順番

順番

 極掌編シリーズの一つで、ホラーテイストです。

順番

 ――飛鳥弥生 著

 夜、ビヤガーデン。
「しかしよぉ、加納。お前、今日は厄日か?」
 からからと笑いながら、野上はジョッキを空けた。部長の長ったらしい嫌味のお陰で、仕事後のビールが不味い。
「本当、厄日だよ。でもな、あの商談をミスったのは井上部長本人の責任なんだぜ? 野上、お前だって知ってるだろ?」
「ははは! そりゃ知ってるよ。だからこそ、部長はお前にあたったんじゃねーかよ」
 そう、井上の野郎は、ミスによる上からの叱咤の鬱憤を、俺にぶつけてるだけだ。担当でもない、ちょっとサポートしただけの俺に。全く的外れとはいえ、気分は悪い。
「ま、いいじゃねーか。飲め。飲んで忘れろ、な?」
「いわれなくったって飲むよ。割り勘なんだからな」
 しこたま飲んだ挙げ句、千鳥足で真っ暗な部屋に戻り、シャツも脱がずにそのまま眠った。

 正午、会社。
 二日酔いを堪えつつ、午前中のデスクワークをこなす。少々飲み過ぎたようだ。しかも昨日の気分の悪さは残ったままで、踏んだり蹴ったりだ。
 時計の針が12時を示すと同時に、2課から野上が昼食の誘いにやって来たので、書きかけの書類を放り出した。
「なぁ、今日はカツ丼にしねーか?」
 聞いただけで込み上げる。こいつの胃袋は一体どうなってるんだ?
「勘弁してくれよ。ソバとかうどんとか、軽目でさ……」
 胸の辺りをさすり、吐き気のポーズをとる。察した野上は、仕方がないなとぼやきつつ、俺の背後にある窓から覗く食事処を眺めた。と……。
「な! 何だ今の!」
 突然叫び、俺を押しのけて窓へと駆け出した。突き飛ばされた俺は、訳が分からず視線で野上を追う。
 9階の窓には奇麗な青空が映し出されていたが、野上を筆頭の3課もろもろは、空ではなく地面を懸命に覗き込んでいる。
「おい、野上、どうした?」
「加納! 井上部長だよ!」
「は? 部長は朝から会議に――」
「馬鹿野郎! そうじゃなくって!」
 何が何だか、とにかく野次馬を掻き分け窓際へ行く。
 野上が「下だ! 下!」と怒鳴り、いわれるまま下の通りを見る。
「何だ? あれ」
「だから!」
 会社と、テナントビルの1階は、1時間としないうちに警察と消防で満杯になった。
 歩道には、井上部長をかたどった白線と、黒い血痕がしっかりとこびりついている。

 夜、ビヤガーデン。
「加納、お前が愚痴られた商談、あれが原因らしいぜ。何でも井上部長、事後処理をミスって、取り引きそのものをパーにしちまったらしい」
「それでリストラか?」
 今日のビールも不味い。当然といえば当然だが、ここのところそんな日が多い気がする。
「馬鹿いうな、そんなもん、リストラなんていわねーよ。クビだ、クビ」
「あそことの取り引きがなくなるんなら、まあ、当然だ。だけどなぁ……」
 だからといって、自殺するだろうか? 俺にはピンとこない。
「お前や俺だったらどうってことないだろうけど、井上部長の場合、年齢とか、いろいろで再就職なんて不可能だろ? 人生は終わりって気持ち、解らなくはないな」
 筋が通っているようにも、滅茶苦茶にも聞こえる。
 とはいえ、所詮は本人にしか解らないものなんだろう。弔いを兼ねて、俺と野上はしずしずとジョッキをすすった。

 5年後、ビヤガーデン。
「お前さぁ、今日、厄日なんじゃねーの? 加納部長にあれだけぶちまけられてさ」
「ったく、いい迷惑だよ。だいたい、あの件は加納部長の担当だぜ?」

 ――おわり

順番

 残酷描写アリとしましたが、実際はそういう映像が浮かぶだけで、具体的な描写はありません。
 また、ホラーとしてますが、SF短編集などがあればそこに入れるのがベターかな、と思っています。

順番

極掌編シリーズの一つで、ホラーテイストです。 残酷描写アリとしましたが、実際はそういう映像が浮かぶだけで、具体的な描写はありません。 また、ホラーとしてますが、SF短編集などがあればそこに入れるのがベターかな、と思っています。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
更新日
登録日
2014-12-29

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