうと思います。よろしくお願いいたします。

小さな夜想曲、一年の最終日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-31

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