サンタクロースを待っている Re:make
「サンタクロースを待っている」
どうもみなさん、僕の名前はテラーって言います。この物語の語り手、とでも言いましょうか、まあそんな感じです。
さて本日皆さんに語らせていただくお話は12月24日。俗にいうクリスマスイブのお話です。どうぞ最後までお楽しみください。
ここは閑静な住宅街にある小さな公園。
ついさっき太陽が沈み、ここで遊んでいた子供達は皆そろって家に帰っていきます。そんな中、少女が一人帰らずに公園に残っていました。それ以外に公園に人影が、りっぱな白いヒゲを生やした老人が公園の隅のベンチに座りながらどうやら編み物をしているようです。
彼らはこの物語のたった二人の登場人物です。少女が老人へと近づいていきます。
「ねえねえ、いつもここに座ってるけどなにしてるの?」
少女が老人に尋ねます
「え?ああ、夢を作っているんだよ」
編み物を止め、微笑みながら老人は答えました。
「夢?夢って誰の?」
「そりゃあみんなのさ、」
「夢っておじさんが作ってるの?」
「そうさ、大きいものや小さいもの、冷たいのや熱いの、たくさんさ それを空を飛ぶトナカイが引くそりに乗って世界中のみんなに配るのさ」
「えー、嘘だあ!そんなに沢山みんなの夢なんかつくれっこないよ!それにトナカイは空を飛んだりしないよ!」
少しの間の後、老人は答えます。その表情はどこか寂しそうにも見えます
「ははは、そうだなあ、まったく最近の子供は賢いからなかなか騙せないよ」
「もー!!嘘付いちゃいけないってお母さんが言ってたよ」
「ごめんごめん」
「もう!嘘付いちゃだめだよ!」
「すまなかったねぇ、お、そうだ、お詫びになんでも欲しいものを一つプレゼントしてあげよう。なにがいい?」
「ほんと!?えーと、えーとね。うーんと…」
「なんでもいいよ、何か欲しいものを言ってごらん」
「んー…欲しいものがいっぱいありすぎて迷っちゃうよ」
「そうかー、じゃあ次、会うまでの間に考えておきなさい」
老人は常に優しく微笑みながら彼女に語りかけました
「わかった!」
「ほら、寒いし暗くなるから早く帰らないとお母さんが心配するよ」
「うん!またね!おじさん!」
「ああ、またね」
そうして彼女は公園から去って行きました。老人は少女の姿が見えなくなるまで手を振り続けました。
一体老人が何者なのか、時間を遡って見てみましょう。
そこではさっきの老人が賑やかな町中で沢山の子供たち囲まれながらプレゼントを配っている
「メリークリスマス!今日はクリスマスだよ。なんでも好きなものをもっていきなさい。遠慮はいらないよ、いっぱいあるからね」
一人の少女が老人に近づいてプレゼントをねだります
「サンタさん!ピンク色の毛糸の可愛い帽子が欲しい!!」
「もちろんあるよ、ほら、サイズも君にぴったりだ」
「ありがとう!サンタさん!」
「喜んでくれてうれしいよ」
今度は少年が老人に近づく
「サンタさん!僕は赤い車のおもちゃが欲しい!」
「よしきた!かっこいいのがあるよ!」
老人が白い大きな袋の中に手を入れて
「みつけたこれだ!」
少年にミニカーを差し出す
「かっくいー!!!ありがとう!」
「大人も子供も関係ないよ!さあみんな欲しい物をもっていきなさい!
