シャマール

妻へ、日本へ、そして今もどこかで働き続ける技術屋たちへ。

シャマール

 シャマール、中東の夏に吹く猛烈な砂嵐。風速は時に七〇mを超え、大型トラックをひっくり返すこともある。巻き込まれれば祈る以外の手段は無い。砂漠の遊牧民でも命を落とす事もあるから。

 私は若い頃から家を空ける事が多かった。妻と子供達を残し、半年なら短い方で一年以上家を空けた事も一度や二度ではなく、中東を中心に技術屋の看板を背にして三〇年以上も現場を駆け回ってきた。
 ある年の冬、中東の現場に一通のEメ-ルが届いた。夢想もしなかった本社勤務の辞令、それは密かに憧れていた普通のサラリーマン、ナイン・トゥ・ファイブの仕事へのパスポートのはずだった。
 梅がほころびかけた頃に帰国した。日本で待っていたのは、許認可という御札を貰うための霞ヶ関神社へのお百度参り、中央官庁をチンドン屋の様に廻る。だが現場とは違い、目に見える成果のない日々が続く。暖簾に腕押し、ヌカに釘、太平洋にゴボウ、風呂桶にダイコン……苦笑いも出ない空回りの日々が続く。しかし、その中で知ったのは官僚達の桁外れの勤勉さだった。官庁回りを始めた頃、アポイントの取れた時間は午前三時。嫌がらせかと思ったが、その時間にオフィスを訪ねると黙々とキーボードを叩く者、議論を戦わせる者、床で仮眠を取る者、大宝律令の昔から千年をはるかに超えて国家の屋台骨を支える彼等のプライドは、日本の資源を支える海外の現場にも通じ、その夜を知らない世界にシンパシーも感じた。だが、しばらくするとコンプライアンスという美名の陰に隠れた小さくも鋭い棘が心を削り、削られた心の屑が澱の様に精神の中に淀んでゆく。日常に嫌気がさし、生きたまま腐乱してゆくような日が続く。電線を鳴らす春一番の風が胡弓に似たアラビア弦楽器、フィドルの様に聞こえる。
 ある日、閉店間際のキオスクで学生時代にトリポケと呼んでいたトリスのポケット瓶が目に入った。何かに導かれるようにトリポケを買い、電車の中で封を切りラッパ飲みする。一口目は周囲の目が気になった。二口飲むと、もう何も気にならなくなった。そんな日がつづき、いつしか終電の中で呑むウイスキーが夕飯と化していった。

 木曜日だった。
 起きぬけにシャワーを浴び、ヒゲを当たろうかと鏡をのぞく。くたびれた顔の中年男が写る。官庁回りを始めた時、三十年も馴染んだ鼻下の髭を落としたら現場の匂いさえ消えてしまったように感じた。髪型で女は変わると歌ったのは中島みゆきだったろうか、男もヒゲ一つで変わるのかもしれない。中東でヒゲのない男は、ガキかオカマだ。
「あなた、朝食は?」
「いや、食欲がないんだ。みそ汁だけでいいよ」
「大丈夫……?」
「大丈夫だよ、心配性だな」
 そう言って笑ったが、もう慣れている筈なのに国内なのになぜ? 今まで散々心配をかけてきた。戦乱による行方不明、搭乗した航空機の消息不明、だが必ず帰ってきた。 
「本当に? この頃ヘンよ…………」
 帰国してから体調は良くなかった。疲れが抜けず、夜中に目が覚めたり食欲も減って体重も少々落ちてきたが、まあ自分の年齢を考えれば仕方がないと思っている。
「お願いだから、これだけでも食べて」
 そう言って玄関で靴を履いている私に、ラップで包んだ小さなおにぎりが渡された。受け取ると握ったばかりなのだろう熱かった。おにぎりをポケットに入れ玄関を出た。
 電車を待つ間にホームのキオスクでマムシドリンクを買い、おにぎりを流し込み電車に乗る。揺れに身を任せていると未舗装路をトラックで走る振動が蘇ってくる。現場へ出してくれる会社へ移ろうか、いや、妻と暮らす日常を手放すのはあまりにも惜しい。子供達も独立し、三十余年の罪滅ぼしの様に暇を見つけては妻と出かけ、高校生の様に手をつないで映画を見たり、レストランでパタジェしたりと他に代え難い。だが、電車の窓から伝わる初夏の日差しが首筋を温めると、ジリジリと首筋を焼く太陽を思い出す。肌を黄色く覆う乾いた砂が懐かしい。ガクンと電車が揺れ前の女性にヒールで踏まれ、つま先に鋭い痛みが走る。その痛みにスムース・テールともデス・ストーカーとも呼ばれる薄茶色で百円ライターより小さく、ゴキブリの様にすばしっこいサソリに刺されたことを思い出す。あれはイラクの現場だった。朝食を済ませサンダルから安全靴に履き替える時、靴の中にサソリがいた。死ぬことはないが子供の頃スズメバチに刺されたくらい痛かった。ここにはサソリもサンドフライ――刺されると寝られない程かゆい――もいない。でも安全で清潔な日常より砂塵と熱風が恋しい。

