殺すのやめた①
俺は既に26人殺した。1日に10人殺した日もあった。
手法は四肢をバラバラに包丁で切り裂くとが多いかな。殺すだけでお金が入る。
「小説家って楽だな」これが小説家3年目、瀬戸悟の本音であった。
引きこもりの頃からグロい画像、動画は好きだった。
きっかけは中学2年生の時に偶然見つけたアメリカ兵の首がノコギリで斬られる動画。
最初こそ精神的に堪えたが見ていくうちにのめり込んでしまった。
ドバドハ洪水のように流れる大量の血。声帯すら斬られ必死に発している「声」がただの「息」になる瞬間。奥に一切光りが無くなった瞳。
全てがただ淡々と何の目的も持たずに生きていた俺の人生にとって刺激であった。
「気持ち悪さ」が「興奮」に変わった時、人間は目の色がガラッと変わる。
俺は毎日グロテスクな画像、動画を見漁っていた。引きこもりレベルが上がった瞬間だった。
そんな俺を心配したのか毎週1回は俺の家に遊びに来てくれた幼稚園時代からの幼なじみ。その人こそがワンルームのおれの家に来ている新町一朗だ。
22歳になった俺は独り暮らしを始めた。実家から駅5~6個分の距離くらいにアパートを借りたのだ。
引きこもりをしていた身、独り暮らしに憧れを抱いていて小説家としてもある程度金の算段がついたためだ。
それでも距離が離れていないからか今でもたまに一朗は俺の家に遊びに来る。
一朗は有名国立大学4年生で大企業の内定を貰っている。
俺は駆け出しの大して売れてない小説家。現実的にも世間的に見ても身分は一朗の方が格段に上だ。
だが身分に差は出ても一朗は昔と変わらず俺に接してくれる。本当にいい友達を持ったなと思う。
言われてみれば一朗は子供の頃からエリートだった。成績はずっと学年トップだったし100点の答案用紙も俺は何回も見てきた。スポーツもできて中高とサッカー部だったらしい。まさに絵に書いたような超人だ。
俺が小説家になったのも一朗から借りた本がきっかけだ。巻末の「新人小説賞募集!」というページを見て投稿をしたのだ。
そして今、自分自身のグロテスクな欲望を満たすために小説を書いて作品の中で人を虐殺をしているのだ。
人を殺して自分の欲を満たすだけでお金が手元に入るのだ。楽な仕事を持ったなぁ。
ただ、一朗とはこれからも親しくしたいと心から思う。本当に俺の人生の恩人だ。
そんな親友と俺は今他愛もない話をして笑っている。
俺も先日、作品が出版され時間、心ともに余裕があったからかいつもよりお喋りかもしれない。
「ちょっとトイレ。」
ファンタを飲み過ぎたのか、急に尿意を催した俺はトイレへ行く。
「フゥーっスッキリ~。」
俺は用を終え部屋の真ん中に置いてあるコタツに戻る。
「ウンコか?」
「しょんべんだ。バカ。」こういう汚い会話ができるのは男友達の特権だ。
コタツの上に置いてあるポテチに手を伸ばすと一朗が少し険悪な表情をしていた。
「どした。お前は便秘か?」
「悟…。」
「ん?」
「…一緒にさ、人殺さねえか?」
あなたは自分の親友が突然、真剣な表情をしてこんなことを聞かれたらどう思うだろうか。冗談だと思う人もいるかもしれない。
ただ、初めて一朗のこんなに強張った表情を見た俺には決して冗談には聞こえなかった。
外では大雨が降り雷の音が聞こえた。
…今夜は荒れるかもしれない。
殺すのやめた①