」
そんな中、怪しい人影が老人に近づきます
「お前、サンタクロースだな」
「いかにもそうだが…どうしたんだいそんな変な格好で」
「お前にだけは言われたくないがな…そんなことより今すぐプレゼントを配るのをやめろ」
「なぜだ?お前はプレゼントいらんのか」
老人はプレゼントを人影に渡そうとするが人影はそれを一目散に捨て踏みつけました。
周りにいた子供たちもその親たちも唖然としています。
「…ついさっきサンタクロースの活動がこの世界全域で禁止された。だからお前はもうサンタクロースとして生きることが出来ない。さっさと荷物をしまい家に帰るんだな」
老人は納得がいかない様子で反論します
「いっ…いきなりそんなこと言われてもやめられるか!私はこれで今まで生きてきたんだぞ!」
「反抗するのであれば…」
「死んでもらうしかないな」
突然、街に銃声が響き
「え…」
「次は、当てるぞ」
「お…お前は何者だ!」
「そう。だな、解りやすく言うのであれば役人、とでも名乗っておこうか。お前は国を敵にまわしてまでそんな無意味な活動を続けるのか?」
「無意味なのではない!子供たちの、みんなの夢を」
「そんなことどうでもいい!!!!早く活動をやめろっていってるんだ!!!!」
その男はもう一度老人に銃を向けます。その気迫に押され老人はもう何も言えませんでした。
「そうだ、それでいい…これからサンタクロース本人だけではなくサンタクロースに関する文献などを持っているものも処罰の対象になっていく、サンタクロースの記憶自体をこの世界から抹消していく。まあその場で文献を処分することに了承さえしてくれれば罪には問わんがな」
そういうと最後、男は去っていきます。子供も大人もその場にはもう誰もいませんでした。
「認めない…認めないぞ…」
それから年を重ねるごとにクリスマスという日の活気がなくなっていき、いつかただの冬の日の内の一日になってしまいました。何人かのサンタクロースは掟を破り活動を決行しようとしましたがすぐに「役人」に見つかり処罰されてしまいました。そうしていつしか人々はサンタクースという存在を忘れていってしまいました。悲しいのものですね、いったい誰が何のためにそんなことをしたというのでしょうか。
時は最初に戻り冒頭で老人と別れたあの少女が家に帰ってきたようです。
「ただいまー!」
玄関を開け一目散に自分の部屋に向かいます。少女は絵本が好きな女の子でした。どうやらプレゼントを何にするか迷った彼女は絵本の中に出てくるものの中からめぼしい物がないかどうか探し始めたようです。
「うーんいいのがないなー…。あ、そういえばパパの部屋にも少しだけ私が読んだことのない絵本があったような気がする!」
少女は書斎へ行きその絵本を探し、一冊の絵本を手に取ります。
「あはは、この絵のおじいさん、あのおじいさんに似てる」
そのままその絵本を読んでいきます。そこには空飛ぶトナカイが引くソリに乗ってプレゼントを配る白い立派なヒゲが生えた老人が描かれていました
「え…?」
その絵本でサンタクロースとは何か、それが語られていました。そうして彼女はあの老人の正体を知ったのです。戸惑っていると女の子の父親が仕事から帰ってきました
「何をしてるんだ?」
父親が少女の読んでいる絵本の存在に気づくと血相を変えて取り上げました。
「お父さん、私、サンタさんに会った」
父親は全て話しました。サンタは大きな力によって滅ばされたこと。サンタクロースに関わると怖い人たちにひどいことをされてしまう、と。
「さあ、もう遅い。おじいさんの事は全て忘れて今日は寝なさい」
彼女はすべて知ってしまったようですね。「役人」も父親の書斎にサンタクロースの本があるとは思っても見なかったのでしょう。
場面は変わり老人が自宅で机に座って熊のぬいぐるみを作っています
「きっとこれを渡そうとしたら私は…しかしどうせもう長くない命。最後に一つぐらい自分のしたいことをしてもいいだろう。明日はクリスマス。サンタを知らないあの子に夢を上げられたら、どれほどすばらしいことだろうか…。痛っ…久しぶりだから手元が狂うな…。少し休憩しよう…」
そう言って背もたれに寄っかかります
「しかし、本当に数年でサンタクロースを忘れられてしまった。もしかして、私たちは最初から実は必要な存在ではなかったのかもしれない」
「…なんて私がそんなことを言ってしまっては元も子もない、よし、もうちょっとだ。頑張ろう」
そういうと上体を起こして作業の続きを始めます
「やっとできた!我ながらいい出来だ!…しかし、最後のプレゼント、こんな簡単なものでいいのだろうか…。いや、大丈夫だ。出来はすばらしい」
老人はすぐに身支度を始めます
「よし出かけるか」
あれあれ?どこに出かけるのかなあ?
「え?」
ねーねー!しってる!?サンタクロースは滅びたんだよ???
「誰だ…。お前は…」
僕はテラーって言うの。よろしくね。知ってる?恐怖っていみなんだよ?!
「え…あ…」
ねえなんでバレないようにひっそりサンタクロースをやろうとしたサンタがすぐに見つかっちゃって殺されるんだと思う?
こうやって監視していたからなんだよ?????
ずっと!ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!!!!