「部長、十一時からの保健指導ですが……」
「出なきゃダメか?」
「社長のキモ入りですから」
「わかったよ」
 健康診断で引っ掛かった。BMI二五.二、他にはLDL、LDH、γGTP、尿酸、いずれも正常値範囲よりわずかに高いだけ。機械だって半世紀以上使っていればガタがくる。若くないのは承知している。
 Eメールをチェックして返信を打ち、稟議書に目を通し、何本目かの電話をかけているとアウトルックのアラームが鳴った。誰に言うともなく「ちょっと説教を聞きに行ってくる」そう言って席を立った。
 会議室に入ると痩せぎすの女が声をかけてきた。
「こちらで検査結果の細部をお持ち下さい」
 首から下げた管理栄養士と書かれたIDカード、今日の講師らしい。
「個人情報ですので、本人確認のため生年月日とお名前をフルネームでお願いします」
「牧野圭一、昭和三十二年五月七日」
「牧野さん……はい、これをお持ち下さい」
 事務用封筒を受け取り、部屋の中を見回すと何人かの同期がいる。その横に腰を下ろした。
「俺以外はデブばかりだな」
「バカ野郎、貫禄と言え。中東ボケで日本語忘れたか?」
 同期の声に周囲から笑い声が起こる。封筒の中身を見ると健康診断の結果、幾つかの数字が赤くなっている。
 やがて話が始まったが、意外や話が上手い。検査項目の意味を説明しながらも時々冗談で沸かせる。さすがプロだと思った。
「……お酒とタバコ、特にタバコは……」
 腹の中で思った。某国へ酒を持ち込めば物理的に首が飛ぶ。日本にいる時くらい文句を言わなくてもいいいだろう。世界で最初に禁酒・禁煙を国民に奨励した国家元首の名がアドルフ・ヒトラーだったと知っているのかと聞いてみたくなる。その上、彼は菜食主義者だ。そして、米国パイプスモーキング協会の永世名誉会長の名が、アルベルト・アインシュタインなのは何かの皮肉だろうか。昨今では嫌煙ファッショと言う言葉もある。
「……食事の時は、特にカツや天ぷらなどの揚げ物の衣は残すように心がけて……」
「あンッ」
 思わず声が出た。脳内で何かのスイッチが入ってしまった。
「ご質問ですか?」
「あ、いや、何でも」
 そう答えたのは僅かな自制心だった。だが心中は穏やかではなかった。私も技術屋、言い換えれば職人だ。職人が精魂を込めたカツや天ぷらの衣、それを食べずにゴミにしろと言いたいのか。職人が積んだ修練の時間、培った技術、手間と暇を惜しまない情熱、その技術と情熱を軽視、いや、全くリスペクトしない発言に腹が立ったのだ。何故「食べる回数を減らせ」「食べる量を減らせ」と言わないのか。和菓子職人の義父を思い出した。何時だったろう、鶴をモチーフにした一口で食べられそうな小さな生菓子、その鶴の頭を彩るゴマ粒半分にも満たない紅色の練り切りを指し「この色を出すには、二年は寝かさなきゃ」と言ったのを思い出した。
「……以上ですが、何かご質問はございませんか」
 時計をちらりと見れば十一時五〇分、昼休み前に質問をして引き延ばすバカはいない。
「では、これで終了させていただきます。ありがとうございました」
 その声を合図に一斉に席を立つ。帰りしなに同期が「若くないんだから、変にエキサイトするなよ」そう言って私の肩を叩いて行った。仰せの通りだ。
 オフィスに戻り、机に事務用封筒を放り出して「ちょっと出てくる」そう言ってエレベーターに向かう。ビルを出て飲食店街の裏道に足を向けると「昔ながらのソバ屋」そんな言葉がぴったりの店がある。中に入るとわずかに早いからだろう、がらんとしていた。店の作りに相応しい古い木のテーブルが並ぶ。入口に背を向けた席に座ると店の作りに負けないビンテージ級お姉さんがお茶を運んできた。
「お姉さん、天ソバ、いや、上天ソバと小アジの南蛮漬け、それと……」
 謎かけのつもりだった。通じなければ諦めるつもりでいた。
「……美味しいお冷を一杯」
「上天ソバにアジ南蛮一丁!」
 張りのある声が上がるが、謎かけは通じなかったようだ。十二時のNHKニュースが始まった。
「はい、アジ南蛮おまちどうさま」
 そう言って置かれたのは南蛮漬けの小鉢と透明な液体の入ったコップだった。南蛮漬けを口に入れると酢の効いたダシが骨にまでしっかり滲みている。シャリっとしたタマネギの歯ごたえも楽しめる。コップの中身をチビりと口に入れれば、杉の香りが脳天へ突き抜けてゆく。この店は冷を頼むと樽酒が出る。テレビのニュースは中東の内乱を伝える。そんな事をしている暇があったら酒でも飲めと言いたくなる。何時だったろう某社の日本駐在員、自称ムスリムのムジャーフという男と一緒にトンカツを食った。特大の三〇〇グラムをぺろりと平らげ「文明人は、多様な文化を尊重するのだ」と豪語した。ムジャーフの爪の垢でも送ってやろうか。
「上天ソバ、おまちどうさま」
 湯気が立ち上るソバ、割りばしがすっきりと割れた、なんとなく気分が良い。何時からだろう、ゲン担ぎなどをするようになったのは。
 この店の上天ソバは旨い。大エビが二本に季節の野菜やらその日の魚介が乗っている。添えられた絹さやの鮮やかな緑とネギの白が目を引き、ソバをすすると華やかなカツオ出汁の香りが鼻に抜ける。これだけで日本にいる甲斐が有るというものだ。たちまちソバが消える。残ったてんぷらをつまみにチビりとやる。歯の間で海老がぷつりと切れる。ふわりと口の中で衣が溶け、だしの香り、ゴマ油の香り、杉の香りが合わさると堪えられない。この旨い衣を食うな? 美女と同衾してマスをかく様なものだ。死ぬ時は死ぬさ。何年前だったろう、巨大フ-ドプロセッサーの様な五〇〇〇ℓミキサーに二人が落ちた。ブン殴る様に非常停止ボタンを押したが、中のブレードが止まった時にはケチャップをなすり付けた鍋の中にトウモロコシのような黄色いツブツブとボロ布が浮かんでいるだけ、形も残っていなかった。他にも高所落下、感電、鉄骨の下敷き、コンベアの巻き込み、栗原は強盗に自動小銃で撃たれた、何発も。上半身がちぎれかけた栗原のワイシャツの下にウエスの袋を詰め込んでスーツを着せて棺に納め、貨物機で連れて帰った。日本で、シーツの上で死ねるのなら上等じゃないか。恐れるのはヨイヨイや動けなくなることだけだ。
