例えばの話だけど
アネモネの花が揺れる。
ほんの出来心だった。――陳腐な表現。
出来心で人を殺す人なんて、きっと存在しないだろう。
あるのは、殺す理由か殺される理由、若しくは、その両方。
ぺたりと座り込んで花冠を編む那月は、幸せそうに笑っている。
例えばの話だけど、その先に崖があるとすれば。
例えばの話だけど、その崖に那月が気付かないすれば。
例えばの話だけど、那月が偶然、凛と咲いている一輪のアネモネを見つけたとすれば。
例えばの話、だけど。
「…那月、」
声を掛けると無邪気な顔で振り向いて、おねえちゃん、と。
ああ、わたしはその顔が、その声が。
どうしようもなく――
「那月、見て。綺麗な花だね」
立ち上がって顔を輝かせる妹を見つめるわたしは、笑って――いたのか。
例えばの話だけど
アネモネと姉でかけてるとかじゃないです。