砂漠の星
登場人物
*ザイン
男性 18歳 身長175cm
緑色の目
黒髪
短髪
肌の色は浅黒い
無口で心優しい青年
*テオドラ
男性 19歳 身長188cm
紫の瞳
プラチナ色の髪
真っ白の肌
墜落した宇宙船の生き残り
*tars【ターズ】
テオドラの住む星では一般的な補佐ロボット。大抵の問題を解決できる。人間をサポートするためのロボット。
普段は50cm四方の立方体だか、自在に形を変えることができる。
人工知能により、人間との会話もなんなくこなせる。
*ジェームズおじさん
男性 年齢不明
ザインの養父
1
風が砂漠の砂を舞い上げ、遠くへ運んで行く。
ここには、見渡す限りの砂の丘と、
果てしなく広がる空があるだけ。
自然は、僕を無条件で受け入れてくれて、そして裏切らない。
突然、歯を剥き出して襲いかかって来ることもあるが、決して裏切ることはない。
そもそも、自然とはコミュニケーションは取れないし、関係を築くこともできない。
ただ、ただ、そこにあり、
受け入れてくれるだけ。
だから、僕は自然が好きだ。
安心出来る。
荒れ果てた古代の遺跡、
その一番高いところに腰掛けて
遠くを眺め夕暮れから星空が見えるまで、一人過ごす。
それが僕の幸せ。
いつも、流れ星を眺めていた。
もう、数えきれないくらい。
だから、すぐ気付いたんだ。
今、夜空を横切る大きな光の筋が、
只の流れ星じゃないことに。
2
レケの年1802年
砂漠に、宇宙船が墜落した。
当時、まだ小さかった僕は薄暗くなってた淡い色の空を、宇宙船が燃えながら落ちてくる様を目撃した。
それは、とても美しかった。
今になって思えば、亡くなった人もいた、悲惨な事件だったのに、何と不謹慎なことを考えていたんだと、自分が恥ずかしく思える。
そんなこと、考えもしない、ほんの小さな子供だったんだ。誰かの大切な人が死んでしまった事。居なくなってしまった悲しみを想像もできなかった。
あれから、14年…。
僕は今また、あのときのように夕暮れ空に宇宙船が燃えながら落下しているのを見た。
あのときに比べたら小さな光だけど、あれは絶対に宇宙船だ。
そう思うより先に体か動き出した。落下する宇宙船までは、この場所からそう遠くない距離に思える。
砂に足を取られながら走り出す。しかし、数歩もいかない内に、耳をつんざくような轟音を立てながら宇宙船は砂漠に墜落した。
まばゆい光に包まれ、体に熱風を感じた。吹き飛ばされる大量の砂をさけ、思わずその場にうずくまり顔を伏せた。
「…つっ」
宇宙船の一部だろうか。
小さな破片が腕をかすり、鋭い痛みを感じた。
しばらくして、爆風が収まった頃、身を起こしてみる。
目の前には、炎の塊があった。
バラバラになった宇宙船だ。
舞い上がった砂が今になってパラパラ降ってくる。
その光景に目を奪われ無意識に左腕を触るとマントがぬるりと湿っていた。
驚いて目をやると、先程鋭い痛みを感じた左腕から血が流れていた。
傷口を押さえながら立ち上がる。
「…ぁ、誰か…誰か生き残っているかも…」
僕はまわりを見渡す。辺りに散らばった宇宙船の破片は黒く焦げていて所々火が出ている。
倒れている人は誰もいない。
無人船だったのか?