 コップが空になる。残った小アジとタマネギを口に入れる。ぬるくなりかけたお茶を一口すすり、なけなしの自制心で二杯目を注文せずレジに向かう。レジのビンテージお姉さんが「お客さんみたいな人、たまにいるんだよ。力水が入ったんだ、午後からは大丈夫さ」そう言ってお釣りとともに笑顔が返ってきた。店を出てコンビニで口臭消しのキャンディーを買い、口に放り込む。せっかくの天ソバの香りが強烈なミントで消えるのは癪だが、部下の手前しかたがない。会社に戻ってもオフィスに入る気にならず、廊下の自動販売機でコーヒーを買い、ノロノロと屋上に上がった。官庁回りを始めてから再開した喫煙、タバコをくわえ手すりに寄りかかる。辛味のあるヨーロッパ仕様ではなく、滑らかな日本仕様のマルボロの煙が喉を滑ると、香り高く苦味のあるエジプトタバコが懐かしい。紫煙を揺らす初夏の風に目を上げると遠く入道雲が見える。高校二年の夏休み、妻に初めて好きだと言った日、二人で見た入道雲も白かった。そんな事を思い出すと言い知れない焦燥感に包まれ、時計さえ棺桶へのカウントダウンに思える。
 若手の声がペントハウスのエレベーターホールから伝わってきた。
「切れ者って噂でしたけど、経年劣化ですか」
「噂に高い牧野のフジューム、霞ヶ関には炸裂しませんね」
 フジューム……アラビア語で突撃。後先を考えず三十年、がむしゃらに突っ走ってきた。私の関わったプラントが五万分の一の地図に幾つか載っている、戦乱も二回くぐり抜けた、それも密かな自慢だった。だが官庁が相手では何の意味もない。技術屋の看板さえ心の中で朽ちかけている。
「霞ヶ関相手じゃ分が悪い。何しろ現場の人だ」
 ペントハウスから少し離れ、聞こえなかった振りをして声をかけた。
「おう、毒ガスか? 昨今、喫煙者は売国奴扱いだぞ」
「じゃあ部長も売国奴ですか」
 若手達と軽口を叩き、腕時計を見ると十三時を回っていた。
 オフィスに戻るとモニター上のポストイットに目がとまる。『十二:五五、坂口常務、電話』。受話器を取り短縮を押す。電話を取った秘書から「すぐ来い」のコールが掛かった。午前中の事が耳に入ったかとも思ったが、常務は私が二十五歳で初めて中東の現場に出たときからの長い付き合い、気心は知れている。エレベーターで上の階に登り、秘書に挨拶代わりに手を上げ、OKサインを横目に常務のオフィスをノックする。
「牧野、生きてるか?」
 入室一番は、この言葉だった。「おかげ様で」と返したが言葉の真意が掴みかねた。交通事故ならともかく、日本にIED(仕掛け爆弾)や銃撃がある筈はない。
「研究所の山口所長だが……」
「山口さんですか、散々世話になりましたから。あの事故で泣く泣く現場を去って……そう言えば、もうすぐ定年ですから世話になった連中で宴会でも」
「……いや……個人情報なので内密だが……余命宣告を受けた。ガンだ」
 何故? そんな詮無い言葉が浮かぶ。全て巡り合わせと運だ、神仏の類に祈ろうが、何をしようが幸運と悪運はやってくる、それは誰にも逃れられない。だが、それを受け入れるか受け入れないかは本人次第だ。悪運はレンチで叩きのめし、幸運は襟首を捕まえて従わせて突き進む。それが技術屋だ……山口さんの口癖を思い出した。
「社としては山口さんの功績に鑑み、所長のまま休職とする」
 我が社の人使いは極めて荒いが、意外に浪花節的な情もある。これが良い所であるのは承知している。
「次席は照井だが、あのバカは所長は嫌だ、研究職以外なら中国に身売りすると抜かしてな」
 照井さんらしい。そう思うとついつい口元が緩む。
「何がおかしい? そこで牧野、総務・人事・管理担当副所長を命ずる。言っておくが決定事項だ」
 一瞬、理解の範疇を超えた。自宅から研究所までは電車でも車でも三時間以上かかる、つまり転勤だ。それも部長ポストに就いて僅か数カ月で。
「照井もお前なら文句は無いと言ってる。行ってやってくれ。何なら奥さん連れて第二の新婚を楽しむのもオツだぞ。子供さんも独立したんだろ?」
 昔馴染みの豪快な笑い声が響く。霞ヶ関神社の参拝に嫌気がさしていたのも事実だが、余りに唐突だった。脳裏にある言葉が浮かぶ……職務不適格。
「お前の後任は酒井、明日には辞令を出す。直ぐに引継に掛かってくれ。話は以上だ」
 常務のオフィスを辞し、自分のオフィスに向かう途中でセキュリティに寄り、酒井のアクセス権申請を提出する。申請理由を書く時に一瞬躊躇した。オフィスに戻り引継用のファイルを取り出す。パソコンの電源を入れ起動を待っていると酒井が駆け寄ってきた。
「部長、一体どうしたんですか? セキュリティーのメールが」
「もう来たか、早いな。おめでとう部長昇格だ」
 そう言って怪訝な顔をしている酒井と握手を交わす、オフィス内が少しざわめく。
「部長は、どこへ?……」
「研究所だよ」
 本当は保安規則違反だが、ポストイットに部長用のフルアクセス・パスワードを書き込んで引継ファイルの表紙に張り付けた時、携帯が鳴った。
「照井だ。島流し、おめでとう」
 照井智弘、研究所主査。私が中学一年の時の三年生、一貫校だったから大学卒業まで、更に就職ではこの会社に引っ張って貰い、未だに腐れ縁が続いている。百八十センチ近い痩身、細面の顔にメタルフレームのメガネ、油ッ気のない髪、黙っていれば今でも秀才という言葉が今でも似合うが、口を開けば毒舌のシャマールが吹き荒れる。
「ご無沙汰してます。耳が早いですね」
「人事の低脳極まれりだ、お上品な官庁回りがお前に似合うか? 仕事が溜まってる、早く来い。それと借家を何件か見繕っておく、週末に顔を出せ」
 そう言って一方的に電話が切れた。なるほど、下拵えは出来ていたのか。心の中で何かがブツリと切れた。
 定時に仕事を切り上げ、駅のホームで妻へメールを打った。電車の中から街を見るとビルの窓を微かに夕焼けが染める。ムスリムの日没の礼拝、マグリブが近いことを思い出す。だが、アスファルトとコンクリートに固められた街に欲望は有るが祈りは無い。礼拝の一節を小さくつぶやく「イヒディナッスィ・ラータル・ムスタキーム(我等を正しき道へ導かれん)」ここでは祈りの声は届かない。

