黄金から帝国、そして庭園へ。
ブルーの濃淡でマンハッタンの摩天楼が上段にデザインされているニューヨーク州のナンバープレートを車から取り外した後、しばらくの間じっとそれを見つめていた。プレートの下段には、濃紺の下地に白抜きの文字で『The Empire State』(帝国の州)と誇らしげに書いてある。少し経ってから、僕は今日ニュージャージー州の陸運局から貰って来たニュージャージー州のナンバープレートを手に取った。淡い山吹色が薄っすらとグラデーションされただけのシンプルなデザインで、下段部分には『The Garden State』(庭園の州)と黒い太字で書いてある。
アメリカの各州には、このような愛称がすべての州に付けてある。それをあらためて認識させられるのが、自動車のナンバープレートを見るときだ。普段は同じ州の見慣れたナンバープレートばかりが並んでいる信号待ちの車の群れの中に、いきなり遠方の他州の毛色の違うナンバープレートを見つけると、僕は思わずそのプレートに見入ってしまう。そして、遠くから何度も途中で宿泊したりしてドライブしてきたんだろうなとか、いつも勝手な連想を巡らしてしまうのだ。その連想は、どちらかというと西部開拓史のような東から西への開拓者精神のイメージ展開だ。
しかし、僕の現実はその正反対だ。『The Golden State』(黄金の州)のカリフォルニアに長年住んだ後に、ニューヨークに移り住んだ。そして、去年の暮れに拠点をマンハッタンからハドソン川を渡ったニュージャージー側へと移した。けれども、自動車のナンバープレートは『The Empire State』というニューヨークのプレートを未練がましく付けたままで走っていた。それをようやく今日、ニュージャージー州の『The Garden State』のプレートに付け替えたというわけだ。黄金から帝国、そして庭園へ。アメリカでの僕の半生の変遷を、これら各州の愛称が表しているような気がしてならない。
黄金から帝国、そして庭園へ。