HERO
英雄の帰還①
もしもあの時銃の引き金を引かなければどうなっていたのか・・・
今でも時々考える・・・
「自衛隊」という不完全な存在が「N国軍」と改まったのは戦後93年を経てからだった
そのきっかけはNK国がN国に対し3発のミサイルを発射した事からだった
1発は遥か手前で失速し海に没し、1発は目標地点を飛び越し山中に命中、事なきを得た
しかし残る1発が中部地方の中規模都市に命中、1012人の死傷者を出した
N国は安全保障の名の下にN国に軍隊を駐留させているA国に交戦を依頼、国民は当然
A国が自国の「N国自衛隊」と共に戦うと思った・・・
しかし時のA国大統領は国内の厭戦気運を考慮、選挙も近かった為出兵を回避
N国へ「平和的解決」を求め「援助」とN国の悲願であった「国連常任理事」入りを約束した
これを受け入れた政府にN国内部で強い反発が起こり内閣総辞職へと追い込まれた
新しく政権に就いたM党は再びA国へ安全保障条約の履行を求めた
A国はここに至り条約を破棄、N国の自衛隊を「軍隊」と認める声明を発した
しかしN国には新しく「A・N平等同盟」(AN条約)を押し付け
A国軍をなおも駐留させ維持費を負担させた
AN条約締結の翌年3月12日N国はNK国と戦争に突入した
英雄の帰還②
「少佐・・・木崎陸軍少佐」
呼ばれて俺は我に帰った
「ごめんなさいまだ呼ばれ慣れてなくて・・・少佐・・・とか・・・」
女性仕官はそういって恐縮する俺を見て可愛く笑った
「スピーチの場では立派なのに普段は本当に普通ですよね」
「元々役者志望だったからね・・・」
俺は彼女・・・杉田愛理が淹れてくれた紅茶を一口飲んだ
「そういえば明日は劇団の公演の日ですがいかがいたしますか?」
「観に行くよ、杉田さんもどうかな?」
「良いんですか?美和さんが誤解されますよ?」
愛理はそう言って悪戯っぽく笑った
NK国との戦争は2年続いた
戦力に差はあったのだがゲリラ戦法に悩まされ、ズルズルと長引いていた
国内では「志願兵募集」が盛んに行われていた、僅か3ヶ月戦争に行くと
平均的年収の倍近いお金が貰えた
1年を過ぎた頃から大規模な戦闘は行われなくなっていた事もあり
売れない劇団員の俺はお金欲しさに軍隊に入った
そう・・・全ては俺の誤算だったのだ・・・
英雄の帰還③
NK国首都攻略作戦、俺が居た部隊はあくまで「官邸包囲」が任務だった
まさか目の前に当の独裁者が隠し通路から現れ、まさかあんな事になるなんて・・・
誤算で独裁者を撃った俺は「救国の英雄」としてN国に戻った
相応の階級を与えられ軍に取り込まれた・・・
まだ発足したての軍にとって「英雄」という看板はどうしても欲しいモノであった
こうして俺は「英雄」になった・・・
観劇
「おつかれさま、面白い劇だったよ」
控え室に入ると懐かしい面々が迎えてくれた
「お綺麗な方をつれて「救国の英雄さんはおもてになりますこと」
拗ねた物言いをしたのは佐々木美和、昨日の愛理との会話にも出てきた
この劇団の女優だ
「だから言ったのに」
愛理がおかしそうに笑った
「元気そうだな、この前の演説テレビで観たよ、堂々として良いスピーチだった」
主催がそう言って拗ねる美和との間に入ってくれた
「大体渡が軍人なんて似合わないよ、軍服みてもコスプレにしか見えない」
美和はそう言って荷物をまとめ始めた
「渡打ち上げには顔出せるよね」
美和の有無を言わせない口調に俺はうなづくしかなかった
思惑・・・
「例のパンダはどうしてますか?」
都内の料亭では俺のあずかり知らぬ場所で俺の運命が決められようとしていた
「相変わらず順調ですよ」
白髪の男が答えた
「渡瀬に預けようと思ってな・・・」
上座の男が言うとオールバックの男が会釈をした
「という事は広報部隊ですか?」
「『救国の英雄』に死なれては困るからな」
「
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