「あなた、今度はどこ?」
「静岡の研究所、土曜日に住むところを見てくるよ。週末には帰って来れるし、単身かな」
 返ってきたのは意外な言葉だった。
「一人で大丈夫なの?」
「……」
「心配なのよ。この頃、食事もろくにしないし、何かイライラしているかと思ったら急にふさぎ込んだり、お酒の量も増えているし」
 これまでも心配をかけたことは数限りなくあったが、そんな心配まで掛けていたとは思わなかった。
「もし今の仕事が嫌ならそう言って。少しの蓄えなら有るし、もう子供たちも自分で何とかできるでしょうから」
 そう言えば貯金がいくらあるのかも知らない。昔から家も家族も妻に丸投げだ。
「それにね、茜が転勤で帰ってくるの。家から通いたいって」
 長女の茜は、院だドクターだと散々スネをかじり、やっと就職したと思ったらキャリア云々と言って全く落ち着かない。いい年なのだから嫁に行く算段でもしてくれた方が親としては安心できるが、次女の桜の様に二十一歳で嫁に持って行かれるのも腹が立つ。長男の康隆にいたっては、学校をおえると外資系に就職してアメリカに渡ったまま電話もしてこない。
「土曜日に家を見に行くんだが、一緒に行かないか」

 土曜日の朝、簡単な朝食を取り妻と家を出た。
 街中を抜け高速に入るとカーラジオから懐かしい歌詞が流れる。ベレG――いすゞ・ベレットGT――が歌われている荒井由美のコバルト・アワー。まだ高校生だった妻と初めてドライブした車は、実家の自動車屋が下取りした中古車を自分で直した五速ミッションのサニーエクセレントだった。先年、この車を買った時にマニュアルミッション仕様は無いと言われた。オートマチックトランスミッションにABSブレーキが標準装備、ヒール&トゥやダブルクラッチ、ポンピングブレーキやブレーキングドリフト、そんなテクニックとともに私も過去のものになってしまったのかもしれない。面倒が無くなった代わりに操る歓びを失った様な気がする。私もアナクロな年寄りになった。
「懐かしい曲ね」
 妻の手を取った。こうやって手をつないで運転したのは何時以来だろう。もう思い出せないほどはるか昔、恋人と呼ばれた時代だった。
 高速を降り、カーナビに従って街道を走ると照井さんのメールどおり白い外壁の“おしゃれ”という言葉が似合いそうなカフェ、駐車場に車を入れ店内に入ると照井さんが手を振っていた。
「早速だがこれを見てくれ、いや、先にメシ頼むか?」
 おすすめメニューのランチプレートを頼み、地図といくつかの見取り図がテーブルに広げられた。廻る順番を打ち合わせていると店の外観に相応しい華やかに盛り付けられた皿が運ばれてきた。
「手掴みで喰うなよ、ここは日本だからな」
 そう言うと左手を皿に伸ばす真似をした。
「左手は、ク……不浄の手ですから右手が正解ですよ」
 危い。照井さん相手だと気が緩み、クソなどと口走るところだった。飲み水にも事欠き、トイレットペーパーを使わない地域で行う時は、左手の中指と薬指で始末して、仕上げは人差し指。その後は葬式の焼香の様に熱い砂をつまんで何度か揉めば、あっという間に乾いて砂と一緒に落ちてゆく。
 若い女性向きなのだろう、見掛けほどボリュームのないランチプレートを片づけ店を後にした。
 一軒目は小奇麗な四LDKだったが、夫婦二人では広すぎた。
 二件目は、古い木造の家だった。こじんまりとした二LDK、庭に車を入れると、あと二台は入りそうな広さ。古い家らしく縁側があり、垣根代わりの庭木が緑を競っていた。
「敷地は七〇坪、この辺じゃあ当たり前だが東京じゃ絶対に無理だぞ」
「ネコさん」
 妻の弾んだ声に振り返ると庭木の下にラクダを思わせる茶色の猫が居た。我々に対して警戒する様子もなく、丸まって昼寝をしている。猫に呼び掛ける妻の肩越しにアラビア語でラクダを意味するジャマルと呼びかけてみると大儀そうに一声鳴き、長いしっぽをピンと立て近づいてきた。
「え?! じゃじゃ丸? ネコさん、お名前じゃじゃ丸なの?」
 猫は私を無視し、妻の足にすり寄りゴロゴロとのどを鳴らす。猫の顎をなでていた妻が振り返る、その顔は輝いていた。こんな笑顔は何時以来だろう。
「実家は食べ物を扱うでしょ、だから動物は飼えなかったの」
「此処にしようか」
「いいの?」
「どうせ数年だろう。照井さん契約書はどうしますか?」
「何を言ってンだ。福利厚生・住宅含む各種手当は総務、つまりお前の仕事だ。早速仕事が出来て良かったな。ついでに病院に寄っていくか?」
 一瞬躊躇した。だが行かない理由はない。国道を通りショッピングセンターの花屋で花を買う。駐車場を廻りこむように上り坂を進み、街を見下ろす丘の上にその病院はあった。広大な駐車場に車を置き、三人で病室に向かう。どの位のコストが掛かるかと考えさせられるほど清潔なロビーを抜け、エレベーターで病棟へ上がる。
 病室に入った瞬間、言葉を失った。恰幅のいい山口さんが、まるで飢餓難民の様に痩せ細っている。
「おお牧野か、元気そうだな。ちょっとダイエット中でな。済まんが、研究所をよろしく頼む」
 冗談に笑い返す事も出来ない。言葉をやっと絞り出した。
「山口さん、早く復帰して貰わないと照井さんに……」
「奥さん、申し訳ないが牧野と二人で話をさせてもらえないでしょうか? 照井、お前もだ」
 二人が部屋から出る。山口さんの目があの頃の光を浮かべた。
「おい、俺は全般を見ろと教えたはずだ。ここへ来るまで何も見なかったのか」
 見ている。病院の名前は県東部がんセンター、鼻につながるチューブのコネクターには酸素、点滴のシールにはMorphineモルヒネの文字が書かれていた。
「いいか? 酒井は東大の文Ⅰだ、官庁回りは奴にやらせろ。照井は頭は切れるが現場を知らん。だが、お前は知っている。適材適所だ、分かるな? だから最初にその腐ったような目ン玉を何とかしろ!」
 会社から温情をかけて貰ったのは山口さんじゃない。業務不適格で交代させられた私だ。本社ラインからはエリミネートされたが温情でポストも用意されていたのだ。
「どうせ照井の事だ、総務系統は放り出してるだろう。研究所を頼む」
 病室を辞し、廊下で照井さんと合流する。廊下の窓から見える街、幾つものビルが墓標のように見えた。無言のまま駐車場へ出る。転勤の予定を簡単に打ち合わせて照井さんと別れたが、帰りの車中は言葉が出なかった。やっと出せた言葉は「あんな田舎でいいのか」だったが、妻の答えは意外なものだった。
「どうせ一人ではろくな食事もしないでしょ? 定年したらモン・サン・ミシェルを見に行く約束、まだ覚えていますからね。少なくともそれまでは元気でいてもらわなくっちゃ」
 そう言えば定年になったらヨーロッパ旅行……いつ約束したか覚えていないが。
 文句を言ってきたのは長女だった。家から通えば、上げ膳据え膳の目論見だったろうが、二人して居なくなるのは想定外だったのだろう。しかし定年までの残り時間は、両手の指より少ない。ほんの一時と思い東京を離れた。