見てたからなんですよ!!!!!!??????
ねえねえ今これを読んでるお前らも!!!!
オマエだよ、おまえ!!!!
これはこれは楽しいクリスマスの読み物だと思ってた!!!!???
ざーーんねん!!!!!!!
あなたたちは証人なのです!!!
あははハハハハハははははははははははは!!!!!!
この老いぼれサンタが罪を犯そうとしたことをみんなみてたよねえ???
僕と一緒に見てたよねえ?????????
一緒にみてたよね?????????????
さーてどうやって殺そうか??!!!
「…私は夢でも見ているのか…」
ずっとこの瞬間を待っていた!!!!
さあさあ!!待っていました!!!!
なにがクリスマスだ!!!
夜は子供が怖がる時間なんですよ!!!
僕の支配する時間なんですよ!!!!!!
なのにあなたたちサンタが現れた途端、クリスマスイブの夜中に夜更かしして!しかも笑顔で過ごしているなんて考えられない!!!
夜は恐怖の時間なんだ!!!
恐怖を与えるために生み出された時間なんだ!!!!!!
しかも何の苦労もせず何の努力もせずプレゼントが貰えるなんて!!!!
いい身分だなあ?!?!?!?!?!?!
それを夢だ希望だ奇跡だってへらへら笑ってるお前たちが憎くて憎くてしょうがなかった!
でもそれをやっと今日!!!!!!!!!!!!!!
報いを受けさせることが出来る!!!!!!!!!!!!!!!
……と思ったけどその必要もないみたいだね、あはは。
「それはどういう… うっ…」
あんた、この数年でどれだけ無理してきたのさ。サンタの仕事がなくなった途端ろくにご飯も食べなくなり少ない金で渡す訳でもないプレゼントの材料をそろえて。そりゃ体にもがたがきてるだろうさ。もうあんたはそこから動くことは出来ないよ
「く…そ…」
熊のぬいぐるみよく出来てるねえ、それを渡せばきっとあの子喜んだだろうね!素敵な夢になっただろうね?
「やめろ…それに…触るな…」
でも一つ教えてあげるよ!あの女の子、サンタクロースのこともう知ってるんだよ?
「何…?なんだと…」
うちの部下たちが手を抜いたらしいくてあの子の家にサンタの文献がみつかっちゃったんですよ。でもね。父親に危ないからおじさんにもう会っちゃいけないよって言われて今それを律儀に守ってるんですよ。今頃あんたのことなんて忘れてぐっすりでしょうね
「………」
まあ僕がこなかったとしてもそんな体じゃプレゼントはどっちみちわたせやしないさ。
「…夢を作ってるんだ」
はい?
「私たちは夢を作ってるんだ。奇跡だって起こせる」
あははハハハハハ!!!!何を言い出すかと思えば。奇跡なんておこるわけないよ!もうこの物語は終わり始めてるんだよ。お前の命のようにね!
「…私たちはサンタだ。」
サンタはもう滅んだよ!!とっくの昔にね!!!!!!!
「…サンタの掟を知ってるか」
なにをいいだすかとおもえば
「いつも…」
えー?なんていってるんですかー???声が小さくて聞こえないよー??
「いつも笑顔でいることだ!!!!!!笑うのを止めたらサンタはサンタではなくなってしまうんだ!!私はサンタクロース、子供たちに夢を与えるのが仕事なんだ!!!!」
いまさらそんな熱血になられてもどうリアクション取ればいいんですかー?
「せめて…せめて今日ぐらいは子供たちに笑っていてほしいんだ」
…え?
…何? …何これ?
…動けない……!
…しゃ…べれ…ない…?
………………
静まりきった部屋の中で少女が窓の外を見ている。
「おじさん…悪い人たちにいじめられてるの…?かわいそう…ただ…ただみんなに笑って欲しくてプレゼントを配ってるだけなのに」
「もう、…会えないの?」
「プレゼントなんかいらないから、そのかわりまたお話ししてよ…。ねえ」
鈴の音が聞こえてくる
「え…?」
少女が窓の外に「何か」をみつける
クリスマスの朝、少女の自室
「おきなさーい!朝よー!」
彼女を呼ぶ母親の声が聞こえる
「はーい!今いくー!」
少女が去った後、机の上には真新しい熊のぬいぐるみが乗っかっている
END
メリークリスマス
サンタクロースを待っている Re:make