でも、無人貨物船にしては小さいし積み荷のようなものは見当たらない。
なおも、辺りを捜索すると2m先に何か動くものがあった。
急いでかけより、まだ熱い鉄板を素手で退かす。すると、そこには見たことのない、立方体の機械が落ちていた。
よく見ると表面に文字が浮かび上がっている。しかし、僕は読み書きが出来ないためなんと書いてあるかはわからなかった。
50cm四方の立方体を持ち上げようとするも、何かに引っ掛かり持ち上がらない。
もう一度持ち上げようと手を伸ばした所で、突然その物体の両側面から車輪が出て、僕の手をすり抜け瓦礫の間をぬって走り出した。
「うわっ!な、なんだ?」
一瞬呆気にとられたものの、慌てて立ち上がりその後を追う。
宇宙船の落下地点から数百mの所で、僕は立方体のロボットが向かう先にパラシュートのついた、人ひとり分の大きさの楕円形の金属で出来た箱のようなものがあるのに気づいた。
もしかしたら脱出ポッドかもしれない。
ここまで迷いなく走ってきた立方体のロボットは、楕円形の物体にコンッとぶつかりやっと止まった。
生きていてくれ。
僕はそう心の中で祈りながら脱出ポッドに近寄りそのレバーを引く。
自分の心臓の音がやけに大きく聴こえる気がする。
震える手でレバーを押し上げる。
するとそこには、プラチナ色の髪をした青年が瞳を閉じた状態で横たわっていた。ずいぶん肌が白い。それにとても整った顔立ちをしていた。
まるで、王子様みたいだ…。
よく観察すると胸が緩やかに上下し、確かに呼吸をしていた。顔色も悪くはない。そして、目立った外傷もなかった。
よかった…。生きてる…。
安堵の息をつく。
すると、向こうの方から墜落に気付いた村人が数人やってきた。
僕は生存者がいることを伝え、数人の村人と共に青年を村へ、僕の養父が営む小さな診療所へ運んだのだった。
3
目が覚めて初めて目にしたのは、クリーム色の土でできた天井だった。
見覚えのない景色に驚き飛び起きる。
「ここは?」
白いシーツに厚手の毛布がかけてあった。毛布を退けてベッドに腰かける。床にはカラフルなラグがしいてある。ふと、その先に毛布を被り丸まって寝ている人を見つけた。
短めの黒髪頭だけかろうじて見える。
男性のようだ。
さて、どうしたものか。
まだ、寝ている人を叩き起こす訳にもいかない。
それに彼はきっと宇宙船の墜落現場から私を助け出してくれた命の恩人に違いない。
さすがに、あのときは、もうだめかと思った。
突然の宇宙船の故障。
不時着出来る一番近い星がこの星で、距離も時間も爆発のリミットぎりぎりだった。
今でも生きていることが奇跡だ。
昨日の恐ろしい出来事を思い起こしていると、先程の眠っていた彼が小さく唸った。
目をやると、彼はおもむろにうつ伏せの状態から両手をついて上半身を起こしこちらを見た。
「…ん?…」
しばらく目をあわせる。私は彼から目が離せずそして、声も発する事が出来なかった。
窓から入る朝のやわらかな日差しに照された青年。肌は浅黒く、瞳は美しい緑色。そして、小さな口に鼻筋の通った整った顔。裸の上半身の細くしなやかではあるが、均等のとれた筋肉。
こんな人種は、初めて見た。
俺の星、少なくとも俺のまわりの星では肌の白い人しか見かけない。
こんな肌の色もあるのか。
なおも青年から目がはなせないでいると、おもむろに目の前の青年が口を開いた。
「おはよう。体は大丈夫か?」
「!!」
俺は、彼の発した言葉に心底驚いた。
いや、言葉と言うより彼の発した言語にだ。
それは、古代イニシア時代の言語であった。しかし、この言語は約2000年前のものであり、現代において使用している国はない。大学で専攻していた分野では無いが、古代語学に興味を持ちかなり研究したから、俺には理解できるものの、一般人ならHSRに搭載された多言語通訳システムをもってしても理解不能だっただろう…。
HSRと言えば、俺のtars【ターズ】は無事か?
辺りを見渡すが、見慣れた立方体の姿はどこにもなかった。
爆発の衝撃で壊れてしまったのかもしれない。小さい頃両親に買ってもらった俺のHSRのターズは、自ら手塩にかけて育てた、もはやロボットを通り越しペットの様な存在になっていた。常に最新のプログラムとハード面のリニューアルを繰り返し強度にも自信があったが、あれだけの爆発だ、壊れてしまっていても不思議でない。
墜落現場に戻り、ターズのパーツさえ見付かれば修復できるのだが…。あとで、青年に現場に案内してもらおう。
そう考え、青年に目をやると、無表情に見えるが、よく見るとなんとなく困った様な、なんとも言えない顔で俺を見ていた。
ーしまった。またやらかしてしまった。
考え事に夢中になり黙りこんでしまう悪い癖がでてしまった。
せっかく、俺を気遣いかけてくれた言葉に返事すらしていない。
あわてて口を開くも、青年は、ちょっと待っていろとばかりに、こちらに両手のひらを向け、背を向けてドアから出ていこうとした。
俺は立ち上がり彼を引き止める。
「あ、ちょっと待って」
「なんだ、しゃべれるじゃないか」
そういうと彼はこちらに向き直ってくれた。
よかった。きっと片言ではあると思うが古代イニシア語で彼に言葉が通じたようだ。
「僕は、ザイン。君の名前は?」
「私はテオドア。テオってよんでくれ。」
「テオだね。よろしく。体は大丈夫か。傷むところはないか?」
「平気だ。助けてくれてありがとう」
「いいんだ。気にするな。今、ジェームズおじさん・・・医者を呼んでくるから、待っていてくれないか」
「わかった。」
ザインという少年は、医者を呼んでくると言って今度こそ背を向けて部屋から出ていった。
5
しばらくして、ザインと名乗った少年は初老の男性を伴って、部屋へ戻ってきた。
「こんにちわ。私はジェームズだ。この診療室で医者をやっておる。気分はどうかな。何せ2日も眠っておったからの。」
「2日もですか。気分は悪くないです。ジェームズさん、助けてくださって、ありがとうございます。」
「」
砂漠の星