 赴任して二ヵ月後、残念ながら山口さんを社葬で見送り、トコロテン式に所長に就任した。
 だが、ここの暮らしは悪くなかった。田舎ゆえ車がないと不便だが、二十四時間スーパーもショッピングモールもある。駅前に出れば小洒落た飲食店街があり、女なしカラオケなしの落ち着いたバーも見つけた。私もまたヒゲを伸ばし始め、揃った頃には高原の町にカナカナゼミの声と入れ替わりに秋がやってきた。この時期、通勤の道すがらシカが道路に出てくる。紅葉が散ると夜には老眼の眼にもくっきりと星が映り、春にはウグイスが庭先で鳴くのだ。何より時間の流れが変わった。仕事に関係ない本を読む時間も得て、ほとんど行けなかった魚釣りを再開した。そして居候が増えた。あの茶色の猫は家に入り浸るようになり、いつの間にか飼い猫の様になっていた。一番心配だったのは知り合いのいない礼子の事だったが、何やら婦人会だとか町内会だとかになじみ、スーパーで知り合った隣家の――五十m以上離れている――お嬢さんが高校の食文化研究会の部長だとの事で、礼子の実家が和菓子屋と知って何回か友人たちを連れて習いに来ていた。華やかな女の子の声がある家は、娘達が小さかった昔を思い出す。
 だが、一番変わったことと言えば……その日、理由は忘れたが朝食を作る妻の後ろに立った時だった。悪戯心が私を唆し、その心のままに妻の腰に手をまわし、耳元で礼子と呼んでみた。
「あ、あなた何……いったい、どうしたのよ」
「いや……何となく……」
 自分で言って照れくさくなり、そそくさとテーブルに戻りテレビをつける。朝食を詰め込み玄関に出て靴を履いていると、じゃじゃ丸が外出させろと玄関に出てきた。
「忘れ物は?」
「大丈夫、行ってきます」
 足元のじゃじゃ丸を持ち上げ礼子に渡し、軽く唇を重ねた。
「行ってらっしゃい……圭一さん」
 思わず振り返った。
「どうしたの? さっさとしないと遅刻するわよ。ねぇ、じゃじゃ丸」
 そう言って玄関から追い払われた。車のエンジンをかける。ポンと跳ね上がるタコメーターの針のように心も跳ね上がる。やっと人並みの幸せが分かった様な気がする、ここまで何十年かかったのだろう。子供が生まれてからずっと妻を「お母さん」と呼んでいたが、この日から本当に久しぶりに礼子と呼ぶようになった。
 私のシャマールの季節は過ぎたのだ。まるで二人で初めて暮らしたアパートの様に朝食も夕食も礼子と一緒だ。休日には二人でショッピングモールを歩いたり、近くを散歩していると畑の中に野ウサギを見つけたり、時間がゆっくりと人生の秋に向かって進み始めたことを感じた。もし昔からこんな暮らしをしていたら……。次女が結婚すると男を連れて来た時に言い放ったセリフ、「お父さんと違って一緒にいてくれる」「お母さんみたいに心配して暮らすのは嫌」そんなセリフも聞かなくても済んだのかもしれない。

 この街に来て幾つ目かの夏、本社から直帰で帰った時のことだった。
 駅の改札を抜けると華やかに飾り付けられた街路、その日は夏祭りの日だった事に気がついた。賑やかな中心地を抜け、十六時前に自宅へ戻り玄関を開けると女物の靴と明るい笑い声に満ちていた。反射的に靴を数えると四足。ああ、食文化研究会かと思い「ただいま」と声をかけた。だが返ってきたのは意外な言葉だった。
「こっちへ入らないで、着付けしてるから」
「お邪魔してまーす」
 若い女の子たちの声が重なる。「着付け?」そう思ったが、まあ仕方がないと思い、「タバコ買ってくる」と言って玄関に下げていた車のカギを取り、車で近くのスーパーへ向かう。ふと思いついてアイスクリームのケースをのぞく。夏季限定と書かれた何種類かのハーゲンダッツが目に止まった。
 家に戻りリビングに入ると華やかな浴衣の少女達となぜか浴衣の礼子がいた。ドライアイスの煙が薄っすらとたなびく袋を礼子に渡す。テーブルにアイスクリームが並ぶと歓声が部屋に充満する。口々に礼を云いながらアイスクリームを口に運ぶ姿は、娘達が小さかった頃の様に可愛い。寝室で着替えていると、ふすま越しに賑やかな声が聞こえる。
「彩菜~、着付け目がマジだったね~」
「そんなことないよ」
「ヒロ先輩にアピールでしょ」
「脱いでも安心?」
「真由ってエロ~い」
 大胆な発言に少々驚いたが「子供叱るな、いつか来た道」そんな言葉を思い出した。三十年以上前……あの花火の夜、礼子の纏めた髪と浴衣が花火より眩しかった。その夜、浴衣に帯以外にも紐があるのを初めて知った。
 少女達が帰った後、浴衣姿の礼子とともに花火を見て、夜店を冷やかして歩いた。
 それから程なく、礼子はホテルの美容室へ着付けのパートに出る様になった。何でも浴衣の着付けを教えた内の一人が美容室のお嬢さんだとのことで、直接依頼に来たそうだ。礼子の方がこの街に根を下ろしているのかもしれない。

 高原の短い夏が過ぎ、秋になると原油価格が僅かながら乱れを生じ始め、同時に海外メディアは欧州・バルカン半島のキナ臭い匂いを伝えていたが、まだ日本のテレビには登場していなかった。それと前後して研究所に検討依頼の文書が山の様に届き始めた。暑熱地仕様と異なる寒冷地仕様だ。その間にも季節は過ぎ、モミジが散ってジングルベルが街に流れると街は赤と金と緑に染まる。遠くの山が雪化粧を始めるともう正月だ。それとタイミングを合わせる様にバルカン半島に煙が立ち昇り始めた。
 仕事始めの日、メールチェックをしていると一本の電話が掛かってきた。
「牧野、生きてるか?」
「坂口さん、明けましておめでとうございます」
「ロシアのロスネチフⅢ油田は知ってるな」
「たしか天然ガスが4千億㎥以上、硫黄含有率わずか〇.〇二%の超軽質原油が一億tを超える巨大油田とか……もしかして」
「そうだ。お前にお年玉をやる。現場復帰しろ! もう十分休んだろう」
 心のゲージが跳ね上がり一瞬にしてレッドゾーンまで回る。血液が音を立てて全身を廻る、受話器を握る掌に汗が浮かぶ。
「ロシアのパイプラインにベンダー(協力企業)で参加する。クライアントは速度と精度を要求している」
 パイプラインの命は精度だ。オリンピックのライフル射撃、標的の十点圏は直径二.〇八cm、これを五〇m離れて狙う。その許容誤差は中心から上下左右に〇.一二度だが、世界最大級の五十六インチ(約一.四m)鋼管でも五〇〇キロ先での許容誤差は、中心から上下左右に〇.〇〇〇〇八度以下だ。安価以外に取柄のない某国が作ったパイプラインは、平気で数kmも歪み、蛇の様に不細工にのたくり、圧力変動などで危険度が増す。さらに陽の当たり方でも金属製のパイプは伸び縮みし、基礎コンクリートの打ち方や養生具合でも誤差が出て難度を増す。この精度をNOUKI-GENSHU(納期厳守)で敷設するのが日本の技術屋だ。
「中東の一部を引き上げてロシアに回す。お前は中東のリリーフだ」
 いくつかの打ち合わせをして電話を切った時、ドアの所に人影があるのに気づいた。
「どこだ?」
「中東の……」
「やっぱり! クソして紙を使う様な場所がお前に似合うか?」
「しばらく離れますので業務は宮田にさせますが、所長代行をお願いします」
「おい!」
「かわいい後輩の頼みですよ」
「誰がだ!」
 翌日から本社との往復が始まった。その間にもビザの更新や肝炎や破傷風の追加接種を受け、心のゲージは跳ね上がり続けた。

 出国の日が決まった。
 本社を出て新宿駅で乗り換えるついでにキオスクでビールを買い特急電車に乗る。代々木上原を過ぎると右手にイスラム寺院の尖塔が見える。その瞬間、心の中に「戻れる」という言葉が浮かんだ。何処へ? 礼子のいる自宅か? 違う。あれほど帰る事を夢見ていた自宅ではなく現場へ。現場にいる時は、いつも家へ礼子の所へ帰りたいと思っていた。だが、現場へ帰りたいと思う自分の心に戸惑いを感じる。戻るのは現場なのか家なのか、それすら分からなくなってきた。車窓からの景色がビル街から住宅街へ、やがて深い緑色に変わってゆく。まるで阿片窟へ戻る中毒者の様だ。
 駅を降り、久しぶりに駅前のバーへ足を向けた。薄暗い店内に音量を絞ったジャズピアノのBGMが心地よい。煌びやかなボトルの群れを背に、氷を砕くマスターの声が伝わる。
「いらっしゃい……おや牧野さん、お忙しかったですか?」
「貧乏暇なしですよ。ラフロイグの十五年、ストレートをダブルでお願いします」
 アラビア湾の夕暮れ色に染まるグラス、口に含むとクレオソートを彷彿とさせる強烈なピート香が鼻に抜け、喉から食道へ熱風が吹き抜ける。
「どうしました? 考え込んで」
「ねえマスター、家とか女房って何でしょうね」
「そうですねぇ……まぁ……空母みたいなもンじゃないですか」
「くうぼ?」
「そう、航空母艦。男は家とか女房って言う空母から飛び立って、外を飛び回って必死に空母に帰って来る。空母がなけりゃ墜落なのわかってるンですからね。それに飛行機は空母の上に乗っかりますよ」
「なるほど……名言だな。惚れそうだよ」
「そっちのケは無いですよ」
 静かなBGMに笑い声が重なった。

 自宅に戻り、部屋着に着替えリビングのソファーに腰を下ろし、キッチンの礼子に声をかけた。
「礼子、済まないが、明後日からまた行ってくる」
「はいはい。もう慣れていますよ」
「いったん東京に戻るか? 茜も……」
「あら、こう見えても結構忙しいのよ。成人式の着付けも頼まれているし。ね、じゃじゃ丸」
 じゃじゃ丸が相槌を打つように一声鳴く。その声は「勝手に行って来い」そう聞こえた。
「それよりあなた、ちょっと見て。荷物はこれでいい?」
 ふすまを開けると長年愛用した私のトランクが用意されていた。
「いつの間に……?」
「いつか子供たちに自慢してたでしょう、電気も自動車も俺達が動かしているって。及ばずながら応援してますよ」
 鼻水が出そうになったのは、風邪をひいたせいではないと思う。


 出国の日の朝、いつものように朝食を取り、着替えているときだった。ふと思いついて洋服箪笥から古いネクタイを取り出す。赤地に青のストライプが入ったレジメンタルタイ、就職祝いに礼子に貰った。
「こんな古いのをどうするの?」
「お守りだから」
 そう言ってスーツケースに入れた。
 足元のじゃじゃ丸の頭をなでて玄関を開けると鈍色の冬の空が広がる、庭の南天が赤い実を付けていた。礼子の運転で駅に向かう。駅前へ入る交差点を右折し送迎用の駐車場へ入った時だった。
「約束覚えてる?」
「モン・サン・ミッシェル?」
「そうじゃなくって」
「……」
「……必ず帰ってくるって……」
 思い出した。湾岸戦争の混乱から命からがら帰国した翌年、出国前にした約束。あれから何年たったのだろう。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
 礼子の声に背を向け、ドアを閉めた。駅へ歩きながら礼拝の一節を小さくつぶやく。「アイユハン・ナビーユ、ワラフマトッ・ラーヒ、ワバラカートフ」(汝に平安あれ、神の恩恵と祝福あれ)
 次に帰って来れるのはアラビア湾にシャマールが吹き荒れる季節だ。

シャマール

御高覧を感謝いたします。

BGMにいかがですか?
https://www.youtube.com/watch?v=WCpiD15zaYo
https://www.youtube.com/watch?v=y45-cVnZmII

シャマール

シャマールの季節は過ぎ、妻と二人の穏やかな時間が始まるはずだった。

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更新日
登録日
2014-12-29

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